あらすじ
第1巻
文久3年12月。連絡の途絶えた父親の雪村綱道を捜すため、雪の舞う京の町を訪れた雪村千鶴は、血に飢えて人を襲う謎の化物と遭遇する。その化物は、見覚えのある浅葱色の羽織を着ており、襲われた千鶴は間一髪のところで新選組副長の土方歳三に救われる。同時に新選組の秘密を知ってしまった千鶴は、男性のふりをして彼の小姓となり、新選組の監視下に置かれるようになる。その後、新選組も綱道を捜していることを知り、捜索への協力という名目も兼ねて、千鶴は引き続き新選組に身を寄せることとなった。そして池田屋事変から1か月後、同志を多数失って憤激した長州藩は、藩兵を京都に攻め上がらせていた。新選組は会津藩の命を受け、幕府側の藩と協力して長州を迎え撃つ。そして逃げた残党を追って天王山へ向かう道すがら、土方は謎の剣士の風間千景と対峙する。不利な状況の土方を見かねた千鶴は小太刀を構えて助けようとするが、それを返り討ちにした千景は彼女の小太刀を見て驚く様子を見せる。元治2年2月、千鶴が京に来てから1年が経った頃、池田屋事変で脚光を浴びた新選組は幕府からの厚い支援を受け、隊士を募集して大所帯になっていた。そんな中、伊東甲子太郎が新たな参謀となり、彼の提案で新選組は西本願寺に移る。一方、腕を負傷したままの山南敬助は、甲子太郎のとある発言を気にして苦悩していた。その夜、隊士たちがざわついているのに気づいた千鶴は、近藤勇と歳三から敬助がある薬に手を出したという話を聞く。
登場人物・キャラクター
雪村 千鶴 (ゆきむら ちづる)
連絡が途絶えた父親の雪村綱道を捜すため、京都を訪れた少女。桃色の着物と袴を着用し、髪はポニーテールにまとめている。謎の化物に襲われていたところを土方歳三に救われて新選組隊士たちと知り合うと同時に、新選組の秘密を知ってしまう。これをきっかけに、表向きは土方の小姓として彼らの監視下に置かれるようになる。新選組も綱道を捜し続けているため、彼の捜索の協力者も兼ねているが、一人で外出することは許されていない。京都に来る前から男装しており、新選組でも男のふりをしているが、歳三など一部の隊士からは女であることを知られており、初対面の相手でもあっさり見抜かれることがある。幼少期から傷の治りが早い体質だが、綱道の言い付けで周囲には隠している。見た目はふつうの少女だが、正体は東国の鬼の一族、雪村家の末裔であり、純血の女鬼。幼少期に一族を人間に滅ぼされた時に本当の両親を失い、綱道に育てられていた。希少な女鬼であることから、強力な子孫を残そうとしている風間千景に狙われている。戦闘力は皆無に等しいが、どんな状況でも仲間を見捨てず、隊士たちに寄り添うひたむきな姿は多くの隊士たちを惹きつけ、信頼を寄せられている。代々伝わる家宝の小太刀をいつも肌身離さず持ち歩いている。礼儀正しくまじめで謙虚な性格で、新選組の雑務を健気にこなすがんばり屋。芯が強く、時には隊士たちを驚かせるほどに頑固な一面を見せることもある。人を疑うことを知らず、素直でお人よしなところがあり、沖田総司などにはよくからかわれている。
土方 歳三 (ひじかた としぞう)
新選組副長を務める男性で、愛称は「トシ」。京都を訪れたばかりの雪村千鶴を助けた際に新選組の秘密を知られてしまい、雪村綱道捜索のための協力者として、監視の意味も込めて彼女を小姓として雇い、新選組に置いた。出会った当初は新選組の機密事項を知った千鶴を殺そうとしていたが、ひたむきでがんばり屋な彼女の素直さに少しずつ惹かれていき、守ろうとするようになっていく。「鬼の副長」と評されるほどに厳格だが、どんなときでも新選組と近藤勇のためを思って行動している。新選組の中では勇と最も付き合いが長く、互いに信頼し合っている。個性的で荒くれ者ぞろいの隊士たちをまとめるため、細かいところまで目を配りながら、自ら鬼の副長役を買って出ている。自分にも他人にも厳しいが、風間千景の手段を選ばないやり方には激怒するなど、心根は優しく仲間思い。これらの本性や本心を知る者は少ないが、勇や斎藤一をはじめとする一部の者からは、些細なことまで目を配っている苦労人であると理解されている。好きな食べ物はたくあん。実在の人物、土方歳三がモデル。
