岸辺露伴は動かない

岸辺露伴は動かない

『ジョジョの奇妙な冒険 第4部ダイヤモンドは砕けない』の登場人物である岸辺露伴をストーリーテラーに据えたスピンオフ作品。漫画家の岸辺露伴が取材先で直面することになる、奇妙なエピソードの数々を1話完結方式で描いている。1作目にあたる『エピソード16 懺悔室』が「週刊少年ジャンプ」1997年30号に掲載されてから、約10年を経て2作目の『エピソード2 六壁坂』が「ジャンプスクエア」2008年1月号に掲載され、以後不定期に発表された作品である。タイトルにある「動かない」は、岸辺露伴が主人公ではなく、あくまでも語り部であることを意味している。

正式名称
岸辺露伴は動かない
ふりがな
きしべろはんはうごかない
作者
ジャンル
オカルト
 
ホラー
 
怪談・伝奇
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊2巻
関連商品
Amazon 楽天

世界観

本作『岸辺露伴は動かない』は『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』に登場した岸辺露伴がストーリーテラーとして物語を語る、シリーズ本編のスピンオフ作品となっている。タイトルの『岸辺露伴は動かない』には、露伴は主人公ではなく、あくまで物語のナビゲーターであるという意味が込められており、本作は「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの世界観を活かしたそれぞれのエピソードを、露伴が紹介していくストーリー展開となっている。『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』に登場したスタンド能力も登場するが、スタンド同士の戦いはほとんどなく、露伴が取材先で体験した不思議な出来事や危険な事件をスタンドで乗り切り、それを語るという内容となっている。

作品誕生のいきさつ

荒木飛呂彦は、1997年に編集部から短編執筆を依頼されたが、その際に「45ページ以内」であることと、「スピンオフ・外伝は絶対禁止」という条件が課せられた。そのため、荒木飛呂彦は当初「懺悔室」のエピソードを岸辺露伴が登場しないバージョンで描いたものの、露伴にストーリーを解説させた方が断然面白くなると考え、その結果が現在の『岸辺露伴は動かない』の形になったと語っている。荒木飛呂彦は、編集部のスピンオフ・外伝禁止令がなければ、そもそも本作を描くこともなかっただろうと語っており、そのめぐり合わせに感謝しているとも語っている。

あらすじ

漫画家の岸辺露伴は漫画編集者の泉京香から、住んだ者が必ず富豪になる奇妙な村の話を聞く。丁度、村の土地が売りに出されたことを知った京香は、露伴に漫画の取材ネタになるからと同行を願い出る。興味を引かれた露伴は京香に同行してその村を訪れるが、そこには奇妙な決まり事があった。村ではマナー違反する者は追い出される決まりとなっており、土地を買うには礼儀正しい姿で土地の主に面会しなければならないという。露伴たちは案内役の一究に導かれて部屋に案内されるが、京香は部屋に入って早々マナー違反を指摘されて失格となってしまう。京香は慌てて再試験を申し出ると、一究はそれを認める。しかし京香のもとにマナー違反をした数だけ凶報が立て続けに入り、露伴はこの土地が敬意なき者から大切な者を奪う地だと知る。露伴はヘブンズ・ドアーで一究の心を読んで脱出しようとするも、それすら重大なマナー違反と取られ、絶体絶命の危機に陥ってしまう。新たなマナー問題を試験として出されるも、露伴は機転でこれを切り抜け、一究に一矢報いて山を脱出するのだった。(エピソード「富豪村」)

