概要・あらすじ
日本の地図にも載っていない山奥にあるという毘沙門村。そこは、国の法律すら及んでいないという前代未聞の村であった。ある時、合宿のため毘沙門村の周辺に赴いていたシティチームの部員たちは、「毘沙門村刑法第三十五条 スパイ容疑」で拘束されてしまう。彼らの前に現れたのは、非常識なまでの身体能力を持つ修羅三四郎たち毘沙門高校野球部員。
シティチームの部員たちは逃げ出すことも敵わず、ほぼ無理やりに、彼らと練習試合をさせられることとなるのだった。
登場人物・キャラクター
修羅 三四郎 (しゅら さんしろう)
毘沙門高校に通う少年。貧困が原因で、幼い頃母親の修羅ミヨと死に別れており、貧乏を侮辱した者に対しては怒りをあらわにする。さまざまな運動部を掛け持ちしており、人間と定義するにはあまりに規格外すぎる身体能力を持つ。毘沙門高校野球部ではピッチャーを務めている。利き腕でない右腕ですら、投げたボールが時速770キロを超え、利き腕である左腕で投げた球は、大気との摩擦で炎上し、宇宙空間に浮かぶ人工衛星を撃ち落とす。 ただし、そのあまりに飛び抜けた力と性格がルールを逸脱してしまい、優勝経験は皆無。
後藤 広喜 (ごとう こうき)
毘沙門村の村長を務める老齢の男性。日本一の貧乏から脱出すべく、村おこしのためにさまざまな計画を練り続けている。破天荒な毘沙門村に相応しい性格をしており、街から合宿にやってきた野球部の部員たちをスパイ容疑で拘束し、毘沙門高校野球部と無理やり試合を組んだりする。また、村の発展を誰よりも願っており、体力だけは有り余っている毘沙門高校の生徒を使って、さまざまな部活動を立ち上げ、広告塔にしようと画策している。
松下 吉蔵 (まつした よしぞう)
毘沙門村の駐在を務める中年の男性。毘沙門村刑法と呼ばれる独自の刑法に則って行動している。刑法に反する者に対しては、警棒や銃器を遠慮なく取り出し、威嚇、捕縛を執り行う。たとえ日本の法律と矛盾していても、お構いなしに行動する。
山田 飛丸 (やまだ とびまる)
毘沙門高校に通う小柄な少年。村一番のカワイコぶりっ子と言われる。愛嬌のある顔と社交性を備え、動物とも心を通じ合わせることができる。100メートルを5.6秒で走り切ることができるため、「風の飛丸」とも呼ばれている。また、人質にされて刃を突きつけられても恐怖することがなく、幾度殴られても立ち上がるなど、漢気(おとこぎ)を見せることも多々ある。
片桐 十兵衛 (かたぎり じゅうべえ)
毘沙門高校に通う盲目の少年。毘沙門高校野球部では副主将を務めている。村一番の渋い男性で、「後家殺し」の異名を持つ。剣術の天才で、野球の試合ではバットを居合の構えで振り抜き、投げられたボールを両断。さらに村のルールを無理やり押し通し、この行動によって2点を獲得している。
キャッチャー
毘沙門高校の周辺に生息している熊。修羅三四郎の投げる球は、人間ではキャッチできないため、熊でありながら毘沙門高校野球部のキャッチャーとして抜擢されている。ある程度山田飛丸と意思疎通ができ、彼に懐く形で毘沙門高校野球部との連携を取る。
ドカベソ
毘沙門高校に通う、あまりにも巨大な身体つきをしている少年。毘沙門高校野球部の秘密兵器とされており、修羅三四郎らに遅れて甲子園入りした。羆高校相手に窮地に陥った際にグラウンドに現れ、電信柱をバット代わりに軽々と振り回し、勝利に貢献。その後も三四郎らと共に戦い抜いた。「毘沙門一の力持ち」を自称している豪快な大男で、打球と共に、バット代わりの電柱をバックスクリーンの時計台に投げる癖がある。 これにより、1試合で何本も電柱を突き刺して、時計台を壊したこともある。
修羅 ミヨ (しゅら みよ)
修羅三四郎の母親。三四郎が小さい頃に病床に伏せており、最後の最後に砂糖を食べたいと言い残して他界した。その後、毘沙門村の丘に墓が立てられた。実は村長である後藤広喜の初恋の相手。
赤塚 茂助 (あかつか もすけ)
