概要・あらすじ
かつて異世界を訪れた経験を持つ女子高校生、山田杏は、見知らぬ男性が助けを求める夢を見た後、異世界にある金の国の地下牢に召喚される。そこには、囚われの身となったかつての仲間、玖朗と、夢に出てきた男性、琥珀がいた。琥珀は杏に、兄の玖朗を助けてほしいと告げるものの、杏はそのまま、現世に引き戻されてしまう。
その後、ケシーの力を無意識にあやつって異世界に向かった杏は、以前この地を訪れた時に行動を共にしたうさぎ耳の少年、真雪の家を訪れる。すると真雪は、剣を持った琥珀に襲われていた。琥珀の攻撃から何とか逃れた2人は、親しくしているジンの家にかくまってもらい、玖朗を救出する準備を進める。その間、杏は任意に空間移動をするため、意識的にケシーの力をあやつる練習を重ねる。途中、夢の中で出会った琥珀に、危険だから金の国に来ないよう忠告されるが、杏の玖朗を助けに行く決意は変わらない。そして、何とかケシーの力を扱えるようになった杏は、真雪と共に、玖朗が囚われている金の国へと向かうのだった。
登場人物・キャラクター
山田 杏 (やまだ あんず)
中高一貫教育の女子校に通う女子高校生。ショートカットの髪型に、パンツ姿のボーイッシュな服装を好む、さばさばした性格の持ち主。早くに母親を亡くし、父さんから再婚話をされた時は動揺を隠せなかったが、今は再婚相手の山田佳乃と仲がいい。金の国に囚われている玖朗を救うため、かつて訪れた異世界に再び向かうこととなる。 その際、今回は心配させないようにと、父さんと佳乃に書き置きを残した。異世界の地では、真雪に反対されても玖朗を助けに向かおうとしたり、仲間を想う気持ちは人一倍強い。ケシーのピィに懐かれており、その力を使って、空間移動ができる。
真雪 (まゆき)
女の子の服を着ている少年。ピンクのうさぎ耳とストレートな長い髪を持つ。本当は王位継承権第八位の銀の国の王子だが、好きな服が着られないので、城から逃れていた。訪問者として異世界にやって来た山田杏を元からいた国に帰すため、一度は城に戻ったが、自由を求めて再び脱出した。金の国や銀の国、黒の国のどこにも属していない。 緩衝地帯である山の中に、1人で暮らしていた。優しく素直な性格で、好意を抱いた杏に親切にする一方、目的のためには手段を選ばない腹黒いところがある。当初は危険だからという理由で、杏が玖朗を助けに向かうことに反対するが、その意思が固いとわかると、玖朗救出に積極的に協力するようになる。
玖朗 (くろう)
金の国の王子。母親である金の国の女王の支配から、弟、琥珀を解放しようとして失敗し、「狼憑き」と呼ばれる人狼にされてしまった。幼い頃から優しい性格で、ケシーを扱えるがゆえに母親に愛されている弟、琥珀を大切に思っているが、彼との血のつながりはない。現在は、琥珀が金の国の女王にあやつられており、玖朗自身だけでなく、山田杏や真雪に害をなす可能性があるとわかっていても、見捨てることができずにいる。 ちなみに、玖朗はケシーを操ることはできないが、濃厚で質が良いエーテルを持っている。
琥珀 (こはく)
金の国の王子。玖朗や母親である金の国の女王とは血がつがっていない弟。長髪を背中でゆるく1つに縛っている。真面目で優しい性格と、ケシーを操る特別な力を持っているので、金の国の女王に愛されている。しかしそれゆえに、女王が目覚めている時は意識を奪われてあやつられてしまっており、琥珀が自身の意識を保つことができるのは、女王が眠っている時に限られている。 その自由になれる時間内に、囚われの身となっている玖朗の記憶を覗いて、山田杏の存在を知り、異世界に呼びよせて助けを求めた。杏のことが気になるあまり、夢の世界を通じて会いに行き、自身が金の国の女王に支配される存在であると告げる。
ピィ
