概要・あらすじ
事故で両親を亡くし孤児となった中馬健と中馬亜子の兄妹。親戚に引き取られたが、いじめられながら昼夜働かされ、両親の遺産もすべて奪われてしまう。二人は海に身を投げたがガタロ船に拾われ、そこで暮らす人々の温情に触れ、そこで生きていこうと思う。だが、世話になっていた船長が病気になっても、貧乏人のため診てくれる医者はなく、健は物もらいをしてみたがうまくいかず、物もらいの達人から手ほどきを受けた。
実はこの男、ベンツを乗り回す大金持ちで、健はこの男を銭神と呼んで師事することにした。銭神のすさまじいまでの銭もうけ修行が始まる。健の稼ぎはすべて銭神のものになったが、ついに逆に銭神を利用して健は大金を手にする。
一人立ちをした健は巨万の富を手にしたかに見えたが、その先には転落への罠が待っていた。
登場人物・キャラクター
中馬 健 (ちゅうま けん)
もともとは泣き虫でわがままな気の弱い性格。13歳のとき、親戚の結婚式に両親と妹の中馬亜子が出かけて留守番をしていたところ、交通事故による両親の訃報が届く。無事だった妹の中馬亜子と二人で神戸の叔父、中馬健二郎の家に引き取られる。だが、両親の遺産を奪われ、二人は押し入れに住まわされて、ろくに食事も与えられず、学校どころか働きに出される。 絶望して亜子と共に海に身を投げたところを、ガタロ船のアゴヒゲ船長に助けられる。ガタロの手伝いをしながら、そこでの人情あふれる生活に馴染みかけた。そんなとき、ケガをしたアゴヒゲを貧乏ゆえにどこの医者も診ようとしなかったことで、金儲けを決意。単身、三の宮に出て、知り合ったコジキの住吉源五郎を銭神と呼び、その弟子となる。 成功しかけると銭神に上前をはねられたり、横取りされたり、利用されたりしながらも、逞しく成長。銭神と彼のライバル大蜂との土地取引を利用して4000万円を手にして独立した。銭神とは1年後の再会を約束し、餞別に百円札を1枚渡される。 妹の亜子のもとに戻り、世話になったアゴヒゲを看取った後、ガタロ船で一緒だったさくらたちとマンション暮らしを始めたが、無駄遣いと土地取引詐欺で再び流浪の身に。井筒牛乳店に亜子とともに住み込みで働く。そこで始めた副業の頼まれ屋をケンの店にまで成長させた。だが、健二郎のバーゲン スーパーマーケットが近くに開店。 激しい競争の末、健二郎の罠にはまって倒産。さらに亜子が肺結核で倒れる。このとき銭神の百円札で買ったパンと牛乳に涙した。自分の体も危険な状態と知りながら靴磨きで日銭を稼いでいると、銭神が現れた。銭神に背負われながら、百円札の礼をする。
中馬 亜子 (ちゅうま あこ)
『銭っ子』の登場人物で、中馬健の妹。ピアノが得意な小学生。親戚の結婚式からの帰宅途中に交通事故に遭い、自身は骨折などですんだが、両親は亡くなった。叔父の中馬健二郎に引き取られたが、健と二人で押し入れに住まわされ、学校へは行かしてもらえずにお手伝いとして働かされ、ろくに食べ物も与えられなかった。絶望して健とともに海で投身自殺を図るが、アゴヒゲ船長に助けられた。 金儲けを決意して三の宮に向かった健の帰りを、アゴヒゲ船長たちの船で待った。4000万円稼いで帰ってきた健に連れられ、マンション住まいを始めた。健の無駄遣いをたしなめたが聞き入れられず、破綻。再起を期して、残った100万円を銀行に預け、通帳を健、印鑑を亜子が持つようにした。 井筒牛乳店で住み込みで働くようになった。健が始めたケンの店が軌道に乗り、支店を出すことになった時、牛乳店を辞めて本店を任された。バーゲン スーパーマーケットの開店で窮地に追い込まれると、健二郎への対抗心を露わにし、スパイの起用を提案して西山佳子をスカウトした。 その後も健の取引を冷静な判断とデータ分析でサポートした。だが、健二郎の罠にはまってケンの店が倒産したときに、肺結核を発症して吐血。床に臥せるようになるが、健との二人きりの生活に幸福を感じる。
住吉 源五郎 (すみよし げんごろう)
