概要・あらすじ
一匹狼として生きてきた草壁豹馬は、不思議な力を操る子供の由羅と出会う。由羅は強大な念動力を操り大量に人間を殺してきたが、まだ己の力が分っていない無邪気な子供であった。豹馬と由羅は意気投合するが、地球を滅ぼすために由羅を生み出した異星人や、世界の王になろうとする岩倉具視は、彼らを放ってはおかない。
さらに異星人の襲来に備える忍一族が住む水無村の竜次は豹馬をライバル視し、彼を狙っていた。幕末動乱の京都を舞台に、豹馬の戦いが始まる。
登場人物・キャラクター
草壁 豹馬 (くさかべ ひょうま)
幕末に生きる天涯孤独の一匹狼で、死にかけていたタエと章悟を助けた。また由羅に面白半分に殺されそうになるが、彼が分別をわきまえていない普通の幼い子供であることを知り、彼を守ることを決意する。由羅も自然に接してくれた草壁豹馬に心を開いていく。タエを送り届けた水無村で青竜伝説のことを知るが、村人を殺した由羅を受け入れて貰えず、村を出ることになる。 その際、村長の跡取りである竜次との戦いで顔に一文字の傷ができた。
タエ
隠れ忍衆組頭の娘で、幼い女の子。黒髪を肩で切りそろえヘアバンドのようなハチマキを巻いている。未来からやってきた19歳の自分から、青竜の赤子である章悟を託された。その時、山賊の仕掛けた爆発に巻き込まれて死にかけるが、草壁豹馬に助けられる。この時に豹馬が助けることができたのは幼いタエと赤子だけで、19歳のタエは助けられなかった。 時間を超える超能力を持つが、章悟を19歳のタエから託された時に力を封印されている。
章悟 (しょうご)
青竜の紋章を額に持って生まれた赤子。19歳のタエが未来の世界から幕末へと連れてきた。草壁豹馬が水無村を去った5年後には、タエと同じようなハチマキを巻いていた。非常に元気で明るく前向きな性格。特別な能力を持たないように見えるが、由羅が豹馬を殺しかけた時など、要所要所で額の紋章が光り不思議な力を発動する。
由羅 (ゆら)
異星人と地球人の混血で、魔性の力を持った幼い男の子。髪の色も瞳の色も他の人間と違い、特殊な超能力(強大な念動力)を持っているため普通の人たちからは恐れられ、忌み嫌われてきた。幼い子供ゆえに分別がつかず、面白半分に能力を使って人間を虐殺するが、体力がないため能力を使うとすぐに疲れて動けなくなってしまう。草壁豹馬にだけは心を許している。
青木 (あおき)
由羅を殺すため侍の山狩り部隊総勢300人を率いる男。草壁豹馬を見つけ、由羅でないと知りながらも、目ざわりという理由だけで殺そうとする。豹馬は由羅が無邪気な子供なだけで悪気はないことを説明して、山狩りを止めさせようとしたが聞き入れなかった。
大畠 重蔵 (おおはた じゅうぞう)
隠れ忍の村である水無村の村長でタエの父親。青竜伝説を信じて村を治めてきた、実直だが感性の鋭い男性。竜次を次の村長にと考えているが、草壁豹馬に王者の風格を感じ、彼にも心酔する。豹馬を村に残したかったが、豹馬と一緒にいた由羅が村人を殺したため、2人には村を出て行ってもらうことを決断する。
竜次 (りゅうじ)
水無村の忍者で超能力者。強い念動力でクナイを自在に操ることができる。水無村の長の跡取りでもあり、長の大畠重蔵が認めた草壁豹馬に強いライバル心を持つ。水無村を出ることになった豹馬に一騎打ちを挑み、豹馬の顔に傷をつけるが、代わりに片腕を失った。その後は豹馬を唯一のライバルと認め、豹馬を追って自らも村を出る。 京都では岩倉具視の配下になり、脇坂邸を襲った甲賀五人組の一人として現れる。いつも葉っぱを咥えているが、作者の島崎譲はその理由について「キャラクターにトレードマークを持たせる」「シルエットで誰かわかるようにする」といった手塚治虫や森やすじの教えに従ったものだと語っている。
