地獄変

地獄変

血の匂いと美しさに魅入られた地獄絵師による、あるショッキングな独白の物語。

正式名称
地獄変
ふりがな
じごくへん
作者
ジャンル
ホラー
 
自伝・伝記
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概要・あらすじ

主人公は陰気で醜い無名の絵師。血の匂いとその美しさに魅入られた彼は、恐怖と残酷に彩られた絵を描く地獄絵師であった。彼は読者に向かって、恐るべき一世一代の告白をする。

登場人物・キャラクター

地獄絵師 (じごくえし)

『地獄変』の主人公で、無名の絵師。血の色とその美しさに取りつかれた地獄絵師を標榜しており、いつも日の当たらない部屋で雨戸をしめ切って、陰惨な地獄絵ばかり描いている陰気な男。自らの体を切り刻み、流れ出る血を絵具代わりに使っている。物語は彼の独白形式で進行する。

狂子 (きょうこ)

地獄絵師の長女。おかっぱ頭の無邪気な少女だが、嗜好は父親譲りで、拾ってきた動物の死体を写生する趣味を持っている。ホラー漫画を愛読しており、作品を何度も読み返しては、その話をお手製の影絵にして、弟の狂太に見せてやっている。

狂太 (きょうた)

地獄絵師の長男。坊主頭の元気な少年だが、嗜好は父親譲りで、いつも奇声を発しながら外を駆け回り、動物をいじめたり、屠殺場に忍び込んで豚の目玉を大量に盗み、それを飴玉代わりにしゃぶったりしている。

(つま)

地獄絵師の妻。物静かな色白の美人。地獄宿という居酒屋をやっていて、客として現れる首無し死体の亡者たちに、亡者たち自身の肉体を切った刺身を提供している。

利根の大蛇丸 (とねのおろちまる)

地獄絵師の祖父にあたる人物で、故人。全国の賭場を渡り歩く流れのばくち打ちで、背中に大蛇の入れ墨が入っていたため、利根の大蛇丸という異名を取っていた。根っからのばくち好きで、家に帰るのは盆と正月だけ。勝負に勝った時は、家族へ大量の土産を持って帰ったが、負けた時は酒に酔って妻に暴力を振るう有り様だった。 最期はある雪の日、賭場のいざこざに巻き込まれ、チンピラと大立ち回りを演じた後に自ら割腹自殺を果たす。

(ちち)

地獄絵師の父、利根の大蛇丸の子にあたる人物で、故人。背中に紅蝙蝠の入れ墨が入っている。大蛇丸の死後奉公に出されたが、気の狂った家人をうっかり殺してしまい、奉公先を追い出されて風来坊となる。初めのうちは大蛇丸同様博徒をやっていたが、一旗揚げようと満州に渡り、そこで結婚。家族を養うため必死で働いたが、太平洋戦争での徴兵や満州引上げなどの苦労で腐ってしまい、酒を飲んでは幼い地獄絵師や妻に暴力を振るうようになった。 引き上げてからは屠殺場で働いていたが、ある雪の日、川で水死体となって浮いているところを地獄絵師に発見される。

(おとうと)

地獄絵師の弟で、故人。背中に昇り龍の入れ墨が入っている。少年時代はいわゆる非行少年で、いつも喧嘩に明け暮れていた。そのやり口は残虐そのもので、喧嘩相手は必ず半殺しの目に遭い、中には発狂する者までいたという。ある雪の日、喧嘩でひたいを叩き割られ、雪の中に埋められているのを地獄絵師に発見されるが、治療の甲斐なく死亡する。 地獄絵師の独白によると、子供の頃は優しい性格で、地獄絵師が父や近所の不良に殴られていると、体を張って助けに入ったり、兄の描いた地獄絵を気味悪がりながらも、「いつか絵描きになれる」と励ますようなこともあったという。

(はは)

地獄絵師の母にあたる人物。父と幼い地獄絵師と共に満州から引きあげて来る際、頭に投石を受け、傷口から流れた血を見て発狂する。以来地獄絵師を「地獄の鬼の子」と呼び、激しい虐待を加えるようになったが、父の前では大人しい妻の人格を取り戻し、彼の暴力を為すがままに受け入れてしまっている。

場所

ギロチン刑場 (ぎろちんけいじょう)

『地獄変』の舞台のひとつ。地獄絵師の家の前にそびえたつ刑場で、大きなギロチンが一基設えられている。受刑者がギロチン台に首をかけられると太鼓が鳴らされ、首が落とされるたびに花火が一つ打ち上げられる。落とされた生首は首受けのホッパーに集められ、その下で待機している貨物車に積み込まれると、いずこかへ送られていく。

底なしの地獄川 (そこなしのじごくがわ)

『地獄変』の舞台のひとつ。地獄花の繁茂する線路のそばを流れており、その深さは底なしと言われている。その水はいつも血で真っ赤に染まっていて、さまざまな種類のゴミや人間・動物の屍が浮かんでいる。川の周辺に棲む動物たちは皆血の様に赤い体色をしており、ゴミや腐肉を食べたり、お互いに共食いをして生きている。

首なし死体の火葬場 (くびなししたいのかそうば)

『地獄変』の舞台のひとつ。ギロチン刑場から送られてきた死刑囚の首なし死体を専門に焼く火葬場。壱号~参号までの三つの窯があり、地下輸送パイプを通って、ギロチン刑場からそれぞれの窯に死体が送られてくる仕組みになっている。地獄絵師はいつも、死体が焼却される様子をのぞき窓から見て楽しんでいる。

死刑囚の墓場 (くびなししたいのかそうば)

『地獄変』の舞台のひとつ。首なし死体の火葬場で焼かれた死刑囚の死体を葬った集合墓地。墓標には供養のために、豚や狼といった動物の生首が飾られている。赤い大鎌のような月が血をしたたらせながら昇る夜になると、墓の下から首なし死体の亡者たちが現れ、自分の首を探して夜の墓場をさまよい歩く。

その他キーワード

地獄絵 (じごくえ)

『地獄変』に登場する用語。地獄絵師が描いている絵の総称。ギロチン刑場、底なしの地獄川といった凄惨な光景や、波乱の生涯を送った祖父や父などを好んで題材に使い、地獄絵師自身が自ら体を切り刻んで得た血液を絵具にして描かれている。

地獄花 (じごくばな)

『地獄変』に登場する架空の植物。ギロチン刑場を出発した生首入りの貨物車から血が線路に流れ落ちると、そこから生えてくる紅色の花。花よりもさらに濃い赤色の実をつけ、その実を食べた人間は必ず発狂してしまうと言われている。

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