あらすじ
仕事の休憩時間中だったバーテンダーの響惣一郎は、店が忙しくなったことから、急遽休憩を切り上げて仕事に戻るよう店長に頼まれた。頭の中では新作アニメのことを考えながらも、てきぱきと業務をこなしていた惣一郎は、そこで客から趣味を尋ねられる。アニメを見ること、そしてBL漫画を描くことだとは当然言えず、惣一郎は「趣味はない」と回答。その際、自らが描くBL漫画のモデルである二人の常連客、鳥井と山崎について思いを巡らせた惣一郎は、彼らが最近来店しないことで、自分の創作意欲が減退していることに気づく。するとその後、久々に鳥井と山崎が来店し、惣一郎は、彼らの一挙手一投足に心が満たされていくのを実感するのだった。一方、惣一郎が店内の一角を凝視しながら手元も見ずに業務をこなす姿を見た店長は、彼こそ天性のバーテンダーだと確信し、彼を見込んだ自分の目に狂いはなかったと自画自賛する。(Order.01「とあるバーテンダーの秘め事」)
店長が腰を痛めたことで、代わりに食材の買い出しに来た惣一郎は、そこで常連客の鳥井が若い女性といっしょにいるところを目撃。楽しそうな二人の姿に、「鳥井×山崎」という理想のカップルが破局を迎えたのではないかと意気消沈しながら惣一郎が店に戻ると、そこに山崎が一人で来店する。来店時に二人がそろっていないという、かつてない異例の事態に愕然とする惣一郎に、山崎はいつも鳥井が飲んでいるマッカランを注文。そして山崎は、鳥井が最近、新人の女性といい雰囲気になっていることをぽつぽつと話し始める。山崎によれば、そんな鳥井に気を遣って、彼からの飲みの誘いも断り一人で店を訪れたのだという。だが、寂しさを隠しながら山崎が、鳥井は自分など相手にしている場合ではないと、口にした瞬間、当の鳥井がバーに姿を現す。そして鳥井は、山崎のとなりに座りながら、惣一郎に「いつものものを」と注文。その言葉を聞いた惣一郎は、いつも山崎が飲んでいるジントニックを鳥井の前に置く。(Order.09「破局騒動」)
登場人物・キャラクター
響 惣一郎 (ひびき そういちろう)
バーテンダーとして働く青年。きっちりと整えたショートヘアで、眼鏡をかけている。仕事中はクールかつ極めて丁寧に振る舞っており、周囲からの評価も非常に高いが、実際は感情の起伏が激しく、口も悪い。また、重度のオタクでもある。特にBL好きの腐男子で、仕事の最中も男性同士の客を勝手にBL妄想のネタにしては、内心で一人盛り上がっている。現在はとあるアニメにハマっており、推しカップルは「カルヴァドス×ブラー」だが、これはファン界隈では非常にマイナーなカップリングとされている。自分がオタクであることは徹底してひた隠しにしているが、詰めの甘いところがあり、その様を漏れ出させてしまうことも少なくない。ただし、ふだんの評価と周囲の人々の天然さも相まって、みごとに隠し通すことに成功している。ちなみに、オタク関連の情報収集にも余念がなく、自分の興味のないジャンルに関しても、相応の知識を持つ。そんな中で、ソーシャルゲームだけはハマるとキリがないと警戒しており、手を出していない。
店長 (てんちょう)
響惣一郎が働くバーで店長を務める初老の男性。白髪頭をボブカットにして目が隠れるほどに前髪を長く伸ばし、立派な口ひげを蓄えている。口調も性格も穏やかで惣一郎にも慕われているが、何かと妄想をこじらせておかしな言動をする彼に対するツッコミ役も担っている。前髪を上げると、涼しげな目をしたイケメンで、その事実を知った惣一郎からは、妄想のネタにするため、バイの客をはじめとして何かと男性と親密になるよう仕向けられることが多い。どこか天然でかわいらしく、またお人好しなところがあるため、幼なじみのブッチーには、何かと心配されている。本名は「白洲兼三」で、ブッチーからは「白ちゃん」と呼ばれている。
