あらすじ
勇者、失格
高校生の深澄真は、今日もいつもどおりの平凡な一日を終えた夜、夢に月読命を名乗る神が現れ、実は真の両親は異世界人で、彼らが日本に来るのと引き換えに、その子が異世界で勇者の役目を果たさなければならないという契約を交わしたことを知る。自分が行かなければ姉か妹がその役目を押し付けられることを知った真は、月読命の言葉を受け入れ、異世界の女神と謁見する。しかし、女神は真を一目見て気に入らないと言い捨て、真を世界の果てに放逐する。月読命はその暴挙を見かねて、放逐される真に己の加護を与えるが、それによって月読命は力を使い果たしてしまう。真は月読命に見送られ、己一人で異世界を生きていくこととなる。だが、女神が送り込んだ世界の果ては過酷な環境で、真は飲まず食わずの状態で3日間サバイバル生活を送ることになる。そんな中、悲鳴を聞いた真はその場に急行し、魔物に襲われているハイランドオークの女性、エマを助ける。真はエマから食料を分けてもらうと共に、魔法を教えてもらい一息つく。そして、真はエマが魔物の生贄(いけにえ)に捧げられることを知り、一宿一飯の恩を返すべくその魔物の退治に赴く。しかし、その魔物とは上位竜の蜃で、真は異世界に来て早々、巨大な魔物との一騎打ちを行うこととなる。幻をあやつる蜃に苦戦する真であったが、真に興味を覚えた蜃は矛を収め、彼と契約することを決める。また蜃は生贄騒動は知らず、魔族が勝手に蜃の名を使っていただけということも判明し、騒動は無事に解決するのだった。蜃は亜空と呼ばれる力を持っていたが、この力が真と契約したことで日本に近い世界を作る能力となっていた。蜃はこの力を使い、亜空に住人を増やして都市を造ることを思いつき、真がエマに事情を説明する裏で、ハイランドオークたちを勧誘。彼らを亜空の第一の住人として住まわせ始めるのだった。
人外大移動
亜空の住人を増やすべく行動し始めた蜃であったが、そこに災厄ともいわれる黒蜘蛛が襲来する。彼に襲われていたエルダードワーフのベレンを助け、亜空に避難する蜃であったが、黒蜘蛛は亜空にまで追いかけて来る。深澄真は突如現れた黒蜘蛛と戦うが、不死身にも等しい黒蜘蛛は手強(てごわ)く、致命傷を与えても復活する黒蜘蛛を前に真はついに力尽きてしまうが、黒蜘蛛は突如しゃべり始める。今まで呪いにも似た飢餓感に襲われていた黒蜘蛛は、真との戦いでついに満腹感を覚え、正気を取り戻したのだ。そして、黒蜘蛛は蜃の提案で真の従者になることを選ぶ。また新たな従者が増えたのを機に、真が新たな名を与えることとなり、蜃は「巴」、黒蜘蛛は「澪」と名づけられる。巴はミスティオリザード、澪はアルケー、ベレンがエルダードワーフのそれぞれ集団を連れて来て、亜空の住人は一気に増えることとなる。異世界に来てから大きな騒動に振り回され続けた真であったが、出会ったのが魔物や亜人ばかりであるため人恋しさが大きくなり、最寄りの街である絶野を目指すことを決める。ちょっとした騒動を挟みつつ、商人に偽装して街を目指す真や巴、澪だったが、絶野の治安は最悪だった。真は街で出会ったリノンの姉、トアが知人の長谷川温深そっくりであるため、犯罪に巻き込まれている姉妹を助けることを決意し、巴と澪に犯罪者の巣窟の調査を命じる。しかし、巴と澪は無事にトアを助け出したものの、ささいなきっかけでケンカを始め、その余波で絶野の街は壊滅。真は助け出したトアたちを連れ、慌てて絶野の街をあとにするのだった。
商人ギルド加入試験!?
深澄真はトアたちを引き連れ、新たな街「ツィーゲ」を目指す。道中、ルビーアイという珍しい魔物を倒し、その素材を手に入れた真は、偶然にもその素材を欲していたツィーゲ一の商人、パトリック・レンブラントと交渉する。真は亜空の珍しい作物やエルダードワーフたちの作り出した作品を売り出すべく、亜空に外界と交流できる都市「蜃気楼都市」を作り出すのを考えており、自らも外のヒューマンたちとの販路を開拓すべく商人として活動することを決めていた。パトリックとの交渉はその第一歩となるべきものであったが、彼がルビーアイの素材を求めていたのは、何者かに妻子が呪われたからで、複雑な陰謀が絡むものだった。真は呪いを解くために、トアといっしょに助けた錬金術師のハザルをパトリックに紹介し、後日準備が整い次第、呪いの解呪を手伝うことを約束する。それまでのあいだに、真は商人ギルドに赴き、試験を突破。正式に「クズノハ商会」を発足し、商人としての活動を始めていく。
二つの顔
深澄真はハザルと共にパトリック・レンブラントの館に訪れ、呪いを解くための薬の製造に成功する。しかし、呪いには解かれるのを阻止するための仕掛けがあり、解呪の薬が近づくと呪われた妻子は暴れ始める。真はパトリックの妻子が怪物のような姿となり、暴れ回るという惨状を見て、改めて悪意の塊である呪いに怒りを覚え、パトリックに力を貸す。真はその圧倒的な力で、怪物と化した妻子を無力化し、彼女たちを救う。だが、息つく間もなくパトリック邸を離れた真は、すぐに巴と澪と合流。裏でパトリックの呪い事件に絡んでいたライム=ラテたち、街の冒険者に襲われる。パトリックの始めた事業が冒険者たちにとって都合が悪く、低報酬の冒険者たちが生活できなくなってしまったため、義憤に駆られたライムたちはパトリックの家族に呪いを掛けたのだ。呪いを解いた真たちに襲い掛かるライムであったが、あっさり返り討ちに遭い、ライムは巴の手に捕まる。そして巴の手によって、ライムたちも主犯である呪術師の男に騙(だま)されたにしか過ぎないことが判明する。呪いも軽いものと思っていたライムは、パトリックの妻子の現状にがく然。パトリックに謝罪し、責任を取って冒険者を引退する。また巴はパトリックと、その執事であるモリスの記憶を読み、すでに主犯の男は死亡し、事件の真相が彼らの業そのものであることを知る。巴はそのことを真に伝えず、一人苦い味を嚙みしめるのだった。
音無響の出来心
時はさかのぼり、深澄真が女神に放逐されたあと、女神は真の代わりに日本から二人の若者をさらい、勇者にしていた。真たちが通っている中津原高校の生徒会長をしていた音無響は、文武両道で人望もあり、順風満帆な生活を送っていたが、そんな日々にどこか退屈さを感じていた。響はある日、女神にそんな内心を言い当てられ、つい女神の誘いに乗ってしまう。異世界のリミア王国に勇者として召喚された響は、魔が差して女神の提案に乗ったが、女神が信用できない存在だとすぐ看破し、異世界の人間も自分を都合よく利用しようとする魂胆をすぐ見抜く。そして、響は表向き従順で理想的な勇者を演じつつ、信頼できる仲間を集め、異世界での地盤を確固としたものにしていく。才気に恵まれた響は異世界でも順当に頭角を現していくが、ある日、黒蜘蛛と遭遇。生き残りはしたものの、異世界で初めて決定的な敗北を喫するのだった。一方、女神にさらわれたもう一人の勇者は、中学生の少年、岩橋智樹だった。智樹はいじめのせいで不登校となっていたが、女神の誘いに乗り、異世界で勇者となることを決める。智樹は響とは別のグリトニア帝国に召喚され、帝国の第2皇女、リリ=フロント=グリトニアと交流する。しかしリリは女神に翻意を抱いており、智樹を言葉巧みに誘導し、己の都合のいい傀儡(かいらい)へと洗脳する。そして、リリは表では智樹を献身に支えつつ、裏では非人道的な人体実験を行い、智樹を勇者という名の兵器へと変えていくのだった。
鬼の隠れ里
巴は冒険者を引退したライム=ラテに接触し、彼が思ったより見どころがあると感じ、亜空に勧誘する。また、深澄真は呪い騒動で戦闘不能となったツィーゲの冒険者たちの穴埋めをすべく、トアたちを鍛え上げる。亜空に住む人々にも変化が訪れ、それぞれの日々を過ごしている中、真はルビーアイの一件から、幻の薬草「アンブロシア」が近くにあることを知り、その採集に赴くことにする。しかしアンブロシアの群生地は、森鬼が守っており一触即発。さらに真を利用して荒稼ぎしようとしていた冒険者のイレインが乱入し、場は混沌としたものになる。真はイレインを蜃気楼都市に送り込み、森鬼と対峙(たいじ)。彼らの村に赴き、長たちと交渉を始める。森鬼たちは排他的で、ヒューマンを敵視していたが、彼らの村を守る結界を作ったのはかつての蜃で、さらに真が森鬼を刺激したことで、彼らのうちに潜んでいたリッチを発見。それを打ち倒して、辛うじて森鬼との交流に成功する。そして打ち倒したリッチも、魔法の知識を欲した真は交渉を開始して和解。巴の提案で新たな従者となり、識の名が与えられるのだった。万事解決かと思われたが、その瞬間、イレインたちは亜空の宝物庫から危険物を盗み出し、不用意に扱ったため大爆発を引き起こす。真はこれによってヒューマンに感じていた致命的な認識のズレに気づき、己の失態で大きな被害をもたらしたことを嘆く。そして真は一人で、事態解決のためイレインを追って殺害し、事態に幕を引く。
亜空改造計画
イレインの起こした爆発騒ぎは犠牲者も出す大きなものとなり、深澄真は自分の認識がいかに甘かったかを実感する。そして真は、亜空の危機管理意識を大幅に改善し、蜃気楼都市も大幅に改造するのだった。また、新たに仲間に加わった識や森鬼の集団とも交流を開始する。真は亜空の外でもパトリック・レンブラントの支援を受けつつ商人として活動の場を広げ、この世界の情報を集めるべくパトリックの助言に従って学術都市「ロッツガルド」を目指すことを決める。真は道中、山賊に襲われた少女のラナを助けつつ、物思いにふけりながら先に進むのだった。一方、音無響は女神の作った世界の歪(いびつ)さを実感しつつも、まずヒューマンと魔族の争いに終止符を打つべく、もう一人の勇者、岩橋智樹と共同して魔族に奪われたステラ砦の攻略を目指す。しかし智樹は、リリ=フロント=グリトニアの手によってすっかり傲慢で愚かなあやつり人形へと変貌させられており、響は智樹の態度に大きく疲弊する。また、智樹は女神から与えられた魅了の力で、響の周囲の人々に影響をもたらしており、響は智樹をやたら高評価する仲間たちに不気味さを覚えるのだった。
ゲームオーバー
リリ=フロント=グリトニアは、魔族とヒューマンの戦いの影で暗躍を続けており、岩橋智樹の魅了の力を使って各陣営にさまざまな仕掛けをほどこしていく。そして始まるステラ砦攻略戦だったが、魔族は勇者に対してワナを用意しており、これによって音無響と智樹たちは開戦早々劣勢となる。そして魔族の将、イオのもたらしたさらなるワナによって響と智樹たちは女神の加護を失い、大幅に弱体化。今までゲーム感覚で戦ってきた智樹は、死ぬ可能性に怯(おび)えて戦意喪失して戦場から逃亡してしまう。しかしそれはリリの想定内の出来事で、実は魔族の情報をつかんでいたリリは、魅了の効かない響を邪魔者と判断し、これを機に謀殺するつもりだったのだ。残った軍を逃がすため、響と仲間たちは殿を務めてイオと戦う。力を失ったヒューマンと響は魔族には無力だったが、ナバール・ポーラーが己の命を代価にした猛攻を開始。その命と引き換えにしてイオを足止めし、響たちを救うのだった。魔族に一矢報いるも、ヒューマンの軍勢は相変わらず劣勢。この状況で女神は深澄真をさらい、強引に戦場のど真ん中に放置するのだった。
気まぐれ女神の御使い
