最果てのパラディン

最果てのパラディン

柳野かなたの小説『最果てのパラディン』のコミカライズ作品。異世界への転生をきっかけに生きることの意味を知ったウィリアム・G・マリーブラッドは、家族を救うために己の人生を女神に捧げ、邪悪と戦う誓いを立てる。光と闇の戦いを独特の世界観で描く、幻想冒険譚。「コミックガルド」で2017年9月25日から配信の作品。2021年10月にTVアニメ化。

正式名称
最果てのパラディン
ふりがな
さいはてのぱらでぃん
原作者
柳野 かなた
漫画
ジャンル
バトル
 
ファンタジー
レーベル
ガルドコミックス(オーバーラップ)
巻数
既刊10巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

死者の街の少年

無為な人生を送って死んだ一人の日本人男性は、気づくと異世界で赤ん坊となり、奇妙な三人の不死者(アンデッド)に世話をされていた。男性は最初は不死者を不気味に思っていたが、彼らに「ウィリアム」と名づけられ、世話をされていくうちに、少しずつ周囲への理解を深め、彼らと交友を育んでいく。そして最初は新たな生を、前世を無為に過ごした罰ととらえていたが、生き直すことができる「恩寵」と思い、ウィリアムは今度こそちゃんと生きることを誓う。三人の不死者、ブラッドマリーガスのこともウィリアムは次第に実の家族のように思い、ウィリアムは彼らから「ことば」や「」のこと、そして武術を習いつつ、すくすくと育つ。やがて13歳の少年へと成長したウィリアムは、ブラッドに鍛錬として死者の街の地下に住まう魔物たちの退治を命じられる。苦戦しつつも悪魔を打ち倒したウィリアムだったが、そこに現れたのはガスで、彼は無言のままウィリアムに襲い掛かる。ガスはウィリアムを事故に見せかけて殺そうとするが、すんでのところで思い直し、ウィリアムにこれは訓練だったと誤魔化す。ウィリアムは疑問に思いつつも、そのことを深く追求せず、再び彼らと和気あいあいとした日々に戻る。

果たされる約束

この世界では冬至が1年の始まりとなっており、15歳の冬至の日が成人の日として扱われている。ウィリアムは順調に成長し、その日を迎えようとしていた。しかしある日、ウィリアムはガスから、冬至の前日にブラッドはウィリアムに勝負を持ち掛けるが、わざと負けてほしいと奇妙な頼みを聞かされる。事情も明かさずに、ブラッドに自分が一人前の戦士と証明する真剣勝負を負けてほしいと言うガスに、ウィリアムは怒ってこれを拒絶する。そして迎える冬至の前日、ウィリアムはブラッドと一騎打ちの戦いでみごと撃破。ブラッドから成人の祝いとして、彼の持つ最強の魔剣「オーバーイーター」を託される。そして、その魔剣を持っていた恐るべき「上王」の話を聞かされるのだった。かつて生前のブラッドたちは上王によって世界が崩壊しかかる中、決死の作戦で上王を封印することに成功するが、そこで力尽きてしまう。封印を守るため、不死なる神・スタグネイトと契約した彼らは、以降、200年にわたって死者の街で上王の封印を守り続けてきたのだ。しかし悪魔たちは上王の封印を解くべく、人間の赤子を運んできた。悪魔たちは打ち倒されたものの、赤子を保護したブラッドたちは街を離れるわけにもいかず、その赤子を育てることを決める。その赤子こそウィリアムで、ウィリアムは長年の疑問が氷解することとなる。そしてブラッドたちの話が終わった瞬間、そこにスタグネイトの木霊が降臨する。ブラッドたちはウィリアムが一人前に成長したことで、生きることへの執着が薄れ、スタグネイトにその魂を奪われ始めたのだ。ガスが木霊を破壊するものの、スタグネイトはあらかじめ力を分割しており、ガスはスタグネイトの攻撃で戦闘不能となってしまう。そしてウィリアムは、ガスの真意を知り、彼らを救うべくスタグネイトと戦う決意を固める。

旅立ち

スタグネイトと戦う覚悟を決めたウィリアムだったが、悪神とはいえ神の力を持つスタグネイトの力は強大で、ウィリアムは彼の放った毒で命の危機に瀕してしまう。そして生と死の狭間に立ったウィリアムは、そこで流転の神・グレイスフィールとまみえる。前世と違い、今世では「ちゃんと生きた」ことで、生と死は共に価値あるものだと実感し、ウィリアムはグレイスフィールに誓いを立てることで、その加護を得ることに成功する。ブラッドマリーガスの三人と共に過ごした時間は、ウィリアムの力を開花させ、ウィリアムはグレイスフィールの加護の力を引き出し、瞬く間にスタグネイトの不死の力を打ち払う。なおもスタグネイトはマリーの魂を奪おうとするが、マリーに加護を与える地母神・マーテルがそれを阻み、スタグネイトはオーバーイーターによって切り裂かれて消滅するのだった。しかしそれは同時に、ブラッドたちが不死の加護を失うのを意味していた。ウィリアムは涙ながら彼らと別れを交わし、グレイスフィールの加護で彼らを見送るのだった。だが、ガスは上王の封印を守るのと引き換えに、グレイスフィールからちゃっかり猶予をもらっており、現世に留まっていた。グレイスフィールから上王の対処を命じられたウィリアムは、そのために生まれ育った死者の街を旅立つことを決める。ガスに見送られたウィリアムは、彼から「マリーブラッド」の姓と、「G」のミドルネームをもらい、「ウィリアム・G・マリーブラッド」と名を改め、故郷の街をあとにするのだった。

獣の森の射手

旅を始めたウィリアム・G・マリーブラッドは、獣の森で偶然、ハーフエルフの狩人・メネルドールと出会う。ぶっきらぼうながら、ウィリアムは彼に道を教わったことで、街への行き方を知る。そしてメネルドールと別れ、ウィリアムは野宿を始めるが、そこでウィリアムはグレイスフィールから啓示を授かり、メネルドールが燃え盛る村にいる光景を見る。彼の身に危機がせまっていると感じたウィリアムは、すぐさま近くの村を探し出し、村人が賊に襲われていたのを助ける。しかしウィリアムは、そこでメネルドールこそが賊の正体だったことに気づく。メネルドールたちを返り討ちにしたウィリアムは、捕まえた賊が近隣の村の住人だったことを知り、賊と村人の仲裁を申し出る。メネルドールの態度から何かがあると思ったウィリアムは、彼らが悪魔に襲われ、難民と化したことを聞き出し、問題を根本から解決すべく、悪魔たちの討伐に名乗り出る。メネルドールを案内人とすることで、一時的に彼を罪人から解放し、ウィリアムはメネルドールと共に悪魔たちと戦う。ウィリアムは危なげなく悪魔たちを討伐し、亡くなった村人たちを供養する。そして、メネルドールも亡霊と化した村人がきちんと供養され、恩人であるマープルの亡霊に諭されたことで、罪を償って前を歩く決意を固める。メネルドールはウィリアムに感謝し、彼に力を貸す道を選ぶのだった。ウィリアムたちは荒らされた村を復興するため、白帆の都を目指すが、その道中、ロビィナ・グッドフェローアントニオと出会う。新たな同行人が増え、賑やかさを増す一行は白帆の都に到着し、活気ある街での生活を堪能する。しかしそこに突如、飛竜が襲来して街を混乱に叩き落とすのだった。

