あらすじ
第1巻
中学2年生にして身長181センチで、女子バレーボール部のエースをつとめる富士山牧央と、身長160センチでもうすぐ廃部を迎える男子バレーボール部員の上場優一は、同級生の幼なじみ。思春期真っ只中で女子に興味津々な上場は、富士山の着替え中の大胆な姿を思いがけず目撃したのをきっかけに、富士山の事が気になり始める。玉砕覚悟で上場が富士山に交際を申し込むと、意外にも返事はOK。こうして晴れて恋人同士になった二人だったが、付き合うとは具体的にどうすればいいのか、よくわからずにいた。とりあえず周囲には知られたくないと、ノートの切れ端でやり取りをしたり、人気のない神社や隣町でデートをしたりと、中学生らしい付き合い方で二人は少しずつ距離を縮めていく。
第2巻
夏本番を迎え、三里第三中学校の運動部は、二泊三日で合同合宿を行う事になった。上場優一は、この合宿中に富士山牧央との関係が少しでも進展しないかと、期待をせずにはいられなかった。上場は風呂や食事などのさまざまなシーンで、近くに富士山がいる事にちょっとした喜びを感じながら、なにとかして誰もいないところで二人だけの時間を作れないかと試行錯誤。そしてようやく手に入れた二人だけの時間は、上下階に別れた各部屋のベランダでのひと時だった。二人はなんて事のない会話を楽しんだが、そこで上場にとっては願ってもないハプニングが発生。富士山は、とても恥ずかしい思いをする事になり、二人はなんとなく気まずい空気になってしまう。翌日の夜、女子の部屋に遊びに行く事になった上場ら男子は、富士山のいる女子バレー部員の部屋を訪れ、楽しい時間を過ごす。しかしそこへ、巡回のため副校長が登場。これがばれたら大変だと、男子は一斉に押し入れの中へ隠れるが、上場だけが逃げ遅れてしまう。絶体絶命の状況に右往左往する上場だったが、布団に入って寝たふりをしていた富士山からこっそり声がかかる。
第3巻
夏休みが終わり、二学期が始まった三里第三中学校では、夏の余韻を残しながらも日常が戻りつつあった。そんな中、上場優一は、同級生の男子・会田にやたらと絡まれている富士山牧央の姿を目にする。会田から暴言を吐かれているシーンを見ても、なにもできない事にジレンマを感じた上場は、みんなに内緒で付き合うのをやめようと富士山に提案し、彼女の意思を確認したうえで、交際を公にする事を決める。その作戦は朝学校の正門前で待ち合わせをして堂々と手をつないで歩き、疑問を持った友達から突っ込まれたら、付き合っている事を明かすというもの。考えただけで身もだえするほど恥ずかしいと赤面する富士山だったが、何とかカミングアウトにこぎつけたい上場は、予行練習と称して、焼却炉の横で隠れて手をつなぎ、二人だけの時間を楽しむ。翌日、緊張のあまり寝不足の状態で朝を迎えた二人は、約束通り校門の前で顔を合わせる。たくさんの生徒が行きかう中、手をつなごうと二人は互いに近づくが、不意に富士山の友達から声をかけられた事で二人の緊張は限界を突破し、作戦は失敗に終わる。しかし、学校でも富士山と二人の時間を作る事をあきらめたくない上場は、体育祭を前に、いっしょに委員をやらないかと富士山を誘う。
第4巻
文化祭当日。誕生日を迎えたばかりの高木は、富士山牧央と三好麻衣子を女子トイレに誘うと、彼氏からもらったという包み紙を二人に見せた。包みの中に入っていたのはセクシーなショーツだった。さらに、シャツのボタンを外した高木は、同じく彼からプレゼントされたという大人っぽい刺繍のブラジャーを二人に見せる。そして、彼氏からのプレゼントに「着て見せろ」という含みがあるのではないかと、困惑している事を相談するのだった。三好と富士山は、高木の彼氏のエロさに戦慄。そして、男とはそういうものだという高木の実感のこもった言葉を耳にして、富士山はその後、上場優一の顔をまっすぐに見られなくなってしまう。その日の帰り道、上場から声をかけられた富士山はその場から全力で逃走。それでも上場はめげずに彼女を追いかけ、プレゼントを手渡す。それは、成長痛でしばらく部活を休んでいた富士山にと、上場が用意した部活復帰祝いのプレゼントだったが、その包み紙はよりにもよって高木が彼氏からもらったのと同じものであった。高木がもらったセクシー下着の事で頭が一杯の富士山は、中身を下着と思い込み、それをかぶって見せてほしいという上場の言葉に激しく動揺する。
第5巻
