開演のベルでおやすみ

開演のベルでおやすみ

「自分」以外の誰かになりきることでつらい現実から逃れていた高校生の吉井すばるが、同級生の御影千理に誘われて演劇の世界へと足を踏み入れる。演劇をする過程で、知らなかった自分を発見していくすばるの姿を描いた高校演劇ストーリー。「少年ジャンプ+」2018年42号から2019年52号にかけて配信された作品。

正式名称
開演のベルでおやすみ
ふりがな
かいえんのべるでおやすみ
作者
ジャンル
演劇
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あらすじ

開演のベル

蒼星高校に転校してきた吉井すばるは、人前でうまく話をすることができず、会話で失敗するたびに心の中で自分をグズと罵る日々を送っていた。転校してきた初日の自己紹介に失敗して自己嫌悪に陥る中、すばるはいつものように誰もいない教室でなりたい自分を演じていた。しかし、演劇部に所属するクラスメートの御影千理は、別人になりきったすばるの姿をスマホで動画撮影していた。この動画を秘密にすることを条件に取り引きを持ち掛けられ、千理に演劇部へと連れていかれたすばるは、演劇部の文化祭の演目「オズの監獄」で空きが出たキャストの代役になるように依頼される。突然の申し出に困惑しきりのすばるだったが、結局引き受けることになってしまう。その後、台本の読み合わせをするものの、素人のすばるには拙い演技しかできなかった。帰宅後、自分が演じる「降木優」こと「ブリキ」という心がない人物を再考したすばるは、翌日の台本読みで見違えるような演技を見せ、演劇部のメンバーを驚かせる。その後、文化祭でも多くの生徒たちを驚愕させた迫真の演技を見せたすばるは演劇の世界に魅入られ、演劇部に入部を決意。入部後、体力づくりに悪戦苦闘していたすばるは、演劇の勉強のために千理といっしょに桜葉学院の文化祭を訪れ、演劇部の余興を見ようと部室へと足を運ぶ。そこで千理に嵌められ、ほかの挑戦者といっしょにみんなの前で「犬」を表現することになったすばるは、犬そのものを演じるほかの挑戦者を尻目に、飼い主を演じて犬を表現しきる。その演技のセンスに桜葉学院の演劇部員は感心し、特に1年生の少女の天音未智はすばるに大きな関心を寄せる。その後、桜葉学院演劇部の演劇を見たすばるは、未智の格の違う演技に触発され、高校演劇の日本一を決める全国大会で最優秀賞を取る決意を新たにする。

関東大会

高校演劇界の日本一を決める全国大会の県予選が始まった。蒼星高校演劇部の演目「オズの監獄」のキャストとして参加した吉井すばるは、持ち前のセンスが光る演技で「降木優」こと「ブリキ」を演じきり、関係者の注目を集める。しかし、寅野直輔のミスがきっかけとなり、キャストとしての自分から現実の自分に引き戻されてしまったすばるは、演目中であるにもかかわらずパニックに陥ってしまう。すべてが失敗に終わろうとしていた窮地の中、すばるは御影千理の的確なアドバイスで立ち直り、再びみごとな演技を見せる。無事に演目を終えた蒼星高校演劇部は優秀賞に選ばれ、関東大会への出場権を獲得するのだった。しかし、関東大会まであと6週間という時期になって、このままでは全国大会への出場は無理だと判断した千理の提案により、すばるが演じる「ブリキ」と、藤倉咲瑠が演じる「ドロシー」の配役をチェンジすることになった。残り時間が少ない中での配役変更に部員は困惑し、特に咲瑠が頑強に拒否したため、ひとまず3週間だけ配役をチェンジした状態で合宿することになった。すばるはとまどいながらも自分なりのドロシーを分析し、演じることに没頭する。しかし、咲瑠をはじめとする部員から「周りの部員を見ていない」という鋭い指摘を受け、すばるは共演者とコミュニケーションを取るという新たな課題に直面するのだった。

