断章のグリム

断章のグリム

甲田学人の同名小説のコミカライズ作品。ある日を境に怪現象・泡禍に巻き込まれるようになった男子高校生・白野蒼衣は、童話をモチーフとした惨劇の謎を追う事となった。狂気と血の惨劇の中で、自らの過去と心に向き合う少年の生き様を描くメルヘンサイコホラー。「コミック特盛新耳袋」2015年夏号から2015年冬号にかけてと、「画楽ノ杜」及び改名後の「Z」で2016年5月から2018年5月にかけて掲載された作品。

正式名称
断章のグリム
ふりがな
だんしょうのぐりむ
原作者
甲田 学人
漫画
ジャンル
ホラー
関連商品
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あらすじ

第1巻

平凡な男子高校生・白野蒼衣は、ある日、学校を休んだクラスメイトの杜塚眞衣子にプリントを届けに行った際に奇妙な怪現象に遭遇した。その際、蒼衣は階段の踊り場で血まみれの女性が半狂乱になりながら襲いかかって来たところを、謎の少女・時槻雪乃に助けられた。その後、蒼衣は彼女に連れられ「神狩屋ロッジ」で「泡禍」と呼ばれる怪現象について説明を受ける。そして蒼衣も「断章」の保持者であり、事件と無関係ではいられないと告げられる。思い悩む蒼衣は、店の中で出会った夏木夢見子の「グランギニョルの索引ひき」を目にした事で、断章保持者が抱える危険性と、自身が遭遇した泡禍がこれからも再び起きる事を知らされる事となる。

第2巻

白野蒼衣は、「神狩屋ロッジ」の鹿狩雅孝の頼みで、友人として時槻雪乃に接する事になった。ツンケンとした態度を崩さない雪乃との付き合いに苦労しつつも、蒼衣は幼い頃の友人である溝口葉耶の姿を雪乃に重ね合わせ自身の過去に向き合っていく。一方、泡禍の調査を行っていた「神狩屋ロッジ」は、被害者の身元から蒼衣のクラスメイトの杜塚眞衣子か、その家族が泡禍の原因であると推測する。眞衣子の周囲で「灰かぶり」の泡禍が起こる可能性が高いと判断した蒼衣達は、彼女の周囲を見張る事を決意する。しかし、その最中、闘病中だった眞衣子の母親が亡くなってしまう。眞衣子の母親の葬式に参列した蒼衣は、眞衣子が母親から虐待を受けていた事実を聞き、「灰かぶり」との同一性を見い出す。式から抜け出した蒼衣は、この事実を仲間達に伝えて警戒を強めるが、時はすでに遅く、蒼衣達は突如として現れた時槻風乃から、間もなく「灰かぶり」の泡禍が始まると警告を受ける事となる。

第3巻

杜塚眞衣子が火葬場で母親の遺骨を骨壷に納めていたところ、「灰かぶり」の泡禍が巻き起こる。葬式の参列者達は突如として異形化し、お互いがお互いを傷つけ、殺し合う狂気の世界が展開される。そして、泡禍の惨状をただ見続けた眞衣子は正気を失い、異端となってしまう。現場にたどり着いた白野蒼衣と「神狩屋ロッジ」が目にしたのは、異形の姿となって死に絶えた参列者の姿だった。泡禍の惨劇を目の当たりにした蒼衣は、その凄惨な有様にショックを受けつつも、まだ泡禍が終わっていない事を察する。姿を消した眞衣子が新たな泡禍を起こすと思い至った一行は、正気を失い、学校を襲撃していた眞衣子を発見。異端と化した彼女を倒す事を決意する。だが、眞衣子も泡禍の力で対抗し、次第に時槻雪乃と蒼衣は眞衣子に追い詰められていく。

第4巻

異端と化した杜塚眞衣子泡禍は次第に眞衣子本人すら飲み込むほど強大な物になり、時槻雪乃白野蒼衣を窮地に追い込む。その時、雪乃は蒼衣を守るため、自らの断章に宿る時槻風乃の呼びかけに応え、彼女の力を借りる。圧倒的な力を持つ風乃の力で「灰かぶり」の泡禍は焼き尽くされ、同時に自らの断章を目覚めさせた蒼衣によって、眞衣子は消失させられるのだった。眞衣子の死に向き合った蒼衣は、これから自らがどのように自身の断章と向き合うのか決意を抱き、新たな明日へと踏み出していく。

登場人物・キャラクター

白野 蒼衣 (しらの あおい)

