あらすじ
王都の錬金術協会に所属し、基礎研究課を率いていたマスターランクの錬金術師であるルストは、ある日、同僚で武具錬成課の錬金術師、リハルザムと協会長の画策によって、予算をゼロにされた挙句に課を解体されてしまう。組織が必要とする錬金素材の製作を一手に担っていたルストは失意に沈むも、折良く旧知の学友であるカリーン=アドミラルから、彼女が賜った辺境領地の開拓を手伝わないかという誘いを受ける。ルストはその誘いを受けることを決意すると、すぐさま錬金術協会に辞表を提出し、辺境にあるというカリーンの領地「アドミラル領」を目指して旅に出るのだった。(EPISODE1)
辺境のアドミラル領にたどり着いたルストを待っていたのは、アーリ=サード、ロア=サード姉妹による手荒い歓迎と、カリーン直々による、風土病を解決して欲しいという要請だった。ルストは錬成獣のローズを使って手早くテントを整えて診療所を作り上げると、領内で原因不明の風土病に冒された人々の診察を行う。オーダーメイドのポーションによって診察をこなしていたルストは、その最中、患者の中に手足の麻痺(まひ)を患っている人間を発見する。事態が予想以上に深刻化していることを察知したルストは、ロアの助けを受けて治療のスピードを上げると、わずか1日ですべての患者を治療してしまう。そして、そのことをカリーンに報告をした翌朝、ルストは原因を特定するため、ペンデュラム・ダウジングによって拠点内の調査を開始するのだった。(EPISODE6)
関連作品
小説
本作『辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~』は御手々ぽんたの小説『辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~』を原作としている。原作小説版は御手々ぽんたが「小説になろう」に投稿した『予算ゼロ!? 錬金術協会で基礎研究をしていましたが、退職して学生時代の友人(女騎士)の辺境開発を手伝うことにしました。下準備を一手に引き受けていた古巣から泣きが入りましたが、今更戻るとか無理なんで。』に加筆修正をしたもので、KADOKAWA「MFブックス」から刊行され、キャラクターデザインを又市マタローが手がけている。
登場人物・キャラクター
ルスト 主人公
錬金術師の青年。マスターランクの錬金術師で、王都にある錬金術協会の本部に所属し、基礎研究課を率いていた。身長は178センチで、体重は62キロ。錬金術協会の高水準な製品や研究に必要とされる素材をほぼ一人... 関連ページ:ルスト
カリーン=アドミラル
アドミラル領の領主を務める女性。1年前の戦争で功績を挙げて辺境に領地を賜った元騎士で、巨人族の血を引いているため人知を超えた怪力を発揮できる。その筋力を背景に単騎突撃して武勲を上げてきたことから、人外扱いされたふたつ名を付けられている。身長は158センチで、体重は58キロ。好物は分厚いステーキで、嫌いな食べ物は葉物野菜。巨人族から受け継いだ筋繊維は常人の数倍の密度を誇っているため、人よりも筋肉が重たいという身体的特徴がある。快活な性格で人懐っこく、どんな問題が起きても笑顔で対処している。戦闘指揮官として前線で活躍しているが、領主の業務として付きまとう経理を苦手としている。戦争時の体験がトラウマとなっており、夜ごとに失った部下の夢にうなされるため、それから逃れるように早起きしている。アドミラル領に赴任してからも、風土病に冒された部下たちに気を配っていた。ルストとは元学友で、今回の開拓を行うにあたって旧知を頼る形で誘いをかける。ルストが規格外の能力の持つことを知悉(ちしつ)しており、平然と無茶振りをすることもしばしばある。一方でルストから抜け目なく面倒ごとを押しつけられることもあり、持ちつ持たれつの気の置けない関係となっている。
タウラ
神官騎士の女性。ルストがアドミラル領へと向かう旅の途上で出会った人物で、「復讐(ふくしゅう)の女神アレイスラ」という神を信奉する教団の信徒。神官騎士の中でも三剣の三に数えられる実力を誇る。所属していた教団が謎の呪術師に襲撃され、根絶やしにされた過去を持つ。家族にも等しかった仲間たちを失っており、タウラ自身もその際に呪術師によって呪いをかけられた。この呪いは自分の身を蝕むものではなかったものの、周囲にわかるように顔に呪印が表れ、呪術師に自分の居場所を知らし続けるという厄介な代物だった。また、あらゆる聖水によっても解呪できないもので、タウラの心の負担となり続けていた。呪術師に復讐を果たすために旅をしていたが、ルストと出会った際には、その呪術師の使い魔によって毒を受けて高熱を出し、死の間際に瀕(ひん)していた。しかし、ルストがオーダーメイドで作った規格外なポーションの効果で回復すると、ポーションの副作用で呪いも解呪されている。この時にタウラはルストから代償を求められると覚悟していたが、ルストは純粋な人助けから行ったことで、本人にそのつもりはなかった。しかし、タウラが納得しないだろうとルストが斟酌(しんしゅく)したことで、もしルストが厄災に見舞われた際には力を貸して欲しいと頼まれている。これに応じたタウラは、その際にルストを悩ませる厄災を切り払う剣となる、という誓いを捧げている。
アーリ=サード
