概要・あらすじ
ある日、鑑別所帰りで身寄りのない樹ノ宮ケイのもとに弁護士が訪れ、ケイが莫大な資産を持つ織永家のツグミ館の相続人である事を告げる。期待と不安の入り混じる中、ケイと親友の名張順子は、巨大な洋館ツグミ館を訪れる。そこにいたのは、もう一人の相続人候補・葉月亜矢であった。ツグミ館の相続人になるには青い目である事が条件で、ケイは左目だけが青い金銀妖目(ヘテロクロミア)だった事で相続権を得ていた一方で、もう一人の候補者である亜矢は両目が青かった。
ツグミ館を相続するには、審判を受ける必要があり、そのためには入れば発狂するといわれている「あかずの部屋」へ入る必要があった。実は潤子は、ケイに後ろ盾ができれば安心して恋人の岩田慎二と結婚できると考えており、それを知ったケイはショックを受けて「あかずの部屋」に入ってしまう。
そこでケイは豹変して自分の右目をくりぬき、髪もばっさりと短く切って、潰した右目に織永家初代当主がつけていた黒い眼帯をするようになった。実はカラーコンタクトレンズを入れて青い目に偽装していた亜矢は、ケイが青い目しか持たなくなった事実に焦り、彼女を殺そうと試みるが逆に返り討ちに遭って殺されてしまう。
そんな中、潤子の恋人の慎二がツグミ館を訪れ、ケイの豹変、そして亜矢の死について潤子と共に調査を開始する。亜矢のボディガードを務めていた私立探偵の神恭一郎は、実は昭和初期に起きた「六銭銅貨事件」との関連を調べるためにツグミ館に侵入しており、彼も交えて調査を進めるうち、潤子や慎二も事件の奇妙な関連性に気づき始める。
登場人物・キャラクター
樹ノ宮 ケイ (きのみや けい)
右目が黒く左目は青い金銀妖目(ヘテロクロミア)であり、それを隠すためにつねに黒い眼鏡をかけている少女。肩まで届くストレートの黒髪に、黒い眼鏡をかけ、瞳をつねに隠している。内気でおとなしい性格だが、幼い時に両親と死に別れ、悪い仲間と付き合っているうちに鑑別所へ送られた。そこで名張潤子と知り合い、親友になった。ツグミ館の相続人候補になったが樹ノ宮ケイ本人には欲がなく、当初は相続を拒否していた。 相続人候補だけが入れる「あかずの部屋」へ行ってからは豹変し、自ら右目を潰して青い目のみの持ち主となる。
名張 潤子 (なばり じゅんこ)
ボリュームのあるロングヘアの、目の大きい少女。鑑別所に入っていた時に、そこで知り合った樹ノ宮ケイと親友となる。ケイが織永家の跡取り候補としてツグミ館に呼ばれた際に、気弱なケイを心配していっしょについて行った。最初はケイの邪魔にならないように猫をかぶっているが、もう一人の跡取り候補の葉月亜矢がケイに失礼な態度を取ったのを見て、本来の粗暴な男言葉に戻る。 しかし本当は心優しい性格の持ち主で、その性格を見抜いた恋人の岩田慎二からはプロポーズされている。潤子は慎二の事を「ガンさん」と呼んでおり、ケイが無事にツグミ館の相続人に決まったあとは、慎二と結婚しようと考えている。
葉月 亜矢 (はづき あや)
ツグミ館の相続権を持つ女性。腰までの長い髪の美女だが、意地悪そうな吊り目で性格もきつい。両目が青いため、自分こそがツグミ館の正当な相続者であると主張していた。実は両目とも青くはなく、カラーコンタクトレンズで偽装していた。自分が相続人になったら財産の三分の一を譲るという条件で、シジマを抱きこもうと画策する。
シジマ
代々ツグミ館に仕える老女で、相続人選別を一任されている。白い髪を結い、深い皺に覆われた顔をしている。シンプルなドレスを着ていつもきちんとした身なりをしているが、慇懃無礼で威圧感がある。葉月亜矢から財産を三分の一譲るから相続人に選ぶよう誘われたが断った。ツグミ館の者からは「シジマ夫人」と呼ばれている。
岩田 慎二 (いわた しんじ)
少女漫画家で、髭面の小太りの男性。眼鏡をかけていて、いつもパイプをくわえている。名張潤子の恋人で、潤子が突っ張って見せているが本当は優しい性格だという事も承知している。私立探偵の神恭一郎とは腐れ縁の仲。潤子を追って訪れたツグミ館で、葉月亜矢のボディガードとして館に滞在していた恭一郎と再会する。潤子からは「ガンさん」と呼ばれている。
神 恭一郎 (じん きょういちろう)
