あらすじ
第1巻
幼い少女のエラ・コルヴィッツは、足の不自由な弟を亡くす。彼の埋葬時、神様のところでは身体の障害はなくなるから松葉杖は不要だ、と司祭に聞いたエラは、「それなら早くこうなった方がよかった」と平然と口にする。そんなエラは両親に気味悪がられ、子だくさんで生活苦でもあった事から、人買いに売られてしまう。しかし、エラは人買いの馬車に焚火の火を誘導し、手枷を焼き切って逃亡。その後は、生きるために窃盗を繰り返していた。それにより重い刑罰を受けて命の危機に瀕する事になったエラは、民間治療師のアンゲーリカ・コルヴィッツに罪を肩代わりしてもらう。その日から、エラはアンゲーリカに娘として引き取られ、慎ましくもおだやかな日々を送る事となる。しかし、アンゲーリカは教会にとって不都合な、当時治療も予防も困難とされていた奇病の原因を独学で突き止めた事が原因で、口封じのため「魔女」の疑いをかけられ、魔女裁判の名のもとに凄惨な拷問を受ける事となる。全身の関節を脱臼させられるなどの悲惨な拷問にも屈しないアンゲーリカだったが、自身を救おうとして捕まったエラを助けるために自ら魔女と認め、火刑に処されてしまう。その後、エラは魔女の子を集めた修道院、クラウストルム修道院へ送られてしまう。ここでエラは、肉親を奪われて身寄りのなくなった少女達に信仰心を根付かせ、復讐を忘れさせるために、感覚を鈍らせるマナが、食事に混ぜられている事実を知る。エラ、カーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェットらは食事を拒否し、修道女のロスヴィータの監視の目をかいくぐって、密かにクラウストルム修道会への反逆を開始する。
第2巻
エラ・コルヴィッツは、部屋に秘密の抜け道を確保している、一位生のテア・グライナーに、クラウストルム修道院の食事をする事の危険性を説き、レジスタンスの仲間に引き入れる。一方で、仲間の一人であるヒルデ・バルヒェットは要領が悪く、劣等生として目立ち過ぎるため、エラ、カーヤ・ジンメル、テアは抜け道の情報を共有する事をためらう。クラウストルム修道院の総長を務めるエーデルガルトは、神の力を広く民衆に知らしめるために情報を独占し、疫病の流行る仕組みを知る機会を人々から奪っていた。さらに神の威光を示すため、病原菌を見せしめに撒き、また院内で作らせている石灰を使って殺菌して回る工作により、民衆の印象を操作し、絶対的な信仰心を植え付けようと暗躍していたのだった。そんな中、ヒルデも彼女なりの着眼点と努力を認められ、エラ達の輪の中に入っていく。ある時、家族を魔女裁判で殺された青年、ランベルトがエーデルガルトの暗殺を目的に、記念式典のために呼び寄せられた聖歌隊に紛れ、クラウストルム修道院に滞在する事となる。エラは、記念式典のためにやって来た聖歌隊の来訪で、エーデルガルトを襲撃するスキが生じないかを探る姿をランベルトに目撃され、脅されてしまう。ランベルトは、クラウストルム修道院に入る時に見かけたエラの視線の不自然さが目立っていたと指摘する。一方、エラはランベルトの顔を盗み見て、三位生のヨハンナの顔だちに似ている事を指摘し、ランベルトも彼女の兄だと認める。そしてエラに、ヨハンナは聡いので暗殺が成功したら、その混乱に乗じて逃げ切るだろうと、彼女を案じる胸中を明かす。そんな中、見事な聖歌を歌い切り、復讐に臨んだランベルトだったが、暗殺は失敗してしまう。取り押さえられたランベルトは、ヨハンナに似た顔立ちを隠そうと、ヴィルケ達を挑発して人相が変わるほどの暴力を振るわせようとするが、それを察したエラは彼の無礼の代償だと、激昂したふりをして顔の皮をはぎ、人相を誤魔化すために力を貸す。こうしてエラは、上位生にもその忠誠心を認められる存在になっていく。
第3巻
エラ・コルヴィッツ達のまわりで「赤い夢」の噂が広まり始めた。夢の内容は語ってはいけない決まりだと、誰もが口をつぐむが、夢を見ていないものを排斥する動きが生じる。孤立を恐れるテア・グライナーは、夢を見たと口裏を合わせて集団の中に取り入るが、噓だと見破られて、逆に虐めを受けるようになってしまう。エラは孤立を恐れずテアをかばうが、その事でいじめの矛先はエラへと向かうのだった。責任を感じるテアに対し、エラは意に介さず計略を用い、噂を収束へと導く。その後、クラウストルム修道会は一位生すべてに第一留の試練を課す。それは反逆の疑いがあるとの名目で個別に投獄し、暗闇に閉じ込めて、やましさを抱えるものに自白を促す内容だった。