最果ての聖騎士

白帆の都は飛竜に襲われ、多くの人々が逃げ惑う混乱が巻き起こる。ウィリアム・G・マリーブラッドは仲間たちと協力し、辛うじて飛竜を打ち倒すことに成功する。怪しげな戦士が飛竜を倒したことで、人々から強く警戒されるが、ロビィナ・グッドフェローアントニオがとっさに機転を利かしたことで、ウィリアムは飛竜殺しの英雄として人々に受け入れられる。そして街を治める王弟、エセルバルト・レックス・サウスマークに招かれたウィリアムは、飛竜を殺した名声と、グレイスフィールの使徒である事実を盾に、彼から兵を率いる許可を願い出る。獣の森悪魔たちを倒し、上王の封印を守るためにも兵が必要だが、当然ながら私兵を集める申し出は権力者から警戒されて然るべきで、交渉はウィリアムの予想どおり難航する。しかし、エセルバルトはウィリアムの人柄を気に入り、バート・バグリーの執り成しもあり、神殿と国でウィリアムの提案を受け入れ、彼を一代限りの「聖騎士」へと任命することを決める。名目上は一神官が行う慈善事業という形をとることで、ウィリアムは獣の森での采配を任されることとなる。そして神殿と在野から人材を集めたウィリアムは、泥臭い冒険を生きがいとする冒険野郎たちを率いて、悪魔たちと戦う。しかしある日、悪魔と行動を共にするキマイラと遭遇。キマイラは知能の高い魔獣で、あまたの魔獣とワナを駆使してウィリアムを苦戦させ、メネルドールはその戦いで大きな負傷を負ってしまう。ウィリアムは大きく意気消沈し、半ば自暴自棄になって一人で戦おうとするものの、負傷をおして戦うメネルドールに説得され、すんでのところで踏みとどまる。そして、ウィリアムは仲間たちと共にキマイラと再戦。これをみごと打ち取るのだった。

灯火の川港

ウィリアム・G・マリーブラッドはキマイラを倒し、それを率いていた悪魔の首魁を討ったことで、また一つ獣の森を人間の手に戻すことに成功する。ウィリアムは聖騎士として悪魔を討伐しつつ、獣の森の騒動を一つ一つ解決していく。そして気づけばウィリアムは、名実ともに獣の森の領主のような存在となっており、活動拠点としていた遺跡の跡地は、灯火の川港と呼ばれる街へと発展していた。アントニオの尽力で街の商売も軌道に乗り、ウィリアムはロビィナ・グッドフェローからブラッドたち三英傑が過去に残した武勲詩を聞いたり、知識を求めて賢者の学院に行ったりと忙しない日々を送っていた。そして月日は過ぎ去り、ウィリアムは聖騎士に任命されて2年が経っていた。ウィリアムは獣の森に異変が起きているのに気づき、メネルドールと共にその調査に赴く。そして、森の中枢である森の双子王が悪魔たちに狂わされたことを知る。双子王の樫の木の王からヒイラギの王へ、森の王権が正しく渡らず森の季節は狂ってしまったのだ。樫の木の王からメネルドールは一時的に王権を預かり、ウィリアムたちはそれをヒイラギの王へと届ける。ヒイラギの王の座所は将軍級の悪魔に占拠されていたが、ウィリアムはこれを撃破。無事にヒイラギの王へ王権を渡すことに成功する。しかしウィリアムたちは、そこでヒイラギの王からそう遠くない未来、鉄錆山脈より人に仇を成す災いが訪れると予言をされるのだった。

鉄錆の山の王

ウィリアム・G・マリーブラッドマープルの言葉と、ヒイラギの王の予言から、鉄錆山脈悪魔たちの本拠地があり、そこで何かが起きることを確信する。それを調べるため、灯火の川港に移民したドワーフたちに話を聞きに行く。鉄錆山脈にはかつてドワーフの王国「くろがねの国」が存在し、200年前の大崩壊(ブレイクダウン)によってドワーフたちは流浪の民となっていたのだ。しかし、鉄錆山脈でどのような戦いがあったのか、ドワーフたちは黙して語らず、なかなか情報は集まらなかった。だが、頑迷なドワーフも流浪の民となった一族を救ったウィリアムには恩を感じており、彼が直接訪ねたことで、古参のドワーフから最後のドワーフ王・アウルヴァングルの話を聞き、鉄錆山脈には神代の邪竜・ヴァラキアカが眠っているのを知る。ウィリアムは悪魔たちを超える脅威がせまっているのを知り、その準備に奔走する。そんな中、ウィリアムは一人のドワーフ・ヴィンダールヴと出会う。気性は優しいが、臆病で一歩を踏み出せずにいるヴィンダールヴに、ウィリアムは前世の自分を重ね合わせ、彼に自分の従士をやらないかと提案する。ドワーフたちにとってヴィンダールヴは特別な存在で、周囲からは止められるものの、ヴィンダールヴは勇気を出して一歩を踏み出し、ウィリアムに戦士の作法で己の「まこと」を差し出す。ウィリアムは彼の見せた勇気に応え、従士として取り立てるのだった。

関連作品

小説

本作『最果てのパラディン』は、柳野かなたの小説『最果てのパラディン』を原作としている。原作小説版は2015年5月1日より小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、オーバーラップ文庫より書籍版が刊行されている。イラストは輪くすさがが担当している。小説版も本作と同じで、転生をきっかけに生きることの意味を知ったウィリアム・G・マリーブラッドが、女神・グレイスフィールに誓いを捧げ、邪悪な者たちと戦う冒険譚となっている。

TVアニメ

2021年10月、本作『最果てのパラディン』の原作である小説版『最果てのパラディン』を基にしたTVアニメ版『最果てのパラディン』が、TOKYO MX、AT-X、BS日テレほかで放送された。キャストは、ウィリアム・G・マリーブラッドを河瀬茉希、ブラッドを小西克幸、マリーを堀江由衣、ガスを飛田展男が演じている。

登場人物・キャラクター

ウィリアム・G・マリーブラッド

現代日本から転生した男性。赤子となっていたところをブラッド、マリー、ガスの三人の不死者(アンデッド)に育てられ、彼らに「ウィリアム」と名づけられた。前世は失意と怠惰にまみれた人生を送っており、自殺する勇気もなく、ただ無為に日々を送っていた。当初は、今生は無為に死んだ前世への罰と思っていたが、ブラッドたちと過ごすうちに「ちゃんと生きる」ことの意味を知り、彼らを実の家族と思うようになる。しかし15歳となり、一人前に成長したことでブラッドとマリーはその成長に満足し、不死者としての生に執着をなくしてしまう。執着をなくしたブラッドとマリーは、不死神・スタグネイトに魂を奪われそうになり、ウィリアムはそれを阻止するために立ち上がる。スタグネイトの甘言を跳ね除けて彼と戦うが敗北。死の一歩手前まで追い詰められるが、そこであらためて女神・グレイスフィールから覚悟を問われ、それに答えたことでグレイスフィールの加護を得る。グレイスフィールへの「生涯を捧げて、グレイスフィールの剣となる」という強い誓いで、グレイスフィールから強い加護を与えられたが、その分、生き方をグレイスフィールに縛られる非常に重い誓いとなっている。ウィリアム自身は「家族を救えるなら安いもの」と、その誓いを後悔していない。戦士であるブラッド、神官であるマリー、魔法使いであるガスから、それぞれの知識と技術を教わり、ブラッドから上王の愛剣「オーバーイーター」を託されたため、グレイスフィールから加護を与えられたばかりにもかかわらず祝祷術をあやつり、スタグネイトの木霊を撃退している。ブラッドとマリーの成仏を見届けたあと、ガスから「マリーブラッド」の姓と「G」のミドルネームをもらい、名を「ウィリアム・G・マリーブラッド」とする。グレイスフィールから啓示を受け、封印された上王に対抗するため、各地を巡る旅に出る。白帆の都で飛竜殺しをしたのを皮切りに、武勲が集まるようになり、エセルバルト・レックス・サウスマークに騎士に任命されたことで、「最果ての聖騎士」と呼ばれるようになる。

グレイスフィール

善神の一柱で、魂と輪廻を司る生々流転の女神。淡い灯りがともったカンテラを持ち、目深にフード付きのローブを身にまとった女性の姿をしている。闇の中、カンテラの灯りで死者を導くため「灯火の神」とも呼ばれる。固有の祝祷術は「聖なる灯火の導き(ディバイン・トーチ)」で、不死者(アンデッド)に安寧を与え、迷う魂を導く、聖なる灯火を生み出すことができる。「生は死のうちにこそ、あるべければ」と言い、死があるからこそ命の重さは尊いと考え、不死神・スタグネイトの死を否定する考え方を否定している。転生して「ちゃんと生きた」ことで、死と生への理解を深めたウィリアム・G・マリーブラッドに己の加護を与えている。善なる神で、主に南辺境大陸(サウスマーク)で信仰されていたが、200年前の大崩壊(ブレイクダウン)によって信仰基盤が破壊され、信徒たちは方々に散ってしまっている。神々の力は信仰によるため、現在はほとんど力を失い、信仰する人も少ない。そのため、六大神のヴォールトとマーテルの娘だとされるが、六大神には数えられていない。ウィリアムが生涯を捧げてグレイスフィールの剣となる誓いをしたため、彼にたびたび啓示をして導いている。

