概要・あらすじ
時は昭和10年(1935)、洋服屋の娘である青樹湖都は洋裁が趣味。いつか初めての舞踏会に出席する時は、自分で作った白いドレスを着て、一緒に円舞曲を踊った人が運命の相手なのだと夢見ていた。しかし遠縁である鬼堂院将臣との婚約を強制され、窮屈な未来をつきつけられる。そんな時、夢にまで見た舞踏会に出席することができた湖都は、スパイ活動中に負傷したウィリアム・サジット・アスターと出会い、彼を助けようと奔走するうちに、どうしようもなく惹かれていく。
登場人物・キャラクター
青樹 湖都 (あおき こと)
南雲高等女学校に通う、洋裁が趣味の16歳の少女。10歳の頃に母親と死に別れ、父子家庭に育った。母親譲りの美人で、自分の夢に向かっていつもきらきらと輝いている。正義感が強く、自分の信念を貫こうとする芯の強い性格。心優しい女性で、困っている人を見過ごせない。
ウィリアム・サジット・アスター (うぃりあむさじっとあすたー)
浅黒い肌の美青年。インド総督をしているイギリス人の父親と、インド王族の末裔の母親との間に生まれた。イギリス海軍に所属する身でありながらインド独立運動に加担し、スパイ活動を行っている。ピンチの時こそ笑みを浮かべる堂々とした性格で、肝が太く、物腰もスマート。
鬼堂院 将臣 (きどういん まさおみ)
鬼堂院男爵家の次男で、19歳の青年。女学生たちの憧れの的である端正な顔立ちながら、いつも厳しい表情をしている。周囲には、決して感情を表さない氷のように冷たい人物だと受け止められているが、実は青樹湖都のことを心から愛し、全力で守りたいと思っている。
鬼堂院 華子 (きどういん はなこ)
青樹湖都と同じく南雲高等女学校に通う少女。鬼堂院将臣の妹で、ブラザーコンプレックスの傾向があり、兄が愛している湖都にいやがらせをする。意地悪でわがままなお嬢さま。赤ん坊の頃に母親を亡くし、厳しい父親によって育てられ、性格がいじけてしまった。
鬼堂院 龍一 (きどういん りゅういち)
鬼堂院男爵家の長男。堅苦しく冷たい家を嫌い、父親に逆らって家を飛び出した。貿易商を営んでいるため外国人たちとの交流も多く、外国人女性たちに向けてドレスを作ろうとする青樹湖都に協力する。湖都とウィリアム・サジット・アスターの仲を気にかけている。
鬼堂院男爵 (きどういんだんしゃく)
鬼堂院将臣、鬼堂院華子、鬼堂院龍一の父親で、海軍大将。周囲からは鬼元帥と恐れられている。青樹湖都の奔放さと気丈さを気に入っている。なお、鬼堂院家は甲斐源氏の流れをくむ700年来の旧家であり、武芸に秀でる男子を育んできた家風で、鬼堂院男爵もその例に漏れない。
青樹氏 (あおきし)
青樹湖都の父親。紳士向けの背広を扱う洋服屋を経営している。鬼堂院家の血縁だった湖都の母親と駆け落ち同然で結婚するも、先立たれてしまう。軍服の仕立てを断ったところ軍から睨まれてしまい、暴力を受けたことから気持ちが弱くなっている。
ミセス・ビルラ (みせすびるら)
亡くなった夫の遺志を継ぎ、インド独立運動のリーダーを務める女性。イギリス人たちから命を狙われて危険を感じ、日本に亡命してきた。信念のためには命を賭しても悔いはないと考えている。
青樹 静 (あおき しずか)
青樹湖都の兄の妻で、大人しく控えめな18歳の女性。夫は戦争で中国に行っており、家にはいない。時代のせいで窮屈な人生を強いられているが、時代には逆らえないと割り切っており、不満を表に出さない。