ロッツガルドに向かう最中の深澄真は、識と共に転移魔術陣をくぐったが、その瞬間、女神に拉致され、気が付けば魔族とヒューマンの戦場のど真ん中に放置されていた。真は状況を把握する間もなく魔族に与するスゴ腕剣士のソフィア=ブルガと、上位竜のランサーに攻撃される。女神の思いどおりになるのを嫌い、話し合いで済まそうとするも、ソフィアたちは執拗(しつよう)に真に襲い掛かったため、反撃を開始。ソフィアたちは強敵で、さらに不意打ちで大ケガを負った真は無我夢中で戦い、彼が最後に放った一撃がソフィアとランサーはおろか戦場すべてを飲み込み、巨大な湖を形成するに至る。ヒューマンと魔族の戦いは終わるも、真は大ケガを負ったまま気を失い、その所在を見つけた澪に回収される。治療された真は行動方針を修正し、女神を警戒しつつ、さらに力をつけるべくロッツガルドの学園で学び直すことを決める。しかし、実は書類が取り違えられていたため、周囲は真が先生になるとばかり思っており、真が気づいた時には時すでに遅く、真はロッツガルド学園の教員採用試験を受けるのが決まってしまう。お世話になったパトリック・レンブラントの推薦もあった手前、今さら試験を中断するわけにもいかず、真は高難易度の採用試験を辛うじて突破。臨時講師として学園に雇われるのだった。
関連作品
小説
本作『月が導く異世界道中』はあずみ圭原作の小説『月が導く異世界道中』を原作としている。イラストはマツモトミツアキが担当している。「小説家になろう」に2012年に投稿された作品であったが、アルファポリス「第5回ファンタジー小説大賞」読者賞を授賞し、書籍化された。アルファポリスより2013年5月から刊行されている。
メディア化
テレビアニメ
2021年7月から9月にかけて、本作『月が導く異世界道中』の原作である小説版『月が導く異世界道中』のテレビアニメ版『月が導く異世界道中』がTOKYO MX、BS日テレ、AT-Xほかで放送された。制作はC2Cが担当している。キャストは、深澄真を花江夏樹、巴を佐倉綾音、澪を鬼頭明里が演じている。真と巴が時代劇好きという設定から、アニメでは時代劇『水戸黄門』の主題歌「ああ人生に涙あり」が、第1話と第4話のエンディングテーマとして流れた。ボーカルは声優がカバーし、曲もアレンジされたもので、第1話は真(花江夏樹)が歌い、第4話は巴(佐倉綾音)と澪(鬼頭明里)が歌ったものとなっている。第1期の放送終了後、第2期の制作が決定した。
登場人物・キャラクター
深澄 真 (みすみ まこと)
中津原高校に通う2年生の男子。年齢は17歳。容姿は日本人としては平均レベルだが、やたら美形と縁があり、家族は全員美形ぞろいで、所属している弓道部も男女含めて美形だらけなため、必然的に周囲から容姿を見比べられることが多い。しかし、深澄真自身はひたむきな努力家で、人当りもいいため、友人も多い。実は両親は異世界出身者で、両親がなんらかの事情で日本にやって来る際に女神と契約して、日本行きを許される代わりに、いずれ女神に自分の大切なものを差し出す契約を交わす。自分が断れば姉か妹が召喚されるため、渋々その契約を受け入れ、異世界に行くこととなる。日本の神である月読命から「界」の加護を授かって召喚されるが、召喚された直後に女神に放逐される。女神から最低限の加護として、異世界の人間であるヒューマン以外の言語をあやつることができるという「理解」を授かったが、生き残るのも困難な世界の果てに放り出されて死にかける。理解はヒューマンの共通語以外なら亜人だろうが、魔物だろうが意思疎通可能となるため、世界の果てでエマと出会ったのをきっかけにして、さまざまな種族と交流を始める。上位竜の巴や、黒蜘蛛である澪を従者とし、巴の提案で亜空に世界の果ての住民を移住させ、己の領土として発展させていく。異世界に来た際に、莫大な力に目覚めており、その力は上位竜をも超えるほど。水、闇、火、土、雷の属性の魔術に適性があり、巴と契約して以降は彼女の持つ力も一部使えるようになっている。一方で、回復の魔力の適性はいっさいないため、治癒魔法は使えないだけでなく、他者から受けることもできない。回復魔術ならば回復できるが、非常に困難な術であるため使い手は少ない。宗像夏に師事しており、弓術を教わっているため、卓越した弓の腕を持つ。幼い頃は極度の虚弱体質で、弓は体を鍛えるために始めたが、今では純粋に弓を射るのが好きになっている。異世界のヒューマンは美形ぞろいであるため、その容姿を不細工扱いされることが多く、亜人扱いされることもある。商人として活動する際は、仮面を付け「クズノハ=マコト」として活動している。
クズノハ=マコト
深澄真が異世界で商人として活動する際に使う仮の姿。異世界では容姿が特徴的であるため、エルダードワーフの作った認識阻害効果のある仮面をかぶり、魔力を隠蔽するためにドラウプニルと、特製のトレンチコートを羽織っている。商人ギルドに登録し、パトリック・レンブラントを後ろ盾にして、亜空の作物を売るため商人として活動し始めているが、召喚時に受けた仕打ちから女神を嫌っているため、彼女の知る「深澄」の姓を使わず、気づかれないように「クズノハ=マコト」の名で活動している。共通語を勉強しているが、読み書き、聞き取りは習得したもののなかなか発音が身につかないため、呪いで共通語のみ話せないという設定を作り、ヒューマン相手には主に文字を魔力で表示し変則的な筆談で会話する。「クズノハ商会」を結成し、パトリックのフォローもあり、商売を軌道に乗せている。学術都市・ロッツガルドでさまざまなことを学ぼうと思ったが、手違いで生徒用と教師用の書類を間違えて送り、紆余曲折の末、ロッツガルド学園で臨時講師として雇われることとなる。
巴 (ともえ)
深澄真の従者の一人。上位竜である蜃が人間の女性へと変化した姿。澄んだ青い髪をポニーテールにした美女で、和風な着物を着崩した露出度の高い服を身につけている。真の記憶を見て、時代劇をはじめとした日本文化に興味を覚え、彼を主として契約する。真が蜃に新たな名づけを乞われ、蜃が女侍にあこがれていたため、「巴御前」に由来して「巴」と名づけた。黙っていればクールビューティーだが、時代劇かぶれな外国人みたいな言動が多く、当初は一人称も「私」でふつうの言葉遣いだったが、途中から一人称を「儂(わし)」にすることを宣言し、言葉遣いも妙に時代がかったものへと意図的に変えている。冒険者ギルドで測定したレベルは1320。澪よりレベルが低いのがよほど悔しかったのか、武者修行してのちに1340までレベルを上げている。蜃であった頃の力はそのまま使え、幻術で記憶を読み取ったり、亜空を経由することで空間を移動したりと、その力の応用範囲は非常に広い。現在はその力を利用して、真の記憶を読み取って亜空で日本文化を再現したり、時代劇のロールプレイをしたりするのにハマっており、着物や刀をオーダーメイドで作らせ新たな装備としている。享楽的な性格をしているが、本質的には仲間思いで思慮深い。澪を真の従者にし、各種族を亜空に招いて真をその主に仕立て上げたりなど、暗躍して真陣営の強化に奔走している。幻術と水、風の魔法を得意とするが、刀を手に入れてからは専ら刀を使った戦いを好んで行う。
蜃 (しん)
「無敵」と称される上位竜。澄んだ青い鱗(うろこ)を持つ竜で、霧と幻術をあやつる力を持つ。直接的な攻撃力や防御力はほかの上位竜に劣るが、蜃のあやつる霧は非常に強力で、この霧に包まれればたちまち感覚が狂わされ、蜃の見せる幻術に囚われ脱出不可能となってしまう。また、蜃には「亜空」と呼ばれる専用の空間を作り出す能力があり、霧に包まれた対象をこの空間に引きずり込むことも可能。亜空の中ではすべてが蜃の思うままで、敵なしの状態となるため「無敵」の名で呼ばれる。幻術を応用して他者の記憶を読み取ることもできるため知能も非常に高いが、それゆえにすべての出来事に退屈し、世界の果ての神山を縄張りとして怠惰なまどろみに囚われている。基本的にすべての出来事に無関心で、無干渉であるため、魔族にその怠惰を利用され、勝手に名を使われてしまう。魔族がハイランドオークに生贄を要求した際、義憤に駆られた深澄真がカンちがいで蜃の縄張りを荒らしたため、お互いに認識を掛け違えたまま争うこととなる。なお、真は先入観から、蜃の姿を見るまで、蜃気楼を生み出す貝の妖怪「蜃」と思っていた。真の記憶を見たことで今までにない未知の知識に興味を覚え、彼と契約を交わし、新たな名として「巴」の名を授かる。
澪 (みお)
深澄真の従者の一人、。黒蜘蛛が人間の女性へと変化した姿。艶やかな黒髪のボブカットヘアで、黒い着物を羽織った日本人形を思わせる風体をした美女で、真に対して狂信ともいえるほどの絶対の忠誠を誓っている。名前の由来は空腹から解放され零からのスタートという意味に、真が水の魔法を得意とするため、さんずいを加えて「澪」と名づけられた。真には甲斐甲斐(かいがい)しい態度を取るが、それ以外には冷淡で、巴とは何かと張り合う仲。黒蜘蛛の時代は正気を失っており、ただ暴れることだけしかできなかったが、従者となって以降は糸を使ったからめ手や、魔法を食らって発動を妨害するなど頭脳派な一面も見せる。冒険者ギルドで測定したレベルは1500。真に手料理を食べてもらおうと料理に興味を覚えるが、黒蜘蛛時代の価値観から食材に対する価値観が人類と大違いで、鉱物や魔物すら料理の材料にしようとする。そのため出来上がったものは蜃ですら恐怖を覚えるゲテモノで、試食会で亜空の住人を多数撃沈させた。しかし、食材を選ぶ審美眼そのものは卓越しており、素材のよし悪しを見抜く力は確かなもの。試食会の惨状を見て、蜃からの助言を受けたことで、料理の腕は少しずつ改善している。和風な見た目をしているが、巴と違って時代劇には興味がない。だが、真の記憶を翻訳して資料を作る作業中に、特撮やアニメを見てから、それらにハマっている。
黒蜘蛛 (くろくも)
古来より存在する大蜘蛛の魔物。見上げるほど巨大な体軀をした黒い蜘蛛で、つねに飢餓感に苛(さいな)まれ、目につくものを手当たり次第に襲って食する。上位竜に匹敵する圧倒的な力を持つが、空腹で正気を失っているため、あらゆる意思伝達手段が通じず、ただ通りすぎるのを待つ災害のように扱われている。そのため、各地で「黒い災害」「災害の黒蜘蛛」の名で恐れられている。過去には黒蜘蛛を討伐しようとした者もいるが、体が極めて頑強であるうえに、不死身にも等しい再生能力を持つため倒すのは非常に困難。上位竜である蜃ですら倒すのをあきらめるほどで、気に入った獲物があれば亜空にすら侵略する執念深さを見せる。エルダードワーフに襲い掛かった際に、巴と出会い、そのまま亜空を侵略して深澄真と戦う。あらゆるものを食べることができ、有機物はおろか武器や建物といった無機物や、魔法のようなエネルギーすら吸収して己の力とする。一定のダメージを与えるのが唯一の対処法で、ダメージを通じてある程度食べるのに満足すれば別の場所に向かう。しかし真の場合は、彼の血と魔法を食らって彼のことを気に入り、執拗に狙った。真を半死半生にまで追い詰めるが、そこで生まれて初めて満腹感を得て、正気を取り戻す。実は知能が高く、言語もあやつるために正気であれば意思疎通も可能。真のことを心底気に入ったため、蜃の提案で真の従者になることを選び、彼から「澪」の名を授かる。
識 (しき)
深澄真の従者の一人。不死者であるリッチが人間の男性へと変化した姿。赤い髪を長く伸ばした偉丈夫で、幅広い魔法の知識で、主である真をサポートする。名前の由来は常識や知識を意味する「識」。従者の中では最弱で、巴と澪に振り回されることが多い。一方で従者の中では従順で、一番の常識人であるため真からアテにされることが多く、それが澪と巴の嫉妬を買うという悪循環に陥っている。単純な力そのものは巴にも澪にも敵わないが、多彩な魔法をあやつることができ、真のドラウプニルを13個も契約の際に取り込んだため、潜在能力は非常に高い。回復魔術も高い水準で使いこなせるため、真からはその腕前もアテにされている。また博識でまじめなため、従者の中で一番事務関係の仕事に向いており、今までエマに集中しがちだった資料作りの作業も、識が来てから急速に進み、亜空の文化レベルを一気に引き上げている。その仕事ぶりを買われ、ロッツガルドに真の補佐として同行するが、その最中、真は女神にさらわれてしまう。真が帰還してからは、女神に識の存在がバレたと推測し、巴と澪の存在を女神に隠すべく、表向き真と同行するメインの従者となる。
