あらすじ
大学院で心理学を勉強し、人事部や企画商品開発の仕事での就職を目指したがあえなく全滅し、派遣社員になった25歳の森山みくり。臨床心理士の資格も持っているが心理カウンセラーやスクールカウンセラーの就職口にもありつけない。その後、派遣先の所属課の経費削減策により、いわゆる派遣切りに遭い、無職の身となってしまう。会社で部長の地位にある父・森山栃男は、家事代行サービスを利用していた元部下・津崎平匡に、家事代行としてみくりを雇ってくれるようねじこむ。週1で毎回3時間、留守中に掃除して1回6000円という条件である。
36歳独身で一人暮らし、他人に構われることを好まない津崎だったが、みくりとは良好な関係を築く。みくりも自宅ではほとんど掃除をしないが、仕事として楽しんでいる。津崎も、洗濯を頼むときにはパンツを抜いておいたり、感謝の言葉をかけたりと気を使っている。
みくりの母・森山桜の姉である伯母・土屋百合は、みくりに正社員の仕事を探すより、早く彼氏を見つけて結婚しなさいとアドバイスする。20代で結婚相手を捕まえないと、自分のようにアッという間に50代になるという。みくりは、みんな誰かに必要とされて生きていたいのだと納得する。
その後みくりの両親は、定年後の田舎暮らしを決意。同居しているみくりも一緒に引っ越すか悩んだが、現状を維持したい彼女は、津崎に「就職としての結婚」を持ちかける。その提案にメリットを感じた津崎は事実婚を提示する。
事実婚の場合、戸籍はそのままだが住民票を提出することで、健康保険や扶養手当が受けられる。配偶者控除はなし、家賃や食費、光熱費は折半、冠婚葬祭等の夫婦での出席が求められる場合は時間外手当をつける、夫婦の夜の営みは当然無しとして寝室を分ける、恋人はお互いに作ってよいが極力見つからないようにする、など津崎から各種条件が提示される。
みくりは契約結婚の条件を了承し、サラリーマンの妻として正式採用され、津崎が雇用主でみくりが従業員という仮面夫婦生活が始まる。
津崎が結婚したと聞き、奥さんをこの目で見たいと会社の同僚たちが家にやってくる。日野は唯一の既婚者で子持ち、沼田はガチムチ系でゲイ疑惑がある、風見涼太は若くてイケメンだが結婚には全くメリットを感じていない。
当日、津崎と親しい日野は子供が発熱したため欠席し、それほど親しくない沼田と風見が来訪するが、歓談中に突然の雷雨のため電車が不通になり急遽2人は家に泊まることになる。ゲイ疑惑のある沼田がイケメンの風見を襲うようなことが起きないように津崎も一緒にリビングで寝ることになり、みくりは津崎のベットで寝ることになる。みくりは津崎のことを意識し、翌日ベッドに残ったみくりの匂いを感じた津崎もみくりを強く意識することとなる。
みくりがたまたま街で風見と出会い、会話したことを津崎に告げると、なぜか津崎の反応が冷たい。若くてイケメンで女性にモテる風見に対して津崎は多少劣等感を抱いているようだ。契約結婚とはいえ、共に生活を続けていく中で、いつの間にか津崎はみくりの存在を異性として強く意識するようになっているが、みくりの方はまるで気づいていない。そのため、恋愛経験のない津崎の、自称「独身のプロ」らしいネガティブシンキングが始まる。
みくりのことがすごく気になるが、これ以上踏み込むと自分が傷つくかもしれない。本当の交際を申し込んで断られたら、この関係が終わってしまうかもしれない。津崎はみくりと距離を置くため、もっと広い家への引っ越しを提案する。タイミング良く伯母の百合から物件の紹介があったが、2DKではないため引っ越し対象にはならず、たまたま新しい部屋を探していた風見がこの物件に住むこととなる。百合が大家代理となり、風見との交流が生まれるが、年の差の大きい二人の初対面は最悪な展開となる。
引っ越したがっている津崎の真意に疑いをもったみくりは、自分が邪魔なせいかと尋ねる。知らず知らずのうちにみくりを傷つけてしまっていたことに気づいた津崎は、引っ越しを保留する。
津崎とみくりの会話があまりにビジネスライクすぎたことが、同僚たちの間で格好の話題となる。2人にまったく新婚感がないのを見抜いた風見には、仮面夫婦なのかと質問されてしまう。津崎は風見のあまりにも率直な質問に動揺を隠せず、結局、仮面夫婦であることが露わになってしまう。風見は意外にも契約結婚自体に強い興味を持っており、津崎とみくりの関係を根掘り葉掘り聞き、自分もみくりを雇いたいと言う。
