世界観
雛見沢という架空の村を舞台としていて、時代設定は昭和末期。要所要所で主人公の1人から読者に対して語りかけてくる場面があるなど、メタフィクション的な表現が多い。基本的な世界観は時代設定と合致しているが、中学生女子のはずのキャラクターが秘密部隊の男を圧倒してしまうなど、やや現実離れした展開も見られる。とはいえそれは部活により培われた能力であるとして、一定の説得力を持たせている。
あらすじ
田無美代子編(1巻)
両親と共に平凡ながらも幸せな生活を送っていた田無美代子は、悲惨な交通事故により幼くして両親を失ってしまう。彼女の父は、病院に搬送されて息を引き取る直前、美代子に高野一二三という人物の名前と、彼に連絡を取って面倒を見てもらうよう伝える。警察にそのことを伝えた美代子であったが、その人物の連絡先は結局分からず、施設へと預けられることとなる。 施設での生活は過酷そのもので、毎日続く虐待に耐え切れず、ついに美代子は仲間と共に脱走を試みる。夢中で逃げるあまり森の中で迷い絶望する彼女の前に、電話ボックスが現れ、小銭の返却口には十円玉が入っていた。奇跡的に一二三の電話番号を思い出した美代子は連絡を取ることに成功するが、助けを求める言葉を放った直後に施設の人間に捕まってしまう。施設に戻されて惨い拷問を受けるうちに意識を失う美代子だったが、目が覚めるとそこはきれいなベッドの上で、一二三に助けられた後であった。 一二三は美代子の父の恩人でとても心優しく、美代子のことを実の孫のように扱い、彼女のトラウマをも徐々に取り払っていった。美代子自身も一二三を祖父と慕うようになっていたある日、美代子は彼が雛見沢症候群という病気の研究を行っていることを知る。その研究の手助けをすることが自分の生きる意味なのだと悟った美代子は、名を「高野三四」と改める。
鷹野三四編(2巻)
田無美代子という名を捨て、高野一二三の研究をささやかながら手伝うようになった「高野三四」は、完全に笑顔を取り戻していた。そんな時、一二三の古い友人小泉から、研究を学会に発表する機会を用意される。必ずものにするつもりで望んだ発表会であったが、研究は学者たちにより無残に一蹴されてしまうのであった。もっとしっかり研究していればと嘆く一二三を前に、三四は祖父の研究に人生を捧げるという決意をより一層強くする。 苗字を「鷹野」に改め研究のために人生のすべてを費やしてきた三四は、いつしか大学を首席で卒業するまでになっていた。同窓会で知り合った各方面の権威のバックアップを得て、研究を加速させようと思っていた三四の前に、ある日小泉が姿を現す。そこで三四は、なぜあの日の発表会で研究が無碍に扱われたのかを聞かされ、研究を中止するよう脅される。だが、強い意志でそれを跳ね返した三四は、ついには政界の権力者である小泉までも味方に引き入れる。小泉の力は絶大で、瞬く間に雛見沢に研究所を建設し、医師の入江京介や監査役の富竹ジロウ、裏で活動する部隊「山戌」の隊長・小此木鉄郎らの仲間も用意されたのであった。
オヤシロさまの祟り1~2年目編(3巻~)
人の脳に影響を与え強大な被害妄想を引き起こさせる恐ろしい病、雛見沢症候群についての研究を続ける雛見沢研究所の入江京介は、病気の特性から、「オヤシロさまの祟り」を利用して非人道的な研究に手を出すことを余儀なくされ、気を落としていた。そんな中、入江診療所の医者としての業務で彼は北条悟史と出会う。悟史の家族は、雛見沢ダムの建設に賛成したことにより、村八分にされているのだという。不憫に思った入江は、自分に何かできることはないかと考え、自身が監督を務める少年野球チームに悟史を誘い入れる。 悟史の笑顔も増えてきた「綿流しの祭り」の晩。悟史の両親が悟史の妹の北条沙都子と共に川へ行った際、川に落ちて流されたという。入江と悟史は病院へ急行するが、両親は助からず、2人を置いて亡くなってしまう。その際入江は、田無美代子(鷹野三四)から沙都子が雛見沢症候群の末期症状を発症していることを告げられる。末期症状の見られる生きた患者は重要な検体として、生きたまま解剖されてしまう。沙都子の身にそれが降りかかるのを防ぐため、入江の前に「女王感染者」である古手梨花が現れるのだった。