金儲けのために三の宮に出てきた中馬健が出合った物もらい。禿げ頭でゴツい顎、口の周りに鬚を生やした恰幅のいい男。実は大金持ちで、六甲に大邸宅を構えてベンツで物もらいに出勤する。現金は2億円あるとのこと。本業は物もらいだが、株や土地取引など金儲けのチャンスを逃さない。 少年時代は貧乏で、ガタロと呼ばれる川での鉄くず拾いや新聞配達で生計を立てていた。そのころから大蜂はライバルで、西宮に持っていた山を頭を下げてまで欲しいという大蜂に売ったところ、それは虚偽で高額で転売されたため、彼との関係は最悪となっている。世間知らずな健に興味を持って家に置き、健から銭神と呼ばれるようになった。 庭に野宿させるだけでも宿泊料をとり、物もらいで使用したゴザ代なども請求。その後、健がカブトムシで稼ぐと効率よく集めて健に卸し、健が嗅ぎつけた産業スパイ事件では、逆襲にあった健を利用して先方に新たなアイディアを売り込んだ。だが、大蜂に仕掛けられた自宅の買い取り交渉では、健に格安で売りつけた庭の半坪を利用され、自宅を売らざるを得なくなった。 それを機に健と別れ、1年後の再会を約束する。その際に餞別として渡したのは百円札1枚。そして1年後、店を失った上に妹・中馬亜子の看病でやつれながら靴磨きをしていた健の前に現れた。健の事情を知ると、中馬健二郎の息子や残りの親族から健二郎のバーゲン スーパーマーケットの株を買い集め、たちまち乗っ取ってしまう。 健を新たな社長に据えようと考えてのことだった。
中馬 健一郎 (ちゅうま けんいちろう)
中馬健と中馬亜子の父。城北産業の重役で、実直で人がよく、多くの人に慕われていた。だが、弟妹はあまり誉められた人物ではない。すぐ下の弟の中馬健二郎は、神戸でレストランを経営しているが業績不振。妹の山田信子の夫は無職で賭け事ばかり。末の弟の中馬健三郎は不動産業で拝金主義者。 そのため、兄弟仲はよくない。健二郎の息子の結婚式に健を残して出席し、その帰りに反対車線から中央分離帯を乗り越えてきたトラックに衝突され、妻とともに死亡。同乗していた娘の亜子は幸い骨折などですんだ。遺産や東京・阿佐ヶ谷の高級住宅地の大邸宅などは、健が子供なのをよいことに弟妹たちが勝手に処分してしまったらしい。
中馬 健二郎 (ちゅうま けんじろう)
中馬健の叔父。細身で顎が長く眉が薄い。息子の正一は健二郎の会社を手伝っていて、結婚して妻の敬子とともに健二郎宅に同居している。娘の正子は中学生で、健の妹の中馬亜子とは反りが合わない。神戸でレストラン「ブルーハーバー」を経営しているが、業績はよくない。兄の健一郎から多くの借金をしている。 その兄の事故死を受けて、借金を踏み倒した。弟妹で健と亜子を半年ごとに世話をすることにしたが、部屋どころか食事もろくに与えずに、学校にも行かせず店の手伝いなどで働かせた。ブルーハーバーは、食べ残しの再利用はもちろん、残飯を港湾労働者に売るなど、かなり汚い商売もしていた。 健一郎の遺産を元手にバーゲン スーパーマーケットを展開。弟妹には東京支社を任せている。儲けなしのおとり商品を日替わりで用意し、周囲の店を潰して客を独占するという商売をする。ケンの店の近くにも出店し、その経営を圧迫した。健が店員の西山佳子をスパイとして抱き込み、おとり商品をつぶされて苦しんだが、ニセ情報でケンの店を翻弄。 さらに、不良在庫で傷んだ缶詰をケンの店にまぎれこませて食中毒事件を発生させ、ついに倒産まで追いこんだ。だが、会社の資産を流用していることが銭神の企みで露顕し、発行株式の3分の2を銭神に買い取られてしまった。
アゴヒゲ
ガタロ船と呼ばれる、港湾に沈んでいる鉄くずなどを拾って暮らしている人々の船の船長。人のよさそうなアゴヒゲを生やした恰幅のいいおじさん。酒好きで鼻が赤い。正直で人情に篤く、人をだますことが嫌い。中馬健と中馬亜子の兄妹が絶望して海に身を投げたところを助けた。健を子分として置き、健のために酒を控えるようにもなった。 だが、酔ってケンカをして大ケガしたときに近くの医者から貧乏を理由に診察拒否されたことで、健を金儲けに走らせてしまった。成功して戻ってきた健と再会したときには心臓病で臥せっており、入院したものの手遅れで死亡。港を見下ろせる山の上に葬られた。金を手にして戻ってきた健に「悪いものを持ってきた」と告げたのが最後の言葉だった。
さくら
中馬健と中馬亜子が世話になったガタロ船で暮らしていたショートカットの少女。レストラン「ブルーハーバー」で健とともに働いていた老女の孫で、母を早くに亡くし、父は船から落ちて死亡しており、他に身寄りはない。年齢不詳で学校にも行っておらず、亜子と同じくらいの体格なので中学1年生くらいと思われる。 投身自殺を図った健と亜子の世話をしてから、家族同様の付き合いとなった。成功した健に連れられてマンション住まいを始めると、たちまちテレビの虜となって、ろくに家事もしないダメ人間になってしまった。そんな生活が破綻してガタロ船に戻った後、健が船を出ると聞いて、残っていた金を盗もうとする。 健から100万円を渡されると、祖母と激しく奪い合う。その光景に健は「おそるべき銭の力」と驚愕した。