雪村 綱道 (ゆきむら こうどう)
雪村千鶴の父親で、かつて新選組で変若水の研究をしていた蘭方医。千鶴と離れて京都で暮らしていたが現在は行方不明で、千鶴への連絡も長らく途絶えたままになっている。実は雪村家の分家筋で、千鶴の一族が滅ぼされた際に、両親を失った彼女を引き取って養父となった。変若水の研究を進める中で、日光に強い羅刹を作り出す方法や、吸血衝動を抑える薬なども研究していた。
風間 千景 (かざま ちかげ)
謎の青年剣士で、雪村千鶴や新選組に何かと絡んでいる。池田屋事変で新選組と対峙し、のちに天王山に向かう道中で千鶴に遭遇。千鶴が大切にしている小太刀や傷の治りの早さなどから正体を悟り、それ以来、彼女のことを執拗に狙うようになる。薩摩藩として行動しているが実は西の鬼の一族、風間家の純血鬼であり、頭首として西海九国の鬼たちをまとめている。東の鬼の一族、雪村家の末裔でもあり、希少な女鬼である千鶴と強力な鬼の子孫を残そうとしている。「童子切安綱」という特別な刀を持ち、羅刹化した隊士とも有利に戦える。鬼としての本来の力を含めた総合的な戦闘力は、沖田総司をも上回る。ふだんは金髪赤眼だが、鬼本来の姿を見せると白髪金眼になり、額にツノが生える。
沖田 総司 (おきた そうじ)
天才青年剣士で、新選組一番組の組長を務める。当初は雪村千鶴に「邪魔になったら殺す」などと冷たい態度を取っていたが、内心では彼女を大切に思い、守ろうとしている。幼少期から天才的な剣の腕を誇るが労咳を患っており、その病状は少しずつ悪化している。松本良順に新選組を離れて療養するように言われるが断り、千鶴に病のことを知られたあとも、新選組の剣として戦い続けようとしている。ふだんはひょうひょうとした性格で冗談交じりの言動が多く、千鶴をからかったり、意地悪な態度を取ることがある。土方歳三に対しても口が減らないが、近藤勇のことは心から尊敬しており、彼への悪口は誰であろうと絶対に許さない。好きな食べ物は金平糖で、嫌いな食べ物はネギ。実在の人物、沖田総司がモデル。
近藤 勇 (こんどう いさみ)
新選組局長を務める中年男性。土方歳三とは付き合いが長く、彼を「トシ」と呼んで信頼し合っている。新政府樹立後は何者かに銃撃されて肩を負傷し、のちに流山で追い詰められ、雪村千鶴たちを逃がすべく自ら新政府軍に投降した。心の広い親分肌で剣術にも長け、人情深く涙もろい。また、子供の頃から立派な武士になることを目指していたため、武士道へのあこがれやこだわりは人一倍強い。これらの人柄と強さにより、隊士たちからの信頼は非常に厚い。実在の人物、近藤勇がモデル。
斎藤 一 (さいとう はじめ)
藤堂平助と並ぶ新選組の最年少幹部の青年で、新選組三番組の組長を務める。左ききの居合の達人で、沖田総司と並ぶ天才剣士として知られる。一時は伊東甲子太郎一派に移ったと思われていたが、実は土方歳三の密命で間者となり、半年ほど甲子太郎を監視していた。おとなしく人見知りが激しい一匹狼タイプだが、冷静な判断力と行動力を持ち合わせている。好きな食べ物は高野豆腐。実在の人物、斎藤一がモデル。
山南 敬助 (さんなん けいすけ)
新選組総長を務める男性。長髪で、メガネを掛けている。優れた知略で新選組を支える一方、裏では変若水の研究や改良を担当していた。しかし池田屋事変で左手を負傷し、剣を振れなくなったことから自ら実験台となり、覚悟を決めたうえで変若水を飲む。羅刹と化して左手が回復したあとは、表向きは死亡したことにして南部邸に身を潜め、羅刹化した隊士たちを羅刹隊としてまとめながら、水面下から新選組を支えている。ふだんはにこやかな笑みを浮かべておだやかに振る舞っているが、冷酷な策士としての一面も持つ。実在の人物、山南敬助がモデル。
