お父さん、チビがいなくなりました

お父さん、チビがいなくなりました

子供たちが全員自立し、夫の武井勝と猫のチビと共に暮らしていた武井有喜子は、ある日、娘の武井菜穂子に勝と離婚したいと切り出す。突然の話に菜穂子が驚く中、騒動に輪をかけるかのようにチビが行方不明になってしまう。老夫婦のすれ違いによって生じた問題と、それを解決する様子を描いたホームドラマ。「増刊flowers」2013年12月号増刊から2015年8月号増刊にかけて掲載された作品。

正式名称
お父さん、チビがいなくなりました
ふりがな
おとうさんちびがいなくなりました
作者
ジャンル
家族
レーベル
フラワーコミックス α(小学館)
関連商品
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あらすじ

有喜子と勝

結婚44年目の武井有喜子武井勝は、武井菜穂子をはじめとした三人の子供たちが全員独立したことで、東京の静かな街にある一軒家で、愛猫のチビと共に慎ましく暮らしていた。しかし有喜子は、子供たちがいた頃は気にならなかった勝の口数の少なさや、気難しさにだんだんと居心地の悪さと寂しさを感じるようになっていた。そんなある日、勤務する飲料会社で課長への昇進が決まった菜穂子が、実家を訪れる。母親の有喜子と仲のいい菜穂子は、両親とチビの様子がふだんどおりであることに安堵するが、その矢先に有喜子から突然、勝と離婚すると考えていると明かされる。菜穂子はあまりに突然の話に昇進の報告すら忘れてしまうが、このことをほかのきょうだいには言わず、胸の内にしまい込むことにする。その後も武井家では、表向きはこれまでと同様に穏やかな日々が続いていた。しかし、それはチビ以外の誰もが本心を明かさず、家族の気持ちがまったく同じ方向を向いてないことを意味していた。そして、その状況を悪化させるかのように、突然チビが家の中から姿を消してしまう。有喜子は、3日も家に戻ってこないチビを心配するが、勝はまったくチビを気にする素振りを見せず、この態度が二人のあいだにさらなる溝を生み出すこととなる。

チビの行方

武井菜穂子は昇進してからも、相変わらず多忙な日々を送っていた。そんなある日、武井家を訪れた菜穂子は、武井有喜子からチビが5日前から家に帰ってきていないことを聞かされる。有喜子はチビの消息が心配で居ても立っても居られない様子で、一方の武井勝がまったくチビを心配する素振りを見せないことに怒りと悲しみを覚え、菜穂子の前で泣き崩れる。しかし、勝も内心ではチビの安否を心配しており、外出してはその行方を捜していたのだが、最悪の事態を想定したことや、有喜子が自分よりチビばかりを構うことから、彼女に気の利いた言葉を掛けられずにいたのである。そんな中、有喜子は藁にもすがる思いで、菜穂子に勧められたペット探偵に頼ることを決める。後日、武井家にペット探偵の笹原が訪れ、有喜子は彼と共にチビを捜す手がかりを得ようと躍起になる。しかし、笹原は有喜子が好きな韓流ドラマの俳優に似ており、有喜子は年がいもなく彼に対してほのかなあこがれを抱く。そんな中、勝は昔の知り合いである入江志津子と再会するが、夫を亡くして一人きりになった志津子は、かつて勝に寄せていた思いを再燃させていた。一方、菜穂子のもとにロシアから帰国した武井雅紀から、予定があいたために実家に寄ると連絡が入る。菜穂子は渡りに船とばかりに、姉の武井祥子にも連絡を入れて、三人で話し合う機会を設ける。菜穂子は二人に対して、有喜子が勝と離婚をするかもしれないことや、チビが行方不明になっていることを話す。雅紀は勝が本心では有喜子や家族を大切にしていることを信じていたが、祥子は有喜子にほかに好きな男性ができたのかもしれないと考えていた。

登場人物・キャラクター

武井 有喜子 (たけい ゆきこ)