腰までの長い髪でサングラスをかけた若い男性。ダブルのスーツに派手な柄のネクタイを締めている。ツグミ館には葉月亜矢のボディガードとして滞在していた。その正体は岩田慎二と腐れ縁の私立探偵で、昭和初期に起きた「六銭銅貨事件」のことを調べるために、亜矢のボディガードを装ってツグミ館に入り込んだ。事件当時、「六銭銅貨事件」を調査していた警視の甥にあたり、彼がまとめた資料を見つけて事件を解明しようとしている。
織永家初代当主 (おりながけしょだいとうしゅ)
400年前に英国から日本に帰化した、青い目のイギリス人男性。ツグミ館にある肖像画では右目に眼帯をしている。異人好きの織田信長に重用されて「青の城」を与えられたが、家来の反乱と同時に発生した土砂崩れに巻き込まれ、反乱した家来数百人共々地中に沈んだ。しかし別邸の奥方が身ごもっていたため血筋は絶えず、子孫には青い目が隔世遺伝、先祖返りといった形で何代かおきに現れている。 この青い目の持ち主が、織永家の莫大な財産の相続人候補となる。
ゾンビィ
ツグミ館の主人、すなわち織永家の現当主の呼びかけで息を吹き返す死者達。全部で24人いて、フードを深くかぶり、丈の長い僧服のようなものを着ている。普段はツグミ館の庭で石像の姿となっており、当主にあやつられなければ動く事はできない。
場所
ツグミ館 (つぐみやかた)
明治初期に建てられた山奥の大きな洋館で、400年前のイギリス人領主である織永家初代当主の子孫が代々受け継いでいる。広い領地とそこから上がる莫大な収益、数千万円の価値があるという美術品を数多く有し、資産価値の大きい館でもある。庭には赤いケシの花が咲き乱れ、マザーグースの一節「6ペンスの唄を歌おう」の歌声が聞こえてくる。 また巨大な青銅の竜が設置され、まるで血の中を竜がのたうちまわっているように見える。ほかにも、気味の悪い僧侶の石像が全部で24体ある。電気が通ってないため、テレビもラジオもなく、明かりも蝋燭を使用している。ツグミ館の地下数十メートルには、400年前の土砂崩れで埋もれた織永家の青の城が未だに存在するといわれている。
あかずの部屋 (あかずのへや)
ツグミ館の地下にある部屋で、相続人を決める審判の部屋でもある。ドアの上部には大きな目玉のレリーフが施されている。樹ノ宮ケイと葉月亜矢の前にも何人も相続人候補がこの部屋に入ったが、全員が精神錯乱を起こした。中には恐怖で髪が真っ白になった者もいたという。あかずの部屋の鍵はシジマだけが持ち、相続権のある人間だけが入る事を許されている。 ケイはこの部屋に入り、自分の右目を自らえぐり取った。
青の城 (あおのしろ)
400年前の安土桃山時代に、織永家初代当主が与えられた城。異人の城主に反抗心を持った家来達が反乱を起こしたが、同時に発生した大規模な土砂崩れにより、城主も反乱した家来数百人も共に地中に沈んだ。現在もツグミ館の真下に埋まっているとされるが、実際はこの青の城を基盤に巨大な地下帝国が建造されており、そのために多くの人夫が働かされている。 ケシ畑から聞こえる「6ペンスの唄を歌おう」は、この人夫達の悲しい歌声である。
イベント・出来事
六銭銅貨事件 (ろくせんどうかじけん)
昭和初期に起きた、24人の黒い僧服の男達が若い男女の目をえぐったという猟奇事件。ツグミ館付近一帯で起きた連続事件で、担当した警視は「6ペンスの唄を歌おう」になぞらえて、「六銭銅貨事件」と名づけた。事件の最後の被害者は捜査にあたっていた警視本人で、両目を失ったものの一命を取り留め、その後もツグミ館周辺を調べ続けた。 この警視は神恭一郎の叔父にあたり、恭一郎はこの事件を調べるために葉月亜矢のボディガードとしてツグミ館を訪れた。
その他キーワード
眼球 (がんきゅう)
織永家初代当主の怨念が宿っている左目。400年のあいだ、欲望を糧として生き続け、青い眼を受け継ぐ子孫達に乗り移っている。目的は誰も裏切らない死者達による地下帝国を作り上げる事で、普段は鎧武者の左目部分にはめ込まれている。
6ペンスの唄を歌おう (ろくぺんすのうたをうたおう)
イギリスの伝承民謡マザーグースの中の一節で、ツグミ館の庭のケシ畑から聞こえる。歌詞の内容には意味がないとされているが、「6ペンスの唄を歌おう」は圧制に苦しめられた民衆が私腹を肥やした王と、それに加担した24人の高僧を皮肉り風刺した歌ではないかともいわれている。