世界観
本作『イグナクロス零号駅』は惑星、イグナージュの軌道上に存在するシャトル駅、イグナクロス零号駅を舞台に描かれたSF作品である。この世界の人々は惑星に住む地表民と、惑星の軌道上に設けられた2本の巨大なリング、イグナージュリングに住まう人々に分かれている。リングに住まう人々は、セクタという単位に区切られた居住区で生活しているが、それぞれが自治権を持った国のように機能しているため、セクタ間を移動するにはビザの発行が必要となる。そのため、遠く離れたセクタへ向かうには直接移動するしかないのだが、300年前の大戦の影響により主要な交通手段を失っており、シャトルと呼ばれる無人航行の小型宇宙船に移動手段を依存している。2本のリングの交点上には、それぞれイグナクロス零号駅とイグナクロス九十九号駅というシャトル駅が設置されており、さまざまな理由を抱えた人々がこれらの駅を訪れる。SFでありながら、昔のディーゼル機関車をモチーフとしたシャトルや、レトロなデザインの駅によって作られるノスタルジックな雰囲気が、本作の世界観を形作るうえで大きな特徴となっている。また両イグナクロスには、いつ訪れても変わらず、幼い容姿の少女が、それぞれ駅長に就いている。イグナクロス零号駅の駅長、神林ミランダと、イグナクロス九十九号駅の駅長、神林イプシィ。この二人は、遠い昔からこの場所で生きてきた特別な存在のシビュラージュである。加えて、300年前から存在する駅には廃棄された区画が存在しており、用途のわからなくなったインテリアや施設が残されている。これらの遺構は物語の中で断片的に示されるが、コミックス第4巻から始まる「シビュラージュの原罪」と銘打たれた過去編によって、シビュラージュの謎と共に、かつての姿が明らかとなっていく。駅を訪れる旅人とのどこか懐かしい交流劇。そして壮大なスケールで描かれる駅誕生にまつわる歴史。時代の異なる2種類の物語が本作のドラマと世界を作り出しており、過去編を読み終え、また最初から読み直す事で確認できる時間のつながりが、世界観の大きな魅力となっている。
作品構成
本作『イグナクロス零号駅』はイグナクロス零号駅を訪れる客と、駅長である神林ミランダをはじめとした駅員達の体験する事件や日常を描いた、オムニバス形式に近い作品構成となっている。だが、長期間の休載を経て描かれたコミックス第4巻以降は、「シビュラージュの原罪」と副題の付けられた連続した物語となり、300年前の過去の出来事を描いた内容となっている。それに伴い、主人公もミランダから茶木チャスケという一般人のカメラマンへ変更されるなど、それまで描かれて来たイグナクロスの世界とは違ったテイストの物語が展開される。
クロスオーバー
作者のCHOCOと交遊のある漫画家の撫荒武吉が「COMIC Zip」にて掲載していた漫画『ずべ子ちゃん』シリーズとのクロスオーバーが、本作『イグナクロス零号駅』単行本1巻「VISITOR 4 Oxidized Silver Explorers」に登場している。作中の舞台の一つとして登場する萬8という売店は、『ずべ子ちゃん』シリーズに登場する宇宙コンビニの名前と同じであり、登場キャラクターのしおりが身につけていたエプロンに書かれたロゴは、『ずべ子ちゃん』シリーズのものがそのまま使用されている。
あらすじ
第1巻「異客交錯点」
イグナクロス零号駅の駅員である菜々子那なしのは、貨物チェック中に300年前の古びたコンテナを発見する。コンテナの中から出て来たのは、当時の大戦の際に作られた第4世代型の兵装、ニューロトルーパーの少女だった。目覚めると同時に戦闘モードとなった少女の手によって、イグナクロス零号駅は危機を迎える。駅長である神林ミランダの指示によって彼女の名前を探したなしのは、コンテナ内に残された古い手紙を発見する。「最愛なるにう子へ」と宛名の書かれた手紙について、なしのから伝えられたミランダは、名前と共に戦争が終わった事を告げる。破壊を繰り広げていた少女は、その言葉に従ったかのように、すぐさま行動を停止した。後日、少女は手紙に書かれていた「尻子田にう子」の名前を与えられ、新しい駅員としてイグナクロス零号駅に採用されるのだった。(VISITOR 01「Sleeping Beast」)
ヒマをもてあましていたなしののもとへ、稀少種族であるシリコニアンの三人の子供、ルージャとルーツォ、シーニャが現れる。シャトルに乗り込もうとする彼らだったが、切符を差し出したところでシーニャが倒れてしまう。駅長であるミランダが検査をしたところ、疲労と栄養失調によるものと判明するが、同時にシーニャの妊娠も発覚する。第205セクタで過酷な生活を余儀なくされていた彼らは、同じ家で育てられるうちに、子供ながらに通じ合う関係にあった。しかし、第205セクタの法律である原種保護法によってシーニャに繁殖が強制されそうになったため、ルージャとルーツォはシーニャを護るために逃げ出して来たのだった。第205セクタの事情を知るミランダは、彼らが手に入れた切符が偽造切符だった事を告げる。しかし、銀河憲章に照らし合わせ、彼らに生きる権利があると判断したミランダは、駅長権限で「惑星イグナージュ」行きの社票を発券する。明くる日、イグナージュへ向けて旅立とうとする三人だったが、イグナクロス零号駅に第205セクタからの追っ手が現れる。そして、原種保護法に則り、彼らの身柄を保護すると告げるのだった。(VISITOR 02~03「siliconian」)
100年前の広告を片手に、突如としてイグナクロス零号駅に観光ツアーの老人達が現れる。彼らは、広告に記された温泉を目指して来たという。しかし、温泉の存在を知らないなしのとミランダは、彼らに同行する事を決める。果たして、断熱用真空ブロックを訪れたミランダ達は、確かにそこに廃棄された温泉旅館があるのを発見する。二人は老人達と温泉を楽しむが、そんな中、ミランダが欲情した老人達にさらわれてしまう。追いかけたなしのは、途中でお店、萬8の廃墟を発見する。そこには、温泉が放棄されてからずっと忘れ去られていた店番のアンドロイド、しおりが、壊れた体で今でも客を待ち続けていた。(VISITOR 04「Oxidized Silver Explorers」)
重力炉の暴走事故を起こした練習艇の救助活動のため、イグナクロス零号駅は48時間の機能停止を決定する。これに伴ってミランダは、駅を利用しようとしていた客を、予定とは違うセクタへ送り届ける決定を下す。しかし利用予定客の中に、第441セクタからの移民団の子供がいる事を見たなしのは、練習艇の乗組員の命と同じ位、子供達の未来も大切だと主張する。ミランダはその意見を尊重し、なしのを臨時の駅長に任命。救助活動でミランダが離れているあいだのイグナクロス零号駅の運行を、なしのに一任するのだった。(VISITOR 05「Lost Children」)
ある日、イグナクロス零号駅に船体の損傷が激しい宇宙艇が漂着する。乗員の生存が絶望視される中、辛うじてコールドスリープされた少女のエルツェネイアが生き残っているのを発見する。ミランダ達による懸命の蘇生措置によって一命を取り留めた彼女だが、ミランダ達が蘇生措置の疲れから眠っているあいだに目を覚ますと、誰に気づかれる事もなく宇宙艇のもとへと一人歩み寄る。そこで、エルツェネイアは自分以外の船員が全員、生き残れなかった事を知り、さらには動かなくなった恋人のガイの姿を目撃してしまう。一足遅れで駆けつけたミランダ達は、触れれば人が死んでしまうほどに冷却された船体へ足を進めるエルツェネイアを見つける。なしのは必死で少女の無謀を止めようとするが、説得も空しく、エルツェネイアは恋人への歩みを進めていくのだった。(VISITOR 06「Sleeping beauty with"X"」)
歴戦の兵士であるハンズィ・ハンセンはイグナクロス零号駅で、1年前に戦場で別れた友人を待っていた。その様子を見たなしのは彼に珈琲を淹れるが、ハンセンは間に合っていると断る。彼は、友人が淹れた珈琲に思い入れがあり、その珈琲しか飲まないのだった。お節介を続けるなしのが友人の残した大切な珈琲に触れた瞬間、ハンセンはなしのを激しく拒絶してしまう。一方のなしのも、珈琲に思い入れがあった。不器用な自分は人にうまく接する事ができず、一生懸命に淹れた珈琲が受け入れてもらえなかったら、自分がいなくなってしまうと感じていたのだ。数日が過ぎ、果たして、約束の場にハンセンの友人は現れなかった。激戦区に取り残された友人が亡くなっている事を受け入れたハンセンは、悲しみに暮れたまま駅を去ろうとする。しかしそこへ、非番だったはずのなしのが姿を現すのだった。(VISITOR 07「Coffee pot soldier」)