藤太 (とうた)
水無村の忍者で土木技術の専門家。村の堰を自ら設計した。その堰が由羅の能力で壊されてしまった際、草壁豹馬の機転で助けられる。それ以来、豹馬には好感を持っている。竜次の弟分であり、彼の義手は藤太が作ったもの。勤勉な性格で、高野長英の「夢物語」の読者でもあり、岩倉邸で高野に出会った時は感動していた。 熱心な藤太の仕事ぶりに高野も英和辞典を都合するなど、将来を嘱望していた。
脇坂 (わきさか)
京都所司代にして淡路守。京都にやってきた草壁豹馬を用心棒に雇う。公家の岩倉具視を調べているが、逆に自らが岩倉の妹である蝶子に命を狙われてしまう。青竜伝説を知る人物で、青竜の神話についての巻き物を所持している。これを井伊直弼に渡し、今の地球が瀕している危機について進言しようと考えている。
岩倉 具視 (いわくら ともみ)
世界の王を目指す公家。髪が長く組み紐のようなものを頭に巻いている美形青年で、異星人にこの世の王にしてやると唆されたことから野望の鬼となる。途中、異星人の身体が実はもろいことを知って反旗を翻すが、思考操作装置を耳に入れられ、以後は異星人に操られてしまう。普段は人を使い、表に出て戦うことはないが、実際はかなりの剛の者で、愛刀「雷雲」は長さ三尺三寸、その太刀から逃れた者はないという。 実在した人物、岩倉具視がモデル。
蝶子 (ちょうこ)
岩倉具視の妹で超能力者。瞬間移動能力を使って公儀(幕府)の人間を暗殺している。脇坂を暗殺しに行った際に、警護をしていた草壁豹馬と出会い、彼に対して特別な感情を持つようになる。岩倉側の人間ではあるが、豹馬やお咲に好感を持ち、高野長英がお咲に好意を持っていると知ってからは2人を応援していた。本当は貧しい農家の出身で、瞬間移動能力を使うことから見世物にされていたところを、岩倉に救われて妹になった経緯がある。
お咲 (おさき)
草壁豹馬と同じ長屋に住んでいて、豹馬の身の回りの世話や、身体の弱い由羅の面倒もよく見てくれる優しい女性。高野長英は彼女に好意を抱いているが、お咲は豹馬に好意を寄せていた。実は旗本の娘で、豹馬の足手まといになるくらいなら死を選ぶと言った彼女を見て、蝶子は武家の出だと見抜いた。
京之助 (きょうのすけ)
岩倉具視が脇坂暗殺のために雇った甲賀忍者五人のうちの一人。女性のような優しい顔立ちを利用して、脇坂邸に女装して忍び込み茶に毒を盛るが、草壁豹馬に見破られる。脇坂邸の戦いの後もずっと岩倉に仕え、蝶子や高野長英とも親交がある。
忠次郎 (ちゅうじろう)
岩倉具視が脇坂暗殺のために雇った甲賀忍者五人のうちの一人。眼力で人を操る超能力を持つ。その能力で脇坂邸襲撃の際に侍たちを暗示にかけ同志討ちをさせるが、草壁豹馬に術を解かれて敗れる。
タガマ
岩倉具視が脇坂暗殺のために雇った甲賀忍者五人のうちの一人。自身の細長い手足と、長い鎌を使って脇坂の警護に就いていた隠密たちの首を次々斬り落とすが、草壁豹馬には太刀打ちできずに敗れる。
シジマ
岩倉具視が脇坂暗殺のために雇った甲賀忍者五人のうちの一人。竜次に草壁豹馬には手を出すなと言われるが、勝手に豹馬に勝負を挑む。豹馬をあと一歩のところまで追い詰めるが、豹馬の機転によって逆に殺されてしまう。しかし死んだシジマの背中には竜次のクナイが刺さっており、豹馬と竜次、結局どちらが彼を殺したのかは不明のまま。
高野 長英 (たかの ちょうえい)
