神とよばれた吸血鬼

神とよばれた吸血鬼

異国から日本に移り住んだ吸血鬼の青年が、さまざまな出会いや別れを経験し、人や神を癒しながら成長していく姿を描くハートフルストーリー。「ガンガンONLINE」2014年10月号から2017年2月号にかけて連載された作品で、桜井海の初連載作品にあたる。

正式名称
神とよばれた吸血鬼
ふりがな
かみとよばれたきゅうけつき
作者
ジャンル
ファンタジー
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あらすじ

第1巻

4歳の時に母親を亡くした青年の友春は、おぼろげにしか記憶のない母親との思い出の場所でもある神社で手を合わせた帰り道、吸血鬼のヴラドが人を襲っているのを目撃する。友春はヴラドを殴りつけて女性を助けるが、実はその女性は人を食べる鬼だった。危ういところを手負いのヴラドに助けられた友春は、その後意識を失って倒れたヴラドを神社へ運び込む。初めはとっつきにくい雰囲気のヴラドを警戒していた友春だったが、接するうちに過去にもヴラドに助けられた事を思い出す。そしてヴラドに自分を守ってくれた感謝を改めて述べ、亡くなった母親の記憶を完全に取り戻すのだった。土地の神としての立場だけでなく、心から人を助けたいと願って行動していると語るヴラドに、友春は親しみを抱くのだった。(第一話「吸血鬼ヴラド登場」)

狐のスギナは、吸血鬼で土地神でもあるヴラドの存在を知りつつも、当人とは気づかずにヴラドを襲ってしまう。スギナは神を襲ってしまった非礼を詫びて、命は取らないでほしいと哀願する。ヴラドはスギナがあと3日の命と見て取り、スギナ本人もそうを自覚していながら、なぜ命を惜しむのかと尋ねる。それに対し、スギナは重病で命の危ない人の娘、詩織のために万病に効く「カミイラズの花」が必要なのだと答える。(第二話「狐の花」)

ヴラドは新参の土地神で上吸血鬼でもある事から、多くの古参の神々から卑しいものとして見られていた。そんな神々の集まりに出席するのは気の進まないヴラドだったが、微弱な力しか持たない神達からは慕われており、いつも身体にまとわりつくがままにさせていた。そんな神達を乗せたまま集まりに出席したヴラドに、白蓮が声を掛ける。小さな神達が、高位な神である白蓮を恐れて四散する中で、1羽だけスズメの姿をした神が残る。小さなスズメの姿の神は、自分は力を奪われ、姿を変えられてしまった夜日古だと二人に訴える。白蓮は高位の神がそのような羽目に陥る訳がないと信じないが、ヴラドはスズメの主張を信じるのだった。(第三話「崇められたものたち」)

先代の土地神、月形が存命だった時代から神社の狛犬だった阿月は、新しく月形の領地を継いだ土地神のヴラドが気に食わない。阿月は、契約をしないと次第に力を保てなくなって消滅すると知りながら、ヴラドにはそれを隠し、契約を新たに交わそうとしない。ヴラドはその事を知ってショックを受け、吸血鬼の力が弱まる昼の光の下、神社から飛び出してしまう。その時阿月は、かつてヴラドが、先代が亡くなった時に狛犬の片割れが出奔した際、阿月だけでも残ってくれてよかったと言っていたのを思い出す。そして割り切れぬ思いを抱えながらも、自然とヴラドの顔が見たい気持ちに誘われ、ヴラドがいそうな場所へと向かうのだった。(第四話「欠けた阿吽」)

ある日、目覚めたヴラドは髪が真っ白になり、何者かに意識を乗っ取られてしまっていた。そんなヴラドが向かった先には、母親を恨む少年の博樹がいた。ヴラドの身体を乗っ取ったのは、かつて博樹の母親として暮らしていた雪女で、過去に博樹の母親に、子持ちと知らずに憑依し生活していたのだった。既婚者に憑依してしまった雪女は、まだ幼児だった博樹を殺して、新たな恋愛を楽しもうかと、一度は思っていた。しかしある日、高所から落ちそうになった博樹を咄嗟にかばった事がきっかけとなり、博樹に親愛の情を抱き、いっしょに暮らし続けたのだった。穏やかな日常はある日、11歳になった博樹が、白い女性が母親に入っていくのを見た、と打ち明けた事で終わりを告げる。正体を知られてしまうと人でいられる術が解けてしまう雪女は、博樹に別れも言えぬまま去る事を余儀なくされるのだった。完全に意識を明け渡さず、乗っ取られたふりをして雪女の真意を探っていたヴラドは、わが子に逢いたい気持ちからヴラドの身体を借りたのだと知り、雪女をある場所へと導くのだった。(第五話「温かな雪」)

第2巻

土地神の一人である酒呑童子が、幼女を連れてヴラドを訪ねて来た。そして酒呑童子は、自殺したいのに幼女の姿をした妖怪が邪魔をしてくるので、預かってほしいとヴラドに願い出る。神が死ねば土地の力が弱まってしまうと、ヴラドは強く諫めるが、酒呑童子は80年連れ添った人間の女性、千代が天寿をまっとうし、その寂しさに耐えられないと力なく語る。その様子を見たヴラドは思いとどまらせるのをあきらめるが、一方で幼女を預かる事は拒み、元いた場所へ帰してやれと伝える。酒呑童子を気にかけ、こっそりとあとを追いかけたヴラドが見たものは、予想以上に荒れ果ててしまった酒呑童子の土地だった。さらに、邪気に呼ばれた妖怪達は酒呑童子と千代が暮らした思い出の家に火をつけてしまう。(第六話「春の鬼」)