ミヤルノ・カレジノフは、イグナクロス零号駅へ侵入し、シャトルへの密航を企てたが見つかり、拘束されてしまう。彼女は妹へ確実に薬を届けるためにシャトルへ乗ろうとしたと主張し、乗車を許可してくれるよう求める。しかし、ミランダは彼女の要求をにべもなく拒否し、薬のみ貨物で送る手配をすると告げる。かつてのシリコニアンの子供達に対する対応に比べて温情がないと感じたなしのは、ミランダを説得しようとさまざまな手段を講じるが、かわされてしまう。それでもあきらめずに説得しようとしていた矢先、なしのはミヤルノの手によって拉致されてしまう。精霊族という他人の肉体に寄生して生きながらえる精神生命体であるミヤルノは、目の前で肉体を殺された妹を自分の身に寄生させていた。妹の新たな依代としてなしのを拉致したミヤルノだったが、なしのの肉体は依代として適合しなかった。ミヤルノはなしのを人質にして、シャトルで逃げ出そうとする。その頃、ミヤルノの身分を照会にかけていたミランダは、駅の運行コンピューターであるクレアによって、ミヤルノが殺人犯として指名手配されている「アルフィナ・ローエングラム」である事を告げられる。クレアからの報告を共に聞いていたにう子は、なしのを助けるため、ミヤルノのもとへ向かおうとする。しかし、駅長であるミランダは子供のようにうずくまり、一人になる事を過剰に恐れるなど、様子がおかしくなっていた。(VISITOR 08~09「Ever run Ever Sisters」)
第2巻「デスディモナの魔女」
早朝、菜々子那なしのは八神クーヤに連れられて、イグナクロス零号駅の廃棄された区画を訪れていた。奥にあったのは、巨大な宇宙戦艦の残骸。クーヤはここを秘密基地にして、「プロスペロウ号」と名付けたこの戦艦を一人で修理していたのだった。直せたらいっしょに乗ってほしいと、クーヤはなしのに伝えようと考えていたが、ささいな言葉の行き違いと、偶然にもなしのを押し倒してしまったハプニングもあり、喧嘩別れしてしまう。一方で、大人達は須郷キンバリーの喫茶店に集まり、仕事前の珈琲と会話を楽しんでいた。クーヤの師匠であるドクトル・ガッシュは、クーヤが最近、秘密基地を作って戦艦を修理している事を把握していた。しかし、同時に戦艦を修理し切ってしまうのにどこか躊躇(ためら)いがある事も見抜いていた。喧嘩別れから、なしのの忘れ物を喫茶店へ届けに来たクーヤに、神林ミランダは独り言のように言葉を投げかけるのだった。(VISITOR 10「Suite sweet tooth」)
ある日、イグナクロス零号駅を訪れたシャトルは、軍からの激しい攻撃に晒されていた。辛くも駅へ降り立った乗客、双子の姉妹のカレン・コルチェとカレカ・コルチェは軍の追っ手から、尻子田にう子の手によって救われる。自分達を助けたにう子の事を気に入ったカレンは、その頼もしさから「お父さま」としてにう子に旅の同行を求める。カレンの要望を拒否するミランダだったが、姉妹の引き渡しを求める軍がまだ付近にいる事を警戒し、滞在している24時間だけにう子を彼女達の護衛に付ける事を決める。その夜、ミランダのもとへ300年を生きる魔女と噂されるデスディモナが訪ねて来る。彼女は双子の母親だった。双子がデスディモナの後継者であり、新しい体の候補である事を知るミランダは警戒を緩めてなかった。しかし思いがけず暴発した軍の刺客が、双子と護衛しているにう子のもとへ襲撃を仕掛けてしまう。双子を護るために武器を振るったにう子は、兵士を殺してしまい、ミランダはにう子を拘束せざるを得なくなってしまう。拘束されたにう子にミランダは、ここを出て行くのなら自分に押しとどめる事はできない、と達観した瞳で告げ、去って行く。一方のにう子は、自分を助けに来たドクトル・ガッシュらの手によって拘束を解除され、双子の運命を知らされる事となる。(VISITOR 11~14「A Bloom by the lake」)
イグナクロス零号駅へ、棺を携えたオットー・マンシュタインという男が訪ねて来た。彼は自身をかばって死んだ娘のアリアチェッタを自然の森と土へ埋葬するため、それらがイグナクロス零号駅に残されているという噂を頼りに訪ねて来たのだった。現れたミランダによって駅に自然は残されていないと否定されるが、オットーは話の内容よりも、娘と瓜二つの容姿であるミランダに驚愕する。廃棄された礼拝堂で、死んだ当時のまま保存されていたアリアチェッタの衣服を整えるため、ミランダは自分以外の人間を遠ざける。しかし、戻って来た一行が目にしたのは、血に汚れたアリアチェッタの衣服に身を包んだ、尋常な様子ではないミランダの姿だった。激昂し、詰め寄るオットー。しかし、ミランダはそんな様子のオットーへ抱きつくと、自らの父親、神林アダージュの名前で彼を呼ぶのだった。(VISITOR 15「The Coffin Man」)
オットーの出来事から3日。何も食べずにいるミランダを心配したなしのは、キンバリーの喫茶店で相談をしていた。小さい頃に親を亡くしたミランダは誰にも頼れずにいると、分析するキンバリーの意見に、自身も幼い頃に母親と離れているなしのは、頼ってほしいと強く願うようになる。しかし、現れたドクトル・ガッシュに、浅はかな同情だと叱責されたなしのは、駅長のためにおいしいアップルパイを作ると宣言する。ドクトル・ガッシュはアップルパイを、そんなものなどと切り捨て、代わりにミランダの好きなラズベリーソースのレアチーズケーキをホールで作れと告げる。八神クーヤやキンバリーの助けを得ながら、ケーキを作り上げたなしのは駅長室へ赴くが、ミランダの姿はなかった。そこで彼女のチョーカーが落ちているのを見つけ、好奇心から自らの首へはめてしまうのだった。(VISITOR 16「Raspberry Delivery」)
第3巻「三百年庭園」
イグナクロス零号駅では、神林ミランダに続き、菜々子那なしのまで行方不明となっていた。ドクトル・ガッシュはなしのの代わりにもぎりをしている尻子田にう子に二人の所在を訪ねると、駅の運行コンピューターであるクレアが272分前からまったく同じ回答である事を告げる。ミランダがこのままだと駅長としての認証が切れ、イグナクロス零号駅が停止する。危機感を覚えたドクトル・ガッシュは須郷キンバリーと弟子である八神クーヤに事情を説明し、三人で駅長室を訪ねる事にする。しかし、扉の前から呼びかける三人の声に、部屋の中からはいっさいの反応が返ってこなかった。ドクトル・ガッシュが改めてミランダの所在を尋ねると、クレアからは何も問題はないという返答が返って来る。だがその返答は、ドクトル・ガッシュが遠い昔に、イグナクロス零号駅でクレアから聞かされたものとまったく同じ内容だった。にう子も駆けつけ、扉を破って駅長室へ侵入した一行は、なしのの制帽と、どこかへと通じる空間接続ゲートを発見する。暗号鍵がなければくぐる事のできないゲートを前に、刻一刻と認証切れの時間が迫る中、一行は手詰まりとなってしまう。しかしそこへ、かつて駅を訪れたカレカ・コルチェから通信が入る。クーヤに預けた「コスモモーゼルM0099」を復元できたならば暗号を突破できると告げるカレカに、ドクトル・ガッシュとクーヤは力をあわせて120秒での復元を目指す。同時に、ドクトル・ガッシュから語られたのは24年前に彼が経験したミランダとの物語。名声を手にいれて目的を見失っていたドクトル・ガッシュが駅を訪れ、ミランダにプロポーズしたという過去だった。プラットフォームで待っていてほしい、とミランダから告げられたドクトル・ガッシュ。ミランダを待っている中、突如として18分だけ機能を停止するイグナクロス零号駅。何も問題はない、と告げるクレアの言葉を信じて待っていた彼のもとへ現れたミランダは、まるで赤の他人のように彼をシャトルへと送り出した。ふられたと当時は思っていたが、もしかしたらゲートの向こう側に真実があるのではないか。復元されたコスモモーゼルM0099でドクトル・ガッシュはゲートの暗号キーを解除する。その頃、なしのは既にゲートの向こう側にいた。重力が弱く古い庭。草のにおいがするその場所で、なしのを待っていたのは小さなアンブリエルのような姿のロボット、ポーシアと、ミランダの名前が書かれた多くの墓だった。ポーシアに案内される先で、なしのは自らを「ミルー」と名乗る、幼い言動をするミランダに出会うのだった。(VISITOR 17~22「Nanakona Nashino」)
第4巻「シビュラージュの原罪 前編」
報道カメラマンの青年、茶木チャスケは、観察議員の議長であるノワウスの取材に来ていたところ、シビュラージュを狙ったテロと遭遇する。決定的瞬間を撮影しようと前に出た茶木は偶然にも、シビュラージュである神林イプシィの身を救う結果となるが、誤ってニューロトルーパーに逮捕されてしまう。IDカードを拾っていたイプシィと会場で出会ったゲオルギウム・オセローの証言で釈放された茶木は、戻って来た自らのIDカードのセキュリティレベルが異常に引き上げられている事に気がつき、シビュラージュ専用区画へ潜入する。スクープを捉えようと、シビュラージュの父親、神林アダージュの愛人とされる天野星子らが、シビュラージュとなかよくする姿を盗撮、盗聴していた茶木だったが、神林ミランダに潜入がバレてしまう。自分が招いたのだと、イプシィが取りなしてくれたおかげで事なきを得る茶木だったが、運悪くパトロール中の自律兵器に見つかりそうになってしまい、イプシィを抱えて柱に身を隠す。きつく抱きしめられたイプシィの口から思わず漏れた「おにいちゃん」という言葉。かつて、妹のミチ子を凄惨な事故によって亡くしていた茶木は、過去のトラウマを思い出し涙してしまうのだった。一方その夜、昼間に余したケーキを父へ届けようと部屋を訪ねたミランダは、そこで裸で抱き合う星子とアダージュの姿を目撃してしまう。思わぬ光景に逃げ出したミランダは変装すると、あるお願い事をするため、ノワウス議長のもとへ訪ねる。後日、アダージュのもとへ観察議会の会合の迎えに来た星子は、みんなの目の前で父親である天野議員が乗った宇宙船が爆散する光景を目撃してしまう。駆け寄ったアダージュを思わず突き飛ばしてしまった星子はそのまま警備兵に拘束され、連行される。ミランダはその様子を恍惚とした表情で眺めるのだった。