カリーン=アドミラルの配下である女性。未来視の魔眼を持ち合わせる槍(やり)使いで、ふだんから魔眼の力を抑制するための面布で顔全体を覆っている。カリーンには妹のロア=サードと共に仕えており、カリーンの配下の中では共に一二を争う実力の持ち主。魔眼の持つ未来視の力は限定的なもので、闘争の可能性に反応して自動的に数秒先を見せるという能力になっている。これにより、初見の相手でさえ即座に実力や戦闘手段を見破ることができる。カリーンの治めるアドミラル領を訪れたルストに対しては、当初こそ警戒心を抱いて心を開いていなかったが、初見でルストが自分たち姉妹を圧倒するほどの規格外な実力の持ち主だと見抜き、ロアほどの対抗意識は見せていなかった。その後、アドミラル領に満ちていた風土病の治療などを通して打ち解けていくと、次第に勤勉でまじめながらも、穏やかで妹思いな素の一面をルストに対しても見せるようになる。
ロア=サード
カリーン=アドミラルの配下である女性。透視と遠視の魔眼を持ち合わせる槍使いで、ふだんから魔眼の力を抑制するための面布で顔全体を覆っている。カリーンには姉であるアーリ=サードと共に仕えており、カリーンの配下の中では共に一二を争う実力の持ち主。魔眼を用いての索敵は遠方の存在をいち早く発見する有能さを誇る。また、その槍捌(さば)きはカリーンの怪力でも砕けないモンスターの甲殻を、器用に避けて貫く精妙さを持つ。強力な魔眼はカリーンの配下として有用な力を示す一方、瞼(まぶた)を閉じても視界を遮ることができないという、日常生活に支障をもたらす問題を孕(はら)んでおり、姉妹にとっての悩みの種となっている。カリーンの治めるアドミラル領へやって来たルストに対して、当初は配下の実力者という自負から敵愾(てきがい)心を抱いていた。しかしながら、ルストの規格外の能力やお人好しな性格を理解していくにつれ心を開き、親しく接するようになっていく。そのため、はじめのうちは堅苦しい一面をルストに示していたが、徐々に快活で健啖(けんたん)家で、どことなくあどけない好奇心旺盛さを表に出すようになった。
リハルザム
錬金術協会の武具錬成課を率いる男性。肥満体型の禿(はげ)頭で、マスターランクの錬金術師ながら、驕慢(きょうまん)な性格をしている。特にルストと基礎研究課を疎ましく思っており、今の協会長に取り入って讒言(ざんげん)を繰り返すことで、最終的には課を解体させることに成功している。これによってルストをこき使えるとリハルザム自身は踏んでいたが、ルストの労働契約が錬金術協会を辞める際に、基礎研究課の引き継ぎを行う以外の明確な制限を持たされていなかったため、そちらの目論見は失敗に終わっている。自らの部下やルストなどには増上慢な態度で接する一方、協会長や取り引きの相手である武具協会のザーレなどに対しては下手に出るなど、権力におもねる一面を持つ。また、リハルザム自身の実力を実際以上に過大評価する見栄っ張りなところがあり、ルストに対する対抗意識から自分の実力不足を認めたがらない。これはルストが辞めてから作り出した魔導回路が安全マージンを持たない欠陥品であったことからも、明らかとなっている。
協会長
錬金術協会の現在の協会長を務める男性。ちょび髭(ひげ)を生やしている。元は国の役人で、魔道具のパイプを愛用している。政変に巻き込まれて前協会長が左遷させられた際、天下ってきて現在のポストに就いている。錬金術協会の内部事情には明るくなく、現場でどのような素材を必要としているのか理解していない。そのため、協会長自身に媚(こ)びへつらうリハルザムの言葉を鵜吞(うの)みにしている部分があり、リハルザムの予算欲しさに口にしていた讒言に乗っかり、錬金術協会の高水準な製品や研究を支えていた基礎研究課を解体した。また、日頃からルストが居なくても困らないと豪語していたリハルザムの言葉を真に受け、ルストが辞表を出した際にも必要以上に引き留めることはなかった。これがのちに錬金術協会の評判と水準を致命的に落とすことにつながっていく。
トルテーク
錬金術協会に所属する新人の錬金術師の男性。武具錬成課に所属しており、小柄で小太りな外見をしている。基礎研究課が解体されたことで管理者のいなくなった特別保管庫で、保管されていたスカベンジャースライムの体液が爆発した際に、掃除するリハルザムのもとへ武具協会のガーンが訪ねて来たことを伝えた。その際、入れ替わりに特別保管庫の掃除をほかのマスターランクの人間にまかせるよう指示されたが、新人であるためにマスターランクの錬金術師の動向などを把握しておらず、錬金術協会の建物の入り口で帰りを待つこととなった。またこの時、特別保管庫の扉を閉める権限を持たなかったため、扉を閉められずにいた。これによって保管されていた体液が大気中の魔素を吸い込んで再生したことで、のちのスカベンジャースライムの暴走事件を招いている。
サバサ
錬金術協会に所属する錬金術師の男性。武具錬成課にも所属しており、課を率いるリハルザムに代わって課員に指示を出すことが多い。また、リハルザムから直接に状況の説明や指示を受けることも多く、中間管理職的な立ち位置にいる。生真面目な性格で、リハルザムの純水を用いて作られた魔導回路が安全マージンのほとんどない欠陥品であることを把握し、そのことを指摘もしていた。しかし、強権的なリハルザムに対して直接的な物言いをすることができず、結局はリハルザムの指示に従って問題のある製品を完成させてしまう。スカベンジャースライムが課を襲った際には、率先して事態の収束に動いていた。
