龍空のエイシズ

龍空のエイシズ

第二次世界大戦中、戦闘機乗りとして初陣を飾った辰野小太郎は、気がつけば人と竜が相争う異世界「タルパ」へと転移していた。各国のエースパイロットたちが竜と争う姿を描く、異世界ミリタリースカイアクション。「コミックニュータイプ」で2021年5月から配信の作品。

正式名称
龍空のエイシズ
ふりがな
りゅうくうのえいしず
作者
ジャンル
軍隊・軍人
 
ファンタジー
レーベル
角川コミックス・エース(KADOKAWA)
巻数
全3巻完結
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

知らない空

人と竜が相争う異世界「タルパ」では、竜は圧倒的な力を持ち、人々は地下に隠れるように住んでいた。そこにいつしか「漂流者」と呼ばれる異世界の戦士たちが現れるようになり、人々は漂流者と協力して竜と戦っていた。漂流者は必ず12人と決められており、一人でも欠けると新たな漂流者が現れる仕組みとなっていた。その日も隊を率いて竜と戦うキララ・カレンは、漂流者が現れる兆候をつかみ、迎えに行っていた。その途中に竜が来襲し、竜の攻撃で大きな損傷を被るキララ隊であったが、新たな漂流者・辰野小太郎が現れ、キララたちを救うのだった。漂流者とは戦闘機を駆る撃墜王(エースパイロット)で、辰野も愛機と共に現れるが、彼は一度の実戦経験もない初陣パイロットだった。なぜ辰野が召喚されたのかは不明ながら、辰野は異世界に順応し、異世界の人々のために竜と戦う覚悟を決める。ところがその時、ドイツ最強のパイロットであるハンス・ウルリッヒ・ルーデルが現れ、辰野にある忠告をする。辰野はルーデルの言葉を受けて周囲を見渡すと、漂流者は生前の記憶を失っているが、自分たちだけはなぜかその記憶があり、さらに生前は敵国同士だったはずのパイロット同士で言葉が通じ合うことに気づく。この違和感は大きな意味を持ち、何者かにとって都合の悪いものではないかと辰野とルーデルは考え始める。そんな中、ドラゴンビーが襲来したため、辰野たちはこれを排除しようとするが、その戦いの最中、漂流者のヴィンセントが同じく漂流者のウォルケンを同士討ちする事件が発生する。辛うじて生きていたウォルケンが、その命と引き換えにした行動のおかげでドラゴンビーを焼き殺すことには成功するが、ヴィンセントはそのまま拘束されてしまう。そして辰野とルーデルは、こっそりヴィンセントの様子をうかがいにいくが、そこで彼らが目にしたのは恐るべき事実だった。

スターリングラードの白百合

ヴィンセントタルパの人間に「ロズメラの呪い」と呼ばれている症状を発症したため、処分が決まる。しかし、辰野小太郎たちがひそかにその様子をうかがっていると、ヴィンセントは記憶を取り戻して英語を話しているだけで、正気を失ってはいなかった。辰野たちはあらためて自分たちの境遇と異世界に疑問を抱くが、その思いは晴れることなく、悶々とした日々を過ごしていた。そして日々は過ぎ去り、新たな漂流者として現れたのは、女性エースパイロットのリーリャ・リトヴァクだった。リーリャは辰野と対面した早々に対立するものの、すぐに打ち解け、辰野とリーリャは先輩後輩として交友を育んでいく。辰野はリーリャが記憶を失っているのを確認するが、新入りのリーリャにはロズメラの呪いについては明かさないようにした。しかしリーリャは、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルと深い因縁があり、ルーデルを目にしてからリーリャの様子が少しずつ変わっていく。リーリャの変化に危機感を抱いた辰野は、彼女がルーデルに襲い掛かるのを阻止する。リーリャは辰野の説得で一時は宿願をあきらめるものの、ドラゴンの襲撃の最中、ルーデルとリーリャは再び対峙。リーリャは衝動のままにルーデルに襲いかかり、二人は戦場の中で孤立してしまうが、そこでリーリャはルーデルに婚約者のアレクセイ・ソロマチンがすでに漂流者としてタルパに来て、死んだことを聞かされる。ルーデルの言葉で復讐すべき相手がいないことを悟ったリーリャであったが、そこにドラゴンが襲来。二人は危機に陥るが、間一髪のところで辰野に助けられる。そしてルーデルは一連の状況から、ロズメラの呪いの正体に思い至るが、そこで自分の姿が消えていくのに気づく。ルーデルは残された時間の中、ロズメラの呪いはドラゴンを殺し続けることで進行することや、「バベルの塔」の伝説をヒントとして辰野に伝え、タルパから姿を消すのだった。

