世界観
改築工事を繰り返す横浜駅が、自己増殖能力を獲得してから200年が過ぎた日本が舞台。本州の99%は横浜駅に覆い尽くされ、人類は横浜駅のエキナカで暮らす者達、横浜駅の外のわずかな陸地でその投棄物に頼って暮らす者達、人に残された領域である北海道や九州、四国に暮らす者達に分かれ、それぞれの生活を送っているという、特異な世界観となっている。
あらすじ
第1巻
九十九段下で暮らす青年の三島ヒロトは、流れ者の東山から18きっぷを託されてキセル同盟のリーダーの救出を依頼され、また教授に42番出口へ行けと告げられ、横浜駅の中へと侵入した。横浜駅のエキナカは想像していたほどの理想郷ではなく、落胆するヒロトであるが、ある食堂に入ったところ、Suikaを持っていなかったために駅員に逮捕されてしまう。留置場で夜を明かしていると、突然天井を破ってネップシャマイが現れ、ヒロトは彼女に助けられ、行動を共にする事になる。ネップシャマイにキセル同盟について尋ねたところ、そのリーダーは甲府にいる可能性が高いという事で、そこへ向かおうとするが、突然現れた駅員がネップシャマイを銃撃する。ネップシャマイはスパイ活動のために横浜駅に侵入しているアンドロイドであり、その傷から覗く身体の断面は金属であった。それから甲府に辿り着いたヒロトは、「根付屋」というジャンク屋でキセル同盟の元リーダーを名乗る女性、二条ケイハと出会った。
第2巻
救出の必要がなさそうな二条ケイハの様子を見て、三島ヒロトは42番出口に向かう事にする。ケイハに調べてもらうと、42番出口は甲府から100キロほど離れた山中にあり、全面が壁に覆われていて通常の手段では侵入不可能であるという。しかし、ヒロトがネップシャマイから渡されたキャンセラーがあれば、壁を破って42番出口を抜ける事ができるとケイハは告げる。一方、場面は変わって九州。久保トシルはJR福岡から抜け出して四国に向かい、そこで半分壊れたアンドロイドの少女、ハイクンテレケと出会う。ハイクンテレケは、足が壊れたために行動不能になっており、そのせいで近所の住民からは幽霊がいると恐れられていた。
第3巻
盗賊と間違えられて自警団に襲撃されるというアクシデントに見舞われつつも、三島ヒロトは42番出口に辿り着く。その出口の案内には、「統合知性体開発研究所 方面」と記されていた。その中に入ると、教授を若くしたような人物のホログラフィが浮かび上がり、ヒロトに話し掛けて来た。今は西暦何年なのかと問うホログラフィに対し、ヒロトは西暦という概念を理解する事すらできない。そのホログラフィの主はJR統合知性体の保守管理主体であり、かつての教授で、JR統合知性体の開発責任者だった人物の知性を複写したものなのであるという。そしてホログラフィは、横浜駅のすべてを消し去るため、ヒロトに力を貸してほしいと告げる。
登場人物・キャラクター
三島 ヒロト (みしま ひろと)
Suikaを持たずに、九十九段下で暮らしていた青年。東山から18きっぷを託され、キセル同盟のリーダーの救出と、42番出口に行く事を目的として横浜駅に侵入する。その途上でネップシャマイと出会い、一時期行動を共にする。
教授 (きょうじゅ)
三島ヒロトがまだ幼い頃、九十九段下にやって来た老人。当時は九十九段下の人々と意思疎通が可能な言語を話す事ができず、また日本語が話せるようになった頃には認知症を患ってしまったため、コミュニケーションをうまく取る事ができない。旅立ち際のヒロトに対し、42番出口に行けば横浜駅のすべてがわかるという謎めいた言葉を残した。
ネップシャマイ
JR北日本が横浜駅に送り込んだアンドロイド型のスパイ。外見は人間の少女にそっくりで、自動改札は反応しないが、一部の駅員は彼らJR北日本のスパイの存在を察知しており、敵対的な行動を取る。偶然に出会い、一時期行動を共にした三島ヒロトからは「シャマイ」と呼ばれている。
二条 ケイハ (にじょう けいは)
甲府の一一七階層にある「根付屋」というジャンク屋の店主をしている年齢不詳の女性。その正体は、潜伏しているキセル同盟の元リーダー。凄腕のハッカーで、特殊な技術を利用して自動改札の追跡をかわしている。のちにJR福岡と接触を持つようになる。
東山 (ひがしやま)
九十九段下にやって来た、流れ者の年齢不詳の男性。キセル同盟のメンバーで、潜伏中の二条ケイハの身を案じ、18きっぷを三島ヒロトに託してその救出を依頼した。その後、九十九段下において病死している。非常に癖のある性格の持ち主。
久保 トシル (くぼ としる)
JR福岡でエンジニアをしていた24歳の青年。九州での暮らしが嫌になり、JR福岡を抜け出して四国を経由し、横浜駅に侵入した。その途上で出会ったアンドロイドのハイクンテレケと一時行動を共にしていた。出身地はJR福岡の支配地である種子島。
ハイクンテレケ
JR北日本が横浜駅に送り込んだアンドロイド型のスパイ。外見は人間の少女の姿をしている。まだ横浜駅の侵出が進んでいない四国において探索活動を行っていたところ、人間との戦いに巻き込まれて下半身を失い、行動不能に陥っていた。久保トシルと出会い、足を修理してもらう。
