あらすじ
第1巻
揚羽高校に通う2年生の成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹の四人は、それぞれが過去の出来事が原因で、心の奥に誰にも言えない思いを抱えていた。本音を殻に閉じ込めた彼らは、心の傷や葛藤の原因となった過去の自分自身と、今も戦い続けている。素直になる事で人とぶつかる事を面倒と感じ、本音を言う事から逃げている拓実。中学時代に付き合った彼氏とうまくいかず、自然消滅したまま、彼への気持ちに捕らわれている菜月。野球部のエースとして一人でチームのすべてを背負っていたが、大事な時に肘を故障し、そのせいでチームをダメにしてしまったという自責の念に捕らわれている大樹。そして順は、幼い頃の自分のおしゃべりが原因で、両親が離婚。家族を壊した事を両親から叱責され、それ以来言葉を発する事ができなくなってしまっていた。そんな過去を持つ彼らは、高校2年に進級したところでクラスメイトとなった。そして四人は、ひょんな事からクラスで参加する地域ふれあい交流会の実行委員に任命される事になる。
第2巻
地域ふれあい交流会の実行委員に任命される事になった成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹の四人は、突然の事にうろたえ、それぞれが最大限の反発を見せる。中でも拓実と順は、何としても実行委員を辞退しようと奔走するが、その甲斐もなく結局引き受ける羽目になってしまう。優等生の菜月はやらざるを得ないとあきらめムードだったが、それでもなお、大樹だけは実行委員に反発し続け、イライラを募らせていく。そんな中、音楽教師にして学級担任の城嶋が、地域ふれあい交流会の演目をミュージカルにしてはどうかと提案する。だが、未だ実行委員として行動を共にしようとしない大樹が大きな悪態をつき、言葉を発さない順の存在を引き合いに出して、ミュージカルを全力で否定。そんな彼の態度に拓実は怒りを爆発させ、大樹への日頃の不満を口にし、一触即発の事態となってしまう。クラス内の異様な様子に慌てた順は、自分は話せなくても歌を歌う事ならできると、音に乗せて、かつてないほど大きな声を出して歌ってみせる。
第3巻
成瀬順の思いがけない行動を目の当たりにし、自分自身を見つめ直した田崎大樹は、今までの言動を悔い改めて順に謝罪。こうして地域ふれあい交流会の実行委員会は一致団結し、大きな一歩を踏み出す。それでもなお、クラスメイト達はミュージカルという出し物に消極的な姿勢を見せ続けていたが、そんな雰囲気を「どうせやるなら派手な方がいい」と楽し気に放ったようこの一言が一変させる。それに乗じて江田はダンスの振付を、岩木と相沢は曲を担当すると、それぞれが自分の得意分野でのフォローを申し出た事で、クラスメイト達のあいだに、できる範囲でミュージカルを作り上げてみようという意識が芽生えるのだった。こうして順を主役とし、実行委員が配役の中心を担う形でミュージカルの制作が始まった。順が、自分の思いを伝えるために脚本を書き、同時に作詞も担当。一致団結した実行委員により、バラバラだったクラスメイト達も、協力する姿勢を見せ始める。
作業は順調に進み、本番を翌日に控えた日。最後のリハーサルを終えたあと、片づけと帰り支度に忙しく走り回っていた順は、偶然に坂上拓実と仁藤菜月が言い合っている現場に遭遇する。
第4巻
地域ふれあい交流会の本番当日。主役はできないというメッセージを残し、成瀬順が突然姿を消した。クラス全員で校内を探しても順は見つからず、突然の事にクラス中が騒然となる中、順が姿をくらました理由が、昨夜の坂上拓実と仁藤菜月の話を聞いた事によるものだった事が判明する。それを知ったクラスメイト達は、自分本位な理由に、順の責任感のなさを口々に罵り始めるが、順を思いやる田崎大樹の一言が、拓実を奮い立たせる。順の代役を菜月に、拓実の代役を岩木に託し、拓実は順を探しに校外へと自転車を走らせる。順が見つからないまま、ついにミュージカルの本番が開始となった。そんな中、拓実は頭をフル回転させ、順が行きそうな場所を考えていた。そして拓実は、彼女にとってすべての元凶となった「山の上のお城」の存在を思い出す。順を本番のラストに間に合わせ、舞台で思いの丈を放出させてあげたいと、順の努力に報いたい一心で、拓実はただ山の上に向かって自転車でひた走る。
関連作品
本作『心が叫びたがってるんだ。』の原作となった劇場版アニメが2015年9月19日に公開された。劇場版アニメの脚本を超平和バスターズが手掛けるなど、TVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフが再集結して制作されたアニメという事で話題を呼んだ。その後、中島健人主演で実写映画化され、2017年7月22日に公開された。
登場人物・キャラクター
成瀬 順 (なるせ じゅん)