第5巻「シビュラージュの原罪 後編」
廃棄物処理場から宇宙空間へ廃棄されそうになった茶木チャスケと神林イプシィは、捜索に来た花沢ポーシアと足利、ニューロトルーパーにより間一髪で救助される。第三観察民による暴動や地表民による攻撃が激化する中、シビュラージュ専用区画を目指す一行は、途中で尻子田大佐と天野星子を乗せた装甲車両のバッカスに拾われ、辛くも逃げ切る事に成功する。しかし、シビュラージュ専用区画へ到着すると、イプシィは一方的に茶木との兄妹ごっこの終了を告げるのだった。事態が切迫する中、シビュラージュ専用区画の中央を空間遮断し、イグナージュリングのシステムが稼働するまでの残り時間を稼ぐ作戦が始まる。その最中、茶木は足利の口から、リングのシステムが稼働後、シビュラージュの姉妹が北天宮(イグナクロス零号駅)と南天宮(イグナクロス九十九号駅)で、離ればなれとなって公務に就く事を教えられる。父親を溺愛する彼女らを知っている茶木は、ゲートが遮断する間際、イプシィへ本心を問いかけるが、神林アダージュによって遮られてしまう。しかし、神林ミランダの口から告げられた「そんなプライド、池に捨てちゃえばいいのに」という言葉を頼りに周囲を探索すると、池の底に「コスモモーゼルM0099」が沈められているのを発見する。銃に込められていた弾丸には、空間遮断ゲートをくぐるための暗号鍵が込められていた。茶木に会いに来て欲しいのではないか、と告げるシビュラージュガードの兵士の言葉に押され、茶木は空間遮断ゲートをくぐってミランダの庭を訪れる。そこでは、ドレスを着込んだミランダが茶木を待ち構えていた。
連載経緯
1996年の春、作者のCHOCOが交遊のある漫画家の撫荒武吉と話をしていた際、彼の代役として「COMIC Zip」に作品が掲載される事となった。その時点では本作『イグナクロス零号駅』の構想もまったくなく、正式に執筆依頼が来てから考え始めたという。この時CHOCOは、自分が一番好きな漫画である、松本零士の『銀河鉄道999』のような作品を描こうと、漠然と決めただけの状態で連載をスタートした。
掲載情報
本作『イグナクロス零号駅』は、当初は「COMIC Zip」1996年06月号No.16から不定期掲載されていたが、第9話まで掲載されたところで成年誌には趣向があわないとの理由により、「月刊コミック電撃大王」へと移籍する事となった。移籍後は2004年2月号まで掲載ののち、一時休載。その後、「月刊コミック電撃大王」2010年6月号から2011年12月号にかけて連載され、完結を迎えた。
関連作品
イグナクロスガイド
「電撃マ王」2010年3月号増刊「電撃大王GENESIS」2010 WINTERにて連載の再開が発表された際、付録として本作『イグナクロス零号駅』のガイドブックが収録された。内容は、設定資料と1話から13話までの各話のあらすじに加え「VISITOR 15」が収録された。また、巻末には作者のCHOCOと漫画家の曽我部修司の対談が収録されている。
関連商品
一品物、本格金蒔絵入り印籠「シビュラージュガード」
2010年3月21日~3月22日にかけて開かれた「コみケッとスペシャル5in水戸」において、作者のCHOCOのサークル「CHOCOLATE SHOP」にて、一品物、本格金蒔絵入り印籠「シビュラージュガード」が発売された。本格漆塗り仕様で、朴の木の無垢材、黒呂塗り。「シビュラージュガード」のエンブレムが手書きで描かれている。付属品として根付、緒締め、組紐、桐箱が付属した。制作は御河屋の磯村正満が手がけた。また、同時に量産型のプラスチック成形の印籠も販売された。
モデルガン「コスモモーゼルM0099」
大日本技研より、神林ミランダが使用している大型ハンドガン「コスモモーゼルM0099」がモデルガンとして販売された。取扱説明書のほか、コッキングハンドルやグリップ、ランヤード・リング、99式試製モ式自動拳銃仕様書が付属された。
タイアップ
ガタケット111
同人誌即売会「ガタケット111」において、『イグナクロス零号駅』のデザインワークス展が行われた。また、特別企画として、非売品グッズであるクリアファイルや、作者であるCHOCOの直筆サインが書かれたポストカードが、参加特典としてもらえるバスツアーチケットも販売された。
アシスタント
本作『イグナクロス零号駅』には、イラストレーターや漫画家として活躍する人物が、アシスタントとして数多く参加している。主なところでは、TVゲーム『旋光の輪舞』のキャラクターデザインを担当した曽我部修司や、『Fate/Apocrypha』のキャラクターデザインを担当した近衛乙嗣、『北へ。』のキャラクターデザインを担当した大槍葦人。ほかに、漫画『カイゼルスパイク』の作者、竹山祐右など。
登場人物・キャラクター
神林 ミランダ (かんばやし みらんだ) 主人公
イグナクロス零号駅の駅長を務める少女。身長は139センチしかなく、一見すると12歳から13歳ほどに見えるほど幼い外見をしている。イグナクロス零号駅の駅長を務めるには幼すぎる容姿のため、子供と勘違いされ... 関連ページ:神林 ミランダ
茶木 チャスケ (ちゃき ちゃすけ)
北天宮(イグナクロス零号駅)で生活する男性カメラマン。年齢は24歳。5年前のスペースポート事故で妹のミチ子を失った過去がある。シャトルの下敷きになったミチ子が息絶えるまでの姿がテレビで放映され続けた事で、屈折した感情を抱えてカメラマンとなった。人々の不幸を世に広く報道する事を信条としており、ミチ子の死は世界にありふれた日常の一部に過ぎないと矮小化しする事によって、心の平静を保とうとしている。 カメラを通して愛用のレンズ「ファティマ」を覗き込んでいるあいだは、どのような危険があろうとも不死身である、と信じ切っており、あらゆる危険に積極的に頭を突っ込んでいく、無謀な性格をしている。ノワウス議長の演説を取材に来た際、シビュラージュを狙ったテロに遭遇し、その無謀さから近距離での撮影を試みたところ、偶然にも神林イプシィとの面識を得る事となった。 外の世界に興味を抱いたイプシィの手引きなどもあり、シビュラージュと接する機会を得た茶木チャスケは、スクープを手に入れるために二人を追いかけ始めるが、次第にイプシィに妹のミチ子を重ね合わせていく事となる。 最終的に、アダージュとシビュラージュが揃う最後のポートレートを撮るのを任されるまでの関係になり、アダージュの代わりにイプシィを南天宮(イグナクロス九十九号駅)へと送り届けた。
菜々子那 なしの (ななこな なしの)
イグナクロス零号駅で働く耳長族の少女。長い髪をお団子の形に結い上げた髪型をしている。イグナクロス零号駅で働く数少ない駅員の一人であり、現在は新人として見習いの立場にある。不器用ながら、慣れない駅員としての仕事をこなし、お客様を精一杯もてなそうと日夜励んでいるが、頻繁にお節介が空回りし、騒動を引き起こす。また、好奇心旺盛な優しい性格からトラブルに自ら首を突っ込む事もあり、騒動の絶えない毎日を送っている。 お菓子作りや料理作りが趣味であり、珈琲の淹れ方に対して一家言持っている。また好物はラーメンであり、事あるごとに駅長の神林ミランダに食べさせようとしている。
尻子田 にう子 (しりこだ にうこ)
イグナクロス零号駅の300年前のコンテナに収められていた少女。その正体は、300年前の大戦時に使用された「ニューロトルーパー」と呼ばれる単独局地戦闘兵器として作られた有機アンドロイド。第4世代型の兵器であり、先天的に欠損している右腕に「M・T・(Material transport)ジェネレーター」と呼ばれる、兵器転送装置が取り付けられている。 これにより、別次元に存在する武装コンテナからさまざまな武器を状況に合わせて召喚する事が可能となっている。コンテナに書かれていたコードナンバーは「NB-S04」。共に収められていた手紙には、「尻子田にう子」という名前が書かれていたため、その名で呼ばれる事となった。「ニューロトルーパー」は300年前にシビュラージュガード所属の軍人にして、神林アダージュの友人でもあった尻子田大佐の娘、尻子田にう子のクローンが素体となっている。 基となった少女は生まれてから15年、一度も目を覚ました事がなく、また、にう子の片腕がないのも、基となった尻子田にう子の右腕が先天的になかったためである。大戦の中、「ニューロトルーパー」の大半が戦闘で死亡しており、コンテナにしまわれたまま、最後まで残された未起動のニューロトルーパーが、300年後のイグナクロス零号駅で働くにう子である。 有機アンドロイドではあるが、肉体的な仕組みはほぼ人間と変わない。それは頭脳も同様で、兵器として思考の一部が最適化されているものの、純粋無垢な感性と心を持ち合わせている。 にう子の事を「お父さま」と慕ったカレカ・コルチェとカレン・コルチェとの一件では、彼女らとの別れの際に、自分にも家族ができたと思った、と慟哭するほど強い感情を見せた。兵器ではあるが、駅長である神林ミランダからも、駅員である菜々子那なしのからも仲間として受け入れられており、一人の人間として扱われている。