そこでもエラはクラウストルム修道院の真意を見破り、現れた養母のアンゲーリカ・コルヴィッツの幻影が囁く復讐放棄の誘惑に打ち勝つ。エラの秀でた洞察力と精神力を知った二位生のコルドゥラ・フォン・シュタインは、彼女とその仲間であるカーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェット、テアに協力を申し出る。コルドゥラはテアの部屋にある抜け道の事を知っており、昨年1年かけて逃亡の計画を練っていたメンバーの生き残りだと打ち明ける。しかし、その直後、コルドゥラがナターリエに目をかけられているのを妬んだジビレにより、不審な行動があったとの告発を受け、拷問にかけられてしまう。カーヤ達は激しい拷問を受ける事となったコルドゥラを助けたいと願い、その意を汲んだエラはジビレを陥れる。エラはジビレの信用を失わせ、自ら彼女に下された罰である、右手を切り落とす刑罰の執行役を買って出る。
第4巻
エーデルガルトを頂点に勢力を拡大しつつあるクラウストルム修道会は、自らが所属するカトリックの教えと対立関係にあるプロテスタントの排斥を目指していた。願い出ていた教皇庁の図書館の閲覧権を得たクラウストルム修道会は、カトリック派の中にも存在している反対勢力を、過去の横領罪などを暴く事で失脚させていく。一方、自らジビレの腕を切り落としたエラ・コルヴィッツは、クラウストルム修道会に反逆の意志を抱き続けている二位生のコルドゥラ・フォン・シュタインを仲間に迎えた際に、冬を越すための五人分の食糧確保が絶望的であるとの事実を聞き、一人抜けねばならいのならと自分から脱退する。コルドゥラはエラがジビレの一件で自棄的になってしまったのかと案じながらも、カーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェット、テア・グライナーらと保存食作りのための岩塩を確保したり、廃棄される野菜屑を確保したりと、継続的な食糧の充実に役立つ解決策を見つけ出す。それにより冬は越せると見通しを立て、エラを呼び戻そうとするが、エラはエラで作業中に間引かれた作物の苗を確保し、人の立ち入らない東の森に畑を作って、食糧難の解決策を見出していた。みんなで工夫すれば冬を越せると喜びあったのもつかの間、食料の隠し場所は急な豪雨で流され、蓄えた食糧ごと跡形もなくなってしまう。
第5巻
冬を迎え、食料の蓄えを失ったエラ・コルヴィッツ達に追い打ちをかけるように雪が降り積もる。クラウストルム修道院の敷地内に広がる森の中の隠れ家へ向かうにも足跡が残ってしまう季節が訪れる。冬のあいだの隠れ家と、食料確保の手立てを模索するエラ、コルドゥラ・フォン・シュタイン、テア・グライナー、カーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェット達は、第一留の試しの際に使われた牢獄で過ごす事を思いつく。そしてエラは食糧を確保する大胆な計略を発案し、実行に移す。そんなエラは二位生に進級するにあたり、誓願式で修道女に選ばれる五人の中に入る可能性の高い役職である監督生の候補に挙がる。しかし副院長のメルツェーデスから別室に呼ばれ、毎年二人だけ選出される要職である庭師の鋏、つまり処刑人を務める気はないかと打診される。処刑人になれば、誓願式の場で仇討ちの相手であるエーデルガルト院長の前に立ち、その手から指輪を受け取る事ができる修道女候補の座は保てる。しかし、ジビレの腕を切り落とした感覚を思い出し、エラは返事を躊躇(ためら)う。一方、監督生の選考から外れたカーヤ・ジンメルに、修道女のハイデマリーは、自分の部下になるなら口を利いてやると取引を持ちかける。悩んだ末、エラは処刑人を引き受け、カーヤも監督生に選ばれ、二位生としての生活が始まる。新しく監督生になったカーヤはなるべく処刑者を出さないようにうまく立ち回るが、一位生のタビタが処罰対象者になってしまう。脱出のための策を温めていたエラは、以降の警備が厳しくなる事から二度は使えない取っておきの手段を、カーヤ、テア、ヒルデ、コルドゥラと相談のうえ、タビタの助命のために用いる。その後、コルドゥラは最後の試練を受けるにあたり、その詳細をのちに続くエラ達二位生に伝えようとするが、修道女のナターリエにばれた挙句殺されてしまう。エラは命と引き換えにコルドゥラが伝えた、過去に彼女の家が治めていた土地、羊島で行われる院による大量虐殺の計画を阻止するため、テアを脱走させる計画を立てる。