「沢三泊」を名乗っているが、本来の名は「高野長英」。顔の半分に火傷のような大きな傷がある。蘭方医で、法に触れることが分かっていながら、貧しい人のために無料で診療している。岩倉具視と通じており、異星人の死体を解剖した。また由羅や草壁豹馬の怪我や病気も看ていて、お咲に好意を寄せている。実在した人物、高野長英がモデル。
井伊 直弼 (いい なおすけ)
溜間詰筆頭であり、政治に対して大きな影響力を持つ。京都所司代の脇坂が命を賭して守った青竜の神話についての巻き物を、こんなものに価値はないと一蹴する。更に京都所司代の屋敷が襲われ大量の殺りくがあったことを醜聞だと言ってすべてをもみ消し、ことの経緯を知る草壁豹馬を殺害しようとした。実在した人物、井伊直弼がモデル。
赤沼のイグス (あかぬまのいぐす)
岩倉具視が雇った甲賀忍者一の使い手。草壁豹馬の襲撃に失敗し、代わりにお咲を人質に岩倉邸に連れ帰る。豹馬のことを甘く見ていることを竜次にたしなめられるが、まったく聞く耳を持たない。竜次曰く、「金のためならなんでもやるゲスな野郎」。由羅の居場所を聞き出すために藤太を拷問した。
由羅の父 (ゆらのちち)
地球の女性との間に由羅を設けた異星人。幼い由羅を陰ながらずっと見守ってきた。由羅のいる場所ならどこでも察知が可能で、由羅が草壁豹馬や水無村の忍者たちと共に潜伏していた隠れ家も簡単に突き止めた。裏切った岩倉具視に思考操作装置を付けて操ったことにより、精神力の殆どを使ってしまう。由羅が地球に未練を持たないように、あらゆる手段を使って豹馬を殺そうとする。
鉄、新 (てつ、しん)
水無村の忍者で、岩倉具視の集めた甲賀忍者。赤沼のイグスたちと対決するために藤太が呼び寄せた戦士たち。竜次に草壁豹馬と藤太が別行動を取ったこと、章悟と由羅が一緒にいることなど、戦の情勢を教えた。最後まで主力として戦い、焼け落ちる屋敷から敵である岩倉を救いだしたりした。
場所
水無村 (みなむら)
近江の国、甲賀にある隠れ忍の村。1999年に過去へ逃れた超能力者の子孫が、異星人の襲来に備えて暮らす村でもある。村人全員が忍術の知識を学び、技術を磨き、来たるべき時に備えている。非常に優秀な一族で、水無村の忍者といえば、他の忍者の間でも特別な存在。
その他キーワード
異星人 (いせいじん)
地球を滅ぼすために来た地球外生物。人間と姿形は似ているが、男女の区別がつかず、地面につくほどの長い髪をしている。自分たちの住む星が消滅し、長い宇宙の旅の末に地球を見つけ、人類を征服しようとしている。肉体がひどく脆弱で倒れただけで頭も体もつぶれてしまうため、体温調節や排せつの処理までこなす鎧を身につけて生き長らえている。 自分たちと人間の混血児である由羅を生み出し、由羅に人類滅亡の望みを託している。
思考操作装置 (しこうそうさそうち)
異星人が岩倉具視の耳に入れた小型装置。これを付けた人間は宇宙船からの遠隔操作で操れるようになるが、異星人は精神力と体力を大幅に消耗する。異星人の身体が鎧なしでは生きられず、豆腐のようにもろいことを知った岩倉が反旗を翻したため、これを使って操ることを余儀なくされた。
青竜伝説 (せいりゅうでんせつ)
世の中が乱れ魔王が現れた時、人類の危機を救う青竜の力を持った戦士が生まれるという伝説。実際は1999年に宇宙人の襲来で滅ぼされた地球に、ただ一人生き残った超能力者(タイムトリッパー)が、過去の時代に遡って自分の能力を受け継いだ子孫を多く残すことで、来たるべき危機に備えようとしたもの。能力者は「青竜の紋章」を持って生まれる。