ドクトル・ガッシュ (どくとるがっしゅ)
イグナクロス零号駅でシャトルの修理や駅の整備を行っている老人。頭の中央が禿げ上がった男性で、「アルケミストハンド」と呼ばれるグローブのような器具を使い、原子単位で物質を再構成、あるいは解体する「錬金物理学」の第一人者。駅でシャトルに乗るための切符代金を稼いでいる八雲クーヤとは師弟の関係にある。24年前に駅長である神林ミランダとあった事があり、当時の彼女にプロポーズをするが、すげなくふられたという因縁がある。 数々の騒動を経験していくうちに、ミランダとイグナクロス零号駅のあいだにある300年前からの謎と、24年前のプロポーズの真相にたどり着く事となった。普段はみんなから敬意を込めて「ドクトル・ガッシュ」と呼ばれているが、本名は「アルバート・バルカン・ガッシュ」という。
八雲 クーヤ (やくも くーや)
シャトルに乗るための切符代金を稼ぐため、イグナクロス零号駅で働いている少年。普通の人間とは異なり、長い耳をしている。駅の閉鎖空間内に放置されていた宇宙船のプロスペロウ号を修復して、いつか宇宙へ旅立つ事を夢見ている。修理の作業現場は八雲クーヤにとっての秘密基地同然の場所となっており、心を許した人間にしかその場所を知らせていないが、師匠であるドクトル・ガッシュにはバレているなど、少年らしい幼さの残る人物。 年齢の近い菜々子那なしのに対して淡い恋心を抱いているが、デスディモナの娘であるカレカ・コルチェに誘惑された際はしどろもどろになるなど、優柔不断な面がある。
須郷 キンバリー (すごう きんばりー)
イグナクロス零号駅で喫茶店を経営する禿頭のマスター。中性的で物腰柔らかな対応をする温厚な男性で、その大人らしい佇まいから菜々子那なしのをはじめとする年若い人間の相談役となっている。また、店は出勤前の神林ミランダやドクトル・ガッシュにとっての憩いの場となっているため、若者達と彼らのあいだに起こったトラブルの仲介役となる事もある。
神林 イプシィ (かんばやし いぷしぃ)
イグナクロス九十九号駅の駅長を務める。イグナクロス零号駅に対して対抗意識を持っており、イグナクロス九十九号駅の集客率を上げるために、名物料理を作り出そうと日夜奮闘している。イグナクロス零号駅の駅長であ... 関連ページ:神林 イプシィ
レンファ
イグナクロス九十九号駅の駅員。関西弁のような口調で話すショートヘアの少女で、頭に猫のような耳が生えている。イグナクロス零号駅の神林ミランダに対抗意識を燃やす駅長の神林イプシィが発案した名物料理開発に、同じ駅員であるシャオロン共々付き合わされている。それにより、文献に残る古代の料理を再現しようとしては、さまざまな騒動に振り回されている。
シャオロン
イグナクロス九十九号駅の駅員。関西弁のような口調で話すロングヘアの少女で、頭に兎のような耳が生えている。イグナクロス零号駅の神林ミランダに対抗意識を燃やす駅長の神林イプシィが発案した名物料理開発に、同じ駅員であるレンファ共々付き合わされている。それにより、文献に残る古代の料理を再現しようとしては、さまざまな騒動に振り回されている。
シーニャ
第205セクタに存在する、絶滅寸前の稀少種族、シリコニアンの少女。同じシリコニアンのルージャとルーツォに連れられてイグナージュへと逃げ出す途中、シャトルを利用するためイグナクロス零号駅へと立ち寄った。ルージャとルーツォとは同じ家で育てられており、眠る時も同じ部屋の同じベットという環境にあった。 第205セクタで可決された「原種保護法」における「強制繁殖法」の対象となる前に逃げ出して来ており、お腹にはルージャかルーツォの子供を身ごもっている。しかし、二人のどちらとも関係を持っていたため、どちらの子供なのか定かではない。
ルージャ
第205セクタに存在する絶滅寸前の稀少種族、シリコニアンの少年。同じシリコニアンのルーツォとシーニャとは同じ家の同じ部屋で育てられた。第205セクタで可決された「原種保護法」に定められた「強制繁殖法」の対象にシーニャが選ばれそうになったため、ルーツォと共にシーニャを連れ逃げ出した。イグナージュへの移住を目論んでおり、シャトルを利用するためにイグナクロス零号駅へと立ち寄った。 気弱なルーツォや物静かなシーニャと比べ、好戦的で行動的な性格をしている。シーニャのお腹に宿る子供の父親候補の一人だが、同じく関係を持っていたルーツォとどちらの子供かは定かではない。
ルーツォ
第205セクタに存在する絶滅寸前の稀少種族、シリコニアンの少年。同じシリコニアンのルージャとシーニャとは同じ家の同じ部屋で育てられた。第205セクタで可決された「原種保護法」に定められた「強制繁殖法」の対象にシーニャが選ばれそうになったため、ルージャと共にシーニャを連れ逃げ出した。イグナージュに自由があると信じており、移住するためにイグナクロス零号駅へ立ち寄った。 ルージャに比べて気弱なところがあり、シーニャが自分かルージャの子供を妊娠していると知らされた夜には、不安から悪夢を見たほど。一方で、ルージャを守る際など、譲れないものに対してはしっかりと意見を主張する芯の強さを持つ。
ダヤン・ワーチン (だやんわーちん)
第205厚生監視局に所属する女性。「原種保護法」の番人ともいえる存在であり、第205セクタ外へ逃れようとするシーニャ達を「保護」するため、イグナクロス零号駅へ現れた。シリコニアンの血を高貴なるものと考えており、その傲慢さからほかの血と混じり合うあらゆる可能性を容認できずにいる。また血統の優劣についても「原種保護法」の定める遺伝子の優劣を信奉しており、それに違反する行いをしたシーニャ達の子供に「しかるべき処分」を行おうとした。 最終的に、逃走しようとするシーニャ達を強制的に捕らえようとするが、尻子田にう子の手によって退けられる。
しおり
いぐな温泉の萬8郁那温泉前店で働いていたオフライン型アンドロイド。神林ミランダには「なかよし-3型」と呼ばれていた。少女のような外見をしているが、長い年月のあいだに下半身が失われてしまっている。89年前の事故によっていぐな温泉が閉鎖され、店はしおりごと存在が忘れられていた。しかし、販売ノルマを達成するまで閉店コマンドが発行されないため、菜々子那なしのが店を訪れるまで営業システムを維持し続けていた。 のちに、萬8本店の本体へデータをアップロードする事によって閉店コマンドを取得でき、なしのの腕の中で機能を停止した。
エルツェネイア
ある日、イグナクロス零号駅に漂着した宇宙船に乗っていた、唯一の生存者の少女。コールドスリープ状態にあったが、神林ミランダら駅員らによって蘇生措置が取られ、一命を取り留めた。耳が鳥の翼のようになった独特の外見の持ち主。また話す言葉も違い、尻子田にう子にしか理解ができなかった。目を覚ましてから、恋人であるガイをはじめとした乗組員が全員死んでしまった事を知り、絶望の中で恋人のあとを追おうと決意し、80ケルビン以下の空気へ身を晒して自死した。
ハンズィ・ハンセン (はんずぃはんせん)
数多の戦場を渡り歩いて来た歴戦の兵士。無精髭を生やし、風呂をはじめ身だしなみに頓着しない性格の男性で、左目を失っている。1年前に戦場で別れた戦友と交わした、「イグナクロス零号駅で待っている」という約束を果たすため、駅を訪れた。戦場を渡り歩く根なし草であるため、明確な帰る場所というものがなく、唯一友人の淹れた珈琲に安らぎを求めていた。 友人と別れたあとも、友人の残した豆で淹れた珈琲を愛飲している。そのため、自分の珈琲を飲ませようとする菜々子那なしのによるお節介に苛立ちを見せる。
ミヤルノ・カレジノフ (みやるのかれじのふ)
妹の薬を届けるためにイグナクロス零号駅へ密航した女性。貨物用プラットホームへ侵入しようとしたところをアンブリエルに見つかり、捕縛された。他人の肉体に精神を寄生させて生きる精霊族の元貴族。「ミヤルノ・カレジノフ」という名前は偽名で、本名は「アルフィナ・ローエングラム」という第1級殺人犯である。妹のティファへ薬を届けるために密航したとしていたが、既に妹は肉体的に死亡しており、今際の際に妹の精神を自分の体の一部へと寄生させている。 本来の目的は妹の新しい肉体に適合する人物を探し出す事で、自身の身の上に同情的だった菜々子那なしのを標的とするものの適合せず、失敗。その後はなしのを人質に取り、イグナクロス零号駅からの逃亡を企てた。
デスディモナ
