概要・あらすじ
戦時中、東京の巣鴨に生まれた田村順子は、疎開先の信州で父親を亡くし、またひどいいじめにもあっていたため、姉とともに池袋の叔母のもとに預けられた。高校に進み、OLになった姉と中野区のアパートで暮らすことになった順子は、1日も早く信州で暮らしている田村順子の母を呼び寄せて一緒に暮らしたいと思っていた。
そのためにはもっとお金を稼げるようになりたいと、銀座のきらびやかな世界へ憧れを抱くようになる。そんなある日、スカウトマンからモデルにならないかと街で声を掛けられた順子は、後日銀座の喫茶店で詳しい話を聞く約束をする。胸をときめかせてスカウトマンに会いに行く順子だったが、スカウトマンとは会うことができずに、店のコーヒー代を払うと帰りの交通費もなくなってしまう窮地に立たされる。
パニックになった順子は、自分に優しく微笑みかけてくれた森崎達也という紳士に電車賃を借してほしいと願い出る。彼は大手電機メーカーの社長であり、この森崎との奇妙な出会いが、順子の銀座人生への幕開けともなる。
登場人物・キャラクター
田村 順子 (たむら じゅんこ)
人一倍独立心が強い女性。高校時代から早くお金を稼いで信州にいる田村順子の母と一緒に暮らしたいと思っていた。戦時中の東京巣鴨に7人兄弟の6番目の子供として生まれた。可愛らしい顔をしているが芯が強く、「クラブ妃」で修行した後に、銀座最年少ママとして「クラブ順子」をオープンさせる。実在する人物、田村順子がモデル。
森崎 達也 (もりさき たつや)
有名電機メーカー「パシフィック電機」の社長。電車賃を貸したことがきっかけで田村順子と知り合い、アルバイトや就職先を紹介し、高校卒業を機に愛人関係となった既婚男性。順子を手塩にかけて育てた恩人で、銀座の「クラブ妃」への橋渡しをした。「クラブ順子」が開店してからは男女関係を清算するが、順子を優しく見守り続ける。
田村順子の母 (たむらじゅんこのはは)
田村順子の母親。ワンマンな夫を影で支え、夫の死後1人で7人兄弟を育てあげた明治の気骨ある女性。夫を亡くしてからも、順子と田村順子の姉を池袋の叔母の家に預けて、疎開先の信州で暮らしていた。順子が19歳の時に東京で一緒に暮らし始め、以降順子を支え続ける。「結婚だけは打算や計算でするものではない」という考えの持ち主。
田村順子の姉 (たむらじゅんこのあね)
田村順子の4歳年上の姉。東京でOLとして働きながら、順子とアパート暮らしをしている。高校生ながら既婚者の森崎達也に色々と世話になっている順子を心配していたが、順子の高校卒業を機に、森崎との関係を暗黙のうちに認めるようになる。
岡田 健二 (おかだ けんじ)
当時K大生だった青年。高校3年生の田村順子をロカビリーのライブでナンパした。お坊ちゃん育ちでプライドが高く、順子を中年男性の森崎達也に取られた悔しさを忘れられずにいた。後年、代議士の秘書となり「クラブ妃」で順子と再会する。
山科 洋子 (やましな ようこ)
「クラブ妃」のママ。優雅で自信に満ちており、貫禄がある知的な女性。多彩な才能の持ち主で、後年、作詞家・小説家に転身して大成功を収めた。田村順子が人生の師と仰ぎ、困った時はいつも相談する銀座の母のような存在。
貴子 (たかこ)
「クラブ妃」のホステス。「妃三羽烏」と呼ばれる、銀座で有名なホステスの1人。宝塚の男役のようなボーイッシュな魅力のある姉御肌な女性で、後輩ホステスからは「お貴さん」と呼ばれて慕われている。田村順子を可愛がっていたが、仲の良い樹里が突然死してから様子がおかしくなっていく。
樹里 (じゅり)
「クラブ妃」のホステス。「妃三羽烏」と呼ばれる、銀座で有名なホステスの1人。フランス映画の女優のように艶やかな女性だが、東北生まれで、15歳の時に集団就職で東京にやって来た苦労人でもある。似た境遇の貴子とは特別に仲が良かったが、薬物が原因で突然死してしまう。
加奈 (かな)