武井菜穂子の母親で、専業主婦の女性。年齢は66歳。子供たちは全員が独立を果たし、現在は武井勝やチビと共に暮らしている。ドラマ鑑賞が趣味で、現在は韓流ドラマに夢中になっている。明るく朗らかだが、やや引っ込み思案な性格をしている。不愛想な勝の代わりに子供たちに接してきたことから、子供たちは武井有喜子に性格が非常によく似ている。菜穂子とは、現在も近所に住んでいることもあって、特に仲がいい。チビに対しても親身になって世話をしていることから懐かれており、有喜子もチビをかわいがっている。40年前、入江志津子と共に弁当屋の売り子をしており、勝とはその時に塚本がセッティングしたお見合いがきっかけで結婚した。しかし、志津子が勝に思いを寄せていたことを知り、彼女に対してやや負い目を感じている。昔から勝の口数の少なさや、不愛想な一面を寂しく思うこともあるが、子供たちやチビの存在に助けられていたこともあり、大きな問題もなく長く連れ添っている。また、勝を大切に思う気持ちも強いが、勝の不愛想な性格もあって子供たちが独立してからは、本当に好かれているのか不安になることもある。そして、このままの状態が続くことに強いプレッシャーを感じるようになり、ある時家にやって来た菜穂子に、半ば衝動的に勝との離婚を考えていると告げる。そんな中、チビがいなくなったために情緒不安定になり、チビを巡って勝と衝突することが多くなる。それからは毎日のようにチビを捜し回るが、一向に手がかりがつかめず、のちに菜穂子の勧めもあってペット探偵を雇うことを決める。雇ったペット探偵の笹原は、人柄がいいうえに動物の習性にも詳しく、韓流ドラマに出演するようなイケメンということもあり、ほのかなあこがれを抱くようになる。このことで勝の機嫌が悪くなり、夫婦関係はさらにこじれてしまう。

武井 菜穂子 (たけい なほこ)

武井有喜子の娘で、飲料関係のメーカーに勤めている女性。年齢は37歳だが、外見も内面もともに実年齢よりも若々しい。あらゆる仕事をそつなくこなすことから職場では頼りにされている。一方で、末っ子らしく寂しがり屋の甘えん坊なところがあり、特に武井雅紀や武井祥子の前ではその特徴が顕著になる。惚れっぽい性格で男性からの人気も高いが、恋愛下手で家族の中では唯一の未婚者。家族のことを大切に思っており、特に母親の有喜子とは非常に仲がいい。また父親の武井勝には、気難しいことを不満に思いながらも慕っており、有喜子のフォローもあり、二人の関係は良好。飼い猫のチビもかわいがっており、武井家を訪れるたびに世話をしている。会社の部下である山崎からは謎の行動を取られ、彼の真意がわからず困惑するが、苦手意識や嫌悪感を抱いているわけではない。ある日、昇進が決まって課長になることが内定するが、その矢先に付き合っていた恋人から別れを告げられる。失恋にショックを受け、その気晴らしに実家を訪れるが、有喜子から勝との離婚を考えていることを聞かされる。さらに後日、チビがいなくなったことを聞かされ、二重のショックを受けてしまう。課長になってからもそつなく仕事をこなしていたが、家庭の問題を誰にも相談することができないストレスに苛まれる。のちに雅紀が帰国したことをチャンスととらえ、兄妹で一堂に会してチビや有喜子をどうすればいいか話し合うが、チビはともかく、有喜子に関しては自分たちが介入するとよけいにややこしくなるだけという結論に達し、心配しつつも見守ることしかできない現状に甘んじている。しかし、山崎から告げられた一言から希望を見いだす。

武井 勝 (たけい まさる)

