あらすじ
第1巻
他県の高校へ進学を決めた須田源は、春を前に遠い親戚の住む寺に下宿をする事になった。幼い頃に暮らした事があるその寺はのんびりした田舎にあるが、たくさんの猫が住み着いていて今ではすっかりボロボロだった。しかし、大嫌いな実家を出て得た新しい暮らしは、源にとって何にも代えがたい時間になる。源はここで、幼い頃いっしょに暮らしていたという親戚・古寺沢知恩と再会する事となった。源が久々に顔を合わせた知恩はすっかり落ち着いた様子で、何だか素っ気なく他人行儀であった。そんな知恩の事をよく思い出せないまま、源は寺での生活をスタートさせるが、その日の夕食時に源はこの寺が「いわくつき」である事を知恩から聞く。すっかりビビってしまった源は、その夜に恐怖体験をする事になるが、それはすべて知恩のいたずらによるものだった。知恩は昔の事をすっかり忘れてしまった源に一泡吹かせてやろうと、陰のある女になりきり、一芝居打っていたのだ。源はそこで改めて、昔知恩といういじわるな少女がいた事を思い出すのだった。(第1話「猫のお寺の知恩さん」。ほか、8エピソード収録)
第2巻
高校の入学式を迎えた須田源は、一人で学校に登校した。新しい学校では、中学校からの持ち上がりが多く、周りはすでに顔見知りの友達同士で源だけが孤立していた。そんな中、クラスメイトの塩田一人は、入学式の参列者の中に見知らぬ美人がいると騒ぎ立てる。誰の保護者でもない若い女性の存在に、浮足立ちながら会場へ向かうと、そこにはふだんは見かけない、スカートを穿いた古寺沢知恩の姿があった。源には内緒でやって来た知恩が源に手を振ると、クラスメイトの男子達はどよめき、その時初めて見知らぬ顔の男子・源の存在に気づく。入学式を終え、源が教室に戻ると、待っていたかのように源の周りに人だかりができた。塩田をはじめとする男子達は、あの美人と源の関係に興味津々。詳しい事が聞きたくて仕方ない。ともあれ、知恩のおかげで入学初日から友達ができた源は、新しい学校生活に向けて幸先のいいスタートを切るのだった。(第10話「入学と着替えの知恩さん」、第11話「クラスで話題の知恩さん」。ほか、6エピソード収録)
第3巻
須田源が通う高校で、中間テストが行われた。源はテストの出来に余裕をかましていたものの、返された結果に青ざめる。さらに源は、追試をクリアしないと、自身が所属する剣道部が大会に参加を許されない事を知る。剣道部主将を務める先輩の古倉は、責任を感じて勉強会を開催。その会場は、古寺沢知恩の了承のもと、寺の本堂となった。勉強会は勉強のできる古倉と昼間陽子が中心となって、源と塩田一人、姫島を教える形で行われた。そして、知恩の高校時代の姿を思い出した古倉は、勉強の合間に彼女のあだ名についてみんなに話し始める。一方で知恩は、まじめに勉強をしている源達のために、シュークリームを買いに2駅先の洋菓子屋まで自転車を走らせていた。その後、勉強の手助けもした知恩は、みんなのために夕食を用意。こうしていつも三人で食卓を囲む古寺沢家に、久しぶりに賑やかなひと時が訪れた。そして知恩は、海へ行きたい話す源達に車を出してあげる事を約束する。(第19話「立ちこぎとあだ名の知恩さん」、第20話「参考書とウズウズの知恩さん」。ほか、7エピソード収録)
第4巻
1学期の期末テストも終わり、須田源は夏休みを前に部活に精を出していた。だが、昼間陽子や姫島など、剣道の経験者達が剣道着に袴と防具をつけて本格的な稽古をしている中で、剣道未経験者の源と野口だけが体育着姿のまま、足さばきなどの基本的な稽古ばかりを続けさせられていた。そんな中、夏の大会に出場するメンバーが発表される事となった。源と野口は、部活を休まず稽古をがんばって来た自分達にも、チャンスがあるのではないかと淡い期待を胸に抱いていたが、残念ながらメンバー入りは果たせず。出場メンバー以外は早上がりする事になったその日の帰り道、地味でキツイ稽古を続けた甲斐がないと、野口は剣道部を選んだ事への後悔や、部活に対する不満を口にする。だが、それを聞いて静かに剣道への闘志に火をつけた源は、足の裏の豆を保護するテーピングをきっちりと巻きなおし、寺に戻ってからも熱心に稽古を続けるのだった。(第30話「成長と見守りの知恩さん」。ほか、8エピソード収録)