「クラブ妃」の若いホステス。ママの山科洋子に新人の田村順子の世話係を頼まれるが、負けん気が強く、自分と同じく清楚系を売りにしている順子を何かと目の敵にする。
大門 史恵 (だいもん ふみえ)
「クラブ妃」のホステス。「妃三羽烏」と呼ばれる、銀座で有名なホステスの1人。和服が似合う、大人の雰囲気を醸し出す女性。客だったプロボクサーと結婚して銀座を卒業する。
小滝 栄一 (こたき えいいち)
上場企業「小滝産業」の二代目の青年。大学時代から銀座に入り浸っていた遊び人。押しが強く、毎日のように「結婚しよう」と田村順子を口説いていたが、付き合っていたホステスの愛子にばれてしまい、刃傷沙汰となる。
愛子 (あいこ)
「クラブトパーズ」のホステスで、30代の女性。小滝栄一と3年間付き合っている。ショートカットの髪型で気が強く、小滝が執心していると噂の田村順子に宣戦布告し、後日、小滝に詰め寄って刃傷沙汰の事件を起こす。
田代 (たしろ)
「クラブR」のオーナーの中年男性で関西人。厚顔無恥で下品な男性。「クラブ妃」の新装オープンの日に、店のホステスを引き抜かれた、といちゃもんをつけに来た。非道なやり方で「クラブ妃」のホステスを引き抜こうとする。
橋本 (はしもと)
プロ野球チーム「京映ファイターズ」の投手。「クラブ妃」の常連客。毎試合後、後輩を引き連れて銀座で朝までどんちゃん騒ぎをし、その翌日の夜の試合では、ビシッと投げ切る豪快な猛者。昭和を代表するスケールの大きいスター選手。
昌美 (まさみ)
「クラブ妃」のホステス。趣味は貯金、娯楽は浮気だと豪語する豪快な女性。貧乏な家に生まれたので、若いうちに稼ぎまくって一等地にマンションを建て、ホステスを辞めた後は、若いツバメを囲って悠々自適に暮らすという夢を持っている。
美智代 (みちよ)
「クラブ妃」のホステス。清楚でしっとりした色白の秋田美人。生活も慎ましく、しっかり貯め込んでいると誰もに思われていたが、小説家志望の男性にすべての稼ぎを貢ぎ尽くしていた。
矢嶋 修 (やじま おさむ)
「クラブ妃」のベテランの黒服の男性。田村順子が店を卒業する時、山科洋子に順子の店の店長として指名された。当初は「クラブ順子」に誠心誠意尽くしたが、次第に自分の力を過信するようになっていく。
秋川 (あきかわ)
「クラブ妃」の客。有名な写真家で、書家でもある太った中年男性。銀座には、秋川に店名を書いてもらった店は潰れないという伝説がある。田村順子の独立を応援しており、「クラブ順子」の店名の書を作成する。
田村 奈々 (たむら なな)
「クラブ順子」のホステス。ちいママを任されている。信頼できるホステスを探していた田村順子に他店からスカウトされ、オープンしたばかりの「クラブ順子」で働くことになった。大らかで愛嬌のあるオカメ顔で、以降35年にわたって順子をサポートし続ける。
本間 マリ子 (ほんま まりこ)
「クラブ順子」と同じ銀座数寄屋通りにある「クラブエンジェル」のベテランママ。有名人の隠れ家的な店で、「クラブ妃」時代の田村順子もよく利用していた。「クラブ順子」が人気店になって自分の店が廃れ気味になり、順子に決闘を申し込む。
双美 ケン (ふたば けん)
プロの歌手だが、アルバイトとして弾き語りもしている男性。情感溢れる甘い歌声を売りにしている。鳥取出身で人柄が良く、客への心遣いにも長けている。田村順子が「クラブ順子」にスカウトし、以降専属の弾き語りとなる。
喜多嶋 玲 (きたじま れい)
「クラブ順子」の客の若い男性。今をときめくハンサムな流行作家。田村順子の恋人になり、「プレイボーイと銀座最年少ママの恋」として世間を騒がせた。感受性豊かで天才肌なところが魅力だが、ワンマンで激情的な一面がある。
藤原 広 (ふじわら ひろし)