武井有喜子の夫で、武井菜穂子の父親。年齢は70歳。数年前に定年を迎えたが、現在もかつて勤務していた「浦芝電機」の相談役を務めている。趣味は将棋で、ヒマなときは将棋教室に通っている。小柄な体型ながら強面で、無口かつ不愛想なことから、一見すると怖い印象を与えがち。しかし一見不愛想に見える態度は、どう人と接すればいいのかわからない自信のなさに起因するだけで、家族たちを大切に思っている。実際、家族以外にも温和な一面を見せることも少なくなく、久しぶりに再会した入江志津子や、初めて会った菜穂子の部下の山崎からも気に入られる。40年前に初めて会った時から強く有喜子に惹かれ、それ以来、彼女以外の女性を好きになったことはないほど。のちに有喜子とお見合いで結婚することになるが、有喜子はそのことは覚えていなかったものの、武井勝自身はこのことを生涯で一番の幸運だと今でも考えている。さらに、内心では子供たちを思いやり、実家に帰ってくる時は、彼らの好物である栗を買いに行くことを習慣としている。家族への愛情を表立って行動や言葉で示すことがないため、有喜子が不安を抱く一因になっている。チビに対しても不器用ながら愛情を注いでいるが、チビが有喜子ばかりに懐いていることを快く思っていない。昔から不愛想な性格だったが、子供たちがいたために特に問題は起きていなかったが、子供たちが独立したことで、夫婦のあいだに溝ができる。有喜子を愛するあまり、彼女に近づく人物に嫉妬することがあり、このことがよけいに有喜子を誤解させてしまう。やがてチビが家からいなくなり、有喜子がペット探偵の笹原を雇ったことで、ますます家に居づらくなる。

チビ

武井家で飼われているオスの黒猫。年齢は13歳。人懐っこく物おじしない性格で、家の中では特に武井有喜子と武井菜穂子にかわいがられている。家族から孤立気味の武井勝のことを心配しているが、有喜子からかわいがられているため、勝の嫉妬を買うこともある。食欲旺盛で、特に魚を好んで食べる。家にいることが多く、時折家から出ることがあっても、すぐに戻ってくる場合がほとんど。しかし、有喜子と勝の仲がぎこちなくなったのとほぼ同時に、ふらりと家から出て行ってしまう。チビが武井家からいなくなり、有喜子と菜穂子は強いショックを受ける。そして、有喜子がペット探偵の笹原を雇うが、その探索でも行方はわからないまま3週間が過ぎ、やがて有喜子からも何か事故に遭ったのではないかと悲嘆される。

小野 (おの)

武井有喜子の友人で、老齢な女性。武井家から駅を二つほど隔てた場所に住んでおり、武井勝とも面識がある。夫は仕事で海外に赴任することが多く、夫婦二人の時間がなかなか取れずにいた。しかし、夫が定年を迎えると二人で過ごす時間が増えて、それ以降はできるだけ二人で行動することを心がけている。登山などのアウトドアが趣味で、よく旅行にも出かけている。ある日、友達といっしょに鎌倉に旅行へ行こうと有喜子を誘う。しかしその矢先、武井家からチビがいなくなったため、結局有喜子と共に旅行へ行くことは叶わなかった。

山崎 (やまざき)

武井菜穂子の部下にあたる青年。年齢は27歳。美術大学の出身で、デザイナーを務めている。優しい性格ながら自分に自信が持てずに、やや根暗な一面も相まって、人付き合いはあまりよくない。菜穂子に好意を抱いており、それとなくアプローチをしているが、年齢差があることもあって何も進展はしていない。そのため、菜穂子からは好意を寄せられていることすら気づかれていない。彼女からは、その行動を不可解に思われながらも、苦手意識や嫌悪感を抱かれてはいない。また、山崎自身は菜穂子を高嶺の花と考えており、自分とは釣り合わないとの感情から、やっかみ半分の発言をすることもある。その言動が、菜穂子からは父親の武井勝に似ていると思われ、逆に興味を持たれる。その後もなんとかして菜穂子と親しくなるきっかけを得ようと考え、勝が将棋教室に通っていることを知ると、実際に教室を訪れて勝と知り合う。当初は、菜穂子に近づくために勝と交流しようと考えていたが、性格や考え方が似ていることからすっかり意気投合し、すぐになかよくなる。のちに菜穂子に思いの丈を告白し、やがて両思いの関係となる。武井有喜子からもすぐに気に入られたことから、菜穂子との関係は武井家公認のものとなり、時折菜穂子と共に武井家を訪れている。

塚本 (つかもと)