露伴は打ち合わせのために、電車に乗ろうと駅に向かっていた。雨の中、混雑する駅は、なぜか歩きスマホをしている人だらけで、露伴は何度も何度も人にぶつかってしまう。そして駅のホームにたどり着いた露伴であったが、そこで露伴は後ろからぶつかられ、線路に落ちてしまう。ここに至って露伴は、この状況が何者かの攻撃によるものではないかと疑い始める。太った中年男が線路に落ちた露伴を助けるため手を差し伸べてくれたが、それすらも攻撃ではないかと疑い、露伴は躊躇(ちゅうちょ)してしまう。しかしその躊躇が命取りとなり、中年男は何者かに後ろから線路に落とされ、露伴と共に二人は侵入してきた電車に轢(ひ)かれそうになる。とっさに電車を回避した露伴は、中年男も自分と同じく、何度も歩きスマホをしている人にぶつかられていることを知る。二人は協力してこの異変から脱出を試みるも、次から次へと歩きスマホの人が線路に落ちてきて、その場は混沌(こんとん)とする。そして露伴は遅まきながら、異変のターゲットは自分ではなく中年男の方で、のちに「ロレンチーニャ」と呼ばれるようになる新種の昆虫が異変の原因だったことに気づく。持病で心臓が弱っていた中年男は群がってきたロレンチーニャに、生命電気を食われて死亡。中年男は善人で、最初に彼が手を差し伸べた時に手を取っていればと、露伴は後悔するのだった。(エピソード「月曜日 天気-雨」)

掲載情報

本作『岸辺露伴は動かない』は最初のエピソード「懺悔室」が1997年の「週刊少年ジャンプ」30号に掲載されたが、この時点では連載しておらず、「懺悔室」は1999年に発売された『死刑執行中脱獄進行中 荒木飛呂彦短編集』に収録されるのみだった。しかし、2008年に2番目のエピソード「六壁坂」が発表されたことで正式にシリーズ化し、2013年にはエピソードを集めた単行本が刊行された。掲載誌はエピソードごとに変わっており、掲載も不定期となっている。なおエピソードにはナンバリングがされているが、最初のエピソード「懺悔室」がエピソード16となっているなど、その順番は時系列や発表順に関係のない、独自のものである。

関連作品

小説

本作『岸辺露伴は動かない』のノベライズ作品として『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』と『岸辺露伴は戯れない 短編小説集』がある。作者は維羽裕介、北國ばらっど、宮本深礼、吉上亮と、複数人が執筆を担当している。短編集ではオリジナルのエピソードを展開し、それを岸辺露伴がストーリーテラーとして語るという内容となっている。

コラボレーション

グッチ

本作『岸辺露伴は動かない』はイタリアのファッションブランド「グッチ」とコラボレーションをした。当初、荒木飛呂彦のもとに『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズとのコラボレーションは指定されておらず、「グッチを題材した漫画」を描くこととなっていた。そして内容に悩んでいたところ、岸辺露伴が色々な場所に取材に行くという設定を思いつき、本作とのコラボレーションが実現した。コラボレーションで登場するグッチの服やバッグは、デザイナーのフリーダ・ジャンニーニがデザインした実在する服で、それらの服は荒木飛呂彦によって精密に描かれている。コラボレーションの漫画はファッション雑誌「SPUR」に掲載された。また、コミックスとしては『岸辺露伴は動かない』第1巻に収録されている。

メディアミックス

OVA

本作『岸辺露伴は動かない』はOVA化している。TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』とキャストは同じで、岸辺露伴を櫻井孝宏が演じている。またアニメの制作スタッフも一部共通している。OVAは『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』のBlu-ray・DVDの全巻購入者特典として2017年に制作され、本作のエピソードの一つ「富豪村」がアニメとなった。その後、2018年に本作の2巻発売に伴って、「特別版」に同梱するOVAとして「六壁坂」のエピソードが収録されている。これらのOVAは特典としてのみ販売されていたが、2021年2月18日からNetflixでこれらのエピソードを含めた4エピソードが全世界独占配信されている。アニメの内容はほぼ本作と同じだが、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』のキャラクターが多く登場し、その分露伴との掛け合いが増えているのが特徴。