そして春へ

蒼星高校の演劇部が合宿を行っていた合宿所で、あとからやって来た白澄高校の演劇部も合流することになった。白澄高校の演劇部は劇団「ハヤミカゲ」を主宰する演出家で、御影千理の父親の御影隼人が外部コーチを務めていた。彼が演出する舞台はすべてが調和して美しく、練習を見学することになった吉井すばるたちは圧倒される。そして、練習中に隼人に呼ばれた千理は彼の要求に応え、役者として完璧な演技を披露するのだった。その過程で千理が劇団「ハヤミカゲ」に所属する劇団員であることを知ってしまった蒼星高校の演劇部員のあいだには動揺が走り、その後の練習にも身が入らなくなってしまう。特にすばるは、千理がずっと自らの立場を隠して演出家をしていたことを裏切りと感じて取り乱し、強い言葉で千理を責め立ててしまう。その言葉を受け、一瞬だけ激しい感情を見せた千理は、決してお遊びで演劇に取り組んでいるわけでないとすばるを諭す。その後、部員たちとのミーティングで千理は、全国大会に出場したうえで優勝すればこれからは隼人の束縛を受けないという条件付きで、蒼星高校の演劇部に所属していることを告白。部員たちの可能性を信じ、演者としてではなく、演出家として演劇部を全国の舞台に立たせたいと宣言する。その言葉を受け入れたすばるたちは千理、そして自分たちの力を信じ、関東大会に全力で挑むことをあらためて決意するのだった。そして関東大会当日。苗村女子高校や白澄高校の高いレベルの演技を見て意気消沈していたすばるたちは、桜葉学院演劇部の天音未智の天真爛漫な演技を見て、演技をする喜びを思い出し、本番へと挑むことになる。そして本番中にすばるが生み出した底知れない世界観に影響を受けた部員一同は、チームとしての本領を発揮し、自分たちも納得できるベストの演技を観衆の前で披露するのだった。

登場人物・キャラクター

吉井 すばる (よしい すばる)

蒼星高校1年2組に転校してきた男子。黒髪のごくふつうの少年で、昔から人と接するのを大の苦手にしており、クラスメートとの何げない会話であっても円滑に進めることができない。そのことに強い劣等感と忸怩(じくじ)たる思いを抱いており、コミュニケーションに失敗するたびに、心の中で自分のことをグズと罵っている。誰もいない場所で他人になりきることでその苦しみを発散し、ダメな自分から逃れることを繰り返していた。そんなある日、その姿をクラスメートの御影千理に動画撮影されてしまい、彼に誘われるまま演劇部に入部することになった。これまでの人生で多くの妄想をしてきたため、自分にだけ見えるディテールの細かい架空の世界を構築することを得意としている。そのため、一度役に入り込めば、他者とは一線を画したリアルな演技をする才能を持つ。演劇とは無縁の生活を送ってきたため、まだ粗削りながら、その演技の素質は天音未智をはじめ、多くの才能ある演者をも魅了していた。千理が手掛ける演劇「オズの監獄」では「降木優」こと「ブリキ」を演じていたが、関東大会では配役替えによって「泥島絆」こと「ドロシー」を演じることになった。

御影 千理 (みかげ せんり)

蒼星高校の1年2組に在籍する男子。サラサラの髪で端正な顔立ちをしているうえ、明るく礼儀正しい性格から校内の人気者で、成績も優秀。爽やかで上品な立ち居振る舞いのため、ほかの生徒からは「王子」のあだ名で呼ばれている。演劇部に所属しており、演出や照明を担当し、自らが中心となって演劇を作っている。転校してきたばかりの吉井すばるが他人に成りきっている姿を目撃し、すばるの姿を動画撮影して演劇部へと勧誘した。演出家としては高校レベルを遙かに超越した実力の持ち主で、実績のない蒼星高校演劇部を関東大会へと導いた。高名な演出家である御影隼人の息子で、隼人が主宰する劇団「ハヤミカゲ」の団員でもある。役者を自分が作る演劇の駒としてしか扱わない隼人に反発し、全国大会へ出場して優勝すれば隼人は御影千理のこれからの人生に干渉しないが、失敗すれば千理は隼人の手の内で劇団員として過ごすという条件付きで蒼星高校へと入学し、演出家として腕を振るっていた。演者の自主性を認めない隼人とは違い、役者それぞれの自主性を重んじており、すばるやほかの部員の才能を信じている。いつも爽やかで飄飄(ひょうひょう)としており、感情を見せることは滅多にない。すばるに対しては毒舌まじりの軽口を無自覚に叩くこともある。

天音 未智 (あまね みち)

