皆殺しのアーサー

皆殺しのアーサー

『アーサー王物語(アーサー王伝説)』に敵役として登場する騎士のモルドレッドを主人公にした「騎士道残酷物語」。アーサー王を、暴力でブリテン島を支配しようとする暴虐の王として描いているのが特徴で、残虐描写や性描写も頻出する。「ヤングマガジン」2019年第44号から2020年33号にかけて連載された作品。

正式名称
皆殺しのアーサー
ふりがな
みなごろしのあーさー
作者
ジャンル
バトル
 
神話・伝承
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あらすじ

暴虐なるアーサー王

西暦507年、ブリトン人とサクソン人の戦いは激化の一途をたどり、ブリテン島の南部に位置するエクスターの町もサクソン人の襲撃に晒(さら)されていた。守備隊長のモルドレッドの活躍により、エクスターの町は辛うじて持ち堪(こた)えていたが、陥落も時間の問題だった。状況を重く見た領主のキステニン王は、ブリテン島に勇名を轟(とどろ)かせるアーサー王に救援を要請し、外敵の殲滅(せんめつ)に成功する。しかし、アーサー王は「弱者は不要」と言い放ち、問答無用でキステニン王を殺害してしまう。そして、モルドレッドだけを自らの精鋭部隊、円卓の騎士団に迎え入れると宣言するのだった。モルドレッドは英雄と評されるアーサー王の本性に戦慄するが、その圧倒的な暴力からエクスターを守るためにも、まずはアーサー王に従うのだった。

モルドレッドの決意

円卓の騎士団の正騎士、ランスロットからモルドレッドに初めての任務が与えられる。その内容はサクソン人の捕虜をメーデン要塞に連行し、要塞を守るサクソン人と停戦協定を結ぶというものだった。要塞に到着したモルドレッドは、停戦の条件として提示されていた人質交換を行おうとするが、開門と同時に謎の伏兵が城門へと殺到する。その正体は停戦を望んでいたはずのアーサー王、そしてランスロットが指揮する軍勢だった。卑劣な策略によって要塞はアーサー王の手に落ちたが、モルドレッドは捨て駒にされたことを許せず、怒りに任せてランスロットを攻撃する。しかし逆に斬り伏せられ、秘密にしていた刺青(いれずみ)を見られてしまう。その刺青は純粋なブリトン人として振る舞っていたモルドレッドにサクソン人の血が混じっている証(あかし)であり、刺青の露見はモルドレッドが居場所を失うことを意味していた。ランスロットは刺青を脅迫材料として、今後もモルドレッドを都合のよい駒として利用しようと画策する。追い込まれたモルドレッドはあえてエクスターの王子、コナヌスに出生の秘密を明かし、故郷を捨てたうえで円卓の騎士として戦うことを決意するのだった。

グロスタシア城の戦い

アーサー王を導くドルイドのマーリンから「予言」が発表される。その内容は14日後に正騎士のランスロットガウェインケイによってサクソン人の重要拠点であるグロスタシア城が陥落するというものだった。ガウェインが語るには、マーリンの「予言」は未来を保証するものではなく、円卓の騎士団が絶対に実現させなければならない「命令」であるという。ランスロット隊の騎士として城攻めに参加したモルドレッドは決死の単騎駆けを敢行し、その苛烈な攻撃により敵将のバルドゥルフスの左目に傷を負わせる。しかし、バルドゥルフスを仕留めるには至らず、ガウェイン隊の騎士、ガレスに深追いを諫(いさ)められ、止むなく帰陣するのだった。

コルグリヌスの罠

円卓の騎士団の正騎士、グリフレットは、「モルドレッドの独断専行により必勝の策が台無しになった」と主張し、ランスロットに損失した兵馬の補償を要求する。ランスロットが兵馬の受け渡しを渋ったことで、モルドレッドはなす術なく断頭台に送られてしまうが、処刑人(番犬)の斧(おの)が振り下ろされる瞬間、グロスタシア城の城主、コルグリヌスの代理人が現れ、ある提案を持ち掛けてくる。それはバルドゥルフスとモルドレッドが一騎討ちを行い、「バルドゥルフスが勝った場合、円卓の騎士団は包囲を解いて撤退する」「モルドレッドが勝った場合、サクソン人はグロスタシア城を明け渡す」というものだった。円卓の騎士団が提案を受け入れたことで、モルドレッドの処刑は延期となり、2日後に一騎討ちが行われることが決定する。しかし、これは犠牲を払わずに勝利する方法を敵に示すことで、全面戦争による兵の消耗を避けながら援軍到着までの時間を稼ぐというコルグリヌスの巧妙な罠(わな)だった。