メディアミックス
原作は2006年8月のコミックマーケット70にて頒布されたサウンドノベルであり、本作『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編』はそのコミカライズ版にあたる。同じ物語を描いたものとして、講談社より小説『ひぐらしのなく頃に解 第四話~祭囃し編~』があり、上中下巻の3巻構成で出版されている。
作家情報
鈴羅木かりんはスクウェア・エニックスや宙出版のゲームのアンソロジーコミックを主に執筆している。『ひぐらしのなく頃に』シリーズを手掛ける前は可愛らしい絵柄を売りにしていたが、それ以降の作品は過激でグロテスクな表現を用いることが増えた。
登場人物・キャラクター
田無 美代子 (たなし みよこ)
普通の家庭に生まれるが交通事故が原因で両親を失い、施設に入れられた後は悲劇の人生を歩む。施設から助け出してくれた高野一二三を、血は繋がらないながらも実の祖父同然に慕っており、彼の研究を世に知らしめるためには手段を選ばない。後に「高野三四」「鷹野三四」と名を変えていく。
古手 梨花 (ふるで りか)
部活メンバーの女の子で、北条沙都子と同い年。時間が巻き戻ることにより、何度も迎えることになる昭和58年6月の壁を超えるため、何度も同じ時間を旅してきた。これまでの世界で得ることのできたヒントをもとに、すべての負の連鎖を終わらせるため、仲間に真実を打ち明け最後の戦いに挑む。
前原 圭一 (まえばら けいいち)
『ひぐらしのなく頃に』シリーズ通しての主人公であり、部活メンバー唯一の男子。確定しているはずの運命をもいとも簡単に変えてしまう能力を持つ特別な人物。自身の暗い過去や別世界での記憶を持ちながらも、明るく最後まで物事を諦めない熱血漢。
高野 一二三 (たかの ひふみ)
施設でひどい虐待を受けていた田無美代子を救い出し、孫として育てた非常に心優しい人物。雛見沢症候群とその原因である寄生虫について研究しており、死の直前まで発表を諦めなかった。
小泉 (こいずみ)
高野一二三の親友で、政界に多大な影響力を持つ人物。高野の生前、学会への発表を阻んでしまったことを強く悔いており、田無美代子の前に再度現れた際には研究を全力でバックアップした。
入江 京介 (いりえ きょうすけ)
雛見沢研究所、またの名を入江診療所の所長であり、少年野球チーム雛見沢ファイターズの監督。精神外科界の若きホープだったが、ある事件により権威を失墜し、研究所に行き着いた。お人好しで優しく、人のことをモルモットとしか思っていない田無美代子とは対照的に、いつも親身になって治療、研究にあたっている。
富竹 ジロウ (とみたけ じろう)
フリーのカメラマンであるという体を装って毎年綿流しの時期に雛見沢を訪れているが、実際は雛見沢研究所の監査役。自衛官でもあり、特に射撃の腕は超一流。
小此木 鉄郎 (おこのぎ てつろう)
諜報部隊「山戌」のリーダーで、雛見沢研究所存続のために必要となる汚い仕事を担当する元軍人。殺し程度なら平気でやり遂げる残忍な男だが、自らが認めた相手には正々堂々素手での一騎打ちに臨むなど、男気のある人物でもある。
北条 悟史 (ほうじょう さとし)
ダム建設に賛成したことで村八分にされている北条家の長男で、部活メンバー北条沙都子の兄。沙都子とは非常に仲が良く、両親を失った後、引き取られた叔父叔母に虐待を受ける沙都子をかばい続けていたが、ある「綿流しの祭り」の晩に雛見沢症候群の末期症状を発症して叔母を殺してしまう。以後は入江京介により研究所で秘密裏に保護されている。
北条 沙都子 (ほうじょう さとこ)
北条悟史の妹で部活メンバー。2年目の「オヤシロさまの祟り」の時点で雛見沢症候群の末期症状を発症しており、以降薬を日に2回注射することで正気を保っている。メンバー最年少とは思えないほど巧みに罠を扱い、最終決戦時は「山戌」の部隊をいとも簡単に蹂躙する。
古手 羽生 (ふるで はにゅう)