登場人物・キャラクター

辰野 小太郎 (たつの こたろう)

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の青年。現世では大日本帝国陸軍第10飛行師団飛行第53戦隊に所属していた。「屠龍」と共にタルパに転移し、そのままドラゴンとの戦いに身を投じることとなる。生前は坊主頭だったが、タルパに来てからは髪を伸ばしている。初陣でタルパに転移したため、撃墜王ばかりの漂流者の中では唯一、実戦経験のないパイロット。そのため、ほかの漂流者から「撃墜数(キルマーク)ゼロ」とからかわれることが多い。ただし、操縦技術と度胸は確かなもので、タルパ転移直後は、弾切れ状態にもかかわらず大型のドラゴンをタルパ独特の尖った地形を利用して撃墜している。また、漂流者の中では珍しく記憶の欠落がほとんどないため、米軍機を見た際の態度からすぐに記憶を失っていないのをハンス・ウルリッヒ・ルーデルに見抜かれ、その事実を隠すように忠告されている。当初は不自然な状況に困惑し、流されるまま戦っていたが、モナミたちとの交流によってタルパの人々を守るためにドラゴンと戦う決意を固める。しかし、ロズメラの呪いに堕ちたヴィンセントを見て、あらためてタルパに感じていた疑念が大きくなり、ロズメラの呪いの正体を追うこととなる。

キララ・カレン

飛行部隊「ロズメラ」の隊長の一人で、カタルナ・カレンの妹。金髪の髪をツインテールにした少女で、明るくひたむきな性格をしている。自らもアナバードに乗って前線で指揮を執っていたが、ドラゴンに自らのアナバードを食われてしまったため、それ以降は辰野小太郎の屠龍の後部座席に乗って指揮を執っている。漂流者に身近に接する立場で、実戦経験のない漂流者の辰野には何か意味があるのではないかと期待している。一方でタルパを守る使命との板挟みによって、ロズメラの呪いのために漂流者の立場が危ういことに強い危機感と疑念を抱いている。

リーリャ・リトヴァク

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の女性。灰色がかった髪を長く伸ばし、二つ結びにしている。可憐な容姿ながら、史上二人しかいない女性のエースパイロットの一人で、勝気な性格をしている。生前はソビエト連邦所属で、機体に白い百合のパーソナルマークを描いているため「スターリングラードの白百合」と呼ばれていた。ドイツ軍のハンス・ウルリッヒ・ルーデルとは宿敵同士。同じくソ連のパイロット、アレクセイ・ソロマチンとは恋仲で、彼の前ではふだんの勝気さも鳴りをひそめ、おしとやかに振る舞う。ソロマチンがルーデルを倒したら婚約すると約束していたが、スターリングラード西部の戦いでルーデルにソロマチンの機体を撃墜され、彼に復讐を誓う。タルパには愛機の「ヤコブレフ」と共に現れる。生前の撃墜数は12機で、タルパに来てからもすぐにドラゴンを二体撃墜するなど、その腕の確かさを証明した。生前はショートカットにしていたが、タルパに来てからは髪を伸ばして二つ結びにしている。当初、辰野小太郎を素人と見下していたが、ドッグファイトの決闘で敗北したため、彼を先輩と呼ぶようになった。辰野とはなんだかんだでいいコンビだったが、ルーデルと対峙し、倉庫で眠っていたソロマチンの愛機を見たことでロズメラの呪いを発症するようになる。中途半端に記憶を取り戻したため、戦争していた記憶がなく、ルーデルがソロマチンを殺したという憎悪のみが心の中で膨れ上がってしまう。ソロマチンの愛機を見つけたことで、彼が漂流者としてタルパにいることを確信するが、いつまで経ってもソロマチンが姿を現さないため、次第に正気を失い、ルーデルを殺せばソロマチンが現れるという妄執に取りつかれてしまう。事情を察した辰野の説得で一度は思いとどまるが、漂流者が全員そろってもソロマチンがいないことを知り、ショックのままルーデルを殺して仇を討とうとした。しかし、再びルーデルと対峙したことでロズメラの呪いの真実を知り、矛を収める。実在の人物、リディア・リトヴァクがモデル。