リッチ
魔術を使い不死者となった魔術師。ローブを羽織った骸骨の姿をしており、禍々(まがまが)しい雰囲気を身にまとっている。ヒューマンの上位種族である「グラント」になることを目指しており、そのために人間であることを捨て、リッチとなる。リッチは種族名であるが、人であった頃の記憶はほとんど残っておらず、名も忘れ去ったことから「リッチ」と名乗っている。森鬼の持つ能力を狙い、モンドに取り憑(つ)き暗躍していたが、深澄真の存在に興味を覚え、彼に襲い掛かるが返り討ちに遭う。その後は真に囚われ、彼に魔法の知識の提供を持ち掛けられるが、そこで自分がグラントに関して致命的な思い違いをしていることを巴に指摘され、絶望する。失意に暮れていたが、巴に真の従者になるように誘われ、その誘いを受ける。能力自体は巴や澪に比べて大きく格落ちし、素の力量ではまともに契約することもできないほど、真と力量に差があった。そのため、真のドラウプニルを13個取り込んだうえで、契約の仕組みに細工をすることで辛うじて契約に成功する。
コモエ
巴の分身体。見た目は巴をそのまま子供にしたような見た目で、巴が亜空の諸々の雑用をさせるために生み出した。分体は初代と2代目がおり、見た目はほぼ同じだが、初代は半袖の着物を着用し、2代目は振り袖に袴(はかま)姿をしている。初代はヒューマンの冒険者が起こした騒動で消滅したため、巴がその反省を活かし、2代目は真のドラウプニルを使って生み出した。また真も初代には最後まで名前を付けてあげなかったのを心残りにしており、2代目の分体を小さい巴として「コモエ」として名づけた。巴の分身で、ある程度は感覚を共有しており、分体がダメージを受けると本体もダメージを受ける。ただし、記憶や人格は独立しており、性格も巴とは微妙に違う。明るく無邪気な性格をしており、亜空に生えている柿とバナナが好物。
エマ
ハイランドオークの女性。年齢は17歳。白いドレスを身にまとった豚の姿をしているが、性格は清楚(せいそ)で気立てがよく、同族の中ではかなりの美少女として扱われている。族長の娘で、村一番の魔法の使い手。蜃の生贄となったため、役目をまっとうすべく一人、蜃のもとに向かっている最中に深澄真と出会う。魔物に襲われていたところを真に救われ、お礼に遭難しかけていた真に寝床と食料を分け与えた。その後、真が一宿一飯の恩で蜃を打ち倒し、巴として従えたことで、エマたちハイランドオークも真の配下に加わる。もともと優秀だったが、真の配下となって以降は指導者として頭角を現し、各種族間の調整や蜃気楼都市の運営など、実質的な亜空の采配を任せられている。魔術師としても非常に優秀で、その腕前は巴が関心するほど。まじめで誰よりも真摯に働いているため、真や巴ですら頭が上がらなくなっているが、一方で仕事がエマ一人に集中して多忙を極めている。そのため識が加わって以降は、役割が分散して仕事がかなり円滑に回るようになり、亜空の発展速度が一気に上がっている。
カチーノ
ハイランドオークの男性。ハイランドオーク最強の戦士、アガレスほどではないが、同族の中でもかなりの実力者で、ハルバートを得意武器としている。戦闘ではハイランドオークの魔法使い、ミトと行動を共にすることが多く、ミトとの連携は非常に強力。巴の命令でライムの戦闘訓練に付き合っているが、ミトは手を出さずに得意武器ではない大剣で戦っても、ライムが手も足もでないほどの猛者(もさ)で、ライムを一方的に叩(たた)きのめした。ふだんは気のいい性格ながら、訓練ではライムやモンドを厳しく指導していた。
ベレン
エルダードワーフの高齢な男性。白いヒゲを生やした鍛冶(かじ)師で、職人が多いエルダードワーフの中でも腕利きと評判。一方でよくも悪くも職人気質なため、希少な素材を求めて危険な荒野にためらわず飛び込んでいる。荒野を探索中、黒蜘蛛と遭遇し、死にかけていたところを巴に救われる。その後、黒蜘蛛が深澄真に退けられ、亜空の存在を知ったことで、エルダードワーフ一族の移住を願い出る。黒蜘蛛はエルダードワーフにとって天敵だが、呪いであの姿にされ、真に呪いを解かれて澪の姿となった説明を巴から受け、納得している。亜空では主に武器の製作や、メンテナンスを引き受けている。また、素材のためなら命を懸ける気質はそのままで、澪の試食会で出る料理に希少な鉱石が入っているのを知った際には、試食で死にかけつつも素材を入手している。安全で快適な亜空の生活に心から満足しており、危険な世界の果てでの生活から救ってくれた真には深く感謝している。長らく人里を離れているため、現在のヒューマンたちの武具や町がどうなっているのか興味があり、それを知った真にクスノハ商会の鍛冶師のまとめ役に抜擢される。クスノハ商会の鍛冶師として、若いエルダードワーフの成長や、商会の呼び込みのための実演販売など精力的に働いている。
ルグイ
エルダードワーフの男性。ヒゲと髪を伸ばし放題にしており、片目のみ覆う大きなゴーグルをしている。主に魔道具(マジックアイテム)の開発に携わっているが、エルダードワーフの中でも変わり者と知られている。悪い意味で職人気質な性格で、品質にこだわるあまり本来の目的を忘れることもしばしば。深澄真が「魔力を抑える装備」を注文した際、闇翡翠の指輪を持っていくが、真の魔力に耐え切れず破損した。その出来事がよっぽど悔しかったのか、今度は真の魔力を吸い尽くして「呪い殺す」つもりで「ドラウプニル」を開発し、彼に手渡した。のちに、衣服版ドラウプニルともいえる高性能な特製トレンチコートを作成し、真に防具として採用される。トレンチコートは赤と青の二つの機能が存在し、青は防御に、赤は機動力に優れた性能を発揮する。トレンチコートは本来、魔力の溜まったドラウプニルと接続して使うのを想定しており、ふつうに着たら魔力を吸い尽くされて死ぬ代物となっていたが、真はあっさり着こなしてトレンチコートの魔力貯蔵量をすぐに飽和させた。そのためまたしても目的を忘れ、今度こそ真の魔力を枯渇させ、呪い殺そうと野望に燃えている。
エルド
エルダードワーフの長老を務める老爺(じい)。ベレンに説得され、エルダードワーフの住人たちを引き連れ、亜空に移住する。ヒューマンの欲深さを警戒しており、深澄真も女神の使徒ではないかと危惧していたが、直接問答したことでその警戒を解き、彼に従う。エルダードワーフの長だけあり、彼も一端の職人で、亜空に来た当初は杖をつくヨボヨボの年寄りだったが、生活に慣れ始めた頃には自分用に歩行補助の装備を作り、軽快に動き回るようになる。また、エルダードワーフの例にもれずよくも悪くも職人気質で、物づくりに情熱を傾けるあまり、ほかのことが目に入らなくなる部分がある。イレインが爆発騒動を引き起こしたあとは、エルダードワーフの危機管理能力の低さを反省し、すぐさま真たちと共に改善している。
ライム=ラテ
ツィーゲの街でトップに君臨する冒険者の青年。くすんだ灰色の髪を持ち、軽装で身を包んだ若い戦士で、面倒見が非常にいい。レベルは201で、ナイフを武器にして戦うのを得意とする。初心者や下位の冒険者の面倒も見ているため、冒険者たちの兄貴分として慕われており、ツィーゲの街内であればかなりの人脈を持つ。しかし、それだけに、レンブラント商会が低レベルの依頼を積極的に消化する事業を始めたことで、依頼がかち合う低位冒険者の仕事が激減することに不満を抱く。低位冒険者の中には死亡者が出始め、パトリック・レンブラントが私腹を肥やすために事業を行っていると呪術師の男に吹き込まれ、義憤に駆られパトリックの妻子に呪いを掛けるのに協力し、その呪いが解かれないようにさまざまな妨害工作を行っていた。しかし実は呪術師の男に騙されており、呪いの内容も命に害がない、ただ眠らせる呪いだと知らされていた。深澄真が呪いを解いたため、彼に襲い掛かるが、真と巴に返り討ちに遭い、真実を知ってがく然とする。その後は真に連れられ連日、パトリックに謝罪をしにいって和解し、けじめとして冒険者を引退する。実は孤児院出身で、冒険者になるしかない孤児のためにも、働く場を用意してあげたい一心だった。巴にその内面を知られ、見どころがあると亜空に勧誘される。孤児院への支援を条件に引き受け、密偵候補として訓練しているが亜空には常識が通じず、初訓練でツィーゲトップ冒険者としての自信は粉々に砕かれ、死に物狂いで訓練している。亜空に住み始めてからは時代劇好きな巴の影響を受けており、口調が少しずつ時代劇調に染まっている。
アキナ
アルケーの女性。変身能力を持ち、ピンク色の髪を肩口で切りそろえた人間の少女の姿となることができる。明るく發らつとした雰囲気を身にまとっており、ふだんは亜空の中で働いている。澪と行動を共にして料理研究をしたり、蜃気楼都市で冒険者相手に接客業をしたり幅広く働いている。いつも朗らかに愛嬌を振りまいているが、薬物を用いた爆発を得意としており、その戦闘能力は高い。
ハルナ
アルケーの女性。変身能力を持ち、紫色の髪を片口で切りそろえた人間の女性の姿となることができる。アキナに比べて少し大人びた姿をしており、面倒見もいいため、アルケーの中では一番亜空の住人たちと交流がある。また武器の扱いが得意で、戦闘にも興味があるため、訓練にも積極的に参加している。
ミナト
アルケーの男性。変身能力を持ち、長く伸ばした髪を一つまとめにした人間の青年の姿となることができる。アルケーの中でも戦闘にはまったく興味がなく、新しい知識を学ぶのに貪欲な探究心を持っている。薬物、鍛冶、錬金術と幅広い分野を学び、亜空のほかの住人たちと協力して深澄真の記憶にある科学技術の再現などを試みている。研究所では白衣をまとい、眼鏡をかけている。
ホクト
アルケーの男性。変身能力を持ち、白い髪を無造作に伸ばした人間の青年の姿となることができる。たくましい体格をしており、力仕事が得意で、建築関係の仕事を手伝っている。巴の影響で忍者にあこがれを抱き、忍者になることを目指している。蜃気楼都市で冒険者が巻き起こした爆発事故で、幼子を守って瀕死の重傷を負うが、駆け付けた真と識の治療で辛うじて命をつなぐ。
パトリック・レンブラント
ツィーゲの街で一番栄えたレンブラント商会の代表を務める男性。種族はヒューマン。上品な身なりをした商人で、物腰穏やかで情に厚い人格者として街の人や、商会の従業員から慕われている。若かりし頃から新進気鋭の商人として頭角を現しており、死んだ恋人が代表を務めるハンザ商会を立て直した話は、美談として今も語り継がれている。現在も街一番の商人として成功を収めているが、最近はレベル8の呪病に妻子が冒され、その解決のため奔走している。深澄真に妻子を救われて以降は、彼に強く感謝すると共に、明らかに異質な力を持つ彼に強い興味を覚える。そのため己のあらゆるツテを使い、クズノハ商会の商売をサポートしている。表向きは家族思いで人情家な商人で通っているが、その本性は己の野望のためならあらゆる手段を取る極悪非道な人物。腹心のモリスを実行犯にして、若い頃から商売敵を人知れず処分したり、謀略を仕掛けたりしていた。妻子を呪った犯人である呪術師の男も、過去のパトリック・レンブラントの被害者で、相当後ろ暗い過去を持つ。巴は記憶を読む力でその事実に行きついたが、商売の裏の裏まで知るパトリックの手腕を買い、真にその事実を伝えず、パトリックの存在を利用することを決めた。
モリス