大蜂 (おおはち)
銭神にやられてばかりの中馬健が出合った、銭神と違うタイプの金儲けの天才。脳天は禿げているが、後ろ髪は長く伸ばしている細身の男。脳天の右寄りから左頬にかけて大きな傷痕があり、右目には黒のアイパッチ、口髭をはやしている。四人家族だったが、両親を交通事故で失い、妹と二人きりになり、絶望していた時期があるという。 だが、川底で働くガタロを見て発奮し、新聞配達から身を立てた。実はこの時のガタロが銭神で、新聞配達では客の奪い合いをしたライバル。その後、稼いだ金で山を買い、自分で開墾して薪を売って糊口をしのぎ、宅地となった土地を売却。現在は不動産屋の京阪神マンションカンパニーの社長で、「六甲を制するものは神戸を制す」と六甲の土地を買い集めている。 残っているのは銭神の土地と屋敷のみ。ほとんど金を使わない銭神に対して、派手に使って派手に儲ける、攻めの手法をとる。健からは銭将軍と呼ばれた。健から持ちかけられた、銭神の敷地内の健が所有する半坪の土地に大蜂のマンション予定地の看板を立てる作戦に乗り、看板を嫌がった銭神から2億5000万円で土地家屋の買収に成功。 健をはした金で誤魔化そうとしたが、そこでは健に嵌められて例の半坪を4000万円で買うことになってしまった。
井筒 (いづつ)
中馬健と中馬亜子の兄妹が、再起を期して住み込みで働くことにした牛乳店の女店主。背の高い太めの大女。健たちを雇うときは人がよさそうだったが、働き始めるとたいへん厳しく、特に亜子は家事でかなりやつれていった。本当の店主はヒゲを生やした小男の夫だが、あまり発言権はなく、暴走しがちな妻をなだめるのが精一杯。 子供は3人で、小学生の娘・清子と小学生の息子・光一、その下に幼い弟がいる。それでも布団と食事があるだけ、健と亜子は叔父の中馬健二郎宅よりましな生活を送っていた。
西山 佳子 (にしやま よしこ)
小綺麗にしている女性で、バーゲン スーパーマーケットで販売員をしている。半年前まで母と食料品店を営んでいたが、バーゲン スーパーマーケットが近くに開店したため倒産。引っ越してから、母は家政婦として働き、西山は近くに開店したバーゲン スーパーマーケットで働くようになった。そのため、あまりバーゲン スーパーマーケットによい感情を持っておらず、中馬亜子に見いだされてスパイとして活動する。 手法は会議室にお茶を運ぶ役になり、次回のおとり商品の話を聞いてくるというもの。だが、これは2回目でバレてしまい、3回目はニセ情報を掴まされてしまった。この後、バーゲン スーパーマーケットを退職、ケンの店に専念しようとした。 だが、婚約者でバーゲン スーパーマーケットの缶詰係の吉田が、腐らせた缶詰をケンの店に置いて食中毒を発生させる騒動が起きる。吉田から真実を聞きだしたものの事態は好転せず、やむなくケンの店を離れた。
場所
バーゲン スーパーマーケット
中馬健の叔父・中馬健二郎が、兄・健一郎の遺産を元手に始めた安売り専門のスーパーマーケット。儲けなしのおとり商品を日替わりで用意して人気の店。付近の客を根こそぎ引きつけて、商売敵になりそうな店を閉店に追い込むのが狙い。怒鳴り込んできた精肉店店主に「つぶれるように安く売ってる」と健二郎は断言している。 大阪と東京で展開しており、数店舗あるらしい。東京の支社は健二郎の弟妹が任されている。ただ、その儲けの多くは健二郎が吸い上げているらしい。同族会社として弟妹にも株を渡していたため、銭神に乗っ取られてしまう。
ケンの店 (けんのみせ)
井筒牛乳店で働き始めた中馬健が、牛乳配達を終えた後の空き時間を利用して始めた「頼まれ屋」を成長させて作った店。当初は、各家庭で余ったものを僅かな手数料で引き取り、必要な家庭に僅かな手数料で届けるというもの。競合していた牛乳店の配達員をスタッフに加え、養豚場の脇の小屋を借りて商売を不用品の買い取りと販売に転換。 ケンの店の看板を出して本格的にスタートした。その後、団地の反対側にある、夜逃げをした食料品店をそのまま借りて第2の店にする。軌道に乗ったかに見えたが、叔父・中馬健二郎のバーゲン スーパーマーケットが開店。熾烈な価格競争のため、はじめの店だけになってしまう。スパイの西山佳子により、おとり商品を前もって知り、対抗することで一時は立ち直った。 だが、ニセ情報を流されて、安売りで稼ぐはずが不良在庫を抱えることになり、さらにバーゲン スーパーマーケットに傷んだ缶詰を置かれて食中毒騒ぎとなり、倒産してしまう。
クレジット
- 原作
-
花登 筐