王の参戦

モルドレッドアーサー王から賜った片手剣、カリバーンを投擲(とうてき)してバルドゥルフスとの一騎討ちに勝利した。しかし、モルドレッドの戦術は騙(だま)し討ちにも等しい行為であり、これを卑怯(ひきょう)と見たサクソン人は怒り狂い、モルドレッドへと殺到する。円卓の騎士団も攻め上がり、全面戦争の機運が高まるが、コルグリヌスが退却を指示したことで、決着は持ち越された。一方その頃、アーサー王は騎馬隊を率いてサクソン人たちの長であるセルディック王を強襲していた。グロスタシア城を目指す援軍の存在に気づいたランスロットが、アーサー王を動かしていたのである。アーサー王の人間離れした暴威を目の当りにしたセルディック王はグロスタシア城の援護を断念し、これを受けてコルグリヌスはグロスタシア城のあけ渡しを決意する。こうして、円卓の騎士団はグロスタシア城を巡る攻防に勝利し、「予言」を現実にすることに成功した。

ランスロットの秘密

アーサー王の御前で、モルドレッドの処遇問題が再燃する。グリフレットはモルドレッドが作戦を失敗させる原因になったと主張し、徹底して彼の断罪を求めたが、アーサー王はグリフレットを相手にせず、モルドレッドが所属するランスロット隊の一番手柄を認めるのだった。後日、モルドレッドのもとに刺客が現れる。首謀者はモルドレッドに面子(メンツ)を潰され、恥辱をそそごうとするグリフレットだった。グリフレットはある秘密をつかんだと語り、現場に居合わせていたランスロットを牽制(けんせい)しようとするが、ランスロットはグリフレットを刺客諸共刺殺し、この事件を自らの秘密ごと闇に葬ってしまう。

秘密の木箱

マーリンから世継ぎの誕生という新たな「予言」が発表される。その吉報にアーサー王の周囲はにわかに活気づいたが、グウィネヴィア王妃は孕(はら)んだ子の父親がアーサー王ではなく、密通相手のランスロットであることを確信していた。一方、王妃の心身を掌握したランスロットは、次なる作戦の準備に追われていた。セルディック王コルグリヌスがブリテン島の南部にあるトトネスの港を制圧したとの報告を受け、警戒を余儀なくされていたのである。そこでランスロットはモルドレッドに極秘任務を託す。それはトトネスからほど近いダートムーアの地に赴き、南部連合の長であるカドル王をアーサー王に従わせるという内容だった。任務を帯びてダートムーアを訪れたモルドレッドは、ブリトン人とサクソン人が酒を酌み交わす姿を目撃して困惑する。その光景は、モルドレッドの母が生前に夢見ていた理想郷そのものだったのである。モルドレッドはカドル王との面会に成功するが、説得そのものは難航し、やがてランスロットから交渉の切り札として渡されていた木箱を開封する。モルドレッドにも伏せられていた木箱の中身は、グウィネヴィア王妃だった。

夢の終わり

ランスロットの姦計(かんけい)により、カドル王グウィネヴィア王妃の誘拐犯に仕立て上げられた。しかし、カドル王は追い詰められてなお降伏勧告に耳を貸さず、セルディック王と同盟を結び、アーサー王との全面戦争に臨む考えを示すのだった。さらにカドル王はいっしょに夢を見ようとモルドレッドを誘うが、モルドレッドはカドル王の理想を幻と断じて、カドル王を斬ってしまう。アーサー王と出会い、円卓の騎士団へと身を投じたモルドレッドに、引き返すという選択肢は存在しなかったのである。やがてダートムーアのブリトン人はアーサー王に、サクソン人はセルディック王に従うべく離散し、理想郷は崩壊した。一連の報告を受けたランスロットはモルドレッドの実力を認めると共に、カドル王の理想に感化されなかったことを高く評価した。そして、ブリテン島の統一を成し遂げたあとにアーサー王を殺すつもりだと打ち明け、モルドレッドにいっしょに修羅の道を歩んで欲しいと頼み込むのだった。20年後、荒廃したアーサー王の拠点、キャメルフォードを舞台に最後の戦いが始まる。

