概要・あらすじ
朝は武家の娘として生まれ、武士としての矜持を教えられ育てられたが、明治維新をきっかけに世の中が一変。父親も母親も祖父も亡くなり、天涯孤独の身となった朝は、母親のかつての芸者仲間である真市の母や、自分の家で働いていた真爺の伝手で、中沢商会で女中として働いていた。つらい境遇の中でもめげずに頑張っていたある日、朝は奉公先の坊ちゃんである真次をかばってチンピラにからまれ、海に落ちてしまう。
溺れかけた朝を救ってくれたのは、通りすがりの異人ショーンだった。後日、仕事で外国人居留地のホテルに届け物に行った朝は、そこでショーンと運命的な二度目の出会いを果たす。そして朝は、自分に対して優しく接してくれるショーンに、次第に惹かれていく。
登場人物・キャラクター
朝 (とき)
武家に生まれた少女。明治維新後に父親、母親、祖父を亡くし、天涯孤独となった。かつて自分の家で奉公をしていた真爺や母親の芸者仲間だった真市の母の伝手で、中沢商会の女中として働いている。正義感が強く直情的な性格で、頭に血が上ると前後の区別がつかなくなる一面もあるが、基本的には困った人を放っておけない優しい性格。 通訳をしていた父親の影響で、少しだけ英語を話すことができる。
ショーン
イギリスから日本にやって来た男性で、叔母であるディアドラとともに外国人居留地のホテルに滞在している。朝とは、彼女が溺れていたところを助けたことで知り合い、朝の日本人としての矜持や気骨に惹かれている。実はイギリス人の銀行家だった父親が日本人女性との間に作った子供で、生まれたのも日本。自分の本当の母親を知りたいと思っており、自分の居場所を求めている。
ディアドラ
イギリスから日本にやって来た未亡人で、外国人居留地のホテルに泊まっている。ショーンより10歳年上で、血の繋がりはないものの、叔母と甥の関係。気位が高く日本人を頭から馬鹿にしており、旅行の通訳として雇った朝を使用人としてこき使う。ショーンが朝を気にかけていることを快く思っていない。
フジ
朝とともに中沢商会で女中奉公をしている少女。絵師の娘ということもあり、絵が上手い。西洋の舞踏会に憧れ、金持ちの異人との出会いを求めて中沢商会を飛び出して高木のもとへ行ったが、手籠めにされそうになったところを朝とショーンに助けられる。英語は話せないが、朝とともに旅行の通訳としてディアドラとショーンに同行する。
真市 (しんいち)
中沢商会の主人の長男坊。自分の家が金持ちであることを鼻にかけており、その見栄から本格コーヒーをたしなんでいる。朝に対して下心を持ち、手籠めにしようと嫌がる朝にしつこく迫っている。
真次 (しんじ)
中沢商会の主人の次男坊。歳は幼く、毎晩寝かしつけをしてくれる朝にとても懐いている。まだ日本では珍しい洋服を好んで着用しているため、サムライ崩れのチンピラから目をつけられ、からまれることもある。
真爺 (しんじい)
中沢商会の主人の父親。もとは朝の家に奉公しており、朝の祖父とともに朝に武芸を教えた存在でもある。朝のことを可愛がっていたが、明治維新の後に息子が商売で成功し、落ちぶれた朝の家と立場が逆転してしまったことに罪悪感を感じている。身体を壊し、寝たきりの状態だが記憶はしっかりしており、話もできる。
真市の母 (しんいちのはは)
中沢商会の主人の妻。もとは芸者をしており、文やキクとは芸者仲間だったが、商家に嫁いでおかみさんになり、真市と真次を生んだ。美人だが性格は悪く、キツいところがある。細長いキセルを使って煙草を吸うことを好む。
高木 (たかぎ)
役人の男性。その裏で、売春のあっせんや娼館の経営もしている。スケベな中年で、若い女の子を見てはすぐに手籠めにしようとする。口ひげを生やしているのが特徴で、背が低く、下世話なところがある。
キク
ショーンの母親。かつて文とは芸者仲間だった。芸者時代にショーンの父親と恋仲になって身ごもったが、生まれたショーンとは引き離され、生き別れになっていた。実はハーフで、父親はオランダ人医師、母親は日本人。左目の下にほくろがあるのが特徴の美人で、今はサロンのオーナーをしている。
メイファ
ショーンがかつて中国滞在中に知り合った、中国人の美女。金持ちの男性に買われて不自由な生活を送っていたところを、ショーンが見受けして自由にしてやった過去がある。その後、結婚して日本へとやって来た。ショーンが金で買い取っておきながら自分を求めなかったことを逆恨みし、夫に嘘をついてショーンを痛めつけようとする。
朝の父 (ときのちち)
朝の父親で、故人。英語が堪能で通訳の仕事をしていたのだが、暴漢に襲われた外国人を守り、身代わりになって殺されてしまった。進歩的な考え方の持ち主で、力のみに頼らない新しい時代に希望を抱いていた。
朝の祖父 (ときのそふ)
朝の祖父で、故人。江戸時代においては最後の武士で、武芸にも秀でており、女の子である朝に対しても厳しく武芸を叩き込んだ。明治維新の後、武士の身分が剥奪されたことを恥じて、自ら切腹して果てた。
文 (ふみ)
朝の母親で、故人。もとは芸者だったのだが、武家の家に嫁いで朝を生んだ。丸顔の美人で、朝の顔は母譲り。明治維新の後に身体を壊して亡くなった。真市の母、キクとは芸者仲間だった。
場所
中沢商会 (なかざわしょうかい)
横浜でも三本の指に入る貿易商会。朝が働いている会社でもある。もとは潰れかけていた荒物屋だったのだが、朝の父が通訳としてあちこちに働きかけ、私財を投げ打ってまで大きくする手助けをした。オーナーは真市の父親で、オーナーの父親である真爺はかつて朝の家で奉公していたという縁がある。