北杜 (ほくと)
響惣一郎と同じバーで、バーテンダー見習いのアルバイトとして働く若い女性。淡い色のロングヘアを後頭部で一つのお団子にまとめている。料理の腕は確かで、レーズンバターをはじめとして人気のフードメニューは彼女の手によるものが多い。明るい性格ながら少々ドジで、失敗をするたびに惣一郎に怒られているが、北杜自身は彼に詰(なじ)られることに喜びを見出すなどMっ気が強く、実は惣一郎に強く依存しているところがある。そのため、惣一郎に好意を持っているとみなした相手には容赦がない。一方で、興味のないことには非常に淡泊。ちなみにバーでのアルバイトのほか、昼間は会社勤めをしていたりとエネルギッシュで、精神的にも肉体的にも打たれ強く、女性としては類まれな腕力の持ち主でもある。
知多 悠斗 (ちた ゆうと)
響惣一郎が働くバーに、新たにアルバイトとして入ってきた青年。ショートヘアで目が大きく、イケメンの評価に厳しいと自負する惣一郎が、一目で太鼓判を押したほどのかわいい系男子。かつてファミリーレストランで働いていたことがあり、接客業のイロハはわかっているうえ、説明を受ける際には言われずともメモを取るなど、仕事に対して非常にまじめで意識も高い。一方で緊張しがちなところがあり、客を前にするとガチガチに緊張してしまう。実は超入手困難で高価なアイドル育成ゲームの限定グッズを持っていたりと、重度のアニメ・ゲームオタク。しかもそれを隠そうとしないオープンなオタクで、好きなものについて語り出すと止まらなくなってしまう。また、人に勧められると、たとえそれまで興味を持っていなかったものであっても試してみようとするなど、柔軟性も併せ持つ。ソーシャルゲームに関しては、定期的な課金を欠かさず、ゲーム中のフレンド登録にもやり込み度により一定の制限を課すほどのガチ勢。
鳥井 (とりい)
響惣一郎が働くバーの常連客の中年男性。山崎の上司で部長を務めており、立ち振る舞いに余裕を感じさせる落ち着いた人物。惣一郎には山崎との公認カップルとみなされており、彼ら二人を元ネタにしたBL漫画を執筆したりと、惣一郎の創作意欲の源泉となっている。バーでは、いつもマッカランを飲む。
山崎 (やまざき)
響惣一郎が働くバーの常連客の青年。鳥井の会社の部下で、かわいらしい顔立ちをしている。惣一郎には鳥井との公認カップルとみなされており、彼ら二人を元ネタにしたBL漫画を執筆したりと、惣一郎の創作意欲の源泉となっている。バーでは、いつもジントニックを飲む。
骨粗鬆 症子 (こつそしょう しょうこ)
響惣一郎の姉。ウェービーなセミロングヘアのゴージャスな美人。「骨粗鬆症子」のペンネームで、大手同人サークル「骨折」の主宰を務めている。女性向け同人誌界の神絵師として知られる存在で、新しいジャンルにハマるたびに、自分の推しカップル派がどんなに少なくても、自らの活動により必ずメジャーカップルに押し上げてきた実績を誇る。同時に、惣一郎がオタクであることを知る、非常に数少ない人物の一人でもある。ただし、彼がオタクであることを周囲に隠しているのは理解しており、人前ではうまい具合に隠語で会話して意思疎通を図ったりと、ある意味で惣一郎の理解者でもある。絵師としての実力は惣一郎にも崇(あが)められるほどで、彼の推しカップルのイラストを描いては、それを交換条件に惣一郎を意のままにあやつっている。現在は惣一郎と同じ、とあるアニメにハマっているが、推しカップルは惣一郎とは異なり「ブラー×リヨン」のため、彼に言うことを聞かせる際には、自らも心にダメージを負いながら、推しでもない「カルヴァドス×ブラー」のカップル絵を描いている。自分の言動で推しの評価を落としてはいけないと、人目のあるところでは颯爽(さっそう)とした姿を崩さずに自らを厳しく律しており、その高い意識は惣一郎も認めるところだが、ふだんは眼鏡をかけて無造作に髪を束ねた、地味な姿でいる。
