世界観
不倫が題材。家庭第一、二度と恋愛をすることはないと思っていた主婦が、夫の差し金がきっかけで若い男性と恋に落ちる姿を描く。不倫をテーマにしつつも、不倫がもとで家庭崩壊したキャラクターを友人に配置し、その罪の重さを克明に描いているのが作品の特徴。主人公の高い倫理観も手伝い、精神的なつながりに重きを置いた新しい純愛ラブストーリーとなっている。
作品誕生のいきさつ
小田ゆうあは、巻末のおまけ漫画『まんが家であり○○であり』で、本作『ふれなばおちん』誕生のいきさつを語っている。それまで手掛けていた『斉藤さん』の連載終了後、次回は恋愛をテーマにした作品を描きたいと思ったが、リアリティある描写をするには自分と同年代の主人公がいいのではないかと考えたこと。そうすると不倫という題材が浮かぶが、キャラクターが安易な肉体関係に走るものではなく、あくまで一線を越えずにお互いを想い合う作品にしたいと考えたことなど、本作の根幹をなすプロットが決定した経緯が語られている。
あらすじ
上条夏は、夫と2人の子供を何よりも大切に思う普通の主婦。家族からだらしない容姿を非難されることはあるが、幸せに暮らしていた。しかし色気のない夏を残念に思っていた夫の上条義行は、ある日派遣社員の佐伯龍に「妻を誘惑して欲しい」と頼み込む。冗談半分の義行の一言から、夏と龍は道ならぬ恋に落ちていってしまう。
劇中劇
花づくしの宿
佐伯龍が出演した昼ドラマ。龍が上条夏たちの社宅に引っ越してきた頃に再放送が始まり、夏も偶然鑑賞していた。龍は「青柳」という情にもろいやくざ役で出演しており、出演当時はあまり意欲的に演じてはいなかった。しかし夏の熱心な感想を聞かされ、反省すると共に彼女により強く関心を持つようになる。
震えて眠れ
劇団「東漢」の第20回公演作品。上条夏が初めて観劇した「東漢」の作品でもある。佐伯龍は「東漢」の「1舞台につき1名は学ランを着る」という慣習にならって登場する。学生時代を思い出して鏡の前で長時間泣くという、難しい役どころを演じた。シュールな内容から上条優美香には難しい作品だったが、夏の心には強い印象を残した。
酔客綺憚
劇団「東漢」の第21回公演作品。佐伯龍は「ナオミ」というバーの店長役を担当し、女装しておかまキャラクターを演じた。稽古中、龍は役作りのため女性の気持ちを理解することを決意。若林みどりからはメイク道具、上条優美香からはメイク教本を借りて、自らの手でメイクを学んだ。本番では台本にないある台詞をアドリブで演じ、そのシーンは業界でも評判になった。
メディアミックス
作家情報
小田ゆうあは、主に女性誌で活躍中の漫画家。1983年『君を夏へつれもどす』が「週刊セブンティーン増刊」に掲載されデビュー。他の作品に『斉藤さん』『喫茶anger』などがある。誕生日は11月25日で、出身地は東京都。
登場人物・キャラクター
上条 夏 (かみじょう なつ)
「スーパー波平」でパートタイマーとして働く2児の母親。太めの体型と、肩につかない長さのぼさぼさのボブヘア、通称「ほうき頭」が特徴。大らかで優しい性格の、誰からも好かれる人物だが、容姿にまるで気を遣わないのが玉に瑕。家族を何よりも大切に思い、家族に尽くす日々を送っていたが、佐伯龍に出会ったことで人生が一変。誰にも言えない恋に溺れていく。 龍とは趣味や感性が非常に合い、舞台や映画が好きという共通点から意気投合する。龍と親しくなって以来次第に美しくなり、周囲を驚かせる。龍のことを深く想いつつも常に家族を優先し、家族を悲しませるようなことは絶対にしないと決めている。料理など、家事全般が得意。8月生まれなことから「夏」と名付けられた。
佐伯 龍 (さえき りゅう)
