忍者飛翔

忍者飛翔

謎の忍者・飛翔がその正体を隠しながら、愛する伍堂真琴を守り抜くアクションロマン。兄妹ではなく乳兄妹、幼なじみだが姫と従者の関係である真琴とね太郎の心は、飛翔の登場で複雑に交錯し揺れ動くという恋愛がベースとなる物語。一話完結の短編や連作の中編で構成され、「絆の章(第5巻)」で第一部終了となっている。作者の和田慎二はラストシーンまでの構想はできていると語っていたが、作者逝去に伴い未完となった。「花とゆめ」1980年12号から1980年14号、「コミコミ」1985年12月号、「デュオ」1983年5月号、「別冊花とゆめ」1991年12月号から1997年5月号にかけて不定期に、「コミックフラッパー」2002年3月号から2005年12月号にかけて不定期に掲載された作品。

正式名称
忍者飛翔
ふりがな
にんじゃひしょう
作者
ジャンル
侍・忍者
関連商品
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あらすじ

桜の章(第1巻)

風光明媚な赤穂梅市の名家の令嬢・伍堂真琴は、幼なじみで乳兄妹のね太郎に好意を寄せていた。ね太郎もまた真琴だけを見て生きて来たが、伍堂家の使用人という身分であり、亡き母の八重からは危険な運命にある真琴を守るよう言い聞かされていたのだ。ある時、大田原産業を牛耳る大田原華雀が、秘かに伍堂家を調べ、黄金伝説の道しるべとなる名刀・村雨丸の行方を探している事が判明。市長の娘が巻き添えとなり、伍堂家で爆死させられた事件を受け、真琴は市長の娘の妹ユッコの救出に向かう。その際、大田原Jr.率いる武装集団に囚われそうになるが、そこを真琴だけの下僕(げぼく)と名乗る忍者・飛翔に助けられる。真琴は先祖が隠したという村雨丸を見つけ出し、ユッコを救出すべく大田原家に向かう。ところが、真琴は華雀を隠れ蓑にしていたJr.に村雨丸を奪われ、Jr.つきの忍者・に連れ去られてしまう。真琴を救出しに現れた飛翔は、Jr.を斬り捨て、影の正体を暴いたうえで、村雨丸で切りかかるのだった。(エピソード「忍者飛翔」。ほか、2エピソード収録)

風の章(第2巻)

ある日、街に出たね太郎は、人形店で摩梨華という名の人形に見初められる。後日、伍堂真琴の誕生日会に、なぜか摩梨華が贈答品として送られて来た。それを見た人形コレクターの朝原は配下に魔梨華を盗ませる。真琴とね太郎は摩梨華を探すが、摩梨華はなぜか、ね太郎の小屋に佇んでいた。ある時、散歩に出た真琴は摩梨華に襲われ、飛翔に助けられるが、摩梨華は飛翔には目もくれず真琴を攻撃。ね太郎はなぜ摩梨華が真琴を狙うのかを調査する。そんな中、真琴がさらわれたと知った飛翔は、人形師・仲村導庵のもとへ向かう。導庵は事故に遭い瀕死となった孫娘の生命を人形に封じ込めた男だった。真琴とね太郎の仲を裂けないと知った摩梨華は、真琴になりたいと願い、不憫に思った導庵は真琴の中に摩梨華の生命を封じ込めようとしていたのだ。飛翔に飛びかかった摩梨華は、彼女の絶望を理解した飛翔に首をはねられる。(エピソード「生き人形」。ほか、2エピソード収録)

雪の章(第3巻)