ゲオルギウム・オセローの妻であり助手。夫であるオセローは、遺伝子と違って、なぜ記憶が継承されないのかという研究を行っている。夫がイグナクロスのコンペを神林アダージュと競う中で、助手であるデスディモナは研究の最中に植物状態へと陥ってしまっていた。のちに魂が戻り、300年を生きる魔女デスディモナとして世界の裏側で暗躍。 イグナクロス零号駅を落とし、300年前から続くシステムを終わらせようと企んでおり、300年の時を生きながらえるために、別の肉体へ記憶と魂を継承する事を繰り返して来た。現在は、遺伝子を操作して生み出したカレン・コルチェとカレカ・コルチェの双子の姉妹を、いずれ自分の肉体となる娘として育てている。 神林ミランダとも面識があるようで、彼女には、「ミズ・コルチェ」と呼ばれていた。
カレン・コルチェ (かれんこるちぇ)
自衛軍に追われながらイグナクロス零号駅に現れた双子の少女。姉妹のカレカ・コルチェとは瓜二つの外見をしている。そのため、こめかみに落とす髪の毛のサイドを変える事で区別がつくようにしており、カレン・コルチェは右サイドから髪を落としている。駅を訪れた際に自衛軍から身を守ってくれた尻子田にう子に頼もしさを感じ、その後、世話役となったにう子に、不在の父親役として旅について来てほしいと頼み込むほどに親密になる。 カレカとは性格まで瓜二つのようだったが、にう子をめぐるやりとりの中で次第に意見が分かれるようになった。双子は、300年を生きる「魔女」と謳われるデスディモナの娘で、遺伝子操作によって生まれた後継者候補という身の上にある。 そのため、遺伝子と同時に記憶と魂を継承する事によって延命を行って来たデスディモナの手によって、いずれ、双子のどちらかがデスディモナ本人の肉体となる。
カレカ・コルチェ (かれかこるちぇ)
自衛軍に追われながらイグナクロス零号駅に現れた双子の少女。姉妹のカレン・コルチェとは瓜二つの外見をしているが、カレンがこめかみの右側から髪を垂らしているのに対して、カレカ・コルチェは左側から垂らす事で区別している。双子同士、性格や欲求まで似通っていたが、駅を訪れた際に自衛軍から身を守ってくれた尻子田にう子に頼もしさを感じ、惹かれていったカレンの様子を見て、次第に考えが乖離し始める。 カレカ自身は、シャトルの中へ忘れたコスモモーゼルM0099を取りに行った際、偶然出会った八神クーヤの事を気に入っており、誘惑していた。300年を生きる「魔女」であるデスディモナの娘として遺伝子操作を受けて生まれて来た身の上にあり、いずれ、双子のどちらかが、デスディモナが繰り返して来た転移の器となる運命にある。
オットー・マンシュタイン (おっとーまんしゅたいん)
祖国を変えようと戦っていた革命家の男性。初老の人物で、アリアチェッタという娘がいた。娘のために祖国を理想郷へ変えようと奮闘していたが、戦いの最中、アリアチェッタが自分をかばって銃弾に倒れてしまった事で、戦う意義を見失ってしまう。以後、娘を埋葬するため、自然由来の土や緑がある場所を求めて棺と共に放浪の旅をしていた。イグナクロス零号駅に存在するという噂を聞きつけ、駅を訪れた際、娘のアリアチェッタと瓜二つの外見である駅長の神林ミランダと出会い、娘と見間違えてしまう。 その後、様子のおかしくなったミランダに、彼女の父親、神林アダージュと重ね合わされた騒動の中で、父性を思い出し、失意から立ち直った。
神林 アダージュ (かんばやし あだーじゅ)
シビュラージュである神林ミランダと神林イプシィの父親。イグナージュリングシステムをはじめ、イグナクロス零号駅やイグナクロス九十九号駅を設計した天才科学者で、北天宮では一等観察民の身分にある。5年前のスペースポート事故で、最愛の妻である神林アリエルを失って以来、娘達をシビュラージュにする計画を推進していく。 未だに妻の面影を追いかけており、愛人関係にある教え子の天野星子をアリエルと見間違える事もある。惑星、イグナージュを監視し、管理するという永劫社会管理システムを作り出すなど狂気的な一面がある。その一方で、システムを停止させる方法として、友人達と二人のシビュラージュに、停止キーの込められた「コスモモーゼルM0099」を手渡すなど、自分の狂気に自覚的な面もあった。 愛人である星子に深い愛を捧げられていたほか、二人の娘にも父娘を超えた感情を抱かれていた。また、現在の助手である花沢ポーシアからも想いを寄せられているなど、多くの女性から好意を寄せられていた。結果、狂気的な自らの計画と、アリエルの面影を他人に追い続けて来た責任を取らされる形で、娘のイプシィに撃たれてしまう。 ミランダにかばわれた事で辛くも一命は取り留めるが、代わりにミランダを亡くしてしまう事となった。ミランダの記憶と精神をクローン体へ移植する緊急手術を行うため、傷をまともに癒やす事なく作業を続けた結果、カプセルの中で目を覚ましたミランダに看取られる形で死亡し、朽ち果てていった。
神林 アリエル (かんばやし ありえる)
神林アダージュの妻で故人。5年前に起きたスペースポート事故によって帰らぬ人となった。神林ミランダと神林イプシィの生みの母親その人で、外見はミランダに似ていた。アダージュは現在でも亡き神林アリエルの影を求めており、愛人である天野星子を思わずアリエルと見間違えるなど、深く愛されていた様子がうかがえる。 アリエルの死の直後から、アダージュはミランダとイプシィの両名をシビュラージュとする動きを始めるなど、アリエルの死が与えた影響は、さまざまな人へ波及していく事となる。
天野 星子 (あまの ほしこ)
神林アダージュの教え子である女性。アダージュの愛人でもあり、失った妻である神林アリエルの面影を未だに追い求めるアダージュにとって、心の拠り所となっている。イグナージュリングに反対する地表民との和平を目指して活動する観察議員、天野議員の娘で、リングシステムの開発の中心であるアダージュと父親のあいだで、板挟みの状態にある。 神林ミランダと神林イプシィらシビュラージュの二人とは、彼女らが幼い頃からの知り合い。親しい間柄にあったが、アダージュと逢瀬を重ねていた場面をミランダに覗き見られた事で関係が崩壊する。のちに父親が暗殺された事をきっかけに、シビュラージュガードによって逮捕された。暗殺を命じた犯人がミランダであると判明した際のやり取りで両腕を失うが、復讐のために肉体をニューロトルーパーへと改装した。 シビュラージュガードの尻子田大佐に恋慕され、一時は思いに応えるような素振りを見せる。しかしながら、最終的にはシビュラージュを亡き者とする復讐の道を選んだ。
花沢 ポーシア (はなざわ ぽーしあ)
神林研究所の第1助手を務める女性。神林アダージュの助手が仕事だが、現在は主に神林ミランダと神林イプシィの両シビュラージュの教育係として働いている。つねに微笑んでいるような独特の口調が特徴的で、シビュラージュの二人に起床時刻を伝える際などに、「な~う」と付ける話し方など、底抜けで明るい性格をしている。 その一方で、アダージュに気にいられるため、胸元の開けた服を着用して愛人の地位を狙うといった強かな部分もあり、同じくアダージュの愛人であった天野星子と対立していた。自分のクローン人格をAIとしたサポートロボットのポーシアを自身の補助として連れ歩くようになるが、自身の人格を載せた事が仇となり、ポーシアに嫌悪される結果となる。
ポーシア
花沢ポーシアの人格クローンを搭載したサポートロボット。全高130センチほどの小型サイズのロボットで、外見はアンブリエルやナイアッドに似ており、外装は黒く塗装されている。神林アダージュの助手であり、シビュラージュの教育係であった花沢ポーシアのサポートが主な仕事である。「花沢ポーシア」と区別するために「ロボ・ポーシア」と呼ばれた。 基となった花沢ポーシアの人格同様、つねに微笑みをもらすような口調で話すなど、外見以外は非常に似通った性格をしている。そのため、自分と同じ人間が存在する、といった根源的な気持ち悪さを抱える事になり、自分の人格の基である花沢ポーシアに対していい感情を持っていない。生み出されてから300年後のイグナクロス零号駅では、「ミランダの庭」とよばれる、かつて、アダージュと二人の娘であるシビュラージュが暮らした区画に存在し、神林ミランダの別人格である「ミルー」の世話係を担当していた。 イグナクロス零号駅の管理コンピューター「クレア」よりも上位の命令系統を持っているなど、単なるサポートロボットの枠に留まらない強い権限を有している。
ゲオルギウム・オセロー (げおるぎうむおせろー)
神林アダージュの友人の一人。イグナクロスのコンペを競い合った博士の男性。イグナージュリングのシステムを停止する唯一の手段である「コスモモーゼルM0099」を託された四人の内の一人でもある。身長は低く、禿頭の老人で、つねに落ち着いた口調と深慮で話す。ノワウスによる演説の際、シビュラージュを亡き者としようと試みられたテロリズムに巻き込まれ、逮捕された茶木チャスケの釈放に尽力したりと、人のいい一面もある。 シビュラージュの三原則を達成するためのアプローチとして、遺伝子と違って記憶は何故受け継がれないのかを研究し、魂と同時に記憶を継承する技術を開発した。研究の最中に、妻であり助手でもあるデスディモナが植物状態に陥った際には、彼女の魂が体へ戻って来るのを待ち続ける愛妻家でもあった。
ノワウス
