作品誕生のいきさつ
本作『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』は、服部昇大がマンガ原稿の執筆中、作業用BGM代わりに映画を流していたことがきっかけとなって生まれた。有名作品だとつい見入ってしまって仕事にならないため、服部昇大はあえて有名ではなく、かといって無名というわけでもない作品を作業がてら流し見していたが、その際に映画はツッコミどころが非常に多いことに気づいたという。これにインスピレーションを得て、担当編集者に第1話のネームを送付したところ、連載が決定したという経緯がある。
あらすじ
第1巻
映画観賞を趣味としている男子高校生の小谷洋一は、映画を語れる同志を見つけるため、映画について語る若人の部を立ち上げる。新入部員を待つ小谷のもとに現れたのは、入部を希望する邦吉映子だった。小谷は共に一番好きな映画の話で盛り上がろうと考えるが、映子の一押しの作品が実写版『魔女の宅急便』だったため、そのあまりのマニアックぶりに呆然としてしまう。(エピソード「魔女の宅急便」。ほか、14エピソード収録)
第2巻
最近見た映画について話していた小谷洋一と邦吉映子は、『オーシャンズ13』を皮切りに怪盗モノの話で盛り上がっていた。その流れで、映子は一番好きなルパン作品が実写版『ルパン三世』だと語る。そして彼女のプレゼンテーションに、部室内は困惑の渦へと巻き込まれていく。(エピソード「ルパン三世」。ほか、13エピソード収録)
第3巻
邦吉映子はある日、映画について語る若人の部の部室にやって来るや否や、都政批判を始める。困惑する小谷洋一たちに映子は、コメディ映画と思われていたが、公開と同時に異例の大ヒットをした映画の影響だと語る。その言葉を聞いた小谷たちは『アクアマン』かと見当をつけるが、実際は実写版『翔んで埼玉』であることが判明する。そして映子は、小谷の出身地である武蔵村山は都会ではなくほぼ埼玉だという言葉と共に、『翔んで埼玉』の魅力を熱く語り始める。(エピソード「翔んで埼玉」。ほか、12エピソード収録)
登場人物・キャラクター
邦吉 映子 (くによし えいこ)
映画について語る若人の部に所属している女子高校生。茶髪をポニーテールにまとめている。「~でありまする」など、丁寧ではあるが現代の女子高校生とは思えない独特の言葉遣いが目立つ。映画好きでも中々知らないようなマニアックな邦画作品を愛好しており、『トイ・ストーリー』を洋風怪奇映画と評するなど、視点も非常に独特。そのため周囲からは、目の付けどころが完全にイカレており、趣味が狂っているという意味に加え、名字がそう読めることから「邦キチ」と呼ばれている。失敗作と叩かれているような実写化作品や、低予算作品、ハズレとされる特撮作品ほど思い入れが強い。好きな監督は清水崇や井口昇で、好きな俳優は斎藤工や市原隼人だが、推し作品はメジャー作品ではなく実写版『魔女の宅急便』や『虎影』など、非常にマニアック。邦画専門YouTuber「邦チューバー」を自称し、動画配信も行っている。また、石破マリアからは「師匠」と呼ばれている。
小谷 洋一 (こたに よういち)
映画について語る若人の部の部長を務める男子高校生。東京都武蔵村山市出身で、3年A組に所属している。黒髪を肩上まで伸ばし、ちょっとニヒルなイケメンと自負している。自分の周囲に映画鑑賞を趣味としている生徒が少ないことから、自ら部活動を立ち上げた。学園を代表する映画好きを自称しているが、その知識はメジャー作品か、ちょっとマニアックに寄った程度の範囲までしかない。特に『アイアンマン』などのアメコミ原作作品を主に愛好していることから、東洋洋からは「ただのアメコミ馬鹿」と評価されている。邦吉映子の独特すぎる感性と暴力的なまでの怒濤のプレゼンテーションに付き合わされているが、小谷洋一自身は満更でもなく思っている。
東洋洋 (とんやんやん)
アジア映画好きの女子高校生。映画について語る若人の部のとなりに部室がある東洋甩影(アジアえいが)研究部のただ一人の部員。浅黒い肌で、黒髪を頭の左右でお団子にまとめ、制服を着用せずにチャイナドレスを着ている。父親が中国人とインド人のハーフ、母親が韓国人とフィリピン人のハーフと4か国の血が流れており、自らを「アジアの申し子」と評している。また、小谷たちのことは以前から気になっていたが、いつも洋画と邦画の話しかしないため、苛立っていた。一番のお勧めは『バーフバリ』で応援上映にも行ったほどだが、一方で『幽幻道士』シリーズの多くにトラウマがあり、キョンシーを苦手としている。アジア映画に執着していることから、アジア映画版邦キチという意味で「アジキチ」とも呼ばれている。