登場人物・キャラクター

モルドレッド

サクソン人を敵視する騎士の男性。両腕に無数の傷がある。銀髪で眉毛は黒く、両目尻に稲妻のような模様、左胸に獣とサクスの刺青(いれずみ)がある。ぶっきらぼうな性格で、つまらない男と揶揄(やゆ)されているが、忠義に厚く、身内からは信頼されている。エクスターの町で守備隊長を務めていたが、アーサー王との出会いを経て円卓の騎士団に加入し、エクスターを離れてサクソン人との戦いに身を投じることになった。その実力はキステニン王から「最強の騎士」と認められていたほどで、疾走する騎馬を投げ飛ばすほどの腕力と胆力を有し、身軽でバランス感覚にも優れている。また、即席のカタクラフトによる単騎駆け、パルティアンショットを彷彿(ほうふつ)とさせる遠距離攻撃などの多彩な戦法を駆使する戦巧者でもあるが、謀略の類は苦手で、貧乏籤(くじ)を引かされることが多い。その正体はサクソン人の父親とブリトン人の母親のあいだに生まれたハーフで、7歳の頃にサクソン人に両親を殺されている。そのためサクソン人を恨み、血筋を隠して生きている。カリバーン(片手剣)を得物としていたが、グロスタシア城の戦いでカリバーンとサクスの二刀流に開眼した。のちにカドル王の剣を受け継ぎ、カリバーンの代わりに使用するようになった。

アーサー王 (あーさーおう)

円卓の騎士団を従えて真の王(ブレトワルダ)を目指す老齢の男性。「アーサー・リオタムス」とも呼称される。巨軀を誇り、鼻梁(びりょう)を横断する刀傷をはじめ全身に傷がある。体毛は白く、髭(ひげ)をショートボックスドベアードに整えている。また王冠をかぶり、王冠と聖杯が象(かたど)られた片手剣で武装している。実像を知らない民からは、ブリトン人の未来を憂えて戦う英雄と認識されているが、実際はサクソン人の皆殺しを訴えて暴虐の限りを尽くす狂人であり、弱者と判断した同胞を殺すことにも躊躇(ためら)いはない。馬上から腕を振るだけで付近の兵士が肉片と化すほどの力を有しており、20数年前には大木を次々と投擲する戦法で30倍もの兵力差を覆し、ピクト人の部隊を退けたこともある。この戦いでは敵の半数を殺害する戦果と引き換えに、山が二つ消えてしまった。老いてからもその力は衰えを知らず、グロスタシア城の援護に向かうセルディック王に「山飛ばし」を敢行して救援を断念させ、若かりし日よりも力を増したと評された。なお、性生活も規格外で、グウィネヴィア王妃や侍女が見守る中、アーサー王に刃を向けた実績のある女性を全裸で並ばせ、次々と犯すという非道な儀式を定期的に行っている。

グウィネヴィア王妃 (ぐうぃねゔぃあおうひ)

アーサー王の妻。明るい色の髪を腰まで伸ばしている。豊満な肉体に胸元の開いたドレスを身につけ、首飾りを付けている。アーサー王が凶器として使用した杯を死体の頭から引き抜いて酌をするなど、夫の凶行に眉一つ動かさない胆力を有している。また、アーサー王が地方領主の娘に対して行う種付けの儀式を、国を守るために必要な行為として許容しており、周囲からは理解ある王妃として認識されている。しかし、実際はランスロットに心酔し、密会を重ねている。マーリンの「予言」で世継ぎの誕生が発表された際には、自らに宿った子供の父親がランスロットであることを確信していながら、大胆にも「宿った子は立派な王になる」などとアーサー王に語っている。のちにランスロットの助けとなるべく、木箱に潜んでダートムーアへと赴き、カドル王と対面した。これはアーサー王への協力を拒んでいたカドル王を王妃誘拐の犯人に仕立て上げ、逃げ場をなくしてアーサー王の傘下に加えようという策略だったが、結果としてアーサー王への敵意を煽(あお)ることになってしまった。