パトリック・レンブラントの側近を務める高齢の男性。種族はヒューマン。敏腕の執事で、パトリックの身の回りの世話をそつなくこなす。しかしその正体は、パトリックの裏の仕事を請け負う懐刀ともいうべき人物。若かりし頃からパトリックの商売敵を暗殺してきた共犯者で、その身のこなしは年老いた現在もかなりのもの。ただ寄る年波には勝てず、老眼のため、最近は片眼鏡をかけているが、それでもうっかり見間違いをしたりしている。パトリックの妻子を救ってくれた深澄真には、パトリックと同じく強い感謝の念を抱いているが、真がロッツガルドで講師の試験を受けることとなった元凶。そんな中、うっかり生徒用と教師用の書類を間違えてロッツガルドに送ってしまい、結果的に真は臨時講師として雇われることとなった。
リサ=レンブラント
パトリック・レンブラントの妻。美しい妙齢の美女で、聡明で慈愛に満ちた人物として知られている。しかし本性は、パトリックと同じく二面性のある女性で、若かりし頃はパトリックと組んで色々後ろめたいことをしていた。娘を二人生んでからはかなり丸い性格となった。呪術師の男によって娘二人と共に、ゾンビのような姿となって延々苦しんだ末に死ぬレベル8の呪病を受ける。深澄真に救われたあとは、真に深く感謝している。
モンド
森鬼の戦士の男性。灰色の髪を短く整えている。褐色の肌を持ち、精悍(せいかん)な体つきをしている。アクアとエリスの師匠で、攻撃的で強引な言動が多いという、アクアとエリスを足したような性格をしている。森鬼の中でも戦闘能力は高く、今や失われた森鬼の秘術である「樹刑」を森の中で唯一習得しているため、その力で森に侵入した冒険者たちを次々と葬っていた。実はリッチに寄生されており、樹刑の能力もリッチがその能力に興味を覚え、彼が覚醒させたもの。リッチが樹刑の効かない深澄真に興味を覚え、リッチが彼に襲い掛かる際に本性を現したため解放される。その後は森鬼が真の配下になったため、彼に戦士として仕える。アクアと同じく戦士としてのプライドがとても高かったが、初の戦闘訓練で粉々に砕かれるも、強くなれるならと現状をあっさり受け入れた。
アクア
森鬼の戦士の女性。灰色の髪を長く伸ばし、褐色の肌を持つ美女で、強気な性格をしている。エリスと組んで行動することが多く、メタで電波的な言動をするエリスのツッコミ役を担っている。弓を使う森の戦士で、ぶしつけに森を荒らし、森の恵みを奪っていくヒューマンを嫌っている。深澄真と初めて出会った際も、真がアンブロシアを狙っていると思い、戦闘している。真に敗北後、リッチ騒動を経て森鬼が真に恭順したため、師匠のモンドと共に戦士として彼らに仕える。当初は戦士としてのプライドから真たちに対しても強気な態度で接していたが、真との戦闘訓練でアクア自身を粉々に砕かれ、その後の訓練で骨身の髄まで恐怖を刷り込まれる。亜空での訓練に強い恐怖を覚えているため、死に物狂いで接客業を覚え、訓練から逃げている。当初はヒューマン相手の接客に難色を示していたが、それ以上に訓練が怖いため、ツィーゲの街のクスノハ商会店舗で看板娘として働いている。その働きぶりと容姿の美しさから、亜人にもかかわらずヒューマンに受け入れられ始めている。
エリス
森鬼の魔術師の少女。灰色の髪をショートカットに整え、褐色の肌で子供のような小柄な体型をしている。「啓示」を受け取ったと語り、メタで電波的な言動を行なっている。そのため、アクアと組んで行動することが多いが、彼女にその言動をよくツッコまれている。深澄真からも、相手をするのが非常に疲れると苦手意識を持たれており、マイペースに行動することが多い。氷の魔術をあやつる魔術師で、真と初めて出会った際は、真がアンブロシアを狙っていると思い、戦闘している。真に敗北後、リッチ騒動を経て森鬼が真に恭順したため、師匠のモンドと共に戦士として彼らに仕える。アクアやモンドたちと違い、基本的に戦士としてのプライドはないため、亜空での訓練でも真っ先に脱落した。しかし亜空の森で偶然、バナナを見つけてからはその虜(とりこ)となり、バナナのために訓練を続けている。果物好きな森鬼の中でも突出したバナナ好きで、バナナが食えるならと澪の試食会に参加したほど。アクアほどではないがヒューマンを毛嫌いしているが、訓練はもっと嫌いなため、死に物狂いで接客業を覚えて、アクアと共にツィーゲの街のクスノハ商会店舗で看板娘として働いている。ただし、その接客方法もフリーダムであるため、余り好評ではない。
ニルギストリ
森鬼の長を務める老爺。灰色のヒゲと髪を長く伸ばした老人で、村に複数いる長老のまとめ役を担っている。森鬼の住む村の周囲には、ヒューマンに見つからないように霧の結界「夢幻結界」が張られているが、これは若き日のニルギストリが蜃に願ったもの。そのため蜃には強い恩義を感じており、今も敬っている。森鬼の例にもれずヒューマンを敵視して、深澄真を宴に招いて、だまし討ちで殺そうとするが、リッチが現れたせいで宴は台無しとなる。真のもとに駆け付けた巴がかつての蜃であることを知り、真とは和解して矛を収めた。その後、森鬼の一部を亜空に移住させる。
アドノウ
森鬼の長であるニルギストリの息子。目つきが鋭く、森鬼の中でも特にヒューマンを敵視している。魔族の将軍であるロナと内通しており、森鬼の村を守る夢幻結界が弱まっているために魔族と呼応して、森鬼もヒューマンと戦うべきだという考えを持つ。森鬼の長老と若者の一部をすでに自分の派閥に取り込んでいるため、遠からず森鬼の実権を父親から奪取するつもりであったが、宴の日に魔族の暗躍を嫌ったリッチに殺された。のちに事の顛末を知った父親からは、リッチに殺されなくても反乱を起こせば、自らの手で引導を渡しただろうと語っている。
トア
絶野で活動する冒険者の女性。リノンの姉。種族はヒューマンで、職業は「闇盗賊」。赤い髪を後ろで一つまとめにし、長身でスタイル抜群。髪の色や髪型が少し違うが、その見た目は長谷川温深にそっくりで、深澄真はリノンから似顔絵を見せてもらって大きな衝撃を受けていた。先祖は名のある家柄だったようだが、神器と謳(うた)われる短剣を手に、世界の果てにいる上位竜である蜃に挑み敗北。神器を失って、一族はその責任を取らされ没落してしまった。神器を取り戻して一族の名誉を回復することを願い、世界の果てに挑むべく絶野にやって来るも、借金のかたに質の悪い冒険者に捕まる。その後、麻薬漬けにされて娼婦として働かされていたが、澪と巴に助けられる。二人の力で完全に回復しており、捕まる前よりも健康な状態で解放されたが、澪と巴がケンカで絶野を壊滅させたのを目撃して精神に大きなキズを負った。ほかの人たちと違い、真に多大な恩義を感じているため、妹と共に記憶操作は受けておらず、絶野の記憶は保持している。ツィーゲの街に到着した時点でのレベルは125で、冒険者ギルドのランクはA。いっしょに絶野を脱出して来たハザル、ルイザ、ラニーナと共にパーティを結成し、冒険者稼業に精を出している。しかし、もともと金銭感覚がだらしなく、必要のないものを騙されて買ったり、打ち上げで散財したりするなどかなり迂闊(うかつ)な性格をしている。そのため、リノンが計算ができるようになってからは、財政面をきつく締めあげられている。もともとは平均レベルの冒険者程度の実力だったが、ライム=ラテの引退後、巴に短いあいだ訓練をつけてもらったことで頭角を現すようになる。のちの世では「偉大なる開拓者」と称されるパーティのリーダーとして語られている。
リノン
絶野で活動する冒険者、トアの妹。年齢は10歳。赤毛の髪をセミロングに伸ばし、ワンサイドアップに結んでいる。明る性格でしっかりとしているが、姉が借金のかたに質の悪い冒険者に捕まり、それをネタに脅されて悪事に加担している。冒険者たちからは使い捨ての駒として都合よく扱われており、良心の呵責(かしゃく)に苦しみながらも深澄真の懐に潜り込み、彼らの情報を冒険者に売り渡していた。絵が得意で、姉の似顔絵を描いたのがきっかけとなり、真の心を動かし、状況が大きく変わる。真に姉といっしょに助けられたあとは、恩義を感じたこともあり、彼らに懐いている。また姉と共に記憶操作は受けておらず、絶野での記憶を保持している。人に接するのがうまいため、澪や巴からも気に入られ、かわいがられている。ツィーゲの街で姉と共に生活を始めるが、姉のだらしない金銭感覚にめまいを覚え、真から計算の基礎を教わり、彼らの財布を管理するようになる。それによって次第に姉妹の力関係が逆転し、財政面で姉を支えていく。現在の目標はツィーゲの街に姉と仲間たちが暮らす家を作ることで、そのために似顔絵描きの仕事をしつつ貯蓄に励んでいる。真に頼まれ、彼の両親の似顔絵を描いている。
ラニーナ
絶野で活動する冒険者の女性。種族はドワーフ。職業は大地の精霊を信仰し、斧(おの)を武器として戦う「神官戦士(土)」。灰色の髪をツインテールにし、ドワーフであるため低身長で、子供のような体型をしている。しかしその力は目を見張るものがあり、小柄ながら成人男性を圧倒する怪力を持ち、金属製の鎧(よろい)を身にまとい、大きな斧を軽々しく振り回す。レベルは122で、冒険者ギルドのランクはB+。絶野でミルス=エースに捕まっていたが、巴たちがトアを助ける際にいっしょに救出される。その後、ツィーゲまで深澄真やトアたちと同行し、ツィーゲで助けられた冒険者と意気投合し、パーティを結成する。物腰は丁寧だが酒に目がなく、お酒を飲み始めるとかなり陽気な性格となる。
ハザル
絶野で活動する冒険者の青年。種族はヒューマン。職業は錬金術をあやつる「アルケミマイスター」。ライトブラウン色の髪を長く伸ばした優男で、物腰が丁寧で穏やかな性格をしている。レベルは114で、冒険者ギルドのランクはB+。絶野でミルス=エースに捕まっていたが、巴たちがトアを助ける際にいっしょに救出される。救出された冒険者の中では唯一の男性で、その後、ツィーゲまで深澄真やトアたちと同行する。ツィーゲで解散する際にみんなで打ち上げし、その際に酔った勢いでトアたちとパーティを組むこととなる。シラフに戻ったあと美少女だらけのパーティに男の自分が一人だけ入ることとなり、愕然(がくぜん)とする。また錬金術の腕は確かだが、かなり抜けたところがあり、希少な材料を使った薬品の調合に緊張しつつも成功するが、成功した途端、喜びのあまりうっかり薬品を落としてしまうなど、天然気味な行動が多い。口も軽いためうっかり情報を漏らし、苦境に陥っている。戦闘では水と土の二つの属性をあやつる優秀な錬金術師で、薬品や魔法を使ったサポートを得意とし、魔法の腕前もかなりのスゴ腕に入る。また天才肌で思い付きで魔法を改良したりするが、やはりどこか抜けた部分があるため、改良した魔法の欠点に気づかず使ってピンチになることも多い。
ルイザ
絶野で活動する冒険者の女性。種族はエルフ。職業は弓を武器とする「ブレスガンナー」。金髪をポニーテールにした美女で、スレンダーな体型をしている。レベルは108で、冒険者ギルドのランクはA-。絶野でミルス=エースに捕まっていたが、巴たちがトアを助ける際にいっしょに救出される。その後、ツィーゲまで深澄真やトアたちと同行し、ツィーゲで助けられた冒険者と意気投合し、パーティを結成する。見た目はクールビューティーだが、面倒見がよくて義理堅い性格をしている。ただ悪気がないが致命的に口下手で、言葉選びも下手なため、ナチュラルに毒舌を発揮して相手にダメージを与える。同じ弓使いとして、真の弓術の腕前を見て、その腕前に驚嘆するが、その際も弓に細工があるんじゃないかと真っ先に疑ったため、真も地味に傷ついている。しかし気遣いができるため、真とも弓の話で意見交換し、良好な関係を築いている。ハザルがうっかりするたびに、彼にツッコんでいる。
音無 響 (おとなし ひびき)