夜日古は、自身が開催する茶会に美女と謳われる曽祢峰を誘う。男嫌いで有名な曽祢峰だが、ヴラドか白蓮が参加するのなら行ってもいいと返答したため、夜日古は一生のお願いだと、ヴラドに懇願して参加の了承を得る。それを知った白蓮も自ら参加を申し出る。茶会の当日、なかなか現れない曽祢峰を不審に思った夜日古は、曽祢峰の控室にあった鏡を覗き込み、その中に囚われてしまう。鏡の中には曽祢峰と、彼女の兄であり白蓮に術をかけられて封じ込められたヒカワがいた。ヒカワは名のある神だったが、潔癖で罪を厳しく処罰した事で土地を荒廃させてしまったため、白蓮により鏡に封じ込められていたのだ。鏡から夜日古を救い出す作戦を立てるヴラドと白蓮は、吸血鬼のヴラドが鏡に映らない弱点を持つ事を利用し、夜日古を救い出す事に成功する。(第七話「神に映るもの(前編)」、第八話「神に映るもの(後編)」)

阿月は先代の月形と暮らした神社が大好きで、神社を傷つけられるのを何より嫌っていた。しかし、ヴラドを倒そうと襲撃して来る妖怪の手で神社は頻繁に破壊されてしまう。それが我慢できず、阿月はヴラドに出て行けと文句を言い、今日も扉を壊されて見通しのよくなったお社の中でふて寝していた。阿月の横で修理をしていたヴラドだったが、そこへ少年が現れ、迷い猫のコロタを探してほしいと願い出る。すると少年の持って来た迷い猫の絵は阿月にそっくりだった。眠る阿月を見た少年は、コロタが見つかったと、大はしゃぎでヴラドが止める間もなく阿月を連れ帰ってしまう。(第九話「狛犬憂愁記」)

ヴラドの治める土地で、記憶を失った妖怪が多く確認されるようになる。ヴラドは原因の究明に乗り出し、青年の姿をした、名前も忘れてしまった妖怪に「コンタ」と名付けて祭りに行き、おとりになろうとする。しかし、そこで記憶をなくしたコンタに宗吾と呼び掛ける妖怪達に出会い、宗吾は先代の神、月形を殺したヴラドを殺すと宣言している事を知る。妖怪達の記憶を奪っていた犯人は、かつて月形に仕えていた狛犬の片割れ、吽月だった。だが彼自身も記憶を失っており、共に神社を守っていた狛犬の阿月の問いかけにも応えずに、何処かへと立ち去ってしまうのだった。(第十話「夏の約束」)

第3巻

ヴラドの土地の川が氾濫し、人々が増水した川に囚われてしまう。ヴラドは原因を作った川の神の竜輝を宥め、事を収めたが、そのスキに黒鳥に記憶を奪われてしまう。川の様子を見に来た猫又のコロタはヴラドを助け出すが、記憶を失って過去の人格が現れたヴラドは、血に飢えた残虐な吸血鬼と化していた。夜日古は、別人のようになったヴラドの豹変ぶりに驚きながらも、傷ついた阿月を癒してやり、ヴラドの記憶を取り戻す手助けを申し出る。

黒鳥はかつて残虐な妖怪として知られていたが、人に討たれて首を失い、長く一人で暮らしていた。それを救ってくれた月形が死んでしまい、深く落胆した黒鳥は妖怪達の持つ月形の記憶を集め、人型に入れる事で月形を復活させようと計画していた。月形の神社の狛犬だった吽月は、ヴラドが神社を継いだ時に社を離れ、弱ったところを黒鳥に助けられた過去があるため、黒鳥の計画に加担して、自分の持つ月形の記憶も捧げていたのだった。白蓮は異変を知って黒鳥を討とうとし、そこへ夜日古も加勢に現れる。夜日古が連れて来た凶暴なヴラドを見た白蓮は、もし元に戻らない場合は殺すべきだと主張する。黒鳥に攻撃を加える事によって集めた記憶を放出させ、元の持ち主のもとに帰せると知ったヴラドは反撃を開始。記憶が零れ落ちていく中で、黒鳥が月形と交流していた思い出を垣間見る。そしてヴラドは、強い執着の基となったその記憶を黒鳥に返す事で、彼が同じ事をするかもしれないと理解しながらも、かけがえのない記憶を返そうと決断する。(第十一話「埋められた龍」、第十二話「最期の願い」、第十三話「月と黒」)

幼い頃から妖怪が見える蒼一は、その噂を聞きつけた大人達に、大金を積まれて養子になるように迫られる。しかしその申し出に怖気づいてしまい、誰とでもうまくやっていける双子の兄の紅一が、入れ替わりを申し出でくれた事で、その話に乗ってしまう。それから兄の紅一の消息を辿ろうとするものの、中年になった今も消息は摑めないままだった。神頼みにと訪ねた神社でヴラドと阿月の協力を得て、蒼一は兄の紅一に似た少女の紅葉と出会う。蒼一は紅一の事を尋ねるが、紅葉は返事もせずに逃げ出してしまう。家の扉を閉め、追いかけて来た蒼一との会話を拒む紅葉に対し、蒼一は身元を明かし、兄の事を尋ねる。紅一は既に亡くなっていると知った蒼一は、せめて紅葉の顔を見たいと言葉を掛け、紅葉は扉を開ける。すると屋敷から巨大な蛇が現れ、蒼一の顔を見た途端に襲いかかって来るのだった。それは紅一が世話をしていた、屋敷の中に潜んでいた蛇の姿の守り神だった。(第十四話「優しい噓」)