ハンス・ウルリッヒ・ルーデル

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の青年。ドイツ最強のタンクキラーで、伝説的な戦果を誇るエースパイロット。三度の飯よりも出撃が好きという変わり者で、大ケガをしていても平気な顔をして出撃する。タルパに飛ばされた際も、現状を把握していないにもかかわらず、愛機「スツーカ」で嬉々としてドラゴンとの戦いに身を投じている。酒嫌いの牛乳好きながら、タルパに牛乳がないのが不満で、マズイ豆乳で我慢している。一方で慎重なところもあり、タルパに召喚される前の記憶もはっきり保持しているが、漂流者の境遇を疑問視し、自らの記憶についてはタルパの人々には打ち明けていない。辰野小太郎の様子から彼も記憶を保持していることに気づき、記憶があることを公言しないように忠告する。辰野と共に「ロズメラの呪い」の謎を追っており、リーリャ・リトヴァクとの対話を経て、その真実にたどり着く。しかし、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル自身の消滅が間もなく始まると察し、残された時間の中で、辰野にロズメラの呪いの真実と「バベルの塔」の伝説を教え、彼に日本に帰れると伝えた。タルパ消滅後は、祖国で目を覚ます。タルパ最後の戦いで負傷した右足は祖国に戻っても失っており、大ケガで入院していたが、戦いたがりはそのままで右足に義足を付け、病院を脱走しては出撃している。実在の人物、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルがモデル。

ハミルトン

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の男性。顔に大きな傷があり、陽気な性格をしている。愛機は「ライトニング」で、キララ隊に所属している。キララ隊のエースパイロットで、高性能な戦闘機を自由自在にあやつる技量を持つ。生前はアメリカ軍に所属していたが、記憶はほとんど失っており、敵国だった辰野小太郎にも分け隔てなく接する。しかし辰野と組んでドラゴンと戦った際には、辰野の命令違反で命の危機に陥り、そのショックで一部の記憶を取り戻す。辰野を「Jap」と呼び、冷たい態度で接するが、記憶を取り戻したのは一時的なもので、その後はいつもの陽気な性格へと戻っている。

ウォルケン

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の青年。涼しげな風貌をした優男で、冷静沈着な性格をしている。愛機は「メッサーシュミット」で、キララ隊に所属している。漂流者の中でも記憶の欠落が激しく、当初は自分の名前すらわからず、悲嘆に暮れていた。しかし、ヴィンセントがメッサーシュミットの荷物の中から手紙を見つけ、その宛名である「ウォルケン」を名乗るようになる。チョコレートをつねに持ち歩いており、ヴィンセントにも名前を教えてくれたお礼にチョコレートをプレゼントしていた。生前はドイツ空軍のパイロットで、バトル・オブ・ブリテンに参加していた。皮肉なことにイギリス空軍に所属していたヴィンセントとは不倶戴天の敵同士だった。そのためドラゴンビーの戦いで、記憶を取り戻したヴィンセントはウォルケンを攻撃。その攻撃でメッサーシュミットは大破し、ドラゴンビーの巣に墜落してしまう。幸いにもドラゴンビーの巣はやわらかい繭状だったため、運よく生き残っていた。無線で辰野小太郎たちに巣の正体を教え、メッサーシュミットを自爆させることで、女王の居場所を辰野たちに示した。無線連絡した時点でかなりの重傷を負っており、自分が助からないことを察し、最期まで戦い抜いてタルパの勝利に貢献した。ヴィンセントに対しても最期まで恨みに思っておらず、自分に名前を教えてくれたことを感謝していた。辰野が遺品を整理した際に手紙を見つけ、本名は「ヘルベルト・ウォルケン」だったと知る。