マーリン

アーサー王を導くドルイドの女性。明るい髪を床に届くほどの長さに伸ばしている。乳房の露出した扇情的な衣装をまとい、全身を装飾品で着飾っている。円卓の騎士団に「予言」を通達する役目を担っており、聖杯に注いだ敵将の血を飲むことで目の色が変化してトランス状態になり、この状態で「予言」を発表する。モルドレッドが円卓の騎士団に加入した直後には、14日後に正騎士のランスロットやガウェイン、ケイがグロスタシア城を落とすという「予言」を発表した。グロスタシア城の陥落後にはグウィネヴィア王妃の妊娠、そしてガウェイン、アグラヴェイン、パーシヴァルが1か月以内にケント王国のバースを落とすという「予言」を発表した。なお、建前として「予言」によりアーサー王に道を示す人物とされているが、円卓の騎士たちのあいだでは「予言」は未来予知ではなく、絶対に成し遂げる必要のある「命令」と解釈されている。「予言」の実現をあきらめて逃亡を企てた騎士をアーサー王が自ら追い詰めて始末した例もある。

ランスロット

円卓の騎士団、ランスロット隊を率いる正騎士の男性。整った顔立ちをしている。「湖の騎士」の異名を持つ。銀髪を足首に届くほどの長さに伸ばしている。衣服に覆われて見えないが、身体には無数の傷が刻まれている。暗い色の刀身の両手剣で武装し、剣の振りと足捌(さば)きは神速の域に達している。グロスタシア城の戦いでは、兵士五人を瞬く間に斬り殺すなどの神業を披露し、敵対していたサクソン人から魔術師のようだと恐れられた。冷静沈着で謀略にも長(た)けており、手柄を得るためなら手段を選ばない。命令を遂行できない者はゴミ同然という価値観を持っているため、新入りが座るための空席を確保する目的で、負傷者を斬り殺してしまったこともある。モルドレッドに対しても出自に関する秘密をにぎって都合のよい駒として利用しようと企(たくら)んだり、同僚から要求された損失の補償を押し付けたりと、辛辣な扱いをしていた。しかし、少しずつモルドレッドを戦力として認識するようになり、やがてアーサー王に叛逆(はんぎゃく)する心算であることを打ち明け、計画への協力を持ちかけるまでになった。なお、グウィネヴィア王妃の情夫でもあり、彼女が身籠った世継ぎの父親とされているが、あくまで王妃の自己申告に過ぎない。

クロウ

円卓の騎士団、ランスロット隊に所属する騎士の男性。目付きが非常に悪い。サイドを刈り上げたオールバックの髪型で、襟足を伸ばしている。カリバーン(片手剣)を提げている。戦争は頭でするものだと考えており、手段を選ばないランスロット隊の気風を気に入っている。しかし、味方から搾り取るスタンスのグリフレット隊のことは嫌悪し、グリフレットを「寄生虫」と蔑んでいる。ガウェイン隊のことは力押しの集団と見下しているが、ガウェイン当人の武力に関しては正当に評価している。荷運びの従者を無能と罵るなど、格下に対しては横柄な態度を見せるが、同僚に対する面倒見はよく、愛想の悪いモルドレッドにも寄り添って話しかけている。その内容はランスロット隊の文化、ガウェインの過去、コルグリヌスとバルドゥルフスの恐ろしさなど幅広く、読者に設定を開示する解説役としての役割を果たしていた。なお、ランスロットがモルドレッドを切り捨てる判断をした際には、モルドレッドに枷(かせ)を付ける役目を担いながらも、ランスロットが彼に関心を持っていたことを理由に判断の是非を問うている。

ガウェイン

円卓の騎士団、ガウェイン隊を率いる正騎士の男性。「太陽の騎士」「不死身のガウェイン」の異名を持つ。大柄で左頰に刀傷があり、サクソン人から奪った金の装飾品を身につけ、一対のカリバーン(片手剣)で武装している。小細工を嫌い、正面から敵陣に斬り込むような戦いを好んでいる。軍議にてモルドレッドと面識を持ち、マーリンの「予言」が未来予知ではなく、円卓の騎士団に与えられたノルマであることを暴露した。この際、グロスタシア城の攻略方法を巡ってモルドレッドと小競り合いに発展するも、ランスロットの取り成しで矛をおさめている。攻城戦では城壁の破壊に成功するも、潜んでいたバルドゥルフスの部隊に背後を突かれ、突入をあきらめて城外の敵と交戦した。モルドレッドに処刑の話が持ち上がった際には、複数の正騎士と揉(も)めてまで助ける価値はないとして、見限る構えだった。しかし、モルドレッドがバルドゥルフスを仕留めることに成功すると評価を改め、ガウェイン隊への移籍を提案した。なお、「20年ほど前にサクソン人の女性と結婚した」「ブリトン人とサクソン人の関係悪化により離別した」と噂(うわさ)されているが、ガウェイン自身はサクソン人への強い憎悪を口にしている。