TVドラマ

2020年12月28日から30日にかけて3夜連続で、本作『岸辺露伴は動かない』のTVドラマ版『岸辺露伴は動かない』が、NHK総合テレビで放送された。TVドラマ版では『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ未見の視聴者にもわかりやすくするため、一部の設定や話の展開に関しては改変されている。キャストは、岸辺露伴を高橋一生、泉京香を飯豊まりえが演じ、アニメ版で岸辺露伴役を演じた櫻井孝宏がナレーションとしてカメオ出演している。エピソードは漫画版の「富豪村」「D・N・A」と、『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』の「くしゃがら」が選ばれ、ドラマ化されている。このTVドラマ版は好評を博し、ギャラクシー賞テレビ部門の2021年1月度月間賞を受賞した。このため2021年には新たなエピソードが実写ドラマ化することが決まった。

登場人物・キャラクター

岸辺 露伴 (きしべ ろはん)

天才漫画家の男性。1979年生まれで、血液型はB型。出身地はM県S市杜王町。代表作は「ピンクダークの少年」で、面白い漫画を描くためのネタ集めには手段を選ばないエゴイスト。一方で漫画を描くことを生きがいにしており、ネタ集めのためにあえて危険に飛び込んだり、全財産をはたいて山を買ったりと、漫画のためなら自らの身も顧みない一本芯の通ったところがある。独自の価値観を持つ自己中心的な人物だが、一応、一般常識と倫理観は持っており、身に危険がせまったからといって仲間を見捨てて逃げ出したりはしない。スタンド能力「ヘブンズ・ドアー」を持ち、その力を駆使して危険を切り抜けている。取材のために訪れた場所でさまざまな怪異に巻き込まれ、ストーリーテラーとしてその地で起こった出来事を語る。

懺悔に来た男 (ざんげにきたおとこ)

岸辺露伴がヴェネツィアでの取材旅行中、懺悔室に現れた男。24歳の頃はトウモロコシの食品市場で働いていた。浮浪者の男を非道な行いから死なせてしまうが、その後常識では考えられないほどの幸福に恵まれて、大富豪に成り上がっていく。可愛い娘にも恵まれて幸せの絶頂を感じた時、死んだはずの浮浪者が現れ恐るべき出来事に見舞われる。

浮浪者の男 (ふろうしゃのおとこ)

かつて懺悔に来た男の前に現れ、働くことを条件に食べ物を懇願するが、トウモロコシ袋の下敷きになって死亡してしまった男性。そこで味わった深い絶望を味わわせるために、懺悔に来た男の人生を陰から手伝い、幸福の絶頂から叩き落とそうと彼の娘に取り憑く。自らの魂を救うため、逆恨みだと思われたまま死なれないよう、運試しを行う。

貝森 稔 (かいがもり みのる)

23歳の漫画編集者。打ち合わせの時間前に来たり、岸辺露伴にサインをねだるファンを断るなど常識的な思考を持っており、そのせいか露伴の奇行についていけず呆れる場面も。入社1年目で既婚者だが、まだ子供はいない。

大郷 楠宝子 (おおさと なおこ)

六壁坂村で300年続く味噌作りの一族の一人娘。ある日、ボーイフレンドの釜房郡平を些細なきっかけで殺害してしまい、数奇な運命に巻き込まれていく。岸辺露伴は取材で六壁坂村に訪れた際に彼女を見かけ、彼の持つ特殊能力「ヘブンズ・ドアー」によって真相を知ることになる。

釜房 郡平 (かまふさ ぐんぺい)

大郷楠宝子の屋敷を手入れする庭師で、楠宝子とは恋人の関係。彼女から別れ話を切り出されたことで口論になり、突き飛ばされて後頭部を打ちそのまま死亡。しかしなぜか死後も出血が止まらず、楠宝子の運命を翻弄していく。

修一 (しゅういち)

大郷楠宝子の父親が選んだ婚約者で、何年も前から結婚することが両家の間では決められていた。楠宝子が大学を卒業したあとは、養子という形で大郷家に入り結婚し、2人の子供に恵まれる。

泉 京香 (いずみ きょうか)

25歳の漫画編集者。岸辺露伴を連れて富豪たちが暮らす村に土地を買いに行くが、マナー違反を理由に断られてしまう。再トライを懇願するものの、ペナルティとして母親や婚約者だけでなく自身の命までも失いかけることに。その後、露伴の機転によってすんでのところで一命を取り留める。

