「格好いい竜馬を描きたい」という鈴ノ木ユウ
司馬遼太郎による原作小説は、国民的ベストセラーとも言える大ヒット作品である。産経新聞掲載の鈴ノ木ユウへのインタビュー記事によると、編集部から漫画化の打診を受けたときは、強いプレッシャーを感じ、「絶対無理」だと思ったという。高校生の頃に漫画『お~い!竜馬』(武田鉄矢原作、小山ゆう作画)と出合い、大学生で小説『竜馬がゆく』を読んで心を奪われた鈴ノ木にとって、竜馬は憧れの存在なのだ。しかし、21世紀を担う子供たちに向けた司馬のエッセイ『二十一世紀に生きる君たちへ』を読み、「自分の竜馬が描ければいい」という気持ちになり、連載開始を決意した。その結果、人を惹きつけてやまない変わり者で、時にデフォルメされたコミカルな姿を見せる、鈴ノ木ならではの竜馬が誕生した。また、「コウノドリで描きたかったのは格好いいお医者さん。今作でもつい憧れてしまうような、格好いい竜馬を描きたい」という言葉どおり、シリアスなシーンでは、格好よく艶やかな姿の竜馬を堪能することができる。
幕末ヒーロー・竜馬の、漫画ならではのアクションが魅力
国民的作家・司馬遼太郎の代表作である原作小説は、数々の実写ドラマが作られた人気作で、今日の「坂本龍馬(竜馬)」のイメージを形作った小説だといわれている。史実に忠実だと信じる人も少なくないが、あくまで歴史に基づいたフィクションである。エピソードには多くの創作が盛り込まれ、幕末ヒーローとしての竜馬がより劇的に描かれている。本作はそんな司馬小説のコミカライズであり、原作同様「格好いい竜馬」が活躍する。特に、道場での稽古や他流派との真剣勝負、桂小五郎との剣術試合など、漫画ならではの剣豪同士のアクションは、本作の大きな魅力である。
魅力的な架空キャラクターも登場
本作及び原作小説には、実在人物だけではなく、創作上の人物も登場する。例えば、竜馬の初恋の人として描かれる「お田鶴」は、司馬による創作であり、土佐勤王党の平井収二郎の妹・平井加尾がモデルという説がある。お田鶴は土佐藩家老福岡家の娘という設定であり、福岡家の預かり郷士(下級武士)である竜馬とは身分差が大きい。そのため、土佐の身分制度が2人の恋の妨げとなる、印象的なエピソードとして描かれる。また、竜馬に命を救われ、子分となる「寝待ノ藤兵衛」も実在人物ではない。しかし、諜報活動を行う泥棒という藤兵衛は、本作に彩りを加えるキャラクターである。
登場人物・キャラクター
坂本 竜馬 (さかもと りょうま)
土佐藩郷士の次男として生まれた幕末の志士。幼少期に母を亡くしてからは、ふさぎこむことが多く、近所の子どもたちには「寝小便(よばあ)ったれ」と呼ばれて泣かされていた。すぐ上の姉、乙女に叱咤(しった)激励され、「たくましく育ってほしい」という生前の母の期待に応えることを心に決める。小栗流日根野道場に入門後は、めきめきと剣術の腕を上げ、別人のようなたくましい青年に育つ。19歳で小栗流の目録を手にし、剣術修行のために江戸へと旅立つ。歴史上の人物、坂本龍馬をモチーフにしている。
お田鶴 (おたず)
土佐藩家老の福岡宮内の妹。土佐で一番の美人だと噂(うわさ)に高い。女正月の日に正体を隠してお詣(まい)りしていたとき、偶然、坂本竜馬と出会い、竜馬の素直で飾らない性格に惹(ひ)かれる。
桂 小五郎 (かつら こごろう)
長州藩士で神道無念流・練兵館塾頭の男性。藩医和田家に生まれるが、8歳の時に武家の桂家の養子になる。文武両道の俊才として知られ、吉田寅次郎(松蔭)が兵学師範を務める「明倫館」に学ぶ。江戸で剣術修行を行い、わずか1年で練兵館の塾頭になる。長州陣地を視察していた坂本竜馬と出会い、いきなり斬り合いとなる。歴史上の同名人物をモチーフにしている。
クレジット
- 原作
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司馬 遼太郎
書誌情報
竜馬がゆく 10巻 文藝春秋
第1巻
(2022-08-23発行、 978-4160901308)
第2巻
(2022-11-24発行、 978-4160901407)
第3巻
(2023-02-21発行、 978-4160901438)
第4巻
(2023-05-29発行、 978-4160901452)
第5巻
(2023-08-24発行、 978-4160901506)
第6巻
(2023-11-24発行、 978-4160901544)
第7巻
(2024-02-20発行、 978-4160901629)
第8巻
(2024-05-23発行、 978-4160901711)
第9巻
(2024-08-22発行、 978-4160901797)
第10巻
(2024-11-21発行、 978-4160901902)