秋も深まり、寒さが本格的になって来た頃、2年生の各教室では、三者面談が行われていた。富士山牧央も進路に悩んでいたが、三者面談を終わらせた帰り道、母親からはしっかりと悩んで、あせらずゆっくり時間をかけて決めていこうと言葉をかけられる。その後、富士山は上場優一と公園で合流し、タイヤのブランコに乗りながら互いの今後について話し合う。バレーボールを続けるうえで体格に恵まれた富士山には、スポーツ推薦という引く手あまたの選択肢が用意されていた。しかし、スポーツ推薦を受けるか、一般で受験するかで富士山はまだ悩んでおり、具体的な進路を決めるには至っていない状態だった。上場の方は、3年生になったら塾に通うようにと両親から言われている事を明かし、二人は高校受験に向けて周囲が静かに変化し始めている事を実感する。そして二人は互いに、小さな不安を口にし始める。
第6巻
年末も差し迫った日、三里第三中学校バレーボール部は、練習試合の遠征に来ていた。部活納めとなったこの日、校長からの計らいで温泉宿に宿泊する事になった一行は、内風呂に外風呂、打たせ湯、サウナ、足風呂に至るまでさまざまな温泉を満喫する。180センチオーバーの長身が災いして、いつもはほかの女子生徒達のようには楽しめない富士山牧央だったが、この温泉宿は外国人がよく来る場所という事もあり、大きいサイズの浴衣の用意があった。そのため、みんなと同じようにかわいらしい浴衣に身を包む事ができた富士山は、終始ご機嫌だった。風呂上がり、艶っぽい浴衣姿で出て来た富士山は、そこで上場優一と遭遇。話に花を咲かせていたところ、そこに青田が近づいて来る気配を感じる。二人はとっさにプリントシール機の中に身を隠すが、そこで上場は名案を思いつく。青田が去った事を確認すると、富士山の手を引き、上場は喫煙所へと駆け込む。ここなら中学生は絶対に来ないから見つかる事はないと自慢気に話す上場に、頭がいいと喜ぶ富士山だったが、次の瞬間、後ろに人の気配を感じて二人が振り向くと、そこにはまさに喫煙中の倉敷先生の姿があった。
第7巻
2月。バレンタインデーを目前に控え、井手ら女子は富士山牧央の家に集合し、チョコレート作りを始める。上場優一と付き合い始めてから、初めてのバレンタインデーを迎える事になる富士山は、みんなとチョコレート作りを楽しんだあと、一人で上場に渡すためのチョコレートにデコレーションを始める。そして迎えたバレンタインデー当日。先生達の厳しい持ち物チェックの目が光る中、三里第三中学校の生徒達はその目をかいくぐり、思い思いにチョコレートを受け渡していく。男子生徒達も朝からそわそわと浮足立っており、上場もまた、富士山からはきっとチョコレートをもらえるはずと、一日中心ここにあらずな状態でいた。しかし、下校時にげた箱を開けてもそこにチョコレートらしきものは入っていなかった。失意の中、家に帰る途中で、上場は富士山に遭遇。いっしょにいた小谷野は富士山が持っていた手荷物に気づき、からかうように中身を尋ねる。富士山が広げたその手提げバッグの中には、たくさんのチョコレートが入っていた。
第8巻
春を迎え、中学3年生になった富士山牧央と上場優一は、奇跡的に同じクラスになる事ができた。新しいクラスでは、富士山に対していちいち絡んで来る男子・塙の存在が新たに浮上する中、中学最大のイベント、修学旅行に向けての準備が始まる。富士山と上場は、同じクラスであっても付き合っている事は誰にも秘密の状態が続き、必要以上にかかわる事がないまま、結局修学旅行の班も別々になってしまった。準備は、グループのまとまりのなさに翻弄され、なかなかスムーズにはいかなかったが、富士山は上場とこっそり協力する事で、無事修学旅行当日を迎える。目的地の京都へ行く新幹線の中では、みんなが思い思いに過ごす中、富士山は窓際の席でうたたねをしていた。窓の外に富士山が見えると、生徒達がざわめき始めた時、塙が、「富士山のせいで富士山が見えない」と難癖をつけ、ごね始める。いつもなら黙っている上場も、この時ばかりは我慢ならず、塙を制止しに入った。上場のこの行動が、塙の感情をよりヒートアップさせる事になるが、そこは、こちらに加勢した梅木のおかげで、何とか事なきを得た。これにより、ある意味肝が据わった状態となった上場は、気を遣って京都ではなるべく絡まないようにすると語る富士山に対し、二人の関係がみんなにばれてもいいと発言。そして、人目を気にせず行動する事を決意する。