揚羽高校に通う2年生の女子。口から言葉を発しようとすると、激しい腹痛に襲われるため、しゃべる事ができない。小学生の頃までは、人一倍おしゃべりが大好きで、夢見がちな女の子だった。しかしある時、山の上のお城(ラブホテル)から父親と見知らぬ女性が出て来た姿を目にし、城の舞踏会帰りの王子様とお姫様だと勘違い。それをお母さんに話した事が原因で、父親の不貞行為が発覚して両親が離婚するに至った。 その際、母親からは、「もう二度としゃべってはいけない」と言われ、父親からは「全部お前のせいだ」と、その責任がすべて彼女にあるかのように言われた結果、順は心に玉子を作り出した。すべての元凶となったおしゃべりを封印し、自ら言葉を発せなくする呪いをかけた事で、それ以降はいっさいしゃべれなくなってしまう。 そのため、校内でも家の近所でも、しゃべらない子という事実が広まり、「変な子」というレッテルを貼られている。ある日、地域ふれあい交流会の実行委員に任命され、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹と共に活動する事になる。その演目にミュージカルが提案された際、拓実の言葉に勇気をもらい、歌う事でなら言葉を発しても腹痛にならない事が判明。 ミュージカル制作では脚本や作詞を担当し、意欲的に取り組む事となる。拓実を心の中で王子様と考え、思いを寄せている。
坂上 拓実 (さかがみ たくみ)
揚羽高校に通う2年生の男子。ピアノが好きだが、口下手で本音を言う事ができない。中学時代、ずっとかわいいと思っていた仁藤菜月からバレンタインデーに告白された事がきっかけで、付き合う事になったが、周囲からの冷やかしが原因でうまくいかず、そのまま自然消滅した。同時期に高校受験を目前にしても、ピアノにしか興味を持てなかった事で、両親の教育方針の違いが浮き彫りとなり、両親が離婚。 そのごたごたと、菜月との事が重なったため、自分の気持ちを言葉にして伝える事が面倒になり、本音を出さないようになっていった。それ以降、祖父母のもとで暮らす事になり、穏やかな毎日を過ごしているが、両親の離婚以来ピアノを弾く事をやめた。ある日、地域ふれあい交流会の実行委員に任命され、成瀬順、仁藤菜月、田崎大樹と共に活動する事になる。 演目にミュージカルが提案される事となり、もともと好きだったピアノへの情熱が再燃。既存のミュージカルナンバーに順の歌詞を乗せて曲を作る作業を岩木、相沢と共に担当し、意欲的に取り組む事となる。
仁藤 菜月 (にとう なつき)
揚羽高校に通う2年生の女子。勉強もスポーツもできる優等生で、チアリーディング部の部長を務めている。口元のホクロがチャームポイント。綺麗な顔立ちのため男子にモテるが、特定の彼氏はいない。中学時代、坂上拓実に思いを寄せており、バレンタインデーに告白した事がきっかけで、付き合う事になったが、周囲からの冷やかしが原因でうまくいかず、そのまま自然消滅となった。 しかし当時すれ違って拓実の彼女として彼をフォローしてあげられず、うまく伝えられなかった気持ちは残ったままで、今でも心残りと後悔に苛まれている。ある日、地域ふれあい交流会の実行委員に任命され、拓実と成瀬順、田崎大樹と共に活動する事になる。性格上、実行委員を断る事は考えなかったが、突然指名された事には困惑を隠せずにいた。 また拓実と順の関係を勘繰り、拓実への気持ちにさらにつのらせていく。
田崎 大樹 (たさき だいき)
揚羽高校に通う2年生の男子。野球部のエースとして、これまで弱小だったチームを大会3回戦にまで導いた。しかし大事な時期に肘を壊し、一旦野球から離れる事になる。それにより、野球部は大会4回戦で敗退し、その後もチームは崩壊の一途を辿った。その責任のすべてを一人で背負い込み、自責の念にかられつつ、そんな自分自身に対するイライラを募らせている。 ある日、地域ふれあい交流会の実行委員に任命され、坂上拓実、仁藤菜月、成瀬順と共に活動する事になるが、誰よりも強く反発。演目にミュージカルが提案された際は、しゃべれない順を引き合いに出し、激しく抵抗した。しかし、順の勇気ある行動、友達である三嶋樹や野球部の後輩の存在が、彼が自身を見つめ直すきっかけを作った。 そのため、順に謝罪する事を一区切りとして、実行委員の役割を進んで果たすようになっていく。そして前向きな順の姿勢を見て、思いを寄せるようになっていく。
江田 (えだ)
揚羽高校に通う2年生の女子。仁藤菜月とは中学時代からの親友で、恋の相談にも乗って来た。当時、坂上拓実に思いを寄せていた事を知ったため協力を申し出て、口下手な二人が付き合うに至るまでに、手紙の交換を手助けしたりと、かなり尽力した。そのため、自然消滅という形になった今でも二人の様子を心配している。現在は菜月とクラスメイトで、チアリーディング部に所属している。 地域ふれあい交流会の演目にミュージカルが提案された際には、舞台におけるダンスの振付をやってみたかったと協力を申し出て、ミュージカル制作に向けて前進するための一助となった。
ようこ
揚羽高校に通う2年生の女子。女の子らしくいつも明るく振る舞っている。現在は仁藤菜月のクラスメイトで、チアリーディング部に所属しており、菜月や江田とは特に仲がいい。三嶋樹と付き合っており、三嶋が大好きで、どれだけいっしょにいてもい足りないラブラブな状態。地域ふれあい交流会の演目にミュージカルが提案された際には、誰よりも先に「どうせやるなら派手な方がいい」「面白そう」と肯定し、クラスの雰囲気が変わるきっかけを作った。