この顛末を、みくりは偶然街で出会った風見から聞かされる。みくりは、働き口が増えるのはいいことで、言うならば専業主婦から共働きになったようなものと考え、風見の部屋の家事代行も始める。しかしイケメンが嫌いな伯母の百合に反対される。なんとか反対する百合を説得し、風見のところへ通い続けられることになったみくりを、今度はマイナスなことばかり考える消極男子・津崎が再び悩ませ始める。
思い悩んだ津崎は、「風見さんと居るほうが楽しいですよね、風見さん宅に住み込みで働いたほうが良いのでしょう」と、冷たくみくりに確認する。しかしみくりは、風見のところへ行くと答えれば津崎は了承してしまうと察する。正直な気持ちを言えば、風見のほうが女性慣れしているため家事代行もやりやすい面が多いが、実際のところみくりは風見よりも津崎のことを多く考えている。津崎はみくりのことが気になりながらも恋愛関係になることはないと思い、自分が傷つかないように本当の自分の気持ちを押し殺して壁を作っている。そんな津崎との壁を乗り越えるため、大学院で心理学を学び臨床心理士の資格を持っているみくりは、友達では埋められない心の穴をスキンシップで埋めていきたいと、津崎に提案する。
みくりの狙いは、スキンシップにより津崎の自尊感情をリハビリして、恋愛に対する自信を持ってもらうことと、2人の間の距離感を縮めることにある。具体的なスキンシップとして月2回の資源ごみ回収日にハグをすることになる。初めてハグを体験する津崎に、「両手を広げて私を受け止めてください」と教えるみくり。自分から動こうとはしない津崎との初めてのハグはぎこちない。
そんな2人に伯母の百合が気を利かせて、ペアの旅館宿泊券をプレゼントし、2人は、急に新婚旅行に行くことになる。露天風呂付きの豪勢な部屋には大きなベッドが1つだけだったが、津崎は何故かみくりと一緒に眠ることができず床で寝てしまう。期待していた分がっかりしたみくりは、帰りの電車内で、手を繋いでいいかおずおずと尋ねる。手を繋いでいると、突然津崎が暴走し、大胆にもみくりにキスをしてくる。しかし津崎は、みくりとの関係が壊れることを恐れ、なかったことにできないだろうか、とまた悩みだす。津崎がキスをした日から、何事も進展がなく毎日が過ぎて、ハグすると決めている日も津崎は言い訳をしながら逃げようとする。
そんなある日、みくりの実家から電話があり、母親が足の指を骨折してしまったという。2人で見舞いに行き実家に1泊することになるが、相変わらずハグをしようとしない津崎に、みくりはちゃんとハグしてほしいと言う。結果的に、津崎は力強くみくりを抱きしめる。みくりが母親の家事代行を実家でしている間、自宅に戻った津崎はメールのやり取りを続け、離れていても心はいつも一緒にいるような感覚を持ち始める。
みくりが久しぶりに津崎の元に帰って来た日、お互いに口には出さないが2人共楽しそうに見える。津崎は相変わらず逃げの姿勢を保ったままで、自分からアクションを起こそうとはしない。また訪れたハグの日にみくりから声をかけ、彼の首に手を回して津崎に抱きつくと、本当の恋人のような抱擁となった。津崎がみくりの笑顔に素直に反応し2度目のキスになる。今後のスムーズな展開が期待されたが、津崎はこの後に待っている行為に不安を覚え、再び逃げの姿勢を取り、みくりの積極的な気持ちをシャットアウトしてしまう。もし失敗したらみくりを失望させてしまう、それなら自分の元を去って他の男と結婚すればいい、とネガティブ思考の虜になっていく。ついキスをしてしまったが、これからは絶対ハグで止めて置こうと津崎は反省する。その後も月2回のハグは継続するが、津崎は感情を押し殺し機械的に対応するだけ。そして津崎が誕生日の夜に大事な話があると言い、みくりは内心契約結婚関係を切られるのかと危惧する。ところが津崎の話は、今の雇用関係の条件をもう少し改善していきたいというものだった。
みくりが思わず津崎に抱きつくと、3回目のキスをする津崎。自信を持った津崎は添い寝をしたいと言うみくりを自分の部屋の小さなシングルベッドに連れていき、深く抱き合って2人は朝までイチャイチャして過ごす。2人に必要だったのは、お互いの本当の気持を確かめ合うこと。みくりに彼女の気持ちを訊いた際に、「好きですよ、たぶん。あなたが想像する以上にね」という答えをもらい津崎は舞い上がる。お互いの気持を確かめ合い、ついに一線を越えて2人は本当の新婚カップルとなる。
自分に全く自信を持てなかった津崎も、一線を越えてしまうと後の話は早く、籍を入れることを提案する。しかしみくりは、本当に結婚したら雇用関係はどうなるのかと素朴な質問をする。
