リョザ神王国の神話と現状
はるか昔、神々の山脈(アフォン・ノア)の向こうから、輝く髪と金色の瞳を持つ長身の女性、ジェが、王獣とともに降臨。リョザ神王国の開祖(王祖)となった。以来、ジェの子孫が真王(ヨジェ)として、代々国を治めている。王祖降臨から4代目の時代、隣国のハジャンに攻め込まれた際、王は殺生を穢(けが)れとし、自分の首を敵に差し出そうとした。このとき、臣下のヤマン・ハサルは、自らが穢れに身を落とすことを決意。神宝「闘蛇の笛」を王から授かり、獰猛(どうもう)な獣、闘蛇を操ってハジャン軍を撃ち破った。その後、穢れた身となったハサルは、山を越えて、真王領の外に出る。彼の行いに心を打たれた王は、大公(アルハン)の称号を与え、山向こうの土地を治めることを許した。それ以来、大公は、闘蛇軍を率いて真王を守り続けている。こうしてリョザ神王国には、真王領と大公領が存在することになった。そして現在、大公は真王に仕える身でありながら、富と軍事を一手に握る存在である。権威と権力が二分されたなか、真王領と大公領の間に様々な軋轢(あつれき)が生じているのが現状である。
闘蛇と王獣
闘蛇は、水中に棲(す)む巨大な獣。ワニのような顔、2本の長い角、トカゲのような体が特徴である。大公軍の兵士を背に乗せて戦う戦闘兵器であり、「闘蛇衆」と呼ばれる一族に管理されている。闘蛇は決して人に馴(な)れることがない獰猛な生き物で、人が触れるときは音無し笛で闘蛇を硬直させる必要がある。王獣は、神々が真王に遣わした聖獣。体毛は白銀で、狼のような頭と、猛禽(もうきん)類のような巨大な翼と爪が特徴である。また、指笛のような鳴き声で、闘蛇を無抵抗にして捕食できる唯一の存在である。真王の象徴として崇(あが)められ、王国では多くの王獣が育てられているが、それらはなぜか子を産まないという。野生の王獣は稀少だが、王族が誕生した際、神の祝福の印として、王獣捕獲者により、雛が献上される。
母との別れ
リョザ神王国の大公領にある、闘蛇衆が住む村から物語は始まる。10歳の少女エリンは、優れた獣ノ医術師である母、ソヨンと二人で平和に暮らしていた。しかしある日、ソヨンが世話をする「牙」という種類の闘蛇が全滅する事件が発生。ソヨンはその責任を問われて罰を受け、野生の闘蛇が多数いる川に投げ込まれてしまう。エリンは、母を救おうと泳いで彼女のもとにたどり着く。無数の闘蛇が二人に向かってきたとき、ソヨンは娘を守るために戒めを破り、指笛を吹いて闘蛇を操る。ソヨンは霧の民(アーリヨ)という、厳しい戒めを持つ一族の出身であり「闘蛇の指笛」は霧の民を危険にさらす恐れから禁止されているのだ。エリンを闘蛇の背にまたがらせたソヨンは、そのままエリンを脱出させるが、自らは力尽き闘蛇の餌食となってしまった。そして、エリンは真王領の東の端、サンノル郡まで運ばれ、気絶していたところを、蜂飼いのジョウンに助けられる。こうして生まれた村を離れたエリンは、さまざまな人に出会いながら、数奇な運命をたどることになる。
知識を求め、王獣の医術師を目指す
好奇心旺盛で、人とは違う才能に溢れたエリンは、母と暮らしていた頃から、闘蛇を怖がることなく、輝く鱗(うろこ)に触れてみたいと考えていた。そして、ジョウンのもとで蜂飼いの仕事を手伝ううちに、蜜蜂の不思議な習性にも興味を持つ。また、谷で偶然出会った野生の王獣にも好奇心をそそられ、毎年夏には王獣の親子をながめにいくようになっていた。14歳になったある日、エリンは、母のように深い知識を持って獣を助ける者、王獣の医術師になりたいと思い立つ。そして、かつて王都の高等学者の教導師長だったジョウンの紹介で、カザルム王獣保護場併設の学舎に入舎する。このとき、エリンが入舎試験の際の作文に書いた「この世に生きるものが、なぜこのように在るのかを知りたい」というのは、本作のテーマのひとつであり、人と獣の在り方を探るエリンの生き方につながっている。
登場人物・キャラクター
エリン
リョザ神王国大公領・闘蛇衆の村に住んでいた、好奇心旺盛で聡明な少女。また、嗅覚や聴覚にも優れ、絶対音感の持ち主でもある。初登場時は10歳。闘蛇衆の棟梁(とうりょう)の息子、アッソンと霧の民(アーリヨ)だったソヨンの間に生まれた。母譲りの緑色の瞳が特徴。獣ノ医術師である母ソヨンの影響で、幼い頃から闘蛇やその他の生き物に強い興味を持つ。母を失い、天涯孤独となったところを、真王領のサンノル郡に住む蜂飼いのジョウンに救われる。14歳のときにジョウンの紹介で、カザルム王獣保護場併設の学舎に入舎。母のような、王獣の獣ノ医術師を目指す。
ソヨン
リョザ神王国大公領・闘蛇衆の村に住んでいた獣ノ医術師の女性。エリンの母親。長身で緑色の瞳が特徴の、元霧の民(アーリヨ)。霧の民の掟を破り、闘蛇衆の棟梁の息子、アッソンと結婚し、一人娘エリンをもうけた。「牙」という種類の闘蛇の管理を任されていたが、ある日「牙」が全滅してしまい、処刑されることになる。自分を助けにきた娘を、禁止されていた「操者ノ技」で救い、自らは命を失う。
ジョウン
真王領の東の端、サンノル郡に住む、蜂飼いの男性。がっしりした体格と立派なヒゲが特徴。王都の高等学者の教導師長だった過去を持つ。川岸に倒れていたエリンを見つけて介抱する。その後4年間、エリンとともに暮らし、蜂の生態やその他の学問を教える。また、エリンの絶対音感に気がつき、竪琴も指導した。エリンが14歳のとき、知り合いのカザルム王獣保護場の教導師長、エサルに彼女を紹介する。
クレジット
- 原作
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上橋 菜穂子
書誌情報
獣の奏者 11巻 講談社〈シリウスKC〉
第1巻
(2009-05-22発行、 978-4063731767)
第2巻
(2009-12-22発行、 978-4063731996)
第3巻
(2010-09-09発行、 978-4063762365)
第4巻
(2011-04-08発行、 978-4063762617)
第5巻
(2011-11-09発行、 978-4063763072)
第6巻
(2012-06-08発行、 978-4063763409)
第7巻
(2013-05-09発行、 978-4063763997)
第8巻
(2013-12-09発行、 978-4063764352)
第9巻
(2014-09-09発行、 978-4063764901)
第10巻
(2015-10-09発行、 978-4063765748)
第11巻
(2016-04-08発行、 978-4063906172)