上条夏の恋人。上条義行の会社に、中途入社してきた32歳の男性。前髪を左寄りの位置で9対1で分け、左眉に入った大きな傷跡が特徴。派遣社員SEとして働く傍ら劇団「東漢」に所属しており、看板俳優として活躍している。「女性には優しく」が信条で、異性に非常にもて、扱いにも長けている。そのため義行の「妻を誘惑して欲しい」との言葉を受け、遊びのつもりで夏に近づく。 しかしその過程で夏の温かな人柄に触れ、本気で恋するようになる。夏を心から尊敬しており、彼女の魅力に無頓着な義行から奪いたいと考えている。子供の頃から演劇が好きで、大学時代偶然抜擢されたことから役者になった。
上条 義行 (かみじょう よしゆき)
上条夏の夫。勤め先では営業3課の課長を務めている。眉上で切った短い前髪の短髪に、眼鏡と無精ひげが特徴。のんびりとした性格で女性の機微にも疎いが、穏やかで周囲に愛される人物。しかし色気のない夏を見かねて、佐伯龍に「妻を誘惑して欲しい」と冗談半分で持ち掛けてしまう。それ以降親しげな様子の2人を不審に思いつつ、決定的な証拠のつかめないまま暮らすようになる。
上条 優美香 (かみじょう ゆみか)
上条夏と上条義行の娘。中学3年生で、難関校である北高を目指している。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、胸のあたりまで伸ばしたストレートロングヘアをしている。気が強く負けず嫌いだがやや打たれ弱いところがあり、辛いことがあると人一倍深く傷ついてしまう。幼なじみの小牧良とは仲が良く、良の母親が失踪して以来、彼を気遣ってよく家に招くようになる。 容姿がだらしないという理由で夏を煙たがっていたが、夏が次第に美しくなっていくのを機に素直になり、関係が改善されていく。
上条 真樹夫 (かみじょう まきお)
上条夏と上条義行の息子。南沢小学校に通う5年生。ぽっちゃりとした体が特徴の、素直で心優しい性格の少年。夏のことも大好きで、彼女の料理を無制限に食べるあまり現在の体型になってしまった。夏と佐伯龍の関係には一切気づいておらず、龍にも無邪気に接する。
若林 みどり (わかばやし みどり)
上条義行の部下の、26歳の女性。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、胸のあたりまで伸ばした髪を巻いている。派手な雰囲気の自他共に認める「肉食系」だが、職場では評価も高く良識ある人物。派遣社員としてやってきた佐伯龍を気に入り、上条夏たちの住む社宅に住めるよう口利きする。その後、夏と龍の関係に気づき、義行には内緒にしたまま、陰ながら応援するようになる。 母親を早くに亡くしており、現在の母親は継母。
小牧 (こまき)
上条夏と同じ社宅の5号棟に住む主婦。前髪を真ん中で分けて額を見せ、胸のあたりまで伸ばしたロングウェーブヘアをしている。口元のほくろが特徴。アルバイト先の店長と不倫関係になり、夫と息子の小牧良を置いて失踪してしまう。夏とは子供同士が親しいことから比較的仲が良く、密かに電話で連絡を取り合う関係になる。家族を案じつつ、家に戻る意思はない様子で、今の生活に充実感を感じている。 一方で不倫は重い罪と捉えており、自分と近い境遇の夏に親身にアドバイスをする。
小牧 良 (こまき りょう)
上条優美香の幼なじみ。優美香と同じ中学校に通う3年生の男子生徒。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、襟足のあたりまで髪を伸ばしている。辛抱強く穏やかな性格で、上条夏にも非常に好意的。しかし自分を捨てた母親のことは憎んでおり、深く傷ついている。優美香とは母親の失踪から一層親しくなり、上条家にもよく食事をしに訪れるようになる。 その際に佐伯龍が夏に近づいていることを知り、密かに龍を監視するようになる。