40年ほど前に、武井有喜子と懇意にしていた女性。有喜子に弁当屋の売り子の仕事を紹介するなど、たびたび世話を焼いており、彼女からは恩人として慕われている。有喜子の器量のよさを見抜き、独り身にしておくには勿体ないと考えたことから、見合い話を彼女に持ち掛ける。その見合いの相手は有喜子の店の常連客で、有喜子に好意を抱いていた武井勝だったが、塚本自身が有喜子と勝の関係を知っていたかは不明。

笹原 (ささはら)

ペット探偵を生業にしている青年。動物の習性を事細かに熟知しており、その知識を生かして迷子になったペットの捜索などを引き受けている。柔和な性格のイケメンで、武井有喜子が好んで見ている韓流ドラマの主人公を務めた俳優に似ている。ある日、有喜子からいなくなったチビの捜索を依頼され、その時の状況から、チビの死期が近いのではないかと泣きつかれる。しかし、彼女から聞いた状況からそれをはっきりと否定し、前向きになるようにうながした。その容姿と頼りになる様子から、有喜子にはほのかなあこがれを抱かれ、笹原自身が知らないうちに彼女と武井勝のあいだに溝をつくってしまう。さらにチビが、野良猫とカンちがいした家族に世話をされていたことから捜索は難航し、結局3週間かけてもチビを見つけ出すことはできなかった。

武井 祥子 (たけい しょうこ)

武井有喜子の娘で、武井菜穂子の姉。すでに結婚して現在は博多で暮らしている。東海道・山陽新幹線を利用して、日帰り感覚で武井家を訪れることがある。また、菜穂子と同様に母親の有喜子を慕っており、有喜子を博多に遊びに来させたり、別府の温泉に旅行に誘ったりなど、いつも気に掛けている。菜穂子や武井雅紀とも仲がよく、ロシアで働いている雅紀とは頻繁に連絡できないが、菜穂子とはたびたび連絡を取り合っている。雅紀が帰国し、家に立ち寄った際に菜穂子から誘われて、久しぶりに実家で三人が集まる。その際に、有喜子が武井勝と離婚を考えていることや、チビがいなくなったことを菜穂子から聞いて驚愕する。そして、万が一の可能性と前置きして、有喜子に好きな男性ができたのではないかと推測する。雅紀からは、66歳の有喜子が恋をしているとは考えにくいと反論されるが、菜穂子は大いに取り乱していた。

武井 雅紀 (たけい まさき)

武井有喜子の息子で、武井菜穂子の兄。オイルマンとして働いており、現在はシベリアで暮らしている。ふだんは海外で生活しているため、家族と連絡を取ることは滅多にないが、家族とは仲がいい。父親の武井勝のことは、不器用ながらも優しい人物であると認識している。かつては痩せていたが、結婚を境に幸せ太りしている。武井家からチビがいなくなって数日後、会社の業務で一時的に帰国することになる。そして時間があいたため、実家に戻ると菜穂子に伝え、菜穂子が武井祥子も家に呼んで兄妹三人が集うことになる。しかし、久しぶりの再会を喜ぶのもつかの間、菜穂子からチビの不在と、有喜子が離婚を考えていることを聞かされ、祥子と共に驚愕する。

入江 志津子 (いりえ しずこ)

武井勝と武井有喜子の友人で、老齢な女性。40年前は有喜子と共に弁当屋の売り子をしており、おっとりとした有喜子とは違って、はきはきした明るい性格の持ち主。そんな対照的な二人が売り子をしていたことから、有喜子と共に多くの男性から人気を集めていた。決まった時間に買い物に訪れる勝に恋心を寄せるようになるが、のちに勝は有喜子と結婚。やがて別の男性からアプローチを受け、勝に未練を残しながらもその男性と結婚を決めた。それからも勝や有喜子とは交流を持っていたが、数か月前に夫を亡くし、その寂しさから勝に対する思慕の念を再燃させる。

書誌情報

お父さん、チビがいなくなりました 小学館〈フラワーコミックス α〉

(2015-09-10発行、 978-4091374394)

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