登場人物・キャラクター
富士山 牧央 (ふじやま まきお)
友人や母親からは「牧」と呼ばれている。三里第三中学校の女子バレー部に所属する中学2年生。身長181cmと恵まれた体躯で、バレー部ではエースを務める。胸はFカップ。中学生女子として高すぎる身長から、男子から「規格外」とからかわれたり、周囲から大きいことを頻繁に指摘されるが、本人はもう慣れており、いちいち気にするようなそぶりはない。 ただし、からかってくる男子には容赦なく鉄拳制裁をしている。身長はまだ伸びているようだ。服のサイズがない、映画館などで後ろの席を気にしたりと、高身長ならではの悩みを多く抱えており、幼馴染で恋人のカンバ(上場優一)もそのことを気遣っている。 おっとりとした性格で、子供っぽい言動がよく見られるものの、いわゆる「男女のお付き合い」についてはそれなりに興味がある。好きな科目は英語で、数学は苦手。
上場 優一 (かんば ゆういち)
三里第三中学校の男子バレー部に所属しているが、活動態度はあまり良くない。部活の友人と女子の着替えを覗こうと目論んだ際、目当てでなかった幼馴染の富士山牧央の着替えを偶然目撃。その光景が忘れられず富士山を気にし始め、とあることをきっかけに交際を申し込む。富士山とは幼稚園の頃からの知り合いで、昔は幼い頃から体の大きかった富士山によく泣かされていた。 男子中学生らしい下品さや単純さはあるものの、富士山のことを気遣ったり用事を手伝うなど、真面目で気遣い屋な一面もある。160cmと中学2年生男子としては平均的な身長だが、彼女である富士山が181cmと高身長のため、姉弟に見られることも。 放送委員に所属。苦手科目は英語。
倉敷先生 (くらしき せんせい)
三里第三中学校の養護教諭を務める女性。サバサバとした性格や男っぽいしゃべり方、それでいて大人の女性らしい色気があるため、男女ともに生徒から人気がある。主人公の富士山牧央や上場優一とは、合宿をはじめとする部活に関係した機会で接点が多い。独身ひとり暮らし。 作中で引っ越しをしており、富士山らにその手伝いをしてもらっている。喫煙者。
青田 恵子 (あおた けいこ)
三里第三中学校に通う2年生の女子。バレーボール部でキャプテンを務めている。成績優秀な美人で、すべての男子生徒が、青田が自分の彼女だったらどんなに素敵だろうと想像するほどの人気を誇るマドンナ的な存在。
高木 (たかぎ)
三里第三中学校に通う2年生の女子。ブラスバンド部に所属している。富士山牧央、三好 麻衣子と仲がよく、いつもいっしょに行動している。現在、男子高校生と交際中で、彼氏との事はなにかと友達に報告および相談しており、最近ではキス以上の事をしたと盛り上がった。その彼氏から、誕生日にセットアップの大人っぽい下着をプレゼントされ、見え隠れする下心に困惑しつつも、翻弄されっぱなし。
三好 麻衣子 (みよし まいこ)
三里第三中学校に通う2年生の女子。ブラスバンド部に所属している。富士山牧央、高木と仲がよく、いつもいっしょにいる。高木と彼氏の事をネタにしてからかったり、女子のスカートをめくってパンツをチェックしたりと、なにかと子供っぽく、ヤンチャないたずらが多い。背が小さく、かわいらしいところもあり、意外と後輩からの人気は高い。心理テストによれば、Mっ気があるらしいが、三好 麻衣子本人としてはドSでいたいという希望がある。
小谷野 (こやの)
三里第三中学校に通う2年生の男子。男子バレーボール部に所属している。上場優一や西と仲がよく、いっしょにいる事が多い。坊主頭に眼鏡をかけており、エッチな事には興味津々のお年頃。背の高い富士山牧央を女ではないとして、彼女を女性として見る者は、変わった性癖を持つ者だけだと揶揄する。倉敷先生の引っ越しを手伝った際には、「下着」と表記してあった段ボール箱をピックアップして勝手に開封したが、残念ながら中身は下着ではなかった。
西 (にし)
三里第三中学校に通う2年生の男子。男子バレーボール部に所属している。上場優一、小谷野と仲がよく、いっしょにいる事が多い。エッチな事には興味津々のお年頃。背の高い富士山牧央を女ではないとして、彼女を女性として見る者は、変わった性癖を持つ者だけだと揶揄する。3年生になるにあたり、両親からは付属の私立高校に進学するようにと厳しく言われるようになり、家庭教師が週四日来る事になったため、部活をやめる事になった。