一究 (いっきゅう)

別荘地を支配する主が暮らす屋敷で、正門からの案内人を務める少年。来客がマナー違反をしていないかどうかの監視役でもあるが、本人はいたって普通の子供であり一切の特殊能力はない。

トニオ・トラサルディー (とにおとらさるでぃー)

イタリアンレストラン「トラサルディー」を経営する男性料理人。年齢は29歳。金髪碧眼のイタリア人で、つねにコック帽をかぶっている。スタンド能力者で、岸辺露伴とは知り合い同士。トニオ・トラサルディーが持つスタンド「パール・ジャム」は作った料理にスタンドを混入させることで、その料理の薬効を大幅に高めることができる。スタンドの薬効向上は劇的な効果を持つが、料理ならなんでもいい訳ではなく、きちんと料理を食べる相手の症状に合わせて薬効ある食材を用意する必要がある。実は恋人のヴェルジーナが不治の病に冒されているが、自らの力でも治すことができず、無力感を味わっている。神前に供えられることもある特別な「クロアワビ」なら効果があるかもしれないと、クロアワビが取れる杜王町に店を開く。しかし、地元の漁師たちがクロアワビを売ってくれなかったため、地元を調べ尽くし、クロアワビの密漁を決意する。露伴にその手伝いを申し出て、彼と共に杜王町に伝わる密漁法を行う。密漁法は実は密漁者を招き寄せて一網打尽にするワナで、海中に溺れて死にかけるが、露伴の機転で救われクロアワビを持ち帰ることに成功する。

ヴェルジーナ

トニオ・トラサルディーの恋人で、故郷のアマルフィーから日本へやってきた女性。頭の中にグレープフルーツ大の腫瘍が出来ており、立って歩けないほど症状は進行している。トニオの「パール・ジャム」の能力でも治療が不可能。

望月 昇 (もちづき のぼる)

会社員として働く男性で、年齢は50歳。望月家の16代目家長で、中秋の名月の日に月見をするという望月家の決まりを何より大切にしている。月見をしなかった親戚が何人もこの日に死んでいるため、月見に懸ける情熱は半端なく、家族たちの予定を次々と強引にキャンセルして月見を行う。月見に関しては横暴に振る舞うが家族思いの人物で、望月晴瑠子が子宮頸がんの検査で陽性になった際には、月見さえすれば無事に手術も乗り切れると励ましている。

望月 晴瑠子 (もちづき はるこ)

望月昇の妻で、年齢は46歳。黒い髪を長く伸ばした女性で、専業主婦として家庭を切り盛りしている。しかし最近受けた検査の結果、子宮頸がんと診断され、そのことで思い悩んでいる。昇から月見をすれば手術も成功すると励まされ、月見に参加する。

望月 亜貴 (もちづき あき)

望月昇の娘で、年齢は21歳。母親の望月晴瑠子に似た風貌の黒い髪を長く伸ばした女性で、大学に通っている。交際中の男性がおり、彼に会うために外出しようとするが、父親に強要され、渋々月見に参加した。深夜に彼氏から電話があり、こっそり月見を抜け出して彼に会いに行く。その際、望月家のルールを破ったため、兎にスズメバチをけしかけられて殺されかける。しかし偶然、スズメバチが襲い掛かる直前に彼氏からプロポーズされ、それを受け入れたことで望月家の人間ではなくなったため、ルールの適用外となり、命を取り留める。

望月 猛 (もちづき たける)

望月昇の息子で、年齢は15歳。野球部に所属する中学生で、野球で好成績を収めて特待生として進学しようと考えている。大事な野球の試合があったが、父親に強要され、渋々月見に参加した。月見が始まってからは一転して楽しそうな様子を見せ、ラジコンで遊んだりしていた。また、そのラジコンが偶然、祖母の望月ミツにぶつかったことで祖母の命を助けている。

望月 ミツ (もちづき みつ)