毘沙門高校野球部のコーチ兼監督。シルクハットに下駄をはいている小柄な老人。村一番の文化人を自称している。高校内に野球部を立ち上げたもののルールはほぼ理解していない。打球が山を越えたらストライク、投球が頭に直撃したらアウトと、明らかにおかしいルールを鵜呑みにしてしまっている。
中旗 (なかはた)
シティチームのOBのプロ野球選手。今シーズン打率4割5分ホームラン35本の二冠を達成している。「長嶋二世」および「日本プロ野球史上最強のスラッガー」と言われている。毘沙門高校野球部とシティチームの練習試合の際に、ピンチヒッターを担う。プロとしてアマチュアには負けてはならない、という強い矜持を持っており、修羅三四郎の投球に敢然と挑む。 三四郎の剛速球を見ても物おじせず、自らの手と身体を固定するように縛り付け、なりふり構わずボールを打ちにいく強い精神力の持ち主。
西園寺 道実 (さいおんじ みちざね)
日本高校野球連合の理事長を務める老齢の男性。「学生野球の良心」と言われている。地区予選大会に出場せず、直接甲子園に乗り込んだ毘沙門高校野球部に、大会出場を迫られ、山田飛丸の密かな脅しに屈して、出場を認めたかに見えた。しかし実際は、現在の高校野球界の腐敗を懸念しており、毘沙門高校野球部ならそれを正せると信じた末の決断だった。
東条 大助 (とうじょう だいすけ)
黄金学園野球部の主将。大会屈指のスラッガーとして評判。端正なマスクと高校生離れしたバッティングセンスを持ち合わせていると言われている。実際、大会でも何本も本塁打を打ち込んだりと、申し分ない技量を見せつけた。しかし、一見、真摯に野球に打ち込む好青年のようだが、その裏では喫煙や飲酒などに手を出す、根っからのアウトロー。 毘沙門高校野球部との試合では、叔父が蛇神会の幹部であるのをいいことに、彼の威光を借りて卑劣な手段を使ってくる。
西村 繁男 (にしむら しげお)
高校生の少年。全国高校柔道大会第5試合で修羅三四郎と対戦する。試合開始早々「チェストー!チェストー!」とうるさく、これを見て業を煮やした三四郎に「動物園のサル」と言われたことで激怒。勢いのままにつかみかかるが、その力を利用した巴投げを決められ、あっさり敗北した。
大黒 正五郎 (だいこく しょうごろう)
布袋高校の生徒。全国高校柔道大会決勝戦で修羅三四郎と対戦する。村の将来を背負って大会に臨み、巨体を活かした力強い柔道で着実に勝利を収めていく。しかし三四郎の強さに強い脅威を感じており、決勝戦に赴く際には委縮してしまう面も見られた。しかし、試合になると、村を背負っているという意識が強く表れ、勝てる見込みのない三四郎相手に果敢に向かっていった。
池上 (いけがみ)
黄金観光株式会社の開発部長を務める中年男性。毘沙門村の話を聞きつけて実際に訪れたところ、ゴルフ場にぴったりだとして、5000万円もの大金をはたいて土地を購入しようとする。後藤広喜らも賛成するが、修羅三四郎の反対に遭い、青山功とのゴルフ対決で購入権を争うことになる。これによって、毘沙門村の住人たちが三四郎の敗北を望む、という珍しい展開になってしまう。
青山 功 (あおやま いさお)
黄金観光株式会社専属のプロゴルファー。ゴルフに絶対の自信と誇りを持っている。青山功がゴルフで生計を立てていることを信じられない修羅三四郎に対して怒りを露わにする。ドライバーの腕も優れているが、パットにおいてこそ真価を発揮し、そのことから「グリーン上の魔術師」と呼ばれている。
瀬田 利道 (せた としみち)
日本の陸上界を背負って立つと言われているエースランナー。東京国際マラソンに出場したところ、選手としてエントリーせず沿道を競うように走っていた燕時次郎を発見。彼こそが最大のライバルだと判断し、追いすがろうとするも敗れてしまう。優勝こそしたものの時次郎に敗北感を覚え、のちに雪辱を晴らすため、彼が正式にエントリーした世界国際マラソンに出場。 この時、ジャック・モーガンの卑劣な罠によってリタイアさせられてしまう。
燕 時次郎 (つばめ ときじろう)