ヴラドは夜日古から温泉に誘われる。混浴の温泉地へ出会いを求め、人に化けてまでやって来た二人は、友人の黒鳥と共に訪ねた温泉地はどこも閉店状態だった。不審がる一行の前に、温泉の復興を神頼みをされたのだと白蓮が現れる。白蓮を加え、温泉が出なくなった原因を探る一行は、温泉を作っている土地の神の夫婦、火陽水凪を訪問する。しかし、そこで出会ったのは相思相愛の夫婦との評判とはかけ離れた、ひがみっぽい老婆姿の火陽と、年若い少年のような見た目の水凪だった。しかも女神の火陽は、水凪が浮気したから追い出したのだと語るのだった。(第十五話「火と水」)

第4巻

ヴラドの治める土地に、妖怪の暮らす常世と現世をつなぐ道、妖道が発生する。ヴラドは先日の温泉街での湯源の枯渇騒動も、妖道が発生したために起きたのだと阿月から聞き、妖道に出向いて対策を講じようとする。しかし、そんなヴラドを、阿月は既に高位の神である三神が動いていると、止めるのだった。そんなやりとりをする二人の前に、妖道から三神の一人である和多津が現れる。記憶を頼りに妖道を辿り、常世を目指す和多津は極度の方向音痴であり、まったく常世にたどり着けないでいた。和多津は案内人としてかつて常世に住んでいた黒鳥を頼り、領地に妖道が発生する原因を突き止めたいヴラドも二人に同行する。しかし、常世の手前で落盤に巻き込まれ、ヴラドと阿月、黒鳥とお供の吽月は和多津とはぐれてしまう。妖怪達に囲まれたヴラドは機転を利かせ、意識不明になってしまった黒鳥らを、自身が血を吸うための食糧だと妖怪達に信じ込ませ、黒鳥らの手当てを命じつつ、自分達への手出しを控えさせようとする。ヴラドはさらに妖怪を脅し、妖道が開いてしまった原因を探り始め、統領が人間の娘、近江鈴を探して、妖道を開けているのだとの情報を摑む。手がかりを得たヴラドは眠ったままの黒鳥のところに戻るが、そこには事件の鍵を握る娘の鈴に憑依された黒鳥が待っていた。(第十六話「通りゃんせ」、第十七話「捜しもの捜すもの」、第十八話「憂える蝶」)

ヴラドは夜日古に一生のお願いの8回目を切り出され、仕方なくその申し出を聞き入れる。またナンパかとの予想に反し、今回は春を彩り、開花に影響を与える春神さまの呼春に贈る花を活けてほしいとの依頼だった。その春に咲いた花を使い、呼春に感謝を伝える行事で、夜日古はいつも満足して受け取ってもらっていたが、今年に限って何度作っても満足してもらえない。ヴラドは得意の裁縫技術を駆使し、手のりサイズの阿月のマスコット人形をちりばめた生け花を差し出す。そこに同じく夜日古に声を掛けられた黒鳥、和多津も現れ、それぞれ花を贈ろうとする。しかし、誰の花にも呼春は満足しない。そんな中、ヴラドは最初に夜日古が活けた花を見つけ、その素晴らしい出来栄えに驚く。そして改めて夜日古は、なぜ呼春が花を受け取ってもらえなかったのかと疑問を抱く。そこへ白蓮が現れ、呼春はもう春神を辞めたと告げるのだった。(第十九話「春の情愛」)

ヴラドが治める土地が、龍神の降らせる雨によって深刻な被害を受ける。ヴラドは龍神を宥めようと説得を試みるが、高位な神である龍神はまったく耳を傾けようとはしない。奇しくもそれは、かつてヴラドが土地神の月形と出会い、やがて神殺しの名を冠されながらも、後継者となった経緯に似た状況を呈していた。豪雨により堤防は決壊寸前で、ヴラドの治める土地の人々の命は危ぶまれていた。ところが、危ういところで龍神は何者かに殺され、ヴラドの土地は守られるのだった。過去にも似た状況下で龍神を殺した前歴を持つヴラドは、高天原から「龍神殺し」の嫌疑をかけられ、追われる身となってしまう。(第二十話「晴天の嵐」)

第5巻

土地神のヴラド龍神を殺した嫌疑をかけられ、神の国である高天原から追われる身となった。ヴラドは過去に神を殺した前歴を持つために疑われたのだが、ヴラドの過去を知る白蓮は、彼がそんな事をするわけがないと断言する。そして白蓮からヴラドの神殺しの過去、月形の後継者となった経緯を聞いた夜日古もそれに同意し、その場にはヴラドを信じる協力者として黒鳥和多津阿月吽月が集う。高天原からの使者、禍津日神は、ヴラドが罪を犯したかどうかの審議もせず、龍神を宥めるために、見つけ次第殺そうと考えていた。そのため、禍津日神よりも早く、罪人とヴラドを見つけ出さねばならない。集まった顔ぶれに加え、曽祢峰酒呑童子も助太刀に現れ、荒ぶる龍神が激しい雨を降らせる中でヴラド捜索が行われるのだった。しかしやっと見つけた手負いのヴラドは、なぜか頑なに真犯人の名を語ろうとしない。(第二十一話「八百万の神」、第二十二話「よき出逢い」、第二十三話「月はまた昇る」、第二十四話「守る者」、第二十五話「生きて笑って」)

幼い頃から妖怪が見える少年の勇也は、姉の美咲の結婚を祝福したい気持ちを抱いていた。しかし、もし参列した時に変な素振りをしてしまったらと気が引けて、挙式には行かないと言ってしまう。勇也の家には大柄な黒い妖怪、鞄にまとわりつく毛糸玉のような妖怪が住み着き、その妖怪達に囲まれながら暮らしていた。勇也は見ないふり、聞こえないふりを続ける生活を送っていたが、前夜に姉の結婚に行けないと言ってしまった事で動揺し、いつもの注意を怠ってしまい、うっかりヴラドと阿月が乗る妖怪の列車に乗ってしまう。(第二十六話「幸せ列車」)