望月家の祖母で、年齢は78歳。いくつもの偶然が重なって、飼っていた金魚をノドに詰まらせ、窒息死しかける。しかし月見に参加していたのが功を奏したのか、望月猛のラジコンが偶然上に落ちてきて、その衝撃で金魚を吐き出して助かった。

(うさぎ)

望月家に取り憑く謎の存在で、名前も不明。人と兎を合わせた異形の姿をしており、毎年中秋の名月の日に現れ、望月家の決まりである月見に参加しなかった人間を殺すのを役割としているが、なぜそんなことをするのかは詳細不明。決まりを破って月見から抜け出した望月亜貴にスズメバチをけしかけて殺そうとするが、亜貴が襲われる直前に彼氏と婚約したため、望月家と関係なくなったことから殺害は中断される。数合わせのために、たまたま近くにいたライダーを殺害した。殺害にはルールがあるらしく、望月家でなくなった亜貴は殺せないが、望月家でもなんでもない通りすがりのライダーを殺せるなど謎が多い。

太った中年男 (ふとったちゅうねんおとこ)

肥満体型の中年サラリーマン。心臓に持病を持っている。線路に落ちた岸辺露伴に手を差し伸べて助けようとする善人だが、当初は露伴に敵ではないかと疑われていた。歩きスマホをする人が次々自分にぶつかってくる異様な状況を恐れており、同じ状況に陥った露伴と共に駅から抜け出そうとする。ちなみにこの異変はロレンチーニャが太った中年男を狙って引き起こしたもので、最終的にロレンチーニャに殺されてしまう。太った中年男の死にざまを見た露伴は、自分が敵と疑って躊躇したことにより、善人を死なせてしまったのを悔いることとなった。

山岸 由花子 (やまぎし ゆかこ)

黒い髪を長く伸ばした女子高校生。岸辺露伴とは知り合い同士で、母親の知人である片平真依を露伴に紹介し、露伴に彼女の悩みを解決してほしいと頼む。露伴の様子がいつもと違うのに戸惑い、彼の行動にツッコむ。スタンド能力者で、露伴のヘブンズ・ドアーも見れるため、露伴が片平真央にヘブンズ・ドアーを使った際にそれを覗き見て、真依に「真央の父親の情報」を伝えた。その後も真依たちのことを気にかけており、事の顛末まで見届けたあと、露伴にそれを報告して彼を驚かせた。

片平 真依 (かたひら まい)

片平真央の母親。15年前、新婚時代に夫を事故で亡くしており、そのショックで未だに独り身。再婚はできなくとも子供は欲しかったため、38歳の時に精子バンクから提供を受け、娘の真央を授かる。しかし、娘にはふつうではない特徴が次々と現れたため、いじめなどに遭わないようにそれを改善したいと思っている。知人の娘である山岸由花子の紹介で、岸辺露伴と出会うが、彼はこれが真央にとってふつうで「何も問題はない」と取り合わなかった。その際、ヘブンズ・ドアーを覗き見た由花子から「真央の父親の情報」を伝えられ、尾花沢と出会う。真央のいたずらで尾花沢を誘拐犯と勘違いして食ってかかるが、程なくして誤解を解く。そして彼の過去と仕草が、かつて死んだ元夫とそっくりだったことに気づき、尾花沢に好意を寄せるようになる。その後、3か月の交際期間を経て尾花沢と再婚している。由花子は真央がすべてに気づいており、真依と尾花沢を引き合わせるためにいたずらをしたのではないかと推測している。

片平 真央 (かたひら まお)

片平真依の娘で、年齢は3歳。まつげが目の下部分にしか生えなかったり、言葉をすべて逆にしてしゃべったり、歩くときはいっさい音を立てず、立っている場所がじっとりと濡れていたりと、特殊な特徴を数多く持つ。また、ふだんは服で隠しているが、お尻の部分に尻尾があり、これに触ると服も含めて保護色となり、他者の目からは見えにくくなる。岸辺露伴がヘブンズ・ドアーで真央を見たところ、この尻尾は真央の心が形となった「見えるスタンド」とでもいうべきもので、この尻尾を含めて片平真央自身の個性だと断じている。尾花沢が保育園を訪れた際に、保護色になっていたずらをして二人を引き合わせる。