伍堂家の総領である祖母は、村雨丸水晶丸を合わせてみたいと言い出し、黄金伝説の扉は決して開いてはならないとの信念を持つ伍堂真琴は猛反対する。祖母は五行連山の永観寺に、家宝の壺を2日間で届ける事ができれば、村雨丸の件は不問にするという。壺を届ける役目を受けたね太郎は、祖母と関係のある忍者スズメバチに狙われる。そこに飛翔が現れ、スズメバチと剣を交えるが、飛翔は姿をくらます。すると、真琴がね太郎の身を案じて追いかけて来た。それを見たスズメバチは奇妙な主従関係を訝しむ。再び、飛翔に追いつき戦いを挑むスズメバチだったが、飛翔はあっさりと村雨丸を置いて姿をくらませる。その後、永観寺に到着したね太郎は、伍堂家の人間に渡すよう寺にことづけられた村雨丸を渡されるのだった。(エピソード「雀蜂」。ほか、2エピソード収録)

塔の章(第4巻)

旧家・一条家からね太郎に正式な見合いの申し込みが入った。庭の五重の塔が落雷に遭い、妖刀「村正」の「こしらえ」を手に入れた一条美沙姫は、伍堂家に伝わる村雨丸を「幻の村正」と思い込み、その行方を追っていたのだ。同じ頃、伍堂真琴飛翔に興味を持ち、伍堂家に潜んでいたスズメバチは、居合の達人・美沙姫と飛翔を戦わせようと悪だくみしていた。そんなスズメバチの仕業により、崖から落ちた美沙姫は、ね太郎に助けられる。恋をした美沙姫は、ね太郎を正式に婿に迎えるべく伍堂家に向かうが、ね太郎に心は届かず、真琴への嫉妬と共に「村正」を手に入れるべく執念を燃やし始める。真琴を誘拐した美沙姫は、スズメバチが裏で手を回した事もあり、忍術を封じた飛翔と村雨丸を賭けて試合(しあ)う事になる。(エピソード「雀蜂ふたたび」「一条の姫」「姫とね太郎」「炎の姫」「塔の雨」「雷鳴」。ほか、1エピソード収録)

絆の章(第5巻)

伍堂真琴は、建設会社の相談役を務める父親・伍堂を快く思わない重役達に誘拐される。伍堂家に潜んでいるスズメバチの助けもあり、飛翔は悪玉の長である高級官僚を束ねる大物の息の根を止める。だが、飛翔に事件を収めるよう命じたあと、ね太郎が不在だと気づいた真琴は、二人が同一人物なのではないかと疑い始める。その気位の高さが災いし、真琴は次第に自分が騙されていた事が許せなくなっていく。ね太郎が飛翔かどうかを確かめるべく、真琴の行動は破廉恥な方向にエスカレート。ついに、真琴はね太郎を縛り付けた部屋に、飛翔を呼び出す。絶対絶命のね太郎だったが、飛翔はいつもどおり参上し、真琴は微妙な心境に陥る。後日、飛翔はスズメバチに村雨丸を手渡し、二度と伍堂家に出入りするなと釘を刺す。(エピソード「飛翔とね太郎1~5」。ほか、1エピソード収録)

登場人物・キャラクター

伍堂 真琴 (ごどう まこと)

郊外の赤穂梅市にある格式の高い旧家・伍堂本家の令嬢。高校2年生で年齢は16歳。学校では生徒会長を務めており、運転手付きの車で通学している。生まれてすぐ母親が亡くなったので、ね太郎を生んだばかりの乳母・八重に育てられた。ね太郎とは乳兄妹の関係。体つきは優雅でしなやか、肌は白くきめ細やかな美少女で、普段はロングヘアをハーフアップにしている。 性格はお転婆で行動力があり、気位が高い。ね太郎に思いを寄せているが、ね太郎が鈍感なせいで、いつも本気でね太郎を引っぱたいている。正義感が強く、すぐむきになるところがあるが、肝が据わっており、大物としての器がある。また、伍堂家を継ぐ者として、黄金伝説の扉は決して開いてはならないという確固とした考えを持つ。 自分だけの下僕と名乗る忍者・飛翔の生意気な態度に憤慨する事も多いが、飛翔に惹かれている事は自覚していない。ね太郎が飛翔かもしれないという事に物語の終盤に気づくものの、スズメバチが機転を利かせたせいで、二人が別人だと確信するに至り、微妙な心境に陥る。