第6巻
テア・グライナーはクラウストルム修道院が計画している民衆の大量虐殺を食い止めるため、潜水服を用いて院からの脱走を計画する。しかし任された作業が長引いたため、脱出計画の実行はヒルデ・バルヒェットに委ねられた。クリームヒルト・レンツは現場に駆けつけるエラ・コルヴィッツの先回りをし、潜水作業用の経路を使って脱走するヒルデに酸素を送るポンプを止めてしまう。エラは空気の供給を続けるためにクリームヒルトと摑み合うが、片手でポンプを動かし、片手でクリームヒルトを抑えつける不利な状況で争い、右目に重傷を負って昏倒してしまう。翌日、クリームヒルトの事情聴取を担当するハイデマリーの傍らで、書記を担当していたカーヤ・ジンメルは話の中で、父母が殺されるきっかけとなった密告をしたのがクリームヒルトだと知る。聞き取りの合間にカーヤは意識不明のままのエラを見舞うが、そこに川の下流で見つかった人の脳が入った潜水服が持ち込まれる。脱走者が死んだと知らされたカーヤは、隠れ家にしている井戸でテア・グライナーと共にヒルデの死を悼む。そしてカーヤは知り得た情報を活用し、裁きを待つクリームヒルトを暗殺し、これはクリームヒルトの強い偏見がクラウストルム修道院のためにならないと判断した結果だと、ハイデマリーに自分を売り込む。カーヤはハイデマリーの手足となって院外活動につく道を選び、目覚めたエラはカーヤが去り、ヒルデが死んだと知らされる。それから1年半が過ぎ、三位生になったエラは、エーデルガルト総長の手から誓願式で修道女の証の指輪を受け取る五人に選ばれる。
登場人物・キャラクター
エラ・コルヴィッツ (えらこるゔぃっつ)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。院内で一位生から三位生までの3年間を過ごした。幼女の頃、人買いから逃れた先でアンゲーリカ・コルヴィッツに拾われ、以来母子のように支え合って仲睦まじく暮らしていた。長く絡まりやすい毛質の黒髪を持ち、幼女の頃は器量よしだと評されていた。顔の中央部、鼻の真ん中辺りにクラウストルム修道会に所属する騎士であるザシャの剣で切りつけられた傷跡が、横に指2関節分程の長さで残っている。 アンゲーリカはエラ・コルヴィッツを少女期まで養育したあとに魔女の疑いをかけられ、無実の罪で拷問の果てに火刑に処されてしまう。そのため、処刑に立ち会ったクラウストルム修道会の総長、エーデルガルトに対する復讐を成し遂げ、殺害する事を自身に強く誓った。 魔女の子を集めた修道院であるクラウストルム修道院に収容され、身体的・精神的にも厳しい試練を幾度も課せられつつも好成績で突破していく。大事な人を奪ったクラウストルム修道会への復讐心を隠しながら、同じく院への服従を拒み続ける同級生のカーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェット、テア・グライナー、上級生のコルドゥラ・フォン・シュタインと協力し合って生き抜いていく。 三位生在籍時には、処刑人の役職を厳格に務める姿を「神の庭師」「隻眼の処刑人」と下級生から呼ばれて、畏敬の対象となっていた。目的のためなら自身の命をなげうつ覚悟を持っており、状況判断力に優れる。
アンゲーリカ・コルヴィッツ (あんげーりかこるゔぃっつ)
ウェーブのかかった明るい色の髪を腰のあたりまで長く伸ばした若い女性。子供を亡くした7年目のある日、往診用のロバを買いに出かけた先でエラ・コルヴィッツと出会った。その出がけに聖書を落としてしまい、偶然開いたページの言葉に従ってロバを買いに出かけた先での出会いだったため、運命的なものを感じ、ロバの費用をはたいてエラの犯した窃盗の罪の弁償金を肩代わりした。 暮らしていた村の中で薬を調合し、人々の治療を担っていた事から「Weise Frau」と呼ばれていた。しかし、当時は病にかかると教会で祈ってもらって治す事が当然とされていたため、民間療法師は「魔女」と疑われやすかった。偏見からくる蔑視や暴言に対しても動じず、人の命の重みを知る娘に育ってほしいと、自身の生き様を示す事でエラを教え導いた。 幼女の頃から少女期まで養育したエラとは、実の母子のように仲睦まじく支え合って暮らしていた。だが、クラウストルム修道会が民衆への影響力を保つため独占し、広く流布しないようにしていた聖アントニウスの火と呼ばれる難病の防疫法を独学で身につけた事により、その口封じのために「魔女」の疑いをかけられ、無実の罪で拷問の果てに火刑に処されて命を落としてしまう。