バイの客
響惣一郎が働くバーに客として訪れた青年。前髪を長く伸ばして片目を隠し、左の目元に泣きぼくろのあるゴージャスな美形。たちの悪い酔っ払い客にからまれていた惣一郎を助け、以降、彼を目当てにバーに訪れるようになる。自らバイセクシャルを公言し、知り合ってからは惣一郎のことを熱心に口説き続けているが、その目的は、クールな惣一郎を跪(ひざまず)かせ、苦痛にゆがむ顔を見たいという倒錯したもの。ただし、一方の惣一郎はバイの客と店長をくっつけようと画策しているため、どうにも話がかみ合わず、結果的に毎回うまくかわされ続ける形となっている。
久保田 千尋 (くぼた ちひろ)
響惣一郎の友人の青年。高身長のがっしりした体格で、爽やかなイケメンスポーツマン。惣一郎の高校時代の同級生で、当時はサッカー部に所属していた。社交的な性格で友人も多く、さらにオタク相手にも偏見を持たずに朗らかに接することから、惣一郎には「いい人の代表格」「正統派イケメン」「リア充オブリア充」などと評されている。最近ソーシャルゲーム「FGQ」にハマり、グッズを買うために初めてアニメショップに足を踏み入れた。その際、欲しかった限定商品は買えなかったものの、別のものを購入できたことで満足するなど、オタクとしてはまだまだライト層。ちなみに推しキャラは星4の「シャルルマーニュ」。非常に人気が高く、ガチ勢の知多悠斗が30回リセマラしても出なかったキャラクターだが、久保田千尋はチュートリアル時に一発で引き当てた。ほかにも、幻とも評される星5の「モンラッシュ」を無課金で引き当てたりと、都市伝説じみた強運の持ち主でもある。
ブッチー
店長の幼なじみの初老の男性。ロマンスグレーの髪をソフトバックに整えた迫力のある二枚目。本名は「小渕沢」。響惣一郎が店長の店で働き始める少し前に仕事で渡米していたが、最近日本に帰って来た。店長とは互いに「白ちゃん」「ブッチー」と呼び合う仲で、現在も交流を続けている。店長と親しげに振る舞う人に対してあたりが厳しく、惣一郎にはその言動から店長に気があると誤解され、理想的なカップルだと喜ばれていた。だが、実際は美形でお人好しな店長に悪い虫がつかないようにと、昔から彼の近くで目を光らせてきたことがその真相で、大学生時代は店長に言い寄るチャラい男から彼を守るため、付き合っているふりをしていたこともある。これは、幼なじみの鳥原の発案で、当時鳥原に思いを寄せていたこともあって、彼女の言葉に反対できなかったことが大きな理由。ブッチー自身は店長に対して恋愛感情はいっさい抱いておらず、現在は鳥原と結婚している。
鳥原 (とりはら)
店長やブッチーの幼なじみの女性。二人とは大学も同じだった。ワンレンショートヘアでおっとりした性格をしており、いつもにこやかな笑みを浮かべている。大学生当時、何かと店長に言い寄ってくるチャラい男から彼を守るために、ブッチーと店長に付き合っているふりをさせたり、衆人環視の中、キスするようせまられた二人にゴーサインを出したりと、BL好きでノリがいい。実は当時からブッチーに思いを寄せられており、これらの言動が何かとブッチーの心にダメージを与え続けていた。現在はブッチーと結婚している。