ね太郎 (ねたろう)

伍堂真琴の屋敷で、真琴の小間使い兼庭師をしている男性。年齢は17歳。八重の息子で、真琴とは乳兄妹で幼なじみ。真琴が3歳の時、母親に連れられ伍堂家を出て行ったが、母親を亡くし行き場がなくなり、伍堂の屋敷で世話になる事になった。前髪が長く、後ろ髪は一つに縛っており、顔の上半分はいつも隠れている。とぼけた風情で周囲からはドジでグズだと思われているが、実は博学多才。 どんな硬いものにも「目」があると母親から教えられており、トンカチで巨大な岩やビルを砕く事ができる。また腕のいい庭師でもあり、他家からスカウトされるほど。真琴の病気なら簡単に直してしまうほど民間療法に詳しい。亡き母から、恐ろしい危険に晒される運命を抱える真琴を守るようにとの遺言を受けており、命懸けで守る決意をしている。 だが、主従関係にある真琴に心惹かれている事から、重い枷をつけられたような苦しみを秘かに抱えている。

飛翔 (ひしょう)

伍堂真琴だけの下僕(しもべ)を自称する忍びの男性。目の部分以外が隠れる黒い装束の下に、鎖帷子を身につけている。初登場時には、「花あるところに飛翔あり」と、花を通して真琴を見ている旨を真琴に伝えている。物語上、その正体はね太郎だと推測できる設定となっている。黄金伝説の扉を開く事を断じて許さない真琴から村雨丸を譲り受けたが、自身はその名刀に興味はなく、執着していない。 真琴の生命に危険が及ぶと計り知れない力を発揮し、真琴が望むなら、たかが国一つ潰してみせようという信念がある。ちなみに、居合の達人・一条美沙姫との勝負の際、マスクが破れ、美沙姫に顔を見られている。その身の上から、愛する事を許されぬ傀儡の身であると、暗澹たる思いに駆られる事も多い。

伍堂 (ごどう)

伍堂真琴の父親。政財界へのパイプラインとなる会社の顧問を多く引き受けているロマンスグレーの男性。仕事の事は家に持ち込まない主義だが、建設関係の会社の相談役としては、時代に合わない悪い慣習をやめさせようと動いている。しかし、煙たく思った人間に嫌がらせを受け、人知れず悩んでいた。その後、真琴を誘拐されるなど災難に遭う。 真琴がね太郎を引っぱたく姿を、いつもにこやかに見守っているが、ある時、真琴の刃が伍堂自身に向けられた事により、初めて真琴の扱いづらさを実感。改めて、ね太郎の忍耐強さに感心する。ね太郎には「お屋形さま」と呼ばれている。

八重 (やえ)

ね太郎の母親で、伍堂真琴の乳母。髪を後ろでゆるく結った、優し気な雰囲気を漂わせている女性。真琴が3歳の冬、雪に誘われるように、ね太郎を連れて姿を消したが、その原因は不明。真琴は恐ろしい危険に晒される運命を抱えていると予見しており、ね太郎に真琴を守るよう遺言した。

祖母 (そぼ)

伍堂家の本家、分家をまとめる総領を務める、高齢の女性。厳しい人柄で、血がつながっていても容赦しないという噂があり、伍堂の一族に無用の騒ぎが起きるのを忌み嫌っている。伍堂真琴とは気が合い、終戦も近い頃に恋愛で結婚し、夫の出征前夜にはお守り袋に和毛(にこげ)を忍ばせて渡したという話を真琴に聞かせた。実は、水晶丸をスズメバチに持たせた人物であり、二刀を合わせたいスズメバチの希望を受け入れたため、村雨丸と水晶丸を合わせてみたいと、真琴に無理難題をふっかけた。 スズメバチを動かせる唯一の人物であり、分家がヤクザと揉め事を起こした時も、スズメバチにヤクザへの報復を頼んでいる。その経緯は不明だが、伍堂の血筋を外れたスズメバチに申し訳ない思いがあるよう。