ブラッド

スケルトンの男性。骸骨姿ながら体格がよく、頭からは赤い髪を長く伸ばしている。ウィリアムの育ての親の一人で、彼からは父親扱いされている。豪放磊落とした性格で、ウィリアムに武器の使い方と戦い方、それに戦士の心意気を教えた。実は上王を倒した「三英傑」の一人で、「戦鬼」の異名を持つ歴戦の戦士。単身で悪魔の砦を落とすほどの強者で、当時、生きては帰れない上王との戦いにも覚悟を決めて参戦し、上王のオーバーイーターを奪った。しかし、真の力を解放した上王の剣の腕前に強い敗北感を実感し、己の限界を悟ってしまう。スタグネイトとの取り引きで不死者(アンデッド)となったことで、不死者は成長しないという事実に一層打ちのめされ、自分では上王には決して勝てないと思っている。その一方で、ウィリアムを育てることに楽しさを見いだしており、ウィリアムなら自分を超える戦士になるのではないかと期待している。優秀な戦士だが、なんでも腕力で解決しようとする「脳筋」のきらいがあり、この気質もウィリアムに受け継がれている。マリーとは人間だった頃からの恋仲。上王との戦いにマリーは連れていかないつもりだったが、連れていかなければ自刃するというマリーの言葉に負け、彼女と共に最後まで戦い抜く。その際にもし生き延びてマリーとのあいだに子供が生まれたら、意思を曲げない子供になることを祈って「意志の兜」を意味する「ウィリアム」と名づけることを決めていた。ウィリアムが成人したことで、不死者としての生に執着がなくなり、スタグネイトに魂を奪われそうになるが、ウィリアムがスタグネイトの木霊を打ち倒したことで、グレイスフィールに導かれて成仏していった。その名は「ウィリアム・G・マリーブラッド」の姓に受け継がれた。

マリー

ミイラの女性。土色の肌を持ち、神官たちが着用するような祭服を身にまとっている。頭にはウィンプルのようなものをかぶり、目元を隠している。ウィリアムの育ての親の一人で、彼からは母親扱いされている。おしとやかで優しい性格をしており、ウィリアムに神のことや、お祈りの仕方を教えた。実は上王を倒した「三英傑」の一人で、「地母神の愛娘」の異名を持つ地母神・マーテルの神官。生前は吟遊詩人の歌で聖女とも謳われるほど高位の神官で、ブラッドを無理やり説き伏せ、彼と共に生きては帰れない上王との戦いに参戦する。上王との戦いが敗北濃厚となった際に、マーテルの奇跡で上王を地中深くに封印する。封印を守るためにスタグネイトとの取り引きを交わすものの、神官の身でありながら悪神と取り引きを交わしたため、火だるまとなり、ミイラとなってしまう。不死者(アンデッド)となったあともマーテルを裏切ったことを後悔し、マーテルが自分に罰を与えるのも当然だと思っている。ウィリアムのことは本当の我が子と思っており、彼のためにマーテルに祈って聖餅(せいへい)を得ているが、そのたびにマーテルに火あぶりにされている。のちにウィリアムにそのことを気づかれ、火あぶりになったマリーを助けようとしたウィリアムは、その両腕を聖火で焼かれ、大きなヤケドを負っている。これ以降、ウィリアムは神の真意について考えるようになり、二人はいっしょにお祈りをするようになる。実はマーテルはマリーが不死者になってからも気に掛けており、加護をはく奪せず見守り続けていた。火あぶりをしていたのも、マリー自身が罪悪感を感じていたためで、あえて厳しく接してマリーの心を救っていた。スタグネイトに魂を奪われそうになった際、マーテルがマリーの魂を守ったのを見て、マリーは遅まきながら神意を理解して涙した。その後、ウィリアムがスタグネイトの木霊を打ち倒したことで、グレイスフィールに導かれて成仏していった。その名は「ウィリアム・G・マリーブラッド」の姓に受け継がれた。

ガス

ゴーストの老爺。黒いマントにとんがり帽子をかぶり、魔法使い然とした姿をしている。ウィリアムの育ての親の一人で、彼からは祖父扱いされている。本名は「オーガスタス」だが、専ら愛称の「ガス」と呼ばれる。気難しく、幽霊にもかかわらず金に汚い性格をしているが、博識でことばへの造詣が深い。ウィリアムにことばの知識と危険性、それに金の使い方を教えた。守護神である風神ワールへの誓いは「好きなことやって面白おかしく生きる」で、ウィリアムからはその柔軟で型破りな思考を「ロック」だと言われ、本人もその響きを気に入っている。実は上王を倒した「三英傑」の一人で、「彷徨賢者」の異名を持つ高名な魔法使い。吟遊詩人の歌にも出てくる有名人だが、本来の名を隠して活動していたため、その知名度に反して本名を知る者はほとんどいない。当初はウィリアムのことを余計な拾い者と思っていたが、面倒を見るうちに少しずつ情を感じるようになる。ウィリアムのことを愛おしく思いつつも、マリー、ブラッドがスタグネイトにとらわれるのを恐れ、一度、ウィリアムを事故に見せかけて亡き者にしようとした。しかし寸前に思い直し、彼らを守るためにスタグネイトの木霊と戦う道を選ぶ。だが、スタグネイトが木霊を二つに分割していたため、片方を破壊するものの、もう片方から不意打ちを食らって敗北する。ウィリアムがスタグネイトの木霊を撃破後、スタグネイトの支配から解放される。輪廻に帰ったマリーとブラッドと違い、グレイスフィールと上王の封印を材料にして交渉してちゃっかり現世に留まっている。ウィリアムの旅立ちの際には、「マリーブラッド」の姓を送るとともに、ウィリアムからは「ガス」の「G」をミドルネームとして欲しいと言われて了承し、「ウィリアム・G・マリーブラッド」の名を呼んで彼の旅立ちを見送った。

メネルドール

流れの狩人の青年。銀色の髪を長く伸ばしたハーフエルフで、若々しい見た目をしているが人間の何倍も齢を重ねている。エルフたちの住まうエリンの大森林の出身だが、母親のエルフはメネルドールを生んですぐに死亡。ハーフであるためにエルフたちとなじめず森を飛び出し、冒険者として身を立てていた。しかし仲間に裏切られ、毒を盛られたところを行き倒れとなってしまい、マープルに助けられた過去がある。彼女に説教されたことで真っ当に生き直そうとするが、悪魔たちに襲われ、住んでいた村は壊滅。生き残った村人を養うため、賊に身を落とし、ほかの村を襲い始める。「メネルドール」はエルフの言葉で「素早く飛ぶ鷲」を意味し、「はやき翼」の異名で呼ばれるほど卓越した弓の腕の持ち主。エルフの血を引くために妖精の力を借りることができ、森の中では無類の強さを誇る。たまたま出会ったウィリアム・G・マリーブラッドに村を襲うのを邪魔され、凶行は未遂に終わる。その後、ウィリアムに仲立ちされることで猶予を与えられ、悪魔に奪われた村の奪還を行う。奪還成功後、マープルのゴーストに諭され、ウィリアムへの恩から「罪を贖い、前を向いて生きる」と新たな誓いを神に掲げ、ウィリアムの仲間に加わっている。ふだんはぶっきらぼうだが、ウィリアムのことを本当に大切な友人だと思っており、彼が自暴自棄になった際も体を張って止めている。のちに獣の森に大異変が起きた際には、樫の木の王から一時的に森の王権を預かり、ヒイラギの王へ王権を受け渡す役割を担った。一時的にせよ、王権を預かったことでハーフの血が精霊側へと傾いており、妖精使いとしてその力を大きく増大させている。