古手梨花の時間を何度も巻き戻している人物であり、雛見沢で信仰されている「オヤシロさま」そのもの。村の人物全員から恐れられているオヤシロさまのイメージとは全く対照的で、小さな女の子の姿をしている。梨花が一人称を「ボク」にしたり、「なのです」等のしゃべり方で年相応の振る舞いを装ったりしているのは古手羽生の真似である。 これまでは人におびえて梨花にしか見えなかったが、今回の世界では全員の前に姿を現している。
園崎 魅音 (そのざき みおん)
部活の最年長で、リーダーシップを発揮する姉御肌。雛見沢を牛耳る園崎家の跡取りであるため、様々な分野の英才教育を受けている。「山戌」との最終決戦では、その戦術の知識を持ってメンバーを指揮し、華麗に立ち回る。
竜宮 レナ (りゅうぐう れな)
園崎魅音の1つ年下で前原圭一と同い年の部活メンバー。普段の雰囲気は優しい女の子だが、洞察力の鋭さや身体能力の高さで右に出るものはいない。特に「かぁいい」物を見つけるとそれが何であろうと手に入れるまでは誰にも手が付けられない。
園崎 詩音 (そのざき しおん)
部長・園崎魅音の双子の妹。しゃべり方などは魅音より女の子らしいが、やはり園崎家の一員であるため、銃器等の扱いに精通しており、仲間たちを守るため死を覚悟で敵陣に突っ込む等の一面も。北条悟史に好意を抱いている。
葛西 辰吉 (かさい たつよし)
園崎魅音、園崎詩音姉妹の実父が組長を務める園崎組の相談役で、詩音の世話係の男。オールバックにサングラスを掛け、見るからに強面な外見だが、現在は一線を引いており、普段は優しく詩音とその周りの人間に接する。しかし、一度戦闘となると無類の怖さを発揮する。組員時代の二つ名は「散弾銃の辰」。
大石 蔵人 (おおいし くらうど)
雛見沢で起こってきた「オヤシロさまの祟り」による事件を追う刑事。敵に回すと粘着質で嫌な男だが、味方に付ければその巧みな話術と剛腕で大きな力となる。
園崎 茜 (そのざき あかね)
園崎魅音、園崎詩音姉妹の母で、鹿骨市婦人剣友会の副会長。若い頃は武闘派だったらしく、葛西辰吉と共に武勇伝を多数持つきりっとした印象の女性。園崎家の者としてダム戦争で亡くなった村民に対して責任を感じており、毎年墓参りを行っている。
園崎 三郎 (そのざき さぶろう)
園崎魅音、園崎詩音姉妹の叔父で県会議員。きつめの方言と渋い顔ですごむとこの上なく迫力があり、とても議員には見えない。
赤坂 衛 (あかさか まもる)
「綿流しの祭り」の季節に東京から雛見沢にやってくる熱血刑事。5年前に古手梨花と出会い、彼女の予言によって救われていることを奇跡によって思い出し、梨花を無条件で信じ守り抜く事を誓っている。アツい男だが冷静な判断力もあり、空手の腕前は常人離れしている。
野村 (のむら)
田無美代子(鷹野三四)の研究の後ろ盾となっている組織の上層部にいると思われる女性だが、詳細は謎である。組織内の派閥争いを有利に進めるため、精神的に追い詰められた三四を凶行へと誘っていく。
集団・組織
部活 (ぶかつ)
雛見沢分校の生徒たちにより構成されるグループで、リーダー園崎魅音が提案する様々なゲームを放課後や昼休みに行っている。
その他キーワード
オヤシロさまの祟り (おやしろさまのたたり)
綿流しの祭りで毎年起こる、1人が死んで1人が行方不明になる奇怪な事件。雛見沢の人々はこれを、信仰する神である「オヤシロさまの祟り」と名付け恐れている。
雛見沢症候群 (ひなみざわしょうこうぐん)
雛見沢を訪れた人々にのみ見られる感染症で、雛見沢に生息する寄生虫が原因で感染する。感染力は非常に強いようで、雛見沢に一度でも訪れた人間は皆例外なく感染する。感染しても基本的には危害はないが、一度発症すると精神的に徐々に不安定になり、最終的には被害妄想による疑心暗鬼に囚われ周りの人間を殺し、自身も激しい痒みにより喉を切って死んでしまう場合が多い。 その発症の度合いによってレベル分けがなされており、ほぼ害はないと見られるL1から完全な治療が困難とされる末期症状L5までがある。
女王感染者 (じょおうかんせんしゃ)
雛見沢症候群の感染者の中で上位に位置する特別な存在。女王感染者の近くにいる人間は雛見沢症候群の症状を抑えることができる。この特性は古手家に代々受け継がれている。
クレジット
- 原作