スズメバチ

伍堂総家の祖母に仕える忍者。誰にも動かされない主義だが、祖母には恩があるため、たびたび命を受けている。蜂をあやつる名手で、蜂をモチーフとした斬新な恰好をしている。伍堂家の血筋から外れた人物で、水晶丸を祖母から持たされたようだが、その経緯は不明。村雨丸と水晶丸が一つに打ち直されれば、「村正」以上の名刀が生まれると聞き、村雨丸を持つ飛翔をつけ狙う。 だが、伍堂真琴を守るため村雨丸をあっさり引き渡して来た飛翔に興味を持ち、伍堂本家に潜入する。「幻の村正」にかかわる「こしらえ」を持つ一条美沙姫にちょっかいをかけ、携帯電話の番号を書いたメモを渡すなどお茶目なところがあり、美沙姫と飛翔と真琴の関係をもつれさせて楽しんでいる。 美沙姫に少し気があったようで、悪だくみするわりには憎みきれぬ男と、別れ際に美沙姫から言われている。携帯電話やメールを使いこなすなど忍者らしからぬ先進的な面があり、口は悪いが、意外にお人好し。飛翔には「ハチ使い」、祖母には「虎王丸」と呼ばれている。

和尚 (おしょう)

伍堂真琴の屋敷の近くの寺の和尚で、伍堂家に仕える九耀星を束ねる忍者。伍堂の主治医のような役目も果たす。ハゲ頭で長いアゴヒゲを生やしている高齢の男性。伍堂家にかかわる黄金伝説について通じている人物で、大田原Jr.をそそのかした裏切り者。Jr.の側にいる時は影として伍堂家の情報を与えている。 九耀星からは頭領と呼ばれている。

九耀星 (くようせい)

伍堂家に仕える忍びの一族で、和尚が束ねている。リーダーを務めているのはスクナという男性。シノという女性が紅一点で、ほかは男性で構成されている。村雨丸を狙う大田原Jr.に各人の技をすべて見抜ぬかれており、仲間を疑うわけでもないが、釈然としない思いを抱える事になる。伍堂真琴が村雨丸を持って大田原家の屋敷に向かった際には、留守中の和尚の許しを得ず、一致団結して真琴を救出しに向かった。

市長の娘 (しちょうのむすめ)

赤穂梅市の市長の娘で、女子高校生。ユッコの姉。丸くカールさせた黒髪にヘアバンドをした美人。女子高で人気のね太郎のファンで、川で溺れたユッコを助けてくれたね太郎に礼をするため、伍堂家を訪れる。その後、1週間ほど行方不明になり、伍堂家の門前で倒れているのを発見され、伍堂真琴に保護された。何者かに術をかけられていたようで、「村雨丸を渡せ」との言葉を発したあと、人間爆弾として爆死させられた。

ユッコ

市長の娘の妹。川で溺れていたところをね太郎に助けられた女の子。短いおかっぱ頭のやんちゃな娘であり、ね太郎から男の子と間違われていた。姉と共に大田原Jr.に連れ去られ、食欲の化け物と化した大田原華雀に食べられてしまう。

大田原 華雀 (おおたわら かじゃく)

大企業「大田原産業」の中枢を担う男性。戦後のどさくさに安く手に入れた土地を元手に成り上がった悪人。政治家と手を結び、政府に自分の土地を開発用地として買い上げさせるという悪どい手を使っている。村雨丸を探っているとの噂がある人物で、今ではブクブクと肥えた食欲の化け物と化しており、実権は既に息子の大田原Jr.が握っている。

大田原 Jr. (おおたわら じゅにあ)