中津原高校に通う3年生の女子。生徒からの人望厚く、生徒会長を務めている。黒髪ロングヘアの大和撫子(やまとなでしこ)風な美少女で、品行方正な文武両道の完璧な人物。婚約者もおり、卒業後には名家に嫁ぐことが決定している。順風満帆な人生を送っているが、音無響自身は才能にあふれているため、努力をしなくてもなんでもできることに退屈さを感じている。ある日、女神と出会って本心をズバリと言い当てられたことに動転し、異世界で勇者となることを受け入れてしまう。女神からもらった加護は強力な身体能力と魔力、カリスマ性で、さらに狼の姿をした精霊、ホルンの宿った神器「銀帯」を与えられている。魔が差して女神の誘いに乗ったが、リミア王国に召喚されたあと頭を冷やし、現状を確認したことで、女神の作った世界の歪さに気づき、女神に対して強い疑念を抱く。そのため信頼できる仲間を集め、パーティを結成する。ナバール・ポーラーとは当初は険悪な関係だったが、徐々に打ち解け、腹を割って話せる親友ともいえる関係となった。そのためステラ砦の戦いで、自らを守ってナバールが自爆した際には大きく悲しんでいる。音無響の持つカリスマの加護は人を惹きつけるが、岩橋智樹の魅了のように他者を洗脳する効果はなく、また智樹の魅了も響には効果を及ぼさない。このため言動には強い違和感を覚えており、魅了の効果を危険視している。智樹に比べて勇者としてはまっとうに活動し、戦後を見据えた地道なプランを立てているが、一方で智樹の属するグリトニア帝国を強く警戒している。実は日本にいた頃から、深澄真のことを知っており、ひたむきに努力して周囲から認められた真に一目置いている。
ホルン
音無響が女神から授けられた銀帯に宿る精霊。銀色の毛並みを持つ狼の姿をしている。響を主として認めているが、性格は甘えん坊で、犬のように彼女に甘えている。さびしくなった際には銀帯の状態で鳴き声を上げ、許可をもらって姿を現す。戦闘能力は高く、戦闘では響を守りつつ、敵を滅ぼした。精霊であるため、ある程度ダメージを受けると銀帯に戻る。
ナバール・ポーラー
スゴ腕の女傭兵。音無響の仲間の一人で、「銀髪鬼」の異名を持つ。種族はヒューマン。手入れされていない伸ばし放題の銀髪に、褐色の肌を持つ。故郷と仲間を魔族に殺されたため、魔族に復讐(ふくしゅう)することに執着している。魔族との戦い以外には興味がなく、響のことも当初は気にしていなかったが、半ば脅される形で響にスカウトされ、彼女の仲間となる。だが黒蜘蛛との戦いで、最後まで折れなかった響の戦いぶりを見て、彼女を認めて徐々に仲を深めていく。また、それに伴って当初の復讐鬼のような雰囲気も和らいでいき、響とはお互いに本音を語り合う親友ともいえる関係になる。しかしステラ砦奪還作戦で、イオを前に絶体絶命の危機に陥った響と仲間を逃がすため、命と引き換えに己の力を大きく増大させる「薔薇の欠片」を使って戦う。イオと激しい戦いを繰り広げ、響たちが逃げたのを確認したあと、さらなる自爆魔道具「死神の札(デス・リワード)」を使い、イオを巻き込んで自爆した。
ウーディ・バイラ
リミア王国に宮廷魔術師として仕える青年。音無響の仲間の一人で、種族はヒューマン。年齢は25歳。穏やかな性格で、妻子を何よりも大切にしている。「リミアの移動砲台」の異名を持つ一流の魔術師で、強力で多彩な魔術と博識な知識で響をサポートしている。イオとの戦いでは敗色濃厚となり、ナバール・ポーラーの願いを受け、苦渋の思いで自爆兵器である薔薇の欠片と死神の札の発動を手伝う。
ベルダ・ノースト・リミア
リミア王国に仕える騎士の青年。音無響の仲間の一人で、種族はヒューマン。爽やかな顔立ちで、まじめな性格をしている。王国側の推薦で響のパーティに合流したが、ウーディ・バイラと違い、詳しいプロフィールはほぼ不明となっている。その正体はリミア王国の第一王子。城で行われた響の訓練を見て彼女に一目惚れし、かなり強引な方法で響の仲間に加わった。王子としての身分を隠し、一騎士として行動しており、仲間たちとも対等な関係を築いている。
チヤ・ツバキ
ローレル連邦で「巫女(みこ)」を務める少女。音無響の仲間の一人で、種族はヒューマン。長く伸ばした髪をワンサイドアップにまとめ、健気でまっすぐな性格をしている。強力な魔力と特殊な能力を持ち、幼いながら回復と支援では強い力を発揮する。また直感に優れ、岩橋智樹の魅了もまったく効果がない。巫女としてリミア王国に訪問中、コボルトの大群に襲われ、その際に響に助けられる。響の姿にあこがれ、強引に彼女のパーティに押しかける。自分の髪をナイフで切って、国際問題に発展させると脅してまで強引に響のもとに留まっているが、子供の発想であるため抜けが多く、巫女が戻ってこないことで逆に国際問題へと発展している。実は切った髪も、貴族用の特殊な育毛促進薬を使えばすぐに戻るため大きな問題ではなく、そのことに気づいた時は真っ青な顔となった。
岩橋 智樹 (いわはし ともき)
中学3年生の少年。異世界に勇者として召喚された。年齢は15歳。もともと読者モデルのアルバイトをするほど容姿端麗だったが、そのことで男子からはやっかみを買い、女子には無駄にチヤホヤされる現状を厭(いと)っていた。臆病ながら根はまじめで、周囲に気遣っていたが、その気遣いが逆効果となって数少ない友人たちとの関係もぎくしゃくしている。いじめに遭っても誰にも相談できず、中学3年生の夏休み明けには学校に行けないほど憔悴(しょうすい)していた。そんな中、女神に誘われ、異世界のグリトニア帝国に勇者として召喚される。女神との対話時、夢だと思っていたために要求を重ねており、高い戦闘能力に異性問わず魅了する「魔眼」や、疲れを癒やす「銀靴」、さらに夜に月が出ている時に限り、不死という数々の特殊能力を与えられている。また容姿端麗だが、それで多くのトラブルに見舞われたため気に入っておらず、女神への最後の要求として「かっこいい自分」を願い、以前の保護欲を誘う少年とは似ても似つかぬ、銀髪で紫と青のオッドアイをした青年姿となる。異世界ではリリ=フロント=グリトニアに支えられ、魔族と戦うこととなる。しかし実体は、リリにその性根を幼稚と切って捨てられており、寿命と引き換えに能力を引き上げる薬物を食事に混ぜられ、急速に肉体を改造させられている。また当初は、臆病ながら良識のある人物だったが、リリの甘言によって思考誘導させられ、徐々に傲慢な暴君として振る舞い始めている。もともとゲーム好きだったが、リリによる洗脳が悪い意味でかみ合い、異世界の戦いをゲーム感覚で戦っている。魅了の力で周囲の人間も好意的に見て注意しないためどんどん増長しており、音無響が出会った頃には響が思わずドン引きするほど横柄な人物に成り果てていた。
リリ=フロント=グリトニア
グリトニア帝国の第二皇女。種族はヒューマン。表面上は慈愛に満ちあふれた女性として通っているが、本性は己の野望を実現するためなら手段を選ばない冷酷非道な人物。最後まで女神を信じて死んだ母親に復讐を誓っており、魔族を滅ぼし、そのうえで女神の作った世界を滅ぼすことを目論む。若いが非常に頭の回転が速く、己の皇位継承権を放棄する見返りに、「魔族を討つ」のを大義名分に、軍事に関する大きな権限を得る。表向きは己の身も顧みずに魔族と戦う高潔な人物と知られ、親兄弟である皇族たちもその姿勢を微塵(みじん)も疑っていない。しかし、それによって軍の研究施設を抑え、非道な人体実験を繰り返したり、それらの証拠隠滅にかかわった人を全員殺したりしている。岩橋智樹が勇者として帝国に召喚されたあとは、彼に献身的に尽くすが、内心では幼稚な「女神の玩具」とバカにしており、言葉巧みに誘導し、彼を自分に都合のいい暴君へと作り替えている。寿命と引き換えに体を強化する薬を智樹と仲間たちの食事に盛り、彼らが増長するように言葉で誘導している。音無響は智樹の魅了が効かない人物として警戒しており、ステラ砦奪還作戦では、魔族側のワナの情報を得ていたにもかかわらず、彼女に伝えず謀殺しようとした。またワナを怖がり、あっさり逃げて来た智樹を「屑(くず)」として内心では完全に見下している。
ギネビア=スレーシャ
グリトニア帝国に騎士として仕える女性。種族はヒューマン。岩橋智樹の仲間の一人。髪をミディアムボブにセットし、凛々(りり)しい雰囲気を漂わせている。皇族を守護する「ロイヤルガード」で、リリ=フロント=グリトニアの側近を務める。忠誠心が高く、まじめな性格をしているが、智樹に魅了され、彼に対しては盲目的になっている。上位竜であるグロントの加護を受けており、その防御力は堅牢。大盾を用いた守りに重きを置いた戦いを得意とし、戦闘では冷静な立ち回りで味方を攻撃から守る。
モーラ
グリトニア帝国に所属する竜を使役する「ドラゴンサマナー」の少女。岩橋智樹の仲間の一人で、年齢は12歳。種族はヒューマン。髪をツインテールにセットし、リボンを付けている。故郷を魔族に滅ぼされ、リリ=フロント=グリトニアに保護される。竜使いとしては天性の才能を持っており、幼いながら巨大なワイバーン「ナギ」をあやつる。召喚されたばかりの智樹と会うが、彼が無意識に放った魅了によって、彼を慕うようになる。その後、智樹の仲間の一人となり、魔族たちと戦う。
ユキナツ=カズサ
グリトニア帝国で研究者として働く女性。岩橋智樹の仲間の一人で、種族はヒューマン。ツインサイドアップにまとめ、眼鏡をかけている。ゴーレムをメインに研究しており、ゴーレムの生成と操作に特化した錬金術師「フォースプレイヤー」として戦う。好奇心旺盛な性格で、己の研究以外には無関心でマイペースなところがある。そのため礼節にも疎く、周囲から注意されることもしばしば。しかし、研究者としては非常に優秀で、智樹の装備の研究および開発を行っており、「銀靴」のレプリカなどを作って仲間を助けている。
ラナ
タパ村に住むヒューマンの少女。警戒心が強いが、ヒューマンにしては珍しく亜人に対しても分け隔てなく接する健気な性格をしている。山賊「荒城の月」に襲われた村を守るべく、エトと共に街に救援を依頼しにいく。深澄真が荒城の月と同名の曲を知っていたため反応し、ラナの口癖が東ゆかりとそっくりだったこともあり、彼女たちの事情にかかわっていく。
エト
タパ村に住むワーウルフの少年。亜人であるためヒューマンから差別されているため、人里離れた森の村で仲間たちと暮らしている。ラナだけは自分を分け隔てなく接してくれるため、山賊「荒城の月」に襲われた村を守るべく、ラナと共に街に救援にいく。しかし暴漢に襲われ、瀕死(ひんし)の重傷を負ったところを、深澄真に助けられる。ラナの力になりたいと思いつつも、無力な自分に悔しさを感じており、真に己の内心を吐露した。「恨みはやがて忘れても恩を忘れない」という村の掟(おきて)があるため、荒城の月の殲滅(せんめつ)に向かった真を、いつか恩返しをする約束をして見送った。
ゼフ
魔族を率いる男性。魔王として君臨している。蒼(あお)い肌と大きな角を生やした壮年の偉丈夫で、威風堂々とした出で立ちをしている。ゼフ自身は過酷な環境で疲弊した魔族の民を守るために戦争をしており、ヒューマンからは恐れられているが、魔族側からは善政を敷く王として慕われている。世界の果てに女神がなんらかの干渉をしたのに気づいており、その正体を確かめるため調査を指示している。
ロナ