尾花沢 (おばなざわ)

山形市在住の男性。まつげが目の下だけにあったり、歩いた場所がじっとり濡れていたりするなど、片平真央と似た特徴を持っている。一児の父だが、離婚しており、息子と会うために週に一、二回ほどS市を訪れている。片平真依とは偶然、駅で出会ったあと、保育園で真央のいたずらをきっかけにして、真依と交友を育むこととなる。高校時代、登山中に滑落事故に遭って一度死亡。蘇生した過去があり、額に大きな傷を名残として留めている。また、その際の反省から危険なことはしない主義となっている。事故に遭ったのは15年前で、真依が夫を亡くしたのと同時期だった以外にも、癖や仕草が真依の夫と同じなど、多くの共通点を持つ。口癖は「きっといいヤツ」で、これも真依の夫と同じ口癖であり、真央もこの言葉だけは逆さま言葉にせず、そのまま言っている。精子バンクに登録しており、遺伝子上は真央の父親。真依とは出会ったあと、3か月の交際期間を経て再婚している。

橋本 陽馬 (はしもと ようま)

俳優志望の青年で、年齢は21歳。身長は178センチ。極々ふつうの青年だったが、原宿に遊びに行った際に、モデル・プロダクションにスカウトされ、担当者のアドバイスを受けて筋肉のトレーニングにはまるようになる。当初はジムに通ってトレーナーに言われるままトレーニングするだけだったが、成果が現れ始めると、自らの筋肉に強い執着を見せるようになり、次第に生活のすべてをトレーニング中心に考えて異常行動を取り始める。早村ミカと付き合っており、当初は仲睦まじかったが、トレーニングを始めてからは次第に険悪な関係となり、最終的にトレーニングに邪魔だからとミカを殺害している。まともだった頃、岸辺露伴とトレッドミルを使った勝負をしていたが敗北。露伴とリベンジマッチを行うが、その際には現在の異常な状態となっており、超人的な身体能力で露伴を追い詰める。「公正のもとでなければ人は成長しない」という持論を持ち、前回の勝負で露伴がテーブルを叩いて自分に有利な状況をつくったことを指摘し、彼の右指を2本残して折ったり、トレッドミルの背後にある窓を破壊したりしている。露伴がヘブンズ・ドアーで見たところ、ミカ以外の人間もトレーニングに邪魔だからと殺害しており、勝負に勝ったら露伴のことも殺すつもりだった。ヘブンズ・ドアーで行動を操作されたことで露伴に敗北し、割れた窓から地上に墜落した。しかし露伴は橋本陽馬が生きていることを確信しており、窓から下を覗き込めば自分が殺されると考え、すぐさまその場をあとにした。露伴は陽馬の体の一部が翼の形に変貌しているのに気づいており、筋肉の神「ヘルメス」に取り憑かれているのではないかと推測している。

早村 ミカ (はやむら みか)

橋本陽馬の恋人の女性で、年齢は25歳。当初は陽馬が筋肉トレーニングをするのにも賛成し、仲睦まじい様子で同棲していたが、次第に陽馬の異常な行動に戸惑うようになる。そして、早村ミカ自身のキャッシュカードから勝手に27万円を引き出され、そのお金で自分の部屋にボルダリング場を作られたことで我慢の限界に達し、別れを切り出す。その後、陽馬に首の骨を折られて死亡。死体はボルダリング場の壁の裏に、セメントで固めて隠蔽された。

