あらすじ
第1巻
関東最大の暴力団桜道会を率いる三上信也は大阪に向かっていた。それは大阪に、かつて自身が手にかけたはずの竜がいるという噂を聞いたからだった。鳴くたびに牌に命を与え、類まれなる強運で無敵といわれた伝説の雀士・竜は、10年前に行方不明となっていた。その竜が再び姿を現したという噂の真偽を確かめるため、そして竜の持つ強運を手に入れるために、三上は大阪の地に降り立つ。だがそんな三上の思惑は、桜道会と敵対する関西の巨大組織・関西共武会の二代目・堤薫の知るところとなる。三上が雀荘で竜と接触した事を知った堤は、すぐにヒットマンを差し向ける。その三上は、本物かどうかを確かめるために竜との麻雀勝負に臨んでいた。同じ卓にはかつて竜に挑み敗れた男の弟・雨宮もいた。竜との麻雀勝負の最中、堤の送り込んだヒットマンが三上を狙うが、三上はそれをかわして東京へと戻る。それからほどなくして、三上は末期のがんに倒れる。この機に関東をも手中に収めんとする堤は兵を動かし、自身も東京へとやって来る。自らの手で三上を亡き者にしようと堤は彼が入院している病院を訪ねるが、そこには三上はいなかった。三上は側近である音無光一によって移送されていたのだ。そして同じ頃、竜もまた東京は新宿に姿を現していた。
第2巻
桜道会の会長・三上信也が入院先の病院で死亡した。敵対組織である関西共武会の堤薫は、この機を逃さず攻勢を強める。東京に進出して来た堤は、とある雀荘で「哭きの竜」と遭遇する。かつて先代である海東武から殺す事ができなかった唯一の男として「哭きの竜」の名を聞いた事があった堤は、その竜と相対し、その実力を図るために麻雀の勝負を挑む。一方、三上の葬儀の前日に、彼の側近であり桜道会系列の甲斐組三代目組長である音無光一もまた動き出していた。音無は竜と堤が打っている雀荘へと現れ、その勝負に割って入る。勝負は竜の和了で終わり、音無は堤と別れ雀荘をあとにするが、共に竜に対する複雑な感情が渦巻いていた。数日後、音無は堤に対して改めて勝負を申し出る。その勝負とは麻雀とロシアンルーレットだった。この勝負に音無が勝てば堤は関西へと引き上げるという約束のもとに、音無と堤は卓を囲む事となる。そして、その卓にはもう一人、桜道会の代打ちを引き受けた竜の姿があった。
第3巻
堤薫と音無光一、そして竜を交えた麻雀勝負にはもう一人、関西共武会の若頭・佐竹保章が入り、その勝負は桜道会の本部長・宇佐美和男が見守っていた。実は宇佐美は関西共武会内部でも堤を好ましく思っていない勢力がいる事を見抜き、堤を亡き者とするために彼らと結託、音無をも巻き込んでこの麻雀勝負に臨んでいた。佐竹は反堤派の勢力側の人間であり、この勝負で堤は文字通り孤立していた。そんな麻雀勝負にあっても淡々と自身の手を打ち、和了りを続ける竜の姿に堤は、いつしか共感を覚えていた。雀荘の外では堤の援軍として関西共武会の若頭・岡村尚志が現れ、宇佐美の部下達との小競り合いが始まった。そんな事を知らぬまま竜との麻雀に臨む堤達。いつしか時は過ぎ、朝を迎える事になって長丁場の勝負が終了する。結局音無も宇佐美も堤を殺す事ができず、それは堤もまた同じだった。勝負を終えて去っていく竜を包囲する岡村達に堤は、竜には手を出さないように告げ、自身も雀荘をあとにする。
第4巻
関西共武会の会長・堤薫は会長という地位に就いていながら組織内部で孤立していた。このままでは堤は内部の人間によって粛清される。そう考えた関西共武会の若頭・岡村尚志は竜の持つ強運を手に入れようと竜との麻雀勝負に臨む。さらにそこへ現れた桜道会系甲斐組の若頭・天現寺守を巻き込み、この勝負に勝てば天現寺と兄弟盃を交わしてほしいと願い出る。天現寺と兄弟分となれば、堤には桜道会がバックにつく事になる。そうなれば誰も堤に手を出せなくなるとの考えからだった。そんな岡村の考えを知ってか知らずか竜はこの麻雀勝負を痛み分けという形で終わらせ、岡村と天現寺は兄弟盃を交わす。甲斐組組長の音無光一は堤に大きな貸しを作る事となり、それは結果的に桜道会の内部からも狙われるという事を意味していた。桜道会の本部長・宇佐美和男は、そんな音無を狙ってヒットマンを差し向けるが宇佐美の考えは音無に見抜かれていた。堤を通して桜道会の次期会長は音無だと告げる宇佐美は、死ぬまで音無に仕えるしかない自身の現状を覚悟するのだった。