スキーニ
錬金術協会に所属する錬金術師の女性。武具錬成課にも所属しており、緩やかに波打つ髪をツインテールにまとめた髪型をしている。先輩に対してもどこか間延びした、真剣みを欠いたはすっぱな言動で、武具協会に納品する魔導回路の運搬を任された。しかし、任された仕事の荷物のチェックを怠っている。
村長
トマ村の村長を務める老翁。錬金術師に対する知識を少なからず持っている。右目に片眼鏡をかけている。過疎化の進むトマ村の窮状を嘆いており、アドミラル領へ向かう途上に村を訪れたルストに解決を依頼した。トマ村の窮状の原因は、国が戦争をきっかけに魔法銃の更新を行ったためで、新しくなった新型の魔法銃が欠陥品だったことにある。燃料である魔晶石も新型の魔法銃に合わせて更新されたため、辺境地で満足に自衛する武器がなくなったトマ村では、安全を求めて移住する住民が絶えなくなってしまった。そのため村長は事態の解決に向けて、ルストに旧型の魔晶石を融通するように頼み込んでいる。結果、ルストが規格外の能力によって大量の魔晶石を作ってくれたことで原因は解決されるが、代わりに今後はアドミラル領で旧型の魔晶石を量産できるようになったことを、領主へ伝える役割を頼まれている。
ザーレ
トマ村の村民の男性。パーマのかかった長髪を束ねた外見をしている。歯に衣(きぬ)着せぬ物言いをする、口さがない人物。アドミラル領へ向かう途上に、トマ村を訪れたルストを見かけて声をかけた。その時、ルストが錬金術師だと知るや村長に会うように頼み込んで、村の窮状を救う端緒を作った。トマ村が過疎化する原因となった魔法銃の更新に憤りを覚えており、欠陥品である新型の魔法銃に対して、事あるごとに不満を漏らしている。
リットナー
アドミラル領の食糧管理責任者を務める青年。弟といっしょに兄弟でアドミラル領の開拓事業に従事している。アドミラル領に赴任してから弟が風土病に罹患(りかん)し、手足の麻痺を患ってしまう。そんな中、新たにアドミラル領へやって来たルストが僅か1日で弟を治療してしまう。リットナーはそのことに深い恩義を感じており、その後の風土病の原因調査を含めて何かとルストのことを気にかけている。
ガーン
武具協会の副協会長を務める男性。ひげ面の筋骨逞(たくま)しい外見をしている、居丈高な物言いをする。製品の納品が契約よりも大きく遅れていたリハルザムに対して、錬金術協会に押しかけて詰問している。その際、リハルザムのことを「こわっぱ」扱いしていた。
ヒポポ
ルストの錬成獣。小型のカバのような外見をしており、8本の足を持つ。ルストが長距離を移動する際、乗り物として使用している錬成獣で、悪路を物ともしない走破性を持つ。また周囲からの変化に敏感で、敵意をはじめとしたさまざまな異常を察知しては、乗り手であるルストに知らせることができる。モンスターを物ともしない戦闘力も有し、怪我人の護衛や自らが探知したモンスターの排除といった行動を容易にこなす器用さを持つ。乗り物や護衛戦力として重用されるため、長時間にわたってルストと行動を共にすることも多く、不足しがちな魔素などを補うために「ヒポポメシ」という、特別に調整されたペレットと魔石の粉末を用いた餌を与えられることがある。
ローズ
ルストの錬成獣。薔薇(ばら)の外見をした植物型の錬成獣で、蔦(つた)を伸ばしてさまざまな家具を作り出して屋内環境を整えることができる。几帳面(きちょうめん)で実直な性格をしており、傷ついた動物の世話など、長期にわたる作業などを任せることができる。ルストが学生時代に作り出した錬成獣で、かつては野営の度にルストのテントの生活環境を整えていた。そのため、カリーン=アドミラルをはじめとした学友たちがあまりの居心地のよさから、ルストのテントへたびたび入り浸っていた。ルストがカリーンに請われてアドミラル領へ赴任した際、ルストのテントの居住環境を整えるためにスクロールから呼び出されている。その際、テントの床が直に地面と接しないように床下を作ったのをはじめ、ベッドや椅子、作業机などさまざまな家具を作り出している。また、ルストが旅の途上で助けた白いトカゲの治療も任されており、モンスター用に調合された特性のポーションを少量ずつ投与し続けている。
集団・組織
基礎研究課
錬金術協会内にある課。錬金術の研究に必要不可欠とされるさまざまな素材の製作や、基礎的な技術の研究を行う。錬金術協会の稼ぎ手として花形である武具錬成課など、ほかの課の影に隠れがちで地味な課だが、これまでの錬金術協会の評判や高品質な製品の数々を支えてきた陰の功労者でもあり、なくてはならない課といえる。しかしながら、その重要性を知っていた協会長のハルハマー師が政変の余波で左遷され、現在の協会長に代わると重要性が軽視されるようになる。そのため、年々予算が削減される傾向にあったが、ついには基礎研究課を疎ましく思っていた武具錬成課のリハルザムの謀略によって解体の憂き目に遭う。
武具錬成課
錬金術協会内にある課。錬金術の術式を使用した武器や防具の開発を行っており、錬金術協会内でも最大の稼ぎ手とされている。しかし、武具錬成課を率いているリハルザムは錬金術師として優れておらず、1年前の戦争に合わせて開発した新型の魔法銃の評判は散々なものとなっている。また、リハルザムの謀略によって基礎研究課が解体され、ルストが辞めてからは品質の低下に拍車がかかり、錬金術協会で管理していた素材の管理すらままならなくなっている。そのため、スカベンジャースライムの暴走をはじめとしたさまざまな問題が発生している。