津崎は、風見への家事代行サービスをしているのを止めてもらいたいことと、時間給ではなく月額固定給に変更する提案をする。しかしみくりは、サービス残業になる懸念と、副業禁止について不安を覚えてしまう。みくりは2人の雇用関係はそのまま残し、あくまでも働いた分は正当な対価がほしい、本当の結婚をしてしまうと家事は無償ですることになり、今までどおりのクオリティでは家事をこなせない、風見のところで働くのも止めたくないと主張する。
そんな中、津崎がきちんとしたレストランでプロポーズをしたいと言い出し、2人は初めての正式なデートをする。帰りには、外でみくりを抱きしめるという大胆さも見せる。一線を越えてしまうと彼のようなタイプでも、こんなに変わってしまうものなのか、と内心驚きを隠せないみくり。
津崎が転職を考えていたため、ひとまず入籍は保留しようという話になる。津崎は、沼田から紹介された会社に魅せられて転職が現実的になり、引っ越したいと言い出す。さらにそのついでに籍も入れたいと積極的な津崎に、みくりはちょっと距離を置きたいと言い、1カ月間伯母の百合の家に同居させてもらうこととなる。
津崎は、みくりの心が離れてしまったのかと不安になるが、みくりはこのまま流れで籍を入れるのではなく一旦仕切り直したい、ただし週末は泊まりに来ると言う。
2人が別居した後、百合宅でクリスマスパーティをすることになる。津崎とみくり、風見も呼び4人で祝う。百合が2人が別々に暮らしている理由を訊くと、みくりは「もやもやがあるから。でも離れて暮らしてみてやっぱり津崎と一緒になりたい」と答える。
みくりと別居し始めてから、津崎は簡単な料理は自分で作るようになる。週末にみくりが泊まりに来ると、一緒に買い物に行って一緒に料理をする2人。
2人とも本当の夫婦に見えるが、約束の1カ月が経過した後、みくりは別居期間の延長を申し出る。その理由は、八百屋をしている友人に店番を頼まれてバイトをすることになったので、落ち着くまでもう少し待ってもらいたいということだった。ただ、八百屋を手伝ってもバイト代は貰えず、売れ残った野菜が報酬とのこと。みくりは複雑な心境だが、八百屋の経営に参加して色々アイデアを出す事にやりがいを感じていく。津崎は、そんなみくりに「もやもやをそのままにすると必ずあとで表面化して大きな問題になるから、納得するまで待ちます。以前は待っていてくれたから今度は僕が待つ番です」と言うのだった。
登場人物・キャラクター
森山 みくり (もりやま みくり)
ボブヘアーの女性。25歳。就職活動で内定が貰えず就職浪人の道を選び大学院へ進学するも、再び全滅。派遣社員になるが、派遣切りに遭う。求職中の娘を見かねた父・森山栃男に紹介され、父の元部下の津崎平匡の家事を請け負う。大学では心理学を学び、大学院で臨床心理士の資格を取得した。 妄想癖が少々あり、自分の現状を「徹子の部屋」や「情熱大陸」などテレビ番組風に妄想する。同居していた両親の引っ越しを機に津崎平匡の家事代行は終了となるところだったが、彼と協議の末、家事全般を請け負う家政婦として「雇用」が決定。上司と部下という関係で津崎平匡の家に住み込む「契約結婚」の道を選ぶ。 早速、津崎平匡の家に住民票を移して事実婚の形を取るが、表向きは結婚していることにしているので、津崎平匡の同僚、風見亮太や、伯母の土屋百合など知人達の目をごまかすために苦労を重ねる。また、金欠から風見亮太とも家事代行の契約を結んで働き出す。そんな生活を続けるうちに、次第に津崎平匡に対して恋心が芽生え始める。
津崎 平匡 (つざき ひらまさ)
眼鏡をかけた一見クールな男性。36歳。森山みくりの父森山栃男の元部下で、京都大学卒業のシステムエンジニア。元上司の森山栃男に、求職中の娘森山みくりを強引に押し付けられ、家事代行を頼む。仕事を真面目にこなし、距離も適当に保ち、また高熱の時には看病してくれた森山みくりを信頼するようになる。 その後彼女から「契約結婚」の申し出を受け、協議の末に住み込みの家政婦として「雇用」する。彼女が住民票を移して事実婚の形を取り、表向きには結婚したことにする。このため風見亮太達会社の同僚や、森山みくりの伯母、土屋百合など、知人達の目をごまかすために苦労を重ねる。一度も女性と付き合ったことが無くガチガチの草食系で「プロ独身」を自認している。 森山みくりを信頼しつつも、あくまで雇い主として一線を引くように心がけている。しかし彼女が風見亮太の家でも働き始めると複雑な感情が覚えるようになる。
土屋 百合 (つちや ゆり)