大塚 シゲル (おおつか しげる)
佐伯龍と共に劇団「東漢」に所属する男性。劇団では演出家を務めている。眉上で短く切った前髪にストレートヘアを肩まで伸ばし、太めのがっちりとした体形が特徴。真面目で義理堅い性格で、龍も太鼓判を押す誠実な人柄の持ち主。「東漢」に出入りするようになった若林みどりに関心を持ち、想いを寄せるようになる。かつてはレスリングをしていたため、非常に力が強い。
信田 桐次 (しのだ とうじ)
テレビ局JTVでプロデューサーを務めていた男性。前髪を真ん中で分けて額を見せ、ウェーブがかった髪を肩まで伸ばしている。眼鏡と口ひげが特徴。以前佐伯龍が出演した「花づくしの宿」も担当していたが、当時は龍と喧嘩ばかりしていた。現在はJTVを退職し、沖縄県で新劇団を立ち上げる計画を立てており、龍を誘いにやってくる。 人の心を見透かし、ずばずばとものを言う性格のため龍とは言い争いが絶えないが、龍を高く評価している。
江見 (えみ)
テレビ局JTVでAPを担当していた若い女性。前髪を目の高さで切り、肩につかない長さのマッシュルームヘアをしている。以前佐伯龍が出演した「花づくしの宿」にもADとして参加しており、一度龍と関係を持ったこともある。信田桐次が龍を新劇団に誘う際に同行し、龍と再会する。現在は俳優の男性と結婚が決まっており、沖縄県には一緒に行く予定。
伊丹 (いたみ)
「スーパー波平」でマネージャーを務める男性。前髪を眉上で短く切り、ふんわりとした髪を肩のあたりまで伸ばしてはねさせている。こけた頬が特徴。他人を見下した態度の意地悪な性格で、特に上条夏たちパートタイマーたちには冷たい。従業員を名前で呼ばず「おばちゃん」呼ばわりするなどの行動から周囲の評判は芳しくなく、職場では苗字の「伊丹」をもじって「イヤミ」と呼ばれている。 ある日自分の意見に反論した夏を逆恨みして、執拗な嫌がらせをするようになる。
小牧の恋人 (こまきのこいびと)
小牧と共に失踪した、28歳の男性。髪を立てて額を全開にしている。小牧とは勤め先が同じで、店長として接していたが小牧に恋をし、自分から告白した。以前の小牧のことは普通の主婦だと捉えていたが、自分と恋愛してからは急激に美しくなった彼女に驚く。
長谷部 淳 (はせべ じゅん)
劇団「東漢」に所属する男性。劇団では監督・脚本を担当している。前髪を上げて額を全開にし、胸のあたりまで伸ばしたウェーブヘアを低い位置でひとつに結んでいる。丸眼鏡と、顎ひげ、口ひげが特徴。大塚シゲルと共に佐伯龍に呼び出され、新規劇団立ち上げ計画を知らされる。当初は乗り気でなく、龍が一人で沖縄県へ行けばいいという考えだったが、次第に考えを改めるようになる。
桜子 (さくらこ)
千駄ヶ谷にある若林みどりの行きつけのゲイバー「まいみー」のママ。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、肩につかない長さのボブヘアをしている。職業柄、人の気持ちに敏感で、上条夏が悩んでいることを瞬時に見抜く。夏のことは「こぶたちゃん」と呼ぶ。
集団・組織
東漢 (あずまおとこ)
佐伯龍が所属している劇団のこと。20年以上の歴史ある劇団で、たまに業界紙にも取り上げられる、知る人ぞ知る存在。前衛的な作品が主体なため評価にはむらがあるが、熱心なファンも多く信田桐次も高く評価している。団員は男性のみで、女性キャラクターは男性団員が女装して演じる。