レイストフ

冒険者の男性。髪を伸ばし放題にし、汚れた鎧を身にまとった無頼漢然とした姿をしている。こぎれいに着飾った冒険者まがいの「ハッタリ屋(ブラッファー)」ではなく、酔狂な冒険に命を懸ける正真正銘の「冒険野郎(マッドマン)」で、その筋では「つらぬき」の異名を持つすご腕の冒険者。吟遊詩人の歌になるほどの武勲を持つ戦士で、ウィリアム・G・マリーブラッドにその気質と腕を見込まれ、獣の森に現れたキマイラ討伐を依頼される。キマイラ討伐戦では、知能が高く、狡猾なキマイラのワナにはまるものの、同じ冒険野郎を率いて善戦し、キマイラを手勢としていた悪魔の首魁を討伐している。非常に優秀な戦士で、それ以降もウィリアムに当てにされ、彼と行動を共にしている。ヴィンダールヴがウィリアムの従士となった際は、ヴィンダールヴに戦士としての在り方を教えている。

ロビィナ・グッドフェロー

吟遊詩人(トルバドール)として各地を渡り歩く女性。小人族で、童女のような姿をしている。周囲からは「ビィ」の愛称で呼ばれる。体は小さいがバイタリティにあふれ、好奇心旺盛でおしゃべりな明るい性格をしている。アントニオといっしょに旅していた際に魔獣に襲われ、殺されかけたところをウィリアム・G・マリーブラッドに助けられる。類いまれな英雄の資質を持つウィリアムに興味を示し、彼と行動を共にするようになる。「飛竜殺し」「キマイラ退治」など、ウィリアムの武勲詩を歌にして広めている。ブラッド、マリー、ガスの三英傑の武勲詩を知っており、ウィリアムに語って聞かせた。かつて英雄と呼ばれる魔法使いと一時期旅をしていたが、別れたあとにその魔法使いは死亡。そのまま魔法使いのことが忘れ去られるのに耐えられなくなり、吟遊詩人となってそれを語り継ぐようになる。吟遊詩人は天職だったようで、すぐに英雄たちの魅力に取りつかれ、英雄の武勲詩を語り継ぐ「希望」と感じ、陽気な演奏と歌で人々を笑顔にするのに生きがいを感じるようになる。友人思いな人物で、メネルドールが大ケガをした際にはついウィリアムに感情的になって当たってしまう。しかし自分とウィリアム、双方が感情的になって思い違いをしていたことに気づき、お互いに謝罪して和解している。また英雄は好きだが、それ以上に友人を大切にしており、ウィリアムが英雄を止めたくなったらいつでもその手伝いをすると申し出ている。

アントニオ

行商人(ホーカー)として各地を渡り歩く中年男性。眼鏡をかけた冴えない風貌ながら、物腰は丁寧で誠実な商売をしている。周囲からは「トニオ」の愛称で呼ばれている。運が悪く、勤め先の船が沈没して破産し、現在は行商人として出直し中だが、雇った護衛に前金を持ち逃げされて魔獣に殺されかけたりしている。ロビィナ・グッドフェローといっしょに旅していた際に魔獣に襲われ、殺されかけたところをウィリアム・G・マリーブラッドに助けられる。その後、ウィリアムが商人のツテを欲していたのを知り、彼らと行動を共にするようになる。冴えない人物だが、意外と土壇場での機転は目を見張るものがあり、商人としての手腕でウィリアムを助けている。年が離れたウィリアムに対して友人のように接し、ウィリアムを類いまれな英雄と思いつつも、年相応の少年でもあるとも考え、彼に年長者として助言をしている。実は料理が得意で、アントニオの作る料理はかなり評判がいい。

エセルバルト・レックス・サウスマーク

白帆の都を治める男性。ヒゲを生やした精悍な偉丈夫で、才気にあふれ、辣腕を振るって都を治めている。合理的な判断力と豪快な決断力を併せ持つバランス感覚がある人物で、突如現れたウィリアム・G・マリーブラッドを見定め、彼の提案を飲んでウィリアムを一代限りの聖騎士に任命している。笑い上戸で、ウィリアムが何かをやらかすとそれを見て快活に笑うことが多い。ファータイル王国の現国王・オーウェンの異母弟で、成熟した王国なだけに、オーウェンとは複雑な関係。オーウェンの巷での評判は「凡庸」で、優秀なエセルバルト・レックス・サウスマークを担ぎ上げる動きがあるが、そんな情勢の中でもオーウェンは「よき兄」として振る舞っており、エセルバルトも人として、兄として強く慕っている。

バート・バグリー

白帆の都で神殿長を務める男性。恰幅のいい体型の高齢男性で、厳つい顔立ちをしている。横柄な態度と有力者との癒着っぷりから、神殿長に似つかわしくない「俗物」と嫌われている。しかしその実、誰よりも敬虔な雷神・ヴォールトの使徒で、人と神、神殿と民の立場を仲立ちしている。神の加護を「便利な道具」や「安売り」扱いすれば神の威光が失われ、人も堕落すると考えており、ウィリアム・G・マリーブラッドが安易に無料で加護を使っていた際にも諫言している。また、汚職や不正を行っているのも白帆の都が荒っぽい土地柄ゆえの部分が多く、あえて偽悪的に振る舞っている一面が強い。そのため、ウィリアムすら超える高位の加護を授かっているが、自らの汚名が神の威光を貶めるのを案じて、高位の加護を持っていることを隠している。優秀な部下とそれらをうまく使う眼と弁舌を持ち、横柄な立場に隠れがちだが非常に有能な人物。ウィリアムを加護を授かったばかりの「成りたて(ノービズ)」と公然とバカにするが、それは強い力を持つウィリアムが変に権力者に利用されないように心配して立ち回っている部分もあり、真意を理解したウィリアムからはその立ち居振る舞いを尊敬されている。

アンナ

バート・バグリーの義娘。まじめそうな雰囲気を漂わせた若い女性で、義父の真意を知っており、彼を尊敬している。ウィリアム・G・マリーブラッドが聖騎士に任命されるにあたって、バートよりウィリアムの手助けをすべく派遣される。実務を担当する神官たちのまとめ役だが、アンナ自身は祝祷術を使えるため、時にはその腕を買われて悪魔たちとの戦場に赴くこともある。レイストフと知り合ってからは、彼と急速に仲を深めている。

ヴィンダールヴ

ドワーフの青年。黒いヒゲを生やした小柄な男性だが、ドワーフの中では比較的若く、高身長の部類に入る。「くろがねの国」の最後の王・アウルヴァングルの孫で、流浪のドワーフ族の中で「ルゥ」と呼ばれて大切に育てられてきた。しかし、苦労を重ねたドワーフ族の中で過保護に育てられたため、周囲に迷惑を掛けないように卑屈な性格になってしまい、ドワーフにあるまじき臆病でおどおどした人物になってしまっている。ヴィンダールヴ自身もそんな自分の性格に嫌気が差しており、変えたいと思いつつも勇気を出して一歩を踏み出せずにいた。街でケンカの仲裁をしようとして、逆に酔っぱらいに絡まれて暴力を振るわれていたところを、ウィリアム・G・マリーブラッドに助けられる。そして、それを縁としてウィリアムに己の「まこと」を預け、彼の従士となる。根が優しいため、暴力を嫌って力を振るえずにいたが、並外れた怪力とセンスを持つ天性の戦士。ウィリアムたちの教えをどんどん吸収し、戦士として急成長していく。

ゲルレイズ

ドワーフの老爺。白くなったヒゲを長く伸ばし、厳つい顔には大きな切り傷が刻まれている。200年前のくろがねの国を知る数少ないドワーフの一人で、当時は未熟な戦士だったため、アウルヴァングルの供をすることができず、多くの仲間たちが死地に赴くのを見送った。流浪の民となったあと、傭兵としていくつもの戦いに参加した歴戦の戦士で、「まこと」を捧げたヴィンダールヴに戦士としての覚悟を説いた。