観察議会の議長である老年の男性。実質的に観察民の中で最も偉い立場にあり、惑星、イグナージュも含め、事実上のトップの地位に位置している。イグナージュリングとシビュラージュによる永劫管理システムのスポンサーでもあり、同時に強力な信奉者としての側面を持ち合わせている。システムを作り上げる過程で、何体も製作された神林ミランダと神林イプシィのクローン体。 それらを剝製にして地上に飾り、崇拝の対象としようと提案するなど、常軌を逸した思考を垣間見せた。普段は老い先短い、年老いた観察議員達と第一観察民区画に設けられた屋敷で地表文化に耽溺する、退廃的な生活を送っている。各議員がそれぞれ食事や音楽、酒といった文化に耽る中、ノワウスは葉巻や骨董美術品に対するこだわりを見せていた。
尻子田
神林アダージュの友人の一人。軌道警備軍のシビュラージュガードに所属する軍人の男性で、階級は大佐。尻子田にう子という娘が一人いるが、生まれた時から意識がない状態で、15年間植物状態にあり、先天的に右腕がない。にう子とのつながりを求め、アダージュの娘であるシビュラージュを守る戦力ニューロトルーパーとして、にう子のクローンを作り出した。 しかし、シビュラージュガードに試験的に配備された彼女達は、大戦の最中にそのほとんどが失われる事となる。のちに、にう子を失う事に耐えられなくなり、イグナージュリングを防衛する意義を見いだせなくなった尻子田は、未稼働だったの最後の「にう子」をコンテナに入れたまま、未来に目覚めるよう送り出した。 ほかにも、アダージュの愛人であった天野星子に恋慕し、意義を見失った自分の行き先を示してほしいと頼み込むなど、軍人でありながら心の弱い一面を度々見せる人物でもあった。
足利 (ひげぐらさん)
シビュラージュガードに所属する軍人の男性。警備主任としてシビュラージュの警護を行っている。サングラスをかけ、髭を生やした風貌から、茶木チャスケからは「ヒゲグラサン」と呼ばれていた。警護の報酬として貰える恩賜の煙草や酒を日々の楽しみとしており、子供のようにはしゃぐ姿を見せる事もある。シビュラージュに不敬を働くチャスケを警戒しながらも、二人に信頼を寄せられていく姿に、次第にチャスケを認めていくようになる。 イグナージュリングのシステム起動まで残された最後の数十時間、シビュラージュ専用区画の中央へ通じるゲートを護るために奮闘。文字通り、命を賭けてその場を死守した。
エドナ
北天宮(イグナクロス零号駅)で生活する第三観察民の女性。外見は色黒な肌にウェーブのかかった髪をしている。茶木チャスケと共に報道の仕事に携わっており、チャスケの知らない北天宮の主要人物を教えるなど、知識面などでサポートをしていた。情勢の悪化する中、チャスケの部屋を訪ねた神林イプシィを、周辺に住む第三観察民と共に襲撃したが、返り討ちに遭った。
集団・組織
軌道警備軍
惑星、イグナージュの軌道上に存在する永劫社会管理システムイグナージュリングを警備している軍。イグナージュの地表には自治権が認められているため、基本的には不干渉を貫いており、任務はあくまでイグナージュリングの警備を主目的としている。そのため陸戦兵器を所有しておらず、衛星内の治安警備を目的とした小型対人火器や装甲車、自律歩兵、それに加えて、迎撃用砲撃艦のみを装備している。 最低限の装備だが、イグナージュに存在する軍にとっては、これらさえ突破するのが難しいほどの戦力格差がある。北天宮(イグナクロス零号駅)を基地としている軌道警備軍は、例外的にすべて姫巫女であるシビュラージュの親衛隊、シビュラージュガードの所属となっている。
シビュラージュガード
惑星、イグナージュの軌道上を警備している軌道警備軍のうち、北天宮(イグナクロス零号駅)に配備されている部隊。北天宮の防衛と同時に、イグナージュリングの運用思想における根幹である、二人のシビュラージュを護衛する任務に就いている。
観察民 (かんさつみん)
北天宮(イグナクロス零号駅)で生活する住民。惑星、イグナージュの軌道上から観察し、イグナージュリングの本来の役割である永劫社会管理システムとしての役割を担わせる事を目的としている。一方で、住民のほとんどは北天宮で、イグナージュリングの運用やイグナージュの観察とは縁遠い生活を送っているのが実態であり、本来的な役割を帯びているのは「第一観察民」と呼ばれる貴族、富裕層のみである。 また、観察民としての最終判断や採択は、そのすべてが神林ミランダ、神林イプシィという二人のシビュラージュに委ねられている。
第一観察民
北天宮(イグナクロス零号駅)における身分区分のうち、貴族、富裕階級にあたる。ノウワスをはじめとする観察議員や、神林アダージュなどが、この区分に属する。与えられている居住区画は、区画の中でも一人辺りとしては最も広範な体積を割当てられており、イグナージュの娯楽文化をはじめとするさまざまな物資、建造物が揃っている。
第二観察民
北天宮(イグナクロス零号駅)における身分区分のうち、軍人階級にあたる。尻子田大佐をはじめ、足利警備主任といったシビュラージュガードの面々がこの階級に属している。居住区には軌道警備軍の本部が存在している。
第三観察民
北天宮(イグナクロス零号駅)における身分区分のうち、労働者階級にあたる。北天宮に居住する人間の中では最も低い身分にあたり、茶木チャスケやエドナ、耳長族のような亜人種がこの身分に属している。イグナージュの地表などから徴収された人々が大半であり、一人辺りに与えられている居住体積も少なく、限定的。劣悪な環境での生活を余儀なくされているが、テラフォーミング直後の過酷な自然環境にある地表に降りたがるものはほとんどいない。
地表民 (ちひょうみん)
惑星、イグナージュの地表に住まう開拓民。北天宮(イグナクロス零号駅)で生活する観察民と区別して呼ばれる。300年前にテラフォーミング後のイグナージュへ降り立ち、過酷な環境下での開拓を迫られた人々であり、北天宮で暮らす観察民とは大きな生活格差が存在している。北天宮に労働者階級である第三観察民として徴収される一方、犯罪を犯した人間は地表へ追放されて地表民にされる事がある。
場所
イグナクロス零号駅 (いぐなくろすれいごうえき)
惑星、イグナージュの軌道上に位置する2本の軌道リング、イグナージュリングの交点に設けられたシャトル駅。反対側の交点にはイグナクロス九十九号駅が存在している。イグナクロス零号駅の大半は管理運行コンピュー... 関連ページ:イグナクロス零号駅
イグナクロス九十九号駅 (いぐなくろすつくもえき)
惑星、イグナージュの軌道上に存在する2本の軌道リングイグナージュリングの交点に設けられたシャトル駅。反対側の交点にはイグナクロス零号駅が存在している。基本的にイグナクロス零号駅と同じ作りをしているが、駅長である神林イプシィの好みなのか、どこか和風の趣を感じられる施設や品々が多い。現在でこそ駅として稼働しているが、本来はイグナージュリング本来の役割である惑星イグナージュの監視と、惑星初期化を決定する権限の半分を担う施設。 300年前の大戦時には「南天宮」と呼ばれていた。「メナ」と呼ばれる運行管理コンピューターによって、そのほとんどの運行が管理されている。
イグナージュ
交錯する巨大な2本のイグナージュリングの中央に存在する惑星。300年以上前にテラフォーミングが行われ、人間が住める土地となった。星間移民は1200万人が入植を果たしたが、テラフォーミング直後は、自然環境が安定しておらず、過酷な環境下での生活を余儀なくされる事となった。そのため、地表に住まう人間や亜人と、イグナージュの地表を見守って観察するという名目から、イグナージュリングの軌道上で生活を送る観察民とのあいだに、大規模な戦争を引き起こす原因となった。 かつて北天宮(イグナクロス零号駅)で生活していた人間達は、犯罪を犯すと地表へ送還されるという刑罰があり、イグナージュの事を「楽園」と揶揄して呼ぶ事もある。
イグナージュリング
惑星、イグナージュの上空約1万メートルの軌道上に存在する、惑星を中心におく形で交錯する2本のリング。内側と外側でそれそれ「イグナ・インナーリング」、「イグナ・アウターリング」と呼ばれている。リング内は細かく「セクタ」と呼ばれる単位のブロックに分かれており、それぞれが独自の自治権を持った人々にとっての生活の場となっている。 リングの交錯する点には、リング間を移動するためのシャトル駅が設けられており、それぞれ北天側をイグナクロス零号駅、反対に南天側をイグナクロス九十九号駅と呼んでいる。現在でこそ人間の生活空間として機能しているが、本来はイグナージュの平和を観察し、問題が起こったならばこれを初期化するという役割を持つ。 その判断は「シビュラージュ」と呼ばれる二人の姫巫女に委ねられており、それぞれ神林ミランダと神林イプシィの駅長がその役目を帯びている。イグナージュを永遠に存続させるためのシステムとして、「永劫社会管理システム イグナージュリング」と呼ばれる事もある。
第205セクタ
惑星・、イグナージュの周囲をめぐる環状の居住セクタのうちの一つ。「シリコニアン」と呼ばれる稀少種族が存在しているが、絶滅の危機に瀕している。種が絶えるのを防ぐため、「原種保護法」と呼ばれるシリコニアンの移動や交配を制限する法律を、銀河憲章第2条の拡大解釈から可決したが、逆に種の絶滅を加速させる結果となっている。