エーデルガルト
クラウストルム修道会の総長を務める若い女性。足元まで伸びる長い金髪を三つ編みに束ね、特徴的な金色の瞳を持つ。生まれつき痛覚を感じないため、不思議な力を持つと噂されている人物。クラウストルム修道院の総長の座に就いてすぐ、前任者から地位を簒奪したとの疑いをかけられ、激しい尋問と拷問を受ける。しかしそれらに屈せず、拷問具に挟まれた自らの指を引きちぎってまで日に7度の祈りを敢行した。 それを知った教皇には、「何者も彼女には白いものを黒、黒いものを白と言わしめる事はできない」と言わしめた。ヴィルケはその拷問を担当していた審問官だったが、それ以来、エーデルガルトを聖女と崇め、その手足となって忠誠を誓っている。
ザシャ
クラウストルム修道会に所属するエーデルガルトの従者の騎士。鎧で全身をまとった青年。エラ・コルヴィッツが木の上に隠れ、アンゲーリカ・コルヴィッツが公開魔女裁判を受けている舞台の脇につながれている馬に弓を射かける事で、裁判を混乱させようとしていた時に、エラの腕を射ってこれを阻止した。その弓がアンゲーリカの家にあったものだったために、ヴィルケはエラが魔女にあやつられていたなら罪に問わないとアンゲーリカを脅迫し、苦痛にも屈しなかった彼女から自白を引き出した。 続けてヴィルケは、エラの身の安全と引き替えに魔女の共犯者も自供させようとするが、エラは自分を助けるためにアンゲーリカが噓の自白をしてしまうだろうと思い、刑場から馬を奪って逃げ出そうとした。 しかし、その時もザシャによって馬の首を切り落とされ、逃走を阻止される。寡黙で任務に忠実な性格の持ち主。
メルツェーデス
中年の修道女の女性。クラウストルム修道院の副院長を務めている。重大な決定を下す際に院長の代行を務める事も多い。クラウストルム修道会が、民衆に揺るぎない信仰心を植え付けるために、民衆に広まる疫病、聖アントニウスの火の感染経路および殺菌方法などの科学的な医療知識を独占し、祈りの力でそれらを制御していると信じさせる計画に加担している。 クラウストルム修道院で教育している魔女の子達を、人間の理性を超えた力を発生させる目的で集め、研究を重ねている。
カーヤ・ジンメル (かーやじんめる)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。院内で一位生から二位生半ばまでの1年半を過ごした。ロマの娘で、褐色の肌にウェービーな長い黒髪を持ち、首の後ろで一つに束ねている。院内での生活が始まる時は、文字が読めないふりをして相手の出方を警戒していた。同じく文字が読めるにもかかわらず、それを隠したエラ・コルヴィッツに初日から関心を抱き、自分から声を掛けてクラウストルム修道会への反逆の意志を確かめ合う仲間となる。 エラを中心に、テア・グライナー、ヒルデ・バルヒェット、1年先輩のコルドゥラ・フォン・シュタインと共にクラウストルム修道会への反逆を続けながらもその意図を隠し、内部での立ち位置を固めていく。 食べられる虫を知っていたりと博学で、動物を狩るのもそつなくこなす器用さも持つ。当初は両親が偏見に満ちた密告が原因で殺された事で、無視される事のない強い権力を握る事を目的に自ら志願してクラウストルム修道院へ入った。しかしエラや仲間達と過ごすうちに、権力がなくとも強い心を持つ事はできると生きる目的を変えた。
ヒルデ・バルヒェット (ひるでばるひぇっと)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。院内で一位生から二位生の半ばまでの1年半を過ごした。顎ラインで切りそろえた金髪のボブヘアにしている。動作の遅さを咎められる事が多く、周囲からもドジな娘と思われている。しかし、エラ・コルヴィッツとカーヤ・ジンメルらの会話に投げかけた疑問がきっかけで、エラにマナの存在を気づかせ、クラウストルム修道会への反逆の仲間入りをする事となる。 大きな印刷所の娘で、おっとりした性格の持ち主。当初は頭の切れるエラに一目置きながらも、その知性と激しい性格に気後れしがちだった。やがてテア・グライナーや、一つ先輩のコルドゥラ・フォン・シュタインが仲間に加わり、共に意見を出し合って危機を乗り越えるたびに逞しさを身につけ、エラの危機を救うまでに成長する。