「クラブ順子」の若い黒服の男性。東北出身で正義感が強く、黒服は陰の存在となり、ホステスを支え助けるものだという信念を持つ。矢嶋修が「クラブ順子」を裏切ってからは、彼に代わって店長となり、田村順子を支え続ける。
神屋 五郎 (かみや ごろう)
鬼才の呼び声高いイラストレーターの青年。週刊誌の対談で田村順子と知り合い、以降順子に猛烈にアプローチする。天衣無縫でストレートな性格。一方で自意識が高くシャイなため、酒量が多くなり過ぎるきらいがある。
樫村 夏子 (かしむら なつこ)
「クラブ順子」の若いホステス。少女の面影を残した明るく優しい性格で、何事にも楽観的な女性。育ちが良く真面目な人物ながら、何故かある時から連日同じスーツを着て出勤するようになる。
佐藤 フミ子 (さとう ふみこ)
「クラブ順子」の若いホステス。田村順子に憧れ、16歳の時に秋田から順子宅に押し掛けて来た。順子の計らいで、ホステスとして働ける18歳になるまで、順子の家のお手伝いをすることになった。おとなしく控えめな雪国美人で、チカとは中学時代の同級生。
チカ
「クラブ順子」の若いホステス。新幹線で売り子をしていた際、その接客態度を見た田村順子に、ホステスとしてスカウトされた。明るく積極的な性格だが、中学時代の同級生だった佐藤フミ子が玉の輿に乗ってからは、屈折した一面を見せ始める。
ロッキー 青田 (ろっきー あおた)
「クラブ順子」の客。世界中に100以上の店舗を持つ「レストラン紅華」のオーナーの中年男性。アメリカンドリームを手に入れた伝説の人物。自由奔放で豪快な性格で、銀座しか知らない田村順子に、「世界」を教えてくれた恩人でもある。
囃家 三瓶 (はやしや さんぺい)
「クラブ順子」の客。天才落語家として人気絶頂にある男性。腰が低く、飲み方がキレイで、周囲にさり気ない気遣いと心配りをする達人。そんな姿から、田村順子には心の中で師と仰がれていた。
みの けんじ
「クラブ順子」の客。ラジオ局のアナウンサーから、名実ともにトップクラスの司会者となった男性。かつて人気司会者である先輩に、「銀座はまだ早い」と言われて一念発起し、人気司会者に上り詰めた努力家。
和泉 浩治 (いずみ こうじ)
映画会社「日映」の若手俳優。芸能人にしては引っ込み思案な性格。歌手の東みちよと離婚したばかりの頃、「クラブ順子」で田村順子と出会う。正直者で噓がつけない誠実な人物で、そんなところに惹かれた順子と結婚することとなる。服装や店の内装など、ホステス以外の各方面の仕事で順子の良きアドバイザーとなる。
東 みちよ (あずま みちよ)
和泉浩治とスピード離婚した女性歌手。浩治が田村順子と付き合っていることを聞きつけて「クラブ順子」にやって来た。さっぱりした性格で、浩治を傷つけたことを悔やむとともに、順子を祝福する気配りを見せる。
夕貴 (ゆうき)
千葉の女性実業家の娘で、17歳の不良少女。学校にも行かず毎日ボディボードに明け暮れている。娘を心配する母親から相談を受けた田村順子が、昔の自分に似ていると感じて、ホステスとしてスカウトする。のちに順子が店を託そうと決意するほどのホステスに成長する。
場所
クラブ妃 (くらぶきさき)
山科洋子がママを務める銀座のクラブ。1956年にオープン。60年代には各界の著名人、芸能界のスターが連日のように訪れ、のちに銀座の伝説となった店。常時20~30人のホステス、マネージャーやポーターなど数人の男性社員を抱えている。
クラブ順子 (くらぶじゅんこ)
1965年、24歳の田村順子が「銀座最年少ママ」として銀座数寄屋通りの地下にオープンした銀座のクラブ。まずは「身の丈」という順子の考えにより、13坪から店をスタートさせた。店長はクラブ妃の矢嶋修が務め、のちに藤原広に代わった。ちいママは田村奈々が務め、ギターの弾き語りとして双美ケンと専属契約している。
クレジット
- 取材協力
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田村順子