第6巻

ヴラド阿月が自分達の神社の社殿でくつろいでいると、表から大きな柏手が聞こえて来る。大男がやって来たに違いないと様子を見に出た二人の前には、賽銭箱の前で手を合わせ、佐久間君と両思いになれますようにと、大声で願をかける小柄な女子学生の月島ほのかの姿があった。ヴラドはその願いを受け、手始めに人間に化けて恋のハウツー本を数冊購入しようとする。ところがそれを、女性をナンパするために人に化けていた夜日古に目撃され、恋する相手がいるのかと誤解されてしまう。そこにヴラドが好きな曽祢峰も現れ、ヴラドは縁結びが苦手なのだと二人に打ち明けるのだった。夜日古と曽祢峰は、ヴラドは人だった頃に二度結婚している事を知り、なぜ男女の心の機微がわからないのかと驚く。しかしヴラドは、政略結婚しか経験しておらず、人を好きになる感覚がわからないのだと悩みを打ち明ける。(第二十七話「紅く染まる秋」)

和多津は、黒鳥の神社が気に入ったと口にして入り浸っていた。しかし黒鳥は、和多津の何を考えているのかわからないところが気に食らず、顔を見れば出て行けと文句を言う。そんなある日、和多津は黒鳥の目の前で高熱を発して倒れてしまう。何もしていないと思っていた和多津が、熱を出すほど穢れを払い、神として働いてい事を知った黒鳥は、自身に仕えている吽月に和多津の世話を任せ、高熱に効く薬草があると言われている険しい崖をのぼる。黒鳥は妖怪達に襲われ、ボロボロになりながらも薬草を手に入れる。しかし、神社にはヴラドや夜日古、白蓮が見舞に訪れ、高価で稀少な薬を持ちよっていた。黒鳥は取って来た薬草が見劣りすると思い、神社に戻らず木の根元に薬草の包みを隠すが、そんな黒鳥の行動はすべてお見通しであった。(第二十八話「ばればれ」)

ヴラドの治める土地に現れた男の子は、自分の名前をはじめ何の記憶も思いだせない。雪遊びをしていた大地達に仲間に入れて貰い、楽しい時をひととき過ごしていた。大地は何も思いだせない男の子に、自分の家の子になればいいよと誘う。しかし男の子は、山に行かなければと虚ろな表情で言い、日暮れの山は危険だと大地が止めるのも聞かずに雪山へ向かってしまう。行く道すがらに、男の子は自分の名前が六助だと思い出す。六助は貧しい農家の六男で、病弱で役立たずな存在だった。不作続きの冬、父親は母親に六助に食料を与えないよう言いつけたが、母親は見捨てる事ができず、自分の握り飯を与え続けていた。そんな優しい母親が倒れてしまった事で、六助は自分を責め、自ら命を絶つために雪山に入って死んでしまう。すべてを思い出し、我に返った六助は、自分を心配してついて来てしまった大地を助けてもらうために町へと駆け戻るが、妖怪の自分の姿も声も人の目には入らない。ついに力尽きて倒れそうになった六助の前に、ヴラドが現れて手を差し伸べる。(第二十九話「冬に囚われた子供」)

白蓮は夜日古との神事に参加するのを嫌い、ヴラドに代役を頼み、代わりにヴラドの神社の留守番をする事となった。そこへ母親の大事な指輪をなくしてしまい、見つかるようにと願を掛ける少女の智恵が現れる。阿月はいつものように探しに行こうとするが、白蓮はそれを拒絶する。そしてすべての願いに手を貸してしまったら、人の成長の妨げになると語る。阿月はそれを聞き、かつて自分が仕え、誰よりも大事に思っていた月形の面影がいつの間にかヴラドと過ごす日常に塗り替えられてしまったのかとうろたえる。月形を失った悲しみが、自身の気持ちから薄れていると自覚し、それを薄情な事のように感じる阿月。阿月は頭を冷やすために一人で歩いていた先で、指輪をなくした智恵が妖怪に狙われていたところを助ける。探しているのが母親の形見の指輪だと知った阿月は、新しい母親の事は好きだが、新しい母親を受け入れるのは、亡くなった母親を忘れるようで気が咎めると語る智恵に、自分の葛藤を重ねる。(第三十話「君を想う」)

白蓮は自分よりも少し年上の神である夜日古を嫌っていた。しかしそれは幼い頃から、夜日古と何かにつけて比べられてきた、やっかみから生まれた感情だった。努力を重ねて評価を高め、今の地位を築いた白蓮は、自然体でみんなに好かれる夜日古の事を密かに羨ましいと思っていた。そんなある日、白蓮が目覚めると、姿が夜日古になっていた。狼狽える白蓮の目の前に、かつて妖怪から巣を守ってくれた恩を返しに来た「天覧」と名乗る鳥が現れ、白蓮が望む姿に変身させたと告げて飛び去っていく。それと入れ替わりに白蓮の姿になった夜日古が現れ、状況の説明を求めるのだった。周囲の混乱を避けるため、天覧の説明を聞いてしまった夜日古の神使スグル以外に事実を伏せ、入れ替わり生活を始めた二人。完璧に仕事をこなす夜日古の姿をした白蓮は、別人のようだと、神使達の尊敬の眼差しを集める。しかし、自身の姿をした夜日古を囲む白蓮の神使達が満面の笑みを浮かべているのを見てしまった白蓮は、満たされない思いに再び苛まれる。(第三十一話「一番星」)