ガレス

円卓の騎士団、ガウェイン隊に所属する騎士の男性。顔の右側にボリュームを持たせた明るい髪をアシンメトリーにしている。敵対する者を罪人と解釈しており、その罪人が苦しんでいる姿を見ることで安堵(あんど)する加虐的な性格の持ち主。バックラーで相手の攻撃を防ぎ、カリバーン(片手剣)で攻撃する手堅い戦闘スタイルを好み、必要に応じて投げ技なども使用する。グロスタシア城の戦いでは、ガウェインの命令を受けて、孤立無援の状況に陥ったモルドレッドに加勢した。この際、モルドレッドの無謀とも思える戦い方に苦言を呈しているが、逆にモルドレッドから敵を生かしたまま苦しめる悪癖を咎(とが)められてしまった。なお、初登場時には兜(かぶと)を装備していたが、モルドレッドに加勢した際に唐突に脱ぎ捨て、以降は兜を装備しなくなった。

ケイ

円卓の騎士団、第五連隊隊長を務める正騎士の男性。顔の彫りが非常に深い。「盾の騎士」の異名を持つ。オールバックの髪型で、髭をショートボックスドベアードに整えている。アーサー王の兄弟でもあるが、年齢差は不明。アーサー王が血縁者に対しても情け容赦のない人物であることを理解しており、そんな彼を恐れている。グロスタシア城の攻略を任されていたが、2か月を費やしても戦果を得ることができず、焦りを感じていた。そんな中、マーリンの「予言」という形で攻略期限が設定されてしまい、グロスタシア城への総攻撃を断行した。しかし計画は失敗し、全兵力の3分の2を失う大損害を被ってしまった。後続のランスロット、ガウェインを前にして降格は確実、最悪の場合は命で償うことになると述懐していたが、実際にどのような沙汰が下されたのかは不明。

グリフレット

円卓の騎士団、グリフレット隊を率いる正騎士の男性。明るい髪を肩に届くほどの長さに伸ばしている。歩くたびに地響きするほどの肥満体で、大量の指輪を嵌(は)めている。つねに微笑(ほほえ)んでいるが気が短く、感情が昂(たかぶ)ると目を見開いて暴言を吐く。食欲旺盛で、糾弾の最中であっても処刑の執行中であっても、食事を楽しむことを優先する。また高尚な志を否定し、甘い汁を吸うことがモットーと宣言するほど図太い性格をしている。安全圏から人を動かすスタンスを貫いているため、一部の騎士からは嫌われているが、自己評価は高く、「優秀な軍師」「アーサー王から最も信頼されている正騎士」などと喧伝(けんでん)している。手柄を求めて自発的にグロスタシア城の戦いに参加したが、損害を被ってしまい、モルドレッドの独断専行を責めることで、ランスロットから馬100頭と金貨200枚を毟(むし)り取ろうとした。この際、モルドレッドの首で手打ちとすることに合意したが、結果的に処刑は頓挫している。その後、私怨からモルドレッドの暗殺を画策するも、ランスロットに喉を貫かれて死亡した。なお、ランスロットの秘密を把握しており、暗殺の直前には脅迫にまで及んでいる。

番犬 (ばんけん)

グリフレットが従える謎の男性。本名は不明で、「番犬」と呼称されている。その体軀は一般兵の2倍ほどの大きさで、全身の筋肉が異様に発達し、身体中に傷がある。目だけが露出したマスク、腰部だけを覆う簡素な衣類、行動を制限する鎖付きの首輪という出で立ちで、兵士四人でようやく持ち運べるほどの巨大な斧(おの)で武装している。その瞳は焦点が定まっておらず、マスクの隙間からは涎(よだれ)が垂れ流しで、正気を失っているようにも見える。辛うじて命令を認識することは可能だが、その内容を実行に移すまで、自分に言い聞かせるかのように声に出して反芻(はんすう)するため、外見と相まって異様な雰囲気を醸し出している。グロスタシア城の戦いに参戦するにあたってグリフレットが用意した秘密兵器であり、本来はバルドゥルフスの捕縛という大役を担う予定だった。しかし、モルドレッドの予期せぬ奮戦により、活躍の機会を逸してしまった。のちにせっかく連れて来たのに出番がなくなってしまったという理由で、モルドレッドの斬首を担当する執行人として駆り出され、巨大斧を振るうチャンスを与えられた。その怪物の如き姿はモルドレッドを戦慄させ、死を覚悟させている。