いぐな温泉
イグナクロス零号駅の断熱用真空ブロックに偶然発生した温泉。ブロック内に空気と建築廃材がたまり、さらには熱バイパスから炉心の冷却水が流れ込んだものに廃材の成分が溶け出した事で、できあがったと予想されている。地図上に記載のない場所で、100年前にはイグナクロス零号駅の許可を得ずに営業を行う、いわゆる不法営利営業にあった。 現在では事故が原因で完全に廃れてしまっており、駅員である菜々子那なしのをはじめ、駅長である神林ミランダですらその存在を知らなかった。100年前の広告とかつての記憶を頼りにイグナクロス零号駅を訪ねて来た老人達に促され、捜索を行った事で発見された。温泉の近くにあった萬8の支店で、現在まで活動していたアンドロイドのしおなには「郁那温泉」と呼ばれていた。
シビュラージュ専用区画
北天宮(イグナクロス零号駅)の居住区の中で、最も中心部に近い位置に存在する区画。神林ミランダと神林イプシィの二人のために設けられた空間であり、惑星、イグナージュの地表から持ち込まれた自然が、パッキングされた状態で大事に育てられている。そのため、シビュラージュ専用区画ではなく「シビュラージュの庭」と呼ばれる事もある。 中央のタワー内部には二重螺旋階段が存在しており、外壁部は来賓用のホテルとなっている。また、中央には「運命の砂時計」という巨大なオブジェが設置されており、螺旋階段を降りていくと、神林アダージュとシビュラージュが暮らしている邸宅が存在している。300年ほど未来に位置する現在では、駅長室のゲートからのみ、中央の区画へと入る事ができる。 その一方で、その周辺は冷却水に沈んでおり、テラスは展望露天風呂に改造されるなど、駅職員の保養施設、ビアンカの湯として機能している。また、中央に近い部分は空間遮断がされており、ゲートからのみ行き来ができるようになっており、「ミランダの庭」と呼ばれている。
第一観察民区画
第一観察民に与えられている北天宮(イグナクロス零号駅)内の居住区画。シビュラージュ専用区画の重力の働いている方向からみて下方にあり、北天宮の円盤の中ではシビュラージュ専用区画より外縁部側に位置している。貴族、富裕層が所属する第一観察民の居住区という事もあり、豪奢な建物や娯楽文化が供給されている。
第二観察民区画
第二観察民に与えられている北天宮(イグナクロス零号駅)内の居住区画。第一観察民区画と第三観察民区画に挟まれる形で存在している。区画には軌道警備軍の本部が位置しており、軍人などが属する第二観察民にとっての、文字通りホームベースとなっている。
第三観察民区画
第三観察民に与えられている北天宮(イグナクロス零号駅)内の居住区画。円盤状の北天宮の中にあって、最も外縁部にあり、同時に最も劣悪な環境にある。労働者階級である第三観察民は、北天宮の身分区分の中では最も生活人口が多いながら、一人あたりに与えられている生活スペースは最も少ない。そのため、長屋やアパートを彷彿とさせる集合住宅に身を寄せ合うようにして生活しており、「ワーカーズスラム」とも呼ばれるほどの環境にある。 住民のテラフォーミング後の過酷な自然環境にある惑星、イグナージュから徴収された人間が大半だが、このような環境にあっても地表に戻る事を拒み、この場所での生活を続けている。
ビアンカの湯
イグナクロス零号駅に存在する駅員のための保養施設。テラス式の展望露天風呂が存在しているほか、流れ込んだ冷却水を潜る擬似的なダイビングも楽しめる施設となっている。300年前には「シビュラージュの庭」と呼ばれたシビュラージュ専用区画に位置しており、惑星、イグナージュの地表から持ち込まれた多くの植物が育てられていた。
ミランダの庭
かつてのシビュラージュ専用区画であり、空間遮断されたイグナクロス零号駅の中央にほど近い区画。神林ミランダの居室である駅長室にあるゲートからのみ行き来できる仕組みとなっており、かつて300年前にミランダや神林イプシィのシビュラージュの姉妹をはじめ、父親である神林アダージュが暮らした邸宅などが存在している。 遠心力によって擬似重力を発生させている駅の構造上、中央に近いミランダの庭は、高所から落ちても傷一つ追わない程の低重力となっている。また、300年を経た現在でも、当時のイグナージュ地表から回収された自然や土が豊富に残されている。一方で、建築物や食物、邸宅の中にある家具類も300年前の物がそのまま置かれており、当時の趣をそのままに、風化が進んでいる。
プラットフォーム
イグナクロス零号駅のプラットフォーム。イグナージュリングを行き来するシャトルの発着場となっており、デザインは旧世紀の電車の操車場を模したものとなっている。中央にある乗降ホームから放射線状に16本の線路が伸びた円形をしており、線路はほかのプラットフォームにつながる1本を除き、メンテナンスドッグにつながっている。 プラットフォームは駅に全部で6か所存在しているが、現在は3か所のみが稼働状況している。空間は円筒状となっており、上方にあるエアロックは、重力を発生させるために回転している駅の回転軸方向にある吹き抜けを向いており、リングへと到達する構図となっている。行き先は北口行き、南口行きが存在しており、それぞれ、北口が駅の上面であるイグナアウターリング側で、南口が地表側である駅の下面、イグナインナーリング側を指している。
その他キーワード
シビュラージュ
北天宮(イグナクロス零号駅)と南天宮(イグナクロス九十九号駅)において、「イグナージュ」の民を監視する「裁定者」としての役割を帯びた者。具体的には、「神林ミランダ」と「神林イプシィ」の事を指す。決定的なカタストロフィがイグナージュで発生しそうになった場合、惑星を初期化するという権限が与えられており、両者による裁定への同意があって初めて、イグナージュリングによる惑星初期化が行われる仕組みとなっている。 シビュラージュを生み出すにあたって、「シビュラージュの三原則」と呼ばれる条件が提示されており、条件の一つに「永劫不滅でなくてはならない」という条件が存在する。それを達成するために、クローニングと記憶や精神の移植による擬似的な不老不死が、シビュラージュを維持するシステムの一つとして組み込まれており、そのシステムによって、ミランダ、イプシィの両名は、300年前から現在に至るまで生きながらえて来た。 ただし実際は、シビュラージュとしての役割はそれぞれ、北天宮と南天宮に搭載された管理運行コンピューターのクレアとメナによって、ほとんどの代行が可能。 この理由は、システムの発案者であり、シビュラージュの父親でもある神林アダージュが、システムの運用理念よりも、娘達に最高の幸福として「永遠の命」を与える事を主な目的としていたためであった。また、シビュラージュはイグナージュリングの象徴として過度に持ち上げられているが、これは、予算やスポンサーを獲得するために、観察議員の議長を務めるノワウスの偏執的なこだわりを利用している、政治的な駆け引きの部分がある。 一種の宗教的な偶像としてシビュラージュを持ち上げようとする考えも盛り込まれているため、「姫巫女」と表記される事もある。
シビュラージュの三原則
イグナージュリングシステムの象徴であるシビュラージュに求められたコンペティション条件。「シビュラージュは純粋な人間でなくてはならない」「シビュラージュは永遠不滅でなくてはならない」「シビュラージュは無垢でなければならない」の三つであり、提案者は両シビュラージュの父親である神林アダージュ、その人。条件を履行するために北天宮(イグナクロス零号駅)内に設けられたシビュラージュ専用区画に存在するあらゆるものは、惑星であるイグナージュの地表から、本物の土や木をはじめとする植物や食材を大量に持ち込んでいる。 また、シビュラージュの肉体もほとんどが生身のままで機械化されておらず、教育や読書も基本として紙媒体が使用された。 「永遠不滅でなくてはならない」という条件もまた、擬似的にではあるが、「永遠の命」を与えられる事によって達成されている。
コスモモーゼルM0099
神林ミランダがいつも所持している銃。外見は旧世紀の軍用拳銃をモデルとした大型ハンドガンとなっている。ミランダが使用できるように、グリップは小型のものに取り替えられており、また、コッキングレバー部分にはオートコッキングモーターが内蔵され、非力なミランダでも、スイッチを押すだけで初弾が装填できるようになっている。単発のほか、2点バーストによる射撃も可能。 装弾数は10発で、その内の9発は非殺傷性のスタン弾(ソフトタイプタブレット)が装填されている。10発目のみが波動カートリッジ弾となっており、その威力はニューロトルーパーである尻子田にう子の武装に打ち勝つほどに強力なものとなっている。ミランダは予備カートリッジを持ち歩いておらず、普段は太もものホルスターに収めている。 スカートのポケットから取り出す事ができるため、スカートをめくる必要はないが、緊急時にはスカートをめくったり、あるいはスカートごと撃ち抜く事もある。銃本体を収納できる収納箱には、ホルスター兼ストックのほか、ハーネスや弾薬、予備マガジン、弾倉装填用クリップが収められている。クリーニングキットや説明書なども付随しており、交換用のタンジェントサイトも同様に収納できるようになっている。 単なる拳銃ではなく、実のところ世界に4挺しかなく、それぞれの銃にイグナージュリングのシステムを停止する暗号鍵が込められている。神林アダージュによって友人である尻子田大佐とゲオルギウム・オセロー。 そしてミランダと神林イプシィの両シビュラージュに対して抑止力的に配られた。それぞれシリアルナンバーと名前が刻み込まれており、誰のものなのかがわかるようになっている。