ヴィンセント

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の男性。あごひげを生やした中年男性で、豪快ながら面倒見のよい性格をしている。愛機は「ホーカーハリケーン」で、キララ隊に所属している。漂流者の中でも記憶の欠落が激しいウォルケンのことを気に掛けており、彼が自分の名前もわからず落ち込んでいるところを見て、彼が持っていた手紙から「ウォルケン」と名づけた。ヴィンセント自身は文字が読めず、適当に名づけたと言っていたが、彼のためにわざわざドイツ語を英語に訳していた。隠れて宛名以外の翻訳も続けており、手紙の翻訳が終わったら、彼にそれを教えるつもりだった。実は生前はイギリス軍人で、ドイツ軍のウォルケンとは敵同士。妻と娘を何より大切にしていたが、その大切な娘は目の前で爆弾の業火に焼かれてしまう。その出来事を記憶を失ってもかすかに覚えており、火の玉の夢を見て、懐かしさと愛しさ、そして抑えきれない憎しみを胸の内に抱えている。ドラゴンとの戦いで徐々に記憶を取り戻していき、ドラゴンビーとの戦いで炎を見たことで、燃え盛る故郷の姿を思い出す。その際に、敵であったウォルケンを反射的に攻撃してしまい、キララ・カレンたちにロズメラの呪いを発症したと判断される。辰野小太郎たちはひそかにヴィンセントの姿を確認したことで、ロズメラの呪いの実態を知り、自分たちの境遇に疑問を思うようになる。その後、辰野はヴィンセントの私物を調べ、翻訳途中のヴィンセントの手紙とともに、タルパの言語の翻訳手帳を自前で作ろうとしていたのを発見している。ロズメラの呪いを発症したことでタルパに処分され、消息不明となっていたが、実は処分寸前にリヒトホーフェンによって助け出され、彼と行動を共にしている。

エリオット

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の少年。愛嬌のある顔立ちで、小柄な体格をしている。愛機は「モスキート」で、ウララ隊に所属している。ウララ隊は爆撃のエキスパートぞろいであるため、エリオット自身も爆撃の腕はかなりのもの。ドラゴンビーでの戦いではキララ隊に協力し、ドラゴンビーの巣に爆弾を投下して巣を焼き払った。

アレクセイ・ソロマチン

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の青年。生前はソ連に所属しており、リーリャ・リトヴァクとは恋仲だった。ハンス・ウルリッヒ・ルーデルを宿敵と定め、彼を倒してリーリャと婚約するつもりだったが、スターリングラード西部の戦いでルーデルに撃墜される。その後、タルパに漂流者として召喚され、記憶を失いながらも、タルパの戦士としてドラゴンと戦い続けている。シラネ隊の一員として仲間たちと戦っていたが、そこにルーデルが新入りとして配属される。ドラゴンとの戦いを続けているうちにある日、記憶を取り戻したようで、突然ロズメラの呪いを発症して、ルーデルに襲い掛かる。その際に仲間のメルダースに取り押さえられるが、反撃してメルダースを殺害。当時、メルダースと恋仲だったシラネに仇として殺され、シラネもメルダースのあとを追って自殺するという凄惨な事件を引き起こした。アレクセイ・ソロマチンの愛機は死後も倉庫に遺されており、のちにリーリャがこれを見つけたことで彼女の記憶を取り戻す引き金となった。

サラ・スマイル

漂流者のサポート役を務める女性。タルパに召喚されたばかりのハンス・ウルリッヒ・ルーデルのサポートで、ケガをしていた彼を介抱した。しかしルーデルは気づくや否や、そのままドラゴンとの戦いに出撃。彼のお目付け役であったため、なし崩し的に彼と行動を共にすることとなる。また、基本的な銃火器の扱いを習熟しており、ルーデル機の後部銃座で銃手を務めた。ドラゴンとの戦いでは銃手として戦ってドラゴンを撃墜したが、ルーデルのあまりの操縦の激しさと、前任のルーデルの銃手の末路を知り、戦いのあとに銃手を辞退している。

