まるで猫のような女の子が人間の日常を学ぶ
本作は、「猫神さま」という存在が広く知られた町「藍ヶ浦」を舞台としている。猫神さまは、畏れ敬うべき存在として人々に知られているが、実はまだ幼い少女で、自らを祀(まつ)った廃神社から出たことがない。本作では、そんな彼女が猫好きの少女、沙耶と出会い、人間や野良猫の世界を知っていく日常がコミカルに、時にハートフルに描かれる。
藍ヶ浦を見守る「猫神さま」
藍ヶ浦には、かつて1匹の非常に賢い猫がおり、人々にさまざまな助言を与えて町を豊作と大漁に導いていた。人々はその猫を「猫神さま」と呼び、藍ヶ浦の山の上に猫神さまを祀る神社を建てたという言い伝えがある。だが、神社に行くには長い階段を上らねばならず、今ではもう誰も訪れることのない廃神社となっている。そしていつしか、「悪いことをすると夜に猫神さまが来て、寝ている蒲団の上から踏み踏みしてくる」との、子供を怖がらせる話が生まれた。そのため藍ヶ浦では、人によって猫神さまの受け止め方が違う。そんな中、現在の猫神さまであるこまりは、そのかわいらしさと純真さから、沙耶との出会いを経て、彼女の協力もあって町の人たちに温かく迎えられる。
こまりにかかわる個性的な少女たち
13歳の沙耶は、飼っている「ゆきち」という猫を溺愛する大の猫好き。初めてこまりと会った際には、幼い頃から恐れていた猫神さまが自分のイメージとまったく違うことに衝撃を受け、こまりが猫神さまであることをなかなか受け入れずにいた。だが、こまりの言うことがウソではないと知ると、健気な彼女に絆(ほだ)され、毎日こまりのもとに通い詰めるようになる。そして、こまりは沙耶と知り合ったことをきっかけに、町のおばさんや沙耶の母親、沙耶の親友、寒恋雪子や沙耶の後輩にして、猫好きが高じて悪霊を追い求めるようになった九生葵など、さまざまな人と知り合っていく。こまりは周囲の人々や地域の猫たちを巻き込んで、ドタバタな日常を送ることになる。そんなこまりの行動が、藍ヶ浦の人間と猫の関係をこれまで以上に密なものとし、それがやがて猫神さまの廃神社にかかわる、大きな出来事を呼び起こすこととなる。
登場人物・キャラクター
秋雨 沙耶 (あきさめ さや)
藍ヶ浦在住の少女。年齢は13歳。猫の「ゆきち」を飼っている。人前ではふつうの猫の飼い主を装っているが、実は大の猫好きで、人目につかないところではゆきちを溺愛している。天真爛漫な性格でツッコミ気質だが、お化けや幽霊の類が苦手で、幼い頃から「猫神さま」を恐れていた。家から脱走したゆきちを追って猫神さまの祀られた廃神社にやってきた際に、こまりと初めて出会った人間となる。以来、こまりの友達となり、人間社会に彼女を連れ出し、こまりに多くの人たちとの触れ合いの機会をもたらす。沙耶自身に何か思惑があったわけではなく、ただ友達としてこまりと楽しい時間を過ごしていただけだが、これが藍ヶ浦の人々にこまりが愛され受け入れられる大きなきっかけとなった。親友の雪子には「さやちょん」と呼ばれている。
こまり
廃神社に祀られた猫神。藍ヶ浦の住人からは「猫神さま」と畏れ敬われる存在。猫耳を生やした少女のような姿で、猫用のおもちゃで夢中になって遊ぶなど、所作は猫そのもので猫と話すことも可能。先端に猫の顔が付いた長い尻尾が生えており、尻尾は自らの意志を持ち、しゃべることもできる。実はこの尻尾の先に付いている顔こそが、初代の猫神さまにしてこまりの父であり、こまりは最近猫神さまを継いだばかりの二代目。こまりは「藍ヶ浦の守護者」を自称しているが、それはあくまで初代の偉業で、こまり自身は神としてまだ幼いこともあり、実際には「猫呼び鈴」を使って猫を呼ぶことしかできず、その成功率も高くはない。これまで、廃神社から外に出たことがないため世間知らずで、言動や思考も小さな子供レベル。家から脱走した猫、ゆきちを探すため廃神社にやってきた沙耶と知り合い、彼女と交友を育みながら、藍ヶ浦の現在の姿や人間のことを学んでいく。ちなみに、自分が猫神さまであることは、人間に対していっさい隠していない。沙耶の親友で、すぐに人のことを変なあだ名で呼ぶ雪子からは、こまり自身は「こまにゃん」、尻尾は「しーぽん」と呼ばれている。
書誌情報
猫神じゃらし! 全4巻 秋田書店〈少年チャンピオン・コミックス〉
第1巻
(2016-10-07発行、 978-4253225557)
第4巻
(2017-11-08発行、 978-4253225588)