錬金術協会
錬金術師が所属する組織。王都に本部がある。単に「協会」とも呼ばれている。多くの錬金術師が本部に勤めており、武具錬成課をはじめとしたさまざまな課に所属して錬金術の研究や、それら技術を導入した武器、生活用品の開発と販売を行っている。かつては現場から叩(たた)き上げの人物が協会長を務めていたが、政変の余波によって、現在は国の役人が天下りで協会長を務めている。前協会長時代は高品質の道具を次々と開発し市場へ卸していたが、現協会長となってから重宝され始めた武具錬成課のリハルザムが低品質な魔法銃を開発した影響もあり、現在は評判が落ち始めている。また、錬金術協会の商品が高品質であるのは基礎研究課の開発した、さまざまな素材があってこそだったが、基礎研究課を邪魔に思っていたリハルザムの謀(たばか)りによって協会長が騙(だま)された結果、解体の憂き目に遭っている。これによって錬金術協会は、これまで築き上げてきた基礎的な研究と素材の供給を捨てることになり、規格外に高品質な純水を納品していたルストも辞めたことで、斜陽を一層深めている。
場所
トマ村
辺境に位置する寒村。カリーン=アドミラルの領地であるアドミラル領とは隣接する位置にある。1年前まではモンスターの脅威に怯(おび)えながら過ごす必要のある僻地(へきち)であるものの、一定の人口を誇っていた。しかし、戦争をきっかけに魔法銃の更新がされると、それが欠陥品であったためモンスターから身を守る術を徐々に失っていくこととなる。信頼性の厚かった旧式の魔法銃も、燃料となる魔晶石が生産を終えたため使えなくなっていき、結果、安全のために住民がこぞって他所(よそ)へと移住した。これにより、トマ村は過疎化が進んでしまい、現在ではすっかりと寂れてしまっている。しかし、アドミラル領へ向かう途上にあったルストが訪れ、村の窮状を聞いた彼が旧式の魔法銃でも使用できる魔晶石を大量に生産してくれたおかげで、窮状から立ち直りつつある。
アドミラル領
カリーン=アドミラルが領主を務める辺境の領地。カリーンが戦争で活躍したことで、褒賞として国から賜った土地だが領土とは名ばかりの荒野。人の住み着いていない未開拓の土地であり、カリーンをはじめとした部下たちによって開拓が進められている。本拠地に定められた土地には現在、カリーンたちが生活するための野営地が設置されており、住まいは天幕やテントとなっている。カリーンが開拓を始めてから発生した直近の問題として、開拓に従事する人々のあいだで風土病が流行(はや)り始めたことがある。カリーンは治療師を招聘(しょうへい)して事に当たるも、アドミラル領を訪れた治療師は患者を治すことができず、それどころか自分の身惜しさに逃げ帰ると、治療師ギルドにも噂(うわさ)を広めるという行動を取った。これにより、カリーンは新たな治療士を招くこともできないという危機に陥っていたが、カリーンの元学友であるルストが彼女の誘いに乗ってアドミラル領を訪れると状況は一変する。彼は僅か1日で患者の治療と原因の特定、排除を終えるという規格外な働きを見せている。また、ルストが現在は生産が中止された旧型の魔晶石を製作できるということで、近隣の領地との交渉が可能となった。これにより、開拓中のアドミラル領にとって貴重な財源を手に入れることにも成功している。
その他キーワード
純化
ルストが使用するスクロールの一つ。対象としたものから不純物を取り除き、文字どおり純化する効果がある。ルストが作り出したオリジナルのスクロールで、錬金術協会に所属していた時のルストが、日常的に行っていた蒸留水の製作業務を面倒に思って簡便にこなすため、製作された。その動機こそ不純なものだが、スクロールの製作に当たってはルストが持ちうる基礎研究の粋を集め作られており、ルストの自信作となっている。製作にコツこそ必要とするが、その効果は絶大なものとなり、単なる純水の域を超え、神が創り出した水に等しい、概念上の水を作り出せる。そのため、ルストが純化のスクロールで作り出した純水をポーションの素材とすると神性を帯びるため、下手な聖水を超えた呪いに対する特効を持つ。ほかにも、待機中の魔素を濾(こ)し集めてカゲロの実に宿すことで魔石を創り出したり、絨毯(じゅうたん)に使用することで防水防塵効果を追加したりと、さまざまな場面で使える汎用性がある。
解放
ルストが使用するスクロールの一つ。対象としたものを解き放つ効果があり、ルストはもっぱらポーション作りなどの際に、材料を重力から解き放って浮遊させるのに使用している。対象とする数にはある程度の自由度があり、地面に生えた薬草や泉の水など、複数の素材を同時に指定して浮かばせることが可能。
定着
ルストが使用するスクロールの一つ。対象としたものの状態を定着させる効果があり、ルストはこのスクロールを用いて、材料を混ぜ合わせたポーションや、魔導回路へ魔素を供給する魔石などの状態を定着させることで、ポーションとして安定させたり、魔石を装置に取り付けたりなどしている。
転写
