概要・あらすじ
熊野真宮大社の宮司を務める那智武流は、この世に害をなす荒魂(あらだま)を狩り、死の国である常世に送る夜叉鴉であった。人知れず荒魂を狩っていた那智だったが、ある時、荒魂を代々守ってきた集団である影忍の一人、幽蝸みづはが那智の命を狙いに熊野真宮大社へ現れる。激闘の末、那智は命を落としてしまうが、鴉一族の長である巨鴉は「今、真の夜叉鴉となった」と発し、彼の遺体を引き取るのだった。
それから3年後。最強の死者であるオヤカタ様の復活を阻止するため、鴉一族の朱姫とその部下、熊若は奮闘していた。そんななか、とある病院に立ち寄った朱姫は、安置されていた那智と対峙することとなる。
登場人物・キャラクター
那智 武流 (なち たける)
恨みを必ず晴らしてくれるという噂がある、熊野誓紙を発行している熊野真宮大社の宮司。だが裏の顔は、現世に残ってこの世の人間に害をなす魂、荒魂(あらだま)を狩って死の国である常世に送る夜叉鴉。禰宜とは古くからの仲で、宮司としての仕事を支えてもらっている。自他共に認めるほどに頭が悪いが戦闘能力は非常に高く、竹竿で人を両断できるほど。 熊野鴉神剣を装備することで、荒魂を狩る「現世の剣」を使うことができる。幽蝸との戦いで命を落としたが、鴉一族と禰宜により蘇生には成功している。ただし意識は戻らず、腐らない死体として病院に安置されている。
鶴岡 千鶴 (つるおか ちづる)
那智武流が宮司を務める熊野真宮大社で、巫女として働く女性。実家は熊野真宮大社の分家にあたる、鶴岡熊野眞宮大社の一人娘。父親が金にがめついお陰か、分家でありながら総本家より金回りは良いようで、家には西洋の鎧や毛皮の絨毯、廊下には世界中のさまざまな絵画が並んでいる。父親は鶴岡千鶴に那智と既成事実を作らせ、総本山である熊野真宮大社の妻にさせようと画策しているが、千鶴本人はあまり乗り気ではない。
熱田 勢伊子 (あつた せいこ)
那智武流が宮司を務める熊野真宮大社で、巫女として働く女性。熊野真宮系の跡取り娘で、18歳の誕生日に両親から突然熊野真宮大社に務めるように言い渡され、嫌々ながら働いているものの、那智に対して淡い恋心を抱いている。子供の頃から東大に進学することを夢見ており、仕事の合間に勉強を欠かさない。幽蝸みづはに連れ去られた際、幽蝸が抱える闇を垣間見ると同時に、夜叉鴉の正体が那智であることを伝えられる。
住吉 龍子 (すみよし たつこ)
那智武流が宮司を務める熊野真宮大社で、巫女として働く女性。元々素行が悪く、家庭裁判所から鑑別所か熊野真宮大社に巫女として働くかを迫られ、巫女の道を選んだ。そんな経緯から、巫女としての務めはかなり適当で、まるでやる気がない。仕事中にも素行の悪さは発揮され、儀式の最中にお神酒を飲む、奉納に来たお客に対して奉納額以上収めさせようとするなど散々。 そのくせ朝から晩まで働き詰めの巫女の仕事に嫌気が差しており、禰宜に対して強い反発心を持っている。
禰宜 (ねぎ)
熊野真宮大社の宮司であり、鶴岡千鶴、熱田勢伊子、住吉龍子の教育係を務める初老の男性。若さに任せて突っ走ってしまう那智武流を諫めて正しい道に導く。各地で起こった荒魂(あらだま)が起こしたであろう事件を、警察のサーバーにハッキングして情報を得るなど、情報収集能力も高い。巫女3人をタダ同然で働かせているせいか、彼女たちからはあまりよく思われていない。 なかでも住吉からはかなり反発されており、言い合いから殴り合いの喧嘩に発展するほど。
幽蝸 みづは (ゆら みづは)
女性の衣装を制作デザインをしている、容姿端麗な男性。裏の顔は、古くから荒魂(あらだま)を守るために結成された集団、影忍の一人。だが、デザイナーという職業柄か美しいものを好み、本人としては醜くおぞましい荒魂を忌み嫌っている。自身の力を誇示するため、あくまでも夜叉鴉と戦い倒すことに執心し、荒魂を守ることは二の次と考えている。 独自の情報網と勘の鋭さで熊野真宮大社に夜叉鴉がいることを突き止め、那智武流に戦いを挑んだ。かつて一度死んでおり、その時に不死の体を手にしている。武器は相手の体に巻き付け切断する、特製のメジャー。
