事件の謎を解き、非業の死を遂げた霊を救う人間ドラマ
本作は、白河メルの霊視で幽霊の話を聞き、頭脳明晰(めいせき)な和気谷清春(ワキヤ)が謎解きをする、1話完結形式のオカルトミステリー。幽霊たちがこの世にとどまっているのは、無念を抱えているため。川で魚のように腹を割かれて殺されてしまった少年は、残虐な犯人からの謝罪を願い、メルの祖父に取り憑(つ)く女性は、自分が誰かを祖父にわかって欲しいと願う。誰にも恨みを買っていないのに、バラバラ殺人の被害者になった男性は、自分が殺された理由が気になって仕方がない。彼らの死の背景には、様々な人間模様が隠されている。メルとワキヤは、事件の真相を明らかにし、彼らの願いを叶(かな)えて成仏させる。非業の死を遂げた霊を救う、感動的な人間ドラマが本作最大の魅力である。
幽霊専門の小学生探偵が誕生
2012年の春、通学途中のワキヤは、不思議な雰囲気の少女、メルと出会う。彼女は草花や動物、幽霊といった人ならざるモノと会話できる特殊能力の持ち主だった。メルによると、通学路の電柱近くの地縛霊・ブンブンさんが、自分を殺したひき逃げ犯を、ワキヤに捕まえてほしいと頼んでいるらしい。ブンブンさんに背中に乗られてしまったワキヤは、仕方なく協力することにする。ワキヤが犯人の車の部品らしきものを見つけ、警察に提出することを約束すると、ブンブンさんは成仏した。彼は消える前に、お礼として3億円の現金の在り処(か)をメルに教えていた。そして、その金で他の霊たちの頼みを聞いて成仏させてやってほしいという。この事件がきっかけで、ワキヤとメルは幽霊専門の探偵となった。
死人が大好きな霊視少女×頭脳明晰ながら臆病な少年
天真爛漫(らんまん)な性格のメルは、小さい頃から人ならざるモノと話してきたことから、幽霊をまったく怖がっていない。それどころか、生きている人間より、死んだ人のほうが楽しいという。一方のワキヤは、不合理や理不尽なことに出会うと、原因を突きとめたくなる頭脳明晰な少年。そして、実家が寺にも関わらずオバケが怖い臆病者である。そんな正反対な二人が、非業の死を遂げた幽霊たちの隠された真実を暴いていく。メルは3歳のときに、父が死んだ事故に関わっており、それ以来霊視できるようになった。人の死に麻痺しているメルは「いつか死ぬのがスゴく楽しみ」という。そんなメルの背後に不気味な影を感じたワキヤは、彼女が向こう側にいかないよう、必死で抱き寄せる。そして、メルの亡き父に、ずっと彼女を見守ることを誓った。
登場人物・キャラクター
和気谷 清春 (わきや きよはる)
怖がりだけど頭脳明晰な小学生の男の子。通学途中で出会った不思議な少女、白河メルとともに、幽霊専門の探偵をはじめる。メルのような特殊能力はないが、メルに触れていれば同じように霊の声を聞くことができる。人の言葉や行動から矛盾や葛藤を鋭く見つけ、解決につなげていく観察眼を持つ一方、相手の出方や展開を案じて言葉を選び長考してしまうこともある。ケンカはあまり強くないが、頭脳戦で相手と和解する方法を知っている。寺の息子なので、周囲に住む人々のことはよく知っている。覚えたての「不合理」という言葉をよく使う。メルからは「ワキャくん」と呼ばれている。
白河 メル (しらかわ める)
長いおさげ髪を肩から垂らした不思議な雰囲気の小学生の女の子。おさげの毛先を生き物や霊に向けると、その声が聞こえる特殊能力の持ち主。和気谷清春(ワキヤ)とともに助けた霊の遺言で幽霊専門の探偵をはじめる。天真爛漫(らんまん)な性格で、生きている人より死んでいる人の方が面白いから死ぬのが楽しみ、という生死感を持っていたが、ワキヤと友達になり、その考えを改める。家族は父と祖父のみ。父は3歳の時に他界しているが、霊となってガレージに出現するので、今でも交流がある。
書誌情報
対岸のメル -幽冥探偵調査ファイル- 全2巻 KADOKAWA〈ハルタコミックス〉
第1巻
(2023-02-15発行、 978-4047371866)
第2巻
(2023-11-15発行、 978-4047376359)