概要・あらすじ
江戸時代、財政危機に陥った徳川幕府は、諸大名の取潰しによる領地没収で状況の打開をはかる。取潰しの理由を探したり捏造するために、幕府は影と呼ばれる隠密や忍者を密かに諸藩へ送り込んだ。影の暗躍から自藩を守るため、重臣たちは「影狩り」と呼ばれる三人の凄腕の浪人室戸十兵衛日光月光に高額な報酬を払い、影の殲滅と取潰しの回避を依頼する。
様々な忍術で襲ってくる無数の影たちを、三人は剣の力で切り捨てていくのであった。
登場人物・キャラクター
室戸 十兵衛 (むろと じゅうべえ)
影狩り三人衆のリーダー格の中年男。鋭い眼差しで、もみ上げまでつながる顎ひげと口ひげを生やしており、服装はたいてい黒い着物に真っ黒な合羽を羽織っている。神道無念流皆伝で、いかなる状況でも動ぜずに敵を倒す剛速の剣の使い手。かつては越後一条の森家で幼君・輝若の側仕えをしていたが、影と幕府に内通した家老大渕左衛門の陰謀で輝若は切腹を命ぜられ、森家は断絶し室戸十兵衛は浪人となった。 幼君切腹の際に介錯を行った十兵衛は、幼い主君の首をはねた罪の意識から、以後、男性機能が不能となった。浪人となってから、幕府の理不尽な取潰し政策を憎み、一矢報いようと「影狩り」を始める。影の絡んだ誘拐事件で日光月光と組むこととなり、以後三人衆となる。 影の恐ろしさを知るため十兵衛は非常に用心深い。将棋が趣味で、月光とよく宿で指している。
乾 武之進 (いぬい たけのしん)
影狩り三人衆の中で一番若い。少し太めの体格で、気が短いが明るい性格。細かいことは嫌いだが意外に隙がない。女が好きで、旅先ですぐ女郎屋を探したり、いい女を見かけると劣情に走る。くの一に接近されることもしばしばあり、寝床で攻撃されるが、肢体や性的な忍術に負けることはない。三河の鳴瀬藩で鬼役(毒味役)を務めていたが、天井からの影の毒で藩主が暗殺され、藩は取潰しとなり、浪人になった。 岡崎の女郎屋で「居残り」をしたとき、初めて日光と名乗る。この時、食客をしていた月光に初めて出会う。毒味役を命じられただけあって、嗅覚・味覚・聴覚・触覚に優れ、三人に迫る罠の兆候にいち早く気付く。 報酬の金で、絵草紙の店やうどん屋などを開き、影狩りから足を洗おうとしたこともあったが、いつも上手くいかず闇の稼業に舞い戻る。
日下 弦之介 (くさか げんのすけ)
影狩り三人衆のサブリーダー的役割。痩せ型の体格で、細面。顔の右目のあたりに大きな火傷の痕がある。口数は少なく、常に冷静。しかし、振るう剣は「妖剣」と呼ばれるほど強く、伯耆流抜刀術の達人。室戸十兵衛の、よき将棋相手。賭場の用心棒をやっているときに日光との二度目の遭遇があり、廃藩浪人の悲しさを共有して日光に共感し、自分は月光と名乗ることにする。 二人はその後、お庭番の関係する事件に巻き込まれ、十兵衛と初めて出会う。そののち、影絡みの誘拐事件で三人のチーム編成が完成する。もとは今津藩の藩士だったが、家老の汚職を記した帳簿の奪い合いに巻き込まれ、妻子を殺され家を焼かれ(火傷はその時のもの)、浪人となる。 結局、汚職は影によって幕府の知るところとなり、今津藩は取潰しとなった。
大場 瀬左衛門 (おおば せざえもん)
徳川幕府の重鎮で、 影に命令して諸藩の取潰しを仕切る大目付。しかし、かつては室戸十兵衛が仕えていた越後一条の森家の国家老大渕左衛門であり、幕府 と内通して幼君・輝若に将軍下賜の陶器を壊させた張本人。その罪で輝若は切腹となり、越後一条の森家は断絶お取潰しとなった。 この件で大渕は幕府の重臣となり、名前を大場瀬左衛門と改めた。影狩り三人衆、特に室戸十兵衛の最大の敵である。