大田原華雀の息子。美意識の高い気取り屋で、カールさせた前髪を横に流している。黄金伝説の扉を開く伍堂家の守護刀・村雨丸を狙い、伍堂真琴との結婚を企んでいる。忍者を時代錯誤の産物と馬鹿にしており、最新兵器を操る黒ずくめの集団を率いている。

(かげ)

大田原Jr.に使える忍びの者で、黒いマント風の装束に黒いサングラスをかけている。伍堂家の情報を流し、Jr.をそそのかした張本人で、その正体は和尚。

城島 健次 (きじま けんじ)

金融界の若虎と呼ばれる男性。センター分けのカールがかかった短髪で、派手なスーツ姿で決めている。伍堂の持つ政財界への人脈がほしいがため、伍堂真琴を妻に迎えたいと伍堂家に結婚話を持ち掛けたが、一目見て真琴の美しさに惚れこんだ。だが、当初より真琴から毛嫌いされている。汚い手を使って金融業界を食い荒らし、女性関係にも悪い噂が流れているとして、伍堂の独断で結婚話を断られる。 その性格から敵が多く、身を守るために父親の代から毒虫を飼っているが、恩着せがましい態度で足蹴にする事も多い。毒虫からは「若」と呼ばれている。

毒虫 (どくむし)

ボサボサの長髪で、ボロ布のような着物を身につけた老爺の忍者。秘技は七日殺し。城島健次に仕える者で、危険を察知して事前に敵を倒す能力がある。城島からは「地蟲」や「うじ虫」と呼ばれており、酷い扱いを受けているが、忠誠心は厚く、いじらしい一面がある。主人の余りものを食らい、飲み残した酒を飲んでいる。自分のために炊かれた飯を食べた事がないため、伍堂真琴が使用人のね太郎のために弁当を作ったと知り、毒虫自身の身を振り返り、感傷に浸る。 主人によって人の生き様も変わると、ね太郎をうらやましく思いながらも、飛翔から七日殺しを受けた城島と共に死ぬつもりでいる。ちなみに、飛翔の正体がね太郎ではないかと早々に気づき、探りを入れていた。

西上 大吉郎 (にしがみ だいきちろう)

国会議員の中年男性で、図体が大きく、七三分けのヘアスタイルでちょびヒゲを生やしている。赤穂梅市の駅を急行列車の停車駅とするなど、市の発展に尽力するが、市の象徴である御神木を撤去すると公言し、伍堂真琴の反感を買う。

摩梨華 (まりか)

ね太郎に恋をした日本人形で、名人形師・仲村導庵の作。熱探知システムを備えており、瞳からレーザーを発する。導庵が瀕死の孫娘を救うため、その生命と心を人形に封じ込めた人形で、普段は奥岳の屋敷で導庵と暮らしている。息抜きに連れて来られた人形店で、買い物に来たね太郎に恋をしたため、伍堂家に贈答品として忍び込んだ。摩梨華自身を伍堂家から盗んだ朝原夫人やその配下を惨殺し、ね太郎の小屋に住み着き、恋敵の伍堂真琴の命を狙う。 だが、ね太郎と真琴がお互いを思い合っていると知り、真琴になりたいと願うようになる。飛翔の爆薬も手裏剣も効かないほど、戦闘能力が高い。

仲村 導庵 (なかむら どうあん)

名人形師の老人で、億の金を積んでも他人のためには人形を作らないといわれている奇人。奥岳に屋敷を構えて何不自由ない生活をしていたが、10年ほど前、事故で息子夫婦と孫を亡くし、それ以来街には降りて来なくなったといわれている。摩梨華のために伍堂真琴を屋敷に連れ去り、真琴の体を摩梨華に与えようとする。瀕死の状態の孫の心と生命を、情にまかせて人形に封じ込めた行為を、人形である哀しみを思いやれないと飛翔から糾弾され、虚脱状態となる。