第5巻
夏休み、須田源は電車の中で荷物いっぱいの女性から、無言で飲み物の入ったカップを渡され、カップホルダー代わりをさせられる。都会の雰囲気を漂わせる謎の女性に、あっけにとられる源だったが、寺に帰宅すると、古寺沢知恩といっしょにその女性が源を迎える。彼女は知恩の友人のつらねで、大学に通うために上京していたのだった。予定より1日早く帰郷したつらねは、まっすぐ寺へとやって来て知恩との再会を喜び、源やばあちゃんへの挨拶も済ませ、寺で世話になる事を決める。もともとつらねは、今付き合っている彼氏を連れて帰郷する予定だったが、父親とケンカになってしまったため、一人で帰って来たのだった。ムキになって絶交状態になってしまった父親と、どう接していいかわからなくなったつらねは、ばあちゃんに相談を持ち掛け、絶妙なアドバイスを得る。一方、源が知恩に思いを寄せている事を悟ったつらねは、源に対して「知恩はカタいよ」と、彼女をモノにする事の難しさを伝える。(第37話「旧友が急襲の知恩さん」。ほか、8エピソード収録)
第6巻
つらねは古寺沢知恩に見送られて東京へと戻り、季節は秋を迎える。バイクの免許を取得した昼間陽子が、届いたばかりの新品のバイクに乗って、知恩のいる寺へとやって来た。しかし残念ながら知恩は不在で、仕方なく昼間が帰ろうとしたところ、バイクのエンジンがかからないトラブルに見舞われてしまう。そんな昼間を見かけた須田源は、バイクを代わりに押しながら、彼女を送って行く事にした。道々、昼間は古倉が受験に成功したら上京してしまう事や、昼間と知恩がなかよくなるきっかけになった出来事などを、話し始める。そんな話を聞きながら、吹き付ける冷たい風に夏の終わりを感じた源は、訳もなく寂しさを感じるのだった。(第45話「いつも見送る知恩さん」。ほか、8エピソード収録)
第7巻
須田源は、昼間陽子やタマエ、塩田一人、姫島と共に、流星群を見に山へ行く事になった。夜、星を見るための準備をしながら、一行はそれぞれの進路について語り合う。昼間とタマエ、姫島は理系に、塩田は文系に進む事をすでに決めている事を知った源は、入学からずっといっしょだった仲間が別れていく事に、どうしようもない寂しさを覚えるのだった。一方で古寺沢知恩は、クリスマスを迎えるための準備中、ばあちゃんが流石聡美を寺の養子にもらえないかと打診した事を知る。最近勉強を始めた知恩は、自分では住職になれないかとばあちゃんに尋ねるが、ばあちゃんはこの寺をまだ若い知恩の足枷にしたくないと、苦しい心の内を語る。(第57話「流星群と物思いの知恩さん」。ほか、7エピソード収録)
第8巻
古寺沢知恩は自分がお坊さんの資格を取り、将来この寺の住職になる決心をばあちゃんに打ち明ける。一度始めたら最後、簡単にやめる事はできない道である事を、ばあちゃんは改めて知恩に話して聞かせるが、知恩が本気である事を悟り、これを受け入れる事にする。そんな二人の会話をドアの外で偶然立ち聞きしてしまった須田源は、知恩が仏門に入る事によって、なにがどう変わるのか具体的に想像する事ができずに混乱していた。学校で塩田一人や姫島に相談してみるものの解決はせず、源は家が檀家だという昼間陽子に詳しく話を聞く事になった。話は最終的に、知恩がお坊さんと結婚する事になった場合、源が寺にいる事ができるのかどうかという事に至り、源は自分と知恩の関係がどうなってしまうのか不安を抱える。(第68話「決意と前進の知恩さん」。ほか、8エピソード収録)
登場人物・キャラクター
須田 源 (すだ げん)
