概要・あらすじ
人類が惑星改造をしてから1万年の歳月が経った未来の金星。樹高1000メートル以上もある木々に覆い尽くされた森の中で、人々はかつての文明の恩恵を受けることなく暮らしていた。そんな中、狩猟を中心として暮らしを立てているスズシロの村に住む若者ヒルコは、人語を解する「シシザル」と呼ばれる生き物に見込まれ、森全体を支配する王になるべく導かれていく。
そして冒険の旅に出ることになったヒルコは、さまざまな生物や人間たちと長く激しい戦いを繰り広げていくことになる。
登場人物・キャラクター
ヒルコ
金星にある「スズシロの村」で育った青年。村の若衆頭で、高い身体能力・戦闘力を備えるほか、霊を見ることのできる力を持っている。凶暴な動物であるシシザルを倒した者のみに与えられる「獅子猛者」の称号を持ち、その強さを周囲に認められているほか、面倒見が良いこともあって人望は厚い。ケダモノのような男馳雄と、「スズシロの村」の女・ミズキの間に生まれたが、ミズキはヒルコが生まれてからすぐに死亡。 赤ん坊だった彼は虫を喰らうなどして、森の中で数年間独力で生き抜いた。その後大爺によって拾われ、「スズシロの村」で成長する。狩りの最中に、シシザルの肉体に宿った精霊によって見込まれ、さまざまな災難と冒険を強いられていく。「スズシロの村」に住む少女マユミから想いを寄せられている。
マユミ
金星にある「スズシロの村」に住む娘。ヒルコに想いを寄せる少女。本来、同じ村の男と結ばれることは禁じられているのだが、ヒルコへの想いを断ち切れずにいる。ヒルコを想うあまり、短絡的な行動に出てしまうことが多い。そのせいで虜囚となるなどの苦難を味わう。村を出たヒルコを追う過程で、鳥たちと意思を疎通できる「翼の声」の能力を持つことが判明し、鳥を操る「鳥飼いの一族」の長の候補となった。
ナズナ
金星にある「スズシロの村」出身の女性。15年前に「オチボの村」へ嫁いだが、死産の子供が多いという理由で村を追放された。しかしそれは表向きの理由で、実際は男尊女卑の傾向が著しかった村の改革を志していたことを疎まれての措置だった。「オチボの村」を追われてからは「落人の村」に身を寄せ、さらに悪霊のイナンナに取り憑かれて人々を煽動し、殺戮を繰り返すようになってしまう。 「スズシロの村」にいたころは、村内の恋愛を禁ずる戒めがありながら、サカキと相思相愛の状態にあった。
シバ
金星にある「スズシロの村」の若衆。かつては別の村に住んでいたが、村内の女と関係してしまい、村を追放された。瀕死の状態にあったところをヒルコに助けられ、彼を神のように崇拝している。優れた彫刻の腕を持ち、彼の作った工芸品は市場で高値で取引されている。その腕を見込んだ少女の霊により、地球を再現する彫り物を作るよう定められた。
ゲンゲ
金星にある「スズシロの村」の若衆でヒルコと親しい。吃音でうまくしゃべることができないが、内面は思慮深い。ヒルコが「スズシロの村」から旅立ち、金星の地表世界である「地獄」へ向かったさい、ただ一人彼に付き添った。その旅の道中、瀕死の重傷を負ったがロウエルの操るガンダルフにより癒される。 治療の最中にヒルコと離ればなれとなり、ヒルコとは別個に金星でのさまざまな戦いを経験していく。
サカキ
金星にある「スズシロの村」の親方。ヒルコには及ばぬながら高い戦闘力を持ち、統率力も兼ね備えている。ヒルコが村を去った後も、攻め落とされた「スズシロの村」の衆を束ね、他の村との協力体制を築こうと尽力した。かつて「スズシロの村」にいたナズナとは相思相愛の関係にあったが、彼女がオチボの村に嫁いだことで引き裂かれた。 その後もナズナへの想いを捨てきれず、彼女のことになると持ち前の冷静さを失い、感情的になる。
精霊 (せいれい)
金星に宿る超常的な存在。金星を危機から救う存在としてヒルコに目をつけ、彼を過酷な運命に直面させるとともに、その導き手となある。最初は凶暴なサル型の生物であるシシザルに憑依してヒルコの前に現れ、それ以降もさまざまな動物の身体に宿り、ヒルコや金星の民を導いていく。
馳雄 (はせお)
金星に住むケダモノのような人間。ヒルコの父親で、「スズシロの森」に住んでいた女性・ミズキを暴行し孕ませた。人間離れした身体能力の持ち主で非常に凶暴。「ヤドリタケ」という菌類のような物質を他者に寄生させて、人を操ることができる。
イナンナ
金星の改造を目的とした「管理機構」によって虐殺され、悪霊と化した地球人の女医。金星の社会の破壊をもくろみ、大量の霊を取り込み肥大化した。「スズシロの村」出身の女性ナズナを操って人々を凶行に走らせたほか、馳雄にも影響力を持っている。
ロウエル
金星を管理する人間。地球のイングランド出身。金星の現状を監視すべく、たびたびロボットの「ガンダルフ」に精神を宿らせて、ヒルコら金星の人間たちに干渉している。
場所
金星 (きんせい)
人類が3世紀かけて作り替えた後、1万年が過ぎた金星。現在では金星という呼び名も使われていない。樹高1000メートルを超す巨大な森に全体を覆われている。最上層で樹木の葉がある「樹冠部」、樹木の枝や幹で構成される「人間界」、地表部であり「地獄」と呼ばれる三つの領域に分けられている。人間のほか、さまざまな巨大生物などが棲息している。