ヴラドは時折、月形が出て来る夢を見る。思い描く神様になれたか、そしてどんな神様になりたいのかと訊かれ、月形のような神になりたいと答えると、月形は寂しそうな顔をして笑うという夢だった。ヴラドはその夢を見たあとはどうもやる気が出ず、うとうとと神社で眠って過ごしてしまう。そこへ妖怪達が、学校に悍ましい姿の者が現れたので退治してほしいと依頼にやって来る。妖怪達は、かつて月形との激闘の末に封じられた妖怪を祀った祠が生徒によって破壊され、封印が解かれてしまったとの経緯を語るのだった。(第三十二話「生きる道」、最終話「土地神ヴラド」)

登場人物・キャラクター

ヴラド

吸血鬼の青年。黒髪ストレートロングヘアで、夜日古からは後ろ姿を女性と間違われてしまう事がしばしばある。月形の治めていた土地に、100年以上前に流れ着いた。最初は好戦的な性格をしていたが、月形と共に過ごすうちに穏やかな性格になった。しかし妖怪達のあいだでは、現在も冷酷無慈悲な土地神との噂が流れている。過去、小国の領主だった時に、感情を伴わない政略結婚を2回経験しており、恋愛感情を汲み取る事が苦手。 そのため、縁結びなどの恋愛関係の願い事を叶える技量に欠ける。身長は185センチ。好きなものは甘いものと裁縫。日光が苦手で、昼の光の下では動きが鈍くなってしまう。また吸血鬼なので鏡にも映らず、川も渡れない。

友春 (ともはる)

高校生の少年。ヴラドの暮らす神社のある町に住んでいる。幼い頃に母親とよくお参りに行った神社で、女性の姿をした鬼に食われそうになったところをヴラドに助けられた。

スギナ

妖狐という種族の妖怪。人に化ける事が可能で、狐の姿と少年の姿を使い分けて暮らしている。神の神聖な場所に侵入した事で呪いを受けて、妖怪ながら限られた命となった。病のため余命僅かの少女、詩織と出会い、ケガを手当てしてもらった事がきっかけで、彼女の事を大切に思うようになる。詩織のため、病に効くカミイラズの花を取りにヴラドの領地に向かった。 詩織からは「キツネさん」と呼ばれている。

詩織 (しおり)

人間の少女。黒髪のミディアム丈のボブヘアにしている。病に侵され、医師からはもう余命いくばくもないと診断されており、家族には家で看取る事を望まれている。ケガをした狐の姿の妖狐、スギナを見つけて部屋に呼び、看護した。その後、元気になっても何度も会いに来てくれるスギナの事を「キツネさん」と呼びかわいがっていたが、次第に病状が悪化し、起き上がる事も困難になっていく。

白蓮 (はくれん)

男性の姿をした神。38柱いる土地神の中で最も恐れられている、高位の神、三神の一人。狐のような耳が頭の上部にある長髪の青年で、身長は181センチ。好きなものは美しいもの、嫌いなものは夜日古。だが、夜日古への苦手意識は、誰にでも好かれる彼の人徳へのやっかみも混じっている。月形とは旧友であり、彼が後継者として選んだヴラドの事は白蓮なりに気にかけている。

夜日古 (やひこ)

男性の姿をした神。38柱いる土地神の中で最も恐れられている、高位の神、三神の一人。ヴラドよりは年上の、名のある土地神だが、美女の誘惑に弱く、一度身体と力を妖怪に乗っ取られてしまった事がある。身長は190センチ。好きなものは女性、苦手なものは白蓮。だが、白蓮に対しては自分にないものをたくさん持っていると認めており、苦手意識を抱いているだけで、本当は仲がいい。 大らかで人に好かれやすい性格の持ち主。部屋は散らかし放題にしていても平気な、ズボラなところがある。

スグル

男性の姿をした、夜日古に仕える神使。身長は170センチ。仮面をかぶっているが、その下の顔は、年頃の女性揃いの曽祢峰の侍女達を騒がせるほどの美少年。夜日古の事を尊敬しており、誠心誠意尽くしている。

阿月 (あづき)

ヴラドの神社の狛犬。もちもちと丸みを帯びた、猫か犬のような姿をしている。先代の神、月形が存命していた頃は、月形に仕えていた。領地を引き継いだヴラドの事を、当初は気に食わないと思っており、ヴラドと契約を新たに交わさなければ、やがて自身が消滅してしまう事を知りながらも、それを隠していた。しかし、ヴラドが寂しがるかもと躊躇い迷っていたスキに、強引に契約の儀を行われてしまった。 以降は文句を言いながらもなかよく過ごしている。夜日古がヴラドに一生のお願いを連発するのを見て、こういう頼み方をする奴は一生繰り返すと突っ込むなど、辛辣なところがある。犬のような耳を持つ人間の青年の姿になる事も可能で、その際の身長は176センチ。好きなものは神社で、嫌いなものは神社を傷付ける者。

博樹 (ひろき)

学生の少年。11歳の時に、何も言わずにいなくなった母親を恨んでいる。だが、本当の母親は随分前に亡くなっており、当時博樹が母親と思って共に暮らしていたのは、母親の亡骸に憑依した雪女だった。博樹は幼い頃に眠る母親に白い女性が入っていくのを目撃しており、その日から母親が別人になったと感じていたが、それは自分の気のせいだと思っていた。 しかし、11歳の時にその話を母親にしてしまう。それが原因で雪女は人の姿を保てなくなったが、博樹は自分の言葉が原因で母親を失う事になったとは気づいていなかった。

