戦争は女の顔をしていない

戦争は女の顔をしていない

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著書『戦争は女の顔をしていない』のコミカライズ作品。第二次世界大戦に従軍したソ連軍の女性兵士たちへのインタビューをもとに、戦争の実像を女性の視点から描いたドキュメンタリー。2019年4月27日から、KADOKAWA「コミックウォーカー」および作品公式Twitterで配信の作品。第50回「日本漫画家協会賞」でまんが王国とっとり賞を受賞。

正式名称
戦争は女の顔をしていない
ふりがな
せんそうはおんなのかおをしていない
原作者
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
作者
ジャンル
軍隊・軍人
レーベル
KADOKAWA
巻数
既刊5巻
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あらすじ

第1巻

1941年、キエフの孤児院で働いていたワレンチーナ・クジミニチナ・ブラチコワ-ボルシチェフスカヤは、ドイツ軍による空爆を目の当たりにして、女性ながら軍への志願を決意。クールスクの野戦病院にて従軍洗濯部隊政治部長代理に任命される。兵士たちの洗濯物を洗濯する女の子だけの部隊だが、それは想像を絶する重労働だった。洗濯部隊の女の子たちは大量の洗濯物をすべて手で洗わなければならず、石鹼もかなり質の悪いもので、ひどい湿疹ができたり爪が抜けてしまったりする者が続出。重い洗濯物を運び続けたため、脱腸になる者までいた。そんな中、洗濯部隊が二人のドイツ兵を捕虜にするという出来事が起きる。ワレンチーナは上層部に報告書を提出するが、顕彰されるのは代表者の二人だけであった。軍の方針に憤慨したワレンチーナは、上層部に激しく抗議。彼女の懸命な活動が実り、多くの女の子に勲章が授与されることになる。やがて洗濯部隊の女の子たちを家に帰らせる時がやって来た。ワレンチーナは、占領したドイツの縫製工場のミシンを一人一人にプレゼントする。(第一話「従軍洗濯部隊政治部長代理ワレンチーナ・クジミニチナ・ブラチコワ-ボルシチェフスカヤ中尉の話」。ほか、6エピソード収録)

関連作品

本作『戦争は女の顔をしていない』は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのドキュメンタリー『戦争は女の顔をしていない』を原作としている。日本語版は岩波現代文庫より刊行されている。

登場人物・キャラクター

ワレンチーナ・クジミニチナ・ブラチコワ-ボルシチェフスカヤ

第一話「従軍洗濯部隊政治部長代理ワレンチーナ・クジミニチナ・ブラチコワ-ボルシチェフスカヤ中尉の話」に登場する。ソ連軍の従軍洗濯部隊政治部長代理を務める女性。軍所属時代の階級は中尉。キエフの孤児院で働いていたが、ドイツ軍の空爆を目の当たりにして従軍を決意する。当初は看護婦だったが、戦地で洗濯をする、民間人の女性だけで構成された部隊のリーダーに就任。洗濯部隊の女の子たちのことを誇りに思っており、彼女らを馬鹿にする男性兵士の鼻を明かしたり、部下たちへの勲章授与を渋る上層部に抗議した。

エフロシーニヤ・グリゴリエヴナ・ブレウス

第二話「軍医エフロシーニヤ・グリゴリエヴナ・ブレウス大尉の話」に登場する。軍医としてソ連軍に従軍したミンスク出身の女性。軍所属時代の階級は大尉。周囲からは「シーニヤ」と呼ばれており、姉の「ニーナ」がいる。東プロイセンへの進軍中、共に出征していた夫が戦死。戦死者は戦地で集団埋葬されることになっていたが、夫を故郷のベラルーシに葬りたいと上層部に願い出る。

クラヴヂヤ・グリゴリエヴナ・クローヒナ

第三話「狙撃兵クラヴヂヤ・グリゴリエヴナ・クローヒナ上級軍曹とマリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)兵長の話」に登場する。狙撃兵としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は上級軍曹。周囲からは「クラーヴァ」と呼ばれている。初めての狙撃の際、敵を撃ち殺してしまったことに激しく動揺するが、ウクライナで焼き殺されたソ連兵たちの遺体を目撃したのを機に、敵への哀れみをいっさい持たないようになる。21歳の時に戦地から故郷に戻るが、戦時中の負傷による脳挫傷の影響で片耳の聴力をほとんど失っていた。心にも深い傷を負っており、採掘場で発破の音がするたびに、軍外套を持って屋外に飛び出そうとするなど、戦後も戦争のトラウマに苦しめられ続ける。

マリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)