カタルナ・カレン

異世界「タルパ」の女王を務めており、キララ・カレンの姉。若く才気にあふれた鉄の女で、強い意思でドラゴンたちと戦い続けている。人のものを欲しがる悪癖があるらしく、妹からはひそかに「強欲女」と思われている。ハンス・ウルリッヒ・ルーデルを気に入り、彼を付き人として侍らしており、彼がロズメラの呪いに侵食されないように気遣っている。ただし、当のルーデルは出撃したがりであるため、特別扱いを煙たがっている。キララが幼かった頃は、今とは打って変わっておしとやかで優しい性格をしていたが、目の前で父王が漂流者によって暗殺されてしまう。その後、犯人の漂流者を自らの手で断罪し、父親の跡を継いで女王となった。ロズメラの呪いの真実も知っており、率先して漂流者の処分を行っている。

モナミ

異世界「タルパ」の住人で、ロニガンの娘。母親とは死別しており、将来は母親と同じくアナバード隊に所属するのを目標にしている。けなげな性格で、辰野小太郎はモナミに妹の姿を重ね、タルパの人々のためにドラゴンと戦う意思を固めた。辰野とは仲がよく、彼にタルパの文字の読み書きを教えている。

ロニガン

異世界「タルパ」の住人で、モナミの父親。無精ひげを生やした中年男性で、面倒見のよい性格をしている。漂流者の機体の整備員をしており、さまざまな戦闘機や砲の知識に精通している。弾丸なども元の形状をコピーして量産するなど、整備の腕は確か。妻はアナバード隊に所属していたが、ドラゴンとの戦いで戦死している。タルパの男は長年の地下暮らしから弱視の者が多く、戦えないことに忸怩(じくじ)たる思いを抱いている。そのため、自分たちにできることに全力を尽くすつもりで、整備や修理に一生懸命取り組んでいる。

リヒトホーフェン

異世界「タルパ」に召喚された漂流者の老齢な男性。現在はパイロットを引退し、後進の育成に専念している。飛行部隊「ロズメラ」の基礎を築いた人物で、現在でもパイロットとしてはすご腕。赤い複葉機を愛機にしたことから「レッドバロン」の異名を持つ。しかし、タルパのロズメラの呪いへの対処に嫌気が差し、隠居している。漂流者にはその正体を隠されているが、「13人目」の漂流者。実は漂流者は反乱を防ぐため、必ず「12人」になるように調整されているが、リヒトホーフェンのみはその功績から隠居という形で生存を許されている。現状の漂流者の扱いには憤慨しており、ひそかに処刑寸前の漂流者を助け、匿っている。実在の人物、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンがモデル。

タルタルーガ

巨大な亀型ドラゴン。ちょっとした山くらいの大きさで、ゾウガメのような姿をしている。見た目どおり非常に鈍重ながら、驚異的なパワーとタフネスを持ち、あらゆる障害を破壊して進み続ける。知能もある程度高いようで、タルパの飛行場を破壊すべく、ひたすら直進を続けた。甲羅部分は1トン爆弾の直撃にも耐えられる堅牢さを持ち、タルパの爆撃も意に介さず、飛行場を破壊すべく進む。頭部分は甲羅ほどの防御能力がなく、辰野小太郎に急所の目を撃ち抜かれて死亡した。