第5巻
音無光一の仕切る雀荘に「白虎」と名乗る若い雀士が現れた。桜道会系甲斐組若頭の天現寺守を相手にした麻雀で圧倒的な強さで和了を続ける白虎は、「哭きの竜」を連れて来るよう音無に告げる。白虎の本名は白根虎之助、そして虎之助の父親は政財界に強い影響力を持つ大物フィクサー白根獅子丸だった。音無といえど獅子丸を敵に回す事は得策ではないと考える天現寺だったが、音無は虎之助の希望に沿って竜を雀荘に送り込む。だがその勝負は既に獅子丸の知るところとなっていた。海東武や甲斐正三ら名だたる極道が殺す事ができなかった竜の名は獅子丸も耳にしていた。虎之助と竜との麻雀勝負を見守る音無に関西共武会会長の堤薫から連絡が入る。堤は西日本を手に入れる見返りに獅子丸と手を組み、その獅子丸からの指示で竜を殺すのだという。だが堤は竜を殺すつもりはなく、虎之助との麻雀勝負に勝利した竜を出迎えただけにとどまった。虎之助は再び竜と対決するために都内の雀荘を渡り歩き、竜との再戦にこぎつける。そしてその様子を見ていた獅子丸は、竜の姿にかつて死亡した自身のもう一人の息子を重ねていた。
第6巻
白根虎之助と竜との勝負を見ていた白根獅子丸は、その途中で突然息を引き取る。獅子丸の跡目を継ぐ事となった虎之助は、桜道会の会長を襲名した音無光一からあの勝負のあとで竜が姿を消した事を聞かされる。その頃、桜道会本部長の宇佐美和男は関西共武会の会長・堤薫と会うために大阪を訪れていた。そこで関西共武会若頭の岡村尚志と出会った宇佐美は成り行きから麻雀を打つ事となり、その勝負の結果1億もの大金を手にする。さらに岡村は、桜道会系のほかの組織にも声を掛け、桜道会内部に揺さぶりをかける。竜を探す音無は、とある雀荘で竜と再び出会うが、その音無の耳に桜道会のヤクザが関西共武会の挑発に乗って銃撃したという知らせが入る。あくまでも形式上として会長の堤に詫びを入れに向かう音無だったが、堤も音無もこのまま抗争に入る事を望んでいた。桜道会は堤を殺すために辻村隆というヒットマンを送り込み、関西共武会もまた代打ちの沖田司を関東へと派遣する。
第7巻
関西共武会の代打ち・沖田司は竜との麻雀勝負に臨むが、まるで歯が立たない。同じ頃、桜道会のヒットマン・辻村隆は三井沙貴という女性とホテルから出て来た関西共武会の会長・堤薫を銃撃する。昏倒した堤を残し、沙貴は雀荘へと向かう。彼女は桜道会と関西共武会の抗争に巻き込まれて死亡した男性の娘であり、極道に対する復讐心を抱いていた。竜のいる雀荘へとやって来た沙貴は沖田と交代する形で卓に座る。既に自身の命を捨てている沙貴は竜と互角以上に渡り合う。一方、堤が銃撃されたものの一命を取り留めた事を知った桜道会会長の音無光一はすぐさま会長の座を辞する記者会見を開き、表向きは極道社会から身を引く。竜との勝負に敗れたものの互角に戦ったという沙貴の存在を知った音無は彼女を手に入れるべく動き始め、それと同時に政治家とも接触、さらに自身の野望を実現するため画策する。
第8巻
雀荘で勝ち続ける三井沙貴は、ある日突然何者かに拉致され、賭け麻雀の場へと連行される。その麻雀勝負はインターネットによってライブ配信されており、インターネットのアクセス数が1万を超えるまで続けられるというルールのもと、負ければ体の一部または誇りを奪われるという過酷なものだった。懸命に戦う沙貴だったが最初の勝負に敗れ髪の毛を失う。この賭け麻雀が関西共武会によるものと判断した桜道会の元会長・音無光一は、すぐに竜を探すように指示を出し、沙貴の救出に動き出す。だがこの賭け麻雀は関西共武会によるものではなく、かつて竜に敗れた白根虎之助が仕組んだものだった。音無の思惑を知ってか知らずか賭け麻雀の場に現れた竜は、沙貴と交代して虎之助との麻雀勝負に入る。結局、アクセス数が1万を超えるまでには5日を要す事となった。この5日間の麻雀勝負で虎之助は竜に負け続け、沙貴は音無によって保護されるのだった。