魔族の軍を率いる魔将の一人で、妖しげな雰囲気を漂わせた妙齢の女性。氷の魔術をあやつる魔術師だが、直接的な戦闘よりも謀略を好む智将でもあり、亜人たちを味方に引き入れたり、ワナを用いた作戦を練ったりと暗躍している。ハイランドオークの生贄騒動を起こした黒幕で、部下の魔族を送り込み、上位竜の蜃の名を騙(かた)らせてハイランドオークを支配下に置こうとしていた。蜃のせいで生贄騒動は失敗したと思っており、事件の詳細は知らない。識とはリッチ時代からの知り合いらしく、識は彼女のことを嫌っている。ステラ砦の防衛線では勇者たちの能力を分析し、岩橋智樹の魅了対策を行って自軍の被害を最小限に抑えた。また、幾重にもワナを張ってヒューマンの軍を翻弄し、女神の加護も限定的ながら無力化した。狡猾(こうかつ)な作戦を立てる非情な人物ながら、魔王であるゼフへの忠誠心は高く、ほかの魔将からも信頼されている。ゼフに命じられ女神が世界の果てに干渉した「何か」の調査を開始し、何かが三人目の勇者なのか、それに近しい者だと推測して、その正体を探っている。
イオ
魔族の軍を率いる魔将の一人で、筋骨隆々としたスキンヘッドの大男。2対4本の腕と、見上げるほど巨大な体軀を持つ戦士で、戦闘能力だけなら魔将の中では最強を誇る。ヒューマンの傲慢さを嫌っているが、実力があればヒューマンであっても一人の戦士として敬意を払う。恐ろしく身体能力が高く、単純な力やタフネスさで名だたる戦士を次々と血祭に挙げている。また、本気を出すと肉体が黒く硬質化し、再生能力も大きく跳ね上がる。ステラ砦の防衛線ではロナの用意した指輪を使い、女神の加護を無力化し、音無響とその仲間たちの前に立ちふさがる。圧倒的な戦闘能力で響たちを苦しめたが、ナバール・ポーラーの命と引き換えにした大爆発に巻き込まれる。手傷を負ったものの不死身のような防御力と再生能力で辛うじて生き残っており、ナバールの健闘を称えた。
レフト
魔族の軍を率いる魔将の一人。上半身は男で、下半身は大蛇の姿をした「変異竜(ミルディドラゴン)」と呼ばれる種族の魔物。魔物にもかかわらず自分を魔将として認めてくれた、魔王のゼフに強い忠誠心を抱いている。女神が覚醒したのを知り、勇者が召喚されたことに強い警戒心を抱いている。
モクレン=カズサ
魔族の軍を率いる魔将の一人で、髪を伸ばし放題にした男性。ヒューマンと魔族との混血であるため、ヒューマンに近しい見た目をしている。魔族が新たに手にした領土が安定したものの、女神が目覚めたことに強い警戒心を抱いている。
ミルス=エース
絶野で活動する冒険者の青年。種族はヒューマン。冒険者ギルドのランクはSSで、レベルは444。絶野最強の冒険者として名声を欲しいままにしているが、その本性は絶野の悪徳冒険者の総元締めのような存在。実はレベルも細工して改ざんしているため、本来のレベルは不明。絶野最強の名声を利用して、楽で金払いのいい金持ちの護衛を受けて私腹を肥やしており、また裏では人身売買や誘拐、強盗などさまざまな悪事に加担している。巴と澪も自分と同じくレベル改ざんしていると思い込み、彼女たちを仲間に引き込もうと考えていた。しかし、トアを助けに来た巴と澪に仲間諸共敗北し、二人に叩きのめされて荒野に放り出された。
呪術師の男 (じゅじゅつしのおとこ)
年老いた呪術師の男性。種族はヒューマンで、本名は不明。パトリック・レンブラントとモリスを憎んでおり、ライム=ラテたち冒険者を騙して扇動し、パトリックの妻子にレベル8の呪いをかけた。その後、モリスに首謀者として囚われ拷問されるも、パトリックたちに恨みの言葉を吐いて死亡した。その正体はパトリックにつぶされたハンザ商会の娘の恋人。当時は朗らかな好青年で、武器職人として働いていた。ハンザ商会は表向きには、先代が魔物に襲われ死んだのを皮切りに、たて続きに不幸が舞い込み、パトリック率いるレンブラント商会が立て直しに協力し、その姿勢に心打たれたハンザ商会がレンブラント商会に吸収された美談として伝わっているが、すべてはパトリックが引き起こした自作自演の出来事。呪術師の男も当時はハンザ商会の娘と恋仲だったが、先代が魔物に襲われた際に武器の不具合をでっち上げられ、冤罪(えんざい)でつるし上げられた。恋人の幸せを願って身を引いたものの、その娘すら謀殺され絶望。これがモリスたちの犯行であることを知り、彼らへの復讐を誓ったという過去がある。モリスたちに口封じされそうになるも、冒険者の死体を変わり身にして姿を隠し、長い年月をかけて呪術を完成させることに成功。呪術師となった際には好青年だった頃の面影はなく、死に際も呪いが成就したことに満足げな笑みを浮かべながら事切れた。
イレイン
ツィーゲの街の女性冒険者。種族はヒューマン。金髪ロングヘアの妙齢の美女で、スタイル抜群。自らの美しさに絶対の自信を持っているが、内面は自己中心的で、他種族を見下す差別主義者。女神に寵愛(ちょうあい)されて増長したヒューマンの悪い面をすべて持っている人物。ある意味で乱れた今の世を象徴する存在で、力そのものは強くないが、立ち回りと運のよさで深澄真を大きく追い詰めた。ツィーゲの街で頭角を現し始めた真たちを利用して荒稼ぎしようと、娼婦の格好をして真に近づくが失敗。その後、仲間のマルコム、ネリエと共にアンブロシアを探しに向かう真を尾行して、森鬼たちに襲われ窮地に陥る。真に窮地を救われ、蜃気楼都市で歓待されるも感謝の気持ちは微塵もなく、逆に亜人だらけの場所に押し込められたことに反発。宝物庫に盗みに入り、宝物を手にツィーゲに戻ろうとする。しかし、イレインたちが盗みに入ったのは危険物の廃棄場で、知らずにエルダードワーフの作り出した危険物や飽和寸前のドラウプニルを持ち出し、それらを大爆発させる。この大爆発でハイランドオーク一人と、巴の初代分体が死亡。ホクトたちも大ケガを負うという大惨事を巻き起こす。それでもイレインは死んでおらず、運よく爆発のショックで亜空から抜け出しツィーゲの街に戻る。亜人たちは自分たちに奉仕して当然、死んで当然と自分の行動をまったく悪びれておらず、最後には追って来た真に殺された。真にとって初めて自分の意思で殺した人間で、死んでからも真の心に大きな傷を残した。
ソフィア=ブルガ
最強の冒険者と呼ばれる女性。冒険者ギルドのランクはSSSで、レベルは920。種族はヒューマン。赤いメッシュの入った銀髪をショートカットにしており、金の瞳で獰猛(どうもう)な印象を与える。上位竜であるランサーを討伐したことで、「竜殺し」の異名で呼ばれるようになったが、実はランサーは生きており、彼と共に魔族側に寝返ってヒューマンと敵対している。女神によって戦場に放り出された深澄真を、女神の手先と考えて敵対している。真にダメージを与えるほどの実力者で、真はレベル2000オーバーではないかと疑っている。真に先制攻撃をして手傷を負わせ、ランサーとの連携で苦しめたが、本気を出した真に剣を折られ、最終的にドラウプニルを弾丸とした超特大のブリッドで吹き飛ばされる。全力で防御したことで生き残るが、装備はすべて失って戦線離脱した。
ランサー
「御剣」と称される上位竜。ソフィア=ブルガと契約している。金髪を短く切りそろえたヒューマンの少年の姿をしており、大きなマントを羽織っている。一般的にはソフィアに討伐されたとされるが、実は彼女と行動を共にし、魔族陣営に付いてヒューマンと戦っていた。上位竜であるため、蜃ほどではないが水の魔法を得意とする。また「御剣」の名の通り、剣を生み出す能力を持ち、即席で生み出した剣と対象の位置を入れ替えることで、疑似的に瞬間移動をしたりすることもできる。刃の入れ替えとソフィアの近接戦闘の相性は抜群で、ソフィアとの連携では無類の強さを発揮する。またソフィアには、自らが生み出した強力な一振りの大剣を渡している。戦場のど真ん中に現れた深澄真を女神の手先と考え、後顧の憂いをなくすべくソフィアと共に襲い掛かる。刃の入れ替えで真を翻弄するが、本気を出した真に対しては防戦一方となり、最終的にドラウプニルを弾丸とした超特大のブリッドで吹き飛ばされる。全力で防御したことで生き残るが、右足を失う大ケガを負って戦線離脱した。
月読命 (つくよみのみこと)
日本神話に語られる三貴神の一柱の男神。深澄真が異世界に召喚される際に、姿を現して事情を説明した。真が異世界に行くことは、真の両親が女神と交わした正式な契約であることを語り、せめてもの手向けとして彼に「界」の加護を与えている。理知的で良識のある神で、召喚して早々に女神が真を放逐し、新たに音無響と岩橋智樹をさらって行った際には、その暴挙に呆(あき)れている。実は神々にとって地球はかなり負荷の大きい地で、真に加護を与えたのもかなり無理をして行なった。そのため、最後の力を振り絞って放逐された真の前に姿を現し、いくつかの伝言と新たな世界での自由を認めるという言葉を与えた。その後は力を使い果たしたため、数百年にわたる眠りにつく。真からは最後まで気に掛けていてくれたことを感激され、深く慕われている。
女神 (めがみ)
異世界に君臨する女神。名前は不明。神々しい美しさを持つが、性格は傲慢で自分本位な一面がある。深澄真の両親を異世界である日本に移住させた見返りに、その息子である真に勇者の役目を任せて異世界に召喚するが、「不細工」という理由だけで真を世界の果てに放逐した。そして、真の代わりに岩橋智樹と音無響を勝手に召喚して、己の手駒とする。神々の中でも問題児のようで、月読命からもその行いに苦言を呈されている。召喚時の態度とその後、世界の果てでのサバイバル生活で死にかけたため、真からは蛇蝎(だかつ)の如く嫌われている。表面上は慈愛に満ちた態度を取って神として人々を導いているが、亜人を美しくないと嫌い、ヒューマンを露骨に贔屓(ひいき)しているため、著しく世界のバランスを乱しており、亜人や一部のヒューマンからも嫌われている。そのため、女神が休眠期に入った10年間のあいだに魔族が蜂起し、ヒューマンとのあいだで戦争を引き起こしている。姿は黄金の魔力をまとった絶世の美女と言われているが、素顔は隠していて不明。響や智樹の目の前には姿を現しているが、それぞれ幼い少女姿と妙齢の美女姿と別々の姿を取っており、本来の姿は現していない。響の本音を言い当てて彼女を勇者に引き込むが、そのやり方が典型的な詐欺師の手口であるため、響は頭を冷やしたあと異世界の現状を見て、女神は信用できないと強い警戒心を抱いている。実は異世界の神とされるが、巴によるともともと上位竜と魔獣が暮らしていた異世界に、ヒューマンを引き連れてあとからやって来たらしく、無から有を作る創造の力は持っていない。また、その際に世界となんらかの契約をしているとのこと。
東 ゆかり (あずま ゆかり)
中津原高校に通う2年生の女子。黒髪をショートボブヘアにしている。美形ぞろいと評判の弓道部の部長を務めている。凛(りん)とした雰囲気を漂わせており、ひっきりなしに男子から告白されている。しかし、東ゆかり自身は深澄真に淡い思いを抱いており、告白をすべて断っている。真が弓道部の副部長になったのもゆかりが頼み込んだからで、後輩の長谷川温深が真に好意を持っているのに気づき、彼女を強く意識している。そのため温深が真に告白したのを知り、勇気を出して真に告白するも、軽口と流されたために激怒する。告白後は真への感情を整理できず、学校では険悪なムードで接していたが、そのまま真は異世界に行ったため、未だに心の整理ができずにいる。
長谷川 温深 (はせがわ ぬくみ)
中津原高校に通う1年生の少女。黒髪をワンサイドアップに整えている。身長が175センチ前後と、同年代の女子の中では抜きん出て長身で、スタイル抜群。長谷川温深自身は健気な性格ながら、無自覚に色気のようなものを漂わせているため、同年代の男子からの人気は非常に高い。弓道部に所属しており、先輩である深澄真に好意を抱いている。真が異世界に召喚される前に彼に告白するも振られてしまう。その光景が真の中で一つのトラウマとなり、振ったあとも何かと温深のことを気に掛けている。
宗像 夏 (むなかた なつ)
