逃げ上手の若君

逃げ上手の若君

突然謀反を起こした足利尊氏によって、武家の少年・北条時行は家族や故郷のすべてを失ってしまった。信濃国の神官・諏訪頼重の庇護を受け、あえて逃げることで英雄になる道を模索する時行の姿を描く、南北朝を舞台にした武家物語。集英社「週刊少年ジャンプ」2021年8号から掲載の作品。「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第6位、第69回「小学館漫画賞」受賞。

正式名称
逃げ上手の若君
ふりがな
にげじょうずのわかぎみ
作者
ジャンル
時代劇
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊15巻
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あらすじ

逃げ上手の若君

鎌倉幕府の後継者として育てられていた少年・北条時行は、武士としての取り柄を何一つ持っておらず、武芸の稽古からも逃げ続ける日々を送っていた。そのため、彼に期待する者は誰もいなかったが、時行自身はそんな状況をまったく気にする様子もなく、自由奔放な暮らしを送っていた。そんなある日、散策中に鎌倉の街を見下ろしていた時行は、信濃の国の神官・諏訪頼重と出会い、神力を発揮した頼重から10歳の時に天を揺るがす英雄になることを予言される。その後、多くの武将に信頼されていた有力武将・足利尊氏が鎌倉幕府に対して反旗を翻し、怒濤の攻勢によって瞬く間に鎌倉幕府は滅亡する。父親の北条高時は自害し、多くの幕臣も戦死する。居場所を失ってしまった時行は、武士としての本懐を遂げて命を絶とうとする。しかし、敵方の武士のただ中で落命寸前になったところで並外れた生存本能が目覚めた時行は、危機的状況から自ら脱出を果たす。そして頼重の庇護を受け、信濃の国で雌伏の時を過ごすことを決意する。その後、尊氏の警戒が厳しく鎌倉の山中に留まる日々を送っていた時行だったが、その最中に兄の北条邦時が、伯父の五大院宗繁の裏切りに遭って敵方に売られ、斬首されたことを聞いてしまう。仇を取るために宗繁を討ち取ろうとする時行。そして幼い邦時を売ったことで周囲の人間から不興を買った宗繁もまた、嫡男である時行を討ち果たして手柄を上げようとしていた。仲間と共に鎌倉の山中で宗繁を待ち構えていた時行一行だったが、宗繁の強烈な剛剣の前に大苦戦を強いられてしまう。しかし闘いの中で、時行は逃げの才能を存分に発揮する。その動きに感化された仲間の諏訪雫弧次郎亜也子の助力を得た時行は、みごとに宗繁を討ち果たすことに成功する。その後、無事に信濃の国の諏訪大社へと訪れた時行は、みんなの協力を得て武士としての生き方を学び直すのだった。時行が穏やかな暮らしを続けていたある日、西信濃を拠点とする小笠原貞宗が頼重のもとを尋ねてくる。帝からの綸旨を受けた貞宗は、頼重に対して北条一族の生き残りをかくまっているなら差し出せと要求。弓矢で巫女を傷つけて威嚇したあと、引き上げた貞宗の悪辣さに憤る時行に対し、頼重は貞宗の弓の技術を盗むように進言するのだった。

