悩める妖怪たちの相談所
本作の舞台は、文明開化をきっかけに妖怪の存在が否定された明治時代の日本である。「違式怪異条例」により、妖怪たちが取り締まられ、怪談や妖怪を扱った書物の所有も禁止されていた。そんな中、「向ヒ兎堂」は、妖怪関係の書物を隠れて収集している一風変わった貸本屋であった。ある時から、向ヒ兎堂に困りごとを抱えた妖怪たちがたびたび訪れるようになり、人間でありながら妖怪が見える主人の伊織は、化狸の千代や猫又の銀らとともに、妖怪の悩み相談所を開くことになる。本作は、妖怪の悩みを解決することで、人間と妖怪の共存や交流を描いたハートフルな物語である。
妖怪たちとのほっこりエピソード
猫又の銀が「人と怪(あやかし)の間でお困りの方は、向ヒ兎堂へどうぞ」という、妖怪にしか見えないチラシをばら撒いたため、向ヒ兎堂には妖怪が次々と訪れるようになる。例えばある日現れた「花の精」は、旧市街の乃木邸という武家屋敷から牡丹の花を植え替えてほしいという。乃木邸の取り壊しが決まったため、大切にしてもらった牡丹の花を救いたいという願いだった。また、別の日には提灯(ちょうちん)をなくしたため、雨雲の調整ができない「雨降り小僧」がやってくる。伊織は、家に住み着く「鳴釜」の占いを頼りに提灯探しに協力する。様々な悩みを抱えた、可愛らしい妖怪たちの存在が、本作の大きな魅力の一つである。
違式怪異取締局や主人公の謎
妖怪に関する書物の検閲を行うのは「違式怪異取締局」だが、彼らは書物だけではなく妖怪自体の取り締まりも行っている。物語が進むにつれ、取締局の局員たちが元陰陽師であることが明かされていく。やがて、取締局内では妖怪退治の強硬路線を主張する人間が実権を握り、伊織たちとの敵対関係が鮮明になっていく。そして、取締局と向ヒ兎堂一味の争いの中、陰陽師しか持ち得ない力を持ち、妖怪を見たり触ったりできる伊織の出自も判明することになる。本作はほのぼのとした人間ドラマに、ミステリアスな要素を織り交ぜてストーリーを展開させていく。
登場人物・キャラクター
兎崎 伊織 (とざき いおり)
貸本屋「向ヒ兎堂」の店主を務める青年。人間だが、妖怪が見えて触ることもできる。右の瞳だけが赤く、普段は眼帯で隠している。幼少時は山で暮らしており、化狸の千代や猫又の銀とは幼なじみ。医者だった兎崎専四郎に拾われて兎崎家の養子になった。3年前に専四郎が亡くなった後、病院を「向ヒ兎堂」に改装した。
千代 (ちよ)
貸本屋「向ヒ兎堂」の手伝いをしている化狸。人間に化けているときは、短い黒髪にツバキの花のような飾りをつけた少女の姿をしている。伊織や猫又の銀とは幼なじみ。葉っぱを使って「物」を化けさせることができる。
銀 (ぎん)
貸本屋「向ヒ兎堂」に住み着いている猫又。二つに割れたしっぽ、首に巻いた蝶結びのリボンが特徴。いたずら好きで少しやんちゃな性格で、人間に化けているときは長身の青年姿をしている。伊織や化狸の千代とは幼なじみ。