ベテランキャリアウーマンの女性。52歳。森山みくりの母・森山桜の姉だが、森山みくりからは「百合ちゃん」と呼ばれている。化粧品会社に勤務し、部下からは「室長」と呼ばれている。仕事はやり手だが結婚に対して否定と憧れの入り混じった複雑な感情を抱いている。森山みくりとは友達のような母代わりのような関係で、よく一緒に食事をしたり飲みに出かけたりしている。 森山みくりと津崎平匡の結婚生活を訝しんでいる。のちに津崎平匡の同僚・風見亮太の大家代理となる。
沼田 (ぬまた)
坊主頭の男性。津崎平匡の同僚。度々ゲイの気があるような言動をする。風見亮太と共に新婚の津崎家を訪問した際、ゲリラ豪雨で電車が止まったため津崎家に一泊し、こっそり覗いた寝室がシングルベッドだったことから、津崎平匡と森山みくりの関係に疑念を抱く。
風見 亮太 (かざみ りょうた)
28歳。パーマをかけた背の高いイケメン男性。津崎平匡の同僚。豊富な話題とそつのない振る舞いで、女性にもてるが反感を買う事も多かったという。一般的な結婚にメリットを感じられず、既婚者となった津崎平匡や妻子持ちの同僚、日野に、結婚生活についてあれこれ聞いてくるが、津崎平匡と森山みくりの結婚生活に自分が理想とする形を見出す。 その後津崎平匡に迫って森山みくりに自分の家の家事代行も頼むようになる。のちに森山みくりの伯母、土屋百合に新居を世話してもらう。大家代理となった土屋百合とも一緒に食事をしたり、メールを交わす仲になる。
森山 ちがや (もりやま ちがや)
眼鏡をかけた男性。森山みくりの兄。理屈っぽく厳しい物言いをする。小学生の頃、伯母の土屋百合に「伯母ちゃんは一生結婚できない。」と言ったため、彼女からは敬遠されている。
日野 (ひの)
髪を後ろに流した男性。津崎平匡の同僚。津崎平匡が森山みくりと結婚(事実婚)した後、彼らの家に遊びに行くことを提案。しかし、子どもが熱を出したため、沼田と風見亮太だけが行くことになった。その後再度訪問を計画するも、またもや子どもの病気で沼田と風見亮太だけとなり、 森山みくりに会えていない。
海老沢 (えびさわ)
森山みくりの伯母である土屋百合の知り合いの女性。バツイチ。名古屋に転勤することになり、マンションを分譲貸しすることを土屋百合に相談。土屋百合は森山みくりと津崎平匡に貸そうとしたが、結局風見亮太が借りることになった。
原 (はら)
土屋百合の部下の女性。土屋百合とランチに入った店で、偶然、風見亮太が別れ話をしているところに遭遇する。
M (えむ)
森山みくりの大学生時代の彼氏。大学入学後すぐに声をかけられ付き合い始めるが、テニスサークルに入ったことを境にお互い嫌味を言い合うようになってしまう。最後は「小賢しいんだよ」と捨て台詞を残して去って行った。
森山 栃男 (もりやま とちお)
森山みくりの父。職が見つからない娘の森山みくりを見かねて、元部下の津崎平匡に家事代行としてねじ込んだ。妻森山桜と共に、古民家をリフォームした家で田舎暮らしを始める。
森山 桜 (もりやま さくら)
ショートヘアーの中年女性。森山みくりの母。夫の森山栃男とともに古民家をリフォームした家で田舎暮らしを始める。姉の土屋百合は、娘の森山みくりと仲が良い。
津崎平匡の父 (つざきひらまさのちち)
津崎平匡の父。森山みくりは結婚(事実婚)後の食事会で初めて対面する。
津崎平匡の母 (つざきひらまさのはは)
津崎平匡の母。息子が森山みくりと結婚したことを喜んでいるが、2人が他人行儀なことを不思議に思っている。
書誌情報
逃げるは恥だが役に立つ 11巻 講談社〈KC KISS〉
第1巻
(2013-06-13発行、 978-4063409116)
第2巻
(2013-10-11発行、 978-4063409208)
第3巻
(2014-02-13発行、 978-4063409246)
第4巻
(2014-10-10発行、 978-4063409369)
第5巻
(2015-04-13発行、 978-4063409543)
第6巻
(2015-10-13発行、 978-4063409680)
第7巻
(2016-06-13発行、 978-4063409840)
第8巻
(2016-10-13発行、 978-4063409987)
第9巻
(2017-03-13発行、 978-4063980134)
第10巻
(2019-08-09発行、 978-4065167205)
第11巻
(2020-04-13発行、 978-4065192313)