三嶋 樹 (みしま いつき)
揚羽高校に通う2年生の男子。野球部に所属しており、レギュラーを務めている。田崎大樹とは仲のいい友達で、部活内では特に大樹のエースとしての立場を鑑み、思いやっている。根本的に努力している人間が好きで、頑張っている人を見ると応援したくなる性格。ようこと付き合っており、どれだけいっしょにいてもい足りないラブラブな状態。
城嶋 (じょうしま)
揚羽高校の音楽教師を務める男性。成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹達のクラスの担任でもある。ちゃらんぽらんな雰囲気を漂わせており、頼りにならなそうだが、一本筋の通った人物。地域ふれあい交流会の実行委員が決まらないままだったため、強引に順、拓実、菜月、大樹の四人に決定した。その後、音楽教師として、演目にミュージカルを提案した。 「ミュージカルはたいてい奇跡が起きる」が口癖。
お母さん (おかあさん)
成瀬順の母親。保険の外交員として日々忙しく働き、順と二人の生活を支えている。順がまだ小学生の頃、順の口から語られた話を受けて夫の不貞を知り、夫を追い出す形で離婚した。家族が壊れた原因を順のおしゃべりのせいにし、まだ小さかった順に、「もう二度としゃべってはいけない」という言葉を投げかけた。これを「一生しゃべるな」という意味に受け取った順はそれ以降話さなくなったが、それが自分の言葉に起因するものだとは思っていない。 そのため、しゃべらない「変わった子」のレッテルを貼られた娘を認める事ができず、順が高校生になった現在でも母娘間の確執は続いている。保険外交員として、坂上拓実の祖父母とかかわりがあるが、表向きには、「娘はおしゃべりで、毎晩友達との長電話に苦労している」といった噓をつき、本当の娘の姿を隠そうとしている。
山路 (やまじ)
揚羽高校に通う1年生の男子。野球部に所属しており、ピッチャーを務めている。エースである田崎大樹をリスペクトしており、つねに彼を意識して練習に励んでいた。しかし、大樹が肘を壊した事で自分が突然エースになる事になり、大樹に対して複雑な思いを抱えて苦しんでいる。
相沢 (あいざわ)
揚羽高校に通う2年生の男子。ぽっちゃり体型で眼鏡をかけている。成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹の、クラスメイト。DTM研究会に所属しており、いつも岩木と二人でパソコンを使って音声合成ソフト「ミント」を駆使して音楽を作っている。部室ではエッチな雑誌を見ていたり、麻雀をしていたりと、あまりまじめな活動は行っていないが、地域ふれあい交流会の演目にミュージカルが提案された際には、DTM研究会として音楽制作の一助を担う事に名乗りを上げた。
岩木 (いわき)
揚羽高校に通う2年生の男子。基本的に2次元にしか興味がないオタク。成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹のクラスメイト。DTM研究会に所属しており、いつも相沢と二人でパソコンを使って音声合成ソフト「ミント」を駆使して音楽を作っている。部室ではエッチな雑誌を見ていたり、麻雀をしていたりと、あまりまじめな活動は行っていないが、地域ふれあい交流会の演目にミュージカルが提案された際には、DTM研究会として音楽制作の一助を担う事に名乗りを上げた。
玉子 (たまご)
小学生の頃の成瀬順が、傷ついた心の中に作り出した王子様。体の横に「、」が付いた卵の形をしており、その点を隠すと背の高い「王子」に変身する。卵の姿をしている時は表面がつるつるで、体からおならの匂いがする。傷ついた順に対して、おしゃべりが自らの身を滅ぼす原因になると忠告し、おしゃべりを封印するように提案。口にチャックを取り付ける形で、順がしゃべらないように呪い(暗示)をかけた。
イベント・出来事
地域ふれあい交流会 (ちいきふれあいこうりゅうかい)
地域住民と揚羽高校の交流を目的としたイベント。45回目を迎えるが、例年朗読劇や合唱などが行われる事が多い。これに伴い、代表として各学年ごとに1クラスが出し物を発表する事となり、クラスの中から四人が実行委員として選出される。今年の2年生は成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹の四人が実行委員を任され、順が脚本を書いたオリジナルミュージカル「青春の向う脛」を演じる事になった。
クレジット
- 原作
-
超平和バスターズ
書誌情報
心が叫びたがってるんだ。 4巻 小学館〈裏少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2015-09-11発行、 978-4091264381)
第2巻
(2016-02-12発行、 978-4091270269)
第3巻
(2016-04-12発行、 978-4091271990)
第4巻
(2016-08-12発行、 978-4091273703)