諏訪の長寿丸

諏訪大社で犬を殺傷力の低い矢で射る「犬追物」が開催された。そこに強引に飛び入り参加した小笠原貞宗は百発百中の腕前を見せ、参加者の中でトップの成績を挙げる。その上で諏訪陣営の強者と一対一での試合を所望し、貞宗が勝った暁には諏訪領内での北条残党狩りをいっさい邪魔しないことを諏訪頼重に要求するのだった。この窮地に身分を隠した北条時行が立ち上がり、貞宗の挑戦を受ける。試合の序盤こそ頼重の策略を実行した時行が有利に進めたものの、弓に関しては天下無双の武人である貞宗に頭を打たれ、一転して窮地に追い込まれてしまう。しかし、時行の逃げの才覚を生かした逃げながらの押し捻りで、貞宗の頭を打ち、みごと逆転勝利を収める。貞宗に勝利した時行だったが、貞宗は一向に北条狩りをあきらめず、帝からの綸旨を盾に、諏訪の領地を没収することを宣言する。綸旨に逆らえばたちまち朝敵となる危機に追い込まれてしまった頼重は、時行に対して悪名高い盗人の風間玄蕃を仲間にするように勧め、彼の力を借りて貞宗の館から帝の綸旨を盗み出すように指示するのだった。玄蕃を仲間にしようとする時行に対し、玄蕃は法外な金子を要求するが、お坊ちゃん育ちの時行は報酬に国を要求しない玄蕃を無欲であると賞賛する。時行の意外な反応に面食らった玄蕃は、時行が同行するのを条件に依頼を引き受ける。貞宗の館に侵入した二人は、仮面を使って変幻自在の変装ができる玄蕃の力で、難なく綸旨を手に入れることに成功するが、貞宗の補佐役である市河助房に気づかれ、館の敷地からの脱出が難しくなってしまう。時行を見捨てて逃げ出した玄蕃は、助房に討ち取られそうになるが、間一髪のところで時行によって救われる。貞宗と助房のコンビネーションをなんとか避け切った二人は、無事に現場からの脱出を果たすのだった。その後、貞宗の新たな領地となった北条家の旧領に、時行は修行がてらの偵察に出向くことになる。時期を同じくして一時的に未来が見えなくなった頼重は不安を感じつつも、彼らを見送るのだった。

登場人物・キャラクター

北条時行 (ほうじょう ときゆき)

鎌倉幕府の総帥である北条高時の二男で、凛とした佇まいをした気品のある少年。将来は鎌倉幕府の正当継承者として、高時の跡を継ぐことが定められていた。武家の生まれながら優しく穏やかな性格で、争い事は特に嫌っている。武芸の稽古も徹底的に忌避しており、稽古をさせようとする家人からひたすら逃げ回っている。そのため、武芸はからっきしだが、逃げ隠れする技術だけは並外れて突出している。争い事から逃げる姿勢を貫いているため、周囲の武士からは逃げ腰の御曹司として蔑まれ、まったく期待されていなかった。北条時行自身はそんな状況もいっさい苦にする様子はなく、地位や名誉に関係なく鎌倉の地で平和に暮らしたいと思っている。しかし、尊敬していた武士・足利尊氏の裏切りによって、鎌倉幕府が滅亡したことでその運命は一変。亡国の子として周囲から追われる身となり、鎌倉幕府と運命を共にするつもりだったが、信濃の国の神官である諏訪頼重に匿われる身となった。未来が見えるという頼重から、10歳の時に天を揺るがす英雄となり、日本の未来を変えると予言されている。時行自身は気づいていないが生存本能の怪物で、生き延びる才能に関しては誰より特化し、生死の境におけるスレスレのヒリつく緊張感をこよなく愛している。諏訪に移住後は身分を隠し、頼重の庇護のもとで英雄となるべく己の才を磨き始める。物事を冷静に判断する力に長け、敵であっても優れた者は素直に認めることができる。諏訪大社で暮らすようになってからは身分を隠すため、「長寿丸」と名乗っている。諏訪雫からは「兄様」とも呼ばれていた。

諏訪 頼重 (すわ よりしげ)

信濃の国の神官にして諏訪大社の当主を務める男性。見るからに怪しげな笑顔を浮かべながら、異様にテンションが高い。自らのことを本物の「神様」と吹聴し、完璧ではないが未来のことを断片的に予知する能力を持つ。鎌倉を敵から守護するための祈祷で訪れた際に、北条時行と出会い、彼が10歳の時に国の行く末をも決める英雄になることを予言した。笑顔と言動があまりにも怪しすぎるため、時行からは「インチキ霊媒師」呼ばわれされていた。鎌倉幕府滅亡後に時行を領内の諏訪大社に匿い、武力や知力をはじめとする勝つためのすべてを教え込み、武士としての成長をうながした。日本でも三人しかいないという現人神の一人で、諏訪の地では地侍から絶大な支持を得ている。また、定期的に未来が見えない時期があり、その時期は激しい不安にさいなまれてしまう。

足利 尊氏 (あしかが たかうじ)