布袋高校に通うマラソンランナーの少年。選手としてマラソンに出場する時は覆面を被っている。無名ながら優秀な選手で、東京国際マラソンで見せた行動によって、瀬田利通や毘沙門高校に注目される。母一人子一人の貧乏な家庭で育っているため、優勝賞金100万円を狙い、東京国際マラソンに続く大会となる世界国際マラソンに正式にエントリー。 瀬田やジャック・モーガン、修羅三四郎と激戦を繰り広げる。
ジャック・モーガン (じゃっくもーがん)
世界国際マラソンにエントリーしているアメリカ人の男性。陸上界では賞金稼ぎとして名を知られており、過去に20万ドルの賞金を獲得している。普段外国人を見ることのない毘沙門村の住人を、ひと睨みで委縮させるほどの迫力を持つ。しかし実際はダーティな行為を得意としており、給水所の水に下剤を混ぜたり、地面にガラスを撒いたりして、瀬田利通や燕時次郎を妨害する。
嶋田 幸宏 (しまだ ゆきひろ)
黄昏高校拳闘部に所属する少年。性格は最悪だがボクシングの腕は立ち、国体の重量級で優勝したこともある実力者。自らは副主将を名乗っているが、部員からは主将と呼ばれており、どちらが本当であるかは不明である。毘沙門村や毘沙門高校を心底見下しており、街に出ていた山田飛丸に対して、「原始人」、「日本の赤っ恥」と罵る。 抵抗しようとした飛丸を容赦なく痛めつけたため、修羅三四郎の怒りを買う。
仲宗根 安広 (なかそね やすひろ)
日本の総理大臣。「不沈空母」の異名を持つ。横暴な性格で、税金を一切払わない毘沙門村を「国民ではない」として、取り潰すために自衛隊を派遣する。しかし逆に自衛隊の兵器を乗っ取った毘沙門村の住民たちによって、国会議事堂に攻め入られてしまう。話を聞くふりをして反撃の時間を稼ごうとするが、修羅三四郎より、毘沙門村を独立国として認めるよう迫られる。
大河内 はるみ (おおこうち はるみ)
特別編「嗚呼!!毘沙門高校野球部」に登場する。毘沙門高校野球部の主将を務める青年。高校生ながら既にアヤ子という赤ん坊の一人娘を持ち、いつも背中におぶって歩いている。試合の感動を演出するため、自らの生爪をわざと剥がしてから投球していた。また、甲子園では加減して投げていたが、実際は180キロを超える球威と確かなコントロールの持ち主で、野球センスはずば抜けて高い。
根岸 きよみ (ねぎし きよみ)
特別編「嗚呼!!毘沙門高校野球部」に登場する。毘沙門高校野球部の副主将を務める青年。部員に感動を煽る甲子園の土の拾い方を、演技指導している。自身もかなりの演技派で、甲子園初打席では、胸のポケットに死んだ父親の遺骨と称して魚の骨を忍ばせて、全国民の感動を誘った。
原 (はら)
特別編「嗚呼!!毘沙門高校野球部」に登場する。部員数100名を超える名門野球部のある若葉高校のエースを務める男性。アイドル的な人気を誇る甲子園球児で、宿舎で大河内はるみに握手を求めたが、手を握りつぶされて激昂。試合では、自分のチームより盛んに応援される毘沙門高校野球部のことを快く思っていなかった。
集団・組織
毘沙門高校野球部 (びしゃもんこうこうやきゅうぶ)
毘沙門高校の代表的な部活のひとつ。主将に修羅三四郎、副主将に片桐十兵衛を据え、他に俊足の山田飛丸、パワーヒッターのドカベソを擁している。部員はこの4人だけで、本来なら試合が成立しないが、4人の並外れた身体能力で無理やり成立させている。
シティチーム
高校野球の強豪チーム。甲子園優勝候補と言われている。うるさいファンやマスコミを避けるため、毘沙門村に野球の強化合宿にきていた。そこを、村人たちに捕らえられてしまい、毘沙門高校野球部と三角ベースの試合をすることになる。村人たちが野球のルールを知らないのをいいことに、打者に3回ボールをぶつけたらアウト、というルールをでっちあげた。
蛇神会 (だしんかい)
関西に拠点を置く暴力団組織。全国高等学校野球選手権大会を利用した野球賭博を主宰し、毎年多くのもうけを出している。しかし、毘沙門高校野球部が無理やり参加し、人外レベルの能力を見せつけたため、ほとんどの裏組織が毘沙門高校野球部に賭けるという事態が発生。毘沙門高校野球部の優勝を阻止するために、幾度となく妨害を行う。