高校1年生の男子生徒。古寺沢知恩とは、従兄弟の従兄弟という遠い親戚。県外の高校に進学が決まったため実家を離れ、知恩のいる寺に下宿することになった。幼い頃、家庭の事情により寺に預けられていたことがあり、知恩とともに暮らしていた時期があった。現在思春期真っただ中のため、無防備な知恩のすべてに翻弄されがちな日々を送る。 次第に知恩への想いが膨らんでいくものの、知恩からは子供扱いされ続けている現状に少なからず不満を感じている。
古寺沢 知恩 (こてらさわ ちおん)
寺に住む19歳の女性。おちゃめでいたずら好きな性格。しっかり者でよく働くが、無防備であまり周りを気にしない超自然体。須田源とは従兄弟の従兄弟という遠い親戚で、幼い頃、一時的に寺に預けられていた源といつも一緒に過ごし、姉弟のように仲が良かった。両親は寺を継がず、ただ今海外赴任中。生前、祖父が開いていた習字教室の助手を務めていたこともあり、習字は正師範の免許を持つ腕前。 祖父が亡くなり住職が不在の寺を、自分が残って守りたいと考えている。ばあちゃんを助けつつ、寺の会計処理や、子供に習字を教えたりしながら暮らしている。
ばあちゃん
古寺沢知恩の祖母。須田源の大叔母にあたる女性。夫である住職が亡くなってからは、檀家と慰安旅行に行くなど、檀家との関係を保つために奔走し、事実上寺を守っている存在。後継者問題など、若い頃からさまざまな問題を乗り越えてきたが、息子が寺を継がなかったので、こんな面倒ごとも自分の代で終わらせられると考えていた。しかし孫の知恩が寺に残ると言い出したため、うれしい反面、複雑な心境となっている。
昼間 陽子 (ひるま ようこ)
古寺沢知恩の寺の近所に住む女子高校生。何かと多感で、親に対して突っかかりたい時期を迎えている。一方で知恩を慕っており、何かと頼ることが多い。高校では剣道部に所属しているが、右足の膝を痛めているため、現在は調整中で、膝にはサポーターを巻いている。
流石 聡美 (さすが さとみ)
須田源のクラスの担任を務める男性新任教師。口元のほくろが特徴。さわやかな青年で、主に女子生徒から人気がある。実家は寺のため、仏門の名前を持っており、実家を知る寺の関係者からは「聡元」と呼ばれている。実家の寺は兄が継いでおり、自分は東京の大学で勉強した後に地元に戻って教師になった。生まれ育った土地と寺を愛している。
塩田 一人 (しおだ かずと)
須田源のクラスメイトの男子生徒。長身と眼鏡がトレードマークで、年上の美人が大好き。図々しい熱血タイプで、若干鬱陶しいが、友情に厚い。長身ゆえに中学時代は無理矢理バレー部に入部させられたため、高校では自分の意思で部活を選択することを心に決め、ヤギの面倒を見るヤギ部に入部した。昼間陽子、高原、姫島とは幼なじみで、同じ中学校出身。
高原 (たかはら)
須田源のクラスメイトの男子生徒。五分刈りが特徴で、中学時代は野球部に在籍しており、高校でも野球部に入部することを決めている。同じクラスの昼間陽子、塩田一人、姫島とは幼なじみで、同じ中学校出身。
姫島 (ひめじま)
須田源のクラスメイトの男子生徒。そばかすがチャームポイント。中学時代は剣道部に在籍しており、高校でも剣道部に入部することを決めている。昼間陽子、高原、塩田一人とは幼なじみで、同じ中学校出身。
古倉 (こくら)
高校の剣道部で主将を務める3年の男子生徒。成績優秀でいつもポジティブ。須田源が部活の見学に訪れた際、袴が洗濯後で乾いていなかったことを理由に、学校のジャージに面をつけた状態で出迎えた。このあまりの出で立ちから、源に変な人というイメージを植え付けることとなった。高校時代の古寺沢知恩を知っている。
なつめ
元太の妹。寺の習字教室に元太とともに通い始め、古寺沢知恩から習字を習っている。おかっぱ頭がトレードマークの、いたずら好きなヤンチャな子。好きな食べものはツナ。雨の日に側溝に置き去りにされた子猫を発見し、兄と知恩に知らせた。
元太 (げんた)