堂本 無格 (どうもと むかく)
公儀隠密を支配する職についている。前任者の石根刀自斎は、部下の不始末の責任を取らされ切腹した。峻烈な性格で、徳川の世に忍者が世襲制になり、忍びの技や気概が失われるのを憂い、伊賀の厳しい掟に従うことを幹部たちに宣言する。伊賀忍者の手だれを集めた「棕櫚緒忍衆」(しゅろおにんしゅう)を結成し室戸十兵衛ら影狩り三人衆の抹殺を図る。
柳生 三羽がらす (やぎゅう さんばがらす)
柳生新陰流の技を使う、柳生一門の刺客三人。室戸十兵衛も顔色を替えるほどの凄腕の持ち主。疋田刃吾(ひきたじんご)、庄田斬左衛門(しょうだざんざえもん)、出渕鞘香(いでぶちさやか)、これに連絡役である忍者の赤犬で一組のチームとなっている。柳生一門は表向きは将軍家剣術指南役であるが、裏では幕府の密命で、政策の邪魔になる人間を斬殺する刺客集団だった。 影狩り三人衆を斬るように幕府重臣より命ぜられる。
道願 (どうがん)
二本松藩の御典医。冷凍睡眠、人工冬眠の秘法を完成したと語る老医師。主君丹波守が影に殺され、これが幕府に知られたらお取潰しというので、家老は室戸十兵衛たちと一緒に御典医道願のところへ行く。道願は、死んだと思われていたが実は人工冬眠中であった先代の丹波守を目覚めさせ、死亡した当代の身代わりにするという。 道願の研究所である地下の氷室には氷の棺桶があり、中で先代の丹波守が眠っていた。道願の薬によって先代の丹波守は冬眠から目覚め、当代との身代わりは成功する。しかし、これには陰謀が隠されており、室戸十兵衛はそれを見破るのだった。
蚊喰 (かく)
神技の持ち主と言われながら、隠遁した老いた伊賀忍者。伊賀地獄谷の伊賀忍軍首領より、影狩り三人衆の暗殺を命じられる。蚊喰は険しい高山の洞窟に居を構え、大量の蝙蝠と隠遁生活を送っていたが、くノ一のかえでが訪れ「影狩り三人衆を倒せば恩賞は望みのまま」と説得する。幕閣の影に対する無理解に嫌気が差して引退した蚊喰だったがこれに興味を示し、かえでと組んで三人の殺害を引き受ける。 場面は変わり、影狩り三人衆は美濃・高津藩の依頼に応じて山中の城に到着するが、これは伊賀衆の罠であった。夜中に探索に出た三人は、血液が全て抜かれた藩士の死体を発見し、さらに無数の蝙蝠と巨大な蝙蝠のように飛行する蚊喰に襲われ、日光が危機に陥る。 追い込まれた三人だったが、「俺達も飛べばいい」という室戸十兵衛の策で、飛行術に対抗するのだった。
柳生 一色残無斉 (やぎゅう いっしきざんむさい)
老齢であるが一流の剣人。宿屋で影狩り三人衆を襲った強盗五人を、一刀のもとに切り捨てる。それが縁で、その宿で室戸十兵衛と将棋を指す仲になるが、実は彼は柳生一色一門の元総帥だった。公儀隠密の仕事に嫌気が差して隠居し、ふらりと旅に出ていたのである。残無斉は十兵衛と将棋を指しながら、お互いの「人間」を感じ取り打ち解けていくのだが、残無斉を探していた一色一門の高弟・愛知が宿にやって来る。 影狩り三人衆の姿を見た愛知は、これを屠るべく柳生一色総帥柳生鞘四郎(残無斉の息子)を呼ぶ。残無斉は争いを回避しようとするが、三人衆と一色一門は戦闘状態に入り、やがて残無斉も十兵衛と剣を持って向き合うこととなってしまう。
武田 晴繁 (たけだ はるしげ)
