あらすじ
第1巻
銀座にある高級クラブ「芳香」のNo.2キャストのアンジュは、かなりの美食家で知られていた。客との同伴やアフターで連れて行ってもらうのは、鮨店やフレンチなどリッチな高級グルメばかり。そんなある日、アンジュは売り上げ最下位の新人キャスト、すずの教育係に任命されてしまう。客へのあいさつから、ただ横に座ることさえもきちんと教えられたとおりにできないすずにあきれつつ、アンジュはすっかり落ち込んでいた。そんな中、アンジュのお得意様である永谷と加藤とのあいだで、最近ハマっているカレーの話になる。すずもまた、偶然話に出てきた新橋のカレー店「ケララダイニング」のことを知っていたため、三人の会話は思わぬ盛り上がりを見せる。しかしB級な店ということもあり、グルメの話題には事欠かないはずのアンジュは、ケララダイニングのことをまったく知らなかった。話に入ることができなかったアンジュは、さっそく翌日に情報収集のために新橋へと向かう。そこで見つけたのは、非常に庶民的なカレーの店だった。高級クラブのキャストとしてのプライドが邪魔をして、アンジュが店に入ることを躊躇していると、そこに偶然すずが姿を現す。そのまま流れでいっしょに店に入ることになったアンジュは、とまどいながらもすずに言われるがままカレーを食べ、そのおいしさに驚愕する。(第1夜「新人とカレーと夜のおねえさん」。ほか、6エピソード収録)
登場人物・キャラクター
アンジュ
銀座の高級クラブ「芳香」で、キャストを務めている女性。年齢は28歳。ルックス、話術、しぐさは店でもトップクラスで、客に楽しい時間を提供するキャストとしての意識が高く、売り上げNo.2の成績を誇る。しかし、見た目の美しさは評価されているが、真の姿は非常に高飛車でわがままな性格で、プライドも高い。同伴する店に関しても、必要以上に見た目にこだわり、高級であることに意味を見いだそうとしている。ある日、ママから言われて新人キャストのすずの教育係を担当することになる。当初は売り上げ最下位のすずを見下していたが、次第に彼女の素直で飾らない性格や、すずを交えた客とのやりとりに多くのことを学び、自分の中の意識も変化し始める。店内での飲食はもちろん、同伴出勤前の客とのディナーや、アフターの飲食に至るまで、「キャストの仕事=食べること」と認識しているものの、体型の維持と糖質制限とのあいだで心がいつもゆれ動き、悩みは尽きない。SNSでの集客にも積極的で、食事中でも写真を撮ることを忘れないが、太客の永谷からはその行為を叱責されたこともある。福岡出身で、常連客の谷、春田とは、銀座に初出勤した日からの付き合いで、高級鮨デビューをさせてもらったりと、今でも「銀座の娘」としてかわいがられている。
すず
銀座の高級クラブ「芳香」で、キャストを務める女性。東京出身のまだ経験が浅い新人で、キャストの中では売り上げ最下位。キャストとしての意識も低く、あいさつの仕方から座り方など、一から指導し直さなければまったく通用しない状態にある。素直な性格で無邪気なかわいらしさがあり、嬉しいとすぐにピョンピョン跳ねる。最近新橋の「ケララダイニング」のカレーにハマっており、そのおかげで、加藤、永谷から初めての指名をもらうことに成功する。キャストの中ではぽっちゃりめで、食べることが大好き。特に限定品には目がなく、アンジュからは少し節制するように言われている。以前はふつうのOLとして一般企業で働いていたが、怒られてばかりの毎日を送っていた。そんな日々に疲れたある日、手にしたボーナスでカウンターの鮨屋を訪れ、そのおいしさに感動。しかし、OLの給料ではなかなか食べられないものだったため、給料も高くおいしいものが食べられることを期待して、キャバ嬢に転職することを決めた。
永谷 (ながたに)
銀座の高級クラブ「芳香」の常連客の男性。アンジュを指名する太客で、高級グルメ志向が強く、お勧めの店でアンジュとディナーをとってからいっしょに同伴出勤している。友人の加藤と来店した際、同席した新人キャストのすずが、永谷もハマっているという新橋のカレー店「ケララダイニング」を知っていたことで話が盛り上がり、それをきっかけにアンジュと四人で同伴出勤することになる。