その他キーワード

ヘブンズ・ドアー

岸辺露伴のスタンド能力。露伴の描く漫画「ピンクダークの少年」の主人公と同じ帽子をかぶった少年の姿をしたスタンドで、対象を「本」にする能力を持つ。本には対象の情報が書き込まれており、これを読むことで対象の詳細な情報を知ることができる。また、対象の本に新たな記述を付け加えることで、対象の行動を制限したり、命令を強制したりすることができる。対象となるのは人間はもちろん、動物や無生物でも可能。露伴は骨付き肉を本にすることで、その賞味期限を確認したりもしている。露伴自身にヘブンズ・ドアーを使うこともできるが、自分の遠い記憶や運命を見ることはできない。

六壁坂 (むつかべざか)

六壁坂村で岸辺露伴が発見した謎の妖怪。名前も露伴が命名した。一見すると人間とまったく同じ姿をしており、人間社会に溶け込むようにふつうに生活している。しかし愛するべき存在を見つけると、その人の目の前で事故を装って死亡する。死体は死んでいるにもかかわわらずいつまでも血が流れ続け、永遠と死に続ける謎の特性を持つ。この特性を使って、愛する存在の目の前で死に、その人が社会的に孤立する状況をつくり出して、自らの死体を隠蔽させる。人間の愛と心の弱点をついて、自分は何もせずに自分の死体を世話をさせるのを目的としている。死体は腐ることもなく、放置しておくと干からびたみたいになるが、コップ一杯分の水を霧吹きでかけると生前と同じ姿に戻る。また、死体にもかかわらず生殖能力を持っており、愛する人と子供を作ることもできる。子供も妖怪の特性を受け継ぎ、新たな獲物を探して、寄生することとなる。露伴は釜房郡平の子供と遭遇した際、その子に取り憑かれそうになったことでその本質を理解し、「子孫だけを残すのを目的とした妖怪」と語っている。また、露伴はヘブンズ・ドアーを使って取り憑かれるのを防ぐ際に、子供の顔が人間とは思えない形に変貌し、この妖怪の醜悪な本性ともいえる姿を目にしている。

ロレンチーニャ

新種の昆虫。学名は「コーイレ・エレクトリカス・ロレンチーニャ」。電子機器の集積回路に住み着いて繁殖する昆虫で、機械の回路と昆虫を組み合わせたような姿をしている。「電磁波」を主食とし、一匹二匹では携帯電話の電気を盗み食いするだけでさほど危険性はない。しかし、ロレンチーニャが大量に集まると、口からゼリー状の物質を出して、周囲の生物に対し攻撃を繰り出すことがある。特に「心臓」の弱い生物に対して攻撃を繰り出すことが多く、携帯電話やスマートフォンに寄生したロレンチーニャの場合、電気信号を無意識にスマートフォンの所有者に送り、心臓の弱い生物まで自分を誘導することがある。心臓の弱い生物に襲い掛かる理由は不明で、岸辺露伴は殺して生命電気を奪うか、もしくは生かして程よく生命電気を奪おうとしているのではないかと推測している。

関連

ジョジョの奇妙な冒険シリーズ (じょじょのきみょうなぼうけんしりーず)

荒木飛呂彦の代表作。最初は「週刊少年ジャンプ」、Part7『スティール・ボール・ラン』の途中から「ウルトラジャンプ」に舞台を移して長期にわたって連載。「日本のメディア芸術100選」(2006年)のマン... 関連ページ:ジョジョの奇妙な冒険シリーズ

岸辺露伴 グッチへ行く (きしべろはん ぐっちへいく)

『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』のスピンオフ作品であり、『岸部露伴は動かない』シリーズの一作。ファッションブランド「GUCCI」が設立90周年を記念したコラボ作品で、ファッ... 関連ページ:岸辺露伴 グッチへ行く

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (きしべろはん るーゔるへゆく)

ルーヴル美術館の「BD(バンドデシネ)プロジェクト」の一環として描かれた作品。2009年1月に同美術館の開催した企画展「小さなデッサン展 ─漫画の世界でルーヴルを─」の会場で原画が展示され、作者の荒木... 関連ページ:岸辺露伴 ルーヴルへ行く

書誌情報

岸辺露伴は動かない 2巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第1巻

(2013-11-19発行、 978-4088708720)

第2巻

(2018-07-19発行、 978-4088815572)

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