テア・グライナー (てあぐらいなー)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。クラウストルム修道院内では一位生から三位生までの3年間を過ごした。クラウストルム修道院に収容された初日に、部屋にあったヘルガ・フォイルゲンの名を刻まれた抜け道を見つけ、脱走の機会を探っていた。夜に出歩いていたところをエラ・コルヴィッツに目撃され、声を掛けられた。 最初は警戒していたもののエラの洞察力に感心し、抜け道の情報を共有する仲間となる。同じ一位生のヒルデ・バルヒェット、カーヤ・ジンメル、一つ上の二位生のコルドゥラ・フォン・シュタインとも協力し合い、支え合ってクラウストルム修道会への反逆を密かに続ける。利己的でストレートで、きつい物言いをするが、思い切りがよく、状況に則した冷静な判断も下せる。
コルドゥラ・フォン・シュタイン (こるどぅらふぉんしゅたいん)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。エラ・コルヴィッツ達より一つ上。院内で2年と少しの期間を過ごした。もともと貴族の娘だったが、領主であった父親が魔女裁判を控えて投獄されていた領民達を逃がしたために処刑され、領地はクラウストルム修道会に没収されてしまった過去を持つ。一位生の時に五人の仲間と結託し、その時から脱走を目的に、密かにクラウストルム修道会への恭順を拒み続けている。 出される食事は判断力を鈍らせる薬品、マナが混入されているため食事を拒んでいたが、冬の食糧確保の困難さから一人が餓死し、やむなく摂り始めた食事が原因で、さらに二人が命を落とした。そのため当時の仲間はコルドゥラ・フォン・シュタインしか存命していない。 第一留の試練を受け、監禁された一位生の中でヘルガ・フォイルゲンの使った抜け道を知るテア・グライナーと接触し、可能な限りクラウストルム修道会に反逆する彼女らを助けようとした。自分の経験を聞かせ、エラ達へ有益な助言をする姉のような役割も担う仲間となったが、最後の試練の直前でクラウストルム修道会への反逆を悟られてしまう。 この時、エラが共犯者である事がナターリエに知られてしまったが、彼女を殺害し、共犯者の秘密を守り通して処刑された。
ロスヴィータ
クラウストルム修道会の修道女の若い女性。顔をはじめ身体の多くの部位に包帯を巻き、義足で松葉杖を使っている。幼少期に新教派の襲撃により取り壊され、子供達だけが残されてしまった教会のただ一人の生き残りで、救出に訪れたエーデルガルトに忠誠を誓っている。食事係を任されており、院の食事に麻薬の一種であるマナを混ぜ、上級生達の指示が通りやすいように洗脳する手助けをしている。 薬を受けつけない者も現れるが、秘密裡に殺害し、薬の秘密を厳密に守っている。エラ・コルヴィッツの雰囲気が昔看取った少年に似ていると感じ、贔屓はいけないとわかっていつつも時折気にかけていた。
ヨハンナ
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。エラ・コルヴィッツが一位生の時に三位生に在籍していた。クラウストルム修道会の50個目の支院建立の式典で招かれた聖歌隊に紛れこみ、エーデルガルト総長の暗殺を企てた青年、ランベルトの妹。両親を魔女狩りで殺されており、それ以来ランベルトとは会っていなかった。 聖歌隊の一員として現れたランベルトは顔に目立つ痣(あざ)を付けて変装していたため、兄に似ていると感じていたものの、接触しようとまではしなかった。エーデルガルトの暗殺に失敗し、自殺した兄の顔の皮をはぎ取ったエラの事を、血が好きな残虐な性格だと軽蔑している。
ランベルト
暗殺者の青年。鍛えた肉体を持ち、妹のヨハンナと似た顔立ちをしている。7歳の時、少年聖歌隊に預けられ、19歳の時に宮廷の楽団への入隊が決まった。それを両親に報告するために帰省し、そこでエーデルガルトの指示のもと、魔女裁判で縛り首にされた両親の遺体と対面した。仇を討つためにエーデルガルトを狙い、フリッツ・ベルクマンのもとで暗殺者として1000日働くのと引き換えに、暗殺の援助を受けた。 ベルクマンのもとで働き、「首切り人」の異名で恐れられるまでの暗殺の技術を習得するに至る。クラウストルム修道会の50個目の支院建立の式典で招かれた聖歌隊に紛れこみ、潜入を果たす。片手で対象者の首を折る暗殺技術を駆使し、その証拠を隠滅するために被害者の首を切っていた。