鎌倉幕府に仕えている男性。武勇、教養、家柄、人望とすべてを兼ね備えた武士の鑑とされる人物。武人らしからぬ、涼やかで端正な顔立ちをしている。とろけるような笑顔で、どんな人間の心も瞬く間につかんでしまう圧倒的なカリスマ性を持つ。長らく鎌倉幕府に仕えており、周囲の武士からは蔑まれている北条時行に対しても優しく接し、時行からも尊敬されていた。ひそかに後醍醐天皇と内通しており、帝方の乱を鎮めるために京都に出兵した際に幕府軍に反旗を翻し、京都の幕府軍をあっという間に壊滅させ、その勢いのまま鎌倉幕府をわずか24日で滅ぼした。当初は「足利高氏」と名乗っていたが、後醍醐天皇から名を一字授かり、「足利尊氏」を名乗るようになる。護良親王からは、その笑顔の裏に潜む人間離れした異様な気配を警戒されて命を狙われるが、ほかの武士や貴族をすべて味方につけ、盤石の体制を築き上げている。

風間 玄蕃 (かざま げんば)

信濃の国を根城にしている盗人。身のこなしが天才的に素早く、父親から受け継いだ手の込んだ道具を巧みに使いこなして、信濃の国を中心にあちこちで盗みを働いている。特殊な粘土で練った狐の仮面をつねにかぶっており、仮面を練ることで人相を別人に変える技術で他人に成りすますことができるため、諸国民からは恐れられ、嫌われている。もともとは武家の血筋ながら、盗みの技術を習得したがゆえに主君から疑われ、失意の中で死んだ父親が「金以外信じるな」という遺言を遺した。その経緯もあり、金以外はいっさい信用しない強欲で猜疑心の強い性格になった。その優れた盗みの技術を見込んだ北条時行に請われ、時行といっしょに小笠原貞宗の屋敷から帝の綸旨を盗み出した。当初は時行を没落した武家のお坊ちゃんと歯牙にもかけず、それどころか見下していた。しかし、窮地に陥っても風間玄蕃自身のことを見捨てずに助けようする時行に対して一目置くようになり、国一つを報酬とすることを条件に郎党「逃若党」の一員となった。作った借りは必ず返そうとするなど、意外と義理堅い一面を持つ。

北条 高時 (ほうじょう たかとき)

北条時行の父親で、鎌倉幕府の総帥を務める男性。名目上は鎌倉幕府のトップの立場にあるが、病弱な上にもうろくしており、やる気や覇気が感じられず傀儡状態になっている。そのため、実権を側近たちに握られており、突然の足利尊氏の謀反にまったく対応することができず、自害へと追い込まれた。

諏訪 雫 (すわ しずく)

諏訪頼重の娘。諏訪大社の巫女を務めており、頼重から受け継いだ数々の秘術を使いこなすことができる。おとなしい性格ながら、周囲のことを冷静に観察している。のちに北条時行の郎党「逃若党」の一員となり、時行を陰からサポートするようになる。身分を隠している時行のことを「兄様」と呼んでいた。

弧次郎 (こじろう)

諏訪頼重に仕えている少年。同世代随一の刀の使い手で、いずれは軍を任せる武将になるように、頼重から育てられている。ノリの軽い性格で、ざっくばらんとした口調で話す。のちに北条時行の郎党「逃若党」の一員となり、亜也子と共に戦うようになる。

亜也子 (あやこ)

諏訪頼重に仕えている少女。見た目とは裏腹に怪力を誇り、芸の才能も持ち合わせた才女。のちに北条時行の郎党「逃若党」の一員となり、弧次郎と共に戦うようになる。戦闘からメイド的な役割も担い、多岐にわたって時行をサポートしている。

五大院 宗繁 (ごだいいん むねしげ)

北条時行の義理の伯父で、北条家に仕えていた武人。保身を第一に考える小心者で、足利尊氏の謀反によって鎌倉幕府が崩壊した際に、北条邦時を預かり匿ったが、恩賞と保身のために敵方の新田氏に邦時を売ってしまった。親の七光りで出世したにもかかわらず、躊躇なく主君の子を敵方に売り渡したことで新田方からも忌み嫌われ、何一つ褒賞を貰えずに放り出された。味方が一人もいなくなった苦しい状況からの一発逆転を狙い、時行の首を獲って新田氏に差し出すことを画策する。自分のことしか考えていない臆病な性格で卑劣漢である一方で、大木をたやすく真っ二つにしてしまうほどの剣の腕前を誇る。鎌倉の郊外で発見した時行と対峙し、鋭い剣技で時行を圧倒する。しかし、戦いの中で時行が逃げの才能を開花させ、仲間と協力した時行の前に敗れ去り、首を獲られてしまう。