典嶺高等学校に通う1年生の男子。「平凡でいたい」を信条とする少年で、人の頼み事を断れない性分をしている。偶然、「泡禍」に遭遇した事で非日常の世界へと足を踏み入れる事となる。実は無意識の内に断章を持たぬ者では干渉できない田上颯姫の「食害」の中を動いており、鹿狩雅孝からは忘れているだけで何らかの断章を持つ断章保持者だと推測されている。 時槻雪乃は幼い頃の友人である溝口葉耶と重ね合わせて見ており、鹿狩からの願いもあって友人としていっしょに行動している。泡禍に深くかかわっていくうちに、幼い頃、自らの目の前で葉耶が異形化して消え去ったという過去を思い出し、自らの断章と向き合うようになる。「灰かぶり」の泡禍では異端と化した杜塚眞衣子と言葉を交わし、彼女の感謝の言葉を受け取ったあと自らの断章の力で彼女を消し去った。 保持する断章は他者の悪夢を共有・共感したうえで、拒絶する事で対象に跳ね返すというもの。「自分が見捨ててしまった人間が破滅する」ともいえる断章で、事件のあと鹿狩によって「目醒めのアリス」という名前が付けられた。

時槻 雪乃 (ときつき ゆきの)

「神狩屋ロッジ」に所属する騎士の一人。黒いゴシックロリータ・ファッションのドレスに身を包んだ少女で、他人を寄せつけない怜悧な雰囲気を持つ。「泡禍」によってすべてを失った過去を持ち、断章騎士団の中でも異様なほどに異端狩りにのめり込んでいる。所持している断章は「雪の女王」と呼ばれるもので、自身の痛苦を炎へと変え、対象を焼き尽くす能力を持つ。 そのためカッターナイフを持ち歩き、戦闘の際には自らの身を傷つける事で炎を引き出している。泡禍によって生み出された異形も焼き払う力を持つが、複数を一度に焼き払う事はできず、また痛みによって集中を切らすと力を振るう事ができなくなるなど弱点も存在する。実は断章は姉である時槻風乃からの「借り物」で、雪乃の断章には風乃の意志が亡霊として宿っている。 断章に宿った姉の意思は、姿を伴って現れ、雪乃に度々狂気を囁いている。いつもまとっているゴシックロリータ・ファッションのドレスも風乃の趣味で、借り物だらけの状態になっても姉と同じ存在を殺し、復讐を完遂する事を目的としている。ふだんは白野蒼衣とは別の高校に通う高校1年生で、学校では黒いセーラー服を着ている。

時槻 風乃 (ときつき かぜの)

時槻雪乃の姉。雪乃そっくりな顔をした少女で、雪乃がふだん着ているゴシックロリータ・ファッションのドレスも元は風乃の趣味。雪乃の持つ断章、「雪の女王」の本来の持ち主で、過去に両親を殺し、家に火を放ちすべてを焼き払う「泡禍」を引き起こした。その後、死亡したが断章は雪乃に受け継がれ、現在は彼女の断片に取り憑く亡霊として存在している。 泡禍を感知する能力を持つが、同時に雪乃に狂気を囁き翻弄するため、雪乃からは信用されていない。亡霊であるため雪乃以外の人物は認識する事ができないが、白野蒼衣は共有できるタイプの断章を持つため、例外的に風乃を認識する事ができる。蒼衣の持つ断章についても知っている模様で、彼の事を気に入っている。「灰かぶり」の泡禍では危機に陥った雪乃に呼びかけ、彼女の苦痛を引き換えにして実体を得た。 泡禍すべてを焼き尽くす強大な力をあやつり、雪乃と蒼衣を助けた。

夏木 夢見子 (なつき ゆみこ)

骨董屋「神狩屋」で保護されている幼い少女。「泡禍」に遭遇した事で両親と血縁の家族をすべて失っており、その際に唯一の生き残りとして鹿狩雅孝に保護された。泡禍の際に心が壊れてしまい、現在は無口および無表情で外界の出来事にほとんど反応しなくなっている。彼女の中には断章が不発弾のように残っており、何かの拍子に断章が喚起される事を恐れて「神狩屋ロッジ」で保護されている。 所持している断章「グランギニョルの索引ひき」は童話化するほど巨大な泡禍が起きる際、女性の腕が現れ周囲の人にどの童話の泡禍が起こるのか教える予言の断章となっている。予言を目にした人間はその泡禍に必ずかかわる事となるため、腕が「灰かぶり」の童話を選んだのを見た白野蒼衣も、泡禍に巻き込んでしまう。

鹿狩 雅孝 (かがり まさたか)

