じれったいほど淡いガールズラブ
本作はマジメ系不器用女子の帆波小雪と、強がり系不器用女子の天野小夏の心の交流を描いたガールズラブ。しかし、二人は純粋な恋愛感情を持つため、恋の進展が非常に緩やか。特に小雪は恋愛感情が芽生える前から、後輩の小夏に積極的に声をかけられず、いざ声をかけることに成功しても連絡先を聞くこともできないほどの奥手ぶり。一方の小夏も、小雪の本音を把握することができず、右往左往を繰り返している。亀の歩みのようにゆっくりと進展する恋愛関係のじれったさが、本作の最大の魅力となっている。
二人の出会いはサンショウウオの水槽前
小夏は父親の海外転勤を機に、海辺の田舎町にある七浜高校へ転校してきた。家族のいない環境で不安に駆られる中、小夏は休日にもかかわらず七浜高校が賑わっているのに興味を抱き、「七浜高校水族館」と銘打たれたイベントを見学する。そこで、なかなか姿を見せないサンショウウオの水槽の前で、小夏は小雪から声をかけられる。鮮烈な出会いではないものの、穏やかで容姿端麗な小雪に魅了された小夏は、登校初日から彼女の姿を目で追うようになる。「水族館部」と井伏鱒二の『山椒魚』が本作のテーマになっており、表紙も水中にいるかのような透明感あふれるデザインで統一されている。
登場人物・キャラクター
天野 小夏 (あまの こなつ)
愛媛県の七浜高校に転校して来た1年生の女子。栗色のロングヘアで、左サイドのみ紐(ひも)でまとめている。父親の海外転勤がきっかけで、親戚を頼って愛媛県にやって来た。親戚の家に向かう途中、校内で月に一度開催されている水族館に無理やり連れ込まれ、帆波小雪と出会う。家族と離れて暮らす寂しさを押し隠しているため、水族館部の活動をたった一人で励んでいる小雪に親近感を抱いている。周りを気遣いすぎて、つい無理をしてしまうため、自分の指でムリヤリ唇を笑みの形にするクセがある。初対面の時から小雪に淡い恋心を抱いており、井伏鱒二の著書『山椒魚』の登場キャラクターになぞらえて、小雪を「山椒魚(さんしょううお)」、天野小夏自身を「蛙(かえる)」に例えている。
帆波 小雪 (ほなみ こゆき)
愛媛県の七浜高校に通う2年生の女子。濃い青色のセミショートヘアの一部を、三つ編みにしている。校内の男女問わずに評価が高く、誰にでも優しくて文武両道な完璧な女性だと思われている。しかし、帆波小雪自身にそんな自覚はなく、周囲から距離を置かれていることに寂しさと孤独感を感じている。天野小夏が水族館部に入部するまで、たった一人で部活動に励んでいた。初対面の時から小夏に淡い恋心を抱いており、小夏との近すぎる距離感に緊張し、二人で外出する時などはつい赤面してしまう。
書誌情報
熱帯魚は雪に焦がれる 全9巻 KADOKAWA〈電撃コミックスNEXT〉
第1巻
(2017-12-26発行、 978-4048934701)
第9巻
(2021-06-25発行、 978-4049138740)