桜葉学院高校に通う1年生の女子。眼鏡を掛けて髪を三つ編みにしている。好奇心が旺盛で、興味のあることにはやたらと食いつきがいいが、興味がないとすぐにやる気をなくしてしまう気分屋。演劇部に所属しており、高校演劇のレベルを遙かに超えた演劇の才能を誇る。強いエネルギーを込めた偽りのない感情表現が持ち味で、舞台上では内に秘めた情熱を全身を使って演じている。その演技は見た者の魂を激しくゆさぶり、自分も演劇をしてみたいと思わせてしまうほどに、心を駆り立てる。桜葉学院の文化祭にやって来た吉井すばるの演技に強い興味を抱き、それ以来彼の動向に注目していた。演劇のことになると我を忘れ、誰の許可も得ずに一人で蒼星高校の演劇部まで出向いたこともある。

御影 隼人 (みかげ はやと)

劇団「ハヤミカゲ」を主宰している高名な演出家の男性で、御影千理の父親。演出家としての手腕は確かで、美しく精緻(せいち)な世界観の舞台を作り上げられることに定評がある。しかし、役者の自主性をいっさい無視しており、まるで手駒のように扱う。そのため、御影隼人自身が手掛ける舞台の役者にアドバイスした千理に対し、尋常ではない怒り方で千理を叱責した。千理のことも、自らが手掛ける舞台の完成度を高めるための駒としてしか見ていないところがあり、いつしか役者の自主性を重んじる千理と対立するようになる。千理が無名の高校演劇部を全国大会へ導き優勝すればその後は干渉しないが、失敗した場合はこれまでと同じように自分に従い続けるという条件をつきつけ、千理が蒼星高校へと入学することを許可した。

藤倉 咲瑠 (しらせ さき)

蒼星高校の1年4組に在籍する女子で、スタイル抜群の美少女。頼りがいのある性格で、いつも強気ではっきりした物言いをする。演劇部に所属しており、御影千理が手掛ける「オズの監獄」では主役級の「泥島絆」こと「ドロシー」を演じている。部員からは「サキ」と呼ばれている。関東大会を前にして吉井すばると配役をチェンジするように言われ、一旦はそれを拒絶するものの、すばるの演者としての深みがドロシー役にふさわしいと感じたため、配役の変更を受け入れた。自信満々な態度の裏で、日々の努力を重ねている努力家でもある。

寅野 直輔 (とらの なおすけ)

蒼星高校の1年6組に在籍する男子。マッシュルームヘアにしており、明るい性格のお調子者で、目立つことが何より大好き。関東出身ながら「(母親が関西人なので)遺伝子レベルでは関西人」と言い張り、つねに関西弁でしゃべる。演劇部に所属しており、御影千理が手掛ける「オズの監獄」では「赤樫智」こと「カカシ」を演じている。部員からは「とらのすけ」と呼ばれている。演技の実力はイマイチだが、新しく入部した吉井すばるを親身になってサポートするなど、演劇部のムードメーカー的な存在。好きだった女子にまったく認識されないままふられてしまった過去があり、それ以来、他人より目立つことを身上としている。

川原 光梨 (かわはら ひかる)

苗村女子高校に通う高校2年生の女子。金髪のヤンキーチックな服装を身につけており、口が悪くて喧嘩っ早く、ついついよけいなことを口走ってしまうトラブルメーカー。演劇部に所属しており、部長を務めている。吉井すばるの蒼星高校をライバル視し、関東大会に出場を果たした蒼星高校演劇部のメンバーに直接会いに行ったうえで、無駄に挑発を繰り返した。高校演劇は競技であるという認識を持っている。荒っぽい言動や見た目とは裏腹に演技力は確かなものがあり、高校演劇界では有数の実力者として知られている。見る者に演劇が大好きなことが伝わってくる素直な演技が持ち味。

矢島 葵 (やじま あおい)

蒼星高校の2年1組に在籍する女子。ショートボブの髪型が特徴。察しがよく、受け答えにスキのないしっかり者で、2年連続で学級委員に選出されている。演劇部に所属しており、部長を務めている。演者としても実力が高く、御影千理が手掛ける「オズの監獄」では「尾図正子」こと「オズ」を演じている。吉井すばるが演劇部へ入部した当初は、すばるが千理によって無理やり入部させられたのではないかと疑っていた。さまざまな面で自由奔放に振る舞う演劇部のメンバーのブレーキ役を担っている。