ルストが使用するスクロールの一つ。対象としたものの情報を転写させる効果があり、ペンデュラム・ダウジングが感知した魔素の情報を写し取ることなどができる。また、人間やモンスターといった生物にも使用することが可能で、対象の病気や負傷状況、病人を苦しめている毒の種類などを読み取ることができる。ルストはこのスクロールによってタウラの体を蝕んでいた毒や呪いの種類を特定しただけでなく、アドミラル領に蔓延(まんえん)していた風土病の原因が、生活用水の水源に住むモンスターの神経毒であることを突き止めた。
研磨
ルストが使用するスクロールの一つ。対象としたものを小さな竜巻によって巻き上げるスクロールで、ルストはこれに金剛石の粉末を混ぜ合わせることで、魔晶石の素材となる魔石の研磨などを行っている。金剛石の粉末の濃度や竜巻の回転速度を変えることによって研磨の具合を調整できる以外に、粉末を使用しなければ解放のスクロールのように複数の対象を持ち上げ、一か所にまとめ上げるような使い方も可能とする。
投影
ルストが使用するスクロールの一つ。対象とした情報を別の対象に投影する効果があり、あらかじめ本に記された魔導回路の内容を水瓶に焼き付けるといった使い方が可能となる。ルストはこの投影のスクロールによってアドミラル領に設置する、浄水機能付きの新しい水瓶を製作した。
魔素抜き
土壌から魔素を抜くことで、作物が育つように改良する作業。アドミラル領のような辺境地では土壌の魔素が濃すぎるため、作物どころか微生物すら存在できない箇所が存在しており、一面に荒野が広がっていることもまれではない。そのため、魔素抜きによる土壌改良が必須となり、辺境地に呼ばれた錬金術師が行う仕事の代表的なものとなっている。
情報通信装置
現代錬金術の粋を集めて作られた通信装置。遠隔地からメッセージを受信する機能があり、内容を備え付けられた紙に自動筆記する。形状や大きさはさまざまで、ルストが働いていた錬金術協会の基礎研究課に置かれていたものはタイプライターにフラスコの取り付けられたような形をしていた。アドミラル領に設置されていた情報通信装置は一室の多くを占めるほどに巨大化したもので、人ほどの大きさのあるフラスコがタイプライター状の本体の両側へと取り付けられていた。
ポーション
傷や病気、消耗した体力を回復する効果を持つ薬。錬金術によって薬草などを配合することで作り出され、ベースとなる純水の質によっては効果に大きな差異が生じてくる。また、人間に使用されるポーションは魔素を多分に含んでいるため、それらが害となるモンスターや動物には基本的に使用できず、特注の代物が必要となってくる。しかし、魔素のないポーションは回復力が低いため、多量のポーションを少量ずつ点滴するような、長期的な治療が必要となる。ルストが作り出すポーションは特に黄金色に輝く特別品で、神から授けられた水に匹敵する概念上の水によって作られたそれは生半可な聖水以上に、呪いに対する特効を有している。また、転写のスクロールを利用することで患者の状態に合わせたオーダーメイドのポーションを作り出すことも可能としている。この規格外の能力により作り出されたルストのポーションは、さまざまな聖水を試しても解呪できなかったタウラの呪いと体内の毒を癒やして見せただけでなく、未知の風土病に冒されていたアドミラル領の病人たちを1日足らずで治して見せた。
草レンガ
ルストが作り出した簡易栄養食。ルストが愛食するもので、片手で簡単に食べられるブロック状の携行食となっている。穀物やフルーツを錬成術によって乾燥させ、固着させたもので、ルストの学友であるカリーン=アドミラルなどからは草と土の味がすると称されている。「草レンガ」という呼び名もカリーンらが付けたもので、そこまで酷い味だと思っていないルストにとっては、少しばかり不本意な評価となっている。
メダリオン
錬金術師が所有している身分証の一種。天秤(てんびん)の描かれたメダルで、ランクが定められている。ルストが所有しているものは最高位のマスターランクのもので、これを所有している錬金術師は「〇〇師」というような敬称で呼ばれる。メダリオンはそれを見せるだけで身の証(あかし)を立てられる代物であるだけでなく、蜜蠟や手紙に対する押印として機能するなど、一定以上の社会的信用が担保されている。そのため、メダリオンに誓ってされる行動は身の証を立てられるだけでなく、所有者の錬金術師が責任のすべてを負う代わりに、ある程度の融通を強引に利かせられるという、一種の特権や強権のような働きをする。
魔法銃
魔晶石を燃料に凝縮された高濃度の魔素を打ち出す銃。魔素が害となるモンスターや動物に対して非常に強力な武器である一方、人間に対しては効果を発揮しないためフレンドリーファイアを心配する必要のない、安全な武器となっている。そのため、モンスターの脅威が蔓延(はびこ)る辺境地に住まいながら、武の心得のない一般人にとっては欠かすことのできない生活必需品となっている。特に数年前に開発されたH-三二型と呼ばれる魔法銃は、頑丈で狙いもぶれず、魔晶石の消費も低燃費に抑えられた高品質な代物だった。しかしながら、1年前の戦争に合わせて錬金術協会のリハルザムが作り出した新型のR-零零一型は、威力が向上した代わりに堅牢(けんろう)性が欠けており、故障や暴発を頻発するだけでなく、貴重な魔晶石の消費も激しくなっていると、非常に評判の悪い代物となっている。また、魔法銃はそれぞれの規格にあった魔晶石を必要とするため、型式の更新に合わせて魔晶石の規格も変わり、旧型の魔晶石の製造が中止されている。そのため、従来使用していた旧型のH-三二型を使用し続けるという選択肢を採ることも難しく、結果として辺境地に存在する村の安全問題に発展しており、トマ村のような過疎化を招いている。