朝原 (あさはら)

伍堂真琴の誕生日の会に招かれた、ショートカットのモダンな夫人。人形コレクターで、名人形師・仲村導庵の人形を喉から手が出るくらいにほしがっている。伍堂家から人形・摩梨華を配下の者に盗み出させ、のちに惨殺死体となって発見される。

鏡姫 (かがみひめ)

昔、ある国にいた心優しく美しい姫で、この姫にまつわる「鏡姫伝奇」という伝奇がある。姫の性格は風変りで、小動物や虫、特に蜘蛛を愛でて穏やかに暮らしていたが、国に謀反が起こり無残に殺されてしまった。その血だまりには一匹の蜘蛛が取り憑いているという。のちに、謀反を起こし城主となった男は、何かに取り憑かれたように家来や腰元に凶刃を振るいはじめ、やがて自分ののどをかき切り絶命。 城主の耳の奥から大きな蜘蛛が這い出て来たというのが伝奇の内容。この姫の手鏡を見た伍堂真琴の友人達が、次々と鏡姫の姿を目にしたあと、謎の死を遂げるという事件が発生する。

妙信尼 (みょうしんに)

鏡姫ゆかりの手鏡が収められている寺の尼。伍堂真琴が連れて来た文芸部の女子達にその手鏡を見せたが、その際に鏡姫を見たと口にした部員達が、次々と怪死する事となった。これにより事件を仕組んだ首謀者と考えられていたが、のちに真琴達に手鏡を見せた夜に、蜘蛛の巣の母体にされた被害者だった事が判明する。

周旺 紫 (すおう ゆかり)

伍堂真琴の通う高校に転入して来た女子高校生で、長い髪をポニーテールにした美少女。真琴の住む赤穂梅市に越して来たため、真琴となかよくなる。自分に仕える忍者シジマには感謝しているものの、一度も会った事はなく、彼に会いたいという胸の内を真琴に語っている。ある旧家の出身で世が世ならお姫様という身分だったらしく、家督相続問題に巻き込まれて、周旺紫が生きていては困る人間に命を狙われている。 のちに紫自身が忍者であり、名をあげるため、伍堂家にかかわる名高い飛翔を狙っていたと白状する。自分を守るシジマを忍び犬に演じさせており、飛翔に切られた際には、顔も体もシジマに変わっていった特異な体質。紅を女色、青を男色とすれば、自分はそのどちらでもない「紫」であり、「ゆかり」は男であり女でもある事を表す忍び名である、と語っている。

シジマ

周旺紫を守る忍者。肩にかかる位のロングヘアで、ノースリーブのシャツを着ている。紫の住むマンション近くの、森の中にテントを張って生活している。紫とはまだ一度も顔を合わせておらず、影の身分の自分は紫とは会えない、と訪ねて来たね太郎に語っている。強い相手と戦いたい願望があり、飛翔と戦うため伍堂真琴をさらう。

クレリア

D国の王女で、さわやかな性格の美少女。内巻きのショートヘアで、その笑みは「水晶のほほえみ」といわれ、D国の国際親善に多大なる貢献をもたらしている。国際平和会議出席のため、国王の代理として日本に滞在中、テロリストに襲われて爆死したとされていた。だが、伍堂真琴がクレリア王女そっくりのアンという女性を森で発見し、伍堂家に連れ帰った。 記憶喪失を装い、自らをアンと名乗り、真琴やね太郎と過ごす事になる。ちなみに、真琴から友情の証として、睨んだ相手に稲妻が落ちる「稲妻落とし」という秘技を伝授される。

グスタフ

クレリア王女の幼なじみで、庭師の男性。少し長めの短髪だが、普段は衛士のヘルメットをかぶっており顔は見えない。王女を守るため衛士に志願して7年間、陰ながら王女を側で仕えていた。隣国と結託し、王女の生命を狙っているのが仲間の衛士だと知ったが、自分の腕では倒せないと煩悶する中、日本随一の忍び・飛翔の噂を聞き、王女の身柄を伍堂家に託したという経緯がある。 王女のせいで真琴に危害が及んだと、飛翔に刃を向けられるが、既に王女のために死ぬ覚悟があると確認され、飛翔の計らいで王女と共に立ち去る事を許された。