セルディック王 (せるでぃっくおう)

サクソン人がブリテン島の南部に建国したウェセックス王国の王を務める壮年の男性。サークレットを付けている。長髪をオールバックにしており、揉み上げと顎髭がつながっている。額には斜めに3本の傷が刻まれ、背中や上腕部にはサクスをモチーフとした刺青が入っている。上半身は裸で、一対のサクスで武装している。かつてセルディック王がブリトン人の屍(しかばね)の山の頂で叫んだ「ブリテン島は我々のものである」という旨の主張はサクソン人の狂奔に拍車を掛け、コルグリヌスやバルドゥルフスのような狂戦士を台頭させた。現在もブリテン島を支配するための戦いを続けており、コルグリヌスを援護するべく、ブリストル湾からセヴァーン川を遡ってグロスタシア城を目指していた。上陸の直後にはブリトン人との戦いの歴史、サクソン人が行う略奪の正当性を演説し、率いていた3000人の軍勢の士気を大いに高めている。しかし、アーサー王の奇襲を受け、コルグリヌスの救援を断念した。その後、グロスタシア城を放棄することになったコルグリヌスと合流し、ブリテン島の南部沿岸にあるトトネスの港を急襲、征服している。なお、20数年前にアーサー王と共闘したことがある。

コルグリヌス

ウェセックス軍グロスタシア城主の肩書きを持つサクソン人の男性。バルドゥルフスの兄。モヒカン刈りで、左目を縦断するようにサクスの刺青が入っている。弓矢とサクス、鱗(うろこ)状の鎧(よろい)を装備している。セルディック王を軍神ウォーデンの化身と敬い、弟と共に彼の覇道を支えようとしている。軍神への崇拝は狂信の域に達しており、「血と戦いを捧げる」としてブリトン人の捕虜に無益な殺し合いをさせたり、そこにサクソン人の仲間を参加させたりしている。敵方からは弟と共に「狂戦士を生み出す悪魔の兄弟」と恐れられる一方で、的確な策を用いて戦う知将としても知られている。グロスタシア城の戦いでは城の内外に目を光らせ、ケイが斥候として忍び込ませていた精鋭を全滅させ、内部情報の漏洩(ろうえい)を阻止することに成功している。また、ケイの率いる軍勢の総攻撃を耐え凌(しの)ぎ、その兵力を3分の1に減らすほどの損害を与えた。しかし、頼みの増援をランスロットに阻まれ、結果としてグロスタシア城を放棄し、撤退している。なお、弟とは強固な絆(きずな)で結ばれており、彼が左目を失った際には自らの右目を潰したうえで、二人の魂は一つであると宣言したので、弟は感涙にむせんだ。

バルドゥルフス

ウェセックス軍強襲部隊大将の肩書きを持つサクソン人の男性。コルグリヌスの弟。大柄な体型に加えて筋肉質で、右目を縦断するようにサクスの刺青が入っている。オールバックの髪型で、膝に届くほどの長さに伸ばしている。兄と共にウェセックス王国の建国から10数年にわたって戦い続けている歴戦の勇士であり、槍の達人としても知られている。その刺突は石柱を貫くほどの威力を秘め、「大槍のバルドゥルフス」の異名を持つ。率いている部隊も強力無比で、グロスタシア城の戦いでは盾で防ぐことすらままならない大槍を雨のように降らせる戦法を披露し、モルドレッドの率いる部隊を苦戦させている。しかし、モルドレッドには一歩及ばず、カタフラクトによる突撃と二刀流に翻弄されて左目を失い、城内へと撤退する羽目になった。撤退の最中には数本の矢を背中に浴びているが、まるで動じる様子がなく、敵方を啞然(あぜん)とさせている。のちに兄の計らいで雪辱の機会を与えられ、モルドレッドとの一騎討ちに及んでいる。この際、左目の借りを返すべく、モルドレッドに二刀流で戦うように要請しているが、拒否されたうえに騙し討ちに近い形で討ち取られた。