スクロール
魔素を含んだ特殊なインクによって錬金術の魔導回路が描かれた巻物。大きさや太さはそれほどなく、片手の指のあいだに3本のスクロールを挟んで持つことも可能な程度の大きさ。よく使用される汎用的なスクロールはケースに収納され、利便性のためにカラビナが取り付けられたものも存在している。手持ちのないスクロールが必要となった場合は、紙を丸めたものに術式を描いて簡易スクロールとする場合もある。音声による簡単な入力に対応しており、例えば「展開」という言葉に反応すると、空中に浮かび上がり巻物を開く動作を行うなどする。その種類はさまざまで、錬成獣のような生き物を収納している巻物から、実際に人の体に巻き付けるもの、記された術式を対象物に発動するものなど、使用方法も多岐にわたっている。同時に使用できるスクロールの数は内容と錬金術師の技量によって左右され、一般には3本のスクロールを同時に展開するだけでも驚かれる。ルストは、3本のスクロールを3セット同時に展開して同時に作業を行うといった離れ業も可能としている。また、「純化」のスクロールのように、世界に一つしかない自作したスクロールも持ち合わせている。
魔石
待機中の魔素が凝り固まって結晶化したもの。モンスターが体内で長い時間をかけて作り上げるもので、ある程度の希少性がある。また、パラライズクラウドのように、魔石それ自体がモンスターの本体となっており、特殊な能力を有する場合も存在する。魔石に宿る魔素は魔導回路をはじめ、さまざまな錬金術による器具に燃料を供給する動力源として機能する。また適切な加工を施すことで魔晶石となり、特にカッティングの仕方によっては魔素の出力を調節することができる。ルストは本来であればモンスターの体内からしか手に入らない魔石を、待機中の魔素を濾し集めてカゲロの身に宿すことで作り上げるという、人工的な量産方法を取得している。このため、カゲロの実さえあれば魔石や魔晶石を事実上は大量生産できることから、アドミラル領の重要な収入源の一つとなっている。
魔晶石
魔法銃をはじめ、魔導回路の刻まれた道具を稼働させるために必要とされる燃料。魔石を適切に加工して作り出すもので、使用する道具によっては専用の規格が存在する。規格には大まかにサイズ、出力、容量の3項目が存在しており、特に出力が重要視される。出力を調整するには魔石を適切な形にカッティング加工する必要があり、規格に沿った出力を持たせるだけの知識が必要となる。また、魔石は本来であればモンスターの体内から手に入れられるもので、規格に適合する魔石を選りすぐったうえで加工しなければならないため、ある程度の希少性がある。一般人が入手するのは難しく、特に魔法銃の更新などに合わせて魔晶石の規格に更新が入るなどすると、従来使用されていた旧型の魔晶石を手に入れる場合に困難が生じる。しかしながらルストは、錬金素材としてよく知られるカゲロの実を利用して、待機中の魔素を濾し集めて身に宿すことで人工的に魔石を作り出すことも可能としている。また、旧型の魔晶石の規格を覚えていたため、トマ村の村長に請われた際には大量に魔晶石を生産して、村の窮状を救っている。
ペンデュラム・ダウジング
魔素の測定に特化した器具。指輪から菱(ひし)形の錘(おもり)を鎖で吊(つる)した形状をしており、その揺れ幅によって魔素の濃淡を計測する。ペンデュラム・ダウジングが計測した情報は自動で転写のスクロールによって書き記され、共有されるようになっている。アドミラル領で発生していた風土病の原因を特定するため、ルストが使用していた。
ヒポポメシ
錬成獣であるヒポポにルストが与えている餌。ヒポポに適した草をもとに作ったペレットに、粉末状にした魔石を振りかけたものとなっている。錬成獣にとって魔素は過不足どちらも害となるため、使用される魔石の分量はしっかりと計量されている。ヒポポにとっては美味なのか、与える度に毎回ものすごい勢いで食らいつく様子が見られる。
雲式給水装置
ルストが作り上げたオリジナルの装置。アドミラル領が生活用水として利用している、浄水機能の付いた水瓶に遠隔地にある水源から自動で給水するために作り出された。パイプなどの配管を利用して給水すると、モンスターなどによって破壊されるリスクがあり、その度に修復する必要にせまられる可能性が高いとにらんだルストは、水を水蒸気のような雲の形にして輸送する方法を考え出した。その手段として「パラライズクラウド」という雲型の、危険ランクが特級のモンスターの魔石が用いられている。パラライズクラウドの魔石には周辺の物理法則を書き換えて、空気中の水を雲のようにする力があり、同時に拡散を防ぐ効果もあった。ルストはパラライズクラウドの魔石が持つこの特性を活かし、水源地の水を雲のようにしたうえで、別の術式によりアドミラル領の水瓶へと誘導することによって、自動での給水機能を持たせることに成功している。
錬金術師
錬金術を使う者。錬金術師たちが集まってさまざまな研究・開発を行う錬金術協会が存在しており、所属する錬金術師は実力や功績に見合ったメダリオンを所有する。錬金術師が作り出すものは武器や武具といった戦争の道具から、インフラ設備に生活必需品まで多岐にわたり、錬成獣といった擬似的な生命をも創り出すことができる。錬金術師が使用する錬金術の多くは魔導回路という、溶液によって刻まれた術式に魔素を流すことで機能する。そのため、よく使う錬金術はスクロールに魔導回路として刻み、状況に合わせて使用する場合が多い。錬金術師によってこのスクロールを同時に展開できる本数に違いがあり、実力を測る指針として機能している一面がある。