ドラゴンビー

小型のドラゴンで、大きさは2、3メートルほど。前足が鋭利な鎌状となったカマキリに似た姿を持ち、背中の羽で空を飛ぶことができる。口から蚊のように管を出し、これで対象の体液をすすって食事をする。ドラゴンの中では小型であるため、適切な装備があれば生身の人間でも倒すことができるが、「ドラゴンビー」はその名のとおりハチなどと同じ社会性生物で、女王を頂点とした群れで行動するため、生身の装備では群れに対抗するのは非常に難しい。ドラゴンビーの群れが行動するさまは、空を渡る大河とも例えられ、「竜の河」とも呼ばれている。また、ドラゴンビーは雑食な上に大食らいであるため、竜の河が通ったあとは草木が一本も残らないくらいすべてが食い尽くされる。タルパに荒野が多いのもドラゴンビーが食い尽くしたからで、タルパの民からは非常に恐れられている竜種となっている。巣は巨大な繭状の物質でできており、数百にも及ぶドラゴンビーが巣を守っている。ある時、タルパの石油プラントに巣を作り、従業員を全滅させた。その危険性から、タルパ上層部はすぐさま石油プラントの放棄と巣のせん滅を決定し、石油プラントと引き換えに巣を焼き払うものの、完全に破壊するには至らなかった。実は繭状の物質は、ドラゴンビーの女王の腹で、女王が健在な限り破壊しても再生してしまう。女王の腹は適度に弾力のある柔らかい物質でできているが、そのせいで爆弾が直撃しても信管が起動せず、破壊は困難。女王は巣の中枢に存在し、その体は巨大。兵隊とは違って女王は鋭い牙を持ち、その牙で兵隊たちが運んできたエサを食らい、子を産んで巣を維持している。ドラゴンビーとの戦いで墜落したウォルケンが、偶然にも女王の近くにたどり着き、彼の決死行によって辰野小太郎が女王の居場所を見つけて討伐された。

ワームドラゴン

芋虫のように長い体を持つドラゴンで、地中を掘削して高速に移動する。冬眠をするため、冬前になると凶暴化し、周囲の獲物を手当たり次第に襲って食べ始める。冬前になるとワームドラゴンの群れがタルパの街を襲い始める。一匹侵入しただけで数百人以上の住民が犠牲となるため、タルパでは冬前の脅威として恐れられている。ワームドラゴンは地中を高速で移動するが、数分に一度は地表に出て、掘削した土を息継ぎのように吐き出す。しかし、地表で土を吐き出す時間はわずか10秒足らずであるため、狙って打ち倒すことは困難。その性質から地下にいるあいだはほとんどの攻撃は効果がなく、わずかな時間で爆撃をするのも不可能となっている。キララ隊によって地表に出たところを、大口径の砲によって撃滅された。

場所

タルパ

地球とは別に存在する異世界。遙かな古の時代に繁栄を極めた王国があったが、地上のすべてを手にした王は次に空をも手に入れるべく、巨大な塔を造り上げた。しかし、その行いが神の逆鱗に触れて塔は破壊され、竜が世界中に放たれることとなる。竜によって地上の人々は滅ぼされ、ほとんどの人間は地下に追いやられることとなる。人々は竜と長いこと争っていたが、神々は人々への救いとして異世界から「漂流者」を遣わし、人々は漂流者と協力し合って戦うことで、竜と対抗することができている。タルパの民は陽がほとんど届かない地の底で暮らしているために植物は貴重で、主食は芋や豆。また地下暮らしであるため、酪農の文化はほとんど発達していない。漂流者の戦闘機の整備ができるなど文明レベルは高く、弾薬の補充も可能。ただし、長い地下暮らしで視力が低下している者が多く、特に男性には顕著にその特徴が表れている。そのため、タルパの民で戦えるのはほとんど女性で、男性は専ら非戦闘職に就くことが多い。タルパの民は「アナバード」という大型の鳥を飼育しており、タルパの戦士はこの鳥に乗って空を飛んで竜と戦う。タルパに伝わる神の怒りに触れた古の塔の名前は「バベル」で、地球に伝わる「バベルの塔」の伝説と内容も酷似している。またタルパには言語が一つしかなく、漂流者はタルパに来ることでバベルの塔の呪いから解放されるのではないかと推測されている。

その他キーワード

漂流者 (のまーでん)