羆学院野球部 (ひぐまがくいんやきゅうぶ)
北海道代表の野球部。全国高等学校野球選手権大会1回戦で、毘沙門高校野球部と対戦する。毘沙門高校側の提案により、先に27回分の攻撃を行い、後に毘沙門高校野球部がその攻撃の合計点を上回れば勝利、という特別ルールによって試合が行われた。しかし、27回の攻撃で1点も取ることができなかった。
天地高校野球部 (てんちこうこうやきゅうぶ)
全国高等学校野球選手権大会2回戦で、毘沙門高校野球部と対戦する。1回の表早々に、修羅三四郎から15本、ドカベソからは甲子園の時計台を破壊するほどの威力を持つ5本の本塁打を撃たれ、通算54点を奪われてしまう。その結果、監督自ら白旗を挙げるという事態になり、事実上の試合放棄となった。
黄金学園野球部 (おうごんがくえんやきゅうぶ)
全国高等学校野球選手権大会3回戦で、毘沙門高校野球部と対戦する。優勝候補と目されるほどの高い実力を誇る名門校だが、毘沙門高校野球部の理不尽とも言えるパワーの前に、そのインパクトはかすんでしまっている。表向きは品行方正で、甲子園の象徴と言われているが、裏では喫煙飲酒何でもありの無法がまかり通っている。
黄金観光株式会社 (おうごんかんこうかぶしきがいしゃ)
レジャー産業を営む会社。土地開発にも意欲的で、風光明媚な光景と環境の良さに目をつけ、ゴルフ場建設のためにひとつの丘を買おうとする。会社のやり方自体には何の問題もないのだが、都会人の悪癖として、田舎である毘沙門村を見下している面がある。
黄昏高校拳闘部 (たそがれこうこうけんとうぶ)
「黄昏高校」のボクシング部。高校は、毘沙門村から山ひとつ越えたところにあるという。メンバーは腕は立つもののモラルがなく、毘沙門高校の生徒である山田飛丸を口汚く罵ったうえ、暴行を加えている。この暴挙が修羅三四郎の怒りに火をつけ、襲撃を受ける羽目になる。
場所
毘沙門村 (びしゃもんむら)
山奥に存在する村。日本の地図にすら載っていない。村長である後藤広喜いわく、金も土地もなく、米も野菜もろくに採れない、日本一の貧乏村。しかし村民のテンションは非常に高く、悲壮感はまったくない。また、税金を一切払っておらず、これが原因で自衛隊に攻め込まれる。しかし、これを返り討ちにし、逆に国会議事堂に攻め込み、独立国として無理やり認めさせた。
毘沙門高校 (びしゃもんこうこう)
毘沙門村を代表する村立高校。体力だけなら日本一と言われており、さまざまな部活動を掛け持ちする修羅三四郎を初め、在籍する生徒は皆、人間離れしたでたらめな身体能力を持っている。毘沙門村のお偉いさんがたは、この高校を使って毘沙門村の売名を積極的に行うが、なかなか上手くいっていない。
関西極監刑務所 (かんさいごっかんけいむしょ)
泣く子も黙るとうたわれた刑務所。野球好きの囚人がチームを結成しており、全国刑務所対抗野球大会で3年連続の優勝を果たしている。蛇神会と東条大助の悪だくみにより、野球チームがそのまま黄金学園野球部に合流。毘沙門高校野球部に対して無法な野球を仕掛けてくる。
布袋村 (ほていむら)
毘沙門村に次ぐ日本で2番目の貧乏村とされている村。去年の大飢饉により、ついに毘沙門村と順位が逆転し、村が全滅する危機に瀕している。そのため、布袋村の存続を賭けて大黒正五郎を柔道選手として仕立て上げ、全国大会優勝を目論んでいる。
布袋高校 (ほていこうこう)
毘沙門高校のライバル校。布袋村を象徴する学校である。毘沙門高校同様、スポーツで名をあげることで貧乏から脱出しようと目論んでおり、全国高校柔道大会では、大黒正五郎が獅子奮迅の活躍を見せ、世界国際マラソンでは、村の住人たちが代表である燕時次郎の応援に駆けつけている。なお、毘沙門村とは大人同士の仲が悪く、しょっちゅういがみ合っている。
その他キーワード
椎羅完巣 (しいらかんす)
巨大な魚。毘沙門村に流れる川でよく獲れるという。椎羅完巣という名前は、村の年寄りたちによって名付けられたものである。気味の悪い見た目をしているが美味であり、修羅三四郎は、よくこの魚を獲ってはその場で焼いて食べている。