あらすじ
第1巻
外見も内面もとにかく地味な大学院生の朝比奈元子は、専攻しているドイツ文学の教授、榊郁夫に対して、特別な感情を抱いていた。40以上の年齢差という事もあり、一般にはそう理解されないであろう思いを胸に秘めていた元子は、ある日、榊の助手の田中蓮が、元子が榊に思いを寄せているという噂を流している事を知る。後日、その噂を知った榊から不快な思いをさせてすまないと謝られた元子は、話の流れから、うっかり榊に対する気持ちを打ち明けてしまう。思いがけない告白にとまどいつつも、榊はそれを恋ではないと一蹴。ただの勘違いだと断言し、元子を突き放すのだった。その翌日、榊が巣から落ちたヒナを保護した事に端を発し、元子は榊に対して素直な気持ちを言葉にする。そんな元子に対し榊は、「好意の種類とその分類について」の論文をドイツ語で提出する事を条件に、自分のもとで研究の手伝いをする事を許す。そして榊は、元子の論文から彼女が抱く気持ち、そして彼女自身が出した答えを理解しようと試みるのだった。
第2巻
朝比奈元子は、榊郁夫に向ける自分の好意が、いったい何なのかと悩んでいた。そんなある日、榊の元妻の朝霧翠がゼミの特別講師として姿を現す。まぶしいほどに美しく輝かしい朝霧の存在は、榊への思いを秘める元子の心に嫉妬という名の黒い影を落とすのだった。そんな中、学部生の合宿の手伝いをする事になった元子は、朝霧や田中蓮、富岡樹里らと共に、榊の助手として海での合宿に参加。だが元子は、自分の中の醜い気持ちに押し潰されそうになり、みんなといっしょの時間を楽しめずにいた。一人、魚釣りをしていた榊は、そんな元子に、彼女が抱える嫉妬心というものについて、厳しくも優しい言葉をかける。これにより元子は心を軽くするが、その瞬間、うっかり足を滑らせて海に転落してしまう。だが、元子の一番近くにいた榊はどうする事もできず、そんな様子に気づいた田中は、いっしょにいた樹里を置き去りにし、なりふりかまわず海へと飛び込むのだった。田中の様子を目の当たりにした榊は、同時に思い通りに身体を動かす事のできない自分の年齢を実感し、やりようのないジレンマを覚える。
第3巻
榊郁夫は朝比奈元子に、彼女の思いがただの師弟愛にほかならないと告げ、元子はすっかり落胆してしまう。元気のない様子の元子に気づいた田中蓮は、元子から事情を聞き、好意の種類についての論文が宿題になっていた事を初めて知る。明確な答えを出せずにいた元子に榊が投げかけた言葉に憤慨し、怒りをあらわにした田中は、課外授業と称して、傷心の元子を近場の遊園地へと無理矢理に連れ出すのだった。そして田中は、デートをしようと、困惑する元子と強引に手をつなぎ、遊園地中を連れ回す。しかし、いい雰囲気になりそうなところで閉演時間を迎えた二人は冷静になり、一旦大学へと戻るのだった。その途中、古本屋に立ち寄ったところで、田中は元子に自分と付き合ってみないかと提案する。元子が驚きを隠せずにいると偶然、そこに榊が現れる。三人は気まずい空気のまま、いっしょに食事に行く事になる。この状況に耐え切れず、元子は酒をあおってダウン。元子が眠ってしまったのを確認し、田中と榊は元子への思い、彼女とのかかわり方について思いをぶつけ合う。
第4巻
朝比奈元子が榊郁夫に向ける気持ちに気づいた朝霧翠は、元子を外に連れ出し、厳しい言葉を投げかける。ごまかしの利かない相手であると悟った元子は、榊との現状を話し、自分の好意がどんな種類のものなのか検証中であると明かすのだった。それに対し朝霧は、一方的に理想や願望を押し付ける「恋」と、相手を慈しみ大切にする「愛」との違いについて語り、自分は離婚した今でも榊に対する愛情を持っていると告げるのだった。朝霧の言葉、そして彼女の思いに傷ついた元子は、自分の中の心の闇に捕らわれていく。そして、榊と二人で話す時間を得た元子は、何もかもうまくやれない自分への苛立ちから、思わず朝霧への嫉妬を口にしてしまう。それを聞いた榊は、いつもは穏やかな表情を一変させ、冷たい目をして朝霧に理解を示す言葉を元子に投げかけ、話を途中で打ち切ってその場を立ち去る。事の一部始終を見ていた田中蓮は、取り残された元子を思わず抱き寄せ、自分と付き合ってみないかと再度ささやく。
第5巻
大学で発熱した榊郁夫は、朝比奈元子に介抱されながらなんとか自宅に戻った。そしてベッドに横になり、以前の元子の話の続きを聞く。そこで元子は、誰になんと言われようと自分の榊に対する気持ちは恋であると断言。そんな元子の言葉を聞いた榊は、彼女の思いを認め、自分も真摯に向き合う事を告げる。その後、元子は講義の合間を縫って、榊の翻訳の仕事を手伝う事となり、週末も助手の田中蓮に代わって榊の家を訪れるようになる。そして一通りの作業が終わり、アルバイト代に見合うリクエストをと問われた元子は、意を決して榊とデートがしたいと申し出る。その頃、富岡樹里は、留学の相談と称して田中を学校外へと呼び出し、改めて自分の気持ちを告白していた。好きな人がいなければ付き合ってほしいという樹里からの申し出に、田中は互いの立場上、大学にばれないようにする事を条件に、樹里の気持ちを受け入れる。こうして田中は、元子への気持ちを断ち切れない複雑な心の内を隠した状態で、樹里と深い関係になっていく。一方の樹里も、田中の気持ちを知ったうえで向き合う覚悟をしていたものの、どうしても互いのあいだに距離を感じずにはいられなかった。