フリッツ・ベルクマン (ふりっつべるくまん)
中年の男性。金貸し業を営み、顔が広くさまざまな人脈を持っている。クラウストルム修道院に刺客としてランベルトを送り込んだ。刺客を送り込むのに成功したのはフリッツ・ベルクマンただ一人なため、周囲の人々から一目置かれている。旧派であるクラウストルム修道会の勢力拡大を警戒しており、新教側の有力者に肩入れしている。 クラウストルム修道院から脱走したヒルデ・バルヒェットに、貴重な内部情報の提供の見返りとして協力する。
ロレンツォ・ジュスティーノ (ろれんつぉじゅすてぃーの)
枢機卿の中年の男性。教皇庁に所属している。同じ旧派に所属してはいるが、クラウストルム修道会の勢力が急に増している事を危惧している。しかし息子が重傷を負った際に、クラウストルム修道院の院長、エーデルガルトに救われた事で一度は彼女に味方し、望んでいた教皇庁図書館の全面的な閲覧の許可の採決時に、可否を決する重要な一票を投じた。 しかしその後、直接エーデルガルトに何が目的なのか尋ねに行く。そこでエーデルガルトからクラウストルム修道会が知識を一手に集め、民衆には都合のよい結果だけを見せて信賞必罰の神の力を信じさせ、教会の力を絶対的なものにしている事を知らされる。それは偽りの教化だとの思いを抱えながらも、しばらくのあいだは保身に回ったが、やがて真実を知りたいとの正義感から、教皇にエーデルガルトへの審問を提案する。
ナターリエ
クラウストルム修道院で暮らす修道女の若い女性。ジビレから本当の母親のように尊敬され崇拝されており、彼女からクラウストルム修道院の中で起きている事の報告を受けて、その都度さまざまな対応策を講じていた。冷静沈着で、的確な判断を下す事のできる人物。クラウストルム修道院への忠誠心が強く、自分に懐いていたジビレであっても、偽りを述べた途端に罪を贖わせる決断を下した。
ヴィルケ
クラウストルム修道院で暮らす異端審問官の中年の男性。エーデルガルト総長の手足となって働いている。かつて前総長の座を簒奪したとの疑いをかけられたエーデルガルトの拷問を担当していた審問官だったが、どんな拷問にも屈さなかった彼女に畏敬の念を抱き、それ以来、エーデルガルトを聖女と崇め、忠誠を誓っている。エラ・コルヴィッツの目の前で養母のアンゲーリカ・コルヴィッツに拷問を加え、死に至らしめた審問官でもある。 エーデルガルトのためなら残虐な行為にも手を染め、暗殺のランベルトが潜入した時にも怪しいと見抜き、警戒を怠らなかった切れ者。
クリーヒルト・レンツ (くりーひるとれんつ)
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。にこやかに自分からエラ・コルヴィッツに話かけた社交的な人物。集団の中で認められるよう振る舞う事がうまいが、他人を平気で蹴落とす利己的で独善的な性格の持ち主で、差別的な考えを持っている。頭の回転も速く、チェスも強い。過去にロマのカーヤ・ジンメルの両親に対して偏見に満ちた密告を行い、カーヤの父母が処刑され殺されてしまうきっかけを作っている。
タビタ
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。エラ・コルヴィッツが、クラウストルム修道院に入った翌年に新たに受け入れられた。作業中に背負った荷の中身をだめにし、さらにそれを素直に申告せずに、他人の荷とすり替える不正をしたために、処罰を受ける事となった。卑屈で、罪を咎められると自暴自棄な言動をし、当初はそれがもとで、エラに人間的に小ずるく助ける価値がないとの印象を抱かせた。 院内での処罰は死に至る切断刑を意味するため、それを避けるべく、処刑係を引き受けていたエラらの機転で修道院の外に逃れる事に成功した。脱走できた先で農家に保護され、エラ達の厚意に深く感謝しながら過ごしている。
ヘルガ・フォイルゲン (へるがふぉいるげん)
クラウストルム修道院で暮らしていた元修練女の少女。コルドゥラ・フォン・シュタインとテア・グライナーが使っていた部屋に抜け道を作り、そこに名前を残していた。コルドゥラの三つ上に在籍していて、二位生では監督生を務める優秀な修道女候補の地位を確保しつつ、水面下で抵抗を続けていた。しかし最終試練の直前で、脱走を企てた背教者として死亡したと記録されている。 だが実は死亡しておらず、「潜礼」と言う試練を受けた際に錯乱し、脱走を企てていた事を自白し、処刑間際の死を覚悟した瞬間に驚異的な記憶力と計算力を発現させていた。以降、「見渡す者」としてクラウストルム修道院の中で記憶力と計算力を利用され続けている。感情を失い、肢体不自由な状態となっており、車椅子に乗せられ、介助者に抱えられて移動する生活を送っている。
