失意に沈む小説家の復活
年の離れた妻、りほ子を病で失った卯之助は、愛する人を失った悲しみと、執筆に没頭するあまりほとんど見舞いに行けなかった自責の念から、一時は自身の健康すら顧みないほどの失意に陥っていた。しかし、りほ子との生前の約束を思い出し、新作の完成に向けて執筆に力を入れることを決意する。そんな中、卯之助はりほ子が残したレシピ帳を見つけ、その中に記されていたソーセージと卵焼きをレシピ通りに作り上げる。それを口にした卯之助は、りほ子が作ってくれた手料理の味を思い出し、再び前向きに生きることを決意する。
亡き妻のレシピがつなぐ心の物語
りほ子の残したレシピ帳には、ソーセージや卵焼き、ポークソテー、ガーリックサイコロステーキ、パンケーキなど、多種多様な料理のレシピが記されている。本作では、卯之助がこのレシピを参考にして実際に料理を作り、自身や知人に振る舞う様子が丁寧に描写されている。さらに、卯之助の心情や料理の腕前だけでなく、誤解から卯之助に敵意を抱いていた義父の田所巌の心を解きほぐしたり、感情を必死に抑えていた義妹の田所かほ子が姉を失った悲しみと向き合うきっかけを作るなど、料理が周囲にさまざまな好影響を及ぼしていく。
妻の死を乗り越え、レシピが家族の再生を導く
卯之助は、りほ子の死を契機に、りほ子の父親、巌、母親の寿美代、妹のかほ子と頻繁に会うようになる。当初は、卯之助が娘のことを顧みなかったため、巌からは憎まれていたが、りほ子が残したレシピノートに記載された料理を振る舞うことで、りほ子が大切に思われていたことを知り、次第に巌は態度を和らげていく。また、りほ子が生前に親しかった四季森つぐみや同級生の向井、剣崎と交流することで、りほ子が多くの人々に良い影響を与えていたことを知り、卯之助は誇らしい気持ちを抱くようになる。さらに、卯之助の担当編集者である貴船虎次郎がかほ子と結婚し、義弟となるなど嬉しい出来事が続き、卯之助のりほ子への惜別の念は徐々に純粋な感謝へと変わっていく。
登場人物・キャラクター
米蔵 卯之助 (こめぐら うのすけ)
時代小説家の男性。年齢は57歳。主に江戸時代を舞台にした作品を執筆しており、その堅実な作風は多くのファンを魅了している。生真面目な性格で、老若男女を問わず誰に対しても礼儀正しく接するが、口下手で自己評価が低く、人前で話すことを苦手としている。元々時代劇を愛好しており、脚本家の師匠のもとで物書きの基礎を学び、やがて小説家としてデビューを果たした。19年前にりほ子と出会い、共通の趣味である時代劇を通じて意気投合した。その後、彼女の明るく前向きな姿に惹かれ、プロポーズの末に結婚した。りほ子を生涯唯一の恋愛相手として深く愛しており、彼女の死後は仕事や生活に支障をきたすほど取り乱してしまう。しかし、りほ子が残したレシピ帳を手に料理を始めることで、徐々に生きる希望を取り戻していく。
米蔵 りほ子 (こめぐら りほこ)
卯之助の妻で、故人。旧姓は「田所」。幼少期から才色兼備で、両親の深い愛情を一身に受け、妹のかほ子からも誇り高い姉として慕われていた。子供が大好きで、近所に住むつぐみのために、さまざまな得意料理を振る舞っていた。一方で、銛(もり)を使った漁を好み、時代劇を愛するあまり学校に手裏剣を持ち込むなど、型破りな一面も持ち合わせている。卯之助を一途に愛し、彼が執筆する小説を読むことを何よりも楽しみにしていた。銀行員として働いていたが、癌が発見されたため退職し、療養に専念。最期まで卯之助に心配をかけまいと気丈に振る舞い、死の恐怖に毅然と立ち向かった。
書誌情報
米蔵夫婦のレシピ帳 5巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2023-03-30発行、978-4098615810)
第2巻
(2023-08-30発行、978-4098625451)
第3巻
(2024-02-29発行、978-4098627110)
第4巻
(2024-08-30発行、978-4098630226)
第5巻
(2025-01-30発行、978-4098631735)