加藤 (かとう)
永谷の友人の男性。永谷の紹介で、銀座の高級クラブ「芳香」を訪れた。庶民派グルメが好きで、最近は新橋の「ケララダイニング」のカレーにハマっており、その話をしたところに同席していた新人キャストのすずと意気投合。その後、アンジュもそのカレーにハマったことをきっかけに、すずとアンジュを指名して永谷と四人で同伴出勤することになる。
ママ
銀座の高級クラブ「芳香」のママを務める女性。新しい支店のママに、売上上位のアンジュを据えなかったためにアンジュから詰め寄られたが、ママはその理由がアンジュにはチームプレイができないことにあると告げた。そしてアンジュに、ママになるには自分以外のキャストを生かす能力、現場をまとめる能力が必要であると説明した。お店で売り上げ最下位のすずを一人前に育て上げたら、次のお店のママにしてあげると約束し、アンジュにすずの面倒を任せた。売り上げには厳しく、何かとすぐにシャンパンを注文させたがる強欲なところがあるが、最近糖質制限中で、自分が飲むのは赤ワインやハイボールが中心。
佐藤 (さとう)
最近オープンしたばかりの話題の店「しゅんじゅう」の店主を務める鮨職人の男性。お店のメニューが「握りのみおまかせコース」しかなく、35カンにも及ぶために女性には量が多いことも理解している。永谷、加藤、すずといっしょに来店したアンジュが、積極的に食べようとしないことに気づき、ストレスを溜めないダイエット方法を提案する。おいしいものはしっかりと食べて節制するときはして、一週間でトントンになればいいとアドバイスを送る。
鈴木 (すずき)
銀座の高級クラブ「芳香」で、店長を務める中年男性。黒服の長として店を統括する立場にあり、店に関することはよく把握しているうえ、媚びすぎない接客が評価されている。お店で出しているフードメニューの中でも、「オオムラ」の卵サンドを押しが弱く特徴がないとしながらも、いつかどこかで食べた懐かしい味がすると表現している。競争が激しい銀座において、ノスタルジックな味がほっとさせるとオオムラの卵サンドを高く評価しており、保田にも勧めた。
保田 (やすだ)
IT企業のオーナーを務めるイケメンの男性。特に紹介もなく寝酒代わりにと、突然銀座の高級クラブ「芳香」を訪れた。運転手付きの1500万円の高級車を、店が入っているビルの下で待たせており、「シャンパンの帝王」と呼ばれる高級酒のクリュッグをボトルで注文するなど、超太客ともてはやされている。お店での売り上げ上位の三人を指名するが、No.3であるまみに対しては、あいさつの段階で気に入らないと、席に着く前にチェンジを要求した。結局、アンジュの容姿とヘルプで同席したすずの無遠慮で素直なところを気に入り、着席を許可した。基本的に、営業を目的とした媚びた態度を嫌うため、より高価なものを注文させようとするホステスを嫌がる傾向にある。それは若くして仕事で成功したことで、自分に媚びへつらう者ばかりを見てきたため。同時に高価でおいしいものばかり食べ続けてきたせいで食への意欲を失っていたが、すずと鈴木が勧めた卵サンドに心を動かされることとなった。
まみ
銀座の高級クラブ「芳香」で、キャストを務める山形出身の女性。店での売り上げはNo.3という人気を誇る。以前は六本木にある会員制のキャバクラにいたため、六本木の店事情には詳しい。高校卒業後、地元でキャバクラ嬢になってから、立ち位置はずっと変わることなくNo.3で、客には「誰々ちゃんの横にいた子」という覚え方しかされないことに悩みを抱えている。最近、まみの元気がないことに気づいたアンジュやすずに誘われ、六本木の中華店「百合」を訪れた。その際アンジュから、そこで注文した鶏煮込みそばを引き合いに出され、まみの客対応はきどらないありのままでいられるいい接客だと評価を受け、元気を取り戻すことになる。
松井 (まつい)