綿毛のような形をしているケシーの幼体。中でも山田杏に懐いているピィは「星持ち」と言われ、いずれケシーの群れを率いるようになる個体である。杏が住んでいた世界と異世界を自由に行き来できるため、突発的に杏の前に現れたりする。杏の世界の、杏以外の人には見えないらしい。杏が異世界に再び訪れるまでは、杏にとって、かつて自分が異世界を旅したことが現実だったと思わせてくれる、唯一の存在だった。
ケシー
白くふわふわした綿毛のような形をした生き物。普段は群れで生活しており、山田杏が住んでいた「あちらの世界」とイマーゴを行き来して、イメージの力であるエーテルを集めている。人からエーテルを吸うこともあり、エーテルを吸い尽くされた人は意識を失い、最後には姿が消えてしまう。群れが大きくなればなるほど、エーテルを吸い上げる力も強くなる。
ジン
元訪問者の老年男性。髪型をオールバックのおかっぱ頭にしている。教えたがりの世話焼きな性格。金の国の女王にあやつられた琥珀に襲われて逃れて来た山田杏と真雪を助け、金の国の王子の名が「玖朗」であると教えた。杏が住んでいた世界に通じる扉を作る能力があるが、ジン本人はかつて住んでいた世界との間に絆がなくなってしまっているため、帰ることができない。
金の国の女王 (きんのくにのじょおう)
金の国を治めている女王。髪を高く結い上げ、ドレスを着ている。玖朗と琥珀の母親だが、琥珀とは血がつながっていない。しかし自分と同じようにケシーをあやつることができる琥珀をより深く愛しており、彼を失いたくないという気持ちから、琥珀の意識を奪って、あやつり人形としている。一方、ケシーを使えないうえに、琥珀を城から連れ出そうとする実子、玖朗は嫌っており、金の城の地下牢に捕えている。
銀の国の女王 (ぎんのくにのじょおう)
銀の城に住んでいる、銀の国を治める女王。真雪の母親でもある。ウェーブがかった長髪に、ドレスを身につけている。自由を求めて城を飛び出した息子の真雪を放蕩息子として扱うものの、城に戻って来れば可愛がっている。山田杏と共に玖朗を助けに行きたいという真雪の願いも、すんなり受け入れた。
父さん (とうさん)
山田杏の父親。絵本や学習雑誌の絵を描く仕事をしている。ふわりとした短髪で、黒縁の眼鏡をかけている。早くして妻を亡くしため、仕事と家事を一手に担って杏を育てた。最近、山田佳乃と再婚した。おっとりした性格なので、しっかり者の佳乃からたしなめられることが多い。家族を愛しており、休みの日には佳乃と杏をよく映画に誘っているが、杏には「デートは佳乃さんと2人でしたら」と言われて断られている。
山田 佳乃 (やまだ よしの)
山田杏の父さんの再婚相手の女性。外出時はセミロングの髪を肩に流し、自宅ではポニーテールにしている。気さくな性格で、血のつながらない杏を家族として大切にしている。杏には山田佳乃自身を母と呼ぶよう強要していない。佳乃は自分のことをずぼらでがさつと言っているが、杏にはその大らかな優しさを信頼されている。しっかり者のため、杏同様に、心配性でおっとりしている夫をたしなめることがある。
場所
金の国 (きんのくに)
玖朗と琥珀の母親である金の国の女王が治めている国。前王が亡くなり、今の女王に代替わりしてから、「訪問者狩り」をするようになったと噂されている。実際、金の城の地下にはたくさんの訪問者が集められ、ケシーによってエーテルを吸い取られている。それが金の国の力になっている。
その他キーワード
訪問者 (ほうもんしゃ)
ほかの場所から異世界にやって来た人物の総称。山田杏やジンがこれにあたる。たいていはかつての世界で嫌なことを経験し、逃げてきた者が多い。金の国、銀の国、黒の国それぞれの城にある、ジンが作った扉を通れば、元にいた世界に帰ることができる。帰還できる訪問者は、元の世界と自分の心に、強い絆を持つ人物だけである。
エーテル
イメージをするために必要な力。山田杏が紛れ込んだ異世界では特に大切なもの。人は皆このエーテルを持っているが、ケシーに吸い取られるなどしてこれを失うと、自分を失くして、最後には姿かたちも消えてしまう。調節して適当な分量を吸い取るに留めておけば、生かしたまま、身体の自由を奪うこともできる。