第9巻
三井沙貴を保護した音無光一は、彼女をゼネコン麻雀へと連れ出す。ゼネコン麻雀とは、建設工事の入札を談合で決めるかわりに麻雀で請負先を決めるというもので、沙貴は現在音無が経営する会社が工事を請け負うための代打ちとして送り込まれた。卓には沙貴と同じように代打ちとして雇われた者達がいたが、いずれもプロ級の腕前の持ち主だった。平静を装いながらも少しずつ場に飲み込まれていく沙貴だったが、それでも竜との麻雀を思い出しやがて場を支配していく。音無は外で沙貴の麻雀の結果を待っていたが、その音無を関西共武会の堤薫が送り込んだヒットマンが密かに狙っていた。
登場人物・キャラクター
竜 (りゅう)
雀士の男性。麻雀においてはチーやカンといった「鳴き」を得意とし、大きな役を速い手順で作り上げる、類まれな強運から「哭きの竜」と呼ばれている。10年前に刺客によって銃撃され死亡したと思われていたが、大阪に再びその姿を現した事で、その強運を手に入れようと竜を巡って極道組織の対立が始まる事になる。
三上 信也 (みかみ しんや)
桜道会の会長を務める男性。竜の持つ強運を我が物とするために竜を求める。関東では比類なきカリスマ性と戦略で桜道会を巨大組織へと作り上げたが、その体は末期のがんに冒されていた。三上信也の死後極道世界のパワーバランスが崩れ、桜道会と関東を手に入れようとする関西共武会との抗争へと発展する遠因となった。
堤 薫 (つつみ かおる)
関西共武会の会長を務める男性。一代で関西の地に巨大組織を築き上げた海東武から二代目に指名され、若年ながら関西共武会を率いる。自らを「狂犬」と名乗るほどの武闘派であり、反対勢力を粛清する事で組織内での地位を固めようとする。それだけに組織内からの反発も多く、組織内外を問わず敵が多い。先代の海東が殺す事ができなかった竜に興味を示し、竜を引き込むために度々麻雀の勝負を挑む。
音無 光一 (おとなし こういち)
桜道会系列甲斐組の組長の男性。かつて竜を追い求めた甲斐正三を叔父に持ち、その跡を継いで甲斐組を率いる。東大卒の優れた頭脳を持ったインテリとして、武力ではなく知略をもって極道の世界を生き抜いている。桜道会会長の三上信也を側近として支えつつ、三上が死亡した後は桜道会の会長の座を狙って暗躍する。知略の末に桜道会の会長の座を襲名するが、関西共武会会長の堤薫や三井沙貴、そして竜の影響によって少しずつ人生の歯車が狂っていく。
宇佐美 和男 (うさみ かずお)
桜道会の本部長を務める男性。音無光一と共に関西共武会の堤薫を亡き者にしようと目論むが失敗、その後は堤と結託した音無の命を狙うも音無に見抜かれる。極道世界での目標は頂点を極める事ではなく、あくまでも「生き残る事」であり、そのためにさまざまな勢力の陰で立ち回る事だけを考えている。
岡村 尚志 (おかむら ひさし)
関西共武会若頭を務める男性。関西共武会の内外を問わず敵の多い堤薫を支える存在。堤を守るために敵対しているはずの桜道会系列甲斐組若頭の天現寺守と兄弟盃を交わし、バックにつける事に成功する。麻雀の腕前は人並み以下だが、重要な事柄はすべて麻雀を通して決めるなど無類の麻雀好き。
天現寺 守 (てんげんじ まもる)
桜道会系列甲斐組の若頭を務める男性。つねに帽子をかぶって飄々とした雰囲気を漂わせているが、その実冷酷非情な性格の持ち主。音無光一の側近として音無が桜道会の会長を襲名した際には実質的に桜道会のNo.2となる。必要とあれば敵である関西共武会の岡村尚志と兄弟盃を交わすなどクレバーな戦略家でもあり、その知略をもって音無と共に野望実現を目指す。
雨宮 (あまみや)