集団・組織
キセル同盟 (きせるどうめい)
関西を拠点に、横浜駅の活動停止を目標に掲げて活動していたレジスタンス組織。二条ケイハがリーダーを務めていたが、自動改札による弾圧を受け、4年ほど前に活動を停止している。ケイハはその後、行方をくらましている。東山がメンバーだった。
JR北日本
北海道で横浜駅の侵入を食い止めている組織。本拠地は札幌にある。「ユキエさん」と呼ばれる技術者が近年、何らかの手段によってブレイクスルーを起こし、アンドロイドなど高度な技術を使いこなしている。ネップシャマイ、ハイクンテレケらのアンドロイドを探索のために横浜駅のエキナカに送り込んでいる。
JR福岡
九州で横浜駅の侵入を食い止めている組織。九州一円を支配下に置いて高度な軍事力と科学技術を維持しており、独自に電気ポンプ銃などの兵器の開発も行っている。現在、横浜駅の侵略を受ける四国からの難民の流入に悩まされている。
場所
九十九段下 (くじゅうくだんした)
横浜駅1415番出口の下りエスカレーターの下にある、小さな岬に築かれたコロニー。三島ヒロトの生まれ育った場所でもある。首長と呼ばれる統治者がおり、横浜駅からの投棄物が豊富に採収できるので、住民は安楽な暮らしを送っている。時折「追放者」と呼ばれる横浜駅からの来訪者がいて、東山や教授もそうしてやって来た。 横浜駅のエキナカでは、骨董品ともいえる硬貨による貨幣が今も流通している。
42番出口
横浜駅に侵入すると決めた三島ヒロトに対し、教授が行くようにと勧めた場所。教授によれば、横浜駅の謎に関するすべてが42番出口にあるという。深い山の中にあり、また横浜駅の構造体によって遮断されているので、通常の手段で辿り着く事はできない。
イベント・出来事
冬戦争 (ふゆせんそう)
人類の文明世界を滅亡に追い込んだ、数百年も続いた大戦争。これに参加していた人類集団の一つによってJR統合知性体が造り出され、そして200年ほど前、そのJR統合知性体が暴走する事で横浜駅の膨張が始まった。冬戦争の終結と共に、多くのテクノロジーが失われる事となった。
その他キーワード
横浜駅 (よこはまえき)
本州の99%を覆い尽くす、活動し自己増殖する超巨大な機械構造体。知能そのものはあまり高くないが、拡大する本能のようなものを持っていて、北海道には青函トンネル経由、九州には海を越えて侵出を図っている。四国には既に瀬戸大橋を通じて橋頭堡を築いている。内部は「エキナカ」と呼ばれ、多くの人間が文明的な生活を送っている。
Suika
横浜駅のエキナカで暮らす人間達の身分証明などの機能を果たす、体内埋め込み型のチップ。電子マネーとしての機能もある。6歳までの子供はこれがなくても横浜駅に滞在する事ができるが、6歳を過ぎたらSuikaを購入し、体内に埋め込まなければならない。
自動改札 (じどうかいさつ)
横浜駅に大量に生息している管理・警備を司るロボット。人間同士で争ったり、横浜駅に対して破壊工作を試みるなど、彼らの認識している何らかのルールを破った人間を容赦なく殺害する。また、Suikaを持たない人間も攻撃の対象となる。
駅員 (えきいん)
横浜駅に無数にいる、横浜駅の秩序を維持するべく活動している人間達。統一された組織や集団構造を持つわけではなく、地域が変われば別の駅員の集団による統治が行われているなど、実態としては大小さまざまの自治組織に分かれている。横浜駅に公認されているわけではないので、他人に危害を加えれば、やはり自動改札に処分されてしまう。
JR統合知性体
鉄道ネットワークをベースにした巨大な人工知能。人間の脳をモデルとし、鉄道網をネットワークとして利用する知性体として、冬戦争の時に開発された。もともと横浜駅は、このJR統合知性体の構成ノードの一つに過ぎなかったが、ある日何らかの原因で自己増殖を始め、今日に至っている。現在は知性体としての機能は失われている。
18きっぷ
Suikaがなくても5日間だけ横浜駅の中に入る事のできるID。18きっぷという名称だが形は小さな切符ではなく、タブレット状の電光掲示板になっている。東山が横浜駅のどこかで手に入れたものを、遺品として三島ヒロトが託された。
キャンセラー
横浜駅の構造体を溶かす事のできる、懐中電灯のような形をした道具。JR北日本が開発した。通常、横浜駅に物理的な加害を加えると自動改札がやって来て攻撃されるが、このキャンセラーを使えばその心配はない。破壊力はさほど高くはなく、横浜駅を破壊するための道具ではなく、潜入工作用のアイテムである。ネップシャマイが持っており、三島ヒロトに渡された。
電気ポンプ銃 (でんきぽんぷじゅう)
冬戦争の頃に開発された古い兵器。金属片であれば何でも弾体として発射する事ができる。横浜駅の内部で一部の駅員が所持しているほか、九州や四国でもまだ使われている。JR福岡では新型の開発も行っている。威力も命中精度もそう高くはないが、人間やアンドロイドに対しては十分な効果を発揮する。
クレジット
- 原作
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柞刈 湯葉