第6巻
榊郁夫とのデート中、朝比奈元子は榊に、自分に対してもっと愚かになってほしいと迫る。元子からの思わぬ言葉に、榊は、自分がどうしたいか近いうちに必ず答えを出すから待っていてほしいと約束する。予想もしなかった展開に驚きつつも、心から待ちわびていた榊からの返事をもらえる喜びと不安で、元子は胸がいっぱいになっていた。だが翌日、榊の部屋を訪れた元子は、教師としての自分を捨てられない榊の出した、元子を突き放す答えを聞く事となる。いつもより異様に明るく、張り切りすぎな元子の異変に気づいた田中蓮が榊に話を聞くと、彼は過ちを犯さない「正しい道」を選んだと、自分の決断を告げる。そんな榊の言葉を聞いた田中は、その決断はただ自分が安全な方へ逃げただけのものだと静かに批難するのだった。一方で元子は、富岡樹里の、「自分が幸せを感じなければ誰とも幸せになれない」という言葉に感銘を受け、事態をきちんと終わらせるために改めて榊のもとを訪れ、最後のお願いをする決意をする。それは以前から見ていたあこがれの洋館の庭園で、二人でお茶をする事だった。
登場人物・キャラクター
朝比奈 元子 (あさひな もとこ)
K大学に通う大学院生の女性。ドイツ文学を専攻している。年齢は23歳。身長が高く、地味な外見で、いつも黒い服ばかり着ている事から、周囲の人からはドイツ語で黒を意味する「シュバルツ」と呼ばれている。人とのコミュニケーションが苦手なため、うつむき加減でいつもおどおどしている。周囲からの真っ黒い印象とは裏腹に、実は、かなりのかわいい物好き。 高校時代、友達から似合わないと言われた事がきっかけで、メルヘンチックでかわいらしい物が好きな事は誰にも秘密にしている。教授の榊郁夫に対して、以前からあこがれを超える恋心を抱いていたが、噂話をきっかけに、告白する形になった。しかし榊からは、その好意は恋ではないと否定され、突き放されてしまう。その後もあきらめる事なく、榊に対してひたむきな思いを示し続けていくうちに、次第に状況は変化していく。
榊 郁夫 (さかき いくお)
K大学の大学院でドイツ文学の教授を務めている男性。年齢は64歳。著書、訳書も多数あるドイツ文学のプロフェッショナルだが、いつも苦虫を潰したような不機嫌顔をしている事もあり、学生達からは恐れられている。朝霧翠と結婚していたが、感情の行き違いで離婚し、現在は一人暮らしをしている。朝比奈元子の事は、学ぶ姿勢について単純に好感を持っており、彼女の能力に対して高く評価している。 しかし、彼女から好意を持たれている事を知り、彼女の気持ちを恋ではないと否定。勘違いだと突き放した。だが彼女の自分に対するひたむきな思いに触れ、頑なに拒絶し続けていた気持ちが、次第にほだされていく。身長168センチ、体重57キロ。1月15日生まれのやぎ座で、血液型はA型。 注射針や縫い針など針と名の付くものはすべて苦手。趣味はウォーキングで、帰宅時には健康の事も考え、いつも2駅分歩くようにしている。
田中 蓮 (たなか れん)
K大学の大学院で、ドイツ文学の教授、榊郁夫の助手を務めている男性。年齢は34歳。榊の研究室に自分の机を持ち込み、居場所を作っているほど彼の事を慕っている。軽いノリと明るさから、女子生徒から特に人気がある。当初は、朝比奈元子が榊に思いを寄せているらしいという噂を流し、何かと元子の図星を突いて彼女を動揺させていた。 実は元子に思いを寄せており、のちに元子に対して自分と付き合わないかと何度も迫るようになる。この行動には、叶わぬ恋をしている元子を救ってやりたいという気持ちも含まれている。身長179センチ、体重69キロ。3月7日生まれのうお座で、血液型はO型。
富岡 樹里 (とみおか じゅり)
K大学に通う大学院生の女性。ドイツ文学を専攻している。年齢は23歳。華やかでかわいらしい外見と、明るく誰でも優しい性格で、友達が多い。朝比奈元子も、たくさんいる友達の中の一人ではあるが、密かな思いを寄せている田中蓮が、元子にばかりかまうため、つい元子に素っ気なくあたってしまう。その後、田中の思いが元子に向いている事が明らかになり、元子との友人関係が破綻しかける。 田中に対しては、めげる事なく何度も告白しては断られる事を繰り返していたが、のちに付き合う事になる。
朝霧 翠 (あさぎり みどり)
ドイツ舞踊の研究者にして作家の女性。年齢は59歳。ドイツで暮らしていたが、K大学の大学院で臨時の教員を務める事になり、帰国した。実は榊郁夫の元妻。子供がほしいのになかなか思うようにいかず、気持ちの行き違いがあり、離婚に至った。しかし今でも同志として榊に愛情を抱いており、将来的にはドイツでいっしょに暮らし、静かな時間を過ごしたいと考えている。 陽気でパワフルな、実年齢よりもかなり若く見えるいわゆる美魔女で、首にしわがないのが自慢。身長154センチ、体重45キロ。8月12日生まれの獅子座で、血液型はB型。