CMG-1
軌道警備軍に配備されている大型ライフル。イグナクロス九十九号駅の駅長である神林イプシィも使用していた。トリガーを強く引く事で連射が可能。左にあるグリップを握る事で重力バイポッドが展開展開され、連射中でも銃身が安定する仕組みとなっている。また表示パネルを起こす事で火器管制システムが起動し、銃火器の取り扱いになれていないイプシィでも取り扱う事が可能。
セクタ
イグナージュリングにおける居住区域の単位。惑星、イグナージュの軌道上を巡る2本のイグナージュリングは、その内部がセクタと呼ばれる単位で区切られた居住区域となっている。セクタはそれぞれが自治権を与えられており、一種の国として機能している。そのため、セクタ間を移動するにはビザの発行が必要であり、遠く離れたセクタへリングを渡って直接移動するのは現実的ではないと考えられている。 セクタ間を直接効率的に移動するためにハブ駅として機能しているのが、2本のリング上の交点に位置しているイグナクロス零号駅とイグナクロス九十九号駅である。イグナージュリングはつねに回転しているため、セクタが駅に達した時にシャトルを使って駅へ降り、目的地のセクタが駅に達した時にまた、シャトルで乗り移るという仕組みで、セクタ間を最小のビザだけで移動する事ができる。
ニューロトルーパー
人間に対して特殊な処理を施された兵器。尻子田大佐の娘で、植物状態にある尻子田にう子のクローンが主にニューロトルーパーとして試験配備されている。兵器としては第四世代型の兵装にあたり、北天宮(イグナクロス零号駅)から一定距離内にいる限り、駅の動力炉から無限にエネルギーを供給されるという特質を持っているほか、転送装置により武器弾薬の補給を即時受けられる。 クローンであるため、肉体のほとんどが人間と変わらない構造をしている。しかし、実質、兵器同然の扱いを受けており、北天宮の戦いの最中、激しい損耗に晒された。尻子田にう子のクローンが主にニューロトルーパーとして配備されたが、のちに、両腕を失った天野星子もニューロトルーパーとしての改装を体に施されている。
アンブリエル
イグナクロス零号駅に配備されている汎用作業用ロボット。機動歩兵であるナイアッドとは同系統に位置しており、機動重機と分類される事もある。全高6メートルほどの大きさで、計64機が配備されている。慣性制御機構を内蔵しており、擬似重力環境下にある駅構内やその周辺の宇宙空間での単独短時間運用が可能となっている。あくまで作業用のロボットであるため、戦闘機能は搭載されていない。 また外装にも防御能力などは与えられていない。一方で、マイナーチェンジ版である「アンブリエル プラス」には、一時的な防御フィールドが展開できる機能が搭載されている。駆動はバッテリーによる電力駆動であり、関節部はリニアレールによる駆動で静粛性が保たれている。駅中央コンピューターであるクレアによって操作されているが、モーションスレイブ状態での直接操作も可能となっている。
ナイアッド
北天宮(イグナクロス零号駅)の各所に配備されている機動歩兵ロボット。自律AIを内蔵した戦闘用であり、全高は6メートル。機動重機であるアンブリエルとは同系統に位置している。威圧感を与えるよう、黒い塗装を施された外観をしているが、自律神経が破壊されるなどして、アクティブカモが機能しない場合は外装が白くなる。ナイアッドには北天宮の外周を警備する「岡っ引きナイアッド」をはじめ、さまざまなバリエーションが存在している。 ミランダの庭に配備されているナイアッドは、庭の構造物を傷つけないために装備が剣に統一されているといった特徴がある。
バッカス
軌道警備軍に配備されている車両。正式な名称は「戦闘装甲車両IAV-4 バッカス」という。インホイールモーターによって16輪走行する大型の車両で、4面ドアがついている。真空気密も可能な兵員輸送車であり、乗員は操縦者二人を加えて合計10人までとなっている。車両正面のルーフレールに各種兵装を設置する事が可能で、必要に応じて変更する事ができる。
マリシテン・マキシ (まりしてんまきし)
軌道警備軍が使用しているマシンガン。個人生体認証が採用されたID銃で登録者でなければ射撃できない仕様となっている。バヨネットとインテリジェントサイトを標準装備。ストックマガジンには9ミリメートルAP弾を90発装填できるほか、薬莢はグリップ内を通して下部から排出される仕組みを持っている。なお、型式番号を含めた正式な名称は、「個人防衛火器IP-90 マリシテン・マキシ」という。
メディカルバス
軌道警備軍に配備されている車両。移動医療設備であり、配備されている内の1両を尻子田大佐の率いるニューロトルーパー部隊がメンテナンスドッグとして使用している。内部には集中治療室の他、16床のベッドが装備されており、戦場や事故現場などで、負傷者を収容後、即加療する事が可能となっている。
シャトル
イグナクロス零号駅とイグナージュリングを行き来して結ぶ短距離宇宙船。名称こそ「シャトル」だが、外見は宇宙船のイメージとは異なり、旧世紀のディーゼル機関車を模したレトロな外見をしている。運転手のいない完全無人運行がなされており、駅のプラットフォームから自動で発着する。
クレア
イグナクロス零号駅を管理運行している中央コンピューター。イグナクロス零号駅の管理をほとんど行っており、駅員が3名しかいないというイグナクロス零号駅が問題なく運行できているのは、クレアが駅の運行を管理しているためである。人工知能を搭載しており、クレアとのやりとりは端末へのアクセスだけではなく、駅構内で人間とするのと同じように「会話」する事でも可能。 駅と宇宙空間を結ぶハッチの管理から、生体反応の検知まで幅広くこなす万能性を誇る。駅の管理コンピューターとしてはほぼ最上位に位置しているが、命令系統の上位に、駅長である神林ミランダの別人格であるミルーの世話係を担当するロボットのポーシアが登録されている。
メナ
イグナクロス九十九号駅を管理運行している中央コンピューター。イグナクロス零号駅の管理中央コンピューターであるクレアと同様、イグナクロス九十九号駅が少人数でも駅を運行できている要因となっている。また、会話によって命令のやりとりが可能であるが、機械然としたクレアとくらべて、口調が柔らかなものとなっている。
プロスペロウ号
八神クーヤが密かに修理を続けている戦艦。イグナクロス零号駅の現在使われていない古い閉鎖区画に置かれている。現在はクーヤ一人の手で修理を施されており、アンブリエルといったロボットの手も借りられていない。師匠であるドクトル・ガッシュには、長い目で見ればクーヤの腕でも修理はできる、と見られているが同時に、クーヤ自身がどこかで修理を終えたくない気持ちがあるのではないか、と示唆されていた。 船体は旧世紀の大戦で使用されていたもの。本来の名前は「高速戦艦オルカトゥース」で、全長は72メートルほど。有機的なラインの装甲が特徴的であり、顎に取り付けられた強力な攻撃用マニピュレーターを一対装備している。また、初めて新型の重力推進機関が搭載された戦艦でもある。
萬8 (よろずや)
各地に展開されている売店。イグナクロス零号駅で100年ほど前に不法営利営業を行っていたいぐな温泉に、忘れられた支店が存在している。各種おでんをはじめ、観光地のペナントを販売したりと、取り扱う商品は多岐にわたる。いぐな温泉に存在していた支店では、販売員をオフライン型のアンドロイドが担当していた。
シリコニアン
第205セクタに存在する絶滅寸前の種族。種族の血を高貴なるものと考える傲慢な意識を持っており、第205セクタの外に血脈が流れ出る事を恐れている。流出と絶滅を防ぐために、銀河憲章第2条に保証された「種の存続権」を基に、「原種保護法」とよばれる法律を可決し、種族全体の繁殖や行動を制限していた。しかし、思惑とは裏腹にその法律によって種族は自滅の道をたどっている。
原種保護法
第205セクタで可決された法律。絶滅の危機に瀕している稀少種族、シリコニアンの保護を目的としたもので、自らの血を高潔なものと考える彼らの思想を反映し、種族の移動や交配に関して厳しく制限する内容となっている。そのため、種族の可能性を著しく狭めてしまっており、絶滅の危機を加速させる要因となっている。
精霊族
自分の肉体を持たず、ほかの種の肉体を宿主として寄生する精神体種。寄生した肉体を乗っ取って動かす事もできる。寄生する対象には適合性が存在しており、適合しない相手には寄生できない。また、一つの肉体に二人の精霊族が寄生するといった事も不可能ではない。