なつめの兄。寺の習字教室になつめとともに通い始め、古寺沢知恩から習字を習っている。坊主頭がトレードマークのガキ大将だが、妹には優しい。好きなものはお正月。雨の日に側溝に置き去りにされた子猫を発見し、知恩に知らせた。
猫 (ねこ)
古寺沢知恩の住む寺で買われている猫たち。首元の白い毛が前掛けに見える「マエカケ」、特に理由はない「豆之助」、アタシアタシと前に出てくる「アタちゃん」、顔がまん丸な「カオマル」、ロムーと鳴く「ロムー」の5匹がおり、いずれも名前を付けたのは知恩の亡くなった祖父である元住職だった。その後、知恩が保護したまゆげ模様の子猫、「まゆげ」も加わり、総勢6匹となる。
テン
古寺沢知恩の住む寺で飼われている犬。唯一指示に従うのはばあちゃんに対してのみで、須田源や知恩のいうことはまず聞かず、「お手」や「おすわり」「ふせ」などの指示に対してはすべて「咬んだろか」という威嚇の顔でやり過ごす。粘着テープのコロコロを体にかけてもらうのが大好き。自分用の犬小屋があるが、たいてい猫たちに占拠されている。
野口 (のぐち)
須田源と同じ高校の剣道部に所属する男子。同じく剣道未経験者の源と二人、剣道着や袴と防具をつけられないまま、体育着姿で地味な稽古を続けていた。しかし、その甲斐もなく夏の大会のメンバーに選出されなかった事で、日々の稽古に対する不満が爆発。剣道部を選んだ事に不満を漏らし始める。
ママ
古寺沢知恩の母親で、ばあちゃんの娘。ボブヘアの明るい女性で、眉毛の太さが知恩とよく似ている。夫であるパパとデンマークに住んでいるが、知恩が成人を迎えるタイミングで帰国し、いっしょにお祝いするなどして過ごした。実家のお寺は好きだが、自分が自分らしくいられるのは寺よりもデンマークの方だと、寺を継がない決断をして海外へ移住した。
つらね
古寺沢知恩の中学・高校時代の友人の女性。東京の大学に通う現役女子大学生。ショートヘアで左頰とアゴ、右首すじに一直線に並んだホクロがある。お盆に合わせて帰省し、知恩の住む寺で世話になる事になった。もともと付き合っている彼氏を連れて帰る予定だったが、その事で父親とケンカになったため断念した。以来、父親と仲直りのきっかけがつかめず、絶交中のままになっている。高校時代はバスケットボール部に所属していた。
パパ
古寺沢知恩の父親。口ひげを生やしたおっとりとした紳士。妻であるママとデンマークに住んでいるが、知恩が成人を迎えるタイミングで帰国し、いっしょにお祝いするなどして過ごした。知恩の振り袖姿には感動のあまり涙を流し、親子三人で変顔写真を撮るなど、親子仲は非常にいい。デンマークへ戻る時、須田源に対して特に深い意味もなく「知恩をよろしく」と伝えた際、「幸せにします」と思わぬ返事が返って来たため、複雑な気持ちを胸に帰国する事になる。
タマエ
昼間陽子と同じ高校の剣道部に所属する女子。ショートヘアで快活な印象を与える一方で、怖い話やお化け関係の話が苦手。夏休み中は、学校プールの一般開放時の受付アルバイトをしていた。稼いだお金はバイクの免許取得とバイクの購入に充てられた。
書誌情報
猫のお寺の知恩さん 9巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2016-08-30発行、 978-4091877703)
第2巻
(2016-11-30発行、 978-4091892379)
第3巻
(2017-02-28発行、 978-4091893703)
第4巻
(2017-06-30発行、 978-4091895097)
第5巻
(2017-10-30発行、 978-4091896407)
第6巻
(2018-02-23発行、 978-4091897985)
第7巻
(2018-05-30発行、 978-4098600168)
第8巻
(2018-09-28発行、 978-4098600779)
第9巻
(2018-12-27発行、 978-4098601523)