かつて竜と戦った「雨宮賢」の弟。チーやカンといった「鳴き」を得意とする竜に対して、徹底して鳴く事をせず門前で打ち続ける事を信条とする。雨宮の兄はヤクザの代打ちとして竜と戦ったが敗れ、ヤクザ同士の抗争に巻き込まれ死亡していた。兄の仇討ちのために竜と戦うが実力及ばず敗れるものの兄とは異なり命を落とす事はなかった。
白根 獅子丸 (しらね ししまる)
政財界に強い影響力を持っている男性。日本最大の黒幕と呼ばれ、関東で最大勢力を誇る桜道会ですら、白根獅子丸を敵に回す事は得策ではないと判断するほど。15年前に息子をヤクザの抗争によって殺されているが、その事実を信じないまま生きており、竜にその面影を重ねている。つねにガラスで仕切られた無菌室の中で生活をしており、面会は無菌室の外からインターホンを通して行われる。
白根 虎之助 (しらね とらのすけ)
白根獅子丸の息子。「白虎」の通り名で雀荘に現れ、その麻雀の腕前を音無光一に売り込む。獅子丸の死後は父親の跡を継いで政財界に強いパイプを築き、音無とも交流を深めていく。インターネットを利用した賭け麻雀を開催し、多くのフォロワーを集めるが、そこに音無が囲っていた三井沙貴を巻き込んだ事で音無の逆鱗に触れ、竜を送り込まれる。
三井 沙貴 (みつい さき)
雀士の女性。もともとは雀荘でアルバイトをしており、その雀荘で竜の打つ姿を見た事もあった。桜道会と関西共武会の抗争に巻き込まれて父親が死亡し、その復讐を果たすために雀士となった。天性の勝負勘と麻雀の技術を持ち、竜に匹敵するほどの強運で音無光一や堤薫達を虜にしていく。竜との対決では敗れたものの、互角に渡り合った事から一躍有名になった。
辻村 隆 (つじむら たかし)
桜道会に雇われたヒットマンの男性。もともとはプロボクサーだったが、八百長試合によってボクサー人生を絶たれる。その後は音無光一に拾われ、音無の指示で整形手術を受けて別人となり、音無と敵対する多くの人物を闇に葬ってきた。桜道会の代打ちとしても活動しており、麻雀の技術も高い。桜道会本部長の宇佐美和男の指示で関西共武会の会長・堤薫を銃撃する。
沖田 司 (おきた つかさ)
関西共武会に雇われた代打ちの男性。人の心を読む技術に優れ、相手の希望通りに勝ち負けを決める事ができるため、関西共武会若頭の岡村尚志から信頼されている。伝説の雀士である竜との対決を望み、勝負を挑むもまるで相手にならず敗退する。
佐竹 保章 (さたけ やすあき)
関西共武会の構成員の男性。関西共武会の尖兵として堤薫と共に東京入りするが、裏では桜道会本部長の宇佐美和男と結託して堤を亡き者にしようと企んでいた。しかし、堤の反対勢力が粛清されているという情報を知るやすぐに堤に恭順する姿勢を見せた。
海東 武 (かいとう たけし)
関西共武会先代会長の男性。既に故人だが、死亡する前に次期会長として堤薫を指名した。一代で関西共武会を関西最大の暴力団組織に築き上げた人物であり、竜の持つ強運を手に入れようと画策していたが、結局手に入れる事はできなかった。晩年は自分が唯一殺す事ができなかった人物として竜の名をあげており、その事実は海東武の跡を継いだ堤に大きく影響する事となる。
甲斐 正三 (かい しょうぞう)
桜道会系甲斐組先代組長の男性。音無光一の叔父であり、桜道会内部では武闘派として知られた人物。既に故人だが、甲斐正三もまた竜の持つ強運を手に入れる事を望んでいた。志半ばで夭折したがその遺志は甥の音無に受け継がれる。
集団・組織
桜道会 (おうどうかい)
東京に総本部を置く関東最大の暴力団組織。会長を務める三上信也によって勢力が拡大され、ほぼ関東全域を手中に収めている。極道社会のみならず政財界にも強いコネを持ち、政治家とも癒着している。桜道会会長を辞した音無光一がすぐに建設会社を立ち上げる事ができたのも、こうした政治家達のバックアップによるところが大きい。
関西共武会 (かんさいきょうぶかい)
関西最大の暴力団組織であり、日本制覇を狙ってたびたび東京へと侵攻していた。海東武が一代で築き上げた巨大組織で、現在の会長は堤薫。若輩者の堤の会長就任は関西共武会内部からの反発も多く、つねに内部分裂の危険性をはらんでいる。