ハイデマリー
クラウストルム修道院で暮らす修道女の若い女性。ユダヤ人で被差別的な立場にある事から、同じく被差別的な立場の遊牧民ロマの娘であるカーヤ・ジンメルに自分の境遇を重ね、気にかけていた。院外の隠密行動に協力させる事と引き替えに、修道院での生活から解放した。
ジビレ
クラウストルム修道院で暮らす修練女の少女。黒髪を右サイドに寄せまとめ、長い三つ編みにしている。ナターリエに、クラウストルム修道会への背教者を見つけ出しては告げ口を繰り返していた。人の後ろ暗いところや隠し事を突き止める事に長けている。コルドゥラ・フォン・シュタインと同じく二位生では監督生を任されていた。 コルドゥラが第一留の試練を一位生に課している際に、反逆の意志を持つエラ・コルヴィッツらの名を聞き出し、証拠を隠蔽するのに手を貸した事を突き止め、ナターリエに密告した。しかし確証を摑む前にエラに逆に陥れられてしまい、発言の信用を失ったうえに虚偽の告発をし、コルドゥラを拷問した罰として右腕を切り落とされた。
ラースロー
人形作りの名手の青年。ヴィルケが脱税し、私腹を肥やしていた聖職者のもとに帳簿係として潜入していた時に作品を見つけ、その腕のよさに惚れこんで、異端排斥のためのアイコン、鋼鉄の処女の顔をエーデルガルトに似せて作らせようと、クラウストルム修道院に招いた。食事係のジビレが顔に傷を作っていたのを見て傷薬を渡すなど、観察眼と思いやりがある。 クラウストルム修道会が贖罪の名目で、修練女の命を奪う私刑を繰り返している事を疎ましく思い、処刑人である庭師の鋏を務めるエラ・コルヴィッツを蔑む発言をしている。のちに、エラが処刑を待つ背教者とされた修練女を労り、可能な限り人道的に扱っている事を知り、彼女への印象を改めた。
集団・組織
クラウストルム修道会
旧派のキリスト教を信奉する者の集まり。だが実態は、庶民に科学的な知識が浸透し、宗教的な救いの力が弱まるのを避けるために、科学的な知識を独占し、奇跡と称して民衆に見せる事で教会の勢力を絶対的なものにしようと動いていた。当時猛威を振るっていた疫病、聖アントニウスの火の原因物質を特定していたが、それを広める事をせず、治療法や予防法を独占している。 神の試練を演出するために、特定の小さな村に意図的に疾病を流行らせ、それを除染する事で影響力を強めようとしていた。
魔女の子
肉親を魔女狩りで殺された孤児達を示す言葉。集められたのは同世代の少女のみで、クラウストルム修道院に収容された。正しい信仰に立ち返るためとの名目のもとで、収容された時から修道女見習いの修練女として3年を過ごすように言い渡されている。一度悪魔に触れられた腐りやすい魂を持っているとされている。クラウストルム修道院に受け入れられる際の身体検査に抵抗し、上位生に腕が当たっただけで、その箇所を切り落とす切断刑に処されるほど過酷な環境に置かれる。
修練女
修道院で修道女を目指して研鑽を積む少女達の事を指す。クラウストルム修道院に受け入れられた、エラ・コルヴィッツ、カーヤ・ジンメル、ヒルデ・バルヒェット、テア・グライナー、コルドゥラ・フォン・シュタインなど、魔女の子達はこの立場に置かれた。修練女、修道女、修道士らが送る修道生活には三つの誓いがあり、「清貧」「貞潔」「従順」を守るよう定められている。
修道女
神に仕え、信仰に生きる事を自身に課した女性の職種。貴族と同じくらいの裕福な生活を送る事ができる。院の中では修道女見習いの少女である修練女達に、「お母さま(ムター)」と呼ぶように指示しているため、例えばムター・ナターリエなどといった呼称が使われている。3年間クラウストルム修道院で、研鑽を積んだ修練女の中で特に好成績の五人には、修道女の位が与えられる。
庭師の鋏 (にわしのはさみ)
クラウストルム修道院の中で規律に反した者を処罰する役職を示す。毎年二人だけに与えられる要職であり、エラ・コルヴィッツは副院長のメルツェ―デスに二位生に上がる際に、第一候補だと声を掛けられた。主に斧で罪を犯した身体の部分を切断する刑を執行する役職で、刑を受けた者は死んでも構わない暗黙の了解がまかり通っていた。 エラは一位生の時にジビレの右腕を切断する役を買って出た際、外科用の医療道具を用い、切り落とす部分以外は損なわないようにするのが自分の忠誠だと主張し、命を奪う事を避ける工夫をした。悩んだ末にエラは二位生で庭師の鋏の役職を引き受けたが、広く知識を求め、なるべく命までも奪わないような刑を考案する努力を続けた。
