概要・あらすじ
ある日、大学を休学している徳田徳丸のもとに、兄の徳田智から「西チベットにいる、助けてくれ」というメールが届く。わけが分からないまま、西チベットに向かうことになった徳丸は、現地ガイドのソナム、ナムギャルらとともに、西チベットの奥地ヌン谷へと向かう厳しい旅に挑むことになる。旅の途中、ソナムが怪我をしたり、徳丸が高山病にかかったりとさまざまなアクシデントに見舞われるが、タバ村で出会ったラモの助けなどもあって、一行はついにヌン谷へと到着し、智に会うことに成功する。
そこで徳丸は、在り処も分からない聖地に、かつて自分たちの祖父・洋治朗が盗み出したテルマを返しに行く、という難しい仕事を智から託される。
しかし徳丸は敢然とその冒険に挑むことを決意し、旅の中で友人ともいうべき関係を築いていたソナムも、それに協力することを申し出るのだった。
登場人物・キャラクター
徳田 徳丸 (とくだ とくまる)
休学中の医学生を自称している青年。実は試験で落第したため医学科ではなく、医大の看護学科に在籍している。東京で一人暮らしをしていたが、兄の徳田智から連絡を受け、西チベットを訪れる。西チベットは外国人立ち入り禁止となっているため、警戒のため女装させられる機会が多い。旅の途中に出会ったラモと親しくなり、別れ際には再会の約束を交わす。
ソナム
徳田徳丸がレリで雇った、旅の現地ガイドの青年。元仏僧であるが、還俗している。母国語、日本語を含め7か国語を話すことができる。ヌン谷のテルマが失われた時、犯人だという疑いをかけられたことがあるが、それは濡れ衣であった。
ナムギャル
徳田徳丸がレリで雇った、食事の用意などを担当する旅の現地スタッフ。少年のような姿をしているが三児の父親であり、一番上の子は既に10歳。日本語は話せないので、ソナムが間に入って通訳している。妻の名前は「ニマ」。
徳田 智 (とくだ とも)
徳田徳丸の8歳年上の兄で、仏教の僧。「しゅん」という子供がいたが、亡くなって3年近くになる。祖父・洋治朗の遺志を継ぐためヌン谷を訪れたが、旅の途中で足に怪我を負ったため、テルマを戻すべき聖なる洞窟を見つけることができずにいた。洋治朗の遺志を継がせるため、徳丸を西チベットへと呼び寄せる。
ラモ
徳田徳丸が旅の途中で知り合ったチベット人の若い女性。州立大学の1年生で、夏休みでタバ村に帰省していた時、村の外で道に迷っていた徳丸とナムギャルに出会い、村へと導いた。その後、徳丸に恋愛感情を抱くようになり、旅に同行すると言い出したが徳丸に止められ、再会の約束を交わす。
パサン隊長 (ぱさんたいちょう)
西チベットの国境警備隊に務め、隊長の地位にある中年男性。シュタイナーという学者に同行してタバ村にやって来たところで、徳田徳丸の一行と出会う。女装してソナムの妻を装っていた徳丸に疑いの目を向けたが、結局は逃げられてしまう。
洋治朗 (ようじろう)
徳田徳丸と徳田智の祖父。僧であったが、既に亡くなっている。1966年にヌン谷を訪れ、ヌン谷の聖なる宝であるテルマ、すなわち水晶の秘仏を出来心で盗み出してしまい、以後それをずっと悔いていた。再びヌン谷を訪れてテルマを返還しようと考えていたが、心臓を病んだためにそれを果たせず、寺を継いだ智にのみその秘密を伝えた。
集団・組織
国境警備隊 (こっきょうけいびたい)
西チベットにおいて治安維持などを司っているインドの公的組織。徳田徳丸たちの旅のルートは僻地なのでさほど数がいるわけではなく、また「外国人立ち入り禁止」のルールについてもさほど厳しく取り締まりが行われているわけではないが、真面目な軍人タイプにあたると面倒なことになるので、タバ村で国境警備隊のパサン隊長に遭遇した徳丸たちは、タバ村を経つ日程を繰り上げる羽目になった。
場所
西チベット (にしちべっと)
ユーラシア大陸南部、チベット高原とヒマラヤ山脈の西に位置する一帯。平均高度が3600メートルという山岳地帯である。インド北部と中国西部にまたがっていて、暮らしているのはチベット系の人々。中国・インド間で国境紛争があるので、住民の間でも若干政治的な緊張がある。目的地のヌン谷はインド側にあるので、徳田徳丸はデリーを経由して空路でレリに入った。 なお、外国人立ち入り禁止の法規があるが、さほど厳しくは守られていない。
レリ
標高3880メートルにある人口3万人程度の街であるが、デリーと往復便で結ばれている空港がある、西チベットの玄関口をなす旅の拠点。長距離バスでヒマラヤ越えのルートだと、デリーまで2日かかる。街の名所は、「旧王宮」と呼ばれる古い宮殿跡。
タバ村 (たばむら)
徳田徳丸たちがヌン谷へと向かう途上で立ち寄った山村。争いごとを好まない人々が暮らす小さな村だが、信仰は篤く、ヌン谷へ向かう「巡礼者」を手厚くもてなす風習がある。高山病にかかった徳丸は、しばらくこの村にあるラモの家で静養することになった。
ヌン谷 (ぬんたに)
西チベットの奥地、中国との国境近くにある仏教の巡礼地。聖ヌン山と、長寿と子宝を授かるとされる泉があり、かつてはそれなりに賑わっていた。また、聖地とされる洞窟があって、そこへ行くことによってヌン谷の巡礼は完成するとされていたが、現在はその場所が分からなくなってしまっている。
聖地 (せいち)
ヌン谷のさらに奥地にある、仏教の聖地である洞窟。内部には古い即身仏が眠っていて、また、地面にはトゥクチャと呼ばれる、お守りとして珍重される昔の鎧の部品が多数置かれている。最深部に、テルマを納めるためのお堂がある。
その他キーワード
テルマ
チベットにおいて「秘宝」という意味の言葉。一般的には教典を指す場合が多いが、ヌン谷のテルマは水晶を彫って作った美しい仏像。かなり以前にヌン谷から失われ行方不明になっていたのだが、実は徳田徳丸の祖父・洋治朗が盗んで日本に持ち出し、現在は徳田智の手元にある。