陽子 (ようこ)

伍堂真琴の友人で、末広がりのボブカットの髪型をした少女。スキー旅行に訪れた北海道で、幽霊兵団の話を真琴と友人達に聞かせた人物。真丹村に住む叔母の家を真琴とね太郎と共に訪れるが、家に潜んでいた雪中行軍隊に斧で頭を割られ死亡する。

甲塚

自衛隊に所属する男性で、階級は三佐。秘密裏に雪中行軍隊を統率している人物で、日本政府そしてロシアから自分達の動きを静観するとの密約を取っており、ある島に乗り込み、いずれは独立を勝ち取ろうと計画。独立を見据え、辛い雪中行軍を繰り返していた。雪中行軍隊を全滅させた飛翔に追い詰められ、責任を取り自殺。だが、真実は闇に葬られ、一自衛官が肝臓癌で死亡したと新聞に掲載されただけ。 なお、死の直前に、甲塚自身と雪中行軍隊の事を、島に戻りたいと願いながら死んでいった人々の思いを受け継いだ幽霊だったと語っている。

一条 美沙姫 (いちじょう みさき)

鎌倉時代からの旧家の令嬢で、黒髪のロングヘアをした美少女。家系をたどれば伍堂家よりも古く、配下の者達からは、未だに姫と呼ばれている。実は居合の達人で、鍛え上げられた手練れの技を持つ女剣士。落雷が庭の五重の塔を直撃した際、刀一振り分の「こしらえ」が見つかり、その「こしらえ」が包んでいた刀身を求めている。ほかの刀身をいっさい受け付けない「こしらえ」が、伍堂家の近くを通り過ぎた際に反応した事から、伍堂家を探るべく、ね太郎との見合い話を正式に持ちかけたという経緯がある。 この「こしらえ」が包む刀身に、剣士としての好奇心を揺さぶられている。伍堂真琴をやり込めるなど、ただ者ではないところをたびたび見せつけるが、ね太郎に命を助けられたせいで、彼に恋してしまう。 だが、ね太郎に見合いを断られ、真琴への敵意をあらわにしていく。スズメバチの画策により、忍術を封じた飛翔と剣を交えるが、真琴の悲鳴を聞いた飛翔が底力を見せたため、完敗。その際、マスクが破れた飛翔の顔を目にしている。

高級官僚を束ねる大物 (こうきゅうかんりょうをたばねるおおもの)

省庁に勤める男性で、高級官僚を束ねる大物の一人。建設業界の悪しき慣習を阻止しようとしている伍堂の失脚を狙い、建設会社の重役達を従え、伍堂真琴の誘拐を指示した張本人。伍堂が相談役を務める建設会社を省庁の有力な天下り先として優遇している。自身が入省した時に先輩から「ゴドーには手を出すな」と言われていた事を思い出し、調査を思い立った矢先、飛翔に消される。

集団・組織

雪中行軍隊 (せっちゅうこうぐんたい)

幽霊兵団の名をかたり殺人行を続ける15人の男達。飛翔と戦った際には、ただの狂信的な集団とは異なる気迫を見せた。実は、高度の戦闘訓練と過酷な演習で知られる自衛隊の特殊部隊。ある島を取り返そうと、甲塚のもと訓練を積んでいたが、計画が漏れる事を恐れ、行軍を見た者を殺害している。

場所

赤穂梅市 (あこうめし)

都心から急行電車でわずか1時間の距離でありながら、自然に囲まれた風光明媚な小さな市。昔の気風を尊び、血筋や家柄など格というものを大切にするのは自然の懐にある土地柄だとされている。伍堂真琴の伍堂家は赤穂梅市にあってその格式の高さを誇っている。