雪女 (ゆきおんな)

若い女性の姿をした妖怪。亡くなった人間の女性の身体に取り憑き、人生を謳歌する事を望んでいる。これはあくまで恋をして子を産み育てる事を願っての行動であり、さほど有害ではない事から、神にも見逃されている。睡眠中に亡くなってしまった博樹の母親の身体に取り憑いた。しかし既婚者で、子供もいる女性の身体とは気づかず、よちよち歩きの博樹を疎んじて殺そうとしていた。 だが次第に情が湧いてしまい、博樹の母親として暮らす事を選んだ。幼い博樹に母親の亡骸に憑依するところを見られており、成長した博樹がその事を打ち明けたため、人の姿を保てなくなり、博樹に別れを告げる事もできないまま姿を消した。再び博樹に会いたい一心で憑依できる身体を探しており、棺桶で眠っていたヴラドを死人と間違えて取り憑いてしまう。

酒呑童子 (しゅてんどうじ)

額に左右対になった角が生えている男性の鬼。土地神の一人。山に口減らしのために捨てられた人間の幼女、千代を捨ておけず、食事を与えて世話をするうちに恋愛感情を抱くようになった。鬼の姿を見せては千代が怖がると思い、彼女の前では目だけ出した状態で顔を包帯で覆い、それを外す事はなかった。先に天寿をまっとうした千代のあとを追おうとして自殺を試みているが、子花と名乗る少女に毎回邪魔されて失敗している。 身長は203センチで、好きなものは千代と子花。

千代 (ちよ)

口減らしに山に捨てられた女の子。酒呑童子に拾われ、小さな家を建てて二人でなかよく暮らしていたが、天寿をまっとうし、酒呑童子を残して亡くなった。自分が先立つ事で酒呑童子が悲しむだろうと案じており、二人の子供代わりにと、「子花」と命名した桜を庭に植えて遺した。

子花 (こはな)

幼い少女。長年連れ添った女性、千代に先立たれて気落ちした酒呑童子が、あとを追うため自殺しようとするたびに現れては、彼を止めている。その正体は、千代が酒呑童子と千代の子供の代わりにと、庭に植えた桜の木の化身。

曽祢峰 (そねみね)

若く美しい女性の姿をした神。狐のような耳を持つ。ヒカワの妹。38柱の土地神の中で、最も見目麗しいと謳われているが、男嫌いで有名。白蓮に姿を人に変えられ、地上に落とされたが、ヴラドに救われる。以降、彼に好意を寄せるようになる。

ヒカワ

青年の姿をした神。狐のような耳を持つ。曽祢峰の兄。妹の曽祢峰に対し、清らかなまま成長してほしいと願うあまり、屋敷から一歩も出さずに育てていた。下界の小さな罪も許さず、土地のものを断罪し尽したために領地が荒れ果ててしまい、その科(とが)により白蓮に鏡に封印される事となった。以後も鏡に映った相手を取り込み、力を蓄えて逆襲の機会を窺っていたが、鏡に映らない吸血鬼のヴラドの手で倒される。

コロタ

妖怪が見える男の子に飼われている猫。その正体は猫又で、変幻自在に大きさを変えられる。たまたま普通の猫の大きさになって、くつろいでいたところを男の子に拾われ、彼のもとで自由気ままの生活を満喫していた。ある日、妖怪と人間は住む世界が違うと思い立ち、ふらりと姿を消したものの、居心地がよかった男の子のもとを忘れられず、彼のところへ戻った。

宗吾 (そうご)

青年の姿をした妖怪。幼い頃、化けるのが下手だったために、祭りに連れて行ってもらえなかった苦い経験がある。成長し、夏祭りの夜に人に化けて人混みの中にいたところを、吽月に記憶を奪われる事となった。しかし、あまり変わらない日々の暮らしを繰り返しているため、記憶を奪われた事になかなか気づかなかった。先代の土地神、月形を慕っており、月形の敵討ちにヴラドの命を狙っていたが、その記憶を奪われたあとで当のヴラドに保護され、名無しは不便だと「コンタ」と名付けられ、共に祭りを楽しむ事となった。

吽月 (うんづき)

青年の姿をした、神に仕える狛犬の片割れ。ヴラドが継いだ神社の狛犬のうちの一体。阿月と向かい合っていたが、先代の月形が死んでしまった時に神社を離れた。その後、行き倒れていたところを黒鳥に助けられて以降は、黒鳥に仕えている。犬のような耳を持つ人間の青年の姿をとる事もできるが、黒鳥がヴラドと友人関係になってからは、大きな猫か犬くらいの大きさの、もっちりとした姿の四足歩行の狛犬の姿をとっている事が多くなった。 ちなみに四足歩行のまるっこい狛犬姿になる時は、阿月の毛皮の色は白、吽月の毛皮の色は黒くなる。

月形 (つきがた)

青年の姿をした神。ヴラドの前代の土地神で、長年人を慈しみ、土地を守り続けていた心優しい神。異国から流れ着いてすぐに人々を襲ったヴラドを圧倒的な力で倒したが、ヴラドの芯の強さを認めて稽古をつけながら傍に置いていた。白蓮と旧友で、祠に籠っていた黒鳥に生気を取り戻させて交流を持つなど、社交的で顔の広い土地神だった。 龍神が起こした洪水に領土が流され、人が死んでいく中で高天原から遣わされた禍津日神がヴラドを殺そうとしたのを止め、人を守るために龍神を殺したヴラドの罪を自身の命で償った。

黒鳥 (くろとり)