場所
クラウストルム修道院 (くらうすとるむしゅうどういん)
ライン川とドナウ川の分岐点に位置する広大な敷地を持つ修道院。魔女の子だけを受け入れて再教育を施している、世界で唯一の施設。当時の大都市「ケルン」が四つ入るほどの広大な敷地を持ち、敷地内には森も含まれ、外周を高い壁で囲んである。七つの背骨と呼ばれる峰と、黒海へ至るドナウ川と、北海に至るライン川に分岐していく川の流れに接し、逃げる事は難しい立地にある。 規律を破ったもの、脱走を企てたものなどの背教者は、クラウストルム修道院の敷地内で焼かれて灰にされ、さらにその川に流されて、死んだあともバラバラにされて貶められる。
イベント・出来事
魔女裁判 (まじょさいばん)
悪魔を崇拝し、サバトに参加していると疑いをかけられた者が受ける審判。アンゲーリカ・コルヴィッツが受けたのは、全身の関節が外れるような高所からの吊るし落としや、身体に焼き鏝をあてるもので、実体は魔女だと自白をするまで被疑者を痛めつける拷問だった。魔女と認めると、悔悟した者として死ねるといわれ、火刑台を併設した舞台で公開で行われる裁判は、魔女の自白を引き出すまで続けられた。 作中では疫病、聖アントニウスの火の原因物質を突き止めたアンゲーリカの口封じをはじめ、クラウストルム修道会に不利益な事実に気づいてしまった人々を殺すための大義名分として使われている。
誓願式 (せいがんしき)
修道女の位を与える5人を選ぶ式典のこと。クラウストルム修道会に入った魔女の子達が修練女として3年務めたあと、特によく務めた者にはエーデルガルトがその手で指輪を与えて、修道女の証とする。
第一留
クラウストルム修道院内の生活の中で課せられる試練の一つ。エラ・コルヴィッツら一位生が突然、クラウストルム修道院への反逆の罪を問われ、真っ暗な独房に投獄された出来事。これはイエスの受難の物語を14枚の絵で表したものになぞらえた、14の試練の中の最初の一つを指していた。修練女達は「第一の試し」のように、順番に「試し」を足すかたちで呼んでいる。 第一の試練である第一留は「キリストは死刑の宣告を受ける」との内容になぞらえたもので、17名もの背教者が出ている。
その他キーワード
鋼鉄の処女 (あいあんめいでん)
自立する棺桶のような形をした箱。箱の内部には鋭利な棘が多数取り付けられている拷問具。異端審問や魔女裁判の拷問に使われたとされ、異端の疑いをかけられたものを内部に閉じ込め、苦痛を与えるために作られた。顔の部分は女性を象っているために鋼鉄の処女と呼ばれる。作中では15年前、ローマ略奪時に傭兵の一隊が持ち出した。しかし重さに耐えかねて、国境付近で宿屋に売り払われている。 ヴィルケが探し始めた時の7年前に既にその宿屋は廃業していて、その後行方知れずとなっていた。ヴィルケはその足跡を辿りながら各所で異端者を処刑している。物語の冒頭で、現代ではそれまで19世紀に造られたレプリカしか存在していなかったが、隻眼の顔の付いた鋼鉄の処女がドイツのライン川中流から引き揚げられている。
聖アントニウスの火
ペスト、ハンセン病と共に中世三大疫病の一つとされている病の名前。灼けるような痛みを伴う手足の腫れと壊死、また幻覚や痙攣を起こして、死に至る事も多い。当時は原因がわからず、人々は聖地を巡る事で治癒を祈願していた。しかし、アンゲーリカ・コルヴィッツは、麦につく黒カビが原因物質だと独学で突き止めた。
マナ
雪のように無味無臭な薬。ロスヴィータが食事に混ぜ、新たにクラウストルム修道院に迎え入れた魔女の子らの感覚を鈍らせ、幻覚を見せたり、人の死に対して抱く嫌悪感や恐怖心を麻痺させるのに活用している。身体に馴染まず、食事を拒否してしまう者も現れるが、ロスヴィータはそんな修練女を密かに処刑してマナの秘密を守っている。
ロマ
一定の地に留まらず、芸を見せて生計を立てたり、遊牧を生業とする民族。作中のキリスト教的な価値観では、より罪を背負った立場の民族だと見られる被差別層にあたる。カーヤ・ジンメルの父母も、法に背いていなかったにもかかわらず、病気の仲間のために薬を買おうと無許可で街に入った事だけを理由に、公正な裁きも受けられず、偏見により殺害されている。