地球から異世界「タルパ」に召喚された戦士たちの総称。800年前からたびたび姿を現すとされ、かつては剣と盾を持つ戦士たちが召喚されていたが、近年は鉄の翼を駆る撃墜王(エースパイロット)が召喚されている。召喚された漂流者のほとんどの者が記憶を失っているが、その代わりに言語が違う者とも言葉が通じるようになっている。地球の別の国家の者はもちろん、タルパの人間とも漂流者は言葉を交わせるが、漂流者たちは記憶を失っているのもあり、それを疑問に思うことはない。漂流者は全部で「12人」いるとされ、一人でも欠けると新たな漂流者が漂着する。漂流者は戦い続けるとロズメラの呪いと呼ばれる症状を発症して正気を失う。この状態になると正気に戻すことはできないため、タルパではロズメラの呪いを発症した漂流者は処分される決まりとなっている。実はタルパでは過去に何度も武器と力を持つ漂流者によってクーデターを起こされ、存亡の危機に陥っている。そのため漂流者の数を制限しており、「12人」という数は竜に対抗でき、かつ漂流者を制御しやすい人数として定められていた。リヒトホーフェンはその功績から隠居を許された13人目の漂流者で、あぶれた14人目以降の漂流者はひそかに処分されている。リヒトホーフェンはその現状に嫌気が差し、処分されそうな漂流者を助けている。

ロズメラの呪い (ろずめらののろい)

漂流者を蝕む異常現象。漂流者たちが生前の記憶を取り戻すことで発症するとされ、記憶を取り戻した漂流者は発狂して異常行動を繰り返す。原因が不明なため、タルパでは「ロズメラの呪い」と呼ばれている。しかしその実態は、漂流者が記憶を取り戻すのと同時に、現世の言葉を取り戻しているだけだった。漂流者はごくごく自然にタルパの人間や、現世でのほかの国の人間とも言葉を交わしていたが、これは異世界・タルパに来てからいつの間にか身につけていたもので、記憶を取り戻すのと同時に、その力を失っていたというのが、呪いの真相だった。ハンス・ウルリッヒ・ルーデルはバベルの塔の伝説が実在し、漂流者はタルパに来ることでその呪いから解放されるが、生前の記憶を失う方がロズメラの呪いの本質ではないかと考えている。また、生前は敵同士の漂流者も多いため、記憶を取り戻すのと同時に友軍を攻撃していた。この出来事がタルパの人間から見ると、突然言葉が通じなくなり、味方殺しを始めたと見られていた。

屠龍 (とりゅう)

辰野小太郎が搭乗する戦闘機。全長は11メートルで全幅は15.02メートル、全備重量は5500キロ。大日本帝国が運用していた「二式複座戦闘機」で、開発・製造は「川崎航空機」。試作名称は「キ45改」で「川崎 キ45改」とも表記される。屠龍はフィリピンの航空戦闘で戦功をあげた中佐・新藤常右衛門宛てに発行された陸軍省感状の冒頭の一文にあやかった愛称で、意味は「竜殺し」。運動性は単発単座機に著しく劣り、特筆すべき点のない平凡な性能をしている。辰野の搭乗機は、アメリカの爆撃機に対抗するための「乙型」仕様で、12.7mm機銃を上向きに付けているのが特徴。その仕様から上にいる敵にしか攻撃できないため、敵の懐に入り、至近距離での攻撃しかできない。胴体下面には37mm戦車砲も搭載しているが、一発撃つごとに後部機銃手が手動で弾丸を装填し直さないといけないため、連発はできない。このため、機体の性能を十全に使うには二人が乗り込む必要がある。

スツーカ

ハンス・ウルリッヒ・ルーデルが搭乗する爆撃機。全長は11.5メートルで全幅は15メートル、全備重量は6600キロ。型式は「Junkers Ju 87」で、「スツーカ」は急降下爆撃機を意味する「Sturzkampfflugzeug」を略した愛称となっている。ルーデルの愛機は対地攻撃に特化した「G-2」仕様で、37mm機関砲を2門主翼下に懸架し、「大砲鳥」とも呼ばれる。高い攻撃力を持つ機体ながら、機関砲の重量で安定性を欠き、非常に操縦が難しい機体となっている。

ヤコブレフ

リーリャ・リトヴァクが搭乗する戦闘機。全長は8.48メートルで全幅は10メートル、全備重量は2820キロ。ソ連空軍初期に開発された戦闘機で、型式は「Yak-1b」。ヤコブレフ設計局によって作られたため、ヤコブレフ設計局の頭文字を取って形式番号の「Yak」が割り振られている。「Yak-1」は大戦初期にドイツ空軍相手に奮戦し、のちの「Yak」シリーズの祖となったため、「最も偉大な戦闘機」の一つに数えられ、バリエーションも含めて8734機もの機体が製造された。「Yak-1b」はエンジンと操縦席周りを改装した改良機で、軽量の機体もあって高い機動性を誇る。しかしリーリャの機体は、タルパに来た時点ですでにガタが来ていたため、アレクセイ・ソロマチンの愛機を予備機として使っている。