魔素
この世界に存在する元素の一つ。あらゆる力に変換することのできる特性を持っており、錬金術によって作り出された魔導回路によって生活必需品からインフラ設備、武器防具などさまざまな場面でエネルギーとして使用されている。また、凝縮することで結晶化するという特性があり、そちらは魔石と呼ばれる。さらに、魔石に対して適切な加工を施したものを魔晶石と呼び、錬金術で作られた道具に魔素を供給するエネルギー源として使用されている。魔素は濃淡こそあれ、この世界のあらゆる所に存在しており、空気中や土中、モンスターの肉やその体内で凝縮された魔石、水などさまざまな場所に存在する。荒れ果てた辺境地では、地面に含まれる魔素も濃いとされている。このようにどこにでも存在し、エネルギー源としてこの世界では欠かすことのできない元素である魔素だが、人体に無害な一方でモンスターや動植物に対しては害をもたらすという特性がある。特に一定の水準を超えて接種すると、モンスターといえども凶暴化し、果ては肉体を失うほどのダメージを負う。辺境地の土壌では魔素が濃すぎるため、植物どころか微生物ですら生息することが困難となっており、新たな土地を開墾するには「魔素抜き」と呼ばれる、土壌から魔素を抜く作業が必須となっている。この人体以外に害をもたらすという特性を活かして、魔素のみを打ち出す魔法銃をはじめとした武器が作り出されている。人体に無害であることは、この世界における謎の一つとされている。錬成獣にとっても摂取しなければならない栄養素の一つとして作用しているが、過度な摂取はやはり毒として作用するため、過不足のない適度な摂取を必要とする。
魔導回路
錬金術による術式が書き込まれた回路。魔素を魔導回路に通すことで術式が機能し、錬金術によるさまざまな効果、能力を発揮する。魔法銃をはじめとした武器、防具、浄水装置やランプといった生活必需品からインフラ設備まで、さまざまな所で使用され、この世界にさまざまな発展をもたらしている。基板に描かれたものから、水瓶に直接書き込まれたものなど、記される場所は用途によって異なっている。製作には蒸留水をはじめとする純水や溶液が必要となっており、内容以外にもこれら基礎的な素材の質が最終的な魔導回路のクオリティーを左右する。
純水
水から蒸留や濾過(ろか)などの手段を用いて不純物をできるかぎり取り除いた水のこと。そのため、蒸留水も純水の一種であるといえる。錬金術によって作り出されるさまざまな道具の製作に必要となる重要な消耗品で、純水の質が最終的な製品の出来映えを左右する。ルストが製作する純水は、独自に編み出した錬金術である「純化」を使用した、純水の中でもさらに不純物を取り除いた超純水、それをさらに上回る「完全なる純水」と称するものである。この領域にいたると概念としての水に等しくなり、世界法則に反する、存在してはならないものとなる。そのため、完全なる純水は触れたものを不純物として取り込もうとし、結果としてあらゆるものを粉砕する能力を秘める。ルストはこの特性を利用して最高純度のポーションを製作している。また副次的な作用として、概念としての水は神が作り出した原初の水に等しいという特性上、神気を帯びるという特徴がある。そのため、あらゆる呪いに対して下手な聖水以上の効果を発揮する。タウラがルストのポーションを飲んだことで、身に帯びていた呪術師による呪いが解除されたのは、このルストの製作した純水をベースとしたポーションの副次的効果による。
アレイスラ
この世界で信じられている神々の一柱。三つの顔を持つと伝えられており、それぞれ慈愛、叡智(えいち)、復讐という側面を持つ。そのため、「復讐の女神」と称されることもある。アレイスラを信奉するものたちは教団を結成し、神官騎士であるタウラもその所属である。しかし、謎の呪術師による襲撃によって教団に所属していた信徒たちはそのほとんどが命を落としており、タウラはその数少ない生き残りとなっている。
カゲロ
この世界で多く見られる樹木の一つ。落葉高木で、葉は三つに分かれた裂状葉となり、棘(とげ)の生えた実がなる。古くから村落の村長の軒先に枝が吊り下げられる風習があり、かつては村に最低でも1本は植えられていたというほど身近な樹木として知られている。しかし、現在では後者の風習は廃れ始めており、村の周辺に林となっているのを見かける頻度の方が多い。錬金術の素材として利用価値の高い樹木で、特にその実は魔素の宿りが非常によいとされる。この特性のため、本来は魔物が体内で長い時間をかけて生成する魔石を加工しなければならない魔晶石を、大気中から濾し集めた魔素をカゲロの実に定着させ、加工することで作り出すことが可能となる。魔晶石はさまざまな錬金術で作り出された道具を動かすために重用される消耗品であり、適切な錬金術に関する知識を必要とするとはいえ、採取の簡単さに対してカゲロは非常に大きな利用価値を有している。その一方で、一般人にはこの利用価値が知られておらず、もっぱら利用価値のない雑木の一種としてみられている。
錬成獣