骨董屋「神狩屋」の店主にして、「神狩屋ロッジ」の世話係を務めている男性。眼鏡をかけた黒髪の青年で、泡禍の調査や証拠隠滅など裏方の作業の手配を主に行っている。大学で民俗学を学んだ経験があり、泡禍にかかわる童話に造詣が深く、白野蒼衣に泡禍や断章の危険性を説明した。仲間内では「神狩屋」の名前で呼ばれる事が多く、ロッジの名前も「神狩屋ロッジ」となっている。 また詳細は不明だが、鹿狩雅孝も断章を保持していると語っている。神狩屋ロッジのスタッフの中では最年長で、年長者として仲間達を気づかっている。また復讐の念に囚われた時槻雪乃の事を心配しており、蒼衣に彼女の友達になってほしいと依頼した。「葬儀屋」の瀧修司とは仲がよく、ほかの人にはほとんど反応を示さない修司も彼とだけはふつうに話す。

田上 颯姫 (たのうえ さつき)

「神狩屋ロッジ」に所属する騎士の一人。快活な性格をしたショートカットの少女で、ロッジで鹿狩雅孝の手伝いをしている。所持している断章は「食害」と呼ばれる蟲の形をした泡禍で、田上颯姫の頭の中に住み、記憶を食い荒らす習性を持つ。ふだんは耳栓をしているが、外すと耳の部分から小さな蜘蛛のような姿をした蟲が無数に現れ、周囲の人の記憶を食い荒らす。 蟲の姿はふつうの人には見る事ができず、また蟲に目の前で起きている事や目的意識を食わせる事で、人払いや証拠隠滅に使う事もできる。このため颯姫の能力は、各地の断章騎士団から引っ張りだことなっている。「食害」は田上自身にも作用し、日常的に記憶を食い荒らされているため幼い頃の記憶はほぼ消え去り、戸籍からも存在を抹消されている。 そのためふだんは自身の記憶を補うように、首から提げたメモ帳に大切な事をメモし、自身の能力と向き合って明るく過ごしている。「灰かぶり」の泡禍では異端と化した杜塚眞衣子から一般人を隔離するため学校で「食害」を起こし、人払いを行った。

瀧 修司 (たき しゅうじ)

断章騎士団に所属する騎士。黒い喪服を羽織った青年で、かろうじて正気を保っているが断章の影響で存在そのものが悪夢となりかけており、白野蒼衣には「人間としての枠が失われつつある」と評された。所持している断章は異名と同じ「葬儀屋」と呼ばれるもので、切り裂いた対象の肉体的損壊を修復する事ができ、バラバラになった死体も血の一滴までもが元の場所に戻り、死者を生き返らせる事ができる。 ただし生き返った死者は、泡禍の影響でまともな状態ではないため、生き返ったあとは荼毘に付される。ふだんは山奥で陶芸の仕事をして生計を立てているが、泡禍で公にできない死体が発生した際に、その死体処理を任されている。誰ともまともに会話をしないが、鹿狩雅孝とは仲がよく、ふつうに会話をする。

溝口 葉耶 (みぞぐち はや)

白野蒼衣の幼なじみだった少女で、故人。読書が趣味で、年齢の割に賢かった。だが、幼さゆえに他者に配慮する事ができず、周囲から孤立しがちだった。誰にも愛されない家庭環境から、4歳にもかかわらず自傷癖と薬物服用習慣を持つようになり、小学校に上がる頃には不登校となっていた。だが、蒼衣とだけは心を許して付き合っており、二人で近所の町工場の倉庫に入り込んでは、本から得た知識で呪いの儀式ごっこをして遊んでいた。 しかし、蒼衣が成長するにつれ少しずつ彼女の世界観を拒絶するようになり、最終的に蒼衣が10歳の頃に関係が破綻。蒼衣に拒絶された際に溝口葉耶は隠し持っていたカッターの刃で自らの首を切り、それと同時に異形と化して消えた。葉耶の存在は公的には行方不明として処理され、蒼衣も事件のショックで彼女の記憶は曖昧になっていた。

杜塚 眞衣子 (もりづか まいこ)

典嶺高等学校に通う1年生の女子。白野蒼衣のクラスメイトで、眼鏡をかけている。読書を趣味としており、児童文学を好む。教室で児童文学を読んでいた蒼衣を、同じ趣味を持つ異性と思って意識しているが、人見知りな性格もあって話し掛けられずにいる。実は幼い頃に両親が離婚し、母親に虐待を受けていた。母親はかなり問題のある人物で、周囲の人間関係も悪く、杜塚眞衣子も母親にいじめられながら召使いのように都合よく扱われている。 左足部分は母親にタバコの火を押し付けられてケロイド状態。現在は母親が末期の癌である事がわかり、身動きできない母親に看護をせがまれ、学校にも行かせてもらえずにいる。実は「灰かぶり」の泡禍を引き起こしていた「潜有者」で、無意識のうちに周囲の人を異形化し、被害を引き起こしていた。 母親の死によってそれは加速し、火葬場で参列者を全員異形化し、同時に自らの足も異形化してしまう。狂気的な惨状と痛みの中、異端と化してしまい、人々の罪を浄化するという念に取り憑かれ学校を襲撃した。最後は蒼衣と本音で語り合い、彼に感謝の言葉を残して消え去った。死後は名無しによって存在そのものを抹消された。