深澄真に弓を教示した女性。顔や体中に傷のある痩せた体型をしている。幼い頃、虚弱体質だった真に弓を指導した。妙に剣呑(けんのん)で実戦慣れした雰囲気を漂わせており、競技用の弓道ではなく、実践向けの弓術を真に伝授している。また単純に弓術を教えるだけではなく、戦い方やサバイバルの方法、果ては命を狙われた際の対処法まで教えている。その訓練方法は非常に厳しいものだったため、未だに真の中にトラウマとして残り、真は窮地に陥った際にはよく宗像夏の顔を思い出している。弓と同じ遠距離武器なため銃のことにも詳しいらしく、真も銃の製造法を教わっている。
石堂 玄一 (いしどう げんいち)
深澄真に居合の基礎を教えた男性。宗像夏の知り合いで、顔はヒゲを生やし放題の毛むくじゃらで、筋骨隆々とした強靭な肉体を持つ。豪快な性格で、一時期、2か月ほど真に居合を指南した。真のことを気に入っているが、余計なことまで教え込もうとするため、夏からよく注意されている。
カリン=アクサナ
深澄真が幼い頃に出会った白人の女性。金髪をショートボブにしている。目立たないようにサングラスをかけていることが多い。地球生まれの異能者で、裏世界でその存在をささやかれる「癒し手」。異能者は時に迫害の対象ともなるため、能力を秘匿しつつも稀有(けう)な治癒の異能を求められ、世界各国を渡り歩いていた。人知れず患者を治療していた中、日本で倒れていた真を発見する。異能を持つため真自身も強力な魔力を持つことを察し、真の両親と相談して異世界の存在を知る。真の両親から異世界の知識を教えてもらう代わりに、地球の異能者の常識を教え情報交換し、さらに真の体の施術を引き受けて彼の虚弱体質を治療した。ただし、カリン=アクサナの力を持ってしても真を完全に治療することはできず、また治療の代償として真は回復と風の魔術適性を永遠に失っている。自分が力を尽くしても完治させることのできなかった真を気にかけており、治療のあとも経過観察のため深澄家をたびたび訪れている。
集団・組織
冒険者ギルド (ぼうけんしゃぎるど)
冒険者の組合。さまざまな依頼を冒険者に斡旋(あっせん)する組織で、依頼は難易度に応じて上はSSSから下はEまでランク分けされており、冒険者は自分のランクに応じた難易度の依頼を引き受けることができる。また、例外として失敗が続いた依頼は「特殊ランク」に移行され誰でも受けることができるが、これらは非常に高難易度な塩漬け依頼なことが多い。そのため特殊ランクの依頼を達成すると、冒険者ギルドからの感謝の意として無条件でランクを上げるか、冒険者ギルドへの貢献度ポイントを大幅に加点するというメリットがあるが、失敗続きの依頼であるためサポートも最低限になるというデメリットがある。また、依頼者が特定の冒険者を指名する「指名依頼」であれば、ランクの関係なく引き受けることができる。異世界では能力値を「判別紙」という特殊な紙を使って測定し、「レベル」として表す。通常、プロフィールへのレベル表記は本人の任意だが、冒険者という仕事ではレベルが一つの目安となるため、基本的に公表するシステムとなっている。冒険者ギルドは大陸中に存在し、大きな支部には情報を共有する特殊な装置があり、それで各情報を共有している。小さな支部では定期的に冒険者に依頼を出し、大きな支部に情報を運んでもらって情報を共有している。そのため稀(まれ)だが、共有前に小さな支部がなんらかの事情でつぶれた場合は、その情報は永遠に失われることとなる。冒険者の証(あかし)となるギルドカードにはプロフィールが記載されているほか、ギルドカード所持者同士の通信機能や図鑑機能など多種多様な機能を備えたハイテクなアイテムとなっている。深澄真はそのハイテクさを見て、異世界には場違いさを感じている。
商人ギルド (しょうにんぎるど)
商人の組合。供与金や年会費は必要なものの、商会の設立や交易ルートの売買、さらには不動産の仲介なども行っているため、大きな町の商売では大きな恩恵を得ることができる。なお、冒険者ギルドとは一部の規約が二重に影響するため、その場合は商人ギルドの規約が優先される決まりとなっている。冒険者ギルドと違い、加入の際には筆記と実技の試験があり、難易度は非常に高い。特に実技は「運も実力のうち」という考えから、くじ引きで内容が決まるシステムとなっており、運によって試験の難易度は大きく変わる。狭き門で、通常はどこかの商会で働きながら勉強して、試験を受けるのが一般的だが、商会の筆記試験の内容は深澄真から見れば小学校の算数レベルの問題であっさり合格した。実技試験も運悪くハズレ用の高難易度課題を渡されるが、世界の果ての素材を持って来たことで合格を認められる。
場所
亜空 (あくう)
巴が作り出した亜空間。巴が蜃であった頃から持っていた能力だが、蜃であった頃はなんでも蜃の思い通りにできるが、ただ暗闇が広がるだけの空間だった。しかし、蜃が深澄真と契約したことで、本人たちも与(あずか)り知らぬ変化が訪れ、内部に小さな世界が生まれている。真の記憶を反映しているのか日本の環境に近く、また亜空の果ての部分は深い霧で包まれ存在しないようになっている。世界の果てと比べて圧倒的に安定した環境で、さらに先住民がまったくいないため、巴は過酷な世界の果てで困っている亜人たちを亜空に移住させて、己の陣営を強化している。亜空は断絶した亜空間であるため、巴か真の力がなければ入ることは困難。強力な力があれば強引に入ることもできるが、それには上位竜に匹敵する力が必要となる。亜空内には日本の果実や植物も生えており、さらに畑の作物も含め亜空の植物は異常な速度で育つ。作物の薬効や毒性も強化されているが、なぜ強化されているのかは不明。真たちにとっても不明な部分が多く、真が従者を増やすごとに亜空内の要素が増えており、澪と契約した際には山や川が生まれている。そのため亜空の住人たちの中には、亜空内を調査する仕事を受け持つ者たちもいる。また、亜空の広さは真の魔力が増大するごとに増えており、当初に比べてどんどん大きくなっている。それは最早、世界の創造に等しい行いとなっているが、無からの創造は女神にすらできない芸当で、女神に亜空の存在が知られれば激しい怒りを買うと、巴と真は予想している。
蜃気楼都市 (しんきろうとし)
亜空に建造された都市。亜空で収穫された作物や、エルダードワーフが作り出した武具を怪しまれずに流通させるために、亜空の住人と冒険者たちが自然に交流できる場として建造された。深澄真は日本の常識から、当初は亜人たちとヒューマンが自然と交流できると思っていたが、イレインが巻き起こした騒動で、この世界のヒューマンが持つ差別意識の強さを実感し、自分の認識がどれだけ甘かったのか痛感する。その後、蜃気楼都市は大幅に改良され、専用の区画に壁を仕切り、警備員が常駐するようになった。
世界の果て (せかいのはて)
人々から「世界の果て」と呼ばれる荒野。単に「果て」とも呼ばれる。文字どおり人類や亜人の生存圏から離れた「果て」にある荒野で、昼は灼熱(しゃくねつ)、夜は極寒という過酷な環境で、ほとんどが未開の地となっている。飲み水が手に入る場所はほとんどなく、大地も荒れ果てているため、まともに食物は手に入らない。単に生存するだけでも非常に困難で、一部の亜人たちは、それぞれの事情でこの地に住み着いているが、過酷な生存競争に追われている。
絶野 (ぜつや)
世界の果ての最も近くにあるヒューマンの拠点(ベース)。ヒューマンから見れば最果てにある辺境の街で、世界の果てに存在する素材を求める者や、魔物を倒して名を挙げようとする者など、冒険者の集まる一攫(いっかく)千金の地となっている。集まる人種も幅広く、ヒューマン以外の亜人も数多く見かける。さまざまな人や物が集まる関係上、両替の機能などはほぼ機能しておらず、貨幣は最も流通している共通貨しか使えない。各地から冒険者が集まる関係上、街に留まる冒険者の平均レベルは200と高い。しかしその分、治安は悪く、悪徳冒険者による犯罪も横行している。巴と澪が冒険者による犯罪に巻き込まれ、その事件を解決するも、ささいなきっかけで意地の張り合いを巻き起こし、その際の余波で街は完全に壊滅する。その後、深澄真が目撃者の記憶を改ざんし、公的には魔物によって滅び去ったと記録される。
ツィーゲ
世界の果ての近くにある街では最大の街。アイオン王国の領土にあり、街は領主によって治められている。絶野などにも近いため、世界の果ての素材が入って来るが、絶野に比べ冒険者の質の平均は低く、トップランクの冒険者でレベル200ほどとなっている。深澄真はクスノハ商会の店舗をこの街に構えたが、アイオン王国は商人に対して諜報(ちょうほう)関係の仕事を求めることがあり、それを嫌った真は新たな販路を開拓すべく、ロッツガルドに歩を進めることを決めた。
黄金街道 (おうごんかいどう)
四つの大国につながる街道。莫大な資金を掛けて整備および維持された街道で、「最も安全で最も高価な道」ともいわれている。街道沿いの各地の中継点には宿場町が栄えており、中継点には転移魔法陣が存在する。これによって人の行き来を瞬時に行うこともできるが、物品の転移は転移成功率が安定しないことと、商人たちにとってはこの黄金街道を歩いて利用することが、一種のステータスとなっているため、名のある商人ほどこの黄金街道を利用する。
ロッツガルド
「学園都市」とも呼ばれる都市。四大国の権力の及ばない自治都市で、巨大な都市を中心にいくつかの街が存在して都市を形作っているため、中央の都市は「中央ロッツガルド」ともいわれる。世界中の知識が集まる場所であるため、各国からの留学生も受け入れている。また、世界中から物も集まっているため、ツィーゲより都市として発展しており、売られている商品の種類も多い。
その他キーワード
界 (かい)
深澄真が月読命により与えられた加護。自分の周囲に球体の領域を作り出すもので、その中に任意に特性や効果を付与することができる。自分の好きな形に能力を変化させる力で、「探索」を付与すれば周囲の状況を把握でき、「防御」を付与すれば強固な結界となる。「回復」を付与すれば対象を回復できるが、治癒魔法と同じく真は自分を回復することはできない。のちに真は界を二つ同時に展開し、効果を重ねることで強化したりすることができるようになった。
亜空ランキング (あくうらんきんぐ)
亜空内における実力者の番付。亜空内における異種族間の交流が少なかったこと、閉塞感から自信喪失をする者が現れ始めたことから、その対策に深澄真と巴が考案した。「亜空ランキング」の名は、真が適当につぶやいたのを巴がそのまま採用する。7日に1度行われる全員参加の個人戦で参加者同士を戦い合わせ、戦士たちを競わせることで、ランクを決める。戦士たちを切磋琢磨(せっさたくま)させて成長させると共に、不向きなものを早めに転向させ、自分に向く仕事をさせるのを目的としている。
契約 (けいやく)
お互いの関係を宣誓し、さまざまな恩恵を受ける特殊な魔法。お互いの力量によって契約には3段階の契約法が存在し、五分五分であれば「盟約」、七分三分であれば「親子」、八分二分であれば「支配」となる。支配の契約の場合、主従関係が結ばれ、力の弱い下僕は主人の影響を色濃く受け、種族そのものが変わる。また契約で結ばれた者は、お互いの力の影響を受け合い、その力を成長させる。深澄真の場合は巴と契約することで、巴の能力を一部使えるようになっている。なお実質的に契約として成立するのは八分二分の支配の契約までで、それ以下の九分一分の「隷属」では、力の弱い者は自由意志を奪われ傀儡(かいらい)となり、十対零の「糧」では力の弱い者は強い者に吸収されて何も残らない。糧の契約は力が大きくなるが、不純物が混ざるのを嫌がる者も多い。
回復魔術 (かいふくまじゅつ)