香山 沙織 (かやま さおり)
三里第三中学校で2年2組の担任を務める女性教師。背が低く、童顔な事にコンプレックスを抱いている。そのかわいらしさから、一部男子生徒からは人気があるが、基本的には先生としての威厳がないのもあって、生徒からはかなりなめられている。
副校長 (ふくこうちょう)
三里第三中学校の副校長を務める中年女性。身長140センチの太った体型で、日常的に癖の強いファッションを身につけ、独特の存在感を示している。ニキビ顔の女子生徒に、ちゃんと顔を洗っているのかと聞いたり、プールを見学する女子生徒達に対して辛辣な言葉をかけたり、座っていた富士山牧央をわざわざ立たせ、大勢の生徒達の前で背が大きいと言ったり、かなりデリカシーのない言動が多く見受けられる。去年から花粉症気味になった事を気にしている。
井手 (いで)
三里第三中学校に通う2年生の女子。バレーボール部に所属しており、富士山牧央と仲がいい。野球部員の梅木に思いを寄せており、なにかとアピールはしているものの、いまひとつ伝わらない。バレンタインデーには、手作りのチョコレートを渡したが、アルファベットで書いた自分の名前が梅木に正確に伝わらず、わかってもらえなかった。3年生の修学旅行の際、京都での観光中にはずみで梅木に告白する事となり、その思いを昇華した。
梅木 (うめき)
三里第三中学校に通う2年生の男子。野球部に所属しており、浅黒い肌でワイルド感があふれているものの、誠実な性格で女子生徒からは人気がある。井手が思いを寄せている相手でもあり、なにかとアピールを受けているが、ちょっと鈍いところがあり、まったく気づいていない。バレンタインデーにはたくさんのチョコレートが下駄箱に入っていたが、唯一机に入れられていたチョコレートが、差出人の名前が読めず、井手からのものとわからないままになった。3年生になったあと、修学旅行で京都観光中に井手からの告白を受ける事になる。
会田 (かいだ)
三里第三中学校に通う2年生の男子。富士山牧央とはクラスが違うにもかかわらず、富士山を見つけるとわざわざ寄って来ては身長に関する暴言を吐く。富士山からの反撃があるとわかったうえで、絡んでいる節がある。
おばあちゃん
富士山牧央の祖母。身長は低いが、はつらつとした元気一杯なお年寄り。富士山の家とは、電車で簡単に行き来できる程度の距離に家があり、一戸建てで一人暮らしをしている。大雪が降った日、富士山と上場優一に雪かきをしてもらって以降、ご飯を御馳走したり、留守番をしてもらったりして、二人の関係を見守る一人となる。
こやま
地域の児童館で先生を務める女性。おかっぱ頭に眼鏡をかけた、穏やかで優しい雰囲気を漂わせている。富士山牧央や上場優一がまだ小さかった頃、児童館に遊びに来ていた時から知っており、中学生になった現在でもよく覚えている。偶然に、二人が児童館を訪れた際には、揃って遊びに来てくれた事を喜び、ちょうど節分の行事があったため、鬼役を手伝ってほしいと願い出た。
塙 (はなわ)
三里第三中学校に通う男子。3年生になった富士山牧央と上場優一と、同じクラスになった。日常的に非協力的および反抗的で、なにかと富士山に絡んでくる厄介な存在。教室では富士山がいるから黒板が見えないと言いがかりをつけ、修学旅行の行動計画を立てる時には、すべてを同じ班になった富士山任せにし、なにも協力しなかった。修学旅行当日には、新幹線内で富士山がでかすぎて富士山が見えないと絡んだが、上場と梅木からの制止により、大事には至らなかった。
お母さん (おかあさん)
富士山牧央の母親。富士山ほどではないが、かなり背が高い。ショートヘアで快活な印象で、あっけらかんとした肝っ玉母ちゃんタイプ。小さい頃、上場優一が家で娘といっしょに遊んでいたため、よく知っている。娘が中学3年生になるにあたり、進路について悩んでいる姿を見て、今後の進路は大事な事だから、あせらずゆっくりと時間をかけて決めていこうと、娘に寄り添った態度を示して言葉をかけた。
場所
三里第三中学校 (みさとだいさんちゅうがっこう)
『富士山さんは思春期』に登場する中学校。主人公の富士山牧央は2年1組、上場優一は2年2組に属している。身長181cmのエース富士山を擁する女子バレー部は、大会で準優勝し地方紙のトップを飾るほどの強豪。他の部活動も盛んで、夏休み中には2泊3日の運動部合同合宿が行われている。