第三話「狙撃兵クラヴヂヤ・グリゴリエヴナ・クローヒナ上級軍曹とマリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)兵長の話」に登場する。狙撃兵としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は兵長。周囲からは「マルーシカ」と呼ばれている。食料不足のため、前線の兵士たちにけしかけられて中立地帯にいた子馬を狙撃するが、実は子供の頃から生き物が好きで、家畜の牛が殺処分になった時は2日間も泣き続けたほどだった。そんな自分が食料のためとはいえ、ためらいなく子馬を撃ち殺したことに我に返ってショックを受ける。戦時中には七五人ものドイツ兵を射殺し、勲章を授与される。しかし、スカートを履くと足がもつれてしまうなど、戦後も兵士時代の感覚がなかなか抜けず、ふつうの生活にもう一度慣れ直さなけばならなかった。

マリヤ・ペトローヴナ・スミルノワ

第四話「衛生兵マリヤ・ペトローヴナ・スミルノワと看護婦アンナ・イワーノヴナ・ベリャイの話」に登場する。衛生指導員としてソ連軍に従軍した女性。開戦時はまだ10年生を終えたばかりの学生で、若すぎることから徴兵司令部に従軍を拒否されるが、故郷の村を通った退却中の部隊に紛れ込み、召集令状なしに戦地に向かった。戦場では銃弾が飛び交う戦火の中、四八一人もの負傷兵を救出。体重が48キロしかないにもかかわらず、約80キロもの負傷兵を何度も背負って運ぶが、なぜそんなことができたのか、今では信じられないと語る。

アンナ・イワーノヴナ・ベリャイ

第四話「衛生兵マリヤ・ペトローヴナ・スミルノワと看護婦アンナ・イワーノヴナ・ベリャイの話」に登場する。看護婦としてソ連軍に従軍した女性。爆撃の中を逃げまどい、助けを呼ぶ負傷兵を見捨てそうになるが、肩からかけている衛生袋を見て我に返り、負傷兵のもとに駆け戻る。

クララ・セミョーノヴナ・チーホノヴィチ

第五話「高射砲兵クララ・セミョーノヴナ・チーホノヴィチ軍曹と通信兵マリヤ・セミョーノヴナ・カリベルダ軍曹、斥候リュボーフィ・イワーノヴナ・オスモロフスカヤ二等兵の話」に登場する。高射砲兵としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は軍曹。開戦時はふつうの女の子として暮らしていたが、戦場で手や足を失うなどして故郷に戻って来た人たちを見て、自分がその人たちの代わりに戦いたいと従軍を志願する。しかし、当時の軍は女性兵に対する理解がほとんどなく、経血で足が緑色に変色したり、下着の袖をちぎって生理用品の代わりにしたりと女性ゆえの問題に悩まされ続ける。

マリヤ・セミョーノヴナ・カリベルダ

第五話「高射砲兵クララ・セミョーノヴナ・チーホノヴィチ軍曹と通信兵マリヤ・セミョーノヴナ・カリベルダ軍曹、斥候リュボーフィ・イワーノヴナ・オスモロフスカヤ二等兵の話」に登場する。通信兵としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は軍曹。男に劣らぬことを証明しようと懸命に働き、生理になっても、経血を垂らしながら毎日30キロもの距離を進軍した。その時の恥ずかしさは死の恐怖よりも強く、渡河点で敵の爆撃を受けた際、それでも一刻も早く生理による血を洗い落としたいと、破片が飛び散る中を河に向かう。それはほかの女性兵も同様で、多くの女性兵が水に浸かったまま死亡したと証言する。

リュボーフィ・イワーノヴナ・オスモロフスカヤ

第五話「高射砲兵クララ・セミョーノヴナ・チーホノヴィチ軍曹と通信兵マリヤ・セミョーノヴナ・カリベルダ軍曹、斥候リュボーフィ・イワーノヴナ・オスモロフスカヤ二等兵の話」に登場する。斥候としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は二等兵。従軍した時はまだ17歳で、雨のぬかるみに倒れていく負傷者や戦死者を見て、こんな泥まみれで死にたくないと強く思う。

アントニーナ・グリゴリエヴナ・ボンダレワ

第六話「一等飛行士アントニーナ・グリゴリエヴナ・ボンダレワ中尉と航空隊クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワ大尉の話」に登場する。一等飛行士としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は中尉。7年生の時、学校で空を舞う飛行機を見たのをきっかけに飛行クラブに所属することを決意。父親の反対を押し切って飛行士となった。戦争前に結婚し、娘を出産するがまもなく夫が戦死。まだ幼い娘を身内に預けて前線に向かう。

クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワ

第六話「一等飛行士アントニーナ・グリゴリエヴナ・ボンダレワ中尉と航空隊クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワ大尉の話」に登場する。飛行士としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は大尉。航空学校入学時はまだふつうの女の子で、最初の訓練で同僚四人が亡くなった時には仲間たちと涙を流した。しかし犠牲者はもっと出るし、気をしっかりもてという指揮官のマリーナ・ラスコワの言葉に励まされ、以降はめったなことでは涙を流さなくなる。やがて一人前の戦闘機乗りとなり、男性兵たちを驚かせるほどの戦果を上げる。