銀座の高級クラブ「芳香」の男性客。最近、アンジュを指名するようになった新規の客で、アンジュと同伴出勤するために高田馬場に呼び出した。アンジュを連れて行ったのはとんかつ屋「しもだ」で、彼女に予約が必要な「食べ比べコース」を食べさせることが目的だった。会社の社長を務めており、京都の有名料亭から世界のセレブが集まるレストランまで、食を追及している。しかし、もともとは三流大学からのたたき上げで今の地位を築いたこともあり、おいしさの基本は日常にあるという考えの持ち主で、とんかつやナポリタン、お好み焼きなど、庶民的な食事を好んでいる。実はママからわがままなアンジュの話を聞いたうえで、彼女を観察してみようと指名した経緯がある。しかし、アンジュと共に食事をすることで彼女のいいところを見いだし、アンジュを認めて今後を期待するようになる。
石和 (いさわ)
銀座の高級クラブ「芳香」で、黒服を務める新人の男性。北海道の登別出身で、温泉に詳しいイケメン。お店では、実力派のキャストであるアンジュの行動力をリスペクトしているほか、さまざまなキャストたちや客の様子をよく観察している。
谷 (たに)
銀座の高級クラブ「芳香」の男性客で、不動産のオーナーを務めている。昔からの常連で、一年に一度程度しか来店しないため、「年イチ詣で」と揶揄されている。建築士の春田とは大学時代からの古い友達で、何日も寝ずに遊び回ったり車で日本一周したりと、銀座で一番遊んでいる人物といわれていた。還暦を迎え、春田と共に人間ドックを受けた際、春田が検査に引っ掛かって入院したことをきっかけに、自分の体調にも自信がなくなってしまい、大量のサプリメントを摂取し始める。アンジュとは、彼女が銀座で初出勤した日からの付き合い。当時右も左もわからなかったアンジュに、高級鮨デビューをさせたり、いろいろな店を紹介したりした。今でも春田と共に、アンジュを「銀座の娘」としてかわいがっており、アンジュからも親しみを込めてタニーと呼ばれている。
春田 (はるた)
銀座の高級クラブ「芳香」の常連客で、建築士を務める男性。谷とは大学時代からの古い友達で、何日も寝ずに遊び回ったり車で日本一周したりと、銀座で一番遊んでいる人物といわれていた。しかし還暦を迎え、谷と共に人間ドックを受けた際に検査に引っ掛かり、そのまま入院することになる。アンジュとは、彼女が銀座で初出勤した日からの付き合い。当時右も左もわからなかったアンジュに、高級鮨デビューをさせたり、いろいろな店を紹介したりして今でも谷と共にアンジュを「銀座の娘」としてかわいがっている。
奈々子 (ななこ)
銀座の高級クラブ「芳香」のキャストを務める女性。京都の旧家の生まれで、国立のK大学出身の才女。楚々とした和装の美人で売上No.1の成績を誇り、誕生日には3000万円の売り上げを記録したとして、その功績が語り継がれている。店のエースという自覚から客とのデートを優先し、スタッフ全員が集まるミーティングにも欠席することが多いが、それすらも許されている。4年前に新人として入店した際、当時売り上げトップだったアンジュに対して、勤務初日から「近くで見ると化粧が濃い」と暴言を吐いて以来、アンジュとは犬猿の仲。アンジュに対してはやたらととげとげしく、静かに敵意を燃やしては叩きのめそうと考えている。客の情報は細かいことまですべてチェックするなど、仕事への執着はほかのキャストとは一線を画しており、一番の太客である市川恵三に対しては、出身地の広島まで出向いて、彼の好物や購入しづらいことで有名な春絵堂の栗饅頭を手土産に、食事会に出席した。また会話の中には、彼が昔作曲した歌の歌詞を織り交ぜるなど、知性あふれる仕事ぶりを見せる。
市川 恵三 (いちかわ けいぞう)
銀座の高級クラブ「芳香」の一番のお得意様。有名作曲家の高齢男性で、かなりの食通。たくさんの知人を招いた食事会を開催し、フレンチスタイルのバーベキューで、アンジュ、すず、奈々子らを歓迎した。広島出身で、購入しづらいことで有名な春絵堂の栗饅頭が大好物。ギラギラした美女よりも、静かで知性あふれる女性に魅力を感じている。自分の好物を持参し、自分の作曲した歌を会話に織り交ぜた奈々子に感動して、次回から店では奈々子を指名することを宣言した。
クレジット
- 原作
-
藤川 よつ葉