小笠原 貞宗 (おがさわら さだむね)

信濃守護を務めている武家の男性。ぎょろりと飛び出たすごみのある目をしている。足利尊氏の乱に乗じ、支配領域の拡大を狙っている野心家で、驚異の観察力と視力を併せ持っている。視力を生かした弓の腕前は天下一品で、遠く離れた巫女の耳だけを正確に射抜けるほど。品性に欠けるが、その弓の美しさは本物で、対立した北条時行ですらその弓の技術を褒めたたえていた。尊氏の謀反のあとにいち早く幕府を裏切った功績から信濃守護に推薦され、尊氏から直接信濃国の北条の残党狩りを任される。その後は意気揚々と諏訪頼重の領内を訪れ、強引な手段で時行を捜し出そうとしていた。身分を隠した時行と犬追物で勝負するが、実戦の中で逃げながらの攻撃に覚醒した時行の前に敗れ去ってしまう。しかし、その後もまったくあきらめることはなく、頼重の所領を奪うために、あの手この手でしつこく頼重に揺さぶりをかけていた。

市河 助房 (いちかわ すけふさ)

信濃守護の補佐役で、独立勢力の武家の男性。小笠原貞宗の北条狩りを支えている。耳が非常に大きく、それに比例するように聴力が異常に発達している。その聴力によって闇夜であっても、音だけで相手の位置を正確に割り出すことができる。帝の綸旨を盗み出すため、貞宗の屋敷に忍び込んだ北条時行と風間玄蕃の位置をかすかな音だけで特定し、貞宗との弓のコンビネーションで窮地に追い込んでいた。

北条 邦時 (ほうじょう くにとき)

武家の御曹司で、北条時行の異母兄。名家の出身ながら穏やかな性格で、「嫌なことからは正々堂々と逃げるのが我々の血筋」と時行に臆面もなく言い放っていた。側室の北条邦時自身が、父親である北条高時の跡を継げば争いのもとになると考えており、時行に高時の跡を継ぐように勧めていた。時行の内面に隠された力を信じているため、何か一つ条件がそろえば時行が英雄になると確信していた。足利尊氏の謀反の際に親族である五大院宗繁によって新田方に売られ、斬首される。

高 師直 (こう もろなお)

足利家の執事で、足利尊氏の側近として仕えている武家の男性。尊氏からも信頼されており、足利家のもろもろを取り仕切っている。幼少の頃から尊氏に仕えているが、ここ最近は尊氏の笑顔がますます人間離れしていると気づいており、そのことを尊氏本人にも伝えていた。

護良親王 (もりよししんのう)

後醍醐天皇の皇子で、征夷大将軍。父親に代わって鎌倉幕府打倒の指揮を執り、政権奪取した大功労者の一人。利発聡明な上に武芸の達人で、後醍醐天皇が後継者として考えていたほどの逸材。勘が非常に鋭く、会った人をすぐに虜にしてしまう足利尊氏の内面に人ならざる者の影を感じ取っている。その存在がいずれ後醍醐天皇に仇をなすと考え、スキを見て尊氏の命を奪おうとするが、その圧倒的な武威とカリスマ性に圧倒されて失敗する。

書誌情報

逃げ上手の若君 15巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第1巻

(2021-07-02発行、 978-4088827100)

第2巻

(2021-08-04発行、 978-4088827346)

第3巻

(2021-11-04発行、 978-4088827933)

第4巻

(2022-01-04発行、 978-4088830100)

第5巻

(2022-04-04発行、 978-4088830735)

第6巻

(2022-06-03発行、 978-4088831848)

第7巻

(2022-08-04発行、 978-4088831985)

第8巻

(2022-11-04発行、 978-4088832913)

第9巻

(2023-01-04発行、 978-4088834238)

第10巻

(2023-04-04発行、 978-4088834382)

第11巻

(2023-06-02発行、 978-4088835617)

第12巻

(2023-09-04発行、 978-4088836355)

第13巻

(2023-11-02発行、 978-4088836935)

第14巻

(2024-02-02発行、 978-4088838236)

第15巻

(2024-04-04発行、 978-4088838830)

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