マープル

博識な高齢女性。かくしゃくとしており、はっきりとした物言いをする。メネルドールの古くからの知己で、マープルが中年だった頃、仲間に裏切られて死にかけだったメネルドールを介抱し、彼の面倒を見た。マープル自身は無学な農民の出と自称しているが、並外れた知識と倫理観を持ち、メネルドールを説教して彼を正道に戻している。悪魔たちの襲来によって死亡するものの、グレイスフィールの加護で高位のゴーストと化して、メネルドールたちが助けを呼んで戻ってくるのを待っていた。ガスですら知らない「悪魔の言葉(デーモンジャバー)」に詳しく、悪魔たちの言葉をひそかに聞いて、その本拠地が鉄錆山脈であることをつき止め、それを生者に伝えるのを目的として現世に留まっていた。ウィリアム・G・マリーブラッドにそのことを伝え、メネルドールに別れを告げたあと、未練がなくなって成仏した。

ハイラム

賢者の学院の森番を務める老爺。白いヒゲと髪を伸ばし放題にした森番で、迷いの路地の終点で訪れる者に対応する。その正体は賢者の学院に勤める教授の一人。「森の司」とも呼ばれる魔法使いで、幻覚を使って学院を隠している。森番を兼任しているのは本当で、訪れた者が正しい知識と心を持っているのか確かめ、賢者の学院に案内するか決める役割を持つ。森番の際には野仕事をするような格好をしているが、魔法使いとしてはローブを身にまとい、大きな杖を持つ好々爺然とした格好となる。ことばの危険性を理解しており、激しい気性の者はその気質で自滅すると考えている。訪れたウィリアム・G・マリーブラッドとロビィナ・グッドフェローを試し、彼らの答えに満足して、学院に案内する。

アウルヴァングル

200年前に存在したドワーフの王国「くろがねの国」の国王を務めた男性。勇猛な戦士の多いドワーフ族において、武芸よりも書を好んだ変わり種のドワーフ族で、寡黙な人物だったとされる。しかし民を平等に扱ったために評判はよく、名君だったと伝わっている。大崩壊(ブレイクダウン)が起き、無類の剣好きであった上王は、ドワーフの職人としての腕を望み、彼らに自らの軍門に下るように要求する。アウルヴァングルは配下たちが悩んで喚いて迷っている中、上王の使者を切り捨て、悪魔たちと戦う道を選んだ。ふだんの寡黙な姿から一転して、勇敢な姿を見せたため、多くの戦士たちが王に付き従い、悪魔たちと戦った。また当時、上王陣営に与していたヴァラキアカが攻め込んでくるのを知り、自分たちがヴァラキアカに勝てないのを察して、戦えない民たちに再興を託して逃がしている。ドワーフ累代の名剣「コールドゥン」を手に、くろがねの国自体をワナにしてヴァラキアカと悪魔を誘い込み、ヴァラキアカに手傷を追わせて壮絶な最期を遂げた。悪魔たちとの戦いで勇猛さを見せたことから、200年経った今でも「最後の君」としてドワーフ族から慕われている。

樫の木の王 (おーくのおう)

獣の森の双子王の片割れで、巨大な古樹の化身。人型を取ることがあるが皮膚は樹皮で、髪やヒゲの代わりに蔓や葉っぱが生えた姿をしている。ヒイラギの王とは外見が似ており、併せて「双子王」「兄弟王」と称される。冬至の日から夏至の日まで森を統治し、夏至の日が来るとヒイラギの王へ森の王権を渡す。森の王権は非常に強い力を持ち、然るべき時に、然るべき者が手渡さなければただ害悪をもたらすだけとされる。そのためヒイラギの王が悪魔に害され、王権を受け取れない状態になった際、己で保管していた。それでも森では季節が狂い、獣や精霊たちが暴れ回る事態が巻き起こっており、異常を調査しに来たメネルドールに説得され、彼に王権を預けている。

ヒイラギの王 (ひいらぎのおう)

獣の森の双子王の片割れで、巨大な古樹の化身。人型を取ることがあるが皮膚は樹皮で、髪やヒゲの代わりに蔓や葉っぱが生えた姿をしている。樫の木の王とは外見が似ており、併せて「双子王」「兄弟王」と称される。夏至の日から冬至の日まで森を統治し、冬至の日が来ると樫の木の王へ森の王権を渡す。将軍級の悪魔に害され、森の王権を受け取れない状態となってしまう。その後、ウィリアム・G・マリーブラッドが悪魔を討伐し、樫の木の王から森の王権を預かったメネルドールが、王権を譲り渡したことで復活する。悠久の時を生きる双子王にとって、人と悪魔の争いには興味がなく、死さえも新たな再生へとつながると考え、刹那の時を生きる人とは異なる思考を持つ。そのため、争いに関しては中立の立場を取っているが、王権を運んできてくれたことには義理を感じており、悪魔討伐後、ウィリアムに対して、近い未来に鉄錆山脈より邪竜・ヴァラキアカが復活すると予言をしている。

上王 (はいきんぐ)

200年前、世界を混乱に陥れた王級の悪魔の一人。当初は単なる王級の悪魔の中の一人と数えられていたが、王級の中でも明らかに抜きん出ていたため、いつしか「王の中の王」を意味する「上王」と呼ばれるようになる。見た目は黒髪の酷薄そうな少年のような姿をしていたと、ブラッドは語っている。血から「兵士級」、肉から「隊長級」の悪魔を無限に生み出すことができ、たった一人で軍勢を生み出す凶悪な力を持つ。また、刃物以外ではいっさい傷つかず、魔法も弓も無効化するため、倒すためには近づいて切り合うしかない。しかし上王は恐るべき剣の使い手であるうえに、「オーバーイーター」を愛剣として携えているため、生半可な戦力で近づけば逆に命を吸われて上王の傷を癒やしてしまう危険がある。そのため、無限の軍勢を生み出す決して倒せない不死身の化け物として恐れられており、「永劫なるものどもの上王」をはじめ「尽きせぬ暗黒」「不死の剣魔」「無垢なる邪悪」「戦嵐の駆り手」などいくつもの異名で呼ばれていた。200年前、南辺境大陸(サウスマーク)に現れ、多くの町や都市を灰燼(かいじん)に帰し、南辺境大陸の人間勢力を全滅一歩手前まで追い詰める。当時のガスが上王のあらゆる情報を集め、作戦を練ってブラッドたち精鋭を送り込んで戦う。ブラッドたちは作戦を成功させ、上王からオーバーイーターを奪うものの、上王は真の姿を解放。上王の本来の姿は異形の剣士で、ブラッドを超える剣の腕を持ち、彼らを敗北寸前まで追い詰めた。そしてガスは上王を打ち倒すことをあきらめ、マリーと協力することで辛うじて封印することに成功する。現在も最後の戦地となった南辺境大陸の死者の街に封印されており、ブラッドとマリーが成仏したあとはガスが一人で封印を管理している。

スタグネイト

悪神の一柱で、死者に仮初の命を与える「不死神」。死者に祝福を与えることで不死者(アンデッド)として復活させることができ、亡者たちを率いて己の理想とする「悲劇のない世界」の実現を目指している。悪神だが、慈悲深き神でもあり、かつては善神の陣営に属していたが、その気質ゆえ死による悲劇に耐え切れず、悪神へと下った過去がある。悪神の中でも人間を愛する変わり種で、ほかの悪神の陣営とは時に共闘し、時に対立する関係となっている。上王の存在もスタグネイトにとって目障りな存在で、ブラッドたちが上王を封印した際、彼らを悪魔の軍勢から助け、その身を不死者にすることで上王の封印を守り続ける力を与える見返りに、彼らが上王への執着を失った際にその魂をもらい受ける取り引きを交わしている。マリーとブラッドが執着を失ったことで、木霊を降臨させ、ウィリアム・G・マリーブラッドの目の前で彼らの魂を奪い取ろうとする。木霊としての姿は青年だが、神々にとって性別は飾りにしか過ぎず、その気になれば女性の姿にもなれるとのこと。ガスの攻撃で木霊を消滅させられるが、あらかじめ木霊を二つに分割していたことで難を逃れ、不意打ちでガスに重傷を負わせる。その後、グレイスフィールの加護を授かったウィリアムと戦い、激闘の果てにオーバーイーターで切り刻まれて消滅した。ただし神にとって木霊は使い捨てに過ぎず、10年もすれば再び木霊を降臨できるだろうと予測されている。のちにヴァラキアカが復活の際、警告のためにウィリアムに大烏の姿をした遣い(ヘラルド)を送っている。木霊を使うとつい感情的になってしまい、ウィリアムに倒された際には怒りのあまり呪詛を吐いたが、スタグネイト自身はウィリアムのことを強く気に入っており、木霊がみっともない言動をしたことを恥じ、謝罪している。スタグネイトの遣いはたびたびウィリアムのもとを訪れ、親身になって彼に言葉を投げかけるが、ウィリアムはその親しみやすさこそがこの悪神の最も厄介な部分だと感じている。