薬丸 怪市 (やくまる かいいち)
「関東の麻薬王」と呼ばれ、裏社会では知らない者はいないと言われている中年男性。元々はヤクの売人だったが、荒魂(あらだま)を自ら取り込むことで現在の地位を手に入れるに至った。自身の身に危険を感じ、影忍である幽蝸みづはを雇ったが、幽蝸は夜叉鴉を倒すことに執着し、自分を守る気がさらさらないことを知る。身の危険を感じた薬丸は、海難事故を装った保険金詐欺で、船員数十人を船もろとも沈めたといわれる社長の荒魂を取り込み、人間でありながら夜叉鴉と同等の力を得た。 口から伸びた触手を相手に絡め電撃を放つことができる。
朱姫 (あけひめ)
鴉一族から、最強の死者と呼ばれるオヤカタ様の復活を阻止するよう指令を受けた女性。那智武流と同じ夜叉鴉としての力を持っており、相棒である熊若と共に戦う。相手を惑わす幻術を得意とする。荒魂(あらだま)を倒すと体と共に心も汚れてしまい、その汚れがピークに達すると口汚くなり、だれかれ構わず性交しようと迫る。この時の状況は自分自身で自覚しておらず、その事実を知るのは熊若のみ。 なお、この汚れは阿波岐の泉の水で清め、浄化することができる。
熊若 (くまわか)
鴉一族から、最強の死者と呼ばれるオヤカタ様の復活を阻止するよう指令を受けた大柄な男性。朱姫とは主従関係にあり、彼女には一切逆らわずサポートに徹する。普段はゴミ収集作業員の恰好をしており、荒魂(あらだま)が起こしたであろう事件にはゴミ収集車で向かう。戦闘能力は非常に高く、素手で荒魂を殴り倒すことができるほど。 生き返った那智武流の監視も命じられており、那智の動向を見張っている。
取毛 トマス (とりげ とます)
那智武流が一度死に、常世から現世へ戻る際に一緒についてきた吸血鬼。現世では肉体がないため、その器となるものを探している。那智の姿に化け、夜な夜な若い女性を見つけては、生気を吸い取り仮の肉体を維持している。キリスト教の神父であったにも関わらず、魔女狩りに熱中するあまり悪魔信仰者になったという経歴の持ち主で、死者の世界に来る前は、15世紀のスペインで西欧史上最も大量の魔女狩りを行った男として有名だった。
オヤカタ様
最強の死者と呼ばれ、さまざまな荒魂(あらだま)が復活を望む者。その正体は、古くから荒魂を守る使命を帯びていた影忍の頭領。不忍池に封印されていたが、幽蝸みづは率いる影忍集団によって復活を遂げる。顔には歌舞伎のような化粧が施されており、体を黒いマントで覆っている。死者の世界と生者の世界を反転させ魔都エドを復活させるため、東京を守る狛犬とされる忠犬ハチ公が生きていた60年前の時代へ遡り、ハチ公の殺害を行う。
幸田 露樹 (こうだ つゆき)
警察庁警備局霊安三課の警部。警視庁からの特命で、那智武流の監視を命じられている女性。生きた人間を大量に乗せ、死の世界に誘う幻魔列車の中で荒魂(あらだま)と戦う那智と出会う。幽体離脱し霊体状態で自由に行動することが可能で、それが警察庁警備局霊安三課に配属された理由となっている。ただし戦闘能力は普通の人間と同等なので、荒魂を見るためのサングラスと、荒魂にダメージを与えられる特殊な拳銃を装備している。
宮沢 賢治 (みやざわ けんじ)
60年前のにいた無名の貧乏詩人。彼が書いた詩集「銀河鉄道の夜」の中に、夜叉鴉との関わりや不死の力を得られるとの記述があり、不死の力を手に入れようとする荒魂(あらだま)に憑りつかれた日本帝国軍将校に囚われ、拷問を受ける。実は2年前にすでに死んでおり、その際に不死の力を手にしたことで首をはねられても拳銃で撃たれても死ぬことはない。 拷問の最中に夜叉鴉と同等の能力が覚醒し、拷問にあたっていた軍将校を倒して、大本営陸軍部の尋問室から逃走。この日本に潜む闇を那智武流に伝えた。
北 一樹 (きた いっき)
60年前の東京にいた中華服を着た中年の男性。霊的に日本帝国軍を補佐し、助言を与えていた。その真の目的は、腐りきった国家に革命を起こすことであった。夜叉鴉一族とは密接な関係で、那智武流を夜叉鴉だと見抜いただけでなく、那智が使っていた熊野鴉神剣を持っているなど謎が多い人物。