大事な人を亡くした悲しみと向き合う時間
母親を失った坂本海星と、妻を失った坂本玄海。二人は大切な坂本小百合を失った悲しみを抱えきれず、酒に溺れ、喧嘩に明け暮れていた。しかし、ふとした瞬間に亡き小百合の面影がよぎり、言葉にできない孤独と悲しみに襲われる。本作では、二人が心の奥底に押し込めていた寂しさを認め、涙を流す姿が丁寧に描かれる。深い悲しみを抱えながらも、前を向いて生きようとする二人の姿は、観る者の心を揺さぶる。
周囲の支えと閉ざされた心
海星と玄海の周囲には、彼らを支えようとする人々が存在している。かつて海星が所属していた美術部の顧問で、海星の絵を高く評価し、小百合の友人でもあった女性・泉、そして玄海の親友で幼なじみの野母崎巌。また、海星と同じく母親を失った結や、海星の友人である純も、それぞれの方法で二人を助けようと試みるが、海星と玄海の心は依然として閉ざされたまま。二人が求めているのは、すでに亡くなった小百合の面影であり、周囲の優しさに気づかず、過去にとらわれている彼らの不安定な精神状態は、見る者をハラハラさせる。
家族の愛、軍艦島に眠る宝物
酒に溺れ、働く意欲を失った玄海を心配した親友の巌は、海星に現状打破の策として「軍艦島で宝物を探せ」と告げる。その言葉を忘れかけていた海星だったが、父親を立ち直らせる宝物が亡き母・小百合に関するものであることに気づく。こうして小百合の死を受け入れ、成長した海星は一人で軍艦島に上陸し、宝物を探す決意をする。本作の魅力は、二人の深い悲しみと、この宝物を軸に過去と現在を行き来しながら、家族三人の愛情を丁寧に描写している点にある。
登場人物・キャラクター
坂本 海星 (さかもと かいせい)
長崎県の高校に通う男子。年齢は16歳。かつて美術部に所属しており、真剣に絵を描いていた。しかし、母親の坂本小百合が病気で亡くなって以来、ケンカに明け暮れる日々を送るようになった。父親の坂本玄海も酒に溺れ、親子は泥沼のような生活をしていた。それでも、坂本海星の心の奥底には危機感が芽生えていた。友人の裏切りや年上の不良からの暴力に晒される中、自分と同じように心の傷を抱える同級生の結と出会う。結と過ごすうちに、海星は失った母親への思いと向き合うようになる。
坂本 玄海 (さかもと げんかい)
坂本海星の父親。長崎県で「端島ラーメン」というラーメン店を経営している。しかし、妻の坂本小百合が病気で亡くなって以来、酒に溺れて店を閉めている。息子の海星が喧嘩に明け暮れていることを知りながらも、彼を止めることができずにいる。かつて軍艦島で小百合や親友の野母崎巌と共に青春を過ごした。病に苦しむ小百合に「一緒に死のうか?」と問いかけたものの、彼女が最期まで笑顔を絶やさなかったため、弱音を吐かせてやれなかったことを今でも悔やんでいる。