ライトニング

ハミルトンが搭乗する戦闘機。全長は11.6メートルで全幅は15.90メートル、全備重量は8172キロ。アメリカ陸軍に採用された戦闘機で、双発双胴の独特のスタイルをしている。ロッキード社が開発した単座戦闘機で、型式は「P-38」。速度と高高度性能に優れる反面、軽戦との格闘戦には不向き。ハミルトン機は初期の出力向上モデル「G」仕様で、12.7mm機関砲4問、20mm機関砲を1門搭載し、キララ隊の中で最も重武装な機体となっている。

メッサーシュミット

ウォルケンが搭乗する戦闘機。全長は8.74メートルで全幅は9.86メートル、全備重量は2770キロ。ドイツ空軍の主力戦闘機で、数多くのエースパイロットを輩出した傑作機として知られている。型式は「Bf-109E-4」。設計者のウィリー・メッサーシュミットの名を取り、「メッサーシュミット」の通称で呼ばれている。「Bf-109」はバイエルン航空機製造社によって製造されたため、この型式となっている。のちにメッサーシュミットが社の実権を握り、メッサーシュミット社となってからは型式が「Me-109」と改められたため、同じ戦闘機であるが型式の表記が混在していることがある。ウォルケンの登場する「E型」はダイムラー・ベンツ製のDB601Aエンジンを搭載した初期型で、バトル・オブ・ブリテンにも投入されている。

ホーカーハリケーン

ヴィンセントが搭乗する戦闘機。全長は9.82メートルで全幅は12.19メートル、全備重量は3311キロ。第二次世界大戦におけるイギリス空軍の主力戦闘機で、ホーカー・エアクラフト社によって生産された。戦闘機の名称は「ハリケーン」だが、ホーカー・エアクラフト社の名前を冠して「ホーカーハリケーン」の通称で呼ばれる。保守的な設計をしており、旧式の複葉機を延長したコンセプトで、木材や帆布を多用し、胴体部分も鋼管羽布張り構造をしている。実質的にハリボテのような構造をしているが、全金属製の戦闘機に比べて生産が容易であり、またその構造がレーダーから探知されづらいという副次効果を生んだため、傑作機として1万機以上生産され、爆撃機や対地攻撃などさまざまな用途に用いられた。ヴィンセント機は20mm機関砲を4問搭載した「Mk.ⅡC」仕様で、攻撃力に特化している。

モスキート

エリオットが搭乗する戦闘機。全長は12.44メートルで全幅は16.51メートル、全備重量は9479キロ。第二次世界大戦におけるイギリス空軍で採用された戦闘機で、機体構造がすべて木製でありながら、ほかの戦闘機と遜色ない性能を持つため、「The Wooden Wonder(木の驚異)」とも呼ばれていた。エリオット機は爆撃機として運用された「B.Mk.Ⅳ」仕様となっている。

アナバード

タルパの洞窟に生息する大型の鳥類。成体になれば人よりも大きくなる鳥で、軽い体重の者であれば人間を背に乗せて飛ぶこともできる。大きなアナバードであれば、両翼を広げた大きさは6メートルにも及ぶ。雑食で、タルパでは数多く飼育されている。ドラゴンに対抗するための飛行手段としても使用されており、「アナバード隊」が存在する。タルパの男性は先天的に弱視の者が多いため、アナバード隊はタルパの女性でのみ構成されている。アナバード隊のアナバードは頭に「ブリンカー(目隠し)」と呼ばれる頭巾のようなものをかぶっているが、これは部隊識別を示すとともにドラゴンに擬態し、少しでも被害を少なくする役割も担っている。

書誌情報

龍空のエイシズ 全3巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉

第2巻

(2022-08-10発行、 978-4041127780)

第3巻

(2023-07-10発行、 978-4041138304)

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