ワーロック

ウェセックス軍で兵隊長を務めていたサクソン人の男性。長髪の前髪を逆立て、左目に眼帯を付けている。上半身は裸で、首と肩のあいだにサクスをつなげて首飾りにしたようなデザインの刺青を入れている。エクスターの戦いでアーサー王の軍勢に敗北を喫し、捕虜となった。その身柄はモルドレッドに管理されることになったが、メーデン要塞を守るサクソン人との交渉材料として利用されることをよしとせず、複数回にわたって逃走を試みている。エクスターからメーデン要塞へ向かう過程で決行した一度目の逃走劇は、モルドレッドに馬ごと投げ飛ばされて未遂に終わっている。しかし、メーデン要塞の門前で再び逃亡を企てた際には、モルドレッドを出し抜き、まんまと逃げ果せることに成功した。そればかりか、意趣返しとばかりにモルドレッドを背後から殴打し、負傷させている。なお連行されているあいだは、モルドレッドに対して挑発的な発言を繰り返していたが、まったく相手にされなかった。

カドル王 (かどるおう)

ダートムーアに城を構え、総勢8000人にも及ぶ南部勢力を束ねるブリトン人の男性。長髪に顎鬚を蓄え、カリバーンに似た片手剣を提げている。豪放磊落(らいらく)な性格で、「人を遠ざける者は人を恐れる弱い人間」という哲学の持ち主であり、「守りたい者がいるならば、どんな人種であろうと受け入れる」と表明している。父親を守るために刃を手に取った幼いサクソン人を父親共々庇護するなど、有言実行の人物としても信頼を集めており、結果としてダートムーアはブリトン人、サクソン人、ピクト人、ジュート人など、さまざまな人間が酒を酌み交わす多民族国家の様相を呈することになった。かつて、アーサー王の片腕を務めていたが、彼が王位を継承した直後に出奔している。これは暴力でサクソン人を駆逐せんとするアーサー王を認められなかったことが理由で、現在でもアーサー王を弱い人間の典型的な例として挙げている。カドル王の思想と動員力は円卓の騎士団から警戒されており、アーサー王の覇道を阻む要注意人物と認識されている。のちにカドル王を懐柔するべくダートムーアを訪ねてきたモルドレッドを味方に誘うも拒否され、刃を交えることになった。

エレ

サクソン人の戦士である壮年の男性。明るい色の長髪を後頭部で束ね、口髭、顎髭を蓄えている。右目には刀傷があり、剝(む)き出しの上半身にも無数の傷が刻まれ、胸元にはサクスの刺青が入っている。槍の名手として知られており、異国にまでその名を轟かせていた。しかし、ある若いブリトン人との一騎討ちの果てに、上半身を切り裂かれて死亡した。エレを打ち負かしたそのブリトン人こそ、のちのアーサー王である。後年、ランスロットは戦いの決め手となった「刺突を誘い、それを払い除けたうえで必殺の一撃を放つ」という戦法をバルドゥルフスとの一騎討ちに臨むことになったモルドレッドに推奨している。しかし、結果としてモルドレッドはこの戦法を取り入れることを拒み、獄中で考案した独自の戦法でバルドゥルフスに挑んでいる。

キステニン王 (きすてにんおう)

エクスターの領主を務める老年の男性。頭髪は禿げ上がっており、体毛は白く変色している。口髭と跪(ひざまず)いた際に地面に触れるほどの長さの顎髭を蓄え、右目と左頬に刀傷があり、サークレットを冠っている。かつてエクスターで暴れていたサクソン人を倒してモルドレッドを拾い、彼がブリトン人としての新たな人生を歩めるように取り計らった恩人だが、当人はモルドレッドの母を暴漢から救えなかったことを悔やんでいる。現在は逞(たくま)しく成長したモルドレッドに兵士の指揮を委ね、戦場から遠ざかっている。しかし、領主としては現役で、サクソン人との戦いが長期化すればエクスターの陥落は免れないとして、アーサー王に救援を求めていた。やがてアーサー王と円卓の騎士団によってエクスターを囲んでいたサクソン人が一掃されると、「ブリトン人は結束してサクソン人に立ち向かうべし」という思想に基づき、精鋭600人をアーサー王に託そうとした。しかし、その兵力はアーサー王にとって無価値な「力なき者」と判断され、円卓の騎士団に組み込まれることはなかった。そればかりか、キステニン王も「力なき者」と見なされ、その場でアーサー王の配下に首を刎(は)ねられてしまった。