ヴァラキアカ

神代の時代から生きる邪竜。その名はエルフの言葉で「北の鎌」を意味し、これは六つ星から成る北の星座を指す言葉となっている。北の鎌の六つ星は六大神を表しているともされるため、「神々の鎌」とも呼ばれる。「瘴毒と硫黄の王」を名乗り、その鱗は生半可な攻撃ではいっさい傷つかず、その口から吐く炎は魂すら焼き尽くす。神代から生きる存在であるため、人間以上にことばに対して相性がよく、人間には扱えない大魔法も自由自在にあやつるうえに、太古から生きる経験によって大魔法使い並みにその使い方も巧み。神々に次ぐ力を持つとされ、善神と悪神の戦いにおいて財宝を引き換えに神々に雇われ、敵対勢力と戦った。神々の傭兵のような存在で、神の思惑には興味がないが、戦いと財宝を何より好む獰猛な性格をしている。また、争いを引き起こすことで自らの価値を跳ね上げたり、交渉を自分に有利なように進めたりするなど、単なる乱暴者にはない奸智に長ける一面も持つ。200年前の大崩壊(ブレイクダウン)では上王陣営に雇われ、くろがねの国に攻め入る。アウルヴァングルとの壮絶な戦いの末に、片目を失う手傷を負い、その傷を癒やすために眠りについた。

ヴォールト

六大神の一柱で、正義と雷を司る男神。神殿では剣と天秤を持つ青年の姿で祀られている。善なる神々の王ともされる存在で、人間社会では広く信仰され、神官たちが質実剛健な者が多いのもあって社会的信用も高い。また裁きを司る神でもあり、その加護には対象のウソを判定する「雷神の裁き(ディバイン・ジャッジメント)」が存在する。雷神の裁きを受けてウソを言うと、たちまち神の雷で心臓を打たれて死んでしまうため、対象は真実を告白することを強要される。しかし抜け道がないわけではなく、話術に秀でた者であればウソをつかずに誤魔化し、雷神の裁きを逃れることも可能。これは雷神の裁きも人の心まで踏み込んで裁くことはなく、人の裁きはあくまで人が行うべきというヴォールトの意向による。地母神のマーテルは妻で、流転の神のグレイスフィールは子だとされている。

マーテル

六大神の一柱で、大地の恵みと育児を司る「地母神」。神殿では赤子を抱いた母親の姿で祀られている。ヴォールトの妻で、グレイスフィールの母親。豊穣を司るため、加護も農業に関するものが多く、農村地帯で厚く信仰されている。マリーの守護神で、不死者となった彼女にも加護を与えているが、彼女が祈祷した際には不死者(アンデッド)となった彼女に罰を与えるため、全身を火あぶりにしている。マリーはウィリアム・G・マリーブラッドの食べる聖餅(せいへい)と呼ばれるパンを得るため、たびたびマーテルに祈っており、そのたびに彼女を火あぶりにしていた。しかし、これはマリー自身が不死者となったことを後悔し、それでもウィリアムのためにマーテルの力を借りなければいけないことにマリーが強い罪悪感を感じていたからであり、マーテルがその思いを汲んで罰を与えていたのが真相だった。マーテルはマリーが不死者となっても変わらず愛しており、スタグネイトの木霊がマリーの魂を奪おうとした際には、一瞬だけ現世に降臨し、スタグネイトからマリーを守っている。

ブレイズ

六大神の一柱で、炎と技巧を司る男神。神殿では金槌を持ったドワーフの姿で祀られている。技術と鍛錬を尊ぶことから、職人だけではなく戦士からも信仰が厚い。またドワーフの祖神とされ、ドワーフ族からも広く信仰されている。

ワール

六大神の一柱で、風と交流を司る男神。神殿では酒盃と金貨を持った小人族(ハーフリング)の姿で祀られている。自由を尊ぶ「風神」で、ほかの神々に比べて規律などが比較的に緩く、奔放な者が守護神に選ぶことが多い。また、賭博の神としても広く知られている。ただその分、賊徒なども守護神として選ぶことがあるため、ほかの神々に比べて人間社会では社会的な信用が一段落ちる部分がある。ワール自身、信徒たちの気質も理解しており、神託もほかの神々と違って事件の被害を被る信徒に、あらかじめその事件のことを教えて率先して解決させるような手管を弄する。使命感ではなく、損得で動かすために信徒の中にはあからさまに神託を迷惑がる者もいる。

エンライト

六大神の一柱で、知識を司る男神。神殿では本と杖を持つ隻眼の老人の姿で祀られている。思慮深き「知識神」で、「創造のことば」の危険性を誰よりも理解し、誰でも安全に使える文字と言葉である「俗用言語」を生み出した。その隻眼は「見えるもの」を、失われた瞳は「見えぬもの」を見通すといわれ、知識を追い求める学徒たちに広く信仰されている。

レアシルウィア

六大神の一柱で、水と緑を司る女神。神殿では弓を持ち、清流に身を浸したエルフの姿で祀られている。精霊や妖精を司る「精霊神」ともされ、エルフの祖神とされる。狩人や木こりなど、自然とかかわることが多い者から広く信仰されている。地母神であるマーテルと似ているが、マーテルに比べて気まぐれで奔放な性格をしており、マーテルが農場の豊穣を司るのに対し、レアシルウィアは季節の巡りや自然災害など在りのままの自然を司るとされる。これは神話にも語られ、レアシルウィアがマーテルの夫であるヴォールトを誘惑し、そのことにマーテルが激怒。マーテルがヴォールトの宿る秩序の街を農地で囲い、農地から精霊の宿る自然を遠ざけたからだとされる。また、精霊と妖精の祖たるレアシルウィアは季節によっても姿を変えるとされ、春は童女、夏は少女、秋は美女となる。そして冬は老婆となるが、レアシルウィアはこの姿を見られるのを嫌うため、冬は人々の前から姿を消し、その姿を暴き立てようとする者は、たとえ己が加護を与えた神官であろうと神罰を与えるとされる。

場所

死者の街 (ししゃのまち)

200年前の「大崩壊(ブレイクダウン)」によって滅び去った街。ウィリアム・G・マリーブラッドが生まれ育った街で、生きている人間はウィリアムしかおらず、住人は不死者(アンデッド)のブラッド、マリー、ガスを含めて四人のみ。大連邦時代の湖上交通の重要拠点だったため、非常に大きな街だったようで、地下には大きな通路が張り巡らされている。大崩壊で、ガスは上王がこの都市にいることをつき止め、地下通路を使って精鋭を送り込むことで、上王の軍勢との戦いを避け、上王との直接対決を実現する。しかし、ブラッドたちは上王を倒しきることはできなかったため、上王はいまだにこの街の地下に封じられたままとなっている。また、スタグネイトの木霊が降臨した際、その力で悪魔の軍勢が打ち払われた。この悪魔たちは不死神の力によって直接打ち払われたため、通常悪魔がなるはずがない不死者に転じ、そのせいで都市の地下にはいまだに数多くの悪魔が不死者となって徘徊している。ウィリアムが旅立ち、ブラッドとマリーが成仏したあとは、ガスがただ一人残り、「迷いの霧のことば(メイズフォッグ)」で町全体を包み込むことで上王の封印を守っている。ガスがグレイスフィールに与えられた猶予は10年であるため、ウィリアムはそのあいだに上王の問題を解決する術を見つけ出すことを神によって使命として与えられている。死者の街は獣の森に隣接しているため、ウィリアムは獣の森の開拓を進め、死者の街を人の手で復活させることで、封印を強化しようと行動している。