青年の姿をした神。月形と親友だった土地神で、かつては残虐な妖怪だったが、人に討たれ、長い間首を失った状態で閉じ籠っているあいだに人に祭られ、神となった。首を失ったままで社に引き籠り続けていたが、ある日月形が首を見つけて来た事で五体を取り戻す。その時の黒鳥は過去の行いを悔いており、首のない状態で潜んでいる事が己に相応しいと、月形の持って来た首を拒んでいた。 それを卑屈だと意見された事に立腹し、いつか月形の首を取ってやると宣言していた。死んでしまった月形の事を忘れられず、人の記憶を奪い、それを集めたものを魂として定着させた人型を作ろうとしていた。その計画に吽月を巻き込んでいたが、ヴラドに倒され、改心する。顔の左半分に黒い模様があるが、それは月形が施した術で首と胴体をつなぐためのもの。 身長は175センチ、好きなものは吽月、月形。

竜輝 (りゅうき)

水の中では人の倍以上もある大きさの金魚の姿をしている、川の主。月形が治めていた頃には、彼の神社の前に流れていた川の主の龍だった。だが埋め立てられ、氾濫しないようにずっと水中に留め置かれていたために、寂しさから妖怪と化してしまった。ヴラドの説得に応じ、長く願っていた地上に連れ出してもらった。それからの居場所をヴラドの神社の金魚鉢の中に定め、金魚のような姿をして飼われている。

紅一 (こういち)

中年の男性で、双子の弟、蒼一の兄。どこででも誰とでもうまくやっていける事が自慢の、朗らかで人に好かれやすい性格。弟の蒼一は妖怪を見る事ができ、妖怪が見えない紅一はその話を楽しんで聞いていた。ある時、妖怪が見えると噂される蒼一を、養子にしたいと現れた大人に引き取られる事になり、怯えていた蒼一と入れ替わって養子になった。 その時から「蒼一」と弟の名を名乗り続けている。引き取られた先では妖怪の姿を見る事はできなかったが、守り神の守りをして良好な関係を築いていた。結婚して娘の紅葉を授かったが、蒼一が所在を探しあてた2年前に亡くなっている。

蒼一 (そういち)

中年の男性で、双子の兄、紅一の弟。昔から妖怪が見え、言葉も交わす事ができる。それが原因で実の母親には不気味がられており、ある時、妖怪の見える蒼一を養子にしたいと、大金を持って現れた大人に連れて行かれそうになった。しかし、怖がる蒼一を心配した兄の紅一が蒼一と入れ替わった。その時から「紅一」と兄の名を名乗り続けている。 兄に会いたいとヴラドの神社に願掛けにやって来て、そこでヴラドと阿月に助けられて兄の足跡をたどる。

紅葉 (もみじ)

十代半ばほどの、学生の少女。紅一の娘で、父親の紅一と叔父にあたる蒼一に似た顔立ちをしている。先祖が力の強い妖怪を手懐けて、家に囲い続けている。そのために家が栄え、立派な家に住んでいる。家に守り神がいる事を知っており、父親の紅一が守り神の世話をしていたのも理解している。父親を2年前に亡くし、守り神が執着してはいけないと、父親の遺品も燃やされてしまった事を悲しんでいる。

守り神 (まもりがみ)

大きな蛇の姿をした妖怪だった神様。紅葉の家に代々住み着いている。一つ目で、見た目は恐ろしいが、守り役として交流していた存在だった紅一の事をとても気に入っており、その死を知って涙した。

火陽 (ひよう)

山に住む火の女神。老婆のような姿をしている。もともとは若い美女で、夫の水凪とお似合いの夫婦といわれていた。力を使った事で容姿が老いてしまった事を気にしている。見た目が少年のように若い夫の水凪には、自分は相応しくないと思い、わざと悪態をつき遠ざけようとしている。

水凪 (みずなぎ)

山に住む水の男神。少年のような姿をしている。火陽の夫。火陽が力を使った事で若さを保つ力を失い、老婆のような見た目になってしまったが、変わらぬ愛を誓っている。

和多津 (わたつ)

青年の姿をした土地神。力のある三神の一人。ヴラドの住む神社の裏手に開いた妖怪の通り道、妖道に常世を目指して入った。しかし、49回も道に迷ってしまうなど、重度の方向音痴。神々の集会や夜祭りには顔を出さず、存在しないとまでいわれている謎めいた神でもある。黒鳥を気に入り、妖怪の統領を倒すために妖道を通っている時に、どさくさに紛れて、黒鳥の背中に目印をつけた事で、それ以降は方向音痴に悩まされる事なく、黒鳥のいる場所に現れるようになった。 黒鳥の神社が気に入り、入り浸っている。身長170センチ、好きなものは媚びぬ心、嫌いなものは地図。

源吉 (げんきち)

少年の姿をした妖怪。背中に羽を生やし、常世に住んでいる。神を食えば、その力を得られるため、現世につながっている妖道を通り、現れたヴラドを退治しようと狙っていたが、返り討ちにされて捕えられる。妖道が発生する原因を探っており、手がかりとなる妖怪の統領の情報を探していたヴラドから、串刺しにすると脅されたため、恐怖に負けて統領についての情報を漏らしてしまう。

近江 鈴 (おうみ すず)

人間の少女。現世と常世をつなぐ道である妖道内で命を落とし、以降は怨霊と化して妖道を彷徨っていた。ヴラドが治める土地に開いた妖道の調査のため、和多津と黒鳥とで常世へと妖道を辿っている時に、落盤に巻き込まれて気を失った黒鳥に憑りついた。黒鳥の身体を借りなければ言葉を伝える事もできない。近江鈴は手先が真黒で爪が鋭く、新生児の時に身体を投げ飛ばされても生きていた事から、村人に「鬼子」と呼ばれて疎まれていた。 格子を嵌められた洞穴に閉じ込められ、隔離される辛い境遇にあった。成長するにつれ寂しさを募らせ、言いつけを破って外に出て、鈴を恐れた村人に殺されそうになったところを、妖怪を束ねる統領に助けられた。