隠れ里に住む、戦国の世に滅亡したはずの武田勝頼の子孫たちの統領。先祖の隠した莫大な金塊の在処を捜索中、 影の侵入を確認したため、この排除を影狩り三人衆に依頼する。 影のみならず、直轄地となった甲斐国からも武士たち(甲府勤番)が襲来。隠れ里も襲われ焼かれるが、皮肉にもその時金塊の隠し場所が判明する。
忍鴉 (おしがらす)
無数のカラスを用いる術を使う忍者で、鯰江藩(なまずえはん)取潰しの原因を作り出すために送り込まれた 影である。鯰江藩浮島城の石垣修築工事に対し幕府 から出された修築認可状、これを失えば「無許可で石垣を修築した」として取潰しの理由となるため、忍鴉はこれを狙った。影狩り三人衆はわざと修築認可状を露出させ、忍鴉を引きずり出して叩こうとしたが、無数のカラスに爆薬を括りつけて攻撃するという獣遁の術を使われ、認可状を奪われてしまう。 しかし、残ったカラスの死骸にあったあるもので、十兵衛は忍鴉の正体に気づくのだった。
青江 下坂 (あおえ しもさか)
大場瀬左衛門の後任の大目付。室戸十兵衛に関する、疑念を生じさせるような風評を流し、影狩り三人衆を仲間割れさせ、さらには殺しあうように誘導しようとした。また、十兵衛の越後一乗時代の旧友であり、剣の達人でもある速水喬四郎の心も操り、「幕府に管理される影狩り」を生み出そうとする。
集団・組織
影 (かげ)
『影狩り』に登場する集団。財政危機に陥った徳川幕府が、取潰しによる領地没収で窮地からの打開を謀り、取潰しの理由である大名の些細な落ち度を探索・捏造するため、諸藩に送り込むお庭番(忍者)・公儀隠密のこと。当時のお庭番は、五つの組があり、公儀探索方御用五の組といわれていた。一、伊賀同心 ニ、甲賀同心 三、根来同心 四、黒鍬組 五、二十五騎組 の五つである。 五つ以外にも、将軍家を護衛する黒縄組、唐人がひきいる「如来ケ衆」、大目付さえ存在を知らされていない老中直属集団がある。さらに、これらのお庭番を監視し、懲罰を与える「影目付根来衆」も存在している。元公儀探索方である「羽織衆」も作品に登場するが、彼らは将軍の身辺警護や私用を務める集団である。 それぞれが体術を磨き、薬・獣・道具などを用いて任務を遂行する恐ろしい集団であった。また、先に備えて何代も前から里に入り、その土地で子を成し代々任務を継がせ、指令が発せられたとき初めて忍者として活動を始める「草」または「潜み猿」「里入忍」と呼ばれる者達も存在し、より対応を困難にした。
その他キーワード
くノ一忍法 (くのいちにんぽう)
『影狩り』に登場する術。女性の忍者、くノ一が用いる忍術。「吸い酸漿」(すいほおずき)は、特殊加工した酸漿の袋に毒や催眠薬を入れて口の中に隠し、相手の男と接吻をする際にその液体を相手に飲ませるというもの。「衣攻め」(ころもぜめ)は、細い馬の尾の毛の強度を高めたものに鉤をつけ、衣服や布などを操って相手を撹乱させる術。 これ以外にも寝室で用いる様々な性的な忍術が存在する。
隠形化身の術 (おんぎょうけしんのじゅつ)
『影狩り』に登場する術。影狩り三人衆が用いる戦術のひとつ。敵を霧の中に誘導し、そこに兜鎧に身を包み馬に乗った日光が現れて大暴れして敵を混乱させる。残った二人が反対側より飛び出し、これを斬殺する、というもの。
四足の法 (しそくのほう)
『影狩り』に登場する術。忍者の歩き方で、「天地に接して天地に逆らわず、大気になじんで大気を斬る」と言われる。影狩り三人衆は変装して一般人を装う忍者たちを、この歩き方で見破る。