獣の森 (びーすとうっず)

白帆の都の南にある森林地帯。ファータイル王国の版図に入っているが、魔獣が跋扈(ばっこ)する危険地帯であるために王国の権力は及んでおらず、ほとんどがならず者や身寄りのない逃亡者、冒険者の寄せ集めの地となっている。200年前の大崩壊(ブレイクダウン)で特に被害が多かった南辺境大陸(サウスマーク)の大部分が荒れ果て、獣の森に飲み込まれているため、各地には遺跡も数多く存在し、獣の森にはその手の遺跡を漁る冒険者も数多く訪れている。森に住まう者はほとんど知らないが、遺跡の中には200年前の戦いで猛威を振るった上王が封印される死者の街が存在し、悪魔たちは魔獣を方々に放って、その封印を解こうと画策している。獣の森には村々が存在するが、魔獣で焼き討ちされることも珍しくなく、彼らが死に、悪魔の糧となることで獣の森は少しずつ悪魔たちの手に落ちかけている。ウィリアム・G・マリーブラッドがグレイスフィールの啓示に従って行動し、「聖騎士」となって以降は、悪魔たちへの反撃が始まっている。そのさまは陣取り合戦の様相を呈しており、ウィリアムの活躍で獣の森は少しずつ人の手へと戻り、さまざまな種族が協力することで開拓されていっている。獣の森の自然は、双子王の「樫の木の王」「ヒイラギの王」が「森の王権」を使って統治している。然るべき時に、双子王はお互いの王権を譲り渡し合うことで、森の季節は巡り、森は恵みを人と獣にもたらしている。

白帆の都 (ほわいとせいるず)

南辺境大陸(サウスマーク)の最北端にある港町。グラスランド大陸南西部を統一したファータイル王国が、南辺境大陸を人の手に取り戻すべく、開拓拠点として作られた。このため、移民船や交易船でにぎわう街となっており、一方で一攫千金を夢見る者たちに混じって、犯罪者や難民、荒くれ者も訪れているため、治安は非常に不安定となっている。ファータイル王国はそのような現状も含めて、開拓賛成派と反対派のあいだで派閥争いが起きており、街を取り巻く情勢は複雑怪奇なものとなっている。

鉄錆山脈 (らすとまうんてんず)

獣の森の西にある山脈。200年前まではドワーフの王国「くろがねの国」があり、「くろがね山脈」と呼ばれていたが、大崩壊(ブレイクダウン)によってすべては破壊され、今では悪魔たちの一大拠点となっている。悪魔たちはここを拠点に上王の封印を解くべく獣の森を制圧していっているため、獣の森を完全に人の手に取り戻すためには、鉄錆山脈の攻略が必須となっている。200年前、ドワーフ最後の国王・アウルヴァングルは悪魔たちに自陣営につくように強要されるがこれを拒否。アウルヴァングルは精強な戦士を除き、国民をすべて逃がしたうえで、悪魔陣営に属した邪竜・ヴァラキアカと戦い、壮絶な討ち死にを果たした。戦いに参加した者で生きて帰った者はおらず、避難したドワーフたちも秘として語る者がいないため、この戦いをドワーフ以外では知る者がほとんどいない。また、この戦いをきっかけにドワーフの多くは難民となり、命を失った者も多い。山脈にはアウルヴァングルに手傷を負わされたヴァラキアカが眠っているとされ、ヒイラギの王は近い未来、ヴァラキアカが目覚めるとウィリアム・G・マリーブラッドに予言している。

灯火の川港 (とーちぽーと)

ウィリアム・G・マリーブラッドが獣の森に作った活動拠点。もともとはウィリアムとメネルドールが見つけた遺跡の跡地だったが、ウィリアムが騎士に任命されたあと、木材の輸送や魔獣討伐の拠点として使っているうちに整備されていき、街として機能し始める。アントニオがここで始めた木材業が大当たりし、それを聞きつけた各地の難民たちが集まり、街としての機能はさらに拡充していく。また、鉄錆山脈に近い立地という点から、かつての戦いで山から追い出され、流浪の民となったドワーフの一族たちも移民を希望して集まっている。職人として腕利きのドワーフたちも数多く集まったため、彼らの試行錯誤で白磁器など新たな名産品が生まれ、街は活気に満ち満ちたものとなっている。一方で多くの移民が集まっているため、必然的に多くの問題も起きており、ウィリアムが領主としてその解消と調整に動いている。

賢者の学院 (あかでみー)

魔法使いの学院。世界各地に存在し、白帆の都には街の東部に存在する。魔法の才能のある者を集め、ことばの使い方を教えているが、魔法使いたちは世俗とのかかわり合いを厭い、一般の人間は入れないように一定の距離を置いた付き合いをしている。これは200年前の大崩壊(ブレイクダウン)以降、魔法使いが増え、それに伴ってことばを悪用する者も増えてしまい、その結果、大規模な魔女狩りが行われたからで、ことばの乱用と魔法使いの迫害を防ぐ意味合いが強い。このため賢者の学院は外から見ることができるが、一般人では「迷いの路地(メイズアレイ)」から抜け出せず、近づくこともできない。また、才能ある子供は力の使い方を誤って自滅するのを防ぐためにも、積極的に受け入れている。

その他キーワード

おぼろ月 (ぺいるむーん)

ことばが刻まれた魔法の槍。死者の街の地下通路でウィリアム・G・マリーブラッドが、隊長級の悪魔・ヴラスクスを倒し、その戦利品として回収した。ドワーフの作り出した三つの能力を持つ逸品とされる。一つ目の能力は「光(ルーメン)」のことばを基礎に彫られ、夜闇の中でも灯りを灯すことができるもので、灯りは眼をくらませるほど強くはできないが、ある程度は調整可能。二つ目の能力は強度と品質をことばで強化するもので、地味ながら武器の信頼性を高めている。三つ目の能力は物体の伸縮に作用することばで、おぼろ月の強度はそのままにある程度大きさを変更することができる。伸縮の変更には四半刻掛かるため、戦闘中にすぐに長さを変えることはできないが、状況によっては短槍にも、長槍にもなる取り回しのよさを持つ。魔法の武器であるため、ふつうの武器では倒せない敵にも有効。オーバーイーターが非常に扱いづらい真性の魔剣であるため、ウィリアムの主武器として活躍している。彼にとって初めて手に入れた武器であるため、愛着も強い。

オーバーイーター

上王の魔剣。黒い刀身に難解なことばが象られた剣で、魔剣としての格は最上級。生半可な武器では傷つけることすらできない神々の木霊すら切り裂く切れ味を持つ。また切った者の命を吸収し、使い手の生命力を回復する力があり、銘は「喰らい尽くすもの」とも表記される。非常に強力だが、その力ゆえに持ち主を堕落させかねない危険な剣で、ブラッドはこの剣を「真性の魔剣」と評している。ブラッドは確かにこの剣は強力だが、剣の力に頼って傲慢になれば、弓や毒で攻撃されてあっさり死ぬだろうとも語っており、この魔剣は強力だが決して持ち主を無敵にすることはない。200年前の戦いでは上王は、自らの血肉で軍勢を生み出し、失った血肉をこの剣を使って敵を切り裂くことで癒やしていた。この魔剣のせいで上王は無限の軍勢を生み出す不死身の化け物と化しており、ブラッドたちが決死の作戦で上王からこの魔剣を奪い、その力を大きく減ずることに成功する。その後はブラッドが保管していたが、ウィリアム・G・マリーブラッドが成人したのをきっかけに、彼に受け継がれる。ウィリアムもこの剣の持つ魔性の魅力に危険を感じ、ふだん使いはせずに、ここぞという時の切り札として使っている。

(かみ)