コナヌス

エクスターの第一王子。キステニン王の息子で、ソフトモヒカンに、八の字眉毛で円(つぶ)らな目をしている。年齢は不明だが、顔立ちは幼く小柄な体型で、周りの兵士と比べて大人と子供ほどの体格差がある。しかし、その精神は自らの未熟さを認める程度には成熟しており、キステニン王が死亡した際には取り乱すことなく、気丈にも臣下を気遣ってみせた。モルドレッドがメーデン要塞のサクソン人との接触を命じられた際には、危険を訴えると同時に、頼みの綱であるモルドレッドがエクスターを離れることに難色を示していた。しかし、モルドレッドに「エクスターだけではなく、全ブリトン人のために戦う」というキステニン王との約束を持ち出され、消極的ながらも出発を認めている。その後も残忍なアーサー王に従うべきではないとして、モルドレッドを円卓の騎士団へ送り出すことを拒んでいたが、モルドレッドにサクソン人の血が混じっている事実を知ると態度を一変させ、モルドレッドをエクスターから追い出してしまった。

モルドレッドの母 (もるどれっどのはは)

モルドレッドを産んだブリトン人の女性。ロングヘアで、スタイル抜群。ブリトン人とサクソン人が共に生きる未来の到来を信じて、サクソン人の夫と共にエクスターでモルドレッドを育てていた。しかし、モルドレッドが7歳の頃、モルドレッドの目の前でサクソン人の男性に強姦された挙句、胸に刃を突き立てられて死んでしまった。この際、犯されながらも果敢に抵抗し、犯行に及んだ男の目を短刀で潰している。生前はモルドレッドにも両民族の共生を訴えていたが、皮肉にも自らの死によって、モルドレッドにサクソン人への強い憎悪と殺意を芽生えさせてしまった。

集団・組織

円卓の騎士団 (えんたくのきしだん)

アーサー王が従える武装集団。ブリテン島のサクソン人を殲滅(せんめつ)してブリトン人による千年王国を樹立するための駒であり、「サクソンを殺せ、ブリトンをひとつに」を標語として活動している。12人の正騎士がそれぞれ10人の騎士を従える組織図となっているが、ランスロットの部隊は死者が多く、定員に達した試しがない。また、騎士の称号を持たない兵士や従者も存在する。「騎士の死は隊の責任、騎士の失策は隊の罪」「互いの戦に干渉せず」などの掟(おきて)があり、内部で争いが生じた場合はアーサー王が裁くことになっている。ただし、遠征先などでは現地の正騎士が決裁を任されることもあり、グロスタシア城の戦いではグリフレットが権限をにぎっていた。命令はマーリンから「予言」として発表され、期限内に達成できなければ処刑される場合もある。アーサー王がブリテン島を統一して真の王(ブレトワルダ)となった暁には、すべての正騎士が一国の主として認められ、莫大な富が与えられる約束になっている。そのため、人員は一枚岩ではなく、互いを出し抜こうと躍起になっているが、これは手駒を逞しく育てたいアーサー王の意向でもある。なお、カドル王の見立てによれば、アーサー王が動員できる兵力は7000人である。

場所

メーデン要塞 (めーでんようさい)

ブリテン島の支配を目論むサクソン人が設置した前線基地。丘上に位置していること、三重の壁に囲まれていることから難攻不落の要塞と評されていた。その堅牢さは百戦錬磨のランスロットに円卓の騎士団の力をもってしても正攻法での攻略は難しいと言わしめたほどだが、人質交換の際に内側から火を放たれ、呆気(あっけ)なく壊滅した。

グロスタシア城 (ぐろすたしあじょう)

ブリテン島の支配を目論むサクソン人の重要拠点。ウェセックス王国の北部に位置しており、メーデン要塞すら凌ぐ堅城として知られている。内部には円形の闘技場が設けられ、ブリトン人の捕虜たちが無意味な殺し合いを強要されている。軍略に長けたコルグリヌスが城主として防衛を指揮し、円卓の騎士団による猛攻を2か月以上も跳ね返していた。主戦力のバルドゥルフスを失っても守備力に翳(かげ)りは見えなかったが、ランスロットの策略によって開城を余儀なくされた。

その他キーワード

カリバーン

アーサー王が円卓の騎士団に迎え入れる価値があると判断した強者に与える片手剣。膨らみを持たせた柄頭に王冠のモチーフが描かれ、刃元には竜の装飾が施されている。階級を問わず、円卓の騎士の多くがカリバーンを提げており、モルドレッドもカドル王との戦いを経て手放すまで、さまざまな戦いでカリバーンを使用している。ガウェインに至ってはカリバーンの二刀流まで披露しているが、ランスロットなどカリバーンを使用していない騎士も存在する。

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