名無し (あのにます)

「名無し(アノニマス)」の断章保持者の女性。「名無し」の断章は読んで字の如く、名前を消失させる断章で、名前が消失したものは存在そのものが抹消され、誰にも認識されなくなる。名無し自身も自分の名前が断章に食われており、ふつうの人間からは認識されず、かろうじてほかの断章の干渉を受けない断章保持者にのみ認識される存在となっている。 断章の力で「泡禍」の証拠を隠滅する仕事をしており、「灰かぶり」の泡禍が終結したあと、断章の力で杜塚眞衣子の存在を抹消した。白野蒼衣の断章の危険性を認識し、鹿狩雅孝に警告した。

集団・組織

断章騎士団 (おーだーおぶざふらぐめんつ)

泡禍の危険性を認識し、それに対抗するために作られた相互扶助組織。泡禍から生還した「断章保持者」で構成されており、各地に存在する「ロッジ」と呼ばれる場所を拠点として活動している。ほとんどのメンバーはサポートに徹しており、積極的に泡禍に対処するメンバーは「騎士(オーダー)」と呼ばれる。田上颯姫の「食害」、瀧修司の「葬儀屋」、名無しの断章など、一般人をなるべく泡禍に踏み込ませないように配慮しており、その活動は基本的に「潜有者」か「断章保持者」でなければ認識する事はできない。 また基本的に泡禍から人々を守る、潜有者を救う事を目的として活動しているため、異形を相手に大立ち回りを演じる時槻雪乃のような存在は騎士の中でも珍しいといわれている。

その他キーワード

泡禍 (ほうか)

現実にあふれかえった怪現象。人間の集合的無意識下に生まれた悪夢が切り離され、泡のように現実に浮かび上がる様から「泡禍」の名で呼ばれている。「マリシャス・テイル」という本では、集合的無意識を「神」と考え、全知なる神ゆえにすべての悪夢を見て、全能であるがゆえ悪夢を切って捨てたされており、この本になぞられて「神の悪夢」とも呼ばれている。 泡禍の原因となった人物を「潜有者(インキュベーター)」と呼び、泡禍が起きた場合、その潜有者の恐怖と泡禍が溶けて混ざり合い、潜有者の心象風景を反映した狂気的な影響が、周囲の生物や物体にもたらされる。ただし泡禍が大きなものの場合、泡禍に潜有者の個性が押しつぶされてしまい、泡禍が童話化してしまう。その場合、「元型(アーキタイプ)」ともいうべき狂気的な物語が潜有者を中心に展開され、周囲の人や物を次々に「異形」化し、大勢の犠牲者を出す事も珍しくない。 ただし童話をモチーフとして展開されるため、「元型」となった物語について知っていれば、泡禍に対して対策や予測を立てる事も可能となっている。

断章 (だんしょう)

泡禍の欠片を指す言葉。「フラグメント」ともいい、泡禍に遭遇し生き残った人間がトラウマと共に泡禍の残滓を宿したもので、「断章」を保持した者は「断章保持者(フラグメント・ホルダー)」と呼ばれる。「神の悪夢」である泡禍は一人の人間のキャパシティでは一つしか抱え込む事ができないため、断章保持者は他の泡禍で異形化する事はなく、その影響も最小限となる。 このため断章は泡禍を再現する危険な物であると同時に、泡禍に対抗するための唯一無二の手段となっている。断章保持者は自らのトラウマを刺激し、「断章詩」を唱える事で、超常的な力を振るう事ができるが、田上颯姫の「食害」の断章のように自身に影響をもたらす物も存在し、使いどころを誤ると自らの破滅を招く諸刃の剣となっている。 また断章を得るのは潜有者に限らず、時槻雪乃のように潜有者の引き起こした泡禍に巻き込まれた人間が生還し、断章を得るケースもある。

異形 (でぃじぇねれーしょん)

泡禍と遭遇した人物が、悪夢の狂気に呑まれて変貌した存在。人の姿を失って怪物と化したり、精神が変調して周囲の人間に狂気のまま襲いかかったり、非常に危険な存在となっている。基本的に異形化した人間を元に戻す方法はなく、殺害し処理される。

異端 (ひあてぃ)

泡禍の引き起こす悪夢によって正気を失った「潜有者」や「断章保持者」を指す言葉。精神的なたがが外れているため、際限なく「神の悪夢」を撒き散らす「悪夢の門」ともいえる存在と成り果てている。異端となった人間は狂気に突き動かされているため説得する事もできず、放置すると犠牲者がどんどん増えるため殺す事でしか対処できないとされている。

クレジット

原作

甲田 学人

キャラクター原案

三日月 かける

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