藤堂 平助 (とうどう へいすけ)
斎藤一と並ぶ新選組の最年少幹部の青年で、新選組八番組の組長を務める。年齢が近い雪村千鶴とはすぐに親しくなった。永倉新八や原田左之助と仲がよく、いっしょに行動したり遊んだりしている。伊東甲子太郎とは旧知の仲で、彼が作った御陵衛士の一員となり、新選組から離れる。明るくやんちゃな性格で、戦闘ではいつも先陣を切って何事にも真っ先に飛びつく。祭り好きなため、戦闘も遊び半分で楽しむこともある。好きな食べ物は寿司。実在の人物、藤堂平助がモデル。
原田 左之助 (はらだ さのすけ)
新選組十番組の組長を務める男性で、剣よりも槍を得意としている。永倉新八や藤堂平助と仲がよく、いっしょに行動したり遊んだりしている。大雑把で少々喧嘩っ早い性格ながら、義理堅く人情に厚い一面や察しのよさを見せることもある。昔、切腹した時の大きな傷跡が腹にあり、いつもさらしを巻いている。実在の人物、原田左之助がモデル。
永倉 新八 (ながくら しんぱち)
新選組一とも評される剣術の腕を持つ男性で、新選組二番組の組長を務める。原田左之助や藤堂平助と仲がよく、いっしょに行動したり遊んだりしている。曲がったことが大嫌いで、まれに近藤勇などと対立することがある。武家の出身のために政治に詳しく、教養もそなえている。酒と女が大好きで、特に島原の遊女によく貢いでいるため、いつも金欠気味。勾玉のような首飾りをしている。実在の人物、永倉新八がモデル。
井上 源三郎 (いのうえ げんざぶろう)
新選組幹部の中では年長者の男性で、新選組六番組の組長を務める。つねに冷静で優しく周囲を見守る誠実な人柄で、隊士たちの信頼も厚い。ほかの幹部たちからは「源さん」の愛称で親しまれている。ふだんは穏やかな性格ながら、食べ物を粗末にする者には厳しい態度を取る。実在の人物、井上源三郎がモデル。
伊東 甲子太郎 (いとう かしたろう)
藤堂平助に誘われて、新選組の新たな参謀となった男性。道場主を務めるほどの剣の腕を誇り、学識も高い。新選組に加入した3年後には山南敬助が生きていたことを知り、「土方歳三たちに謀られていた」のを口実に、斎藤一や平助を連れて新選組から分裂して「御陵衛士」を結成した。その後は原田左之助に坂本龍馬暗殺の濡れ衣を着せ、薩摩藩に接触して羅刹の存在を公表することで新選組や徳川幕府を貶めようとする。潔癖な性格で、オネエ口調で話す。実在の人物、伊東甲子太郎がモデル。
松本 良順 (まつもと りょうじゅん)
新選組お抱えの蘭医を務める中年男性で、雪村千鶴と雪村綱道の知り合い。沖田総司が労咳であることに真っ先に気づき、彼に新選組を離れて療養するように進言する。
その他キーワード
変若水 (おちみず)
西洋渡来の特別な薬で、人間の筋力や自然治癒力を爆発的に高める力がある。飲んだ者は「羅刹」という化物に変わって驚異的な力を得るが、副作用として狂気に駆られるようになり、血を求めて人を襲うことがある。元は徳川幕府の高官が持ち込んだ薬で、幕府の密命を受けた雪村綱道が新選組で研究し、隊士を実験台に改良が進められていた。
羅刹 (らせつ)
変若水を飲んで特別な力を得た者の総称。京都に来たばかりの雪村千鶴が遭遇した謎の化物の正体で、羅刹化した人間は目が赤く鋭くなり、髪は白く変化する。日光に弱く吸血衝動に苛まれることがあるが、超人的な身体能力と治癒能力を得ることができるため、自ら変若水に手を出す者も少なくない。新選組の中にもなんらかの理由で変若水を飲んだ者がおり、羅刹化した隊士たちは南部邸で日光を避けながら身を潜めており、血に触れない限りは正気を失うことはない。のちに羅刹化した隊士によって「羅刹隊」が結成され、同じく羅刹化した山南敬助によって統率されている。
クレジット
- 原作
-
オトメイト