エレーナ・ヴィレンスカヤ

第七話「書記エレーナ・ヴィレンスカヤ軍曹と機関士マリヤ・アレクサンドロヴナ・アレストワ、射撃手ローラ・アフメートワ二等兵の話」に登場する。書記としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は軍曹。戦場ではカメラマンを務め、勲章を授与されている写真や連隊旗を掲げている写真など、兵士たちのさまざまな表情を撮影する。しかし、兵士の死を撮ることは好まず、そうした写真はあまり残っていないと語る。

マリヤ・アレクサンドロヴナ・アレストワ

第七話「書記エレーナ・ヴィレンスカヤ軍曹と機関士マリヤ・アレクサンドロヴナ・アレストワ、射撃手ローラ・アフメートワ二等兵の話」に登場する。機関士としてソ連軍に従軍した女性。周囲からは「マルーシャ」と呼ばれている。29歳から鉄道員機関助手を務め、1931年にソ連で初めての女性機関士となった。開戦時には息子と疎開するが、みんなが祖国のために戦っているのに後方にいることに耐えられず、夫のワーニャと共に従軍。軍の特別輸送隊の機関士となり、息子も連れて家族三人で国中を移動して回る。

ローラ・アフメートワ

第七話「書記エレーナ・ヴィレンスカヤ軍曹と機関士マリヤ・アレクサンドロヴナ・アレストワ、射撃手ローラ・アフメートワ二等兵の話」に登場する。射撃手としてソ連軍に従軍した女性。軍所属時代の階級は二等兵。戦争で一番恐ろしかったことはなんだったかの質問に、男物のパンツを穿(は)いていたことだと回答した。祖国のために死んでもいいという覚悟で戦地にいたものの、これだけは嫌だったと振り返る。

ロコソフスキイ

第二話「軍医エフロシーニヤ・グリゴリエヴナ・ブレウス大尉の話」に登場する。ソ連軍の前線総指揮官を務める男性。異国で戦死した夫を故郷に葬りたいというエフロシーニヤ・グリゴリエヴナ・ブレウスの願いを冷たくはねつけるが、彼女の再三の懇願に折れ、特別機での亡骸の輸送を許可する。

コーリカ・チジョフ

第三話「狙撃兵クラヴヂヤ・グリゴリエヴナ・クローヒナ上級軍曹とマリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)兵長の話」に登場する。マリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)と同郷の青年。幼い時、共産少年同盟のリーダーだったマリヤに赤いネクタイを結んでもらった。戦地から戻ったマリヤが、暗い谷で立ち往生していたところに偶然トラックで通りがかり、彼女との再会を喜ぶ。

マーシェンカ・アルヒモア

第三話「狙撃兵クラヴヂヤ・グリゴリエヴナ・クローヒナ上級軍曹とマリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)兵長の話」に登場する。マリヤ・イワーノヴナ・モローゾワ(イワーヌシュキナ)と同じ隊にいた女性兵士。愛称は「マーシャ」。負傷した歩兵師団長を助けようとした際、砲弾の炸裂に巻き込まれて重傷を負い、両脚が不自由になった。戦後は足の手術を繰り返しながら、病院や身障者の施設を転々とした。戦友はおろか母親にも自分が生きていることを知らせずにいた。そのため、長く行方不明扱いとなっていたが、仲間たちの懸命な捜索により、30年ぶりに母親との再会を果たす。

マリーナ・ラスコワ

第六話「一等飛行士アントニーナ・グリゴリエヴナ・ボンダレワ中尉と航空隊クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワ大尉の話」に登場する。クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワが入学した航空学校の指揮官を務める女性。女性的な優しい性格ながら、部下の一人がお下げ髪を切ることを拒否した際には、報告にやって来たクラヴジヤを激しく叱責するなど厳格さも併せ持っており、部下たちを厳しく指導する。

リーリャ・リトヴャク

第六話「一等飛行士アントニーナ・グリゴリエヴナ・ボンダレワ中尉と航空隊クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワ大尉の話」に登場する。クラヴジヤ・イワーノヴナ・テレホワの航空学校時代の同級生。のちに有名な飛行士となった女性だが、学生時代は女の子であることをなかなか捨てきれず、長いお下げ髪を切れという指揮官の命令を一度は拒否した。

クレジット

原作

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

監修

書誌情報

戦争は女の顔をしていない 5巻 KADOKAWA

第1巻

(2020-01-27発行、 978-4049129823)

第2巻

(2020-12-26発行、 978-4049135954)

第3巻

(2022-03-26発行、 978-4049141252)

第4巻

(2023-04-27発行、 978-4049149951)

第5巻

(2024-08-16発行、 978-4049158984)

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