統領 (とうりょう)

人の胴体から鳥のような翼を生やし、下半身は大蛇の姿の巨体の妖怪。頭部から首までの大きさが青年の背丈ほどある。妖怪を束ねる存在。常世側から現世とをつなぐ道、妖道を頻繁に開けている犯人で、その目的は、妖道のどこかにあるとされる近江鈴の遺体を見つける事だった。鈴は統領と人の女性のあいだに授かった娘で、手先が真黒で爪が鋭いところや、癖のある黒髪がよく似ている。

呼春 (こはる)

夜日古より年長の神様。春を彩る春神で、機嫌の良し悪しは花の開花に影響を及ぼし、機嫌がいいと満開の花を咲かせる事ができ、機嫌が悪いと蕾は減り、開花が遅くなってしまう。そのため、三神の夜日古、白蓮は、毎年春に咲いた花を活けて、豊かな春への感謝を表して贈っている。その中でも夜日古が贈ってくれる邪念のない生け花を気に入っていた。 余命僅かの老爺が待ち望んでいた枯れかけの梅の開花を、ちっぽけな仕事と感じて後回しにしたあいだに、老爺を死なせてしまった事がきっかけで、花を咲かせられなくなってしまう。

龍神 (りゅうじん)

空を覆い尽くす程の長い蛇に似た胴部を持つ神。地上に激しい雨を降らせるが、何ものにも干渉せず、干渉もされない存在。雨を阻む事は誰にもできない。個別に名前を冠されていないが、龍神は複数個体が存在している。龍神が殺された時は一時的に雨が止む。過去、ヴラドが月形と共にいた時に、月形の領地に降雨で甚大な被害を与えている。 その時のヴラドはそれを見過ごせず、神の国、高天原から降った禍津日神の前で龍神を殺した。その龍神殺しの罪を、月形は自身の命で贖っている。

禍津日神 (まがつひのかみ)

青年の姿をした神。神の国、高天原からヴラドを殺すために地上に降りて来た。占いで、ヴラドがいつか災厄をもたらすと出たために、命を奪おうと何度も刺客を送っていたが、密かに月形がそれを撃退していたため、直接手を下そうと現世に来た。ヴラドの命を狙う刺客と戦いを重ねた月形は弱り臥せっており、龍神が月形の領土に豪雨を降らせていたのと重なっていた。 ヴラドは命を奪われる事を受け入れたが、その前に龍神を倒してでも溺れかけた人を救おうとした。そんなヴラドの姿を見た禍津日神は、今まで気にしなかった人の命を気にかけるようになる。

勇也 (ゆうや)

学生の少年。美咲という結婚を控えた姉がいる。妖怪が見え、声も聴く事ができるため、妖怪を呼び寄せてしまう事を気にしている。幼い頃から自分の言う事を信じてくれて、勇気づけてくれていた姉の結婚式に参列し、祝福したいと願っている。しかし自分が妖怪を呼び寄せ、姉の大事な人達に憑りついてしまっては申し訳ないと思って、参加をあきらめた。 ヴラドの神社での神頼みに託し、結婚式に参加したいと願った。

美咲 (みさき)

若い女性。弟は学生の勇也。明るく素直な性格の持ち主。妖怪が見える事で幼い頃から独り言が多く、挙動も人とは違う勇也が、虐められているのを助け、励まし続けていた。結婚式を控えているが、勇也に列席を拒まれ、その事を気に病んでいた。

月島 ほのか (つきしま ほのか)

学生の少女。小柄で、引っ込み思案な性格の持ち主。ヴラドの神社に佐久間との縁結びを願掛けに通っていた。その時はヴラドと阿月をびっくりさせるほどの大声で、両思いになれますようにと願いを口にしたが、普段はとても小さい声でしゃべる。

小太郎 (こたろう)

少年の姿をした新参の土地神。もともと人だったが、虐められてばかりの暮らしを嘆き、優しく手を差し伸べてくれた月形に逢いたいと願っていたところに付け込まれ、妖怪に取り込まれてしまう。ヴラドの治める土地に建つ学校の祠に、月形によって封じられていたが、祠が壊れてしまったため、悍(たくま)しい姿で校内に現れて徘徊していた。 ヴラドによって生徒達に祀られていた年月を思い出し、神としての自覚を取り戻した。

集団・組織

神使 (しんし)

神に仕える存在。夜日古や白蓮に仕え、人の姿をしている。自分達の事を剣や盾などと同じ存在と考えており、個性は不要と考えているため、普段は仮面をかぶってその存在を消している。

場所

常世 (とこよ)

妖怪達が暮らしている世界。現世とは妖道でつながっている。地中にあってつねに暗いため、提灯が町の随所にかかっており、昔の長屋町のような景観が広がっている。一番強い妖怪が統領になるという決まりのもと、さまざまな種族の妖怪が集まって生活している。

妖道 (ようどう)

妖怪達が暮らしている世界である常世と、人が暮らす現世をつないでいる道。妖怪の暮らす常世では一番強い妖怪が統領になる決まりがあり、統領の力が弱まると統領争いが起きて治安が悪化するため、現世に逃れたい妖怪が開ける事が多いとされている。しかし、ヴラドの治める土地に開いた妖道はただ開いただけで、妖怪が通り道に使った形跡は感じられなかった。

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