怨霊や除霊師が大衆に認知されている世界
本作の舞台は怨霊の存在が広く認知された現代日本で、怨霊に立ち向かう除霊師も公然と活躍している。主人公の乾オサムは除霊協会に所属する除霊師の一人であり、「凄腕女子高生除霊師」として除霊師カタログに特集を組まれるほどの逸材として知られている。除霊師は地域との結びつきも強く、町内会の恒例行事として地域の除霊師たちが協力してノラ怨霊を一掃する月例除霊会も実施されている。
ニッチな需要を満たす腐女子除霊師・乾オサム
怨霊は荒ぶる感情の塊で、怒りが頂点に達すると具現化し、人家に被害をもたらすこともある。除霊するには怨霊と対話して怒りの矛先を知ることが何よりも重要とされているが、オサムは一般人との会話を苦手とする「コミュ障」で、怨霊どころか浮遊霊すら満足に除霊できない。そんな彼女が「凄腕女子高生除霊師」として名を馳せているのは、彼女がオタク文化に造詣の深い腐女子であることが最大の理由である。ふつうの除霊師では対話が成立しない「荒ぶる腐女子の怨霊」に対応できる稀有な除霊師として、ニッチな需要を満たし続けているのである。
除霊を通じて描かれる「オタクあるある」
オサムが相対するのは、好きなキャラクターの死を受け入れられない怨霊、非オタクとのカラオケで趣味の選曲を我慢し続けていた怨霊、ネット上に残してきた黒歴史をなんとかして抹消したい怨霊など、オタクならではの感情を拗らせた怨霊ばかり。「愛が本物だから負の感情も生まれる」という哲学を胸に怨霊に寄り添い、一喜一憂を共にして成仏へと導くオサムの姿はオタクのあるべき姿を体現している。一方で、怨霊と拳で語り合う展開も多く、同じ作品を愛好するオタク同士であろうとも、決して相いれない「解釈違い」の壁が存在することも描き出している。
登場人物・キャラクター
乾 オサム (いぬい おさむ)
除霊師を生業とする女子高校生。8月1日生まれで、年齢は16歳。身長は148センチで、血液型はA型。かかとまである黒髪ロングヘアを2本の三つ編みにしている。腐女子の怨霊を除霊する際には、対腐女子霊専用ナックル「カタライ」を右手に装着している。太陽系少年主人公が大好きで、生意気ショタキャラや受けだと思っているキャラが攻めになっているカップリングを苦手としている。メンコバトルをテーマにしたアニメ「撃叩メンカーバン」や、おでんの擬人化キャラクターたちが登場するソーシャルゲーム「あじしみショータイム」などを愛好しており、「撃叩メンカーバン」ではヒスイ×バン、「あじしみショータイム」では大根×たまごのBLカップリングを推している。オタクではない幽霊は除霊できないことから、幼なじみで女子高校生の除霊師、坤みしんからは見下され続けている。しかし、みしんが対処できなかったオタクの霊をオサムが除霊したことで、みしんとの関係が改善されつつある。
春山 カイカ (はるやま かいか)
乾オサムと同じ高校に通う女子。4月8日生まれで、年齢は16歳。身長165センチで、血液型はO型。金髪セミロングヘアのギャルで、巨乳の持ち主。一人暮らしを始めたアパートに腐女子の怨霊が出るものの、依頼した除霊師には霊が訴えている言葉の意味が理解できず、匙を投げられている。困り果てた末に、除霊師の乾オサムが同じ学校に通っていることを知り、除霊を依頼した。大らかな性格で、他人の趣味をはじめすべてを受け入れるなど非常に懐が深い。そのためオサムからは2次元にしか存在しない、オタクにも優しいという伝説の「非実在ギャル」ではないかと考えられている。イチゴや甘い粉物、寄り道が大好き。暗記科目を苦手としている。
書誌情報
限界煩悩活劇オサム 4巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2023-01-04発行、 978-4088833682)
第2巻
(2023-04-04発行、 978-4088835099)
第3巻
(2023-07-04発行、 978-4088836102)
第4巻
(2023-10-04発行、 978-4088837055)