上井 翔也 (うえい しょうや)

蒼星高校の2年1組に在籍する男子。チャラい雰囲気を漂わせているが、明るくて気配りができる性格の持ち主。演劇部に所属しており、衣装や役者を担当するほか、御影千理が手掛ける「オズの監獄」では「剛野頼音」こと「ライオン」を演じている。後輩からはチャラチャラした見た目と名前をもじって「ウェイ先輩」と呼ばれている。演劇部のメンバーの様子につねに気を配っており、新たに入部した吉井すばるのこともよく面倒を見ている。見た目としゃべり方が軽い印象を与えるためか、部内では後輩からも割と雑に扱われている。

梶 比奈子 (かじ ひなこ)

蒼星高校の2年2組に在籍する女子。後ろ髪をポニーテールにまとめている。淡々とした言動の中に時おり毒を折り混ぜる、クールで職人気質な性格の持ち主。演劇部に所属しており、脚本や装置、舞台監督から役者まで幅広い活動するほか、御影千理が手掛ける「オズの監獄」では「水戸都」こと「トト」を演じている。幼なじみの代田竜二には心を許している。

長井 開征 (ながい かいせい)

桜葉学院高校に通う高校2年生の男子。短髪で爽やかな印象を与える。演劇部の部長で、演出を担当している。チームワークを重視する有能なリーダーだが、部室からたびたび姿を消してしまう自由奔放な部員の天音未智には日頃から手を焼いており、未智がトラブルを起こすたびに厳しく叱りつけている。その厳しくも愛情深い姿勢が未智から信頼されている。

梶山 静花 (かじやま しずか)

苗村女子高校に通う高校1年生の女子。ポニーテールの髪型が特徴。クールな雰囲気を漂わせる才女で、落ち着いた話し方をする。演劇部に所属しており、役者と演出を担当している。川原光梨とは小学校時代からの親友で、厳しい家庭のしつけや学校でのいじめなどが重なってくじけそうになっていた時期を、光梨に支えてもらっていた過去を持つ。光梨のことを誰よりも尊敬しており、彼女といっしょに演劇をするため、自分の成績に見合った進学校ではなくあえて苗村女子高校へと進学した。何かと暴走しがちな光梨のブレーキ役を務めていた。

白石 環 (しらいし たまき)

蒼星高校に通う高校2年生の女子。ほんわかとした雰囲気を漂わせている。おっとりした性格ながら、生徒からの人望は厚い。放送部に所属しているが、演劇部が大会時期に入ると毎回助っ人として、音響を担当している。部員からは「しらたま」と呼ばれている。

安丸 太造 (やすまる たいぞう)

蒼星高校で英語教師を務める中年男性。短髪で不精髭を生やしており、年齢は38歳。面倒くさがり屋で、ぶっきらぼうな言動が目立つ。演劇部の顧問を務めているが、演劇に興味があるわけではないため、技術的なことは何もわからない。そのため、演劇部の活動に関してはもっぱら御影千理と矢島葵に一任している。部活動にはさほど熱心ではないが、合宿時に部員のために自家用車で送り迎えをするなど生徒思いな一面があり、部員からは非常に慕われている。

代田 竜二 (だいだ りゅうじ)

蒼星高校に通う高校2年生の男子。長身で不良っぽい格好をしている。いつも気だるそうにしており、少々口が悪い。梶比奈子の幼なじみで、比奈子に思いを寄せているが、比奈子の前だと素直になれず、彼女の演じる役を「ペットの犬」などとついつい憎まれ口を叩いてしまう。一方の比奈子は代田竜二の本心を知っているため、自分のことをつねに気にかけてくれている竜二に感謝している。演劇部の出し物には開始前から並んで席を取るなど、熱心に観劇している。

その他キーワード

オズの監獄 (おずのかんごく)

蒼星高校の演劇部が演目としている創作劇。原案は梶比奈子が担当し、構成や演出、脚本は御影千理が手掛けている。「青少年の自立」を建前に洗脳や虐待が横行している合宿施設「オズ」に自ら入所した「泥島絆」こと「ドロシー」と、彼女を取りまく人々の人間模様を描いた作品。吉井すばるは、キャストの都合によって空きが出てしまった「降木優」こと「ブリキ」の代役として選ばれた。

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