多くの種族に信仰される存在。混沌だった世界に「創造神」が現れ、「創造のことば」で世界を形成した。創造神は世界を創り終えたことで思わず「良し」と言ったが、これが善悪の概念を生み出し、世界に多くの悪意を生み出すこととなる。そして悪意から生まれた「悪神」によって創造神は弑(しい)され、悪神と同じく善意から生まれた「善神」が世界の覇を懸けて戦い合うこととなる。現在は多くの神々が相打ちの状態となり、肉体は失われ、その力を大きく減じている。多くの神々が存在したが、今日では雷神「ヴォールト」を善なる神の王とし、地母神「マーテル」、風神「ワール」、技巧の神「ブレイズ」、知識神「エンライト」、精霊神「レアシルウィア」の六柱の神々が「六大神」として多くの人々に信仰されている。神々の力は人々の信仰によるため、人々は成人の日に己の守護神を決め、誓いを立てることが風習となっている。重く、強い誓いほど神々の目に留まりやすく、その分、神の強い「加護」や啓示が得られやすくなる。しかし誓いを破ればたちまち加護を失ったり、神々の啓示で苦難に巻き込まれやすくなったりするため、重い誓いを立てずに無難な誓いを立てる者も多い。加護を与えられた高位の神官であれば、「祝祷術」を使うこともできる。祝祷術は傷を癒やす「傷ふさぎ(クローズ・ウーンズ)」や、軽い病を治す「病気癒やし(キュア・イルネス)」などのほかに、グレイスフィールの「聖なる灯火の導き(ディバイン・トーチ)」のようにそれぞれの信仰する神固有の祝祷術も存在する。

木霊 (えこー)

神の分体。肉体を失った神が、現世に干渉するための分身のような存在。神は時折、木霊を現世に降臨させて影響を及ぼす。木霊は強大な力を持ち、その身は生半可な武器では傷つけることすらかなわず、木霊を倒すためには強力な魔法か、ことばの力が宿った武器が必要となる。木霊は分身にしか過ぎないため、たとえ木霊を倒しても、神そのものを殺すことはできない。しかし神にとって木霊の生成は、大きく力を削ぐ行為でもあるため、木霊を失えばその力を失い、新たに木霊を作り出すのは神にとっても至難を極める。スタグネイトもウィリアム・G・マリーブラッドに木霊を消滅させられたが、向こう10年はどうやっても木霊を降臨させることはできなくなったと語っている。また、木霊に比べてはるかに格落ちするが、神意を伝える「遣い(ヘラルド)」と呼ばれるものが存在する。遣いは木霊に比べてほとんど力を振るえないが、その分、簡単に生成することができ、スタグネイトは木霊の代わりに大烏の姿をした遣いを作り出し、ウィリアムのもとに送っている。

悪魔 (あくま)

次元神「ディアリグマ」の眷属。ディアリグマは円環をつかむ腕を紋章とする悪神で、善なる神々と敵対しており、人々を殺しては邪悪な儀式の供物としている。人々とは相いれない邪悪な存在で、ほとんどが異形の姿で残忍な性格をしている。悪魔には位階が存在し、下から「兵士級」「隊長級」「将軍級」「王級」と呼ばれている。上の位階ほど数が少なく強い存在となり、将軍級や王級の悪魔は滅多に姿を現さないが、その分現れたら多大な被害をもたらすと危険視されている。また、王級以上の悪魔は存在しないが、200年前の大崩壊(ブレイクダウン)では王級の中でも明らかに抜きんでた力を持つ悪魔がいたため、その悪魔はのちに上王と呼ばれるようになっている。

ことば

超常現象を引き起こす言語。その起源は、創造神が世界を創るために使った「創造のことば」で、世界を区切る言葉により、思いのままに現象をあやつることができる。言葉以外にも、文字にも力が宿り、創造のことばが刻まれた道具は不思議な力を宿すとされる。しかし神話でほかならぬ創造神が、ことばの使い方を誤って悪神を生み出し、それによって死亡したように、発したことばは神であろうと取り消すことができない。非常に危険な技術で、原初の創造のことばでは会話はおろか、文字による筆談すら満足にできなかったため、知識神・エンライトが言葉の形と音を崩し、誰でも安全に使える「俗用言語」を生み出し、今日ではこの俗用言語が広く使われている。現代では創造のことばは「上古の魔法文字」として扱われており、神殿では神に通ずる神聖なものとしても扱われている。また、悪魔たちが好んで使う「忌み言葉(タブー・ワード)」と呼ばれるものも存在する。魔法使いたちはことばを用いることで魔法を使うが、魔法を安易に使えば創造神のように身を滅ぼすため、魔法の強弱は関係なく、たとえ弱い力であろうと巧みに使ってこそと考えるものが多い。また、ことばは発する者によってその力が大きく変わり、ウソをつくとことばは真実から遠ざかり、その力を大きく減じさせる。このため、大魔法使いと呼ばれる者たちはウソをつくことを嫌う。ただし、沈黙や話術による誤魔化しは影響を与えないため、魔法使いの中には話術に秀でた者も多い。

大連邦時代 (ゆにおんえいじ)

さまざまな種族が大きな連邦を形成した平和だった時代。しかし、200年前に起きた奈落の悪魔たちの侵攻によって連邦は瓦解。南辺境大陸(サウスマーク)は上王によってほぼ全滅し、ほかの地域も上王に呼応した悪神陣営の決起によって大混乱が起きた。これを「大崩壊(ブレイクダウン)」あるいは「大破局」と呼び、200年経ったことで現在は情勢が落ち着いているものの、南辺境大陸に関してはいまだに傷痕が深く、人類の生存領域は限られたままとなっている。このため、北にあるグラスランド大陸では、南辺境大陸を「暗黒の最果て(ダークマーク)」と呼ぶ者もいる。

エルフ

種族の一つ。人間に近しい姿をしているが、耳が長く、細身の者が多い。人に比べて長命で、年の取り方も違う。神代の昔、人にあこがれた風や水、樹の精霊が、精霊神・レアシルウィアに願い、人の肉体を持って生まれたとされる。人にあこがれたゆえに、人とつがいを成すことができ、世には人とエルフのあいだに生まれた「ハーフエルフ」と呼ばれる者も存在する。一方で人と精霊、両方の性質を持つゆえに、精霊だった頃を懐かしむエルフもおり、その手のエルフは人とのかかわり合いを捨て、自然に近しい場所で閉鎖的に生活している。妖精や精霊に近しい存在であるため、それらの力を借りる者も多く、自然が多い森ではエルフは無類の強さを誇る。また、精霊の血が濃いエルフは時が経てば、人として死ぬか、精霊となって悠久の時を生きるか選択を強いられることとなる。

ドワーフ

種族の一つ。人間に近しい姿をしているが、人間に比べて背が低く、男性はヒゲを生やしている者が多いのが特徴。神代の昔、人にあこがれた火や土の精霊が、火神・ブレイズに願い、人の肉体を持って生まれたとされる。エルフに似た起源を持つが、火や土の精霊だったドワーフは、金物の扱いに長け、それらを加工する腕を磨いた結果、かつての精霊としての在り方から大きく乖離してしまう。そのため、エルフのように妖精の力を借りることはできず、火を扱う性質上、燃料として薪を大量に欲するため、自然を愛するエルフとは時々衝突することが多い。かつて神代の時代、神々はことばをさまざまな道具に刻み込んで多くの秘宝を創り出したが、ドワーフはその技術を部分的に受け継いでいる。このため、ドワーフの職人は数々の名品を作り出しており、彼らの作品は多くの人々から賞賛されている。また、土の精霊だった名残から頑強で長命の者が多く、祖神であるブレイズが勇気を尊ぶため、勇敢な戦士が多いのも特徴となっている。

クレジット

原作

柳野 かなた

キャラクター原案

輪 くすさが

書誌情報

最果てのパラディン 10巻 オーバーラップ〈ガルドコミックス〉

第1巻

(2018-03-25発行、 978-4865543346)

第4巻

(2019-10-25発行、 978-4865545654)

第5巻

(2020-05-25発行、 978-4865546712)

第6巻

(2020-11-25発行、 978-4865547955)

第7巻

(2021-04-25発行、 978-4865548990)

第8巻

(2021-09-24発行、 978-4824000101)

第9巻

(2022-03-25発行、 978-4824001405)

第10巻

(2022-10-25発行、 978-4824003218)

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