その他キーワード

村正 (むらまさ)

その昔、妖刀と呼ばれた刀。村正を二振りの刀に打ち分けたのが、村雨丸と水晶丸で、伍堂家の守護刀(まもりがたな)とされている。二つの守護刀を合わせれば、黄金への扉が開くという黄金伝説や、村雨丸と水晶丸が再び出会い一つに打ち直されれば、村正以上の名刀が生まれるという伝説があり、スズメバチは村正以上の名刀を手に入れるべく、飛翔の村雨丸を狙っている。 また、一条美沙姫は自身が手に入れた「こしらえ」が村正を包んでいたものと確信し、村雨丸を村正とだ思い込み、伍堂家に近づいた。

村雨丸 (むらさめまる)

その昔、妖刀といわれた「村正」という一振り刀を、名高い刀匠がある言い伝えを秘めて、表と裏の二振りに打ち分けたといわれる刀のうちの一本。言い伝えは黄金伝説だと推測されており、表の剣が村雨丸で、裏の剣が水晶丸。伍堂家代々に伝わって来た幻の守護刀(まもりがたな)で、戦いの時には雨を呼ぶ。伍堂家のどこかに封印され隠されていたが、伍堂真琴が伍堂家に伝わる巻物から村雨丸の在処を探し出し、無用の争いをなくすべく、飛翔に譲った。

水晶丸 (すいしょうまる)

その昔、妖刀といわれた「村正」という一振り刀を名高い刀匠がある言い伝えを秘めて、表と裏の二振りに打ち分けたといわれる刀のうちの一本で、戦いの時には霧を呼ぶ。表の剣が村雨丸で、裏の剣が水晶丸。伍堂家の総領で、伍堂真琴の祖母が、伍堂家の血筋から外れたスズメバチに持たせたが、その経緯は不明。

黄金伝説 (おうごんでんせつ)

伍堂家の守護刀・村雨丸が莫大な黄金のありかを示すみちしるべとなるという伝説。幻の妖刀「村正」という一振り刀から振り分けられた村雨丸と水晶丸の二つを合わせれば黄金への扉が開くという説、伍堂真琴と村雨丸が一対で黄金の道しるべになるという説などがあり、その解釈は一つではない。もともと、伍堂の名の由来は「護堂」といわれ、黄金を護る者として付けられた名であり、九州にいた伍堂家は赤穂梅市に根付くまで、黄金をめぐっての大きな合戦などに巻き込まれ、色々な土地をさ迷ったという。 中国の王の墓でも、黄金の墓室に彫られた模様が伍堂の裏紋(かくしもん)四ツ芙蓉だった事から、伍堂家が守る金の一部だと伍堂は解釈している。だが真琴は、「黄金」という言葉に惑わされ、多くの死を招くこの伝説の扉は決して開いてはならないという信念を持っている。

七日殺し (なぬかごろし)

毒虫の秘技だが、飛翔も扱える技。手刀で打たれた箇所の内側から壊死が始まり次第に「くされ」が全身に広がって、苦しみ抜いて七日で死ぬというもの。助かる方法は、壊死が広がったところで患部を切り裂き、肉の奥から「くされ」の部分を血と共に流し出す事のみ。伍堂真琴をさらった城島健次が飛翔から七日殺しを受けた部分は、頸動脈のそばだったので、「くされ」を出すわけにもいかず、死んでいくしかない状況となった。

幽霊兵団 (ゆうれいへいだん)

北海道真丹村付近で語られている、比較的最近の怪談に登場する兵士達。雪中訓練のために山越えをしていた連隊が、秘密の訓練中に吹雪で全滅。それ以来、吹雪の夜には列を作って雪の中をさ迷う兵士達の姿が現れ、それを見た者は連れて行かれ二度と帰らないといわれている。

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