他者の傷を癒やす魔術。通常の「治癒魔法」は対象の治癒魔法の適性を増幅し、傷を癒やすが、回復魔術は己の治癒魔法の適性を他者に分け与えて対象の傷を癒やす。その性質上、回復魔術は難易度が高く、治癒魔法に比べて効果も薄い。深澄真は治癒魔法の適性がまったくないため、回復魔術でなければ効果がないが、回復魔術は巴ですら苦労するもので、真が大ケガを負った際にはその治療に苦労していた。
魔法 (まほう)
魔力を用いてさまざまな現象を引き起こす技。ヒューマンは「魔術」とも呼んでいる。さまざまな属性や変化を加える言葉「呪文」に魔力を加えて、世の理に干渉することで「魔法」が発現する。呪文に使われる言語は、ヒューマンの共通語とも亜人の言葉とも違う独自のもので、深澄真の場合は「理解」の力で聞き取ることができる。
共通語 (きょうつうご)
異世界で最も使われている言語。亜人たちはふつうの言語のように勉強しなければ使えないが、ヒューマンは女神の加護を受けて、自然と話すことができるようになる。ヒューマンでは幼児を参拝させる行事が一般化しており、早い者であれば3歳になる前に共通語を話せるようになる。深澄真の授かった「理解」は、共通語のみ話せないという嫌がらせみたいな効果があり、真はエマや巴たちから共通語を習い、読み書きと聞き取りのみを習得した。
ドラウプニル
エルダードワーフのルグイが生み出した指輪型の魔道具。深澄真が無意識のうちに全身から放出している、おびただしい量の魔力を隠蔽するために製造された。試作品の闇翡翠の指輪があっさり壊されたため、ルグイが装着者を呪い殺すレベルの執念で作っており、真以外の人間が使えば、文字どおり魔力を吸い尽くされて死亡する。真の魔力を隠蔽することには成功し、吸収された魔力は指輪の内部に蓄積され、飽和状態になると指輪に付いた宝石が白から赤へと変わっていく。真は異世界に来てからどんどん魔力が成長しており、全部の指にドラウプニルを装着しても、魔力が満タンになってよく交換している。魔力が溜まったドラウプニルは爆弾にも転用できる危険物で、イレインがドラウプニルを爆発させた際には犠牲者も出る大騒ぎとなった。また、真はこのドラウプニルをブリッドを使う際に弾丸代わりに使うこともあり、彼が本気で放った際にはブリッドの威力が大幅に増幅され、地形が変わり、湖ができるほどの威力を見せた。
薔薇の欠片 (ろーずさいん)
石でできた薔薇の形をした魔道具。発動には相応量の魔力が必要となるが、発動させれば使用者は光り輝く魔力をまとい、戦闘能力が限界を超えて大幅に強化される。ただし、その強化には使用者の生命力が糧となるため、使用者は薔薇の欠片の発動が終わると、黒い薔薇の痣(あざ)が体に浮かびあがり、それが全身に回って死亡する。1回限りしか使えない特攻兵器で、ナバール・ポーラーがイオとの戦いで使用して死亡した。
ヒューマン
異世界に住む種族。地球の「人間」とも違う種族で、かつての旧き時代に人間を祖として生まれた種族と伝わっている。女神の寵愛を受けており、非常に美しい見た目で、ヒューマンは自然と共通語を話せるようになったり、肥沃な土地を与えられたりなど実利面でも贔屓(ひいき)されている。それだけに他人種を見下すヒューマンも多く、亜人たちはヒューマンに奉仕して当然と考える者も多い。戦闘能力も加護の力で大きく引き上げられ、女神は同性の女性をさらに贔屓にすることから、異世界で実力者と言われる者は女性の割合が多くなっている。
ハイランドオーク
世界の果ての高地に住む亜人。男性は毛深く、大きな牙を持つイノシシに近い見た目で、女性は毛が薄くブタに近い見た目をしている。豚やイノシシの特徴を持つ亜人でオークの一種で、見た目は通常のオークとほぼ同じだが、能力はまるで別物。過酷な世界の果ての環境に適応しており、通常のオークは一端の冒険者であれば雑魚(ざこ)扱いされるが、ハイランドオークはレベル200の冒険者をも歯牙にもかけない力を持つ。知能も高く、道具を作ったり、魔法を使ったりと文化レベルも非常に高い。エマが深澄真に救われたのをきっかけにして、巴に勧誘され亜空の第一の住人となる。その際には巴の力でハイランドオークの村ごと霧で亜空に運ばれた。亜空内での仕事は主に開拓や農耕、建造物の建築で、その力を活かして物資の運搬も行なっている。主食は根菜類で、素材のまま食べるのを好み、芋類なども基本的に生のまま食べる。肉類も食べることができるが、味付けは薄味を好む。
エルダードワーフ
世界の果ての荒野に住む亜人。ドワーフの中でも「古代種」と呼ばれる希少な一族で、名だたる神器や宝具を作り出したことで有名となっている。しかし、それだけにエルダードワーフの腕を求める者や、彼らの作った作品を奪おうとする略奪者に狙われており、自らの身を守るべく、一族ごと危険な世界の果てに身を隠した。世界の果てでの生活は不便で、危険なため、ベレンが深澄真に申し出て亜空に一族ごと移住する。亜空内においては真の装備から、巴に注文されて日本刀製作、蜃気楼都市における建築、ツィーゲのクズノハ商会店舗における鍛冶実演と幅広い分野で活躍している。ただ種族柄、物づくりに情熱を傾ける者が多い反面、それ以外のことには無頓着な者も多く、特に安全管理面においては甘い面が目立つ。エルダードワーフたちにとっては失敗作やゴミの類でも外では危険だったり、貴重だったりするものも多いため、その管理の杜撰(ずさん)さが結果的にイレインの起こした爆発騒動につながった。その後、爆発騒動の反省を活かして安全管理面の見直しが図られている。
ミスティオリザード
上位竜である巴の眷属(けんぞく)。水と風の力を持つ非常に強力な種族で、二足歩行であるく蜥蜴(とかげ)のような姿をしている。美しい蒼い鱗を持つのが特徴で、上位竜である巴と深いつながりを持つために戦闘能力も高く、単体でも亜竜程度なら倒せる戦闘能力を持つ。また、種族全体が高いレベルで統率されていて、その戦闘能力の真価は集団戦闘でこそ発揮される。巴に連れられ、亜空の住人となる。亜空内での仕事は農耕や開拓、各集落の警備とハイランドオークと似ており、両種族で協同で行ったりする。食の好みもハイランドオークと似ており、素材のままの味を好むが、主食は根菜ではなく葉菜。
アルケー
黒蜘蛛である澪の眷属。上半身が人間で、下半身が蜘蛛の形をした半人半蜘蛛の異形の姿をしている。黒蜘蛛と同じく種族全体が飢餓感に苛(さいな)まれ、正気を失っていたが、黒蜘蛛が深澄真の魔力をもらって正気を取り戻したあと、アルケーたちも黒蜘蛛によって魔力を分け与えられ正気を取り戻す。種族全体が黒蜘蛛に絶対服従なうえに、真の力に魅せられているため、非常に忠誠心が高い。黒蜘蛛の眷属だけあり戦闘能力も高く、1匹倒すのにレべル200から300の冒険者が複数必要となるほど。上半身は人型だが、目は虫のように複眼で、毛の類は生えておらず、魔物然とした姿をしている。しかし知能が高く、瞬く間に言語を学習し、さまざまな技術を身につけていく。澪から人間の姿を取るように言われ、試行錯誤して人の姿となっていく。当初は違和感の強い姿だったが、徐々に人に近づいていき、最終的には人間とそん色ない姿へと変貌している。また亜空の住人と交流したり、それぞれが仕事をこなしていったりするうちに個性が生まれていき、専門職に就く者たちも現れている。亜空での住居は主に山や森で、亜空での動植物の情報をまとめるのを仕事としている。また、体内で希少な物質を精製できるらしく、それらを作ったりもしている。雑食で基本的に肉でも草でも食べることができるが、澪と違い毒物や無機物の類はさすがに食べれない。澪の試食会でもアルケーが参加しているが、彼女の料理を食べて悶絶している。
森鬼 (もりおに)
ティナラクの森に住む亜人。灰色の髪に褐色の肌を持つ。髪と肌の色がダークエルフに似ているが、エルフともダークエルフとも違う種族で、耳も尖(とが)っていない。ただエルフを祖とする種族らしく、遥(はる)か昔、エルフは森の精霊と共存することを選んだが、森鬼の祖先となったエルフの一派は精霊とは関係なく森を守り、寄り添って生きる道を選び、エルフたちから独立して現在のティナラクの森に住み着いた。森鬼の由来は「森守」で、森鬼の中には現在もこの名を使う者がいる。種族全体の傾向として非常に排他的で、縄張り意識が強く、自らの住まう森を大切に守るが、外敵には容赦しない。特にヒューマンは、自分たちが育てた森を我が物顔で歩き、森の恵みを一方的に奪っていく略奪者としか見ておらず、強く敵視している。幻の薬草であるアンブロシアを「紅蓮華」と呼び、大切に守っており、これを求めてきた冒険者を幾人も血祭に挙げている。また万が一、自分たちが敵わないと判断した場合は、宴に誘って油断させてから「樹刑」という恐ろしい処刑方法を行う。樹刑は森鬼が古くから持つ能力で、触れた対象を意識を持ったまま即座に樹木にしてしまうというもの。樹刑に処せられた者は、数十年かけて意識を持ったまま樹木として過ごす羽目となり、またこの状態になった場合、元の状態に戻す方法は存在しない。深澄真たちが森鬼の里に来たあと、リッチ騒ぎを経て、真の配下となる。真は樹刑の存在に恐怖を覚えたため、亜空内では樹刑の使用は禁じ、移住もほかの種族と違って人数を制限している。森鬼の主食は野菜や果物、ジビエや昆虫といった森の恵み。果物を好む種族であったが、亜空内でエリスがバナナを発見して以降、森鬼にバナナが流行する。
魔族 (まぞく)
大陸の北端の地に住む亜人。外見はヒューマンに近いが、肌の色は青く、頭部に角が生えている。魔族の住む領域は大半が極夜に包まれた極寒の地で、昼でもまともに太陽の光は差さず、作物もほとんど育たない過酷な環境となっている。ヒューマンと違って容姿の美醜には頓着せず、力のある者を評価する実力者社会となっている。女神の加護によって戦争では魔族はその力を半減され、逆にヒューマンの力は大きくなるため、ヒューマンとの戦争には負け続きで、女神のヒューマン贔屓に嫌気が差している。そのため、女神が10年前に休眠期に入り、戦争の加護が失われたのを機に魔族は一斉蜂起し、ヒューマンに対し戦争を仕掛けた。これによって当時、五大国の一つに数えられたエリュシオンを滅ぼし、その国土の半分を掌中に収めている。現在は女神が目覚め、勇者が台頭してきたため、その対策として女神の力を遮断する装身具などを開発し、それらを使って女神の祝福を無効化する戦法を編み出している。
ルビーアイ
蜂型の魔物。元は「レッドビー」と呼ばれる赤い蜂の魔物。「アンブロシア」という希少な薬草を主食として変異した希少種で、名前どおり、ルビーのように赤い瞳をしているのが特徴。アンブロシアは万能薬の材料にも使われるほど薬効が高く、それを主食とするルビーアイの瞳にもアンブロシアの成分が含まれている。そのためアンブロシアが手に入らない場合、その代用品としてルビーアイの瞳が万能薬の材料に用いられることもあるが、ルビーアイの素材は恐ろしく高価な値段で取り引されている。
クレジット
- 原作
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あずみ 圭
- キャラクター原案
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マツモト ミツアキ
書誌情報
月が導く異世界道中 14巻 アルファポリス〈アルファポリスCOMICS〉
第1巻
(2016-02-29発行、 978-4434216046)
第11巻
(2022-10-24発行、 978-4434310256)
第12巻
(2023-07-21発行、 978-4434323225)
第13巻
(2023-12-18発行、 978-4434331206)
第14巻
(2024-06-27発行、 978-4434340871)