石破 マリア (いしば まりあ)
シネマサロン部に所属している女子高校生。茶髪をウェービーなロングヘアにしている。邦吉映子がシネマサロン部で熱く語った実写版『デビルマン』の話に密かに感動し、それからは映子を尊敬するようになった。また、『HiGH & LOW THE MOVIE』をはじめとした血なまぐさいエンターテイメント系映画作品を好むため、シネマサロン部で語り合える人がおらず、映画について語る若人の部を訪れた。それ以来、映画について語る若人の部に頻繁に訪れるようになった。
レンタルビデオ店で会った男1
レンタルビデオ店で、邦吉映子に絡まれた男性。黒髪をリーゼントとポンパドールにしており、ティアドロップタイプのサングラスをかけている。どの映画を見ようか悩んでいたところで映子に話しかけられ、実写版『テラフォーマーズ』をしつこく勧められて困り果てていた。見た目に反してプレゼンテーション能力が高く、正統派の映画作品を好む。好きな作品は『ドリーム』。
レンタルビデオ店で会った男2
レンタルビデオ店で、邦吉映子に絡まれた男性。少々長めの黒髪をモヒカンのようにして立たせており、口まわりに髭を蓄えている。どの映画を見ようか悩んでいたところで映子に話しかけられ、実写版『テラフォーマーズ』をしつこく勧められて困り果てていた。見た目に反してプレゼンテーション能力が高く、正統派の映画作品を好む。好きな作品は『グレイテスト・ショーマン』。
御影 特則 (みかげ とくのり)
特撮作品について熱く語り合う部の部長を務める男子高校生。パーマのかかった金髪で、ティアドロップタイプの色の薄いサングラスをかけている。邦吉映子が特撮作品好きであることを見抜き、部にスカウトした。思い込みが激しく、映子は帰宅部であると根拠のない勘違いをしていた。誤解が解けたあとも、映子には映画について語る若人の部よりも特撮作品について熱く語り合う部の方がふさわしいと主張し、ことあるごとに映子を勧誘しようと小谷洋一と張り合う。好きな作品は『ゴジラvsビオランテ』。部員の駒木からは「キャプテン」と呼ばれている。
駒木 (こまぎ)
特撮作品について熱く語り合う部のマネージャーを務める女子高校生。ショートボブの濃い茶髪で、ボストンタイプの眼鏡をかけている。ヌルオタを自称し、部員と名乗るのはおこがましいと謙遜しているが、実際は週末ごとにヒーローショー観賞に出かけ、最後尾から一眼レフで連続撮影しているほどの筋金入り。
集団・組織
映画について語る若人の部 (えいがについてかたるわこうどのぶ)
小谷洋一が立ち上げた、映画を語るための部活動。正式な部員は小谷と邦吉映子しかおらず、部室はボロボロの旧部室棟の一室をあてがわれている。部員募集のチラシには「あなたの「好き」を肯定する部です」と謳っており、学園内にいるはみ出し者の映画好きのために部を作ったという建前がある。そのため小谷は、どんなに映子の好きな作品や視点を理解できなくても、否定することもできず、やめろと言うこともできない。
シネマサロン部 (しねまさろんぶ)
映画を語り合うための部活動。部員は学園内の映画関係部では最大人数を誇り、部室もオシャレでソファなどもある。また、映画を語り合うためにお茶やお菓子が出されるなど雰囲気も非常に上品で、シネフィル的な映画ファンが多く、エンターテイメント作品を語りにくい雰囲気がある。邦吉映子のマイナー映画好きを聞きつけ、スカウトしようとしていたが、映子が実写版『デビルマン』を熱く語りはじめたのを見て、部室から追い出した。部員募集のチラシには「映画について語り合う」と書かれており、小谷洋一は部名がものすごく被っているとして一方的に敵対心を抱いている。ちなみに、シネマサロン部の部長が好きな作品は『気狂いピエロ』。
特撮作品について熱く語り合う部 (とくさつさくひんについてあつくかたりあうぶ)
特撮作品について語り合うための部活動。邦吉映子の特撮映画好きを見抜き、スカウトしようとした。部長は御影特則が務めており、ほかにマネージャーの駒木が所属している。できたばかりの部だが、映画について語る若人の部を「うちのパクりみたいな名前の部」と認識している。部員募集のチラシは初代ゴジラが大戸島に登場したシーンを、『シン・ゴジラ』風にオマージュしたもの。