錬金術によって作り出された生物の総称。錬金術のもつ三つの側面の内、命そのものをあやつる技における到達点とされる。ルストも複数の錬成獣を産み出しており、ローズやヒポポといった存在がそれにあたる。特にローズはルストが学生時代に生み出した錬成獣で、長い付き合いとなっている。一口に「錬成獣」といっても、その特性には大きなばらつきがあり、例えば薔薇型の錬成獣であるローズであれば、野営する際に設置するテントの内装を自身の蔦によって補い、テーブルやベッドどころか地面と接していない床を作り出して断熱性を確保するなど、宿地の居住性の確保をサポートする存在として作り出されている。他方、ヒポポに関しては騎獣とも称され、ルストが移動する際の手段としての能力に重きが置かれており、迅速な移動速度に加えて周囲の敵意を鋭く探知してルストに知らせ、敵意を持った存在を相手取った時には強靱(きょうじん)無比な戦闘力を発揮するなど、護衛としての力も有している。どの錬成獣も植物や獣といった人ならざる姿形をしているが、人語を理解しているようで単純なコミュニケーションを可能としている。そのため、ルストの簡単な頼み事を自立して判断し、遂行するといった行動も可能となっている。これら錬成獣は能力を必要とされていない時はスクロールに収納することができるため、懐や荷物に収納して持ち運ぶことも容易となっている。
スカベンジャースライム
スライム型のモンスターの一種。あらゆるものを溶かして体内に取り込むことで成長し、徐々に体積を大きくしていく特性がある。また、体液からでも空気中の魔素に触れることで成長し、モンスターとしての活動を再会するという、非常に強い生命力を持つ。ほかの特徴として、スカベンジャースライムは酷い悪臭を周囲に放っているというものがあり、一度広まると数日間は残り続けるため、完全な除臭には日数を要する。体にまとわりついた匂いも同様で、なまなかな消臭剤では匂いを消すことはできない。錬金術の素材として体液が使用されるため、危険物として特別保管庫に保管されていたが、管理者が一時的に不在となったことで錬金術協会で暴走を始めた。結果として討伐には成功したものの、建物の一部を食い荒らしただけでなく、納品予定であった魔導回路を人知れず食い荒らしており、不良品を納品してしまった錬金術協会に大損害をもたらしている。
サウザンドラット
ルストが討伐したモンスター。稀少値にして星三つの珍しい存在で、ネズミ型の外見をしたモンスター。体型の大小に個体差が大きく、さまざまな体型をしたサウザンドラットが存在する。体に毒を持っているため、その肉を調理する際には一定の注意が必要とされているが、一方で可食部が多く、肉としての味も美味で知られる。危険ランクは特級に指定されており、討伐は決して容易ではない。
ヘルホース
ルストが討伐したモンスター。稀少値にして星が四つという珍しい存在で、頭部が三つある馬形のモンスター。狩猟してから1日以内であれば生食が可能という特徴がある。また、柔らかい皮は衣服などに加工されるため、素材としても重宝される。危険ランクは特級に指定されており、討伐は決して容易ではない。
土竜熊 (もぐらぐま)
ルストが討伐したモンスター。稀少値にして星が五つという珍しい存在で、モグラに似た外見をした熊型のモンスター。土竜熊の肝は薬の材料となるほか、観賞用として毛皮が取り引きされることも多いなど、素材としての価値が非常に高いことで知られている。一方、危険ランクは特級に指定されているほどの強さを誇り、討伐するのは決して容易ではない。
ツインラインホーン
ルストが討伐したモンスター。群れで棲息(せいそく)する生態で知られるモンスターで、牛のような外見をしている。つねに群れている関係から危険性も高く、討伐は用意ではない。その肉は豊富な魔素を含んでおり、美味で知られている。特に雌の成獣は最も魔素が豊富とされ、一口味わうだけで全身に染み渡るような濃厚な魔素を感じることができる。
パラライズクラウド
ルストが討伐したモンスター。火山地帯に棲息する雲形のモンスターで、物理による攻撃が効果をなさない厄介な性質を持っている。そのため危険ランクは特級に指定されており、討伐は困難を極めるものとされる。一見して雲型のモンスターに見えるが、その本体は魔法によって周辺の物理法則を書き換える魔石であり、この能力により水を雲の状態にして拡散しないようにあやつることで雲のモンスターに見えるよう、擬態している。ルストはこの性質を利用して「雲式給水装置」という魔道具を製作すると、遠隔地にある池の水を雲状にして移動させ、拠点にある水瓶まで送り届けることで自動で給水する仕組みを作り出した。
クレジット
- 原作
-
御手々 ぽんた
- キャラクター原案
-
又市 マタロー
書誌情報
辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~ 6巻 KADOKAWA〈MFC〉
第1巻
(2022-02-21発行、 978-4046811523)
第2巻
(2022-06-23発行、 978-4046814852)
第3巻
(2022-12-23発行、 978-4046819932)
第4巻
(2023-06-22発行、 978-4046825285)
第5巻
(2023-12-21発行、 978-4046831033)
第6巻
(2024-08-22発行、 978-4046838506)